名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)1419号 判決 1998年3月26日
甲事件原告
羽佐田美千代
乙事件原告
大村幸子
同
岩瀬知里
丙事件原告
永田暁美
外二名
甲事件原告、乙事件原告二名、丙事件原告三名訴訟代理人弁護士
青木栄一 浅井岩根 朝日裕晶 秋田光治 石畔重次
石井三一 伊藤邦彦 今村憲治 岩崎光記 岩本雅郎
猪子恭秀 石塚徹 井口浩治 打田千恵子 江尻泰介
奥村哲司 織田幸二 太田勇 大田清則 小関敏光
荻原典子 加藤厚 加藤洋一 加藤謙一 角谷晴重
木村静之 北村明美 久世表士 熊田登与子 纐纈和義
小島隆治 後藤和男 斉藤勉 佐久間信司 白濱重人
柴田義朗 杉浦英樹 住田正夫 高柳元 高山光雄
滝澤昌雄 中山信義 橋本修三 長谷川一裕 兵藤俊一
樋口明 福井悦子 福岡正充 藤田哲 細井士夫
堀龍之 前田義博 堀部俊治 松川正紀 松波克英
三木浩太郎 三宅信幸 村上文男 村橋泰志 山崎浩司
山田万里子 吉見秀文 渡辺和義
被告
世界基督教統一神霊協会
右代表者代表役員
石井光治
右訴訟代理人弁護士
和島登志雄
同
今井三義
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第一章 請求
一 被告は、甲事件原告羽佐田美千代に対し、金一一四四万四七五〇円及びこれに対する平成二年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、乙事件原告大村幸子に対し、金一二九三万五三七五円、乙事件原告岩瀬知里に対し、金三三五万二六三三円及び右各金員に対する平成三年五月三〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
三 被告は、丙事件原告永田暁美に対し、金九七二万〇〇一二円、丙事件原告鈴木仁美に対し、金一〇五三万七六六二円、丙事件原告小栗育代に対し、金一二五七万八八〇〇円及び右各金員に対する平成三年一二月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第二章 事案の概要
本件は、原告羽佐田美千代、原告大村幸子、原告岩瀬知里、原告永田暁美、原告鈴木仁美、原告小栗育代が、いわゆるマインド・コントロールによる違法な勧誘、教化行為により被告に入教して約一年ないし六年間にわたり貴重な青春を奪われ、霊感商法や偽装募金などの違法行為への従事、無償の労働、献金、物品購入などの出捐をそれぞれ強制されたとして、棄教した後、被告に対し、
① 原告羽佐田美千代は、人格権及び財産権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として一一四四万四七五〇円及び遅延損害金、
② 原告大村幸子は、人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として一二九四万五三七五円及び遅延損害金、
③ 原告岩瀬知里は、人格権及び財産権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として三三五万二六三三円及び遅延損害金、
④ 原告永田暁美は、人格権及び財産権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として九七二万〇〇一二円及び遅延損害金、
⑤ 原告鈴木仁美は、人格権及び財産権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として一〇五三万七六六二円及び遅延損害金、
⑥ 原告小栗育代は、人格権及び財産権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として一二五七万八八〇〇円及び遅延損害金
の支払をそれぞれ求め、これに対して、
被告は、原告らを勧誘、教化した組織は被告ではなく信者の団体であり、被告が右団体に対し勧誘、教化するよう指示をしたこともなく、原告らの主張するいわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化の実効性には疑問があり、宗教などの領域においては宗教団体名などを明らかにしないでする勧誘、教化行為は違法ではないなどと主張する事案である。
第一 争いのない事実と認定事実
一 当事者
1 甲事件原告羽佐田美千代
甲事件原告羽佐田美千代(以下「原告羽佐田」という。)は、昭和三七年九月一二日生まれの女性であるが、昭和五六年三月、愛知県立西尾高等学校を卒業し、同年四月、愛知淑徳大学文学部に入学した。
原告羽佐田は、昭和五九年当時、自宅から名古屋市内にある大学に通学し勉学の他、旅行サークルやボランティアサークルに所属し、障害者のトレーニングの手伝いや老人ホームの患者の世話をするなどの活動をした。(甲二八、一七八、原告羽佐田本人)
2 乙事件原告大村幸子
乙事件原告大村幸子(以下「原告大村」という。)は、昭和三五年一〇月二九日生まれの女性であるが、昭和五四年三月、愛知県立豊橋東高等学校を卒業後、名古屋栄養短期大学(現名古屋文理短期大学)に進学し、昭和五六年三月、同短期大学食物栄養科を卒業し、同年四月には豊橋市内の医療法人豊岡会中央病院へ医療事務担当として就職したが、昭和五八年一二月、家業を手伝うため同院を退職した。
原告大村は、高校時代は華道部に属し、短大時代はサークル等には参加せず、就職後は茶道教室、着付教室に通い、昭和五九年四月ころ、実家から離れて一人暮らしを始めた。(甲二九三、二九四、原告大村本人)
3 乙事件原告岩瀬知里
乙事件原告岩瀬知里(以下「原告岩瀬」という。)は、昭和四二年一二月七日生まれの女性であるが、愛知県立岩津高等学校を卒業後、名古屋造形芸術短期大学へ進学し、同大学を卒業した後は、在学中から行っていたアマチュアバンドの活動を続けるため就職せず、アルバイトをした。(甲三一〇、原告岩瀬本人)
4 丙事件原告永田暁美
丙事件原告永田暁美(以下「原告永田」という。)は、昭和四二年一一月二六日生まれの女性であるが、愛知県立西尾高等学校を卒業し、昭和六一年四月、名古屋短期大学保育科に進学し、昭和六三年三月に同大学を卒業し、幡豆郡一色町役場に就職した。(<証拠略>)
5 丙事件原告鈴木仁美
丙事件原告鈴木仁美(以下「原告鈴木」という。)は、昭和四〇年七月一三日生まれの女性であるが、昭和五九年三月、愛知県立新城東高等学校を卒業した後、京都市内の光華女子大学に進学し、平成元年三月、同大文学部英米文学科を卒業した。(甲二九五、二九六、原告鈴木本人)
6 丙事件原告小栗育代
丙事件原告小栗育代(以下「原告小栗」という。)は、昭和三六年一二月二九日生まれの女性であるが、昭和五五年三月、愛知県立内海高等学校を卒業し、同年四月、株式会社中埜酢店に入社し、昭和六〇年七月、同社を退職し、昭和六一年一一月、大和プロパン商会に入社し、平成元年一一月、同社を退職した。(<証拠略>)
二 被告法人の現在に至る経緯
甲二六四ないし二六七、甲三四三の一四の一、三四三の七〇の一、乙一二七の一ないし九、一二八、一五三ないし一五八、証人松田泰正、証人志村貞三、証人岡村信男、証人小柳定夫の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 韓国における生成
文鮮明は、被告法人の教義創始者であるが、大正九年、朝鮮半島において出生し、昭和二一年、平壌(ピョンヤン)において布教を始め、その後、昭和二九年、京城(ソウル)において世界基督教統一神霊協会(後に世界平和統一家庭連合へ名称変更)を創立した。
2 日本における被告法人の生成
(一) 宗教法人設立前
崔翔翼(チエ・サンイク)(日本名西川勝)は、世界基督教統一神霊協会の信者(韓国人)であるが、昭和三三年、来日して宣教を始め、昭和三四年一〇月二日、同会の教えを奉ずる信者らは、宗教団体日本統一教会を創立した、同会は、昭和三五年、教理解説書「原理解説」を発刊し、昭和三六年七月には全国七ヵ所に支部教会を開設し、昭和三八年ころには各地に道場を開いて四〇日修練会を催すなどの布教活動をしたが、昭和三九年、東京都知事から宗教法人法一四条に定める規則を認証する旨の決定を受け、同年七月一六日、宗教法人世界基督教統一神霊協会(以下「被告法人」という。)として宗教法人設立登記をした。
(二) 宗教法人としての被告法人
(1) 目的と設立当時の組織
被告法人の目的は、「天宙の創造神を主神として、聖書原理解説の教義をひろめ儀式行事を行い信者を教化育成する為の財務及び業務並びに事業を行う事。この法人はその目的達成に資するため出版業を経営する。」ことである。
被告法人は、事務所(本部)を東京都渋谷区松涛一丁目一番二号に置く。責任役員は四人であり、そのうち一人を代表役員とする。代表役員には協会会長を充て、協会長職に在任中、代表役員を務める。協会長は、先任の代表役員により予め選定される。そして、責任役員会議は、被告法人の事務を決し、代表役員が被告法人の代表権及び事務の総理権限を持つ。
被告法人の初代協会長は、立正佼成会の元信者である久保木修己(昭和三九年から平成三年まで)が就任し、以後、第二代協会長に神山威(平成三年から平成五年まで)が、第三代協会長に藤井雄(平成五年から平成六年まで)が、第四代協会長に小山田秀生(平成六年以降)が、第五代協会長に桜井設夫がそれぞれ就任した。
(2) 法人組織の変更
被告法人は、昭和四五年一月、全国を五一の地区に分け、五一人の地区長をあらたに選定し、各都道府県に配した。次いで、被告法人は、昭和四六年、規則を変更して責任役員の数を一三人とした。
被告法人は、昭和四八年、再度規則を変更し、組織について、①責任役員の数を七人とすることとしたほか、②法人の機関として議決諮問機関である地区長会議を設け、③代表役員以外の責任役員は、被告法人の信者のうちから、地区長会議において選出される、④地区長は三〇人とし、被告法人の信者の中から、責任役員会により選定される、⑤地区長は地区長会議を構成することなどをそれぞれ決めた。右変更により、被告法人は、責任役員の選出、予算の編成等重要事項についての議決機関として地区長会議を、最終議決機関として責任役員会をそれぞれ置くこととなった。
被告法人は、昭和四九年、規則を変更して地区長の数を一六名とした。
なお、被告法人においては、地区長及び地区長会議を指して評議員、評議員会と呼ぶことがある。
(3) 事務執行担当部局及び下部組織
被告法人の代表役員は、議決機関の決定した事項について事務を執行するが、その際には、責任役員会の下に位置する総務局等各部局がその執行を担当する。右各部局の名称、数等には変遷がある。
被告法人は、各都道府県に布教所を置き、地区本部、教会または伝道所と称する(以下「布教所等」という。)が、その名称、数及び被告法人の機関との関係等にも変遷がある。
昭和五〇年ころからの右各部局、布教所等の変遷は次に第一ないし第四期として掲げるほか、別紙図面一ないし三記載のとおりである。
(第一期) 昭和五二年までを第一期とし、以下、①②のとおりである。
① 昭和五〇年、五一年当時は、責任役員会の下に総務局、伝道局、事務総局を置き、事務総局の下に第一ブロック本部から第一二ブロック本部まで計一二のブロック本部を置き、各布教所等は各ブロック本部に所属した。全国を一二に分けたその地域の代表的な教会がそれぞれブロック本部となった。
② 昭和五二年当時は、責任役員会の下に総務局、伝道局、伝道事務局を置き、伝道事務局の下に四つの教区を、教区の下に一一のブロック本部を置き、各布教所等は、ブロック本部に所属した。また、全国を第一教区から第四教区まで四つの教区に分け、各教区の下にそれぞれ二ないし四のブロック本部を置いた。各布教所等は、第一ブロック本部から第一一ブロック本部まで計一一のブロック本部のいずれかに所属した。
(第二期) 昭和五三年から五九年までを第二期とし、以下、③ないし⑥のとおりである。
③ 昭和五三年当時は、②と同じである。
④ 昭和五三年末から五五年前半当時は、責任役員会の下に総務局、伝道局、伝道事務局を、伝道事務局の下に北海道東北教区から九州教区まで計七の教区をそれぞれ置き、各布教所等は各教区に所属した。
⑤ 昭和五五年後半から五八年末当時は、責任役員会の下に、総務局、伝道局、伝道事務局の他、新たに出版局、渉外局の二局を設け、伝道事務局の下に第一ブロック本部から第九ブロック本部まで計九のブロック本部を置き、各布教所等は各ブロック本部に所属した。
⑥ 昭和五八年末から昭和五九年当時は、責任役員会の下に、総務局、伝道局、伝道事務局、出版局、渉外局の他、あらたに教育局を設け、伝道事務局の下に北海道ブロック本部から九州ブロック本部まで計八のブロック本部を置き、各布教所等は各ブロック本部に所属した。なお、昭和五九年には教会を公認した。
(第三期) 昭和六〇年から平成元年までを第三期とし、以下、⑦ないし⑩のとおりである。
⑦ 昭和六〇年、六一年当時は、⑥と同じである。
⑧ 昭和六二年から六三年三月当時は、責任役員会の下に、総務局、伝道局、出版局、渉外局、教育局を置いた他、伝道事務局に代えて伝道本部を置いた。伝道本部の下に北海道教区から九州教区まで一三の教区を置いた。布教所等としては、全国に六〇の公認教会があり、それぞれ各教区に所属した。なお、教区においては教区長が、教会においては教会長がそれぞれ責任者となっていたが、教会長が教区長を兼任することもあった。
⑨ 昭和六三年四月から平成元年九月当時は、責任役員会の下に、総務局、伝道局、出版局、渉外局、教育局、伝道本部を置いた。伝道本部の下に北海道教区から九州教区まで一四の教区を置いた。布教所等としては、全国に六二の公認教会があり、それぞれ各教区に所属した。
⑩ 平成元年一〇月から一二月当時は、責任役員会の下に、総務局、伝道局、出版局、渉外局、教育局、伝道本部を置いた。伝道本部の下に北海道教区から九州教区まで一四の教区を置き、その下に全国六〇の教域を置いた。布教所等としては、全国に六二の公認教会があり、それぞれ各教域に所属した。なお、教区においては教区長が、教域においては教域長が、教会においては教会長がそれぞれ責任者となっており、教区長、教域長については教会長が兼任することもあった。
(第四期) 平成二年以降を第四期とし、以下、⑪⑫のとおりである。
⑪ 平成二年から四年一一月当時は、⑩と同じである。
⑫ 平成四年一二月以降は、責任役員会の下に、総務局、伝道局、出版局、教育局を置き、伝道本部、渉外局は廃止した。また、責任役員会の下に直接五一ないし五七の教区を置き、布教所等としては、全国に八九の公認教会があり、それぞれ各教区に所属した。なお、平成五年一一月から伝道局と教育局を統合し、名称を伝道教育局とした。
(4) 各部局の業務内容
総務局は財産管理、行事儀式、地方教会への連絡業務、広報渉外、海外との連絡業務等を取り扱う。総務局内総務部は、財産管理、人事管理、官公庁関係業務その他の業務を担当する。伝道教育局は信者の強化育成の企画、地方への伝道教育の指導、企画を担当する。出版局は、出版物、映像企画・製作を担当する。
被告法人の組織には、時の経過と共に事務総局、伝道事務局、伝道本部がそれぞれ存在したが、これらはいずれも、各教会、ブロック本部ないし教区に対し、責任役員会における決定事項を伝達するための部署であった。現在ではこれらの部署はいずれも存在せず、地方組織への連絡は、事項に応じ総務局、伝道教育局がそれぞれ行う。
(5) 教区長会議、教会長会議
責任役員会は、年に数回程度、全国の教区長会議、教会長会議を主催する。右各会議においては、責任役員会が議決した事項について説明及び質疑応答を行う。
(6) 被告法人における人事
被告法人の構成員は、責任役員、地区長(評議員)、信者(教会員)及び本部各部局の職員及び各教区、教会の教区長ないし教会長、総務部長、会計である。
右のうち、信者は各教会に所属する。被告法人規則第三二条によれば、信者とは、同法人備付の信者名簿に登録された者(以下「登録信者」という。)をいう。信者は、同法人内部においては教会員と呼ばれることもある(信者の意義については、後記第三章、第一、一、2、(二))。
本部各部局の職員、教区長ないし教会長、総務部長、会計はいずれも有給の職員であるが、小規模な教会等においては無報酬でこれらの職務につく職員もいる。
本部各部局の職員は、役員や本部各部局の局長等の推薦に基づいて信者の中から選ばれ、代表役員が任命する。
各教区、教会の教区長ないし教会長、総務部長、会計等は、教区長の推薦に基づいて代表役員が任命する。
(三) 被告法人の活動
(1) 第一期(昭和三八年から同五二年)
被告法人は、第一期の当時、いわゆる草創期にあり、国際勝共連合、統一産業株式会社、幸世商事株式会社等信者らによる被告法人の友好団体、友好法人が次々と創設、設立された。被告法人の幹部、信者ともこれら各組織による経済活動等と被告法人の活動とを混同し、あるいは同一視する等混乱が絶えなかった。かかる状態を示す出来事としては、以下のとおりである。
① 昭和四七年一〇月から四八年一月、外国為替及び外国貿易管理法違反の疑いにより、被告法人責任役員であり統一産業株式会社の前社長であった石井光治、幸世商事株式会社の藤本三雄、同社前社長益田勝が、それぞれ逮捕され、起訴された(外為法違反被告事件、いわゆる神戸事件。昭和五二年、無罪の言渡し。甲三四三の七〇の一)。
その公判廷において、右石井光治らは、幸世商事が韓国から輸入した高麗人参、大理石壺等を仕入れ、その販売益から得た資金を被告法人、国際勝共連合に対する側面的援助に使うこと、被告法人の教会活動と国際勝共連合の活動をそれぞれ一緒に行っていたこと等を発言した。
② 昭和四九年二月ころ、被告法人の阿部正寿広報委員長は、被告法人の機関誌である「成約の鐘」昭和四九年二月号(甲三四三の一)において、「教会の活動方針」として「マナ販売についても今まで以上の努力が傾注されなければならない。伝道した基盤の上にマナを販売することが望ましいパターンである」などと発言し、高麗人参の販売は教会の活動方針であるとした。
③ 昭和五〇年、渋谷税務署は、被告法人及び友好団体である勝共連合、幸世商事株式会社、国際文化財団等に対し、約一年間に及ぶ税務調査を行った。そこで、被告法人は、組織を整理する必要を意識した。また、同年四月、献身者である被告法人鹿児島教会に属する七人の信者が、薬事法違反により起訴され(薬事法違反被告事件、いわゆる鹿児島事件。)、同事件において、右信者らは、被告法人の地区長から高麗人参のセールスをするよう指示を受けた旨供述した。
④ 昭和五一年、五二年ころ、被告法人は、機関誌「聖徒」(昭和五一年一月号)、同「ファミリー」(昭和五二年一月号)に、幸世商事株式会社の代表取締役社長である古田元男(以下「古田」という。)を被告法人の局長とする記事を登載した。
被告法人責任役員らは、昭和五二年一月の神戸事件判決が被告法人と事業活動の関係について言及したこと(甲三四三の七〇の一)、献身者らによる統一産業株式会社の商品の販売活動等のアルバイトが被告法人の活動と紛らわしいこと等にかんがみ、東京都に対して、世間の誤解を招かないように、被告法人の規則を変更し、高麗人参販売を正式に被告法人の収益事業として行うことができないかを打診した。これに対し、東京都は、販売の規模が大きく、宗教活動と経済活動のバランスを失するため認めない旨回答した。その結果、被告法人は、前記したいわゆる神戸事件の経緯、右収益事業を適当でないとする東京都の指導等を理由として、高麗人参販売を収益事業とする計画を断念すると共に、今後、一和高麗人参茶の販売を行わないことを決した。
(2) 第二期(昭和五三年から同五九年)
被告法人は、この第二期において、いわゆる神戸事件、鹿児島事件の判決などを受け、組織整備に着手すると共に、今後は一切の収益事業を行わない旨組織決定した。しかし、なお被告法人などについては、この組織決定に反するような出来事が散見された。
① 昭和五三年、被告法人は、機関誌「ファミリー」昭和五三年一月号(甲三四三の四)に、古田幸世商事社長を被告法人の局長とする記事を登載した。
② 昭和五七年一月一九日、被告法人の小山田秀生(以下「小山田」という。)副会長は、「頑張った。奇跡が起こった。多宝塔が売れた」、「教会、渉外、事業。だから完全にこれを一元化してやっていく。必ず主流は、まあ、日本の場合は、事業が主体で、教会が従でしょ。昼間経済やって、夜伝道せよと、その合間に渉外やれと、こういう意味ですよ。」と述べたが、同年二月八日、小山田は、被告法人責任役員会議において、右発言の趣旨を「事業が主体で教会が従というのは自分が勝手に言ったことで教会の方針ではない。また多宝塔が売れたと言ったことも、信者がやっていることを話したに過ぎず、教会とは関係がない、自分の説明不足で、誤解を招き申し訳ない。今後、発言は十分に注意する。」旨弁明した。
また同年六月、被告法人責任役員である石井光治は、被告法人の東京教会の礼拝堂において、教会の今後の組織整備に伴う方針として、被告法人職員と一般信者の立場を明確に分ける旨発表した(昭和五八年四月、職員制度採用。乙一五六)。さらに同年一一月、被告法人は、責任役員会において、教会と事業の分離、教会組織の整理を徹底するために、収益事業を廃止することを決定した。被告法人は、同年末、東京都に対して、伝道のためのビデオ受講施設を設置することの可否について相談したところ、東京都は、ビデオ受講時に受講者から料金(受講料)を徴収することは収益事業と見なされること、規則に定めていない収益事業は行ってはいけないことを指摘した。
被告法人の責任役員会は、昭和五八年一月二二日、ビデオ受講施設の設置を行わないこと、今まで存在していた収益事業としての出版部門を廃止し、同部門を株式会社光言社として被告法人から分離し独立させることを決め、同年二月、東京都に対し、収益事業としての出版部門を廃止し、規則二八条に定める収益事業の項を削除する旨伝えた。しかるに、東京都は、「一度削除すると、将来再び収益事業を行いたいとの希望があっても、変更許可は出ない。規則はそのままにして責任役員会議で決議すればよいのではないか。」と指導し、被告法人はこれを受けて、責任役員会議を開き、規則の条項は残すが、収益事業としての出版業は行わないことを決めた。
③ 被告法人は、昭和五八年四月、職員制度を正式に採用し、職員に対する給与体制を確立し、本部において一括して源泉徴収をして納税することとした。
④ 昭和五九年ころ、株式会社世界のしあわせ東北と取引のあった特約店の販売員他二名が、株式会社ハッピーワールドの取扱商品である高麗人参濃縮液などの販売に関して逮捕され、同年一月一二日、恐喝罪に該当するとしてそれぞれ懲役二年六月、執行猶予五年とする判決の言渡しを受けた(いわゆる青森事件。甲三四三の一四の一)。同年、被告法人は、東京都の指導に基づき組織を整備し、特に教会と事業の分離を進め、いわゆる販売行為、収益事業の廃止を決定した。また、被告法人は、このころから、東京都の「開かれた教会とするよう」との指導に従い、統一協会ニュースを本部広報局から発行し、公官庁、メデイアに対し、被告法人の活動を伝え始めた。
(3) 第三期(昭和六〇年から平成元年)
被告法人は、第三期において、協会と事業の分離など組織の整備を押し進めたが、他方、マスコミは、被告法人がいわゆる霊感商法を行っている等と報道した。
① 昭和六二年ころから、いわゆる霊感商法に関する報道が現れ、同年三月、被告法人は、株式会社ハッピーワールドに対して、高麗大理石壺などの販売行為の実態について、調査する旨依頼した。
② 昭和六三年一二月一二日、被告法人の信者らが三重県尾鷲市において珍味の訪問販売をした際、運転手の信者がワゴン車をガードレール等に激突させ、同乗の信者らを死亡させ、ないし傷害を負わせたとして、平成三年一月二五日、禁錮一年の言渡しを受けた(業務上過失致死傷被告事件、いわゆる尾鷲事件。甲二七九)。
3 被告法人の友好団体
被告法人においては、その教義創始者である文鮮明の各分野における思想を総称して「統一運動」と呼び、これらを具体的に推進する組織、団体等と友好関係にある。右の組織、団体(以下「友好団体」という。)は、我が国の内外にわたり、その中には「世界平和教授アカデミー」「全国大学連合原理研究会」「国際勝共連合」「リトル・エンジェルス芸術団」「世界言論人会議」などがある。
4 信者による団体
(一) 信者団体の変遷
被告法人が昭和三九年に設立された後、信者らの手により、順次創設ないし設立された団体、組織(以下「信者団体」という。)があるが、その名称、活動の内容などには変遷がある。信者団体の変遷の内容、は次のとおりである。
(1) 第一期(昭和三九年から同五二年)
被告法人の信者らは、第一期において、各種の会社、販社を設立し、また販社社長会を組織した。
信者らは、昭和三九年六月二九日、廃品回収業などを目的とする幸世(こうせい)物産株式会社(以下「幸世物産」という。)を設立した。幸世物産は、設立後、紙パルプ製造、完燃剤の販売、スピーカー組立製造など次第に事業内容を拡大した。そして、幸世物産は、昭和四四年、統一産業株式会社(以下「統一産業」という。)へと商号を変更した。
次に、被告法人の信者らは、昭和四六年五月二五日、統一産業と競わせることを目的として、幸世(しあわせ)商事株式会社(以下「幸世商事」という。同社は、後に、株式会社ハッピーワールドと商号を変更した。)を設立した(甲三四三の四八)。なお、幸世商事の藤本三雄、統一産業前社長石井光治、幸世商事前社長益田勝らは、昭和四七年一〇月から四八年一月ころ、前記したいわゆる神戸事件(外為法違反被告事件)において、それぞれ逮捕された。
古田は、昭和四七年一二月、幸世商事の代表取締役社長に就任し、幸世商事は、昭和四八年夏ころ、全国を三つの販売エリアに分け、それぞれ西日本、中部・北陸、東日本を担当する販売会社(以下「販社」という。)である大坂幸世商事、名古屋幸世商事、東京幸世商事をそれぞれ設立した。そして、幸世商事は、取扱商品である高麗人参濃縮液、大理石壺、多宝塔等を、まず販社に卸し、各販社から全国の特約店に卸し、特約店が、直接、顧客に対して販売した。昭和五〇年四月ないし八月、幸世商事は、全国販売エリアをさらに分割し、関東一円、九州、東北を担当する販社である関東幸世商事、九州幸世商事、東北幸世商事をそれぞれ設立した。古田幸世商事社長は、同年夏、自社取扱商品の販売促進を目的として、幸世商事グループの販社の社長らによる「社長会」を組織した(同会は、後に連絡協議会ブロック長会議となる。以下「販社社長会」という。)
この販社社長会は、月一回の割合で定期的に開催され、主として営業戦略、販売方針等を協議した。
(2) 第二期(昭和五三年から同五九年)
この時期には、幸世商事が、高麗人参濃縮液、大理石壺、多宝塔などの商品を販売するために、全国に展開した組織体系を販社社長会などを介して、効率的に動かし積極的な営業活動を推進した。こうした状況のもと、販売最前線にある特約店が、顧客との懇親会活動を勧める中から生成してきたサークル活動を「しあわせ会」として組織化し、その全国組織である全国しあわせサークル連絡協議会が発足するに至った。
幸世商事は、昭和五三年三月一〇日、商号を株式会社世界のしあわせ(以下「世界のしあわせ」という。)に変更し、これにならい、各販社も商号を変更した。さらに、世界のしあわせは、昭和五三年一一月一日、商号を株式会社ハッピーワールド(以下「ハッピーワールド」という。)に変更した。翌昭和五四年ころ、各特約店は、高麗人参濃縮液、健康食品などについては、継続的販売を見込めるところから、顧客に対するサービスないしアフターケアとして、観劇ツアー、温泉招待ツアー等の懇親会ないしサークル会を主催した。そのころ、東京のある特約店が、右のような懇親会活動の一環として、「しあわせ会」という名称で、取引実績の長い青年の顧客を対象にして、被告法人の教義である「統一原理」をかみ砕いた「しあわせ原理」を紹介する三日間のセミナーを開催したところ、好評を博し、受講した顧客は統一原理に理解を示した。右顧客らは、他の顧客に対しても「しあわせ会」への参加を勧め、特約店に新規顧客を紹介をするなどしたため、東京の販社と取引関係のある他の特約店も「しあわせ会」等の名称で同種のセミナーを開催するようになった。ところで、昭和五五年ころ、被告法人は、その内外において、特約店が伝道活動をすることの是非を問題にしたが、ハッピーワールド(古田社長)の下部組織である販社社長会は、高麗人参濃縮液などの顧客(特に青年)に対しては、特約店が、その力量に応じ、商品販売の営業活動とは別に、特約店が組織化した「しあわせ会」として、会員である青年たちに統一原理を伝えてよいとの方針を打ち出した。
ハッピーワールドは、昭和五六年一一月、さらに販売エリアを分割し、販社である株式会社世界のしあわせ北海道、株式会社世界のしあわせ広島をそれぞれ設立し、販売体制をより緻密にした。そして、その下部組織にあたる各特約店は、しあわせ会を通じての伝道活動の持つ企業利益に資する側面に着目して、顧客である青年たちを「しあわせ会」に組織化することに務めた。かくして、全国に生まれたしあわせ会を束ねる会として、昭和五七年四月、全国しあわせ会が発足し、同年八月には、全国しあわせサークル連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)が発足した。
この連絡協議会は、古田社長、小柳定夫(以下「小柳」という。)ハッピーワールド取締役が、販社社長会と全国しあわせ会を統合した組織であり、基本的には、これまで認定した経緯によれば、商品販売のためのグループ組織を構成する特約店の営業活動を支援する任意団体「しあわせ会」の全国組織といえる。
連絡協議会は、昭和五七年一〇月、統一原理を伝道するための、全国にビデオセンターの設置を始めた(被告法人は、同じころ、伝道を進めるためにビデオセンターの開設を検討し、そのための経費の規模などを検討し、そのためにはチケットを販売し、受講料の徴収を考えたが、前記したように、東京都は右は収益事業と見なす旨の指導をした。そこで、被告法人は、伝道のためのビデオセンターの設置を止めた。)。これ以降、ビデオセンターは全国に開かれ、大きな伝道・教育システムラインに成長した、こうした状況のなかで、昭和五九年ころ、いわゆる青森事件が起きた。
(3) 第三期(昭和六〇年から平成元年)
連絡協議会は、昭和六〇年ころから、連絡協議会傘下の各ブロックにおいて、各販社、特約店を中心にした高麗人参茶、大理石壺、多宝塔などの商品販売が飛躍的に拡大するにつき、大きく貢献し、同時に、全国に多数、計画的に設置した伝道拠点のビデオセンターに拠りながら、青年層を中心とする多数のビデオ受講者を獲得し、伝道・教育システムラインとしても目を見張るような成果を上げた。(なお、連絡協議会は、昭和五七年八月から平成二年一一月まで存続したが、後記するような精密かつ巨大な組織体系を形成する過程において、営業活動をしたうえで伝道活動を進められる人材をハッピーワールドなどの社員を教育して補充したのか、あるいは他の領域から採用して補充したのかは必ずしも明らかではない。)。
昭和六二年、マスコミが、右の急成長するハッピーワールドの下部組織、あるは連絡協議会の下部組織の諸活動をいわゆる霊感商法と呼ぶ報道を行った。そこで、被告法人は、ハッピーワールドに対し、高麗大理石壺などの販売行為の実態について調査するよう依頼した。昭和六二年三月三一日、ハッピーワールドは、高麗大理石壺、多宝塔の輸入中止を決め、高麗人参茶等ついては、販社等に対し、誤解を招くような販売方法を禁止する旨通知した。なお、昭和六三年一二月、前記したいわゆる尾鷲事件が起きた。
(4) 第四期(平成二年以降)
古田と小柳らは、平成二年一一月、連絡協議会を解散することを決め、同会は、解散した。
(二) 連絡協議会の組織
連絡協議会の組織については、次に掲げる他、別紙図面四記載のとおりである。
(1) 古田は、連絡協議会の最高責任者であり、小柳は二番目の責任者である。古田と小柳の下には心霊巡回師室、会計巡回師室及び事務局である中央本部が位置する。
中央本部には、責任者である中央本部長の他、副本部長、経済担当部長、伝道担当部長、総務部長等のスタッフがいる。中央本部の下に、全国を八つに分割した「ブロック」が所属し、ブロックの下に地区が所属する。ブロック、地区の名称は、当時の被告法人組織のブロック本部、地区にならって付された。ブロックの数は、その後八から一二に増加した。ブロックには責任者であるブロック長の他、専務、常務、組織部長、総団長、総務部長等のスタッフがいる。地区には責任者である本部長の他、スタッフとして総務部長等がいる。地区の下には、青年部、壮年・壮婦部、店舗・委託販売員の三種類の組織があり、それぞれ、団長、事務長、店長が責任者となっていた。右各組織は、それぞれ青年団、婦人部、店舗等と呼ばれることもあった。
(2) 初代の中央部長には古田(幸世商事社長)が就任し、ブロック長、常務、専務には各販社の社長、常務、専務等がそれぞれ就任した。連絡協議会においては、毎月一回、ブロック長会議を開催、全国の組織を統轄、指導した。
(3) 古田と小柳は、連絡協議会の発足に当たり、販社、特約店、委託販売員等に対しては、「連絡協議会という組織を作るので、ハッピーワールドの商品はそこに流すように」との旨の連絡をしたが、しあわせ会等に所属していた末端の会員に対しては特に組織変更を知らせなかった(小柳は、「全国しあわせサークル連絡協議会」の名称を多数の信者たちは知らなかったと指摘する。)。
(三) ビデオセンターの設置と活動
古田と小柳は、ブロック長会議にはかった上、連絡協議会において、しあわせ会等のおけるビデオを活用した伝道・教育システムを組織的に行うことを決め、中央本部傘下の各ブロック単位でビデオセンターを設置することとした。
(1) ビデオセンターの設置運営の主体は、当初はブロックであったが、ビデオセンターが増加するとともに、次第に地区へ移行し、後には、地区の下の青年部、壮年・壮婦部等の末端の組織が直接ビデオセンターを運営するようになった。その結果、新たなビデオセンターの設置計画案についても、中央本部決済案件からブロック限りの決済案件となった。
(2) また、受後者数も増加したため、青年部、壮年・婦人部とに分けてビデオセンターを設置するようになった。右二種類のビデオセンターをそれぞれ「支部」、「組織部」と呼ぶこともあった。
ビデオセンターは、最盛期では全国に一〇〇以上存在し、地区によっては、青年部二施設、壮年・壮婦部一施設等複数のビデオセンターを持っていた。
(3) ビデオセンターは、所長、会計、職員、専従的活動員等のスタッフにより構成され、ビデオ受講者は、ゲストないし会員と呼ばれた、なお、右専従的活動員を指して献身者と呼ぶことがあった。
ビデオセンターの運営費は、ビデオ受講者の入会費、受講料及び地区の委託販売員からの任意の寄付金等によって賄うこともある。
(4) ビデオ受講者は、当初は特約店、委託販売員等の顧客(従来のしあわせ会等の会員)及びその友人、知人が中心であったが、後には、専従的活動員を中心に街頭でビデオセンターのパンフレット等を配布し、新規受講者を勧誘するようになり、最後の方では、専従的活動員の友人、知人の他新規受講者が大半を占めるようになった。
(四) ビデオセンターによる伝道・教育システム
連絡協議会は、ビデオセンターにおいて、ビデオ受講者を対象に、統一原理の学習を中心とするセミナー、トレーニング(以下「セミナー等」という。)を催した。
(1) 右セミナー等の運営は、当初はビデオセンターの所長等が独自に行っていたが、セミナー等の受講者が増加し、定期的に開催するようになってからは、担当者が置かれるようになった。
(2) 右セミナー等はいずれも統一原理の学習が中心であり、受講者の発達段階に応じて、ビデオセンターでのビデオ紹介の後、①ツーデイズセミナー、②ライフトレーニング、③フォーデイズセミナー、④新生トレーニング、⑤実践トレーニング等の順にプログラムが用意されていた。これらのプログラムは、時間と共に整備され、名称、順序等内容に多少の異同があるが、連絡協議会の組織が全国展開するころには、全国ではほぼ同じ内容のものが実施されていた。
三 原告らの訴訟提起
原告羽佐田は、平成二年五月二三日、甲事件訴えを、原告大村、同岩瀬は、平成三年五月二三日、乙事件訴えを、原告永田、同鈴木、小栗は、同年一二月四日、丙事件訴えをそれぞれ当裁判所に対して提起した。
第二 争点
一 争点1(被告法人と信者の組織の関係)
(原告の主張)
被告法人は、資金獲得、信者獲得の目的のもとに、多宝塔や高麗人参茶等(以下「高麗人参茶等」という。)の販売活動、伝道(入教勧誘)活動を組織的に指揮命令し、その利益を享受した。すなわち、被告法人は、その信者に対し、資金集めの必要性、信者は商品販売活動をすべきこと等を命令ないし督励し、その結果、被告法人の信者は、経済活動、つまり霊感商法の商品である壺や高麗人参茶等の販売、新規の信者に対する伝動、入教勧誘の活動に従った。
被告法人は、右販売活動等について、いずれも被告法人の信者もしくは信者団体が独自に行ったものであって、被告法人としては預り知らないと主張する。しかし、右主張は事実に反する。
①被告法人の教義の教祖及び幹部が信者に対し再三資金集めを命じたこと、②右資金集めのための商品販売活動の奨励及び商品販売実績が詳細かつ継続的に被告法人の機関誌に掲載されてきたこと、③被告法人の伝道部門と経済部門とは人的に一体であること、④販売活動は全国的に同様の手口で組織的計画的に遂行されていること、⑤右販売活動を支えるトーク及び組織体制はいずれも被告法人の教理と密接な関連を有すること、⑥右販売活動の実行者、関係者はいずれも被告法人の信者であること、⑦右販売活動が被告法人の伝道と連携して行われていること、⑧右販売活動による利益は被告法人に帰属していること等にかんがみれば、被告法人自身が、信者に対し、継続的に資金集めないし販売活動、伝道活動をするよう命令し、その利益を享受してきたことは明らかである。
1 被告法人の信者に対する指揮
被告法人の教義の創始者である文鮮明及び被告法人の幹部は、再三にわたり、信者に対し極限的な資金集め活動を指揮命令した。後に掲げる雑誌「成約の鐘」、「聖徒」、「ファミリー」、「祝福」はいずれも被告法人の機関誌であり、文鮮明らが信者に対し資金集めないし販売活動を推奨したことが掲載されている。
(一) 教祖文鮮明による命令
文鮮明は、被告法人においては、「再臨のメシヤ」「真のお父様」という絶対的存在であり、その発言は「み言(ことば)」と呼ばれ信者が絶対に守るべきものである、という。そして、文鮮明は、信者らに対し、以下のとおり、再三にわたり、その説教の中で「万物復帰」の名の下に資金集めのための経済活動を全力で行うことを命じ、これらの命令には信者は絶対服従しなければならず、その命令の遂行のためには刑務所へ行くこともおそれてはならないと述べる。また、文鮮明に次いで絶対的存在とされる文鮮明の子(子女様と呼ばれる。)も同様の説教を行っている。
(なお、以下の文中において、「お父様」「先生」とは文鮮明自身を、「真の父母」とは文鮮明夫妻を、「食口(しっく)」とは被告法人の信者をそれぞれ指す。)
(1) 昭和五七年五月三〇日「み旨の道」と題する説教
「統一協会の会員は必ず万物復帰をしなければなりません。万物復帰をすることによって、皆さんは神に万物を献祭するのです。(略)この世の人々は十一条(十分の一)捧げればよいと言っていますが、私たちは十一条でなく百パーセント捧げます。それを三年間しなくてはならないのです。(略)皆さんも万物復帰をするとき、自分勝手に使ってはいけません。自分のために使ってはいけないのです。かえって、万物復帰したものに、自分のものを少しでもプラスして捧げるのです。それが私たちの精神なのです。このような原則を中心として生活しなければならないのです。この道を行くには、借りてでも天に捧げようとする心がなくてはなりません。精誠の限りを尽くしたにもかかわらず、それでも不足している場合には借りてでも補うような気持ちが大切なのです。」(甲三四三の六「ファミリー」昭和五七年九月号、甲三四三の七「ファミリー」昭和六三年九月号。)
「統一協会に入っていながら万物復帰をしたくないと言ったり、ホームチャーチをしないと言っているのは誰ですか。(略)まず経済訓練をして次に人を愛する訓練をしなければなりません。七年間この訓練を受けるのです。(略)皆さんは、まず経済問題に対して責任を負うのです。」(甲三四三の九「ファミリー」昭和五七年五月号)
(2) 平成元年六月四日ニューヨークにおける「万物の日と所有権」と題する説教
文鮮明は、次のとおり、本来神の側にあった万物がサタン側に帰属しており、それを「神の側」(被告法人)に取り戻すことが「神の国」建設のために必要であり、また万物自身もそれを望んでいるという「万物復帰」の摂理の下に、統一協会の信者は全員全力をあげて資金集めを行い、それを全額統一協会(文鮮明)に献金すべきこと、そして平成元年六月四日から三年間でこの世のすべてのお金を統一協会の所有とすべきこと、そうしなければ祖先が救われない旨を述べた。
「今回の『万物の日』は、二十七回目です。三十回目を迎える時には、世の中のすべての万物を神様の所有にしなければなりません。神様が所有すべきなのに、それを失ってしまったのですから再び取り戻すべき責任が私たちにあるのです。すべての万物を取り戻して神様の前に捧げなければならないのです。万物は私たちに付いてこなければならないのです。(略)さあ、きょうは『万物の日』です。結論を出しましょう。万物たちはどうしているかというと、『真の主人に帰れ!』と静かなデモをしているのです。『神様が万物を造られたのに、どうしてこのような悪党たち、サタンたちに渡してしまわれたのか。歴史始まって以来、常に悲惨であり、なぜこんなに呻吟し、苦痛を受けるようになったのだろうか』と、神様の前に讒訴しているのです。(略)神様の立場を考えなさい。神様はすべてを失ったのです。サタンがすべてを主管してしまいました。神様の目的を踏みにじってきたのです。神様は何の力もありませんでした。神様には交渉する方法も持ちませんでした。すべてがサタンに属してしまったのです。分かりますか。ですから、それを取り戻していかなければなりません。この『万物の日』に当たり、皆さんはそういったことを考えていかなければなりません。すべての所有権を神様に帰していかなければなりません。(略)皆さん、所有権ということが分かりましたか。所有権をどこに帰さなければならないのですか?(真の父母と神様です)。(略)さあ、されでは本然の所有権を解放して、自分の所有権を成就して、世界的な勝利の版図に立つことを誓う人は立ってください。すべての所有権を変えなければなりません。そうしなければ祖先が救われせん。」(甲三四三の五六「ファミリー」平成元年一〇月号。なお、甲三四三の五四「祝福」平成元年冬号)
(3) 昭和六二年三月二七日「祝福の位置」と題する説教
「皆さんが祝福を受けるためには色々な条件の具備が必要だということをよく知っているはずです。第一番目は何かというと、万物を復帰するための条件を立てなくてはならないということです。」(甲三四三の五三「祝福」昭和六二年夏号)
(4) 昭和五八年三月一三日「我々の基本姿勢」と題する説教
皆さんは、賢明でありたいと思うならば、先生の言うことに従うということです。「皆さんが望まないようなことを無理矢理させることもありますよ。それでもいいですか。(はい)。先生のやり方にしたがって実行することは良いことですか、それとも悪いことですか。(良いことです。)この世的に見れば、先生のやり方は最悪ですが、天的に見ればそれは最善のことなのです。青年たちが自分の国の発展のために犠牲となっても、それを喜び、決して不平を言わないという伝統が立っている国は必ず栄えます。それは宇宙の基本原則に適っていますか、適っていませんか。(適っています。)(略)この方式に対して不平をいう人は既に下降線をたどっている人です。下降して行き着く先はどこですか、地獄です。統一教会に入ってきた後で、何かほかに良いものを求めて教会を去って行く人は、必ずいずれはみじめな立場にならざるを得ません。その意味で統一教会というところは恐ろしい所です。ここではどちつかずの生ぬるい立場は許されません。」(甲三四三の一〇「ファミリー」昭和五八年七月号。なお、甲三四三の五五「ファミリー」平成元年二月号)
(二) 被告法人の幹部による命令
(1) 小山田秀生
被告法人幹部小山田秀生(以下「小山田」という。)は、昭和五六、五七年ころ、被告法人の副会長であったが、被告法人の機関誌において、再三にわたり次のとおり、被告法人の信者に対し「万物復帰」に全力をあげることを命じた。(なお、小山田は、その後、平成六年五月、被告法人会長に就任し、翌年会長を辞したが、なお、被告法人中枢の地位にある。)
① 昭和五六年「本部役員のあいさつ」
「われわれ日本の責任と使命はとくに重大である。なぜなら、神の摂理史上において中心民族、エバ国家が果たしえなかった課題を全うせねばならぬからである。それは、とりわけ万物復帰と人材教育を果たすことであり、民族意識国家意識を超えて超民族的精神をもって天的伝統を相談しつつ、全世界にそれを教育、伝達しなければならない。今後数年間の活動如何によって世界の運命が決まるという時に今は直面している。『身を殺して仁をなす』とのわが国の諺にあるごとく、一身を犠牲にして永遠なる天的使命に生き、かつ死なんと決意しつつ、意義ある昭和五六年の門出を、全国の食口一同と共に祝いたい。」(甲三四三の五「ファミリー」昭和五六年一月号)
② 昭和五七年七月一一日「愛の復権」と題する説教
宗教の精神を示すために経済を通してやるという道が、第一段階になってくる。(甲三四三の八「ファミリー」昭和五七年一〇月号)
(2) 古田元男
被告法人の「局長」であった古田元男(以下「古田」という。)は、昭和五三年当時も、昭和五九年から平成二年当時も、株式会社ハッピーワールド代表取締役であるが、被告法人の機関誌において、昭和五三年年頭の「本部役員のあいさつ」として、エバ国家としての使命は、万物をいかに復帰し、天の前に供えてゆくか、が原理的意味あいに於いても、重大です、と述べた。(甲三四三の四「ファミリー」昭和五三年一月号)
(3) 阿部正寿
阿部正寿(以下「阿部」という。)は、被告法人の広報委員長であるが(昭和五二、五三年局長、昭和五四年、五五年IOWC総裁)、昭和四九年、被告法人の機関誌において、「教会の活動方針」として、信者に対し、次のとおり、高麗人参茶等の販売に全力をあげ、計画した個数を必ず販売するよう命じた。なお被告法人においては、高麗人参茶等のことを聖書の故事を引用して「マナ」と呼んでいる。(甲三四三の一「成約の鐘」昭和四九年二月号)
(4) 白井康友
白井康友(以下「白井」という。平成八年末現在、被告法人本部の教育部長)は、昭和五八年、被告法人の機関誌上において、高麗人参茶等販売及び伝道に関し、厚木修練所で百日修練会においてマナ路程(高麗人参茶等販売)の訓練を徹底して受けたこと、神奈川の地区長となり、千葉中央修練所で信者教育のスタッフに当たっていること、万物復帰と伝道とは共に「為せば成る、やればできる」という「み言」を実感した旨の手記を発表した。(甲三四三の一〇「ファミリー」昭和五八年七月号)
(三) 文鮮明及び被告法人の幹部による非公式の指揮命令
被告法人幹部らは、信者に対し、経済活動、物品販売活動について、前記のように機関誌等による命令、督励の他、非公式の場ではより露骨にノルマや販売方法を示した指揮命令をした。全国各地で活動していた信者たちは、文鮮明や小山田、古田ら教祖、幹部の発言を絶対に従うべきものであると教え込まれ、その発言の実行として、献金ないし物品代金等の名目のもとに被告法人に提供する資金を捻出するため、それぞれ任務とノルマを与えられ、課されたノルマ達成のために奔走した。
2 被告法人の宗教活動と経済活動
(一) 被告法人と信者の一体的経済活動
被告法人は、信者らの経済活動を促し励ますため、その機関誌に、万物復帰ないし経済活動を伝道と並び、または伝道に優先して行うべき重要な活動であること、信者(信者ないし教会長、教区長)らが経済活動の内容として高麗人参茶等や大理石壺等の販売を行い、販売実績を上げていること、家に上がり込んで六時間話込んだこと、その他を掲載した。(甲三四三の五二「聖徒」昭和四九年八月号、三四三の一〇「ファミリー」昭和五八年七月号、甲三四三の五四「祝福」平成元年冬号。なお、甲三四三の一、四九、五一)
(二) 被告法人の人事と経済活動
(1) 被告法人は、初期においては、宗教法人でありながら経済局を持ち、その後も伝道部門と経済部門とは一体として組織活動を展開し、伝道部門と経済部門の間において人事交流が公然と行われていた。二つの部門長を兼任する例もあり、経済部門の人事も文鮮明及び被告法人が行ってきた。
以下、時代を追って述べる。
(2) 昭和四〇年ころ
被告法人は、昭和三九年七月一六日、宗教法人として設立された。その半年後である昭和四〇年一月一〇日付で発令された人事による被告法人の組織図には「本部組織」として「経済局」が存在した。
右経済局第一部長には、昭和四七年当時、被告法人の渉外部長として被告法人の資金を全面的に掌握し後記神戸事件の主役ともなった石井光治(以下「石井」という。)が就任した。石井は、神戸事件後、被告法人の機関誌などの表舞台にはほとんど登場しなかったが、平成八年夏に被告法人の会長に就任した。
(3) 昭和四七年ころ(神戸事件)
被告法人は、いわゆる神戸事件が起きた昭和四七年ころ、ハッピーワールドなど関連企業を持ち、形式的には右関連企業は法人格を取得した別人格であったが、実態としては両者は一体不可分であり、右企業などはいわば被告法人の事業部門として、被告法人の組織に組み込まれ、被告法人の指揮、監督の下に資金集め活動に奔走していた。
いわゆる神戸事件とは、被告法人の幹部及び信者らが、昭和四六年八月から昭和四七年五月ころ、韓国に渡航する際、額面合計二億三〇〇〇万円の小切手を法定の除外事由なく持ち出したとの公訴事実(外国為替及び外国貿易管理法違反)により、被告法人の責任役員であり渉外部長の地位にあって財務全般の統括責任者であった前記石井、被告法人の信者であり、ハッピーワールド取締役、幸世自動車株式会社代表取締役の地位にあった藤本三雄、被告法人の信者であり、ハッピーワールドの代表取締役の地位にあった増田勝の三名が起訴された事件である。(甲三四三の七〇の一、甲三四三の一三)
被告法人とハッピーワールド、資金集めのための信者の団体として存在したとされる「熱狂グループ」は一体であり、これらの活動の目的は全て被告法人の指揮監督下での資金集めである。
ア ハッピーワールド及び韓国における関連企業の設立
被告法人は、設立当初、信者らがキャラバン隊を組み街頭で花売りやカンパ活動を行っていた。しかし、その販売方法に行き過ぎ等があった他、これらの活動による資金や献金だけでは被告法人の活動を賄えなくなり、さらには、右諸活動には永続性がないことその他の理由から、被告法人は、昭和四六年ころ、以上に代えて事業部門を設け、高麗人参茶等、大理石壺等の販売をする営利事業を営んで得た利益をその資金源とすることを決めた。被告法人の関連会社としては、そのころ、銃器、高麗人参茶等の輸入を扱う統一産業株式会社があったが、同社は文鮮明が日本の信者に対し銃の販売を命じたため銃器の輸入で忙しくなっていた。そこで、信者の一部は、幸世商事ないし第二事業部として高麗人参茶等の輸入を始めたが、その後昭和四六年五月二五日、幸世商事株式会社として法人登記した。これがハッピーワールドである。(甲三四三の四八「成約の鐘」昭和四六年一〇月号)
そのころ、韓国の統一産業株式会社専務の黄忠雲は、石井に対して、大理石の壺を販売する旨を打診した。そこで、藤本三雄は、韓国に派遣され、一信石材工芸株式会社(以下「一信石材」という。)を設立した。一信石材は、製作した壺を日本へ輸出し、ハッピーワールドがその販売を一手に引き受けた。また、石井らは、高麗人参茶等の製造をするよう韓国の事業家である統一協会員に働き掛け、一和製薬株式会社を設立させた。(甲三四三の七〇の七、昭和四七年一一月二九日付石井光治の員面調書)
これらの韓国企業は、いずれも韓国の統一協会信者が経営を担当し、一部の企業については文鮮明が自ら代表理事に就任する等、統一協会の事業部という色彩が強い。(甲三四三の七〇の二)
イ 被告法人と関連企業間の運営上の一体性
被告法人は、地区教会の人事や伝道、ハッピーワールドの人事、さらにはハッピーワールドの販売等の運営方針について、久保木会長、小山田会長らの本部役員と統一産業やハッピーワールドの販売等の運営方針について、久保木会長、小山田会長らの本部役員と統一産業やハッピーワールドなどの責任者が協議して決め、相互に入り乱れて命令を出しており、両者は実態としては全く一体であり不可分である。
藤本三雄は、いわゆる神戸事件を調査した際、司法警察員に対し、「被告法人では、いろいろな問題が起きた場合、どうしても解決しないときには大先生(文鮮明)の指示を仰ぐことになっている。」、「渡韓中の石井光治から被告法人会長(当時は久保木修巳)に対し、人事異動等各種の伝言がされている。」、「ハッピーワールドや信者に対し、被告法人本部から高麗人参茶等の売上目標まで指示が出され、被告法人の地区からハッピーワールドへの人事が行われている。」、「文鮮明が藤本三雄に対し、一、として二人の婦人をハッピーワールドから被告法人の伝道部門(巡回師)に人事するように指示した。」、「二、として名古屋地区の一五〇名を一〇月一日から六か月間幸世商事(ハッピーワールド)へ人事するように指示した。」、「三、として幸世商事(ハッピーワールド)の人事を早く一〇〇〇名位にしなくてはならないと指示した。」、「(右一五〇名の人事に関し)そのために本部の経済八五〇万位幸世商事にて責任を負わなくてはならない(人事の見返りとして、名古屋地区から一五〇名出すと本部の経済に八五〇万位の欠損を来すのでその分を幸世商事で補填せよとの趣旨)。」、「地方が本部献金のため伝道より経済に力が入ったため」「八、大先生(文鮮明)が決められた人事に対しては変えてはならない。重大な摂理の中において一人でも欠けることは許されない。」、「昭和四七年一月一〇日には統一産業とハッピーワールドの間の人事や統一産業の資金繰り等について、被告法人の本部で被告法人の小山田会長代理、宮下総務部長と統一産業の林、ハッピーワールドの藤本の四者で協議した。」、「昭和四七年三月二四日には箱根山中で被告法人の小山田会長代理、周藤巡回室長、勝共連合の梶栗事務局長、統一産業の林社長、及び藤本で『山の会議』を開き、伝道の方針について協議した」ことなど、被告法人組織全体が文鮮明に絶対服従すること、被告法人とハッピーワールド間において人事交流があり、これらの人事は最終的には文鮮明の指示により決められること、被告法人の資金面はハッピーワールドが支えていること、ハッピーワールドやその他の関連企業の人事、資金繰り、ひいては右企業群による伝道のあり方について、被告法人の本部役員と右企業群の会社責任者とで決めていることなどを供述した。(甲三四三の七〇の一一、昭和四七年一一月一一日付藤本三雄の員面調書、甲三四三の七〇の一二、昭和四七年一一月一六日付藤本三雄の員面調書)
ウ 被告法人と関連企業間の組織上の一体性
ハッピーワールド他の被告法人関連企業は被告法人の出資により設立され、軌道に乗るまでの間、その運動資金も被告法人が出捐し、利益があがるようになると、その利益は全て被告法人に献金するなど、法人格を取得した後も、実態は被告法人と一体かつ不可分である。被告法人は、その内部においても、関連企業の事業を被告法人の事業とし、関連企業を被告法人の第二事業部などと位置づけていた。(甲三四三の七〇の九、手話四七年一一月一六日付石井光治の検面調書)
エ 被告法人と信者グループ(神戸事件判決にいう「熱狂グループ」)の一体性
被告法人は、資金集め活動について、信者の一部が独自に行っていることであり、被告法人は無関係であるかのように主張する。しかし、被告法人は、信者に対して、常に資金集め活動を行うよう、また信者は命令に絶対服従するよう求めており、信者独自の活動の余地などはない。
神戸事件記録を見れば、被告法人の信者でも「献身者」となれば、個人の財産あるいは個人の活動といったものは存在せず、有志で任意独自に活動することなど全く考えられないこと、被告法人内部においては「熱狂グループ」は被告法人の布教のための組織とされ、同グループが集めた資金は、全て被告法人の責任役員であり全財政を担当している石井の下に集められていること、右グループの運営維持費は、一旦石井に渡した金の中から支出され、その活動は石井が統括管理し、カンパ、花売り活動について、被告法人の総務部長が、藤本を介して、各地の信者に対して警察の手入れについて注意を与えるなどしていたことが明らかである。(甲三四三の七〇の一〇、藤本三雄の昭和四七年一〇月三一日付員面調書、甲三四三の七〇の五、石井光治の昭和四七年九月七日付員面調書)
右「熱狂グループ」は被告法人の指揮監督のままに動く信者を、裁判対策のために、独立した別個のグループであるかのように仮装したものに過ぎない。本件において、被告法人が主張する信者組織なるものも、同じようにすべて仮装の存在であり、その実態は、神戸事件以来変わっていない。
(4) 昭和四九年ころ
被告法人は、昭和四九年二月二〇日、その機関誌において、昭和四五年の国際合同結婚式に参加した被告法人の幹部である七七七双(七七七組の意味)の信者のうち四五八人についての人事を発表した。右機関誌によれば、統一産業に社長をはじめ四四人が、ハッピーワールドには社長を始め三五人がそれぞれ配置され、他に幸世不動産や、会社名のない「営業」とされている者などもいた。(甲三四三の二「祝福」昭和四九年冬号)
(5) 教会長等による経済活動
信者たる教区、教会長らは、自ら積極的に販売活動に従事した。被告法人は、伝道部門と経済部門を峻別する意思を真実あるというならば、当然これらの行為を戒めるべきである。ところが、教会長は、機関誌上において、率先して経済活動を行うことを奨励した。被告法人もまた、その機関誌において、教会長の役割に関し、教会長が牧会などの活動をしないで高麗人参茶販売の経済活動ばかりを奨励し「実績の上がる地区は悲壮感はなく悠々としてやっていますね。感謝して霊的になっているとどんどん売れるのです。」など販売を奨励する発言を掲載し(聖徒」昭和五〇年四月号)、信者である奈田直宏が、祝福(合同結婚式)に当たり「なんとしても教会長婦人として皆にザン訴されないで指導するためには万物復帰の摂理を少なくとも勝利するのでないとつまらないだろうなあと、真剣にそう思っていた。」と述べたことを掲載した(「祝福」昭和六一年冬季号)。
昭和五二年七月当時の被告法人の教区長、教会長ら八三人のうち、四八人は、その後、ハッピーワールドの代表取締役に一人、ユニバーサル東京に三人、丸興に二人、同クラスである旧世界のしあわせ各社に合計一三人(一六回)、シービーに二人、鶴美に一人、霊感商法物品の中間卸、末端販社に二二人(三〇回)が、それぞれ取締役、監査役等の役員に就任した(甲三四三の三「ファミリー」昭和五二年七月号)。このうち愛知第三教会長岩崎靖志は、それより前の昭和四九年二月二〇日、統一産業にいた他、教会長在任中である昭和五二年七月から昭和五三年一月ころ、銃器、火薬類の製造販売、美術工芸類の販売を目的とする株式会社テンリュウの取締役を兼任した。
(6) 被告法人によるトーカー(霊能師役)の人事
被告法人の本部や伝道部門は、販売活動(霊感商法)の霊能師役を行うトーカーの人事を行っている。被告法人の桜井設雄伝道局長は、昭和六三年一月、全国トーカー修練会の席上において、トーカーの全国的な人事異動を発表した(甲三四三の一六)。被告法人の巡回師は、信者がトーカーになるに際し、その面接を行っている(甲三四三の五七)。また、桜井設雄や古田ハッピーワールド社長らは、前記全国トーカー修練会において、参集したトーカーらに対し、「死を覚悟してやれ、戦争だ。」などと檄を飛ばした。(甲三四三の六八の一、二)
3 販売活動(霊感商法等)の手口と組織性
(一) 青森事件
いわゆる青森事件とは、霊感商法について恐喝罪に該るとされた刑事事件である。被告法人関連企業の販売員らが、共謀の上、過去に右会社の訪問販売で印鑑を買った被害者である女性に対して、胃ガンで死亡した前夫との婚姻生活中、貧困から多くの胎児を妊娠中絶したが、現夫も交通事故による受傷のため脳に障害が残り、労働不能となるなど不幸を感じていたるところに乗じて、同人から金員を喝取しようと企て、トーカー(霊能師)役、その補助、霊媒で霊にとりつかれる役などと役割分担をして△△を予め用意したホテルの一室に連れ込み、因縁トークを行い、他の者らが霊が乗りうつった演技をするなどして被害者を畏怖させ高麗人参茶購入代金名下に一二〇〇万円を喝取した事案である。(甲三四三の一四の一と四)
右の手口は、霊が乗り移った演技を行う点以外は、被告法人が印鑑などの販売活動において行う他の霊感商法事件と同じであり、極めて組織的に被告法人の信者によって行われている。
(二) 被告法人のその余の経済活動
(1) 定着経済
いわゆる霊感商法が社会的指弾を受け、被告法人は、昭和六二年春ころから、霊感商法の活動を行えなくなった。その結果、壺、多宝塔という商品は販売されなくなり、代って新商品が登場した。すなわち、着物、宝石、毛皮、絵画などである。この商品は、国内の一般的な業者からハッピーワールドが全国一括で仕入れ、それを例えば北海道の場合には株式会社北翔クレイン(以下「北翔クレイン」という。)に卸し、北翔クレインが地区の被告法人組織と一体となって、展示会を開いて売るという形態で販売した。この販売形態のことを被告法人では「定着経済」とか「ブルー」と言う。その販売商品は、高麗人参茶等(濃縮液)や印鑑、念珠の他、サウナ、男女美化粧品などである。この内、高麗人参茶等については韓国の一和製薬株式会社が生産し、これをハッピーワールドが一括輸入し、全国各ブロックの店舗に卸す。この商品は、地区の被告法人組織が各ブロックの店舗から仕入れ、被告法人の地区組織が主体となって売る。男女美化粧品についても同じであるが、サウナなどの高額商品で販売元を明示しなければならない場合には各地区で設立した会社名や屋号を用いる。
ところで、被告法人の地区組織は、商品販売について上部から過大なノルマを課され、達成できない場合でも、達成額相当の代金を各ブロックの店舗に納めなければならない。その代金を「蕩減原価」といい、文鮮明に送金されるという。
その結果、被告法人の地区組織の経済状態は、商品が売れないということもあり、借金づけである。地区組織がする借金をHG(「早く現金」の略称だという意見もある。)、TK(借入期間が一年未満の短期借入れ)などという。信者は、文鮮明に対する送金のために借金地獄に苦吟している。
(2) 定着経済等の仕組み
ア ブルー展と被告法人の地区組織の関係
被告法人のブルー展は、被告法人の地区組織と被告法人が各ブロックで設立した販社とが共同して遂行する経済活動である。ブルー展は展示会を開き着物、宝石、絵画、毛皮等の商品を売るが、そこに客を動員し、その場で販社のアドバイザー(あるいはコンサルタント)と一体になって霊感商法でいうヨハネ役を務め(ビデオセンターへの勧誘の際に紹介者が果たす役。人が決断をする時、身近な人の意見に従う傾向を利用する。)、場合により商品の配送から集金までも担当するのが地区の被告法人の信者である。販社は、独自に展示会の宣伝を行うことはなく、販社も商品も社会的な認知を受けていないので、ブルー展が経済的に成り立つのは、地区の信者が親しい人達に売るからである。したがって、ブルー展は、被告法人の組織なしに成り立たない(甲三四三の二一)。
イ ブルー展の準備
被告法人の地区の責任者と販社の営業部長クラスの人間とのスタッフ会議は、地区の責任者を説得して展示会の日時や販売目標や動員戦略を協議し、伝道その他の地区のスケジュールとの調整をする。
販社の営業部長は、地区の被告法人の信者に対して啓蒙活動を行う。被告法人の信者は、商品の販売が「摂理」に合い、信者自身の救いになる他、購入者本人は知らなくてもその堕落性本性を救う条件であると信じる。
ブルー展の開催は、右信者の思いと結びつくため、販社の営業部長は、販売担当の信者に対し、商品知識を分からせるとともに、展示会の摂理的意義を説く。これにより、被告法人の信者にとり、着物が救いの価値あるものに変わる。
被告法人の信号は、啓蒙活動の終了後、客のリストアップをして、工夫しながら、動員目標を達成する。
ウ 健康展について
健康展は、ブルー展と同じような取組みであり、地区の被告法人組織が主催して開かれる。取扱い商品は高麗人参茶等、サウナ、浄水器、化粧品等である。商品の仕入れは、被告法人の地区の組織の責任で行われる。
(三) 教理と販売活動
(1) 被告法人の教理
被告法人は、旧約聖書及び新約聖書を教典とし、その解釈として独持の教理を導いている。被告法人の教理解説書である「原理講論」によれば、その教理は概ね次のとおりである。
ア 創造原理
神は、人間が個性完成(第一祝福)、個性完成後の合性一体化による子女の繁殖(第二祝福)、万物世界の主管(第三祝福)の三大祝福のみ言に従い天国を実現して喜ぶのを見てより喜ぶために、人間を創造した、神は人間を神に似せて創造したので、人間はそれ自身の責任分担を完遂して初めて完成されるように創造された。それは人間が神も干渉できない責任分探を完遂することにより神の創造性までも似るようにし、神の創造の偉業に加担させ、神が人間を主管するように人間も創造主の立場で万物を主管できる資格を持つためである(原理講論六四ないし六九頁、七九頁、八〇頁、一一三頁、一一四頁)。
イ 堕落論
神が人間を創造する前、神の愛を一身に受けていた天使長ルーシェルは、神がアダムを創造して愛を注いでいるのを見て愛の減少感を感じて神の子女であるエバを誘惑した。エバは神の戒めを破ってルーシェルと不倫の霊的関係を結んで霊的に堕落し、次いでそれによる良心の呵責からくる恐怖感と、本来の夫婦としての相対者となるべきはアダムであるということを知る新しい知恵を受けたエバは、アダムを誘惑して未完成のうちに性関係を結び肉的に堕落した(原理講論九二頁ないし一一一頁)。
堕落した天使長ルーシェルは、サタンとなり、堕落した人間はサタンの子女となり、その堕落性は、原罪として子孫に綿々と遺伝される(原理講論一一一頁)。
そして、完成した人間が主管するはずであった万物世界は、人間が未完成のうちに堕落し、サタンが万物の主管主として創造された人間を逆に主管するようになったので、サタンは万物世界をも主管するようになった(原理講論一一四ないし一一五頁)。
アダムとエバは、堕落して人類の悪の父母となり悪の子女を生み地上地獄を造った(原理講論一七七、二六四頁)。
ウ 霊界と霊的救いについて
存在は、目に見えない内性である「性相」とその外形である「形状」を持ち、人間は無形の主体である霊人体と有形の対象である肉身を持つ。霊人体は、霊感だけで感得され、死んだ後には霊界に行って永遠に生きる。霊人体は、肉身を土台にしてのみ成長する。(原理講論八二頁ないし八六頁)。
人間は、地上地獄に住むので肉身を脱ぎ捨てた後にも、そのまま天上地獄に行く(原理講論一三七頁)。また「罪を犯せば人間は否応なしに地獄に引かれていかねばならない。」それが天法である(原理講論三四頁)。人間の罪には原罪の他に先祖が犯した罪を血統的な因縁をもってその子孫が受け継いだ遺伝的罪や連帯罪、自犯罪などがある(原理講論一二一頁)。
エ 復帰論総論
神による救いの成就は、人間の自由意志による責任分担(神が九五パーセント、人間は五パーセントの責任を分担する。)の完遂により成る。人間は神のみ旨にしがたって自分の責任分担を完遂することもできるが、神のみ旨に反してその責任分担を果たさないこともある(原理講論一二五頁、一八九頁、二四三頁、二四四頁)。しかし、実績のない自由はない。人間が責任分担を完遂しようとする目的は、創造目的を完成して、神が喜ぶ実績を上げるところにある。自由は、常に実績を追求するので、実績のない自由はない(原理講論一二六頁)。メシヤのための基台を造成するためには達成されなかった三大祝福の反対の経路に従い、万物を復帰するための蕩減条件と人間を復帰するための蕩減条件を同時に立てることができる「象徴献祭」を捧げて「信仰基台」を立てなければならない。万物をもって「象徴献祭」を捧げるのは、第一に、人間の堕落によりサタンが万物世界を主管するようになってしまったため、神の象徴的実体対象である万物を復帰する必要があること、第二に、人間は、堕落によって万物よりも偽り多い低い存在にまで落ちたので、このような人間が神の前に出るためには、自分よりも神の方に一層近い存在である万物を通じなければならないからである(原理講論二九七頁、二九八頁、二七七頁ないし二七九頁等)。
オ アダムの家庭における復帰摂理の失敗
アダムの家庭では、ルーシェルとの堕落行為を表徴する長子カインがアダムとの堕落行為(相対的には許し得る)を表徴する善の表示体である次子アベルに従順に屈服して堕落性を脱ぐための蕩減条件を立てれば「実体基台」をつくることができたが、カインがアベルを殺したので復帰摂理は失敗した(原理講論二八九頁ないし三〇〇頁)。カインは、神に近い人物であるアベルに対して従順に屈服することが重要であり、今日の信者もそうすることになる。
カ ノアの家庭における復帰摂理の失敗
ノアは、箱舟を神への供え物として捧げ「信仰基台」を作った。しかし、ノアの次子ハムは、ノアが天幕の中で裸になって寝ているのを発見し、それを恥ずかしく、善くないと考え、兄弟とともに後ろ向きに歩み寄って父親の裸を着物で覆い、顔を背けて父の裸を見なかったことが罪となり、復帰摂理は失敗した(原理講論三〇二頁ないし三一二頁)。神の側に近い者の言うことは、自分の考えでは悪いと思っても、善いと思うべきであること、すなわち、不条理なことにたいしても従うことになる。
キ アブラハムの家庭を中心とする復帰摂理
アブラハムは、エジプト王パロに妻を奪われたが、神がパロを罰したので、その妻と甥のロト及び財物を奪ってエジプトを出、カインの地に復帰することで蕩減条件を立て、そこで「象徴献祭」を捧げられた。アブラハムは「象徴献祭」したが、鳩を裂かなかったため、サタンが侵入し、象徴献祭に失敗した(原理講論三一五頁ないし三二三頁)。復帰摂理は、ささいな理解し難いことで失敗し、それにより復帰摂理は延長されてより大きな犠牲が求められるので、神側の者への絶対的な服従が必要であることになる。
ク イエスを中心とする復帰摂理
その後、完成されたアダムとして来たイエスをメシヤと証すべき立場にいた洗礼ヨハネが、イエスを疑ったので、イエスは荒野において四〇日断食祈祷を行い、三大試練を経ることになった。後に、イエスは再度復帰路程を歩むが、ユダヤ人の不信により救いに失敗し、イエスはサタンに引き渡された(原理講論四〇三頁ないし四二五頁)。ヨハネによりメシヤ再臨があるべきとする。
ケ 再臨論
肉的救いを完成し地上天国を実現するには再臨のメシヤを待たなければならない。イエスは韓国に再臨する(原理講論五八六頁)。神は、この地上に、このような人生と宇宙の根本問題を解決するために文鮮明を遣わした(原理講論三七頁、三八頁)。文鮮明は、再臨のメシヤであるから、信者は絶対に文鮮明に服従すべきことになる。
コ 復帰摂理と私(信者)
信者は、復帰摂理の目的のために立てられた預言者や義人たちが達成できなかった時代的使命を、今自ら、一代において蕩減復帰しなければならない(原理講論二八七頁、二八八頁)。信者は、アダム以来の復帰摂理を繰り返す必要がある。
(2) 被告法人の教理と霊感商法
「先祖の因縁」というトークは、被告法人の信者には日常的であり、伝道でも先祖の因縁は活用される。信者は、先祖の因縁を強く教え込まれる。これは、被告法人の教理と先祖の因縁が密接に関係していることから来る。
ア 霊感商法における因縁トーク
(ア) 被告法人の教理のうち、前記霊界についての考え方をまとめると、「①自ら罪を犯した先祖(本人)は(天上)地獄に落ちる。②地獄は暗くてつらいので霊人は救いを求めている。③そのような悪霊人は自らは成長できず救いを受けられず、祖先が犯したある罪が(遺伝的罪として)残っている地上人に苦しみを与え、その地上人が苦しみを甘受すると、それを通じて悪霊人も救いに近づく。④また自分たちが地上で完成できなかった使命を地上人に協助し、地上人の肉身を通して救いを成し遂げる。」ということになる。これを世俗的にいうと「先祖が地獄で苦しんでいる。その先祖の因縁であなたや家族に不幸が生じている。この因縁を断ち切るためには(また先祖が救われるためには)あなたが先祖、氏族の代表として徳を積まなけれなならない。霊界にいる先祖もそれを望んでいる。」ということになる。この「徳を積む」ことが有難い商品の購入と結びつけば、すなわち霊感商法の因縁トークになる。
(イ) 堕落論とは、要するに「人類の始祖が不倫の性関係を結んだために堕落し、それが原罪として子孫に受け継がれている。そのため地上でも霊界でも救われない」というものであり、これを世俗的にいうと「先祖が不倫の性関係を結んだため色情の因縁がある。」ということである。
(ウ) アダム家庭を中心とする復帰摂理の失敗は、「その当時ならば比較的簡単に復帰できたのに、この失敗により人類の堕落が今なお救われない」ということであり、被告法人の教理では特に重要視される。この失敗の原因は、カインがアベルを殺したことにあり、これを世俗的にいうと「先祖が人を殺したために殺傷の因縁がある」ということである。
(エ) このように霊感商法において用いられる因縁トークの中心的部分は、実は被告法人の教理の一部を世俗的な言葉で説明したものに他ならない。
イ 霊感商法遂行の意義(万物復帰)
被告法人の教理は、救いのためメシヤを迎えるためには前記したようにまず万物を復帰する条件を立てろというものである。これは、一見象徴的な意義であるかのようにも見えるが、原理講論上も、アブラハムやヤコブ、モーセがエジプトから財物を奪ったことを蕩減(償いの)条件としており(アブラハムについて原理講論三一九頁、ヤコブについて同三三三頁、モーセに至っては原理講論三六六頁に「モーセはまた、エジプトから多くの財物を取って出発したのであるがこれも将来にあるはずのイエスの万物復帰を前もって表示されたのであった」とあり、万物復帰とはサタン側から財物を取ることである旨が明記されている。)、現実的な財産の奪取を意味する。
また、被告法人の教理は、ある部分では万物を復帰する条件は旧約時代(イエス降臨前)のものであるかのように述べるが、前記したように、信者個々人は歴史的過程を反復して歩まなければならないとも述べるので、信者は、旧約時代から、すなわち、万物復帰を行わねばならないのである。
このように被告法人の信者は、教理上、救いのため万物復帰=資金集めを励行しなければならないが、既に見たように被告法人内部ではそのことが原理講論の記述をはるかに超えて強調される。このような教理上の意義付けがあるからこそ、信者らは壺、多宝塔、高麗人参茶等、さらには、宝石、絵画、着物などの販売や献金強要による資金集めまでを「なすべきこと」と受け止め、その実現のために奔走する。
(四) 伝道と販売活動
(1) 目的
被告法人による販売活動(霊感商法)は、被告法人の信者により行う。霊感商法の被害者の大半は、引き続いて被告法人の「教育過程」に引き入れられ、ビデオセンターに通い、修練会等に参加して信者になる。伝道する目的は、第一に、放置すると出てくるクレームを防止することであり、第二に、新信者を獲得して新しい資金源を作ることにある。
(2) 売上げの被告法人への流れ
ア 被告法人の裏金作り
被告法人において会計担当に選ばれる条件は、祝福を受けた献身者であり、前線(訪問販売)を半年以上経験して、「アベル的」であり(素直に服従する)、離教しないと判断される者であることなどである。その上で、被告法人の東京の中央本部での面接を経て決定される(甲三四三の三五の二)。
イ 帳簿などの操作
霊感商法の売上金や献金などの現金は、各地区の代理店ないし教会ごとに管理され、一月ごとにブロック単位で集約される。現金は、ブロックの筆頭会計巡回師の手によって東京の被告法人中央本部に持参されるシステムである。この現金の流れを管理集計する帳簿(「資金操表」)は、表に出ず、裏帳簿として被告法人の内務機密とされ、被告法人内部においても、会計担当者以外には秘密である(裏帳簿を「B」と呼ぶ。)。そして、被告法人は「B」のほかに「A」と称する表の顔を持つ(同六頁)。すなわち、霊感商法等の経済活動は、被告法人のブロックの地区にある代理店で展開されるが、これは裏の組織である。税務所等には、表の組織(株式会社等)が経済活動をしたかのように装い、売上金等も表の組織の帳簿(A会計)に記載するが、その際、帳簿には計上しない裏金を作り出す。被告法人の組織(裏の組織)である被告法人の中央本部、ブロック、地区の代理店は、大阪のある地区を例にとると、それぞれ、株式会社(表の組織)である株式会社ハッピーワールド、販社である株式会社世界のしあわせ大阪、末端販売会社である有限会社福寿堂に対応する。(甲三四三の三五の二)
ウ 会計上の操作
ブロックの筆頭会計巡回師は、毎月、現金を被告法人本部に持参する。これを管理集計する帳簿は裏帳簿として会計担当者以外は店長さえ知らない(甲三四三の四三の一ないし一六)。各地区の売上げや販売員の配置は、会計巡回師の指示で契約件数や売上金、販売人員を末端の販売会社に、実際の人員や売上げと関わりなく振り分け、表帳簿に整理しなおし、給料、宣伝費、販売委託料等の名目で架空の経費を記帳して裏金を作る。末端販売会社は、概ね三年以内に解散し、同時に所在地を変えて別会社を設立し、これを繰り返す。これは税務調査が概ね三年前後で入る確率が高いので、その直前に解放させ、元の会社とは管轄区域を異にする税務署の管轄区域に別会社を設立する手法である(甲三四三の三五の二末尾の図表三)。
なお、代理店の店舗、外向けには末端販売会社のスタッフである店長、店長代理、チームマザー、会計、総務、販売員の二〇名程度は、全員が被告法人の献身者である。
エ 会計巡回師の役割
ブロックの代表会計巡回師を含め六名の会計巡回師の下に、販社格の会社の会計(一社につき五、六人)及びブロック内の各地区の会計担当社(チャーチ会計、会社会計、天地正教会計、IF会計、サークル会会計、HG担当など計七人程度)がいる。代表会計巡回師は、東京本部の会計室とつながり、日本全体の会計を統制し、金の流れを調整する。また、会計巡回師は、ブロック、会計担当者に対し教育を施し、税理士とともに、A会計とB会計のつじつまあわせを指示する。
オ 被告法人の収入
被告法人の収入は、月例献金、特別献金、浄財等の献金と会社の人件費操作により作成する裏金である。ホームに起居する献身者(従業員)に対し、帳簿上、月額二〇万ないし三〇万円の給料と賞与等あわせて一人年間三〇〇万円ないし八〇〇万円程度を計上するが、実際には、一人について一律小遣い月一万五〇〇〇円、昼食代二万七〇〇〇円、計月四万二〇〇〇円(年間五〇万円位)を支給し、残余を裏金に充てる(甲三四三の三七の八頁以下、甲三四三の四〇の一五八頁以下)。
カ 裏金の送金方法
地区の会計担当者は、毎月資金操表を会計巡回師に提出し、次に会計巡回師から指示を受け、送金する(甲三四三の四〇の二五四、五項、甲三四三の三八の五項)。
地区からの被告法人への送金方法は、二種類あり、一つは、右のように責任会計が直接会計巡回師の指示に従いブロック会議のときに手渡し、あるいは個人名義の口座に振り込む方法、他の一つはチャーチ会計を通して、帳簿上信者から献金があったように処理し、被告法人の本部へ振り込む方法である(甲三四三の三七の一六頁)。
地区の会計は、献金、借入れ、人件費等の現金を集め、教会も会社も全部あわせた地区単位の活動資金として使用し、その残額を一か月ごとにブロックの会計巡回師に、ブロックの会計巡回師は、右の金をさらにブロックの活動資金として使用し、残額等を調整した上中央本部へ送る仕組みであった(甲三四三の三八、二四頁)。
(3) 被告法人の二重構造
一人の信者が、万物復帰の教理に基づき、被告法人の信者として活動する際には、その宗教的伝道活動とともに、経済的な資金作りのための活動も不可欠である。また、被告法人組織内部においても、伝道教育を主任務とする部門と、資金集めの部門の二つがあり、これらが相互に活動しあって被告法人が成り立つ。すなわち、信者個人においても、組織においても、信仰、伝道と経済活動は表裏一体の活動にほかならない。被告法人の地域組織は、ブロック―地区―支部、店舗の系列の下で、ブロック長を統括する古田(表向きは当時被告法人の会長であった久保木修己)の下、文鮮明の指示をうけながら全組織を運営する(甲三四三の二一、甲三四三の二七)。
4 再反論
(一) 被告法人の弁明について
(1) 被告法人の主張
被告法人は、霊感商法等の資金集め活動は信者の団体がしたことであり、宗教法人の被告法人は預り知らない、甲三四三の四七に添付したとおり、幹部である堀井宏祐や小柳定夫作成名義の信徒の組織図を提出してこれは被告法人とは別個の法人格であると主張する。しかし、被告の右主張は偽りである。
(2) ブロック、地区、店舗と被告法人の組織
ア ブロックと教会
ブロックの下に地区があり、その地区の下に教会、各店舗、天地正教の道場、人参液等の健康商品向けの販売店舗がある。ブロックに対応して世界のしあわせ○○(販社)があり、各地区に対応して末端の販売会社が設立され、これらの中で会計処理や人事、伝道対策等が決められる(甲三四三の三五の二末尾の図表一、二、三)。教会は、地区の下に位置する(甲三四三の三六の三五頁、甲三四三の三九添付「鹿児島地区組織表(献身者)」)。全国各地区は、ブロック長や本部長の下に統括され、教会長はそのブロック、地区の一部門として扱われた(甲三四三の四〇の二六九項ないし三〇九項)。教会での礼拝や地区の幹部会議などにおいても、教会長はブロック長や本部長の指示の下に活動する(甲三四三の三九の二頁、甲三四三の三五の二末尾の図表一、二、三、甲三四三の三六の二六頁以下、甲三四三の四〇の三四一項以下、甲三四三の四一の三「七月度組織表」)。
なお、被告法人が主張する「教区」は、実質はブロックであり、「教区」とは裁判対策として便宜付けた呼称である(甲三四三の一六の二七頁)。
イ ホーム
ホームとは、被告法人の各地方組織が信者を霊感商法(資金集め)活動に専念させるための活動拠点であり寝泊まりする場所をいう(甲三四三の一六)。
(3) 被告法人の活動
被告法人は、ブロック長会議を通じ、全国組織として活動する。
ブロック長会議とは、全国のブロック長や心霊巡回師の代表(昭和六三年当時は桜井設雄)、会計巡回師の代表(昭和六三年当時は小柳定夫)らが出席し、古田が司会する会議であり、毎月五日前後に、丸一日以上かけて行う。会議ではまず各ブロック長が、前月の伝道と経済のノルマに対する達成金額と達成率をそれぞれ順番に報告する。伝道の実績はビデオセンターを通してセミナー等に何人参加させたかである。経済は、物品販売だけでなく、信者献金(SK)、HG(借入)を含めたものである。
各ブロック長は、内的目標と外的目標を自分の担当するブロックに持ち帰り、ブロック傘下の地区等のトップが集まる幹部会議を招集し、トップに指示して各地区等の割当てを決める。これが更に各地区の支部や店舗における伝道や経済(献金)の目標として振り分けられる。全国の信者たちはこのノルマを文鮮明の指示と受けとめ、その達成のため奔走する。このブロック長会議の協議やその実現のための諸活動は、被告法人の活動そのものである。(甲三四三の二一)
(二) 小括
以上述べたように、被告法人が、信徒の組織、信者の組織とは別であるとの主張は虚偽である。全国にはりめぐらされたブロック―地区―店舗の組織体系こそ、被告法人の教義に基づき信者によって構成された伝道と資金集めの両面を上部の指示にしたがって組織的に展開する被告の組織そのものである。古田が指揮する「中央本部」は、全国の地方組織を統括する。この地方組織は、被告法人の教義によって結束し、ホームに住む「献身者」達により、ビデオセンターによる伝道活動、霊感商法等の手口による資金集め活動を組織的に一体となって展開した。
被告が「信者の組織の活動」として自白する伝道活動(ビデオセンター、修練会、ホーム等)や経済活動こそ、被告法人の活動である。
(被告の主張 争点1について)
1 原告の主張に対する認否
(一) 原告の主張1の事実は争う。
(二)(1) 同2(一)の事実は争う。
(2) 同項(二)のうち、(1)、(2)の各事実は争う。
同項(二)のうち、(3)、アないしエの各事実は、原告らの評価部分を除き、認める。
同項(二)のうち、(4)ないし(6)の各事実は争う。
(3) 同3(一)の事実のうち、青森事件があったことは認め、その余は争う。
同項(二)の事実は争う。
(4) 同項(三)(1)アないしコの各事実は、原告らの評価部分を除き、認める。
同項(三)(2)の事実は争う。
被告法人は一切の経済活動、収益事業を行わず、原告ら主張のいわゆる霊感商法と関係はない。これは、いわゆる霊感商法問題が発生した際に、被告法人が取った対応、経緯、状況等から明らかである。さらには、証人岡村信男の陳述書(乙一五六の一〇〇頁ないし一〇二頁、乙一五七の一〇頁ないし一二頁)、堀井宏祐連絡協議会西東京ブロック長の、東京地方裁判所における証言など(乙一四四の二の一二四頁以下、乙一七一の一ないし六)及び証人小柳定夫の陳述書(乙一五五の六七頁)からも明白である。
(5) 同項(四)の事実は全て争う。
2 被告法人の組織
(一) 法人組織
被告法人は、昭和三九年、宗教法人の認証を受け、東京都渋谷区松濤一丁目一番二号に本部を置き、教義を広め、儀式を行い、信者の教化育成を目的とする礼拝施設として全国に五七教区、八六教会を有する。
被告法人の組織は、法人を代表し法人の事務を総理し執行する代表役員(会長)の下に、最高決議機関としての責任役員会、議決諮問機関としての評議員会議があり、総務局、教育局、伝道局及び出版局等が置かれ、現在、全国に五七教区、八九教会があり、それぞれに教区長または教会長、総務部長及び会計の三役がいる。被告の役職員は、現在三八六名である。被告法人の組織は、右の以上でも以下でもない。
(二) 被告法人の研修会
被告法人の研修会には、二日修練会、七日修練会、二一日修練会、四〇日修練会、牧会者修練会等がある。これらは教理に基づくものであり、二日修練会から四〇日修練会までを併せて七〇日修練会と呼ぶこともある。被告法人は、右各修練会を、いずれも被告法人の修練会と知ってその趣旨に賛同した者の参加を認めるものであり、いわゆる短期神学校ともいうべきである。被告法人の修練会には、全国各地の教会から薦められた者、信者である両親から薦められた子弟、全国大学連合原理研究会や国際勝共連合等の関係者等の様々な人々が、統一原理の教えをより深く学ぶために参加する。
二日及び七日修練会は、全国の被告法人の各教会または研修所を、二一日及び四〇日修練会などは、被告法人の千葉中央修練所を開催場所とする。そして、各教会の教会長や専属講師が、右二日及び七日修練会の講師を務め、また、被告法人の伝道教育局に所属する専属講師が二一日及び四〇日修練会等の講師を務めている(平成八年七月一一日付証人岡村信男の証人調書一〇頁ないし一三頁)。
3 被告法人と信者の組織等との峻別
(一) 被告法人と信者の組織との関係
(1) 被告法人と信者
被告法人と信者とは、信仰を通して関係をもつに過ぎない。信者は、その生計維持等のためにいかようなる仕事に従い、そのような企業に勤務したか、さらにはどのような企業を経営し事業を行っているかなどについて、何ら知る立場にはない。仮に信者が礼拝等で教会を訪れるなどした際などに知ったとしても、教会側はそれについて関与する立場にはない。このことは、他の宗教法人とその信者との関係と同じである。
(2) 信者の自発的活動
信仰を持つ者は、宗教の常として、自らの信じる教義、信仰を他の者に対して、あらゆる機会をとらえて伝えていきたいと願う。宗教法人自体の伝道活動とは別個に行われる信者らの自発的な伝道活動について、宗教法人が知るには限界がある。それは信者ら個人の信仰活動としてとらえられるべきである。
前述した連絡協議会の設立の経緯などから考えても、被告法人は、信者の活動について十分な認識がなく、その正式名称や活動の具体的内容等を知らず、本件裁判において対応のために調査する過程において徐々に認識するに至ったとしても不自然ではない。
(3) 信者組織の透明性
原告らは、連絡協議会の組織の名称である「中央本部」、「ブロック」、「地区」及び「青年団」等や組織の責任者である「コマンダー」、「本部長」及び「青年団長」等を使っていた。このことは、連絡協議会の存在及びその中において原告らが活動していたことを示している。
(二) ビデオセンター、各種セミナー、連絡協議会等
(1) 運営主体
被告法人は、ビデオセンター、ツーデイズ、フォーデイズ、新生トレーニングなどのセミナー、ホーム及び、販売活動ないし霊感商法等には関与していない。被告法人は、右のいずれも運営、主宰していない。
(2) 連絡協議会の運営
原告ら主張にかかるビデオセンター、各種セミナー、ホーム及び経済活動等は、いずれも、統一原理の信仰を持つ一部の信者やそれらの者が経営する企業、代理店、特約店、店舗及び販売員らによって作られた、被告法人とは関係のない全国しあわせサークル連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)が設置し、運営管理していた。
原告らは、いずれも、右連絡協議会が運営するビデオセンターに勧誘され、その後、セミナーに参加し、ホーム生活を送ったり、連絡協議会関係の企業、店舗等の業務、活動に従事していた女性である。
被告法人は、昭和六〇年ころから、統一原理の信仰を持つ一部の信者らやそれらの者が経営する企業、代理店、特約店、店舗及び販売員らによる、中央本部、ブロック、地区、青年団、壮年婦人部という全国組織があり、様々な活動をしていたことはある程度知っていたが、その組織の正式名称や活動の具体的内容など詳細を知らなかった。被告法人は、本件訴訟が提起された後、調査する過程で徐々にこれらの事実を認識した。
原告ら自身も、右連絡協議会の正式名称を知らなかったが、その組織の最高責任者がコマンダーと呼ばれる古田元男であったこと、同人が株式会社ハッピーワールドの代表取締役をしていたこと、その組織には全国を統括する中央本部があり、その下にブロック、ブロックの下に地区がそれぞれ置かれ、地区内に青年団、壮年壮婦部、ビデオセンター、各種セミナーの担当者がいたことなどを認識していた。原告らは、実際に活動していた当時、右各名称を呼び合い、自らがどこに所属して活動しているかを認識していた。
(3) 連絡協議会の組織及び活動内容
連絡協議会は、昭和五七年八月、結成されたものであるが(乙一五五の二四頁、三六頁)、その発足に至る経緯、その目的、組織及び活動の内容は、次のとおりである。
連絡協議会の発足は、昭和五四年、株式会社ハッピーワールドの特約店の一つが委託販売員の顧客同士の親睦を図るために「しあわせ会」という会を発足させ、ホームパーティー、映画会、健康講演会、スポーツ大会や旅行会等を行うかたわら、顧客の個人的な悩みを解決したり、人生勉強をするために統一原理を分かり易く噛み砕いた「しあわせ原理」を紹介するワンデイ、ツーデイズ、フォーデイズなどのセミナーを開いたりしていたものが基礎にある。それと同種のものがその後多数作られ、昭和五五年、東京都内及び近郊の特約店関係のしあわせ会が集まって「東京しあわせ会」が発足し、その後、全国的に普及し、同五七年四月、「全国しあわせ会」が発足した。昭和五七年八月、右「全国しあわせ会」は発展的に解消し「全国しあわせサークル連絡協議会」が発足した(乙一五五の三一頁ないし三八頁、乙一八八の二二頁ないし五一頁)。連絡協議会の組織、運営及び活動は、右の経緯状況にかんがみて、被告法人とは別異であることは明らかである。
(三) 被告法人としての整理過程
(1) 法人の生成
被告法人においては、一九七〇年代の草創期において、機関誌等に各地の信者が個人として行った販売活動が記事として掲載され、当時の被告法人の広報委員長が、教会の方針として高麗人参茶等の販売を行うかのような誤解を招く発言をしたり、被告法人に古田経済局長なる役員も局もないにもかかわらず、あるような記事が掲載されたりした。それは、草創期において、個人の活動と被告法人の活動の境目が曖昧であり、信者自身の認識も混乱していて、法人の規則に対する理解も不十分であったからである。しかし、昭和五二年一月二一日、無罪判決の言渡しがあったいわゆる神戸事件以後、被告法人は一部の信者らが作った会社との関係も誤解を受けることがないよう明確に解決し、同年四月以後一切の関係がない。また、規則で定められた収益事業としての出版業も分離独立させることとし、これらの業務を株式会社光言社に委託した。被告法人は、一切の収益事業をしないまま、現在に至った。被告法人は、東京都からの指摘もあり、昭和五八年からは組織を明確にするため職員制度を採用し、職員に対する給与体制を確立し、法人組織における使用者、被用者の関係を明確にした。
(2) 生成過程の分類
これらの経緯及び状況について、証人岡村信男の陳述書(乙一五六の一〇二頁ないし一〇四頁、一〇七頁ないし一二四頁)は、この経緯を第一期(設立から昭和五二年まで)、第二期(同五二年から同五九年まで)、第三期(同五九年から現在まで)に分けると、その概要は、以下のとおりであるとした。
ア 第一期(未分化期、設立から昭和五二年まで)
被告法人は、昭和三九年七月、宗教法人として認証されて以後、信者の増加と共に、宗教活動だけでなく、政治、経済等の活動に関心を持つ信者も当然ながら増えた。その中において、志を同じくする信者が中心となり、昭和四二年には政治啓蒙活動を行う勝共連合を、昭和四七年には経済活動を行う株式会社幸世商事を設立するなど信者の社会的活動分野が拡大した。これら各組織は、設立目的や活動内容、財政などを異にする独立した組織である。各組織は、それぞれ法律に従い、税務上、問題なく運営されていた。昭和五〇年、渋谷税務署が被告法人をはじめ、勝共連合、幸世商事、国際文化財団など、統一運動を担う各組織を、約一年間にわたり一斉に調査した。その結果、右税務署は、全ての組織について、その会計は法に従って正しくなされ、何ら違法性はなかったと判定した。しかしながら、被告法人の幹部をはじめ信者の意識は、この時期、組織的拡大、分化、発展に十分ついていけず、被告法人と信者の組織を同一視するような混乱が続いた。被告法人の公報委員長が、機関誌(「成約の鐘」昭和四九年二月号)で、協会活動の方針として、人參茶の販売を公認するようなことがあったり、また、各地の販売活動の報告などが機関誌に登場した。さらに、昭和五一年から五三年にかけて、幸世商事の社長古田が、事業部や局長の一人として、被告法人の機関誌に登場した。このような混乱は、基本的に組織活動に対する無知、不慣れから生じたが、信仰仲間が、別々の活動をしていながら、同じホームに住んでいたために生じたという側面もある。一方、この時期は、被告法人の責任役員である石井光治が、個人的に熱狂グループをまとめて経済活動を行い、それを被告法人や事業、勝共連合の資金の一部に充てていた時期でもあった。昭和四七年、石井が個人的に発行した小切手が、知人を介して外国にわたったことが契機となり、石井、幸世商事役員である藤本三雄、増田勝などが、外国為替及び外国貿易管理法違反の容疑で逮捕されるといういわゆる神戸事件が起きた。五年に及ぶ法廷闘争の中で、被告法人の組織的問題も俎上に上った。被告法人の幹部は、そのため、無用な混乱の原因となりうる組織的要素を整備すべきだと認識するに至った。
イ 第二期(組織整備の模索期、昭和五二年から昭和五九年まで)
昭和五二年一月二一日、いわゆる神戸事件の裁判は、被告法人全員が無罪判決を受けて終了した。しかし、被告法人と事業活動との関係を整理すべきであるという課題が浮かび上がった。被告法人の責任役員らは、東京都に対し、教会規則を変更して、一部の誤解を招いた高麗人参茶等販売について、宗教法人の目的、活動に沿うように、正式に教会事業として行えないかと打診した。東京都は、被告法人の販売計画書を検討し、「大規模なので収益事業としては規則変更を認めない」旨回答した。そこで、被告法人は、高麗人参茶等販売を教会収益事業の一環として行うのは不可能であるとの結論に達し、同年九月一五日、責任役員会を開き、高麗人参茶等販売を収益事業とする計画を断念すると共に、今後、一和高麗人参茶の販売はしないことに決めた。ところが、その後も、教会活動を献身的に行っていた一部信者らは、生計を支えるため、高麗人参茶等販売の代理店等の知人を介して、個人的な販売活動を続けた。かかる状況の中から、昭和五七年当時、被告法人副会長であった小山田秀生が「教会・事業・渉外を一元化する」という発言をするに至った。小山田は、右発言について、直後に正式に釈明、謝罪した。しかし、被告法人は、責任役員からこのような不注意な発言が出たことを重視し、再発を防ぐため、一切の収益事業を放棄するとの最終的な決断をした。
ウ 第三期(昭和五九年から現在まで)
被告法人は、昭和五七年一一月、責任役員会を開き、教会と事業を分離し、教会組織の整理を徹底するため、収益事業を廃止した。被告法人は、これに基づき、昭和五八年度から職員制度を採用し、職員に対する給与体制を確立した。そして、教会における専従職員と一般信者の区別を明確にした。被告法人は、昭和五八年一月二二日、唯一の収益事業であった出版業を分離独立させ、株式会社光言社としてスタートさせた。そのような時期に、昭和五八年一〇月一日、いわゆる世界日報事件が起こり、その主謀格であった副島等が、東京都に対し、自分達自身がインドシナ難民救援の街頭カンパを行いながら、それを被告法人が指示命令してやらせている旨の告発をした。その後、被告法人は、東京都から呼出しを受け、さまざまな注意のほか、嫌疑を受ける要素を無くすようにと指導を受けた。被告法人は、全国の教会に対し、その旨を通達した。それ以来、被告法人は、いかなる収益事業も行わず、組織も宗教活動に専念する宗教法人本来の姿に整理することができた。被告法人は、そのころ、東京都の指導に従い、開かれた教会にすることとし、昭和五九年四月から「統一教会ニュース」を本部広報局から発行し、公官庁、メディアに対して、被告法人の活動を伝えている。そのような歴史的経過を踏まえ、副島の後に広報の責任者となった坂詰は、霊感商法批判のマスコミ報道が激しくなったころに、被告法人の組織整備の実態を踏まえて、「被告法人は、収益事業を行っておりません。」と説明した(乙一五六の一〇七頁ないし一二四頁)。
4 小括
(一) 被告法人の規則(乙一二八)二八条には、被告法人の収益事業として出版業が挙げられている。すなわち、被告法人としては、収益事業としては出版業しかできない。規則上、右出版事業の条項は残っているものの、昭和五八年、出版部門は株式会社光言社という出版社に分離移行された。したがって、被告法人は、現在、一切収益事業を行っていない。
(二) 被告法人は、収益事業や経済活動を行っていない。したがって、いわゆる霊感商法と呼ばれる壺、多宝塔などの販売行為はもとより、献金勧誘行為、借入金名目の各種行為をしたこともない。
二 争点2(侵害行為)
(原告の主張)
1 侵害行為・総論
(一) 侵害行為の特質
被告法人が、信者にさせるために勧誘をし、教義の教化行動に及び、さらに信者になった後においては原告らの全ての活動に対する指導は、被告法人固有の利益、その集団を維持強化するためにのみ計画的に巧妙に仕組んだ純真な青年の気持ちを操作する侵害行為であって、マインド・コントロールという手段による特質を持つ。
(1) 勧誘、教化行為
被告法人は、原告らに対し、欺瞞(不実表示)に基づく勧誘をし、引き続いて原告らの認識と同意を欠いたまま教込み(洗脳)、すなわちマインド・コントロールをした。
第一に、右行為は、もっぱら違法な経済活動や伝道活動に従事する会員を獲得し、また会員自身から財貨と労働力を収奪するために行われたのであり、その目的において社会的に不相当であり、違法である。
第二に、右行為は、その方法において社会的に不相当であり、違法である。被告法人は、被勧誘者に対し、被告法人の正体、入教勧誘目的であることを隠して接近し、ビデオセンターをはじめとする一連の入教プロセスにおいて、マインド・コントロールの手法を用いて被勧誘者の自立性と主体的な判断力を奪った上で入教や献身を決意させ、被告法人の活動に従事させた。これは、被勧誘者のインフォームド・コンセントを欠き、後記三、3、(一)、(2)、ウ記載のカリフォルニア州最高裁判所判決のいうところの「極端かつ非道」な行為、「不当な利益を得る目的で被勧誘者との間に心理的に優越的な地位と信頼関係を確立し、それを行使」する「不当な影響力の行使」に当たり、社会的に不相当であり違法な行為である。
第三に、右行為は、被勧誘者から財貨、職業、自立性、主体的な判断力を奪い、家庭を破壊し、被勧誘者自身にも精神的損害を発生させ、社会に害悪をもたらした。右行為が結果においても社会的に不相当であり違法であることは明らかである。
(2) 原告らに違法行為、犯罪行為をさせた行為
被告法人は文鮮明のために資金を集める目的で、自らが組織・計画する経済活動が違法性・犯罪性を有することを十分に認識しながら、原告らをしてこのような活動に従事せしめた。
被告法人は、文鮮明の資金集めのための機関であり、その手段として組織的計画的にいわゆる霊感商法等の違法行為ないし犯罪行為に該当する活動を行っている。被告法人の活動のうち、霊感商法は、商品販売の目的や販売員の身分を秘す点で訪問販売等に関する法律第三条に違反し、虚偽の事実を告知して脅迫、欺もうを行い商品を購入させる点では刑法上の詐欺罪ないしは恐喝罪に該当し、また、特に高麗人参濃縮液の販売については薬事法にも違反し、民法上は詐欺あるいは公序良俗違反、暴利行為等にも該当する。献金あるいは借入金(HGと呼ばれる)による献金、定着産業なども、霊感商法と同様、対象者に虚偽の事実を告知して脅迫・欺もうするものであり、刑法上の詐欺罪ないしは恐喝罪、民法上の詐欺あるいは公序良俗違反、暴利行為等に該当する。またインチキ募金は、「恵まれない子に愛の手を」「難民のために」等と偽って街頭ないし戸別訪問等で募金を集める行為であるが、集めた募金の大半は専ら被告法人を通して文鮮明に送金するのであって、虚偽の目的を告げて募金をする点は、明らかに詐欺罪に該当する。
原告らは、元来純真な青年で社会的常識も十分に備えており、およそ自ら主体的に詐欺脅迫等の違法行為、犯罪行為を行うことなど有り得ない。しかしながら、原告らは、被告法人の勧誘、教込みにより統一原理以外の価値観を一切排除され、善悪の価値判断を転換させられ、排他的支配関係のもと被告法人の道具と化し、その指示・命令を受けて、統一原理を実現するための活動であると信じて右のような違法な経済活動に従事したのである。もっぱら自らの金銭収奪の目的のためだけに、純真な青年である原告らの自由な意思決定を阻害し主体性を奪い、明らかな違法行為・犯罪行為である経済活動に従事させた違法性は重大である。
(3) 原告らに対する労働の強制
被告法人は、入会した原告らの人格を無視し、精神的、身体的自由を拘束して原告らに労働を強制した。これは、労働基準法五条、一一七条にも該当する強い違法性を有する。
また、被告法人は、原告らに対し、その労働に相当する報酬ないし対価を与えず、少なくみても一五時間以上に及ぶ労働をさせ、二十数人が雑魚寝をするような部屋に寝泊まりさせ、さらには日常生活まで管理した。右の行為は、原告らを、およそ「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき」労働条件(労働基準法一条一項)からかけ離れた条件のもとで働かせたものであって、強い違法性を有する。
(4) 財産権に対する侵害
被告法人は、原告羽佐田、原告岩瀬、原告永田、原告鈴木、原告小栗に対し、いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により、原告らの自由な意思決定を侵して、献金、物品購入等の出捐をさせ、財産権を侵害した。
(二) 勧誘、教化の仕組み
被告法人は、被勧誘者に対し、以下のように外形的には何らの不法性も認められない巧妙な仕組みのマインド・コントロールの方法による侵害行為をした。
(1) 実行組織
被告法人は、支部を中心に、原告らのような青年を対象とする伝道を行った。支部の下には、ビデオセンター(VC)、教育部(ライフトレーニング、新生トレーニング、実践トレーニングを含む)、機動隊、青年部、学生部の部署があり、支部の責任者(中心者という)は、支部の大小により、団長ないし支部長と呼ばれ、補佐役としてチームマザーがいた。教会長、会計、総務部長は、教会三役と呼ばれ、各地域の統一「教会」の表の顔となった。教会三役は、経済活動には公然とは従事せず、団長、支部長の指示に従った。
ビデオセンターは、被勧誘者を修練会(ツーデイズなど)に送り出すことが主な任務であり、教育部は、修練会で教込みをした被勧誘者を新生トレーニングに参加させ、さらに実践トレーニングに送りだすことが主な任務である。
実践トレーニングに送り出された被勧誘者は、やがて献身を決意して前線部隊に所属し、さらにマイクロ隊に参加するが、この間、学生は学生部に所属し、勤労者で献身できない被勧誘者は青年部に所属した。ビデオセンター、教育部共に、経済、伝道活動をする実践メンバーを育てる他、所属する信者や被勧誘者に対する献金勧誘など独自の経済活動も行った。
支部は、毎月の会議において伝道目標と経済目標をそれぞれ立て、支部として何人伝道し、何円の経済実績(商品売上と献金)を上げるかの目標を決め、それに基づいて毎週会議を開いた。毎月の会議には、団長ないし支部長、チームマザー、教会長、ビデオセンター所長、教育部長、ライフトレーニング、新生トレーニングの主任と補佐、実践トレーニング主任、前線隊長、青年部長、学生部長が参加した。支部の伝道目標は、たとえばビデオセンターの新規メンバー五〇人、ツーデイズ一〇人、フォーデイズ一〇人、排出目標(ブロックに送りだす対象者)三人などであり、経済目標は、たとえば支部の目標を月三〇〇〇万円と立て、さらに内訳として印鑑二〇〇万円、展示会一〇〇〇万円、SK(信者献金)五〇〇万円、珍味売五〇万円、HG(借金)一二五〇万円などである。右会議に基づいて、ビデオセンターと初トレ、初トレと中トレ、中トレと上トレなど各部署間の会議が毎月開かれ、各部署の目標が決められた。
以上のような被告法人の組織、体制、伝道や経済の目標は、被勧誘者には伝わらないように細心の注意が払われた。支部やその部署であるビデオセンター、教育部は、被勧誘者を獲得して違法な経済活動や伝道活動を平然と実践する信者に育成するとともに、被勧誘者やその家族から万物復帰をさせることを中心的な活動目標としたが、被告法人は、これらを隠したまま被勧誘者に対し教込みを行った。
(2) 入教プログラム
被告法人の入教プログラムは、時代や地域の事情、被勧誘者の状態(学生、勤労青年、壮婦)によって違いがある。被告法人は、ビデオセンターが無かったころは、統一協会であると名乗り、街頭で黒板を使って統一原理の講義をしながら伝道し、そこから修練会などへと誘導した。しかし、霊感商法や伝道活動に対する社会的非難が始まり、ビデオセンターが全国的に普及し始めた昭和五七年夏以降、入教プログラムを全面的に変更し、被勧誘者に対して統一協会であることを隠して接近し、ビデオセンターへ勧誘してセミナー、トレーニングに誘導する手法へ移行した。
当時の入教プログラムは、いわゆるツーデイズ、フォーデイズ方式であり、その流れは、①ビデオセンター、②ツーデイズ、③ライフトレーニング、④フォーデイズ(または上級ツーデイズ、上級スリーデイズ)、⑤新生トレーニング、⑥実践トレーニング、⑦実践メンバー(献身して伝道機動隊や珍味マイクロ活動をする。)というものである。
ツーデイズは、被告法人の名前は出さないで統一原理の講義をするいわゆる一般ゼミ、フォーデイズは、被告法人に関する詳しい話やメシアが文鮮明であることを講義するいわゆる主ゼミであり、ともに、被勧誘者を施設に集め、泊まりがけで集中講義を行う合宿セミナーである。ライフトレーニングは、夜間に被勧誘者を施設に集めて講義を行う通いの研修であり、新生トレーニング、実践トレーニングは、泊まり込みで集団生活を行う研修である。新生トレーニング以降においては、被勧誘者に、アンケート活動や訪問販売を行わせ、家族や友人との関係を断たせ、献身へと向かわせる。
ア 第一段階(ビデオセンター)
(ア) ビデオセンターへの誘導
被告法人が被勧誘者をビデオセンターへ誘導する経路は多様である。街頭で歩行者に青年意識調査票「アンケート」への回答を求めて接近する路傍伝道や、家族、学校や職場の知人といった人間関係をもとに接近してくるFF伝道(系統伝道)のほかに、印鑑や念珠などの物品を販売する名目で自宅を訪問する訪問伝道、さらには、霊場、絵画展、宝石展、着物展に誘いながら被勧誘者に接近する伝道ルートもある。いずれの場合も、被告法人の勧誘者は、ビデオセンターに勧誘するために被告法人が作成した伝道マニュアルに従って被勧誘者に接近する。
ビデオセンターでは、被勧誘者を連れてくるためのイベントを企画する。ティーパティー、スポーツ大会、映画会、占い、ブライダルセミナー等のイベントをビデオセンターで開く。被勧誘者は、最初は趣味や関心事を尋ねる意識アンケートの回答を求められ、映画会や占いフェアーなどに誘われ、勧誘者(霊の親と呼ばれる。)に連れられてビデオセンターに来る。
被勧誘者は、自分が被告法人による一連の入教プロセスの最初の時点に立つことを知らされず、統一協会という名前も、どのような団体であるかも知らされず、ビデオセンターへ行く。被勧誘者は、ビデオセンターに通って人生の目的や使命を見出だそうという期待はあっても、自分がここで宗教団体に加入するための教育を受けるとは思わない。
(イ) コース決定
被勧誘者がアンケートに答え、そのままビデオセンターへ来場する場合もあるが、一般には勧誘の際に日時を約束させて来場させる。来場約束をした場合は、ビデオセンターでは予めスタッフ会議を開き、来場者の状態(年齢、性別、財産状態など)を把握し、スタッフ会議でその人にあったトーカーを決める。被勧誘者(ゲスト)は、勧誘者(霊の親)と一緒にビデオセンターに来る。スタッフは自己紹介をした後、ゲストの仕事や趣味、家庭環境を話題にして心情交流をはかり、その人のニーズを引き出し、その後で紹介ビデオを見せる。その後、トーカー(新規トーカーとも言う。)は、紹介ビデオを見終えたゲストとの心情交流をはかり、さらにゲストのニーズを掴み、ビデオセンターでの学習の必要性を訴え、受講をするよう説得する。被告法人ではゲストにビデオセンターへの受講申込みをさせることを「コース決定」と呼ぶが、コース決定のための説得(プッシュ)も所定のマニュアルに従って行われ、ゲストに巧妙に動機や目的意識を植えつける。ゲストは所定の受講料を払う。
(ウ) 講義の内容
ビデオ講義を受けるゲスト(被勧誘者)は、ブース内において、一人でヘッドホンをあて、所定のビデオを見る。毎回一、二本を見て感想文を書き、ビデオの前後に主任(カウンセラー)が一対一でビデオの内容について説明する。カウンセラーはこれによって受講生と信頼関係を形成し、受講生の人生史を引出したり、家族や財産状態やニーズを詳細に知る。また、ビデオの内容を高く評価し、内容が分からなくても継続して最後まで受講するように勧め、さらに「全部理解して説明できるようにならないうちは、他に言わないほうがよい。」として、内容を他に話さないように注意する。受講生に初めに見せるビデオは、戦争、飢餓、不倫、非行など人類が当面している課題を集めた宗教色の薄いものであり、これによって受講生の「情(心)」を開かせ、その後、統一原理講義用ビデオ第一巻総序にはじまる一三巻のビデオや、これに関連するビデオを見せる。受講生は、総序、創造原理、堕落論、終末論、メシア論、復帰原理、摂理的同時性、再降臨準備時代といったタイトルの統一原理の講義をビデオで受けるが、それを理解できる人は殆どいない。そこで、ビデオセンターのスタッフや霊の親からの働きかけが必要となる。受講生は、スタッフからの賛美のシャワーや霊の親からの電話や手紙、プレゼントなどによって情的に束縛されながら受講を継続する。
講義の流れと概要は、以下のとおりである。
a 神の存在
神が存在すること、神が人間や万物を創造した目的を説明する。
b 霊界の説明
霊界には天上界、中間界、地獄界があり、それぞれが三層に分かれる。地獄界の一番上の層は盗みをした人、二番目は殺人をした人、一番下は色情問題を犯した人である。色情問題が殺人より重いのは、全ての犯罪の根になっている問題が霊界で一番ひっかかるからであると説明し、ビデオを見せる。
c 堕落論
堕落論の講義では、誰もが原罪を持ち、堕落性本性を持つこと、原罪や罪の意識を自覚させ、再臨のメシアが地上に現れる日が迫っていると教える。この段階ではメシアが誰かを明らかにせず、被告法人の正体も隠す。
d ツーデイズへの誘導
ビデオセンターで一定期間講義を受けた後、受講生はツーデイズに参加するように誘われる。ツーデイズは最初からビデオセンター加入とセットになっている場合もある。受講生は、霊の親やカウンセラーから、「ツーデイズに出れば全てがわかる。」などといって、誰もが感動し真理が分かる場であると暗示して、参加させる。
イ 第二段階(ツーデイズ)
(ア) 進行
ツーデイズは、ブロック単位で行われ、その目的は、被勧誘者を次の入教プロセスであるフォーデイズに送り込むことである。ツーデイズは、二泊三日の合宿型の集中講義であり、受講生は、前夜にビデオセンターから会場(名古屋地区は守山修練所)に赴き、開講式が行われる。受講生は二〇人から一〇〇人程度の場合が多く、それが三、四人の斑に分けられ、被告法人のスタッフが班長として各斑につく。班長はビデオセンターから送られてきた受講生の個人状況や特性に関する情報を前もって把握する。被告法人のスタッフは、受講生に対し、ツーデイズの講師について、予め様々に権威付ける。実際には、これらの講師は、何の資格もない被告法人の一信者である。
ツーデイズの受講生は、早朝から深夜まで休む隙もなくスケジュールを消化する。ビデオセンターに帰ると、被告法人の信者が「ウエルカムパーティー」を開いて被勧誘者を賛美する。
ツーデイズの進行は、講師の紹介も含めて進行係が担当する。受講生は休息時間も含めて自由に行動しないように注意され、家族や友人との電話連絡も原則として禁止されている。班長はいつも会話をリードし、受講生だけの会話をさせないように注意する。さらに班長は、講義外の時間に受講生と面接したり、日誌を見せたりしてその心理状態を把握し、疑問点などを中心に講義内容が現実に当てはまることを示す身近な例を話す。
(イ) 講義の内容
ツーデイズの講義内容はビデオ講義の内容と重複するが、その中には後に被勧誘者を違法活動に従事させる鍵となる重要な教義が含まれる。創造原理、堕落論、復帰摂理、メシア論、歴史の同時性と続く。その概要は、以下のとおりである。
a 創造原理
前記争点1原告の主張3、(三)、(1)、ア記載と同じである。
b 堕落論
前記右同3、(三)、(1)、イ記載と同じである。
c 復帰摂理
前記右同3、(三)、(1)、エないしキ記載と同じである。
d メシア論
神が人間の救済のために地上に遣わした神のひとり子であるイエスの十字架の死は神の予定ではなく、それはユダヤ人の無知と不信の結果であると説明し、我々の不信が、人間救済のために神がつかわしたひとり子であるイエスを死に至らしめた。イエスの十字架による死によってイエスの肉身はサタンに奪われた。その結果、肉的救済はイエスによっては達成されず、肉的救済を完遂するためにメシアは再臨しなければならないと教える。
この講義は、受講生に人類の罪を自覚させることを目的とするだけでなく、その後、被告法人の信者になった人に対し、被告法人の教えや行動に疑問を抱かせないようにする強い作用を果たす。
e 歴史の同時性
二〇〇〇年と四〇〇〇年という年数をトリック的に扱い、一五一七年のルターの宗教改革以降をメシア再降臨準備時代と規定し、一九一七年から一九三〇年の間に、再臨のメシアはこの地上に降臨していると教える。一日目の夜以降の講義は、人間の過ちの歴史を語り、復帰の道が示されているのに理解しない人間の愚かな失敗により、創造目的が成就されないという内容である。講師は、そのなかで、今ここに救い主、再臨のメシアが地上にいる。堕落人間が今救われる可能がある。地上天国ができる歴史的な好機に生きることを知った今、皆さんはいかに生きるのか、と受講生に問いかけて終わる。
(ウ) フォーデイズへの誘導
ツーデイズの講義が終了しても、受講生にはメシアが誰であるかは明かさない。メシアが誰なのかは、次のライフトレーニングで明らかにされるとする。この間、一日目と二日目の班長面接で、班長は、個々の受講生に対して、次のフォーデイズへの参加を説得し、決意させる。閉講式が行われ、受講生は霊の親と一緒にビデオセンターへと移動する。ビデオセンターではウェルカムパーティーが開かれ、スタッフは被勧誘者を賛美して、まだフォーデイズ、その前のライフトレーニングへの参加を決めていない被勧誘者には、参加するよう説得する。
ウ 第三段階(ライフトレーニング)
(ア) ライフトレーニングの進行
ライフトレーニングは、ツーデイズの翌日から始まり、支部の教育部が担当する。その目的は、被勧誘者がフォーデイズにおいて献身を決意するよう、フォーデイズまでの間、冷静に自分を見つめる機会を奪うことにある。そのため、毎日夕方から拘束し、さらに教育を徹底し、日々の生活の中に神の働きを実践するように誘導する。
受講生は、夕食代を支払い、通常約一五日間から一ケ月、毎晩仕事や学業が終わった後、会場となる被告法人の施設に通い、講師による九〇分程度の講義を受け、その場所で用意された食事を全員でとる。受講生は五人前後の小集団に分けられ、各集団には被告法人のスタッフが班長、主任(講師)として一人ずつ配置される。講義はツーデイズよりも詳しくなるが内容は同じである。神、祈り、人生の目的、罪について、復活論、復帰摂理諸論、世界大戦、再臨論、聖書論、新生の手順、信仰生活講座と続く。その概要は、以下のとおりである。
a 神について
原理の神は親たる神であり、人間はその子である。神の愛は親の愛であるから無条件で絶対的な無償の愛であるが、我々の愛は相対的な愛で条件つきの愛である。愛せない人についても祈ることが必要であり、神と授受作用を行って、自分が変わり愛せるようになると教えて、祈祷の意味づけをする。肉身生活の目標の一つは霊人体の成長であり、自らの善行とともに神の愛を信じられるかどうかが霊人体の成長のポイントであるとし、神を中心として、神を意識した生活を送る必要性を教える。
b 祈りについて
具体的な祈りの方法が教えられる。感謝の祈りから悔い改めの祈りへ、次いで求める祈りへ、さらに決意の祈りへ進むようにと教え、それは祈闘だと教える。
c 人生の目的について
三大祝福について再度講義が行われる。
d 罪について
人は意識の表層では自分を良心家だと考えるが、無意識の世界(深層世界)では、自分が罪人だと知ると教える。多様な罪の体系(自犯罪、連帯罪、遺伝罪、原罪)を改めて教え、さらに霊界における罪として、天法に違反することが最大の罪であり、それは不信罪、淫乱罪、殺人罪(愛せないこと、憎しみを持つこと)、強盗罪(自己中心的に物を欲しがること)であると教える。
これは、信者の行動を縛る強い規範として働く。被告法人の言うことを不信とすることは天法違反となる。
e 復活論
統一原理における復活とは、堕落によってサタンの直接主管圏に復帰されていく過程的現像である。生きている人間が復活するには「み言葉を信じて実践する」ことであり、死んだ霊人の復活は、地上人のなかの似たタイプの霊人体に働きかける再臨協助現象によると教える。
f 復帰摂理諸論
人類歴史の使命である復帰とは、サタンの血統を転換して神の血統にすることであり、サタン主権の堕落世界を主権復帰して神主催の理想世界に転換することである。復帰の内容は血統の転換のみでなく、世界をサタン主権から神主権に転換することを含む。復帰の道筋は自己の努力によって善なる条件を積み、サタンを自己の内的・外的世界から追放して、堕落前の地位にまで戻り、そこでメシアを迎えて新生し、その位置からさらにメシアとともに成長し、神の直接主管圏まで成長して創造目的が完成する。元の位置に戻るために必要なことの一つは犠牲を払うことであり、この犠牲を蕩減条件という。したがって、サタン分立路程は、蕩減条件を立てて自己犠牲をして進む道であると教える。参加者もそれぞれ簡単な蕩減条件を立てるよう指導される。
g 世界大戦
第一、第二次世界大戦は、神の復帰摂理の発露であり、主権を奪われまいとするサタンの発悪であり、理想世界実現のための蕩減条件である。今は、第三次世界大戦の危機にあるが、理念闘争で勝たなければ武力闘争が起きる。理念闘争で勝つ鍵は、被告法人の思想を世界に広げることである。
h 再臨論
現在が、メシア再臨のときであり、再臨の国は韓国である。日本がした朝鮮植民地支配の惨状を説明し、受講生に連帯罪を自覚させる。
i 新生の手順
人間の生き方として過去・現在・未来に責任を持つことが求められると教える。過去に対して責任を持つとは、原罪の清算を自分の代に済ませることである。右の責任を持つとは、神のみ旨に従って生きること、メシアたる文鮮明とともに生きることであり、被告法人の中で活動することである。信者には、献身して二四時間神のために生きる人間と、献身はしないがフリータイムの実践信者、礼拝だけをする奉仕信者、勉強中の探求信者がいると説明する。
j メシアの証
ライフトレーニングの最後の日曜日に一日かけて行われる。メシアの必要性、条件及び文鮮明のみがメシアの条件を満たすと語られる。被告法人の名も初めてここで明かす。その後「はばたけ統一協会」というビデオ、アメリカでの各大会の模様である多数のアメリカ人が文鮮明を歓迎している様子を見ることにより、参加者は多くの人々によって文鮮明がメシアとして受け入れられていると思わせる。講師は、サタンが働いて、文鮮明と被告法人に対して誹謗中傷をマスコミに行わせるので惑わされないよう注意する。
講義の後、班長及び霊の親が一人一人の被勧誘者に文鮮明及び被告法人についてどう思うかを尋ね、批判的な意見を述べる者はフォーデイズに参加させないようにする。
(イ) 受講生(被勧誘者)に対するコントロール
ライフトレーニングの間は、毎夜遅くまで講義が続き、受講生は帰宅しても眠るだけの時間しかない。またトレーニングの期間中、バレーボールや公園見学などのイベントを日曜日や祝日に計画するため、受講生は新聞などを見る時間もない。被告法人以外の人々と接触する時間も減り、学習内容について外部者と情報を交換する機会は次第に少なくなる。被告法人スタッフは、受講生を賛美し、肯定的に評価することで温かい雰囲気を作り、受講生が講義を受けにくると、温かく迎える。受講生は、スタッフらと全員で一緒に食事をし、初めて他の受講生たちと話をする。和気あいあいと語り合い、娯楽、ギター演奏による歌を歌い、受講生間の親密さは深まり、集団への帰属意識が醸成される。
スタッフは、受講生に対して、学んだことを生活に結びつけるように働きかける。そして次第に全てを神とサタンの働きの二つに分割して考えるようになる。
一方、ホーレンソウ(報告・連絡・相談の略)が開始され、事務的なこと、自分の行動に関することについてホーレンソウをすることが求められる。受講生は、他人のために尽くすために生活するようになり、被告法人に不信を抱くことは罪深いという意識を強め、批判的な情報を避ける。かくして情報、感情、思想、行動についての被告法人のコントロールは強まり、受講生の生活スタイルも変わる。
エ 第四段階(フォーデイズ)
(ア) フォーデイズの進行
フォーデイズもブロック単位で行われる。その目的は、受講生に献身を決めさせ、新生トレーニングに送り込むことにある。自然の中にある施設がフォーデイズの会場になる。スタッフは、被告法人の信者であり、講師、進行係、班長のほかに修母、聖歌指導担当、食当(食事係)、総務がいる。受講生は、開講式に参加した翌日から四日間の講義に臨む。フォーデイズでも原則として緊急時以外は外部への電話は禁止され、テレビや新聞を見ること、アルコールやタバコも禁止される。フォーデイズでは、講義のほかに、聖歌、祈り、詩の朗読などが加わり、全員が公然と祈る。講義の前と後に講師が祈る。これらによって受講生の感情が高揚され、集団に同調する雰囲気が作り出され、文鮮明が絶対的権威者として受講生に植え込む。
講義の内容は、統一運動、創造原理、堕落論、復帰摂理・諸論、アダム家庭を中心とする復帰摂理、メシアの降臨とその再臨の目的、ブロック長または伝道部長の説教、世界歴史、主の路程、巡回師講話、お父様(文鮮明)からの呼びかけ、勝共理論、現代の摂理である。
講義内容は、基本的にはツーデイズやライフトレーニングのときの反復であるが、より詳しくなり、ツーデイズの講師に比べると力量のある者が講師になる。これまでと最大の違いは、受講生が、学習してきたことを教義として明確に位置づけ、被告法人の伝道という目的を初めて自覚して参加する点にある。主な講義の概要は、以下のとおりである。
a 統一運動
統一運動の目的は、神の創造理想の現実を図ること、具体的には地上天国を実現すること、愛の人格を完成することである。被告法人の活動は、宗教分野、学術文化分野、経済分野に及び、初めて被告法人の経済活動を明らかにする。
b 復帰摂理・諸論
ここでは、前記した復帰摂理諸論と同じ内容を深めてサタンすら感動して屈服させるような善の条件を積み重ねるとする。
c 勝共理論
これは、極右的な国際情勢論であり、政治を統一原理の方向に変えようとする。
d 現代の摂理
文鮮明の活動の歴史が語られる。
(イ) 班長面接
フォーデイズの期間を通じて、班長面接が連日行われる。班長は、最終的に受講生が新生トレーニングに参加するよう誘導する。三日目の面接において、班長は、受講生に対して、献身の決意をしない人は夜寝かせない覚悟で献身を迫る。巧みな情報把握と感情操作により、フォーデイズに参加するまでは献身などと考えていない受講生が献身の決意をする。しかし、受講生は、この時点では、献身とは単に精神的に神に帰依すると考えて、献身が前線隊やマイクロ隊など二四時間霊感商法に従事する生活の端緒になるとは考えない。
フォーデイズの終了のころには、文鮮明が全体的権威として受講生の意識に植えつけられ、受講生の心の中で真の権威となる。受講生は、文鮮明の指示がアベルから伝えられれば、絶対に服従する。
フォーデイズを終えた被勧誘者は、その後の入教プロセス、つまり新生トレーニング、実践トレーニング、伝道機動隊及び珍味マイクロ隊に従事することを通じて献身の意思を強め、フルタイムの献身者として歩み始める。
(3) 入教後の信者のマインド・コントロール
ア ホーム等への隔離
被告法人は、入教(献身)した原告ら信者(被勧誘者)に対して、不当な影響を与え、組織的かつ計画的に行う違法な資金集め及び布教(伝道)活動に従事させ、他方、ホームといわれる賃借アパートや場合によってはマイクロバスやキャラバン車において集団で寝泊まりをさせて、右活動を強制する生活において支配する。
イ 信者の経済活動・布教(伝道)活動
(ア) 珍味売り、アンケート活動
新入信者は、支部の青年部に配属され、四、五ケ月ほど、珍味売り、アンケート活動を担当する。
珍味売りは、通常五〇〇円程度で販売されている海産珍味を、戸別訪問して二〇〇〇円程度で販売する。信者は、毎日二〇個程度の販売目標を立てて、その目標数の珍味を持って朝早くから予定地域で戸別訪問を繰り返して売る。売れなければ、夜の繁華街で一〇時過ぎまで販売する。
アンケート活動は、「青年意識アンケート」と称するアンケート用紙を街頭で配り、若者に記入させて、ビデオセンターへ連れて行く(入教勧誘のいわば初期段階)。一日にビデオセンターへつなぐ人数の目標設定があり、夜遅くまでアンケート活動をする。
信者は、右期間中、被告法人の主催する絵画や宝石類等の商品の展示会と称する展示即売会が開かれ、自らの親族・知人・アンケートで知りあった者等に連絡して展示会に来るよう勧誘・動員し、商品販売の協力をする。
(イ) ビデオセンター等の補助事務
信者は、その後、三カ月程度ビデオセンターに配属され、接待係や各種修練会(セミナー・トレーニング)の補助業務等を担当する。
ビデオセンターの接待係は、アンケート活動等によりビデオセンターに来たゲスト(被勧誘者)を接待して、その会員にさせて、ツーデイズセミナーへ参加するよう働きかける。この活動も、何人を会員にするか、何人ツーデイズセミナーへ参加させるか、厳しい目標があり、これを達成するため、ゲストを引とめるために、被告法人内で作成されたマニュアルに基づき、面接・手紙・電話・各種レクリエーション活動等を駆使して、ゲストと和を図る。
各種セミナーやトレーニングの補助業務は、ゲストの参加するセミナー等において、班長役の信者の補助係として、ゲストを世話し、早朝から深夜までセミナーの雑務を担当する。
(ウ) 各種活動への献身
かかる業務を経た信者は、一人前の戦力として、被告の主催する各種経済活動・伝動活動に投入される。主要な活動は、マイクロ隊・キャラバン隊(六、七人のチームでマイクロバスやキャラバン車に乗って、連日、一定の地域を、珍味売りやインチキ募金をして歩く活動)、店舗販売員(宝石、絵画・印鑑等被告法人の運営する店舗の販売員としての活動。戸別訪問で得た印鑑購入者については、さらに高額な商品や献金を勧めるべく、いわゆるケアーをしてビデオセンターや各種展示会等へ繋ぐ。いわゆる霊感商法の実行担当者である。)、ビデオセンター運営員(ビデオセンターの実質的運営担当者として、ビデオセンターの運営がスムーズに運ぶよう各種指導や雑務経理等を担当する。)、その他(地区役員ないし補助・会計担当など、セミナーの講師や霊能者、被告法人の応援する立候補者の選挙応援など)である。
これらの活動は、すべて被告法人内の上司(アベル)の命令により決められ、信者自身の自主的な判断にによって決まることはない。多くの信者らは、ホームで共同生活をし、人事(配置転換)のある毎に、他の部所、他府県に移動し、同様の生活を送る。
ホームにおいては、毎日心情日誌を書かされて、これを上司(アベル)に見てもらい、指導・監督を受ける。
(エ) 合同結婚式
数年、右の諸活動を続けた信者は、上司(アベル)から、祝福と称する合同結婚式への参加するよう指示を受ける。信者は、一つの夢の実現の機会であるとして、喜んで参加する。その際、百数十万円の祝福献金を準備しなければならず、多くの信者は親に出してもらって参加する。
原告ら信者の多くは、一定期間以上信者として生活すると、祝福と称する合同結婚式に半強制的に参加させられた。これは、文鮮明が選んだ相手方(相対者)とその祝福のもとに結婚することにより、原罪等が治癒されて幸福な家庭を構築できるとする教えのもとに、統一協会が主催する儀式である。
原告ら多くの信者は、被告法人によりその信念体系を転換され、祝福を受けることが最大の喜びと信じて、百数十万円もの祝福献金を被告法人に支払って参加し、ケースによっては言葉も通じない韓国の信者をその相対者と決められ、入籍する。
合同結婚式により入籍したケースにおいて、婚姻が無効であるとは当然である(甲三四五、三四九、三五〇、三五一)。
(オ) 情報の管理
原告ら信者は、入会・献身後、被告法人に生活そのものを支配されて統一運動の名のもとに、過酷な経済活動や伝動活動を強いられ、さらには、入会前後を通じて自らの財産も献金もしくは商品購入のため全てをささげる。
(カ) 全財産の献金
原告ら信者は全私有財産を被告法人に献金し、それまでの勤めを辞め、物品購入名下に多額の金員を支払った。
(キ) 感情の管理
原告ら信者は、私的な恋愛を禁ぜられ、好意、愛情も教祖、被告法人のメンバーに対してのみ抱いてよいとされた。被告法人は、そこでの活動に対する動機づけの低下や離教については、呪いなどのメッセージによって恐怖を与えた。さらには、被告法人のメンバーであることに対して誇りと優越の感情を与えるとともに、外部の人に対する敵意や軽蔑の感情を与えた。被告法人は、信者の感情状態を行動や情報提供によって管理した。
(ク) 生理的条件の制限
原告ら信者は、前記した諸活動のため慢性的な睡眠不足状態にあった。原告ら信者は、常に時間的切迫感と、被告法人が与えた高い活動目標の達成値の設定により、強烈な生理的ストレス状況の下に置かれた。
2 原告らに対する侵害行為・各論
原告ら六名が、被告法人の信者になるべく勧誘を受けた期間中、被告法人から受けた勧誘および教義の教化活動、さらに被告法人の信者であった期間中、被告法人から受けた原告らの活動に対する指導的行為は、いずれも信者獲得・集団維持・強化のために計画的にされた侵害行為(マインド・コントロールの手段)であった。
(一) 原告羽佐田美千代に対する侵害行為
(1) 勧誘等
原告羽佐田は、永谷さとみ(以下「永谷」という。)から、昭和五八年末、名古屋市中区金山で偶然ビデオセンターに誘われた。原告羽佐田は、単なるサークルとの説明を聞いて、金山にある被告法人の運営するビデオセンターを訪れ、ビデオを見た後、入会をしつこく勧められた。原告羽佐田は、仕方ないと考え、永谷の手前から、入会を承諾し、入会金を支払った。
原告羽佐田は、再度、ビデオセンターを訪れ、昭和五九年二月ころ、ツーデイズ・セミナー(二泊三日)に何も知らずに参加したが、その際、両親には嘘をついて、参加した。そして、同原告は、被告法人の講義を、それと知らずに受け、フォーデイズ・セミナーへの参加を勧められた。
原告羽佐田は、ツーデイズ・セミナーで用いた歌集に「世界基督教統一神霊協会」というゴム印が押捺されていたので、被告法人との関係を尋ねたが、関係のない旨嘘を言われた。
原告羽佐田は、昭和五九年二月、ライフトレーニング(一四日間)に参加した。ライフトレーニングでは、被告法人の教義である「創造原理」、「堕落論」、「復帰原理」の講義を繰り返して受ける一方、他の参加者との議論を禁止された。その結果、同原告は、右教義に抵抗が少なくなった。
原告羽佐田は、その後一ケ月間、以前から予定していた渡米をし、渡米中、聖書を読んだ(新しいビリーフの受容過程)。帰国後、原告羽佐田は、ワンディに参加し、メシアの再臨の講義を受けたが、統一協会の基礎知識がなく、聖書のことと思って信じていた。
原告羽佐田は、昭和五九年四月末ころ、フォーデイズセミナーに参加した(四泊五日、天白修練所)。原告羽佐田は、被告法人の指導に従い、親に嘘をついて参加した。セミナーの内容は、教義の講義を中心として、情に訴え、雰囲気作りの工夫をして、教込みを奏効させた。
かくして、原告羽佐田は、一般社会から隔離し、十分な思考ができないよう忙しいスケジュールの中で教込みを受け、一体感を醸成するイベント、悲しそうな雰囲気の中で教込みを受け、最後に各参加者は、意味も分からないままに、文鮮明ないしは被告法人に生涯をささげる旨の宣誓を一人ずつした(宣誓式)。
(2) ホームの生活
原告羽佐田は、右フォーデイズセミナーにおいて、求められて、献金した。その献金は、セミナー受付の段階で、参加者の財布の中身を内緒で確かめて、その額を前提に所持金を献金させようとした。
原告羽佐田は、昭和五九年八月、新生トレーニングに参加し、後に、家を出て「ホーム」と呼ばれる被告法人が用意した住居で共同生活を行った。それを卒論の合宿という嘘を指示されて、両親に対して説明した。そのころ、原告羽佐田は、被告法人の教義は真理だと信じた。
(3) 実践トレーニング
原告羽佐田は、昭和五九年九月から、実践トレーニングを受け、同年一〇月、学生部に入った。以後、ホーム生活が中心となり、本山のホームに一週間、覚王山のホームに二ケ月、池下のホームに半年ほど生活した。
原告羽佐田は、生活費をアルバイトで稼ぎ、それを学生部長にすべて渡し、小遣いとして一ケ月一万円を貰った。
原告羽佐田は、アンケート活動、珍味売りに従事したが、ノルマが達成できないと、上司から神の名のもとに叱責された。同原告は、恵まれない子へということで正月に豊川稲荷で募金活動をしたが、その募金は被告法人が取得し、いわば詐欺まがいの募金をした。原告羽佐田は、つぼ・多宝塔と同様の方法により印鑑・宝石の販売もした。ここでもマニュアルに従い、霊能者でもないトーカーがあたかも霊能力があるかのように振舞い、商品を購入させた。
(4) 献身と霊感商法への従事
原告羽佐田は、昭和六〇年二月、献身した。ここにいう「献身」とは、被告法人に一生を捧げ、その活動、具体的には霊感商法を始めとする金銭獲得活動及びそれを新らたにする信者の獲得活動をすることを意味する。
原告羽佐田は、右献身について、両親に反対されたが、この場合にも、被告法人は両親に対する説得方法を指導し、断食により、両親の反対を押し切った。
原告羽佐田は、その後、池下にあるホームで被告法人の管理の下で生活し、左記の活動をした。
記
① いいとも青年隊、ニューホープ隊、大野十字軍と呼ばれる部署に配属され、アンケート活動等をした。
② 昭和六〇年六月ころ、成約断食(一週間の断食)をし、岡崎チャーチに転属して、「カウンセラー」(アンケート活動等でビデオセンターに連れて来られた人、あるいは入会した人と面談し、ツーデイズセミナー、フォーデイズセミナーに送り込む役割をする人。また献金、物品販売の勧誘も行う。従前原告羽佐田を勧誘した知花の役に該当する)を担当した。
③ 献金、物品販売(いわゆる霊感商法)に従事した。
昭和六〇年八月、上司から脅されて真珠のネックレスを二五万円で購入させられた。
④ 昭和六〇年一〇月ころ、中部ブロック珍味隊に配属された。この珍味隊は、中部ブロックの被告法人の教会から献身者が約七名ほど集められ、一ケ月ワゴン車にに寝泊まりして、珍味(さきいか、コンブ等)を売り歩くという苛酷な活動を行うものである。
⑤ 昭和六〇年一〇月末ころ、名古屋市星ケ丘にあるCBS(中部ビジネススクール)に転属した。
⑥ 同年一二月、富山の印鑑店舗「高徳商会」に転属した(いわゆる霊感商法)。
⑦ 昭和六一年二月、千葉中央修練所において被告法人が開催した二一日修練会に参加した。この修練会は、被告法人の教義の再教育及び実績に追われる日々から暫く開放してリフレッシュさせる目的をもつ施設である。
⑧ 昭和六一年三月、国際機動隊に配属された。ここは、海外活動要員をストックしておくところで募金、珍味売り等の活動をする。原告羽佐田は、ここで一年二ケ月、七名のチームで「難民救済募金」の活動をした。同原告は、岡山、広島、島根、鳥取、山口、愛媛、香川、高知、奈良各県をワゴン車に寝泊まりして廻り、一軒一軒戸別訪問して難民に救済をのスローガンのもと、募金を集めた。もっとも、右チームは、一ケ月八〇〇万円程も募金を集めたが、実際に難民に送られていたのは、数ケ月に一度一〇〇万円程度であり、大部分は被告法人に送金された。
この苛酷さは、被告法人内部でも有名で「現代の奴隷船」と呼ばれていた。
なお、原告羽佐田は、右募金活動中、犬にかまれて七針を縫う怪我をし、また交通事故に遭って額を三針縫った。
昭和六二年一一月、国際機動隊の一宮仏壇隊に転属し、昭和六三年二月、横浜の仏壇販売に従事した(横浜S隊)。これらも、仏壇、位牌の訪問販売をするわゆる霊感商法を展開した。
(5) 祝福(合同結婚式)
ア 祝福の通知
原告羽佐田は、昭和六三年一〇月二五日、祝福を受けることが決まったとの連絡を受けた。祝福とは文鮮明が信者の中から相手を選んで合同結婚式をあげさせるものである。被告法人内部ではこの祝福を受けて人は原罪から救われるとされ、信者の目標である。
イ 合同結婚式
原告羽佐田は、昭和六三年一〇月二六日、東京に集合し、同月二八日、渡韓(ソウル)した。原告羽佐田の結婚式相手は韓国人男性であり、同月二七日、名前を知り、同月二九日午前中に相手の写真を見た。同日昼、初対面して経歴書を見せ合った。お互いに言葉は通じず、カタコトの英語と漢字筆談をした。
昭和六三年一〇月三〇日、「一八〇〇奴」と言われる合同結婚式が開かれ、同年一一月二七日、帰国した。祝福その他の費用として一五〇万円の支払を被告法人から要求されたが、資力もないので、両親から調達しようとして帰宅した。
(6) 脱会
原告羽佐田は、帰宅した後、両親により救出され、日本キリスト教団の清水牧師の説得により被告法人を脱会した。
(二) 原告大村幸子に対する侵害行為
(1) 正体を隠した接近
原告大村(旧姓、○○)は、昭和五九年一一月、自宅に統一協会員と思われる三品智枝子(以下「三品」という。)の訪問を受けた。三品は、被告法人の教団名を伏せたまま、原告大村の悩みを聞くと、「印鑑を変えれば運勢がよくなります。」など勧め、原告大村に印鑑を買わせた。三品は原告大村に対して、印鑑を毎日押すという「捺印の行」を勧めた。原告大村は捺印の行をした。その後、三品は、原告大村の信頼感を奇貨として、霊能師役の人物に会わせた。その霊能師役の人物は、原告大村に対し、「あなたの家は絶家の家系です。あなたが頑張らなければならない。」などと言い、原告大村に信じ込ませ、お金を捧げることを約束させ、五〇万円で壺を買わせた。
(2) ビデオセンターに誘導
霊能師役の人物は、原告大村に対して、ビデオセンターに行くよう勧めた。原告大村は、昭和五九年一一月下旬、愛知県豊橋駅前のビデオセンターに通い出した。そこで、「創造原理」「堕落論」「復帰原理」といった被告法人の教えに関するビデオを、それと知らずに見た。
原告大村は、昭和五九年一二月、杉坂から、勧められて、泊込みで天白の修練会ツーデイズに参加した。原告大村は、班単位に行動させられ、翌日、講師の講義を聞き、その後、アダムとエバが堕落したという劇をした。
原告大村は、昭和五九年一二月三週ころ、ビデオセンターの人から「フォーデイズに参加してもらうためには、本当はもっとビデオを見てもらう。」と言われ、ポイントとなるところをビデオセンターの人から一対一で講義を受けたが、その際、「今までの講義はすべて被告法人の教義である。」と明かされた。原告大村は、宗教であると初めて知り、抵抗を覚えたが、「内容を他人に知らせてはいけない。」と言われていたこともあり、そのままフォーデイズに参加した。
原告大村は、昭和五九年ころ、岡崎のビデオセンターから、名古屋市守山の修練所(三日間)に行った。また、昭和六〇年一月中旬ころ、被告法人の岡崎教会において、二一日間にわたり新生トレーニングを受けたが、献身はできなかった。原告大村は、昭和六〇年二月から四月ころ、岡崎や豊橋のビデオセンターに通い、同年五月、二回目のフォーデイズを受けた後、岡崎のホームに寝泊まりし、岡崎のホームから昼は家を手伝い、夜には被告法人の岡崎市のホームに泊まった(約一カ月)。
原告大村は、昭和六〇年六月から同年一一月にかけて、実家から被告法人の岡崎教会に通い、週に一回、街頭アンケートをし、アンケートに応じた人をビデオセンターに誘う活動をした。そして、原告大村は、自分がビデオセンターに誘った人が献身したので、自らも献身を決意し、昭和六〇年一一月ころ、再度新生トレーニングを受け、その終了後の昭和六〇年一一、一二月ころ、実家を出て、岡崎のホームで生活し始めた。
(3) 献身
原告大村は、昭和六一年三月、献身(入教)した。
同原告は、被告法人による一連の「教込み」を通じて、その自由な意思決定を阻害され、ないし判断能力を減退された状態で、献身(入教)した。これは、まさにマインド・コントロールされた結果である。原告大村には、真の意味での「自由意思」は存在せず、いわば被告法人の意図する方向にゆがめられ、そこからは逃れることはできないと考えていた。
(4) 献身後の活動など
原告大村は、被告法人の指揮のもとに左記の各仕事をさせられた。
記
① 昭和六一年夏から約三カ月間、岡崎のビデオセンターの接待係、新生トレーニングの班長補佐
② 昭和六一年一一月、浜松市内のビデオセンターの接待係
③ マイクロ隊・キャラバン隊での珍味売り(昭和六二年五月から六月、石川県、富山県内)の各地を連日回らされた。
④ 国際機動隊入隊(昭和六二年一〇月、関東地方)
⑤ 募金活動のキャラバン隊の東京隊入隊(昭和六三年四月ころ、神奈川県、埼玉県等の各地を巡回。被告法人内部では「お茶隊」「カンパ隊」などと呼ばれた。)
⑥ 募金活動のキャラバン隊の九州隊入隊(昭和六三年五月ころから平成元年九月まで。鹿児島県、熊本県、長崎県、佐賀県等の各地巡回)
⑦ 募金活動のキャラバン隊の中四国隊入隊(平成元年一〇月から平成二年一月まで、会計(隊マザー)、キャラバン隊の前線との電話連絡、後輩の指導等の仕事を担当。
⑧ しんぜん隊(「老人ホーム、障害者施設、精神薄弱児施設へその収益を寄付する。」と称して、ハンカチ、靴下等を売るキャラバン隊。平成二年二月から六月まで)の横浜市内にある隊本部で隊マザーとして、収益の集計、キャラバン隊の前線との電話連絡、ハンカチ・靴下の仕入れ、後輩の指導等の仕事を担当した。
⑨ 昭和六二年九月愛知県一宮市の店舗において店舗販売として霊感商法に従事した。
平成二年七月、八月、横浜市内の仏壇販売店舗「三省商会」に配属となる。
(5) 脱会
原告大村は、平成二年一〇月三日、被告法人を脱会した。
(三) 原告岩瀬知里に対する侵害行為
(1) 正体を隠した勧誘
原告岩瀬(旧姓、早川)は、短大を卒業後アルバイトをしていたが、平成元年六月、被告法人の会員である渡辺裕美から勧誘を受けた。右渡辺は、正体を隠して、街頭でアンケートで声をかけられ、原告岩瀬は、また嘘をいわれて、被告法人主催のビデオセンターに行った。被告法人の会員は、同センターが真実は被告法人が主催し、勧誘するものであることを故意に隠し、単なる自己啓発セミナーであると誤信させ、入会を承諾させた。
(2) マインド・コントロールの完了
原告岩瀬は、ビデオセンター入会後、その延長としてライフビジョンセミナー、ライフトレーニング、さらには、ソウルで開催されたリーダースセミナーに参加したが、繰り返し被告法人の教義である原理講論を教え込まれた。原告岩瀬は、リーダースセミナーへの参加を決めるまで、講義内容が被告法人の教義であることを隠されていた。
原告岩瀬は、この段階まで被告法人がいかなる団体かを知らなかったが、宗教団体であると行っても、離脱しないことを計算していた。
原告岩瀬は、その後、リーダースセミナーに参加して、そこでは、一種の集団催眠状態に陥し入れ、メシアである文鮮明への忠誠心を植え付け、被告法人の会員になると決意をさせた。その結果、原告岩瀬は、その後新生トレーニングに進み、そこでは、原理講論の講義の外に「反対牧師」の講義も受けた。
原告岩瀬は、実践トレーニングに進み、次いで、家を出てホーム生活に入った。原告岩瀬は、社会から隔離され被告法人からの情報で操作されて生活した。以上により、被告法人の原告岩瀬に対するマインド・コントロール(教込み)は完了した。
(3) 物品購入、献金名下の出捐
原告岩瀬は、平成元年六月ころ、ビデオセンターに通っていたとき、被告法人の経済活動に協力するため、被告法人の経営する「男女美化粧品」のセットを購入した。原告岩瀬は、平成元年八月、新生トレーニングの途中において、自分の家系図を見せたところ、「お金で救いを得るよう。」に言われて、被告法人に対して、一三万二七三二円を献金したほか、左記の献金等をした。
記
① 平成元年七月ないし九月ころ、被告法人の販売する「メッコール」を七万六五〇〇円で買う。
② 平成二年二月二八日、被告法人の会員に対する貸付金名下に二一万円を出捐した。
③ 同年六月ころ、ホームの生活中、それまで支給されていた小遣いの残り四万円を被告法人に預けることになった。
④ 以上のほか、セミナー代、入会金名下に多額の出捐をした。
(4) 献身後の生活等
原告岩瀬は、平成元年一一月初め、献身した。その後、原告岩瀬は、左記の各仕事などに従事した。
記
① 平成元年一一月、岡崎市内において前線隊に配属。この間、アフリカ難民救済という虚偽の名目でハンカチの訪問販売をした。
② 岡崎市の前線隊に属して、日中は「路傍伝道」と称する街頭アンケートやメッコールの販売あるいは絵画や宝石展示会に赴き、夜は、電話による伝道をした。
③ 平成元年一二月、成約断食をした。
④ 平成二年元日、安城市内の神社において初詣に来る人に対して、募金活動をした。
⑤ 平成二年一月一五日、千葉中央修練所に所属。
その後、岡崎市の前線部隊に復帰した。
⑥ 平成二年四月、珍味売りをするマイクロ隊に配属替えになる。同年四月以降、富山、金沢、岐阜を回った。
⑦ 平成二年七月、岡崎市の青年団への配属替えとなる。
(5) 脱会
原告岩瀬は、平成二年七月二四日、被告法人を脱会した。
(四) 原告永田暁美に対する侵害行為
(1) 正体を隠した勧誘
原告永田(旧姓、服部)は、昭和六二年四月、被告法人の会員太田佳代子から、被告法人であるとの正体を故意に隠して、街頭でアンケートの形で声をかけられた。太田は、「就職に役にたつ勉強ができるから。」と嘘をついて、同原告の手を引きながら、東岡崎駅前の被告法人主催のビデオセンターに連れ込んだ。原告永田は、教養スクールであると誤信して、ビデオセンターに入会した。
(2) マインド・コントロール
ア セミナーへの参加
原告永田は、ビデオセンター入会後、ツーデイズセミナー、フォーデイズセミナーに参加した。同原告は、そこで、繰返し被告法人の教義である原理講論を教えこまれた。原告永田の両親には合宿セミナーに参加することを隠させて、原告永田がセミナーの正体に気付かないようにした。
被告法人は、ツーデイズセミナーでも、なおその正体を隠し、フォーデイズセミナーにおいて、その正体を明かした。
イ 離脱と再誘引
原告永田は、一度セミナーから離れたが、その後、新生トレーニング、実践トレーニングに参加した。実践セミナーの前に、同原告の母親が宗教団体であることに気付き、被告法人から引き離し、昭和六三年三月、短大を卒業し、四月、町役場に就職した。
ところが、被告法人は、執拗に原告永田にマインド・コントロールをして、平成元年二月以降、ビデオセンター、ツーデイズ、スリーデイズ、新生トレーニング、さらに実践トレーニングに進ませた。
ウ ホーム生活
原告永田は、ホームに入り、仕事と伝道活動を始めた。その中で、「反牧対策」の講義も受けた。実践トレーニングにおいても、前と同じような毎日を送った。なお、原告永田は、平成元年中、二度の追突事故を起こした。
(3) 物品の購入、セミナー費等
原告永田は、昭和六二年夏ころ以降、左記のような売買、献金等をした。
記
① 昭和六三年夏、被告法人の絵画展で七二万三八一二円の絵を購入した。
② 平成元年四月二〇日、被告法人主催の宝石展でエメラルドの指輪(一七万一〇〇〇円)とパールイヤリング(一万九〇〇〇円)を買った。
③ 平成元年六月、上司の指示により、パーフェクション・セミナー(五万八〇〇〇円、三泊四日、韓国旅行。韓国の教会の講義を受け、戸別訪問、「世界日報」の販売活動をする。)に参加した。
④ 平成元年六月、被告法人の化粧品展覧会において、水道水をイオン水に変える装置を七万円で買った。同月、被告法人の宝石、着物展覧会において、八七万円で訪問着を買った。
(4) 偽装脱会
原告永田は、平成元年八月二四日、両親などから被告法人から脱会するよう説得された。しかし、同原告は、同年八月三〇日、偽装の脱会届けを書き、同年九月五日、岡崎のホームに逃げ帰った。
(5) 献身後の生活
原告永田は、岡崎市内に潜んだ後、被告法人青年団の黒崎団長から指示しれ、名前も「友永純子」と変えて、富山に行った。
原告永田は、平成元年九月一九日、被告法人青年団のホームに着いた。原告永田は、直後、富山青年団長からと指示されて、自分で献身手続をとることなく、献身した。
原告永田は、ホームの食事当番をしたのち、左記のとおり仕事等をした。
記
① 平成元年一一月、富山青年団の街頭アンケート等の伝道活動をする前線隊に配属された。
② 平成元年一二月、千葉中央修練所(二一日間)に入所した。
③ 同二年頭、富山県において、初詣の人たちを相手にインチキ募金をした。
④ 平成二年一月、富山青年団団長から勝共議員、自民党議員の選挙運動にボランティアということで従事した。
⑤ 同年八月以降、富山のビデオセンターの新規トーカーをした。
⑥ 平成二年九月、成約断食をした。
⑦ 平成三年一月、マイクロ隊に配属替えとなる。
⑧ 同三年三月、静岡の青年団に配属替えになる。
(6) 脱会
原告永田は、平成三年四月一三日、被告法人を脱会した。
(五) 原告鈴木仁美に対する侵害行為
(1) 正体を隠した勧誘
原告鈴木(旧姓、牧野)は、昭和五九年九月ころ、大学の寮の友人である新城妙子(以下「新城」という。)から誘われて、京都ビデオサンアカデミーに行った。
原告鈴木は、紹介のビデオを見て、教養サークルのようなつもりで入会した。入会した後、その会員に「ここは、宗教ですか。」等と質問したが、「単なるサークルですよ。」と言われた。
(2) マインド・コントロール
ア ビデオセンター等の参加
原告鈴木は、ビデオセンターに通い、次第に神について考えるようになった。冬休みを利用して、親に嘘を言って、宝塚の修練所でのツーデイズセミナーに参加した。被告法人は、メシアの氏名を伏せて、一定の教込みをして同原告を引きずり込んだ。
原告鈴木は、ツーデイズ参加後、一旦被告から離れたが、再入会する前に「神様に大きな負債を抱えているような気持ち」を抱いているが、これは、原告鈴木が意識しないうちに一定の教込み(マインド・コントロール)が終了していたからである。
原告鈴木は、ツーデイズ参加後、勉強になったので、ツーデイズの過程までで充分に得るものがあったと思い、これでやめようと決めた。
その後、原告鈴木は、新城から誘われて、ライフトレーニングのスタッフの女川からも執拗に誘われて、もう少し学んでみようと思い返した。
そして、ライフトレーニングがはじまり二日目に、原告鈴木と同じトレーニング生から、ここは世界基督教統一神霊協会という宗教団体であると聞かされ、騙されたと思い、その日を境に一旦トレーニングをやめた。
イ 再入会
原告鈴木は、昭和六〇年四月ころより下宿生活を始め、暫く、ビデオセンターのことを忘れていた。しかし、一緒にツーデイズに参加した松本道代との交遊は続いていて、新城とは時々大学で顔を合わせていた。
その後、同年六月頃から、原告鈴木は、恋愛問題で悩んでいた同年九月末、四条烏丸でアンケート調査活動をしていた見覚えのある者に声を掛けられ、解決の糸口を探して結婚について話をした。また、合同結婚についても、話し合って、もう一度勉強しよう、と思い、再びビデオセンターに行った。その後、大阪の鶴橋修練所のフォーデイズに参加した。
同原告は、そこでメシアは文鮮明であることを知り、文鮮明に対して悪いイメージを持っていたが、神様とメシアは別だと思い、考えないようにした。原告鈴木は、救われたいという気持ちから、そこでの講師の話を素直に聞いた。
被告法人は、原告鈴木をして、フォーデイズにおいて実質的拘禁状態の中で罪を意識させ、教込みを続け、同原告の自由な意思を奪った。
ウ トレーニングセンターへ入居等
原告鈴木は、高揚した気持ちから、下宿を出て、親には嘘をついて、トレーニングセンターへ暫く入居した。この結果、原告鈴木は、隔離された環境下で被告法人からの情報に操作され、実践トレーニングに参加して、これにより、被告法人による教込み(マインド・コントロール)はほぼ完了した。
(3) ホーム生活など
ア ホーム生活
原告鈴木は、昭和六一年一月、被告法人学生部に入り、京都市左京区一乗寺のホームで生活を始めた。その後、同市中京区壬生のホーム、同市下京区綾堀川のホーム等を転々とし、左記のような活動をした。その結果、原告鈴木は、昭和六一年四月、大学三年に進級できずに留年した。
記
① 原告鈴木は、下京区四条で街頭アンケートに参加し、徹夜で伝道をし、被告法人の主催する印鑑展、CB展(宝石類、毛皮類等をクリスチャンベルナール等の商品名で販売している)、きもの展、絵画展、健康展の動員(友人等を誘う)やその接待係、ツーデイズやフォーデイズ等の修練会の班長役、新生復活セミナーのヨハネ役、年末年始の募金活動担当者などをした。
② 原告鈴木は、春、夏、冬の長期休みには、ホーム代等の借金返済、資金集めのため、淡路島、四国、名古屋、奈良、京都を七、八名の学生部の会員とキャラバン隊として、ボランティア活動と称して、ハンカチ等を戸別販売して売り歩いた。
イ 献身
原告鈴木は、昭和六二年二月、親には嘘をついてホームに移り、家族が学生部のホームに来たときには、文氏の写真、実績表など撤去し、普通の下宿のように装った。原告鈴木は、このとき、両親にはじめて被告法人のことを話し、被告法人側のビデオを見せたところ、家族は反対しなかった。
同原告は、昭和六二年六月、成約断食(一週間の断食修練)をし、同年一〇月、被告法人の本部会員テストを受け、本部会員として登録された。
原告鈴木は、平成元年一月、京都市下京区四条のビデオセンターにアフタートーカーとして配属された。
原告鈴木は、平成元年二月末、被告法人に献身し、同月二〇日、大阪府豊中市服部地区の被告法人の豊中教会において、大学を卒業して献身したメンバーによる七〇日間修練に参加した。その後は、左記のような仕事に従事した。
記
① 平成元年年三月末より五月末までの間、珍味売り、街頭アンケートの伝道活動、勝共連合の活動等に従事した。
② 同年八月、千葉県内の千葉修練所(二一日間修練)に参加した。
③ 同年九月、大阪市北区天満橋地内に、ライフトレーニング班長として配属された。
④ 平成二年四月、大阪市神山町に学生部補佐として配属された。学生部のメンバーの生活指導や個別相談、新規トーカーに従事した。
⑤ 平成二年一一月、同町においてビデオセンターのアドバイザーとして配属させられた。CBトーカー、修練会の班長役に従事した。
⑥ 平成三年三月、大阪市北区梅田のビデオセンターのアドバイザーとして配属させられた。
(4) 脱会
原告鈴木は、平成三年五月二四日、許されて、帰省するために豊橋に行き、その後、民宿に行った。
民宿において、両親は、原告鈴木に対して、説得したが、聞かなかった。両親が牧師を呼んだが、その話を聞き入れなかった。
原告鈴木は、民宿において一〇日目ころ、父の気持ちに真剣に考える気持になったが、二〇日目ころでも、本心からは受け入れられなかった。しかし、原告鈴木は、平成三年六月、被告法人を脱会した。
(六) 原告小栗育代に対する侵害行為
(1) ビデオセンター入会から献身まで
ア 勧誘等
原告小栗(旧姓、野田)は、孤独であった昭和六〇年二月三日、長瀬春代に勧誘され、名古屋市中区栄地内のビデオセンターを訪れ、入会した。しかし、原告小栗は、そこをカルチャーセンターと認識し、被告法人のことを知らない。
原告小栗は、ツーデイズに参加したが、メシアが誰かを知らされずに終えた。原告小栗は、メシアへの好奇心から、ライフトレーニングに参加し、メシアは文鮮明であり、ビデオセンターは被告法人が行うことを知った。
その後、原告小栗は、文鮮明や被告法人について知りたくて、同年三月二一日からフォーデイズに参加した。原告小栗は、ホームに通い、マザーから説かれて、入信する以外に家族は救われないと思い込まされた。
原告小栗は、同年四月一二日、名古屋市内の展示会において、三〇万円のパールのネックレス、一〇万円のイヤリングを買ったほか、同年四月、八〇万円、同年五月、一〇万円を献金した。
イ ホーム生活等
原告小栗は、同年四月から、新生トレーニングに参加し、家を出てホームから職場に通った。以後、珍味売り、街頭伝道活動をして、原告小栗は被告法人に献身する決意をした。原告小栗は、被告法人の名古屋教会において実践トレーニングを受けた後の昭和六〇年六月上旬に、実践トレーニングの主任から退職を勧められ、被告法人に献身するため、会社を退職した。ところが、献身のことが両親に知れ、原告小栗は両親に保護されてしまった。
原告小栗は、昭和六〇年六月から昭和六三年一二月までの間、歯科医院やプロパンガス販売店等に勤務し、被告法人の活動としては、半田市のビデオセンターにビデオを見に通う程度であった。しかし、同原告は、献身の決意を変えなかった。
この間、原告小栗は、被告法人への献身の決意を表すために、献金と商品の購入を繰り返した(後記五、6、(一)。甲二九一、二九一)。
ウ 献身
原告小栗は、平成元年二月、被告法人の名古屋教会においてツーデイズに参加し、その後フォーデイズ、新生トレーニング、実践トレーニングに参加した。
原告小栗は、同年一一月初め、実践トレーニングの後に献身しようとした。原告小栗は、このころにも、献金と商品購入を繰り返した(後記五、6、(一)。甲二九一、二九二)。
原告小栗は、平成元年一一月一〇日、母の下から抜け出し、名古屋市中区金山地内のホームに身を寄せ、その後、清洲町に潜伏した。
原告小栗は、平成二年一月一日、被告法人に献身した。
(2) 献身後の生活
原告小栗は、献身後、金山の青年部に所属し、左記のような活動をした。
記
① 平成二年二月、自由民主党公認候補の総選挙応援のために戸別訪問などをした。
② 同月下旬、成約断食をした。
③ 平成二年三月、被告法人が千葉中央修練所において開催した二一日修練会に参加した。
④ その後、マイクロ隊に配属され(金沢、名古屋)、印鑑販売の訪問販売をした。
(3) 脱会
原告小栗は、過酷な労働のために病気になり、平成三年四月二日、卵巣摘出の手術を受け、平成三年五月三一日、被告法人を脱会した。
(被告の主張 争点2について)
1 原告らの主張に対する認否
(一) 原告らの主張1(一)、(1)ないし(4)の各事実は否認する。
(二) 同項(二)、(1)ないし(3)の各事実は否認し、あるいは知らない。
(三) 同2柱書の事実は否認する。
(四) 同項(一)の事実中「原告羽佐田が、被告法人の本部教会員であったこと(昭和六〇年五月二六日登録)、入教し、棄教し、昭和六三年一〇月三〇日合同結婚式に参加して挙式したこと、平成元年三月三〇日、脱会したこと」は認め、その余は否認し、あるいは知らない。
(五) 同項(二)の事実中「原告大村は、被告法人の信仰に入り、後に棄教し、平成二年一〇月三日、脱会したこと」は認め、その余は否認し、あるいは知らない。
(六) 同項(三)の事実中「原告岩瀬は、被告法人の信仰に入り、後に棄教し、平成二年、脱会したこと」は認め、その余は否認し、あるいは知らない。
(七) 同項(四)の事実中「原告永田は、被告法人の信仰に入り、後に棄教し、平成三年、脱会したこと」は認め、その余は否認し、あるいは知らない。
原告永田は、被告法人の本部職員ではない。
(八) 同項(五)の事実中「原告鈴木は、被告法人の信仰に入り、後に棄教し、平成三年六月、脱会したこと」は認め、その余は否認し、あるいは知らない。
(九) 同項(六)の事実中「原告小栗は、被告法人の信仰に入り、後に棄教し、平成三年五月三一日付けで脱会したこと、名古屋教会は被告法人の教会であること」は認め、その余は否認し、あるいは知らない。
2 「詐欺的勧誘行為」との主張に対する反論
(一) 統一教会名を名乗らない勧誘について
原告らは、被告法人の指示のもと、「宗教ではありません。青年のサークル活動です。」などと、統一教会を名乗ることなく勧誘された。これは「詐欺的勧誘」であると主張する。
しかしながら、被告法人は、伝道活動において右のような勧誘方法を指示したことはなく、原告らに対する勧誘にも関与しない。被告法人は、ビデオセンターなどでのビデオ受講や、原告らの主張するツーデイズ、ライフトレーニング、フォーデイズなどのセミナーを勧めたこともない。
被告法人は、伝道の際、統一教会の名前の入ったパンフレットを使い、統一教会として伝道活動をした。被告法人の研修は、ビデオセンターにおけるビデオ受講ではなく、各教会におけるマンツーマン又は講師と複数の受講者という形の講義であり、二日間、七日間、二一日間、四〇日間、牧会者修練会が公式の研修会であって、ツーデイズ、フォーデイズ、ライフトレーニングなどという研修は宗教法人の研修ではない(乙一九一)。
そもそも宗教、思想、良心等の領域においては、商行為など取引的領域とは異なり、勧誘時に自己の信仰する宗教について明らかにしないことは違法ではない。新しい宗教や思想は、歴史的に見て社会的偏見や弾圧の対象となることが多く、信教、思想、良心の自由には、それらを何時如何なる形で告白するか、そもそも告白するか否かについての決定の自由が含まれるからである。
信仰を持つ者は、神の教えや救い、愛を説くのに、自らの信仰、宗教を明らかにする必要はない。古今、人間は、真理、人間、人生、宇宙の存在目的、死後の世界などに対する答えを求めるのに、哲学、科学、宗教など異なる方法により真理探求をしてきた。これらは、方法は違っても、求めるものは基本的に同一である。それ故、宗教を信じる者が、宗教教義を知らない者に対して、自らの信仰、宗教を明かすことなく、まず、人生問題や宗教等に関心があるかどうかアンケートで意識を調査したり、自らの仕事としての経済的活動の中で知り合った人に対して、一般教養を学ぶ場や人生の根本問題を共に考える場や哲学、宗教、聖書などを学ぶ場等を紹介することは問題なく、これを「詐欺的」と呼ぶのは誤りである。
この点に関し、米国キリスト教協議会(NCC)、教会・国家分離米国人連合(AUSC)及び南部カリフォルニア教会一致協議会(SCEC)が原告らの援用するモルコ・リール事件の審理において、カリフォルニア州最高裁判所に提出した昭和六二年(一九八七年)二月二六日付法廷助言書(乙一六二の一、二)は、右のような詐欺的勧誘等の主張を否定する。すなわち、右法廷助言書は、「(シンガーらが、「伝道者は自分が信じている宗教の内容や教団の名称を初めからすべて教えなければならず、開示の義務がある。」と主張し、元統一教会員が伝道の際、初めから文鮮明師の信者であることを述べなかったと非難していることに対し)最初は、『個人的な』関係を深めた後宗教の話題に入るのが、より説得力がある」というリトルの「あなたの信仰」の一文を引用し、さらに「理想世界においては、統一教会の伝道者もそのようにできたであろう。しかし(伝道者)パウロも、『(私は)ユダヤ人には、ユダヤ人のようになった。ユダヤ人を得るためである。律法の下にある人には、私自身は律法の下にはないが、律法の下にあるもののようになった。律法の下にある人を得るためである。弱い人には弱いものになった。弱い人を得るためである。福音のために私はどんなことでもする。』(コリント人への第一の手紙)と、最初は受け入れられやすい方法で、伝道の対処に対応する必要があったと聖書の中で述べている」とし、伝道の課題は、「偏見や嘘によって作られた誤解を解くことである。『ムーニー』と呼ばれ、マスコミから悪く言い立てられた彼ら(統一教会の伝道者)も偏見に対してそうせざるをえなかった。彼らは話をはじめる前から、そうした嫌悪に勝たなければならなかった。もしそうしなければ、あとになるまで教会名やその目的を明かすことを延期することの必要もなかったであろう。」「宣教者はクリスチャンでない人々には、関心を見せはじめた時にはていねいな対応が特に必要である。最初は壊れやすい者だから(リトル)。教会に入ろうとするまでに人は分刻みか、時間刻みか、日数刻みか、週間刻みかで決心するかもしれない。効果的な宣教師は、対象者が信仰の意味についてどのくらい理解できているかを計るものである。回心のあとで人は全体像が初めてわかるからである。課題は偏見や噂によって作られた誤解を解くことである。宣教師は最初は、個人的な関係を強めた後、宗教の話題に入るのがより説得力がある。それも自分の経験を強要するよりも少しずつ話していくのがいい。そうして人は教会で信仰と生命を得ることができる。回心の後の人は宗教の全体像が初めて分かるからである。」とし、被告法人の伝道者に開示の義務を認めることはできず、彼が初めから文鮮明の信者であると正直に述べなくても非難はできない。
(二) いわゆる勧誘マニュアルについて
原告らは、被告法人は、組織化、マニュアル化されたプログラムに基づき、原告らが正常な判断能力を持つうちは被告法人の情報を秘匿し(不実表示)、原告らが所定の受講プログラムに参加し、その結果正常な判断能力を失った後に被告法人に関する情報を与えて入信を決意させた、と主張する。
しかしながら、被告法人は、原告らの主張するような組織化、マニュアル化されたプログラムなどは持たない。
そもそも原告らのいう「正常な判断能力を持つうち」、「正常な判断能力を失うに至った後」とは何をいうか不明である。仮に統一原理の理解を深め、能動的にそれを信仰することを「正常な判断能力を失うに至った」というのならば、「統一原理など信じる人間は正常な判断能力を持っていない」と主張するに等しい。右の主張は、信教の自由を踏みにじるものであり、容認できない。人は、信仰、思想、そのほか人間の行動を誘発するあらゆる契機について、理解が浅いときには批判的、受動的であるのに対し、理解が進むに連れ受容的、能動的となる。また、理解度によって段階的に教えの内容が明らかにされることは当然であり、批判されるべきではない(乙一九一)。
三 争点3(被侵害利益、違法性)
(原告の主張)
1 被侵害利益・総論
被告法人は、原告らに対して、前記侵害行為、すなわち、いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により、人格権及び財産権を侵害した。右人格権侵害の内容としては、自己決定権の侵害、違法な経済活動に従事させられたこと、労働を強制されたことの三つがある。
(一) 人格権(自己決定権に対する侵害)
原告らは、前記侵害行為により、それぞれ自己の人格権(自己決定権)を侵害された。
(二) 人格権(違法な経済活動への従事)
原告らは、前記侵害行為により、それぞれ自己の自由な意思決定を阻害され、違法な経済活動に従事させられた結果、その人格権を侵害された。
(三) 人格権(労働の強制)
原告らは、前記侵害行為により、それぞれ自己の自由な意思決定を阻害され、精神的、身体的自由を拘束されて、労働を強制された結果、その人格権を侵害された。
(四) 財産権
原告羽佐田、原告岩瀬、原告永田、原告鈴木、原告小栗は、前記侵害行為により、それぞれ自己の自由な意思決定を阻害され、献金、物品購入等の出捐をさせられ、財産権を侵害された。
2 原告らの被侵害利益・各論
原告ら六名は、被告法人が信者獲得・集団維持・強化のために計画的に行ったマインド・コントロールの手段である勧誘及び教義の教化行為、さらに同じく原告らの活動に対する指導的行為により、後記する各自の人格権及び財産権の侵害を受けた。
(一) 原告大村幸子の被侵害利益
原告大村は、被告法人の正体を隠した勧誘により、その正体を知らされないまま、被告法人の教義の教込みを受けて、いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により、前記1(一)ないし(三)記載の人格権を侵害された。
(二) 原告羽佐田美千代、原告岩瀬知里、原告永田暁美、原告鈴木仁美、原告小栗育代の被侵害利益
原告羽佐田、原告岩瀬、原告永田、原告鈴木、原告小栗は、被告法人の正体を隠した勧誘により、その正体を知らされないまま、被告法人の教義の教込みを受けて、いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により、前記1(一)ないし(三)記載の人格権及び同(四)記載の財産権を侵害された。
3 違法性
(一) 勧誘、教化行為の違法性
(1) はじめに
被告法人は、被勧誘者に対し、ビデオセンター、ツーデイズ、ライフトレーニング、フォーデイズなどの一連の入教プロセスの段階に応じて、被告法人の信念体系を徐々に植えつける。被勧誘者は、当初は被告法人の正体やその信念体系に関する情報を知らないが、入教プロセスが次第に進展するに従い、次第にこれらを知る。しかし、これと反比例して、被勧誘者は判断力を弱めるため、被勧誘者が、被告法人の正体、信念体系操作の事実を知ることには、もはや被告法人を批判することができない。被告法人の信念体系は、霊界における罪、サタンの讒訴など信者の恐怖心、罪悪感を増幅する教えを持つため、信者となった被勧誘者は、自力でその信念体系から抜け出すことはできない。被勧誘者は次第に従属的になり、自主的な判断ができなくなる。最後には、被勧誘者は、植え付けられた被告法人の信念体系に基づいて献身し、ホーレンソーやカイン・アベルの教え、被告法人の命ずる違法な経済活動、伝道活動を従順に受け入れ、これらに従事する。
被告法人は、原告ら(被勧誘者)が通常生活の中で個人の信念の拠り所とする社会的信頼をおく他者の見解を収集できない環境を、故意に形成する。すなわち、被告法人は、自らの教団名、教祖名、接近目的、活動内容の全容を隠し、偽って原告らに接近し、原告らが勧誘者を信頼するようになるまで隠蔽と欺瞞を続けて、原告らに対し、インフォームド・コンセントをしなかった。
被告法人は、個人の体験や論理的推論によって明らかにできない、特に非科学的問題に対する意見への個人的批判は、自動的に、話者やその場にいる他者の同調的反応に対して依存的になることを悪用し、ビデオセンターやセミナーにおいて原告らを含む受講者間のコミュニケーションを禁止し、原告らの両親を含める原告ら周辺にいる他者には受講内容を隠蔽するよう指示し、原告らをして、第三者からの情報や意見などを得ることができない状態、すなわち被告法人が提供した情報の真偽を確かめられない状態にした。
被告法人は、感動的な講話によって原告らの情緒を高揚させ、睡眠不足、長時間の講義、運動、個別の説得などによって原告らを疲労させた。
被告法人は、冷静で適切な意思決定をさせないために、災いや不幸が原告らやその家族に今にもふりかかるという脅迫的なメッセージを伝え、同時に、その唯一の避難策は入信であると伝え、原告らを、入信を受け入れる以外に選択の余地がない状態にした。
被告法人は、右のような状況下において、原告らに対し、教化の延長への承諾や入信の意思決定を求め、計画通り原告らを入信させた。
(2) インフォームド・コンセントの欠如
ア 主体を隠した勧誘
被告法人は、新規信者の獲得に向けられた入教勧誘活動をするに当たり、その実態を知られると被勧誘者に拒絶されるとの認識に基づき、被勧誘者に入教活動であること及びその主体が被告法人であることを知らせることなく、さらには被告法人の行う入教勧誘であることを一切否定するといった欺瞞を行う。
欺瞞(不実表示)に基づく勧誘及びその後の被勧誘者の認識と同意(インフォームド・コンセント)を欠いたまま、高度に組織化された強制的な説得である教込み(マインド・コントロール)の方法それ自体、偽計に基づく強要行為であり、被勧誘者の自由な意思決定を害する違法な行為である。
これら一連の入教プロセスにおける教込みは、被勧誘者の信念体系を破壊して新しい信念体系を植えつけ、かつ、その後の行動・生活様式を一変させ、ときには、その精神的な障害を引き起こす危険性を持つ。
イ リチャード・デルガードによるインフォームド・コンセントの法理
カルトないし宗教団体の勧誘者は、被勧誘者に対し、入教勧誘(改宗)をする前に重要な情報を開示すること、すなわち、インフォームド・コンセントをしなければならない。入教勧誘にインフォームド・コンセントの義務を課すことは、カルトの存在そのものや、その入教勧誘それ自体を否定するものではない。カルトが存在する権利、そしてカルトに人々を改宗させる権利があることを認める。同時に、被勧誘者が自らカルトに加入する決定をすることの保障を求める。
カルトないし宗教団体に対する右のような義務付けは、インフォームド・コンセントの価値観や宗教の自由についての歴史的価値観とも矛盾せず、実行不可能であるとする反論、憲法違反であるとする反論や批判にも耐えられる。インフォームド・コンセントは、個人の意思決定の機能を保護し、押しつけられた信仰心を防ぐ最も負担の少ない方法であり、カルトの入教勧誘に起因する社会紛争や自力救済を減少させることにもつながる。
ウ いわゆるモルコ・リール事件におけるカリフォルニア州最高裁判所判決の法理
米国統一協会の元信者であるデービット・モルコ、トレーシー・リールは、統一協会に対し、詐欺、精神的苦痛を故意に与えたこと、不法監禁、不当な影響力の行使によって六千ドルの献金をさせられたこと等を理由に、六〇〇〇ドルの献金の返還と一〇万ドルの損害賠償を求める訴えを提起した(いわゆるモルコ・リール事件)。
モルコは、右訴訟において、①教会は、同人に対し、詐欺を行い、同人を、理性的に考え、情報に基づきインフォームド・コンセントをする能力を減退させるプロセスに追いやったと主張し、②信仰の自由という絶対的な権利と、宗教的に動機づけられた行為の自由という条件的な権利は違う、と主張した。
カリフォルニア州最高裁判所大法廷は、昭和六三年(一九八八年)一〇月一七日、「教会が不実表示や正体を隠して誘導し、知らないまま強制的説得に服従させる環境に引きずり込んだことを理由に、教会に対して伝統的な詐欺訴訟を提起することを合衆国憲法も州憲法も禁止していない」と判示し、上告人(原告)であるモルコらの再審理の申請を認め、第一審裁判所の略式判決(訴え却下)を支持した中間控訴裁判所の判決を破棄し、事件をサンフランシスコの陪審法廷で行うよう命じた。右大法廷は、詐欺訴訟における「法律問題は単に、宗教団体が非会員を騙して、彼らの認識や同意を欠いたまま強制的説得に服従させることが、伝統的な詐欺訴訟で有責と判断されるかどうかである。」とし、「本件訴訟で検討すべき点は、教会の教え、また宗教的回心の正当性ではない。検討すべき点は、疑うことを知らない部外者を高度に構築された環境のなかに引き入れる目的で正体の不実表示をしたり、正体を隠す教会の活動である。」とし、デルガードが提唱したインフォームド・コンセントの理論を詐欺訴訟という視点から支持した。
(3) マインド・コントロールによる勧誘、教化
ア 西田公昭による社会心理学的説明
マインド・コントロールとは、他者が、自らの目的成就のために、本人が他者から影響を受けていることを知覚しない間に、一時的あるいは永続的に、個人の精神過程や行動に影響を及ぼし操作することを言い、いわゆる破壊的カルトと呼ばれる反社会的な活動を行う熱狂的な組織集団が用いる新メンバー獲得及び集団維持、強化の心理学的手法を指す概念である。
マインド・コントロールは、個人の意思決定をある計画に沿った方向に誘導し、強力に作用した場合には、一般にはいかにも荒唐無稽に思えるような信念を正しいものと受け入れさせることができる。
マインド・コントロールは、知性もあり精神的にも健康な人を、自己破壊的行動に追いやること、社会的規範を著しく逸脱するような判断や行動をも辞さなくさせることができる。巧妙なマインド・コントロールは、対象者に明白な物理的強制を与えず、あたかも自由な状況で意思判断し自己決定しているように本人には見せながら、操作する側の意図どおりに反応させる。かかる心理的操作は、人間の日常的な意思決定や行動が、個人的要因(欲求、意志、性格など)と環境的要因(時、場所といった個人を取り囲む自然や社会の状況、所与の情報など)の相互作用であることを熟知し、これらの要因を巧みに仕組んで初めて可能となるが、中でも特に環境要因の操作に力点を置く。
被告法人は、次に掲げるとおり、組織が仕組んだある特定の環境に原告らを誘導し、その取り囲む状況を徹底的に操り、原告らのビリーフ・システム(知識や信念などの認知で構成した意思決定のための心的装置)を変化させて、その欲求や意志に方向性を与え、原告らの意思決定を、被告法人の意図する方向に自発的に制限させるように仕向ける。
(ア) ビリーフ・システム
a ビリーフ(信念)
ビリーフ(信念)とは、ある対象と他の対象、概念、あるいは属性との関係によって形成された認知内容である。形成されたビリーフは、個人的に整理され、構造化されたビリーフ・システム(信念体系)を形成する。ビリーフには「知識」「偏見」「信念」「信仰」などいろいろな種類がある。宗教集団のメンバーは、「教義」を受容して形成されたさまざまなビリーフを共有する。その共有される宗教的ビリーフには、「主義」、「指針」、「目標」、「世界観」など精神生活の中核となる重要なビリーフが多く含まれる。
b 宗教的ビリーフの受容過程
宗教的ビリーフの受容過程は、一般に「伝道」と呼ばれる教化により行われる。伝道とは、伝道者が、外集団のメンバーに対して、伝道者の所属集団が共有する宗教的ビリーフを是認し共有するよう要請する説得過程である。「転向」や「回心」と呼ばれる劇的な全人格的変化は、新たな個々のビリーフの受容にとどまらず、それらが構造化し、個人の新しいビリーフ・システムとして機能したときに見られる現象と理解できる。
c ビリーフ・システムの全体構造
ビリーフ・システム全体は、個人的に正しいと認めるビリーフで構成される「ビリーフ・システム」と、他者が認めていても個人的には認められないビリーフで構成される「ディスビリーフ・システム」から成り立つ。そのうち、伝道の際に重要なものは、第一に、自分は何者かということに関するビリーフ群である「自己ビリーフ」、第二に、自分や社会や世界はどうあるべきかに関するビリーフ群である「理想ビリーフ」、第三に、自分はどのような行動をとればよいかに関するビリーフ群である「目標ビリーフ」、第四に、自然や歴史はどのような法則で展開するのかに関するビリーフ群である「因果ビリーフ」、そして最後に正誤や善悪の基準はどこにあるのかに関するビリーフ群である「権威ビリーフ」の五事象である。伝道とは、これらのビリーフ群から構成されるシステムを、個人の抱くビリーフ・システムと置き換えて、新たなビリーフ・システムを形成させるものである。
d ビリーフの配置
ビリーフを、個人の好みの家具や日用品のコレクションに喩えると、自分が気に入って用いているデザインや色調の家具や日用品がビリーフ、持っているが気に入らないデザインや色調のものがディスビリーフである。価値の高いビリーフは認知処理にアクセスしやすいところに配置される。他方、価値の低いディスビリーフは認知処理のアクセスしにくいところに配置される。個々のビリーフの変化は、家具の一つを入れ替えるようなものであり、ビリーフ・システム全体の変化は、デザインや色調に関する趣味の変化による、家具全部の入替えと解釈できる。
(イ) 被告法人の伝道によるビリーフ・システムの変化
被告法人のマインド・コントロールを用いた伝道は、最終的に、権威ビリーフがビリーフ・システムの中核となって完成する点に特徴がある。
a 第一段階
被伝道者は、ビデオセンターにおいて伝達される被告法人の教義(権威ビリーフを除く)を受容し、新らたにディスビリーフを形成する。
b 第二段階
ビデオセンターに通い続けるに従い、被伝道者は、新しい理想ビリーフや目標ビリーフについてかなりの魅力を覚え、因果ビリーフも正しいとする確信性のレベルを高めるが、これまで保有してきた古いビリーフは否定されていない。
c 第三段階
被伝道者は、セミナー(ツーデイズ)を通じて、これまで入力したディスビリーフの一部に価値を付与する。被伝道者は、情緒が最も高揚している右セミナーの最終段階において、このサークルの勉強はこれで終わるのではないことを知り、さらなる学習過程への参加を即時表明するよう求められ、これを受け入れる。
d 第四段階
前段階で生じた一部のビリーフについての価値転換は、通いの研修期間(ライフトレーニング)を通じてビリーフ・システム全体に広げられる。被伝道者は、伝道者らとの間に形成される集団的魅力と、繰り返し聞かされる一貫した内容の講義により、新しいビリーフ間の関連性を高める。例えば「自分には罪がある。」とい自己ビリーフと、「神が中心になって管理する個人」という理想ビリーフとの間に、「理想の自分と異なる、罪を背負った現実の自分は、悪魔の妨害のために生じている。」といった因果ビリーフを持ち込んで関連付ける。このような関連付けが進むにつれ、これまでのディスビリーフに価値が付与されて大きくなり、魅力的に見えだす。これらディスビリーフは、中心に移動し、ついにはこれまでのビリーフと入れ替わり、新たなビリーフとなる。入れ替わったこれまでのビリーフは、ディスビリーフとなり、周辺部に追いやられる。中心部に移動した新しいビリーフは、さらに、自己と調和する他のビリーフを周囲に集める。
e 第五段階
価値付与され、システム化した新たなビリーフ・システムの中において、いよいよ権威ビリーフが形成される。伝道者は、自らの団体名とこれまでの学習目的を告げ、教祖名を明かす。この段階では、自己、理想、因果、目標など他の与えられたビリーフはすでに被伝道者のものになり、被伝道者はこれらに積極的な価値を与えている。教祖は、これらのビリーフを提供した源として登場し、被伝道者によって積極的な価値を与えられ、権威ビリーフとなる。
第二のセミナー(フォーデイズ)を通じて、右ビリーフ・システムは、教祖という絶対的権威を中心にさらに構造化し、教祖の発する、全てのビリーフとビリーフの連結そのものが無条件に受容され、価値を与えられる。権威ビリーフはビリーフ群の中核となり、その周囲にこれまで入力された全てのビリーフが配置され、「思考の道具」として常に機能するようになる。同時に、伝道されるまで個人が抱く古いビリーフは、ディスビリーフとなり、周辺部に追いやられ、全く目に付かない無用の家具のような存在に変わる。ここにビリーフ・システムの変容が完成する。
(ウ) マインド・コントロールの手法の危険性
a 自己決定の能力を奪い、他者に判断を委ねさせる。
マインド・コントロールに用いられる各手法の一つ一つは、個人に対し、全体的、絶対的に服従させるほどの影響力を及ぼすものではない。しかし、これらが複合的に組み合わされて用いられ、影響力のシステムとして作用した場合、その力は、個人の意思を、影響力行使者の意図に沿わせるに十分である。このような影響下に管理されると、人は、自己決定権を他者に委譲し、その命令に服従し、いかなる反社会的行為をも辞さなくなる危険性がある。被伝道者は、自己の判断能力を操作者のそれよりも低いものとみなし、結婚、職業選択、是非や善悪の判断などを含めた一切の判断を操作者に委ねる。その結果、被影響者は、殺人やテロ、自殺、詐欺や収奪などの反社会的行為についても、組織の命令により正当化し、やむなしと思いながら実行することがある。
b 意思決定の取消しができなくなる危険性
不安や恐怖状態、身体的疲労状況、信頼関係にあった他者の不在、情緒高揚状態、集団圧力下、緊急時、切迫状況など不安定な状態の下において、多額の財の支出、それまでの対人関係の断絶、学業、仕事の放棄などの自己犠牲的行動の意思決定をさせてその直後にその内容を実行させることは、その後の被伝道者の行動の選択肢を無意識のうちに狭め、決定付けてしまう可能性がある。その結果、被伝道者は右のような意思決定を取り消すことができなくなる。
c 意思決定を偏向させる危険性
組織の目的や活動について嘘や隠蔽工作が用いられ、生活環境の徹底した管理など情報の制限により、人の意思決定は、当人の気づかないうちに偏向する傾向がある。被伝道者は、情報操作が徹底すれば、いかなる反社会的な道理をも正しいとみなす可能性がある。
d 個人の身体及び精神を脅かす危険性
被伝道者は、不安や恐怖状態、身体的疲労状況や集団圧力下、緊急時、切迫状況などのような緊張状態が続くと、身体ならびに精神にストレス障害を生む可能性がある。
イ カイザー夫妻の臨床心理学的説明
臨床心理学者で、アメリカ家族財団(マサチューセッツ州ウェストン市)の顧問会員であるトーマス・カイザー博士とその妻ジャックリーヌ・L・カイザー夫人は、共著『錯覚の構造』(The Anatomy of Illusion)(昭和六二年)において、破壊的カルトが被勧誘者をコントロールする過程について、「ニードの操作と情報操作を通じて、過激グループ(破壊的カルト)が聡明で自由主義的な人々に対するコントロールを獲得している。」とし、このプロセスは強制ではなく、説得によると説明する。
カイザー夫妻によれば、信念は現実の様相に関する認知地図であり、それは物事がどのように存在するかについての心理的見解である。態度は信念の対象の積極的又は消極的評価である。カルトの説得は、現実を偽り、信奉者の適応能力を損なう錯覚を故意に創造するから「破壊的」である。カイザー夫妻は、グループのリーダーやメンバーが故意に現実の歪曲を行うとき、そのグループを破壊的と呼び、破壊的説得には、隠された計画が前提となっていると指摘する。逆に、策略的に情報をコントロールしたり、回心者のニーズを秘かに操作するのでなければ破壊的説得ではないとする。
(ア) 破壊的カルトに加入することの意味
破壊的カルトに加入することは、一般的に態度や信念の変化を特徴づける学習プロセスを伴う。破壊的カルトへの信奉を理解するには洗脳や「スナッピング」のような概念は不必要であり、回心の有効な構成要素は認知を再構成することである。
カルトは、ある特殊な力や不思議な力によってではなく、一般に態度や信念の変化という典型的なプロセスによって信奉者の世界の認知地図を変化させる。説得者は、策略的に対象者のニーズを操作し、彼の信念と態度を再構築する。再構築後の後の対象者の行動は、新たに獲得された信念や態度のため、全く自発的に見える。破壊的カルトは、被勧誘者個人の過去の信念や態度、説得の策略の性質、社会的、環境的な変化、その時点における被勧誘者の個人的なニーズなど、複数の要因を相互に連関させることにより、ごく普通の人である対象者を加入させることに成功する。
強制はせいぜい行動の服従をもたらすに過ぎないが、説得は信念と態度の変化を誘発する。説得のこの形態は「適応性」を妨げるが故に破壊的である。破壊的カルトは被勧誘者の現実性を歪めて、隠れた利益、すなわち、影響力、金銭、権力を得るため、計画的に錯覚を作り上げる。
(イ) 教込みによる批判能力の停止
破壊的カルトの加入者は、批判力の機能を停止させることが待望の目標への到達を早めると信じる。破壊的カルトは、加入者に対し、長年の夢や新たなニーズを満たすと約束するが、そのためにはカルトとカルトとの目標に対する肯定的な態度を養い、あらゆる批判を排除しなければならないと教える。破壊的カルトは、カルトの利益のため、計画的に不服従に対する恐ろしい運命と天罰のイメージを作り上げるが、加入者はこれに気づかない。
(ウ) 回心の結果
不十分な食事や睡眠の枯渇は、過激な活動への回心の結果であり、その原因ではない。それは、カルトが命じた物質的、精神的不自由を喜んで受け入れる心理状態による。加入者は、カルトのもたらす特有の利益に比べると、これらの苦難など取るに足りないと考える。
(エ) 教育と破壊的説得との異同
破壊的説得は、歴史的に強制を含むとされてきた洗脳の概念とは異なり、教育のプロセスと同じ要素を持つ。説得者からの情報は、教育者のそれと同様、感覚によって受けとめられ、個人の認知器官に組み入れられ、そのプロセスは、情報の断片が策略的に使われようが、有益に使われようが同じである。そのメッセージが破壊的説得に関係するか、本物の教育に関係するかを決めるのはメッセージを提供する側の動機である。
教育者は知らせることを追求するのに対し、説得者は支配することを求める。教育者の動機は錯覚を破壊することであり、可能な限り多くの正確で適切な情報を提供して行う。これに対し、破壊的説得者は、彼自身の利益を得るために彼の犠牲者の現実性を歪曲することを求める。
(オ) ディプログラミング
ディプログラミングの本質的要素は、回心と同様、認知的再構築ないし思考パターンの改造である。回心者の社会的状況を変え、カルトの教理を相対化する情報を提供することで、彼はカルト内にいる間に受容したのとは異なる方法によりカルトへの信奉を理解するようになる。彼の変化した知覚は、認知的改造の原理によって一般に典型的な態度と信念の変化を引き起こす。
あるカルトは、その任務はサタンの世界と闘うことだと主張する。それ故、当該カルトに干渉するものは定義上は全てサタン的である。この循環論により、そのカルト自身は決して批判の対象とはならない。カルトは、不思議な観念のために絶えず難解な理屈を用意し、一度カルトのシステムに陥ると、逃れることは難しい。過剰な感情表出に囲まれ、じっくりと自分の体験をふりかえったり、相対的な見方をする機会を持てない。加入者は他の見解から隔離され、グループの活動に対する如何なる批判も「悪魔の仕業」と教えられる。カルトをより分析したいと思えばサタンの煽動に屈伏することになり、それだけ罪深くなる。
ディプログラミングや「脱会カウンセリング」として知られるものは、この循環的プロセスに食い込むために設計されたテクニックである。個人が自ら破壊的グループを離れることは稀である。通常、彼は少なくともグループの内部か外部の他人の直接的または間接的な援助が必要である。グループ加入者の社会状況の変化は、認知的再構築を生み出す。それは、ディプログラミングを通じてグループから離された人に生じる影響力のホストである。両親からの苦悶に満ちた訴え、家族の愛情に満ちた抱擁、元カルト加入者の証言がこれである。
(二) 違法な経済活動に従事させたことの違法性
被告法人は文鮮明のために資金を集める目的で、自らが組織・計画する経済活動が右のとおり違法性・犯罪性あることを十分に認識しながら、原告ら信者をしてこのような違法性・犯罪性を有する経済的活動に奔走させた。
(1) 霊感商法、献金等の違法
被告法人の実態は、資金集めの機関であり、その資金集めの手段として組織的・計画的にいわゆる霊感商法等の経済活動を行う機関である。そして、右経済活動は、違法な犯罪行為に該当することは、以下のとおり明らかである。
霊感商法は、その勧誘において、商品の販売目的や身分を秘して対象者に手相や印相を見てあげる等と言って近づき、その中で聞き出しておいた同人の身近な不幸等が先祖からの因縁である等と虚偽の事実を告知して不安や恐怖に陥れた上で、右因縁を取り除くためには大理石壺や多宝塔、高麗人参濃縮液等を購入しなければならない、購入しないとさらに不幸が訪れる等と脅迫・欺罔して、これらを原価の数十倍から数百倍の高額な値段で購入させるものである。
これは、商品販売の目的や販売員の身分を秘している点で訪問販売等に関する法律第三条に違反しており、虚偽の事実を告知して脅迫・欺罔を行い商品を購入させる点では刑法上の詐欺罪ないしは恐喝罪に該当し、また、高麗人参濃縮液の販売については薬事法にも違反し、民法上は詐欺あるいは公序良俗違反、暴利行為等に該当する。
献金あるいはH・Gと呼ばれる借入金による献金、さらには宝石・絵画等を販売する定着産業も、霊感商法と同様で、対象者に虚偽の事実を告知して脅迫・欺罔するものであり、刑法上の詐欺罪ないしは恐喝罪、民法上の詐欺あるいは公序良俗違反、暴利行為等に該当する。
インチキ募金は、「恵まれない子に愛の手を」、「難民のために」などと偽って街頭や個別訪問で募金を集めて、これらの大半を右目的には使用せず、もっぱら被告法人に送金している。これは、目的を偽って募金するもので詐欺罪に該当する。
(2) 被告法人の間接正犯性
これらの違法行為・犯罪行為の主体としての正犯性は、刑法的観点からしても以下のとおり被告法人に認められる。
被告法人には間接正犯としての正犯性が認められる。すなわち、被告法人が原告ら信者に統一原理を教え込むことにより組織的・計画的に犯罪に対する規範意識を喪失させて、自ら目的とする金銭収奪のための犯罪行為の道具としてその実行行為を行わせているからである。
仮に、原告らに犯罪行為についての認識・認容が認められ道具性が欠如するとしても、被告法人は、原告らに統一原理を教え込むことにより「排他的支配関係」を設定して実行行為を行わせていた点において正犯性を有する(最判一・昭和五八年九月二一日、刑集三七巻七号一〇七〇頁)。
原告ら信者が、被告法人との関係において、道具として利用され、あるいは排他的支配関係に置かれていたことは、原告ら信者自らが違法行為、犯罪行為により収奪した莫大な収益をすべて被告法人に渡しており、自らは何等経済的利益を得ていないことからも明らかである。
(3) 信者を利用した詐欺行為
原告ら信者は、元来純真な青年で社会的常識も十分に備えており、およそ自ら主体的に詐欺・脅迫等の違法行為・犯罪行為を行うことはない。しかしながら、原告ら信者は、既に述べたとおり被告法人からマインド・コントロールによる操作を受けてその信念体系を転換され、その後いわゆる献身により一般社会から隔離された上、その組織内部において、アベル・カインという絶対的な上命下服により統一原理以外の価値観(信念体系)を一切排除され、善悪の価値判断を転換させられ、その結果、被告法人の道具と化しあるいは排他的支配関係が設定された状態において、その指示・命令を受けて、前述の違法な経済活動を統一原理を実現するための活動であると信じて疑わずに従事させられて、違法行為・犯罪行為を行わされてきた。
したがって、原告らには、実行行為者としての主体性はない。
(三) 被告法人による強制労働の違法性
(1) マインド・コントロールによる労働の強制
被告法人は、当初から純真な青年たちをして、違法な経済活動やその担い手を獲得する活動への従事という労務を提供させることを目的として、街頭アンケートや友人関係を使っての勧誘、ビデオ教育、修練会等を通じての徹底的なマインド・コントロールを行い、実際にその目的を現実化している。
被告法人は、以下に述べるとおり、事実上の強制労働ともいうべき不当な労働力の搾取をしている。
(2) 労働基準法違反の実態
労務を提供させる場合、労務を提供する側の人格を無視し、強制してはならない。労務を提供させる側は、精神的、身体的な自由を拘束して労務の提供を強制することは許されない。労働基準法が具体的に「暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制」することを禁止し(同法五条)、これに違反した使用者に対して、罰金のほかに一年以上一〇年以下の懲役という重い刑まで規定している(同法一一七条)のは、右の理を示す。
しかるに、被告法人は、原告ら純真な青年たちの労務提供の実態をみると、まず信者は、事前にその事態を知らされないまま入会・献身させられ、「ホーム」において、食事や睡眠を含む日常生活のすべてを管理され、精神面も管理され、疑問を抱くことも許されていない。ホームは、「たこ部屋」ともいうべきものであって、信者は、被告法人の指示に従い各所において働かされ、霊感商法やインチキ募金・アンケート活動等についてノルマを課せられている。
信者は、「人事」と称する被告法人の命令のもとに、全国各地へ短期間に転々と配属され、その許可がないと帰郷さえもできない。なお、このとき、原告らは、親族や知人からその住所を秘匿するという目的で被告法人から住民票の移動を禁じられ、その結果として国民健康保険すら使うことができないという状態に置かれている。もちろん、親族や友人への連絡さえも原則的に禁止されている。
このように、原告ら信者は、被告法人の指示・命令により朝早くから夜遅くまで、霊感商法やインチキ募金等の経済活動や伝道活動に従事させられるのであるが、それらによって得られた莫大な利益のほとんどは被告法人のもとにいき、原告らは信者には給料も支払われず、月一万円前後の小遣いが支給されるだけである。
以上のように、被告法人が、入会した原告ら純真な青年たちをして違法な経済活動や伝道活動に従事させている実態をみると、被告法人の行為は、まさに原告ら信者の人格を無視して、事実上その精神的、身体的な自由を拘束・支配して、原告ら信者に労働を強制するものに他ならず、前述の労働基準法五条、一一七条の趣旨を逸脱した重大な違法性がある。
(被告の主張 争点3について)
1 原告らの主張に対する認否
(一) 原告らの主張1(一)ないし(四)の各事実は否認し、あるいは知らない。
(二) 同2(一)、(二)の各事実は否認し、あるいは知らない。
(三) 同3(一)ないし(三)の各事実は否認し、あるいは知らない。
2 勧誘、教化行為の違法性の主張に対する反論
原告らは、自らの主体性に基いてした行為について、後になって、それは洗脳、教込み、あるいはマインド・コントロールにより主体的な判断、行動を奪われた結果であるとし、被告法人は、原告らが、そのような状態下において間違った人生の一時期を過ごしたことについて責任を負うとして損害賠償を求める。しかし、これは誤りである。
(一) 西田説、鑑定書について
原告らは、西田公昭(以下「西田」という。)の論文や鑑定書などに依拠していると思料される。しかし、西田は札幌地方裁判所の証言において「この理論は未だ心理学の概念として普及していない。」(甲三四八の一ないし三)と明確に述べ、全国弁連通信掲載の「統一教会の伝道とマインド・コントロール」と題する講演(乙一九三)においても、繰り返し、「一言で彼らの伝道が洗脳だというようなことは、簡単に申し上げることは、できません。」、「完璧な科学的データが充分整っているとはいえません。」、「……仮説としてお話するのです。決して科学的結論ではないということを最初に理解しておいていただきたい。」などと述べ、同人の鑑定書(甲三四六)は、訴訟提起をしている原告らの主張事実のみを資料として作成され、科学的信用性がない。右鑑定書の鑑定事項について、もし誠実に鑑定するのであれば、原告らが主張するビデオセンターやセミナーの検証、信仰を持つ信者らの調査及びそれらの者と原告らとの比較検討等の科学的調査、資料の収集及び検討が当然に要求されるところ、右鑑定書は、それらなしに、原告らの主張事実のみを資料として結論付けたものだからである。これらの点からも右西田の鑑定書は、単なる個人的見解ないし仮説に過ぎない。
(二) 洗脳、マインド・コントロール論などについて
原告らは、当初「教込みによる洗脳」の主張をしていたが、その後「マインド・コントロール」の主張に変更した。これは、それまで原告らの「教込みによる洗脳」の主張が誤っていたことを、原告ら自らが認めたからである。
洗脳という概念は、肉体的抑圧ないし拘束を重要な要素とし、韓国動乱中、中共軍の戦争捕虜収用所において捕虜に対し政治思想を変えさせるために行われた行為を説明する試論として生まれた。しかし、被告法人においては、肉体的抑圧とか拘束といったことはなく、原告ら当初主張のような洗脳はない。
原告らは、肉体的抑圧ないし拘束がなくても、強制説得ないしマインド・コントロールによる思想操作が行われたと主張するが、これも誤りである。原告らは、いずれも成人に達した青年であり、そのような者に対して教込みによる洗脳ないしマインド・コントロールなどを行うことは不可能である。
洗脳、教込み、マインド・コントロールなどの主張は、心理学、社会心理学及び精神医学等の分野において認められた理論ではない。
(三) 米国心理学会の法廷助言書及び米国キリスト教協議会の法廷助言書
米国の心理学者マーガレット・シンガー及び同サムエル・ベンソンの「強制的説得理論」は、個人の自由意思と判断能力を失わせるような社会的状況を組織的に作り出す活動を強制的説得と呼び、カルトにおいてそれが行われていると主張する。しかし、後記するモルコ・リール事件における米国心理学会(APA)の昭和六二年(一九八七年)八月一九日付法廷助言書(乙一六一の一、二)及び米国キリスト教協議会(NCC)等の昭和六二年(一九八七年)二月二六日付法廷助言書(乙一六二の一、二)は、このシンガーらの主張を明確に否定した。マインド・コントロール概念は、米国の学会、専門家の間においては、既に非科学的な主張として退けられており、我が国においても同様に解されるべきである。
(1) 米国心理学会の法廷助言書
米国心理学会(一八九二年設立)の助言書は、「シンガーらの主張する『強制的説得理論』は科学的に意味あるものではなく、そうした概念としては意味を持たず、そうした結論を導く方法論についても専門家が広く受け入れるものではなく、結果として信頼できる有効な結論を導き出せなかった。」とし、右理論は、宗教の自由を保証する合衆国憲法修正第一条の自由条項に違反すると断言する。同書は、シンガーらの言う「強制的説得」とは、教会の入会担当者が会員予定者の自由意思と判断能力が失われるような社会的状況を組織的に作り出す活動を捉えることができるが、右シンガーらの理論は米国心理学会が長年にわたり築き上げてきた科学的方法論に則ったものではなく信頼できる有効な結論が導き出されていない、すなわち、強制説得理論には科学的正当性がなく単なる統一教会活動と信仰に対する否定的判断に過ぎない、シンガーらの理論は科学的、実証的証拠に乏しく、調査も強制的説得を受けて脱会した信者やその家族・友人に限られ、結論を有効視できず、結局、右「強制的説得理論」は科学的でなく、反対のための主張であるとする。そして「もし原告の主張する法的基準がキリスト教に適用されたとするならば、ほとんどのアメリカ人が現在抱いているような信仰信念は実らなかったに違いない。突然の回心、古い生活の転換はキリスト教の伝統である。……宗教運動の歴史は、統一教会のような新宗教の伝道を妨げようとする危険性を示している。社会はそうした異質の霊性を歓迎することができないからであり、新宗教が公共の健康と安全に脅威を与えるからではない。……原告の損害賠償理論で重要なのは、原告の入会判断について自分で責任をとらず、その入会の結果が発生したことにも責任をとらない、という点である。ごくまれな例外を除いて、人は自分の行動に責任を持つ、というのが刑法、民法学の基本である。例外を除き、民事責任を課すのは、個人が法を遵守することを求められ、それが出来なかったことについて責任をとるということである。原告の『強制的説得』理論を受け入れると、友人からの圧力、脅迫や物理的力を含まない言語による説得などについても、責任追求される可能性がでてくる。」と結論付ける。
(2) 米国キリスト教協議会の法廷助言書
米国キリスト教協議会(NCC。米国のプロテスタント教会と東方教会により構成される。)の「信仰と宗教儀式委員会」が、統一教会の教義について二〇〇〇年にわたる伝統的キリスト教神学とは矛盾する部分があるとの見解を発表しているにもかかわらず、あえて法廷助言書を提出し、シンガーらの主張に対し、右主張は、統一教会における宗教的回心を心理学的病理に置き換えるが、それは統一教会のみに当てはまるものではなく、全ての宗教にも当てはまり、かかる主張を認めることはアメリカ国民の信仰と宗教行為に対する重大な脅威であるとし、その誤謬を六点指摘する(乙一六二の二)。
第一に、シンガーらが、「社会的、物質的環境コントロール」として、禁欲生活や質素な環境は管理されている証拠であり、このような環境でなされた回心は洗脳等の技術によって作り出された情的挫折であり、心理学的病理であるので本当の回心ではないため無効とする点に関し、宗教が通常の文化から隠遁して、妨げられずに宗教的事柄に集中するのは、どの宗教でも同じである。シンガーらの主張によれば、おそらく数百万の宗教的回心は無効となり、そうした人々の信仰と生活は虚偽、無駄であることになるが、それは真実に反する。僧院や修道院、教会経営学校、クリスチャンスクールなどはカトリック教会の信仰を反映するもので、世俗の文化から離れてそれと異なる神聖なる環境で生活を建て直すという世俗文化からの隔離を目的とする。質素、純潔、神への献身などは、多くの宗教が求めている環境そのものであり、そのような環境下で回心が行われることを「社会的物質的環境コントロール」によるとして、回心ではなく無効だというのは誤りである、とする。
第二に、シンガーらが、「統一教会は家族との接触を絶ち会員に無力感を与え強制説得する。」とする点について、「私が地上に平和をもたらすために来たと考えるな、私は平和をもたらすために来たのではなく、剣をもたらすためである。何となれば、人をその父にそむかすために、娘を母にそむかすために、そして嫁を義母にそむかすために来たのである。そして人の敵は彼自身の家族の者達である。私よりも父又は母を愛するものは私に相応しくない。私以上に息子や娘を愛するものは私に相応しくない。」(マタイ一〇、三四ないし三九)とのイエスの言葉を引用し、さらに「家族は決して究極ではない。(神を真剣に知る者は)父母兄弟から自由になることの悲劇的罪悪をおかさなければならない。」との著名な神学者ポール・ティリッヒの言葉を引用し、生涯のなかで、成長のために家族からの離脱が必要なこともあり、特に信仰を求める過程ではより重要な場合もある、という。
第三に、シンガーらが、「幹部による報奨、罰をとおしての操縦。社会的行動を禁じる。」、「組織による報奨、罰を通しての操縦。幹部の要求する行動」による「信者の感情コントロール」として、統一教会が信者を罪悪感と恐怖心でコントロールしており、そのためのテクニックとして、迫害する外部の敵を作り出すことによる恐怖心の教込み、過去の罪の告白、忠誠心と献身に対する高い評価などを挙る点に関し、説教師ビリー・グラハムの「キリストについて説教するということは、罪の問題について直接話すということである。」との言葉を引用し、さらに宗教学者ウイリアム・ジェームスの「回心はこれまでの自分が分けられ、誤った、悪い、劣悪で、不幸な者が、宗教的現実に立脚して、正しく、優れて、幸福なものになるのである。」との言葉を引用して、「回心や信仰生活には罪と罪の自覚が極めて重要な要素となる。」とし、さらに、信仰生活がなぜ社会的行動の規制を伴うかについて、「回心や信仰生活は新しい生活様式の受入れであり、宗教は常に誘惑を避け、純潔を保つための教育と指針が与えられるべきであるからである。」イエズス会の行動書にはどのように感じるべきかという指示まであり、呼吸の仕方などまで指示している。また、ユダヤ教では、神聖冒涜罪という罪が存在し、回心や信仰生活における行動の管理が行われている。食事、仕事時間、衣服までも詳細に決めている。モルモン教も、大多数の男性は一九歳になると自費で一八か月間伝道に行かなければならず、その間は家族・友人とも離れ、電話による連絡も禁止され、一週間に一度の手紙しか許されていない。映画を見ることも、水泳・オートバイ・テレビ・ビデオゲームも禁じる。カトリック教においても、四旬節の時は金曜日は肉食が禁止され、懺悔のしるしとして何かを犠牲にしなければならない、などの事例をあげる。これらは宗教やその関連教会が罪悪感と恐怖心によって人々をコントロールするものではなく、回心や宗教生活による新しい生活様式の受入れであり、熱心な、宗教行為についてはそれを尊敬し崇めるところであるとする。
第四に、シンガーらが、「論理の閉鎖とシステムで組織的批判ができない。」として、統一教会の中では従順であることが強調され批判や議論ができない閉鎖的システムであり、メンバーに徹底的な教込みをして、そのグループの教えと新しい言語体系を身につけさせ、また自分の心を集中した状態に保つため思考停止の技術を使えるようにして思想コントロールされている点について、宗教の歴史は、教会の教主を中心とする上下構造に従順に従うことが高貴な義務であるとする例証であふれる。多くの宗教が心と体の従順を信仰の深さと見ている。シンガーらの主張によれば、カトリックの回心は、カトリック教の伝統的な法王無謬論の閉鎖システムにより無効となるが、それは誤りである、とする。
第五に、シンガーらが、「特別統制状態の存在」として、統一教会においては信者に対し情報コントロールが行われており、その結果自分で考える自由な能力が統制され、統制状態下でコントロールされているとする点について、信仰を持つ者がその信仰生活に集中し、その信仰を深めるにあたり、受け取る情報を取捨選択しコントロールすることは当然であり、右主張は誤っている。カトリック教会は数世紀にわたって信者が読んではいけない禁書リストを作った。カトリックの信者は洗脳されて信仰に入ったのだろうか。信仰に集中している人々に対して、回心の真実性を疑えるだろうか。シンガーらが「特別統制状態」と言うのは、信仰者が世界の混乱破壊から逃れて、信仰の中心を求める場合には当然の状態であり、この宗教的献身に重要な条件となるもので、それを否定することは宗教と宗教の自由を冒涜するものである。
第六に、シンガーらが、「統一教会の伝道者が勧誘にあたり統一教会の会員であることをただちに述べなかったことは詐欺的行為にあたる」と主張する点に関し、最初の勧誘段階において勧誘者が統一教会の会員であると述べなかったとしても、統一教会の名前はその後の研修会の場などでは開示され、訴えを起こした元信者が入会するはるか以前に明らかにされている。自分が入会しようとしているのが統一教会であると認識した上で、自ら入会を決意したもので、詐欺にかかったからではない。兄弟愛、特別な社会に入る喜びによって決意していた。詐欺的行為の主張は当たらない。また、シンガーらが、「伝道者は自分が信じている宗教の内容や教団の名称を初めからすべて教えなければならず、開示の義務がある。」と主張し、元統一教会員が伝道の際初めから文鮮明師の信者であることを述べなかったと非難する点に対し、開示の義務を認めることはできず、統一教会の伝道者が初めから文鮮明の信者であることを正直に述べなかったとしても非難できないとし、「宣教者とその伝道対象者の間の会話は微妙で複雑なものである。真剣な宣教者は自分の信仰と喜びを共有したいとの動機があるものだ。そうした宣教者のメッセージが伝道対象者へ伝えられたときに、どのように変わって受け取られるのか理解し、考えなければならない。宣教者がそうした道を歩いているときに、法廷がその道端で一つ一つ規制を課すことはできない。社会の世俗化は、宣教に対する大きな障害である。詐欺であるとの申立は、多くの教会に不可欠な宗教的行為をさらに制限することにつながる。もし法廷が、こうした詐欺容疑の申し立てを採用するならば、入会を後悔するものは誰でも、教会員であった当時すべての話の資料を取り出して、入会の動機と関係なく、損害賠償を請求できることになる。これは宗教の規制を計り、成人の入教者が自分の決定に責任逃れをする道をつくるものである。もしそうなれば損害賠償を防ぐため教会であれ団体であれ、個人の入会の同意を信頼できなくなり、入会を同意する個人の能力にも信頼をおけなくなる(乙一六二の二)。
(3) モルコ・リール事件におけるポラック判事の意見
右事件原告らに対し言い渡した原告ら全面敗訴判決書において、ポラック判事は、原告の二人は、最初教会を紹介されたとき成人であり、強制、脅迫、暴力あるいは違法行動により入会させられたとは証言していない。教会に行き、原告はそれが何かを知った。また教会から自由に出られることも知っていたが、原告はとどまることにした。原告の自分自身による決定があったことは明白で、原告をとどまるようにさせたとして、教会に損害賠償を請求することは、州法の許さないところであり、また社会の全ての宗教団体を保護する憲法の認めないところでもある、(乙一六八)と述べている。
(四) 原告らのねらい
(1) 「教込み」論の特異性
原告らの主張は、自己責任を回避し、被告法人に損害賠償責任を負わせるため、自由意思による決定と行動を、信者らの「教込み」であるとするものである。もし原告らのいう「教込み」が真実有効ならば、学校教育や会社教育、さらには社会教育においても有効とされるべきところ、このような「教込み」が、学校教育や企業研修、社会教育において積極的に評価され導入されたなどの事実はない。「教込み」という用語は、本件を含むいわゆる「青春を返せ」裁判及び関連するいわゆる「霊感商法」裁判においてのみ使用される特有の造語であり、心理学的、教育学的研究による科学的根拠は何もない。同じことを何回も何回も繰り返すだけで人の行動を制御できる教育などない。ある人が学習し、何らかの行動を取るのは、その学習内容や行動することに、その人が共鳴し価値を見いだすからである。人は、それに共鳴し、価値を見いださなければ、受け入れない。それが最も根源的な自分の人生に関わるものであるならば、なおさらである。
前記のように、原告らは、被告法人が被告法人の教義を「繰り返し吹き込むこと」によって違法な教込みをしたと主張するが、洗脳に不可欠な肉体的抑圧あるいは拘束を抜きにした「繰り返しの吹き込み」が強制的な違法なものといえるかどうか思想良心の自由、ないしは信教の自由との関連で一定の思想などに理解を得るための説得の技術との限界があいまいであり、その限界を明らかにするには信教の自由などとの関連において、慎重な判断がされなければならない。
(2) 原告らの棄教過程
原告らは、いずれも被告法人に反対する牧師、改宗家や親、親族らにより、強制的に脱出不可能な高層マンション、ホテル、その他の場所に監禁された上、長期にわたって連日多数の者によって説得され、被告法人の教義を捨てた者たちである。反対牧師、改宗家、反対父兄などが行う右説得行動の方法は、原告らを一室に閉じ込め被告法人の教義を捨てない限り、その場から一歩も外に出さない上、外部との連絡も一切させないという拘束状態のもとに、集中的に被告法人の教義が誤っていることを吹き込み、仮に認めない場合は認めるまで、拘束状態を解かない。これは、右の拘束及び棄教要求が、家庭ないし同居の家族間において許容される範囲内にある法益侵害の限度にとどまらず、違法である。
原告らは、右のような強制力を用いて改宗させられた者であって、自ら主体的に判断選択して行動した過去を強制的に捨てさせられ、それが間違いであると信じ込まされた結果、自己の主体的選択に対する責任から避難するため、あるいは責任を持つことを忘れるため、さらには被告法人を悪意に満ちた目で見て、その影響力を減殺するために意図的に反対信者として行動している。すなわち、洗脳というのは、被告法人の信者になったことを説明する道具として使われている。
原告らの主張は、反対牧師らの信教の自由を侵害する強制的な教込みの結果である。原告らの主張する内容を前提としても、そこには違法な拘束はなく違法とはいえない。
原告らは、被告法人の教義を信じた結果、経済活動に従事させれられたと主張して、後から「とても信じられない行動」と位置づけ、合理的に理由づける説明として、違法な教込みないしは洗脳といっている。
しかしながら、人間の主体性は、素質、環境など諸々のものに影響されつつ、その中から自己に有益な事実、情報を取り出し、それを受け入れ、それに従って行動していく判断選択過程に端的に現れるもので、その際、他人、他者、団体など諸々のものから影響を受ける。逆に、人間は、個人ないし所属する団体を通して他人に対して自己の信じる思想、信条、宗教心などを理解してもらうように話しかけ説得することは当然の権利である。かかる他者への影響力の行使を、悪意に満ちた客観性を持たない意図的目的を持って洗脳という概念を用いて否定することは許されない。また、宗教上の確信に基づき宗教活動をした結果、一般的な意味で、家庭と距離ができることは、宗教に携わる者誰にとっても避けられない。
人は、理想とする社会を実現するためにとる行動が、他人から見て了解不能だとしても、それをすべて洗脳に結びつけ、それだけで理解しようとすることは人間の主体性を無視し、その自由意思を否定することになる。
してみれば、原告らの主張する事実を前提にした場合でも、ある新しい宗教の信者を獲得するため一定の行動をとることは、ごく普通の説得行動であり、その対象者に対し、その者が自由意思に基づき選択する際に一つの影響を与えるに過ぎない。人間の存在は、主体性のある自己決定によって、その根拠を認められるのであり、それを奪い去ることは不可能に近い。青春は、悩み多きときであり、その悩みを主体的な努力で解決するところに、その存在価値がある。原告らは、判断力も通常人以上の能力をもつ者であって、被告法人の信者になる以前も、同じ能力を持っていた。原告らが、違法な教込みによって洗脳された、あるいはマインド・コントロールされて主体的な判断能力を失ったことはない。
原告らの本訴の提起は、信者時代の行動の責任を逃れる便法、あるいは被告法人に責任を転嫁し責任を免れる言い逃れ、さらには被告法人に不利益を課そうとする手段である。
(五) アベル、カインの教義について
原告らは、「対象者に統一原理以外の価値観を排除させて組織内部における『アベル・カイン』という絶対的な上命下服の関係に従属させた上で、その優越的な立場を不当に利用して(いわゆる不当威圧)」、「被告法人から原理講義を受け、その後いわゆる献身により一般社会から隔離された上、その組織内部において、アベル・カインという絶対的な上命下服により統一原理以外の価値観を一切排除され、善悪の価値判断を転換させられ、その結果被告法人の道具と化しあるいは排他的支配関係が設定された状態において、その指示・命令を受け」と主張する。
しかし、被告法人は、その教義をもって、ある信者らをして他の信者に対し、命令・服従させるいかなる指揮・監督関係も持たない。
原告らは、カインとアベルの逸話が実際に被告法人の信者操縦の方法として利用されているとして、被告法人の教理解説書である「原理講論」を宗教の本質的理解をしないで、それがあたかも組織論をなすように解釈し「被告法人の道具と化す」「被告法人では、カインはアベルの指示・命令に対し無条件に絶対服従しなければならないとの教えであり、それに従わないと呪われる。」、ゆえに、「その教えに基づいていつも上司をアベルとして一般信者であるカインは絶対服従しなければならない。」旨曲解して主張する。
被告法人の教義においては、カイン・アベルの問題は、人間始祖アダムとエバの堕落に始まる。アダムが堕落という罪を犯すことにより、本来善なる存在であるアダムに悪が侵入した。このため、アダムに侵入した悪を分立するための「善悪分立」の象徴的な摂理が行われるようになった。すなわち、このアダムの身代わりに、善の表示体としてのアベル、悪の表示体としてのカインが立てられ、アベルがカインを無条件の愛で愛することにより、カインがその愛に感動し自然屈伏すれば、アダムの失敗をも取り返すことができたのである。ただし、ここでいう「善の表示体」「悪の表示体」とは、そのような立場に立っているということであり、アベルもカインも同じ堕落人間である点において変りない。そこで、カインが悪で、アベルの命令に何でも従わなければならないとの強制ではない。カインもアベルもアダム・エバの子で、兄弟関係であり、「神を中心に兄弟仲良くしなさい。」という教えである。アベルはカインを愛し、カインのために尽くし、犠牲になる。この愛の実践と人格によってカインを自然屈服させる、これがアベルの正道である。被告法人の信者らは、そのような動機で日々の生活をし、実践する。被告法人では、アベルとしての権威や立場を振りかざして、屈従的な意味での追従や屈服を、強制的に強いることはアベルの正道ではないと教える。また、アベルはカインのために存在し、カインはまたアベルのために存在する。互いが「ために生きる」精神で愛しあい、助け合い、許しあってひとつになることによって、すべての人間関係における和合と調和が築かれ、円満な人間社会が創出される。
したがって、原告らが主張するようなカイン・アベルの教義は、人を強制的に組織が縛りつけ、自由意思に反した方向に人を駆り立てる教えではなく、原告ら主張のような形で用いられることもない(乙一四五の一、一四六の一)。
(六) 「万物復帰」について
原告らは、文鮮明師や被告法人の幹部が万物復帰の名の下に資金集めのための経済的活動を指示・命令すると主張する。
しかし、それは、誤りであり、かかる事実はない。被告法人の教理解説書である「原理講論」が説く「復帰原理」を意図的に曲解するに過ぎない。
原理でいう「復帰」とは、堕落によって神を中心として創造本然の位置と状態から離れてしまった立場から、再びその本然の位置と状態に戻ることをいう。「万物復帰」とは、人間が本来の価値を取り戻して万物を責任をもって主管し愛する、という教義的で内的な精神をいい、万物復帰の名の下に文鮮明師や被告法人の幹部が資金集めのための経済活動を指示・命令したことはない(一四五の一、乙一四八)。
万物復帰の教えの根拠は、「原理講論』の後編第一章、一二九七頁「アダムの家庭におけるメシヤのための基台とその喪失』の中の「象徴献祭』(献祭とは、神に対して供え物を捧げることであり、象徴献祭とは、本来は人間が神の子となって、神の前に立つべきなのに、堕落したので、初めに象徴的に人間の代りに万物が捧げられることをいう。)の教えとして説かれる。象徴献祭を捧げる目的は、万物を復帰するための蕩減条件を捧げるためであり、更に人間が万物以下の立場に立ってしまったので、その人間を神の方に復帰するための、象徴的蕩減条件(蕩減条件とは、人間が堕落しない以前の立場に帰るための条件であり、象徴的蕩減条件とは、象徴的に一部だけ蕩減条件を立てることをいう。)を立てるということにある。具体的には、人間が堕落して万物以下の立場に立ったが、万物を神に捧げるために真心と信仰を尽くすことにより、本来の神の子としての愛と心情が復帰される。そのような人間になることにより、本来の神と人間と万物の関係が取り戻されるという。万物復帰とは、かかる関係を復帰するために、人間が本来の価値を復帰して、万物を責任を以て主管し愛せよ、という内的な精神をいう。それがなくては、万物も神のもとに復帰されることはできない。
その関係は、次のとおりである。「本来の関係 神―人間―万物」「堕落の結果 神―万物―人間」「蕩減条件を立てて本来の関係を復帰 神―人間―万物」
被告法人においては、万物復帰の具体的実践とは、献金を神に捧げる際に真心を尽くし、神への精誠を尽くし、信仰を尽くし、愛の限りを尽くし、感謝の限りを尽くし、その精誠の顕れとしての、万物を捧げようとの教えになる。新約聖書ルカ伝二一章二節から四節によれば、「また、ある貧しいやもめが、レプタ二つを入れるのを見て、言われた、『よく聞きなさい。あの貧しいやもめはだれよりもたくさん入れたのだ。これらの人たちはみな、ありあまる中から献金を投げ入れたが、あの婦人は、その乏しい中から、持っている生活費全部を入れたからである。』」とあり、金額の多寡よりも、その献金を捧げる時の信仰と精誠こそが重要なのであって、このように、献金を通じて神への信仰と愛を本来のものへと取り戻そうとするのが、万物献祭の意義である(乙一五六)。
被告法人の教える万物復帰の目的は、資金集めとは全く異なり、原告らが霊感商法の違法な経済活動を支える教義だと主張するのは、曲解にほかならない。被告法人の教義における願いは、万民が神の愛の懐の中に帰ることであり、万物献祭は、堕落人間の心に神への信仰と愛を取り戻すための手段の一つに過ぎない。
原告らは、確立された教義をねじ曲げて主張し、これにより被告法人を批判する。被告法人は、信者に対し献金をお願いすることはあっても、決して命令する立場にはない。
(七) 労働の強制の主張に対する反論
原告らは「被告法人が原告ら信者に従事させる活動目的は、資金集めでしかなく、早朝から深夜に至るまで直接の資金集め、あるいは後に被害者から金を巻き上げるための勧誘活動に従事させる。これは事実上被告法人が収益を得るために原告ら信者を強制的に労働させるにほかならない。少しの小遣いを与えて給与を支払わない。これは、被告法人による違法な労働力の搾取である。」旨主張する。
しかしながら、被告法人は職員制度を採用しているところ、原告らはその役職員になったことはない。
被告法人は、前記したとおり経済活動はしていないし、原告らを経済活動に従事させたこともない。原告らは、勧誘された後、活動していたのは「全国しあわせサークル連絡協議会」関係の活動であり、被告法人とは関係がない。
なお、原告らが活動していた連絡協議会の活動は多岐にわたっていたことが窺われるところ、原告ら自身が自らの活動に対する給与等の対価を期待して入って行ったものではなく、無償の気持ちで、それを納得し、意義を見い出して活動していた。原告らが経済的活動に従事して、その収入があった場合も、それらを支給先から直接共同生活をしていたホームの会計に全て入れ、そこから活動の経費の支出を受けると共に、ホームでの衣食住などの生活費の全ての面倒を受け、さらに地区や地区から一月一万五〇〇〇円位の小遣いも貰っていたのであり、ホームでの一人当たりの一か月の費用は約一〇数万円くらいであり、実態としても労働力の搾取といった状況はない(松田泰正証人尋問調書、徳野英治の陳述書乙一四二の二)。
3 小括
以上のように、被告法人は宗教法人として、その規則に則り運営され、組織は法人外のそれとは峻別され、法人が管理監督したのは協会本部及び地方の職員だけである。原告らが主張する組織集団は被告法人とは全く別の組織に属し、その指揮監督下にあった事柄である。被告法人が原告らに経済活動に従事させ、違法に労働を強制して搾取したことなどない。
四 争点4(責任の原因)
(原告らの主張)
1 民法七〇九条
被告法人は、原告らに対し、以上のとおり、その勧誘時から脱会に至るまでの間に、種々の違法な侵害行為を組織的、計画的に行ったものである。したがって、被告法人は、民法七〇九条の定めるところに従い、原告らに生じた後記各財産的、精神的損害を賠償すべき責任を負う。
2 民法七一五条
(一) 原告らに対して、直接の入教勧誘行為及び入教後の種々の違法行為を行った信者の大部分は、被告法人に献身し、その指揮に従って右各行為を行い、被告法人と右信者らとの間には実質的な指揮監督関係があった。
(二) してみれば、右信者らは民法七一五条にいう「被用者」の地位にあった。右信者らの原告らに対する入教勧誘行為及びその後の種々の違法行為は、被告法人の推進するいわゆる統一運動ないしそれに密接に関連し、入教勧誘行為、霊感商法等の経済活動、合同結婚式の実施等は被告法人の教義に基づく実践行為であって、これらは、被告法人の事業の執行について、されたものである。
(三) したがって、被告法人は、その信者らの加害行為により原告らが被った後記各損害について、民法七一五条の使用者責任を負う。
(被告の主張 争点4(責任の原因)について)
1 原告らの主張(責任の原因)に対する認否
原告らの主張1、2の各主張は否認する。
2 被告の主張
原告らは、自らの主体的な選択により被告法人の教義を信じる信仰生活に入った者であり、その後、その信仰を捨てた者である。原告らは、信仰を捨てた後に、他人に唆されて被告法人の教義を攻撃し、違法視する。しかし、そうしたことは、現在も信仰生活に従う多くの信者を冒涜するばかりか、自らの主体性の欠如と信仰の浅薄さを示す。原告らは、責任感を欠いた哀れな者たちである。
したがって、原告らの主張は、何らの理由もなく、失当である。
五 争点5(損害の有無)
(原告らの主張)
1 原告羽佐田美千代の損害
原告羽佐田は、被告法人の違法行為により前記した人格権及び財産権を侵害され、以下の損害を被った。
(一) 逸失利益
四九八万四七五〇円
(四九八万三七五〇円の誤記と認める。)
(二) 慰謝料 五〇〇万円
(三) 献金等 四六万円
(1) 昭和六〇年八月 真珠ネックレス代金 二五万円
(2) 昭和六一年二月 献金 二万円
(3) 同年九月 献金 三万円
(4) 昭和六二年二月 献金 二万円
(5) 昭和六三年一月 献金
一一万円
(6) 同年四月 献金 三万円
(四) 弁護士費用 一〇〇万円
(五) 小括
よって、原告羽佐田は、被告法人に対し、本件不法行為による損害賠償請求として一一四四万四七五〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成二年六月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 原告大村幸子の損害
原告大村は、被告法人の違法行為により前記した人格権を侵害され、以下の損害費目と金額から成る損害を被った。
(一) 逸失利益
七二四万五三七五円
(二) 慰謝料 五〇〇万円
(三) 弁護士費用 一〇〇万円
(四) 損害の填補(有限会社三省商会) 三〇万円
(五) 小括
よって、原告大村は、被告法人に対し、本件不法行為による損害賠償請求として一三二四万五三七五円から三〇万円を控除した一二九四万五三七五円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年五月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 原告岩瀬知里の損害
原告岩瀬は、被告法人の違法行為により前記した人格権及び財産権を侵害され、以下の損害を被った。
(一) 逸失利益
八八万九二三七円
(二) 慰謝料 一〇〇万円
(三) 献金等 八九万四一三四円
(1) 平成元年七月 1DAY講習費
一〇〇〇円
(2) 同年七月 ライフビジョンセミナー代 四万円
(3) 同年八月 訪韓リーダーズセミナー代 九万五〇〇〇円
(4) 同年八月 新生トレーニング代
五〇〇〇円
(5) 同年八月 献金
一三万二七三四円
(6) 同年九月 入会金 一〇〇〇円
(7) 同年一〇月 訪韓パーフェクションセミナー代 一〇万五〇〇〇円
(8) 同年一〇月 三水式(天地正教主催)費用 一万円
(9) 同年九、一〇月 実践トレーニング代 六万円
(10) 同年一一月 本部入会金
一〇〇〇円
(11) 平成二年二月二八日 貸付金
二一万円
(12) 同年六月 預託金 四万円
(13) 平成元年八月 化粧品代
一一万六九〇〇円
(14) 同年七から九月 メッコール代
七万六五〇〇円
(四) 弁護士費用 六〇万円
(五) 小括
よって、原告岩瀬は、被告法人に対し、本件不法行為による損害賠償請求として三三八万三三七一円の内金三三五万二六三三円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年五月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 原告永田暁美の損害
原告永田は、被告法人の違法行為により前記した人格権及び財産権を侵害され、以下の損害を被った。
(一) 逸失利益
二九三万七〇五三円
(二) 慰藉料 三〇〇万円
(三) 献金等
二五二万六九五九円
以下(1)ないし(11)の計二一七万三八一二円(二一七万四七八〇円の誤記と認める。)と(12)の三五万三一四七円の合計である。
(1) 昭和六二年四月 岡崎教育センター入会 三万円
(2) 昭和六二年 絵画代金(有美)
七二万三八一二円
(3) 平成元年四月二〇日 エメラルドイヤリング代金 一七万一〇〇〇円
(4) 右同日 パールイヤリング代金
一万円九〇〇〇円
(5) 平成元年五月 岡崎教育センター入会金 四万円
(6) 同六月 新生トレーニング費
一万円
(7) 同月 パーフェクションセミナー代 一万五〇〇〇円
(8) 同月 浄水器ミネクール代
七万円
(9) 同月一八日 訪問着等代金
八七万〇九六八円
(10) 平成二年冬 高麗人参茶代金
一万五〇〇〇円
(11) 同一二月一二日 印鑑代金
二一万円
(12) 貸付金 三五万三一四七円
(四) 弁護士費用
一四六万六〇〇〇円
(五) 小括
よって、原告永田は、被告法人に対し、本件不法行為による損害賠償請求として九九三万〇〇一二円の内金九七二万〇〇一二円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
5 原告鈴木仁美の損害
原告鈴木は、被告法人の違法行為により前記した人格権及び財産権を侵害され、以下の損害を被った。
(一) 逸失利益
四七〇万九四六二円
(二) 慰藉料 四〇〇万円
(三) 献金等
一八二万八二〇〇円
(1) セミナー費用 合計六万円
昭和五九年一二月 ツーデイズセミナー費 二万円
昭和六〇年一〇月 フォーデイズセミナー費 三万円
同年一二月 集中スリーデイズゼミ費 一万円
(2) 献金 合計五〇万円
昭和六一年一二月 四万円
昭和六二年一月 三万円
同年一〇月 二万円
同年一一月 四万円
昭和六三年一月 三万円
同年二月 二万円
同年三月 四万円
同年五月 一〇万円
同年九月 三万円
同年一二月 五万円
平成二年一月 一〇万円
(3) 商品代金 合計六一万円
昭和六一年春 つけさげ小紋代金
二五万円
昭和六二年八月 一和人参茶代金
五万円
同年一〇月 アクアマリン指輪代金
三万円
同年一二月 ルビー指輪代金
二一万円
昭和六三年夏 ファッション時計代金 三万円
平成元年九月 サファイヤ指輪代金
二万五〇〇〇円
平成三年四月 一和人参茶代金
一万五〇〇〇円
(4) 留年学費代 六五万八二〇〇円
(四) 弁護士費用 一〇〇万円
(五) 小括
よって、原告鈴木は、被告法人に対し、本件不法行為による損害賠償請求として一一五三万七六六二円の内金一〇五三万七六六二円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
6 原告小栗育代の損害
原告小栗は、被告法人の違法行為により前記した人格権及び財産権を侵害され、以下の損害を被った。
(一) 逸失利益
二八七万五八〇〇円
(二) 慰謝料 五〇〇万円
(三) 献金等
三七〇万三〇〇〇円
(1) 商品購入 一三六万三〇〇〇円
昭和六〇年四月一二日真珠ネックレス 三〇万円
真珠イヤリング 一〇万円
昭和六二年五月一五日 ダイヤネックレス 三〇万円
同年七月二七日 ダイヤイヤリング
一〇万円
昭和六二年 草履・バックセット
四万五〇〇〇円
絵画、リトグラフ
三万五〇〇〇円
昭和六三年 漆箸・茶托セット
一〇万円
着物・帯セット 一四万円
時計 四万三〇〇〇円
平成元年 金ネックレス 五万円
ネックレス 一万円
リトグラフ 一四万円
(2) 献金 二三四万円
昭和六〇年四月 八〇万円
同年五、七月 各一〇万円
昭和六一年 五万円
昭和六二年
三回にわたり合計一八万円
昭和六三年
二回にわたり合計五三万円
(四) 弁護士費用 一〇〇万円
(五) 小括
よって、原告小栗は、被告法人に対し、本件不法行為による損害賠償請求として一二五七万八八〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張 争点5について)
1 原告らの主張に対する認否
(一) 原告らの主張1の事実(原告羽佐田美千代の損害)は知らない。
(二) 同2の事実(原告大村幸子の損害)は知らない。
(三) 同3の事実(原告岩瀬知里の損害)は知らない。
(四) 同4の事実(原告永田暁美の損害)は知らない。
(五) 同5の事実(原告鈴木仁美の損害)は知らない。
(六) 同6の事実(原告小栗育代の損害)は知らない。
2 被告の主張
(一) 原告らは、献金、商品代金、セミナー費用などを被告法人に対して賠償を求めるが、右各支出は、他の法人あるいは団体に対して出捐したものである。したがって、被告法人が賠償責任を負うことはない。
(二) 原告らは、献金等の損害、逸失利益、慰謝料、弁護士費用を各人の損害として主張するが、違法な侵害行為がない以上、いずれも理由がない。
第三章 争点に対する判断
第一 争点1(被告法人と信者の組織の関係)について
一 原告らと被告法人に関係する組織
原告らは、前記争点1において、被告法人に対して、被告法人と信者の組織あるいは関連会社など(以下「連絡協議会、販社など」という。)は、同一組織であると前提して、同被告が原告らに対して一定の侵害行為をしたと主張するところ、被告法人は、右主張にかかる行為の法主体は被告法人以外の法主体である連絡協議会、販社などによるものであって関知しないと反論する。そこで、右の侵害行為の有無をみる前提として、同時にまた、これは、争点4の責任の原因のなかの使用者責任にかかわる争点を含むことになるので、併せて右の点も必要な範囲において、ここにおいて検討する。
1 勧誘、入教から棄教までの時期
原告羽佐田美千代、原告大村幸子、原告岩瀬知里、原告永田暁美、原告鈴木仁美、原告小栗育代の各本人及び弁論の全趣旨によれば、原告らが被告法人などと関係を持った時期は、原告羽佐田については昭和五九年から同六三年一一月まで、原告大村については同年から平成二年一〇月まで、原告岩瀬については平成元年から平成二年七月まで、原告永田については昭和六二年から平成三年二月まで、原告鈴木については昭和五九年から平成三年六月まで、原告小栗については昭和六〇年から平成三年四月までであると認められる。
2 昭和五九年以降の被告法人に関係する組織
被告法人は、昭和五九年以降における、被告法人の組織について、自己の法人組織と連絡協議会、販社などとは、別個の人格であると主張する。
(一) 前記第二章、第一、二、2、(一)ないし(三)記載の事実によれば、以下のとおりである。
被告法人は、昭和三九年七月一六日、宗教法人設立登記をし、次第に組織の体系を整えてきた(前記第二章、第一、二、2、(二))。しかし、前記第一期(昭和五二年以前)では、法人成りしたとはいえ法人の組織として純化したものとは言い難く、第二期(昭和五三年から同五九年)においては、被告法人は、宗教活動と経済活動を分離する旨の組織決定をし、同決定を法人全体に浸透させていたが、なお、右決定の趣旨にかんがみるとき疑問を残すような現象が散見された。昭和五九年四月、被告法人は、正式に職員制度を採用して、給与体制を定めた。第三期(昭和六〇年から平成元年)において、被告法人は、宗教活動と経済活動を分離するため、教会と事業活動を分離するという組織の整理を一層押し進めた。
被告法人は、昭和五九年には、責任役員会のもとに局を設け、伝道にかかわる局のもとに、全国を八つのブロックに分け、教会を公認した。昭和六二年以降は、全国を一三教区(後に、一四教区に分け、六〇の教域が属す。)に分け、その下に教会を属させた。
なお、平成四年一二月以降は、責任役員会のもとに全国に直接五一ないし五七の教区が属するに至った。
(二) 前記第二章、第一、二、4、(一)ないし(三)記載の事実によれば、以下のとおりである。
(1) はじめに、「信者」という用語を確認すると、乙一二八の宗教法人「世界基督教統一神霊教会」規則(昭和四九年)三二条は「信者とは、この法人の信者名簿に登録された者をいう。」と定める。したがって、被告法人においては、正式に、信者とは信者名簿登録者を意味するので、これを「狭義の信者」と呼び、登録されていないが被告法人の教義について信仰を持つ者という意味での信者を広義の信者と言い、以下においては、特に断らない限り、広義の意味において「信者」の語を用いる。なお、ビデオセンターの専従的活動員を献身者と呼ぶが(前記第二章、第一、二、4、(三)、(3))、この者らは広義の信者(「信徒」は、以下においては「広義の信者」と同義と解する。)に当たると認める。
(2) 連絡協議会、販社などとしては、幸世物産株式会社(昭和三九年設立、昭和四四年統一産業株式会社と商号変更)、幸世商事株式会社(昭和四七年設立、同五三年三月株式会社世界のしあわせ、同年一一月株式会社ハッピーワールドに商号変更)などの企業体があるほか、全国しあわせ連絡協議会(昭和五七年一〇月発足し、平成二年一一月解散した。)などがある。
次に、ハッピーワールド(幸世商事)は、高麗人参茶、高麗人参濃縮液、大理石壺、多宝塔、健康食品などの商品販売を担い、昭和五七年ころ、全国を八つに分けた区域に応じて、八つの販売会社(販社)を設け、その下に特約店を置いた。昭和五四年ころから、特約店の顧客を組織した懇親会的な活動組織である「しあわせ会」が次第に広がり、同五五年ころから、販社社長会は、特約店が営業活動をするほか、「しあわせ会」として被告法人の教義の伝道活動をすることを認める方針を打ち出した。このような特約店を支援する「しあわせ会」を全国的に統合したものが、前示した全国しあわせ連絡協議会である。
右の連絡協議会は、昭和五七年一〇月、伝道のために全国にビデオセンターの設置を決め、そのころ、被告法人は、自らビデオセンターの設置を検討したが、受講料を取るとした場合、収益事業と見なされる旨の行政指導を受け、右センターの設置を止めた。
(3) ビデオセンターの主体は、初め連絡協議会の中央本部傘下のブロック(全国を八ないし一二に分割した地域)であったが、次第に地区(ブロックの下部組織である地区)、さらに地区の下部組織である青年部、壮年・婦人部に移行した。ビデオセンターは、支部または組織部と呼ばれることもあり、最大時で全国一〇〇箇所以上設立され、所長、会計、職員、専従的活動員(献身者)などのスタッフにより構成され、ビデオ受講者は「ゲスト」ないし「会員」と呼ばれた。
ビデオセンターの運営は、ビデオ受講者の入会費、受講料及び地区の委託販売員からの任意の寄付によっていた。
次に、ビデオ受講者は、初めは特約店などの顧客が中心であったが、次に、前記専従的活動員(献身者)による街頭でのビデオセンターへのパンフレットによる勧誘相手が多くなった。
(三) 原告らは、被告法人と経済活動を担うハッピーワールドほかの販社とその外郭団体的な連絡協議会、その下部機関であるビデオセンターなどは、人事交流を通じて一体であると主張する。そこで、この点をみる。
(1) 原告ら五名は、当法廷において、昭和五九年から平成二年までの間、愛知県、京都府、大阪府においていずれもビデオセンターなどにおいて統一原理の学習をしたが、被告法人の一組織における活動であると考えていて、被告法人と連絡協議会との区別を知らなかった、と述べる。
原告ら六名は、その当時には正確な法的な組織体系の認識はなかったが、後記第三章、第二において認定したように、勧誘、入教から棄教までの間、連絡協議会、販社などと被告法人の組織の双方に交互に属していた。すなわち、① 原告羽佐田、原告岩瀬、原告永田、原告小栗は、連絡協議会の系列にあるビデオセンターにおいて被告法人の教義を学習したが、一度被告法人が主催する千葉中央修練所で修練をした後に、再び連絡協議会などの系列組織に戻り、さらに原告羽佐田は、被告法人が手続する祝福(合同結婚式)に参加した。② 原告大村は、ビデオセンターに入った後、被告法人の岡崎教会においてトレーニングを受け、次にキャラバン隊などに属した。③ 原告鈴木は、ビデオセンターに入った後、被告法人の豊中教会、千葉中央修練所において講義などを受け、途中では被告法人の本部会員登録(なお、この登録が、被告法人の本部教会員としての登録を指すか否かは不明である。)を受け、再び連絡協議会などの系列組織に復帰した。
(2) 証人小柳定夫は、当法廷において、連絡協議会の名前を多くの信者は知らなかったと述べる。
(3) 証人志村貞三(以下「志村」という。)は、被告法人の信者であるが、昭和四七年、献身し、ハッピーワールドに入社し、昭和五一年、上司の指示に従い同社を退職してハッピーワールドの代理店に入社し、昭和五二年、同店を退職して別の代理店に移り(店長を歴任したが経理面は関与しなかった。)、昭和五三年、同店を退職して再びハッピーワールドに入社し、そのころ、祝福(合同結婚式)を受け、昭和五七年、伝道に専念するため同社を退職し、相対者と同居を始め、同年、職員ではなくボランティアとして被告法人愛知県第一地区の教育部長となり、昭和五八年、被告法人の職員である名古屋教会の教会長となり{教会長になるには、被告法人の主催する牧会者研修会参加、伝道、教育等の長年の実績などの資格が必要である。(証人岡村信男)}、昭和五九年、被告法人を退職して連絡協議会中部ブロックの教育部長となり、以後、連絡協議会の岐阜地区の青年団長(このころ、志村は、初めて連絡協議会の名を知った。)、愛知第一地区青年団長を経て連絡協議会の石川地区の本部長となり(そのころ、志村は、商品販売のための会社を設立したが、法人設立理由、取扱商品、他の役員など知らない。)、昭和六二年、再度、被告法人の職員である中部教区の教区長となり、平成三年、被告法人本部の伝道局次長となり、その後、信者団体である開拓教会の教会長となった。
志村は、昭和五八年、被告法人の職員である教会長になった後、被告法人の組織団体の概要を初めて知った。
なお、宗教法人の伝道活動と連絡協議会、販社などの伝道活動の差は、志村の認識では、前者では、氏族伝道として知人、親族に対する伝道を中心とし、路傍伝道をせず、後者は、路傍伝道をきっかけとしてビデオセンターにおいて伝道する方法を採った(甲三三〇、乙一二七の一ないし九、一三八、乙一五三ないし一五五、証人志村貞三、証人定夫、証人岡村信男及び弁論の全趣旨)。
(4) 証人松田泰正(以下「松田」という。)は、被告法人の信者であるが、昭和五五年、献身し、昭和五七年、二一日修練会に参加し、同年、祝福を受け、昭和五八年、ビデオセンターである名古屋教育文化センター所長に就任(連絡協議会中部ブロックの大野総団長の推薦)、昭和五九年、被告法人静岡教会の臨時教会長となり(大野総団長の推薦)、同年、金山の青年団団長となり、以後、昭和六一年、岐阜青年団団長、平成二年、栄の青年団団長、平成三年、三河ブロック副ブロック長、同年、中部地区青年団組織の伝道部長、平成五年、愛知教区青年団伝道部長、平成六年、愛知南教区の青年団青年伝道部長などを歴任し、その後、開拓教会の教会長となった。なお、松田は、連絡協議会の大野総団長の依頼により神仏具販売の特約店である株式会社の代表取締役として名前を貸したことがある。
松田は、連絡協議会の発足過程を知らず、同協議会の解散は、信者が同会から抜け、運営ができなくなったためであると認識する。なお、連絡協議会の地区が、献身者名簿を管理する(甲三二五ないし三二七、乙一二七の一ないし九、一四一、一五三ないし一五五、証人松田泰正の証言及び弁論の全趣旨)。
(5) 証人泉澤清恵(以下「泉澤」という。)は、被告法人の信者であるが、昭和六二年、献身して連絡協議会の青年団に所属し、昭和六三年、二一日修練会に参加し、その後、ビデオセンターのカウンセラー、新生トレーニング等の班長、マイクロ隊による珍味販売、神仏具店での念珠販売等に従事し、平成四年、祝福を受け、その後、ビデオセンターの会計を担当した。
泉澤の所属した青年団の団長は、同人に対し、ビデオセンターでの活動の他、マイクロ隊での珍味販売、神仏具店での念珠販売などを指示したが、同人はその都度指示に従って従事する活動を変えた。
泉澤は、ビデオセンターの会計を担当した当時、連絡協議会とハッピーワールド、販社、特約店との区別、その関係についてあまり知らなかった(乙一三九、一五三及び証人門柳定夫、証人泉澤清恵及び弁論の全趣旨)。
(四)(1) 被告法人の主催する修練会は、二一日修練会、四〇日修練会、牧会者修練会などであり、大きな修練会は、千葉中央修練所、宝塚修練所において行われる(証人岡村信男)。
(2) 千葉中央修練所の講師は、被告法人の伝道教育局に属する専属講師である(証人岡村信男)。
二 被告法人と連絡協議会、販社などとの関係
前項認定の事実関係のほかに、前示した争いのない事実及び認定事実を併せ考察すると、次の事実が認められる。
1 法主体性
被告法人は、昭和五七年ころから、宗教法人としての宗教活動(伝道活動、布教活動など)と収益事業として企業活動を分離して、宗教法人法はもとより、税法上の取り扱い上疑義を招かないような組織上の整備を重ねた。したがって、ハッピーワールド以外の販社などの株式会社や、連絡協議会の組織体系(ビデオセンター、ホームなど)は、法律上、被告法人とは別個の法主体である。
2 人事交流の態様
(一) 連絡協議会のトップクラスとはいえないが、ブロック責任者、そのスタッフなど、地区責任者、スタッフなどの中間的な責任者などにある者が、被告法人の教区長、教会長となり、逆に被告法人の職員から連絡協議会、販社、特約店などの責任者、スタッフ、あるいは社長、役員、社員になるなど関連する法人同士の間での人の移動があるという意味において人事交流はある。
しかし、右両組織を法律上、一体視する意味での人事交流があるというためには(それが連絡協議会の発足当時から既に行われていたとしても)、なお人事異動の内容、その他を個別労働契約、その他に即して検討しない限り、断定できない。
連絡協議会の発足、解散は、いずれも古田、小柳など組織のトップが決定し、末端組織の信者らはその決定に関与しない。
右トップを除いては、末端組織の役職者であっても、連絡協議会とハッピーワールドを頂点とする販社、特約店の系列との関係については、詳細を認識していなかった。
(二) 前示したところによれば、被告法人と連絡協議会、販社などとの間において、人事異動の指示は、通常、信者が所属する一方の組織の上司から伝えられ、他方の組織に移動する。この場合、他方組織がいかなる法律条件の下に信者の移動を取り扱ったかは必ずしも明らかではないが、当該信者の意向を聞いて移動を決めた事実は窺えない。
さらに、原告ら六名はもとより、前示した志村、松田など被告法人内部において相応の地位にあった者であっても、その移動がいかなる法律関係に基づくかを知らない模様である。
しかるとき、右の宗教法人と連絡協議会、販社などの両組織において、一方から他方に、あるいは逆にそれぞれ移動を決める責任者はいた筈であり、なんらかの法的な処理がされた筈であるから、一定の指揮監督関係がある組織の存在を窺わせるものといえる。
また、連絡協議会の地区本部長、青年団団長、会計等の職は、いずれも祝福を受けた者、つまり被告法人が行う儀式を経た者が担当したことが認められるが、被告法人と連絡協議会、販社などにおける各昇進において、他法人における一定の職務を遂行したことが要件になっている、とも推測されるが、なおここでは断定を控える。
(三) 昭和五九年以降において、被告法人、連絡協議会、販社などは、それぞれ布教に務めたが、既存の信者とかかわりを持たないいわゆる新規信者(会員)の獲得は、連絡協議会のビデオセンターが中心であり、昭和六〇、六一年ころには新規信者の獲得について多大な成績を挙げていた(連絡協議会が解散した後、平成四年ころからは、信者の団体である開拓教会が信者開拓の中心にある。被告法人が独自に行う伝道のあり方は右解散の前後で変わりがない。)。
3 宗教的活動の特色
被告法人においては、新規信者が、教義を知り信仰を理解し、深めるのは、主に、最初はビデオセンターに通い、受講料を払ってセミナーなどに参加することであって、そこでは、宗教的な知識を習い親和する側面と対価を支払って宗教的なサービスを買う、あるいは消費する側面を持つ。
次に信者は、入門を終え献身するまでの間、連絡協議会の下部組織に暫定的に組み込まれて補助的スタッフとなり、また、宗教的にも意味のある販売活動や街頭アンケート活動に従う。
信者が献身した後に、信仰に捧げる諸活動は、一般社会の場において、外形上は、宗教上の形態、表現を顕すことなく、商品販売という商業活動そのものにみえる場合が少なくない。それは、純然たる企業活動との区別をつけにくい。
三 小括
以上の検討結果によれば、被告法人と連絡協議会の全国組織体、その他及びハッピーワールド以外の企業群、その他との関係は、多数の法人格を否認して然るべき一体的な組織であると未だ断定することはできない。しかし、前示した各県、各地方にまたがる複雑、頻繁な移動を伴う活動内容の変転は、双方組織間を統合する人事指揮者による何らかの統制なくしてできないことにかんがみれば、大別、二つの組織系列にある法人群間において、実質的に一体的な関係、あるいは指揮監督関係があるのではないか、と疑うことは根拠のないことではない。
ところで、本件においては、右の一体的な関係に該当する事実関係には、二つの領域がある。一方は、営利追求事業であり、他方は、宗教上の伝道、修行、学習活動である。
次に、右の二つの領域には、各明瞭な分野があるほか、相互に浸透しあって境界が分かりにくい領域もある。そこには二つの側面がある。一面は、信仰心が動機、目的にあるとしても、商業活動とみるべき行為であり、他面は、収益性を消し去れないものの布教、修行とみるべき宗教行為である。
右のうち、前者は、商業活動であるから、被告法人と連絡協議会、販社などとの法律関係を調べることにより法人格が別個であるとしても、指揮監督関係の有無を検討すべき事柄であるのは、一般的な企業法人と変わるところはない。これに対して、後者は、外部的には指揮監督関係があるようにみえたとしても、それは法的な契約あるいは合意などによるものではなく、個々人が教義に従う内心における信仰上の決断(回心とまでいえないとしても、個々人における宗教的な自覚)に基づく社会的行為、すなわち、独立した宗教行為の集積であるとみるべき場合がある。
以上によれば、本件において、原告ら六名がそれぞれ主張する入教から棄教までの各事実関係について究明するとき、宗教団体とその外郭団体との関係、広い意味での宗教的団体の組織内部を、信教の自由を尊重しながらも法の支配を貫くため、当該団体などに対して、踏み込んだ審理、判断を加えざるを得ないことがある。
そこで、本件では先ず、各原告らに関する侵害行為の有無内容を判断し、違法な侵害行為があるとした後に、さらに各原告毎に責任原因の有無をみるため必要な限度において、被告法人と連絡協議会という全国組織体、その他、ハッピーワールド以下の企業群などとの関係を仔細にみることにする。
第二 争点2(侵害行為)について
一 入教から棄教まで・総論
前記認定事実に加え、甲三四三の一ないし一〇、三四三の一六ないし三三、三四三の三五の一、二、三四三の三六ないし四二の一、二、三、三四三の四三の一ないし一六、三四三の四八ないし六九の一、二、原告羽佐田美千代、原告大村幸子、原告岩瀬知里、原告永田暁美、原告鈴木仁美、原告小栗育代の各本人及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 はじめに
入教のプロセスは、被告法人による入教のプロセスと、連絡協議会による入教のプロセスとがあるが、本件原告らは、全て連絡協議会のビデオセンターから入教しているので、まず連絡協議会のプロセスについて判断する。
2 入教の過程
ある人が連絡協議会の下部組織であるビデオセンターを通じて入教する過程は、時期、地域によって若干の差異はあるが、大要、①ビデオセンターへの勧誘(伝道)、②ビデオセンター、③ツーデイズセミナー、④ライフトレーニング、⑤フォーデイズ(または上級ツーデイズ、上級スリーデイズ)セミナー、⑥新生トレーニング、⑦実践トレーニングを経て、⑧献身するというものである。
ビデオセンターは月に数回程度の通学講義であり、ツーデイズセミナー(以下「ツーデイズ」という。)、フォーデイズセミナー(以下「フォーデイズ」という。)は合宿セミナーである。ライフトレーニングは通学の集中研修であり、新生トレーニング、実践トレーニングは、連絡協議会のホームにおいて集団生活を行う長期研修である(以下、これらを総称して「セミナー等」という。)。
右セミナー等は有料であり、受講生は受講料を払って参加する。内容はいずれも被告法人の教義の講義であり、ビデオセンターではビデオ講義が、他のセミナー等では講師による生講義がそれぞれ行われる。セミナー等が実施される会場はそれぞれ異なるが、その中心はビデオセンターであり、スタッフもビデオセンターから派遣される。
ビデオセンターでは、右過程のうち、ライフトレーニングまでは、被告法人の教団名や文鮮明の名前、セミナー等の主催者が連絡協議会であることは伏せておき、フォーデイズに参加する直前にはじめてこれらを明らかにする(なお、被告法人と連絡協議会とが法人格を異にすることは必ずしも明示されない)。
新生トレーニング以降は、家を出て、ビデオセンターのホームに泊まり込む。
実践トレーニングでは、「実践」と称して、献身した信者(以下「献身者」という。)と同様に、街頭アンケート活動、珍味などの訪問販売、連絡協議会の主催する各種展示会への動員などの各種活動(後述)が始まり、ノルマも課される。
右の過程では、受講生は、段階毎にビデオセンターのスタッフによって成長度を判定され、教義に疑問を抱いたり、家族が強く反対するなど問題があると判断された場合には、その段階に止まって学習を続け、問題がなくなったと判断された時点で次に進む。時には、一旦進んでから、前の段階に戻されることもある。
多くの受講生がフォーデイズまでの段階で来なくなるが、フォーデイズを経験してなおビデオセンターに通う者は、おおむね献身者に至る。
街頭アンケートにおいて声をかけられた者が実際にビデオセンターに入会する割合は低く、数パーセント程度であり、入会した者のうち、献身にまで到達する割合は、被告側証人である岡村、小柳、志村、松田らの認識によれば三ないし五パーセント程度であり、原告らの認識によればもっと多いが、いずれにしても途中で相当数の受講生が辞める。
(一) ビデオセンターの勧誘(伝道)
連絡協議会において、新規信者の勧誘を伝道と呼び、その方法には、①見知らぬ人に街頭アンケート名目で声をかけ、ビデオセンターへ連れていく路傍伝道、②知人や親族を紹介するFF(ファミリー、フレンドの略称)伝道、③印鑑や念珠などの訪問販売をきっかけとする訪問伝道などがある。伝道された人がビデオセンターへ行くことに応じた場合、伝道した人を霊の親、された人を霊の子と呼び、霊の親は、霊の子が献身まで進む間、途中で辞めることがないよう、アフターケアとして、手紙やちょっとした贈り物、電話などを頻繁に行って激励する。
ビデオセンターでは、来場者をゲストと呼び、新規ゲストに応対する担当者をトーカーないし新規トーカーと呼ぶ。トーカーは、予め霊の親からゲストの悩みや願い、問題意識(これらを総称して連絡協議会内部ではニードと呼ぶ。以下「ニード」という。)を聞き出し、ゲストを賛美しながら、ビデオセンターがゲストのニードに応えられるところであることを強調し、霊の親と一緒になって、共に勉強しましょうなどと入会を勧める。
(二) ビデオセンター
入会を決めたゲストに対しては、担当するカウンセラーが決められる。カウンセラーは、ゲストがビデオ講義に通い、学習する間、終始にこやかにゲストと応対し、決して否定的な態度を取らず、ゲストとの間に信頼関係を醸成し、ゲストがツーデイズ、フォーデイズ等に参加するよう働きかける。
(三) ツーデイズセミナー
ツーデイズは、連絡協議会のブロック単位で開催し、被告法人の修練所等が会場となる。ツーデイズで最も重要な役割は班長であり、班長は、受講生に対し包み込むような態度で接し、ニードを聞き出し、ライフトレーニング、フォーデイズに参加するよう働きかける。
セミナー中は、家族や友人との電話連絡は禁止され、受講生間の会話も制限される。
講義内容は、ビデオセンターと同じであるが、このセミナーにおいて初めて、救い主である再臨のメシアが現在すること、墜落人間が救われる可能性があることの示唆があり、講師は、メシアが誰であるかは、次のライフトレーニングないしフォーデイズにおいて明らかになると告げる。
カウンセラーを含めたビデオセンターのスタッフは、ツーデイズの終了後、祝賀会を開き、受講生を賛美しねぎらう。この段階でもなおフォーデイズ、ライフトレーニングに参加することを決めていない受講生に対しては、参加を決意するよう説得する。
(四) ライフトレーニング
ライフトレーニングは、ツーデイズの翌日から始まり、ビデオセンターの教育部が担当する。受講生は、一五日から一ヵ月の間、毎晩仕事や学業が終わった後、会場となる施設に通い、講義を受け、食事をして解散する。受講生は、この段階で初めて他の受講生と話しをする。スタッフは、様々な機会を利用して、受講生が、偶然の幸運や不運を「神様の働き」「サタンの働き」ととらえるよう働きかけ、自分の行動、周囲の状況等について、スタッフに対し常にホーレンソウ(報告・連絡・相談)をするよう求める。
最終日は、ワンデイと呼ばれ、メシアの証と題する講義が行われる。右講義では、文鮮明の名前、同人のみがメシアの条件を満たすこと、文鮮明を支える団体が被告法人であること、これまでのセミナー等の主催者は被告法人ないしその関連組織であること(その関係については明示されない)が説明され、マスコミの被告法人等に対する誹謗中傷は、サタンが働きかけた結果であるから、惑わされないようにとの注意がある。
(五) フォーデイズセミナー
フォーデイズは、連絡協議会のブロック単位で開催され、被告法人の守山修練所など市街地から離れた自然の中にある施設が会場になる。
ツーデイズと同様、緊急時以外は外部への連絡は禁止である。
受講生は、これまでとは違い、被告法人の伝道活動であることを自覚して参加する。文鮮明の提唱する統一運動、勝共理論、文鮮明の活動の軌跡などが新たに加わり、ブロック長等の説教がある。講義の要所に感動的な音楽が流されるなど演出にも工夫が凝らされる。聖歌や祈り、受講生自ら出演する上演会(和同会)の時間があり、会員が祈祷をし、泣き出す者が続出するなど感情の高揚した状態が続く。受講生は、セミナーの期間中、何度も、献身することが神を喜ばせると聞かされる。
班長は、セミナーの期間中、毎日班長面接を行い、全員が新生トレーニングに参加し、最終的には献身することを決意するよう働きかけると共に、受講生の成長段階を判定し、財産内容、実家の状態、恋人や婚約者の有無等の個人状況を聞き出す。障礙があって新生トレーニングへ進めないという受講生に対しては、障礙の内容を具体的に聞き出し、対策を伝授する。最後の班長面接は、最も感情の高揚する講義の直後に行い、受講生に対し献身の決意の有無を尋ねる。決意しない者については、翻意するよう朝まで説得を続ける。大部分の受講生は、献身すると返事をするが、献身後の活動について具体的なイメージは持たない。最終日には宣誓式があり、受講生は、皆の前で、統一協会に献身し神のために(ないしは文鮮明夫妻のために)生きる旨の宣誓をし、引き続いて献金をする。班長は、受講生に対し、所持金の全額を献金するよう強く勧める。
ビデオセンターのスタッフは、終了後、ツーデイズと同様に祝賀会を開き、受講生を賛美しねぎらう。
(六) 新生トレーニング
新生トレーニングは、フォーデイズ終了の二日後から始まる。フォーデイズ終了の翌日に面接があり、班長が、参加者と共に家を留守にする口実を考える。トレーニング参加者は、自宅を出て、信者らが集団で居住するアパート等(信者の間では、ホームと呼ばれる。以下「ホーム」という。)に泊まり込み、ホームから会社や学校に通い、帰宅後は講義を受ける。
(七) 実践トレーニング
実践トレーニングは、新生トレーニングと同様、ホームに起居して講義を受講する研修であるが、決まった期間はなく、参加者の献身をもって終了する。献身後の信者活動の実践として、街頭アンケート活動、展示会動員活動等が始まり、参加者全員がこれを経験する。
いずれの活動についても、まず、活動の意義を被告法人の教義と関連づけて説く講義が行われ、受講生は、スタッフの指導の下、マニュアルに基き、想定問答等の反復練習をする。各種展示会においては、受講生は、これらの物品を購入することは、親族本人のためになると信じ、班長と協力して、自分の家の財産の程度、決定権の所在、霊界や因縁に対する感覚等を検討して商品の売値を決め、購入させる算段をする。
3 献身後の活動
(一) 献身
それまでの職を捨て、家を出て、信者としてビデオセンターの活動に専従することを献身と言う。献身後の信者は、ホームで生活し、食事の提供を受ける。仕送り、退職金、自分の財産などがあればすべてホームの会計担当者に渡し、ホームの会計から月一万円ないし一万五〇〇〇円程度の小遣いの支給を受ける。
(二) 献身以後の諸活動
献身後の信者は、当初連絡協議会青年部(ビデオセンター)に配属されて活動するが、一定期間経過後は、青年部から国際機動隊等へ派遣されて活動し、その後、また連絡協議会へ戻された。その間、信者としての成長段階に応じて、二一日修練会、合同結婚式(祝福)など被告法人の主催する活動に参加した。いずれも参加資格が必要であり、資格の有無は、連絡協議会等での上司が判断した。
(1) 青年部
献身後の信者は、四、五ヶ月ほど、珍味売り、街頭アンケートを経験した後、ビデオセンターのカウンセラー等の各種活動(後記(四)、(5))に従事する。
(2) 学生部
学生は、卒業後に献身するため、実践トレーニングを終了した後、献身までの間、連絡協議会の学生部に入って活動する。
学生部では、ホームに起居し、仕送り等は全てホームに入れ、青年部と同様の活動をする。学生部の活動と学業が競合するときは、学生部の活動を優先し、許可をもらって学校へ行く。
(3) マイクロ隊、国際機動隊
献身後の信者は、献身後一定期間を経た後、マイクロ隊や国際機動隊に派遣される。これは、六、七人のチームを組み、マイクロバスやワゴン車を改造したキャラバンに寝泊まりしながら各都道府県を回り、連日、戸別訪問をして、珍味やお茶を販売し、難民救援募金名目で金を集める活動である。国際機動隊は、珍味売り、お茶売り、募金活動など活動内容ごとに分かれ、各々五つ程度のキャラバン隊から構成される。キャラバン隊は全国に散って活動するが、それぞれ独立採算制を取り、集めた金から経費を差し引いた残額を東京の上部組織に送った。
キャラバン隊隊員は、ろくに栄養もとらず、睡眠もとらず、朝早くから深夜まで戸別訪問を繰返し、ノルマが達成できるまで車に帰らず、帰っても再度戸別訪問に出されるなどの苛烈な活動を続けるため、一、二年程度でほぼ全員が健康を損ね、居眠り運転のため事故に遇う者や、犬に咬まれて大怪我をする者もいた。
この活動は、体を壊して歩けなくなるか、精神的に参ってしまうまでキャラバンから下りることができないため、現代の奴隷船と呼ばれたが、同時に、厳しい生活である分、一番神に出会える場、文鮮明の心情が伝わる場であるとして、献身後の信者の間では、特別な意味を持つ活動と認識されていた。
(4) 二一日修練会
献身後の信者は、献身後一定期間を経た後、被告法人の主催する二一日修練会に参加する。参加資格は、上司により、積極的に伝道実践を目指す人材であると判断されることである。修練会の会場は、被告法人の千葉中央修練所、宝塚修練所であり、全国から集った参加者が、二一日間、講義を受け、珍味売り等の活動をする。
二一日修練会の終了後は、修練会の上司の指示により、異なる場所に異動することもある。
(5) 成約断食
成約断食は、被告法人の教義に基く七日間の特別な断食であり、祝福を受ける条件の一つである。献身後の信者は、販売ノルマの達成を祈るため、達成できなかった反省のためなど様々な理由で断食を行うが、これらとは別に、被告法人の教義に基き、時期を見計らって成約断食を行った。
(6) 人事異動
青年部や国際機動隊への異動、二一日修練会、合同結婚式、祝福後の同居等の可否、その時期等は、信者本人のあずかり知らないところで決められ、直上の上司から突然告げられる。
献身後の信者は、ホームで共同生活をするが、これらの異動がある度に他のホームへ移動し、同様の生活を送る。ホームにおいては、その日の出来事や考えたことを記入する心情日記を書き、上司に見せて、その指導、監督を受ける。
(三) 活動の内容
(1) 物品販売と伝道
献身後の信者は、(5)項のような各種活動を行い、②以下の活動のように、外形上、一般の企業活動とも見える活動を、「経済」と呼んだ。これらのように物品販売が主目的のものであっても、客との会話がきっかけとなってビデオセンターに連れていく(伝道する)ことができるので、信者は、常に伝道を意識して活動することとされた。
(2) 活動の意味
信者は、各種活動のいずれについても、初めて従事する前には必ず研修を受け、活動の意味を教義と関連づける講義を受ける。物品販売等経済活動の側面を強く持つ活動についても、信者以外の一般人にとっては、物品の購入自体が本人の知らないところで霊界での徳を積むことであり、信者は、彼らの霊界のためにも物品を販売すべきであるとされ、販売が失敗すると、信者自身の信仰が足りないために客が霊界での徳を積む機会を永遠に奪ったと非難された。
(3) 規範との抵触
各種活動の中には、⑥の募金活動のように、名目を偽ったり、③、⑤のように、悪い因縁を告げて販売するなど道義上、法律上問題を生じる可能性がないとはいえないものもあるが、「天法は地法に勝る」として、被告法人の教義のためにするならば許されるとされ、抵抗感を持つ信者に対しては、抵抗感を持つこと自体が信仰上よくないとされた。
(4) ノルマ
右各種活動は、全てについて、販売個数、勧誘人数等のノルマがあり、これを達成できないのは自己の信仰が足りないためであるとされた。しかし、ノルマとして与えられる数値が過大であるため、実際に信者がノルマを達成できることはほとんどなかった。
(5) 各種活動
これらの活動は、ビデオセンターを中心にして行われた。
① 街頭アンケート活動
街頭アンケート活動は、街頭に立ち、道行く人に声を掛けてアンケートへの協力を頼み、これをきっかけに話をしてビデオセンターへ勧誘する活動である。
② 珍味売り、お茶売り
珍味売りは、二人一組で戸別訪問をして、原価五〇〇円程度の昆布、ほたてミミなどの海産珍味を二〇〇〇円程度で販売する活動であり、お茶売りは、同様に戸別訪問をしてお茶を販売する活動である。
③ 各種展示会への動員、トーカー、ヨハネ役等
連絡協議会内部では、壺、多宝塔、宝石、着物など、連絡協議会ないし販社等が開催する展示会に、知人、親戚等を勧誘する活動を動員と呼んだ(以下「動員」という。)。ビデオセンターの新規ゲストも献身するまでは動員の対象となった。
いずれの展示会でも、販売担当者を指して「トーカー」と呼び(なお、前述のように、ビデオセンターの新規ゲストの対応をする者も、「トーカー」ないし「新規トーカー」と呼ばれる。)、トーカーを褒め称えて権威を高める役割を指してヨハネ役などと呼ぶ。
展示会のうち、壺、多宝塔などの展示会では、トーカーが霊能師役を担当し、動員した者は、ヨヘネ役を務める他、動員された者の人間関係、先祖等の情報をあらかじめ聞き出してトーカーに伝える。トーカーは右の情報をもとに先祖のお告げ、悪い因縁などを話し、動員された者に対し、因縁克服のために壺などの購入を勧めた(以下「因縁トーク」という。)。また、宝石、着物など因縁トークを使わない展示会においても、トーカーがアドバイザーとして動員された者につき、ヨハネ役と共に賛美して購入を勧めた。
④ ビデオセンターカウンセラー
ビデオセンターのカウンセラーの任務は、ゲストとの間に信頼関係を醸成して、①ゲストの情報(年齢、勤務先、家族、財産状態、ニードなど)を把握すること、②ビデオ講義の内容を権威付け、最後まで受講させること、③ゲストに対し、ビデオセンターに通っていることやビデオ講義内容等を外部に漏らさないよう注意すること、④ゲストに次の段階の受講を決意させること、⑤①で把握した情報に基いてゲストを各種展示会に動員させることである。カウンセラーはゲストをビデオセンターにつなぎ止める重要な役割であり、ゲストと相性が合わない場合には、他のカウンセラーと交替した。
⑤ 印鑑、仏壇、仏像、運勢鑑定チケット等の訪問販売
印鑑、仏壇、仏像、運勢鑑定チケット等の訪問販売は、戸別訪問をして姓名判断をし、開運の印鑑や仏壇等を販売する活動である。姓名判断の結果は必ず何か悪い因縁があると告げることになっており(因縁トーク)、運勢改善のために印鑑や仏壇、仏像の購入を勧め、よい霊能力者がいるから詳しく占ってもらうとよいなどとして運勢鑑定チケットの購入を勧めた。
⑥ 募金活動、ハンカチ売り
募金活動は、難民救済等の名目で戸別訪問し、募金を集める活動であり、主として国際機動隊が担当した(神社などで募金を集めることもある)。集った募金は、全額(国際機動隊では、個々のキャラバンの経費を除いた全額)が献金として連絡協議会などの上部組織に送られたが、その中から実際に難民に送られた金額は僅かであり、残りの金員の流れは不明である。
ハンカチ売り等は、同時に、ボランティア名目でハンカチ、靴下等を売る活動である。
⑦ セミナー班長
セミナー班長の目標は、受講生全員に次の段階へ進む決意をさせることである。何人次の段階に進ませたか、フォーデイズの場合には、どれだけ献金させたかなど、班長間でも競争があり、上司から発破がかけられる。
ツーデイズの班長は、受講生にライフトレーニング、フォーデイズへ参加する決意をさせることが目標であり、そのために、①ビデオセンターに照会して受講生全員の個人状況を把握し、②講師を権威付け、その権威が侵されないよう、受講生の質問をコントロールし、③班長面接以外の時間にも受講生と面接するなど細やかな注意を払う。また、印鑑や数珠の購入を経て参加する受講生に対しては、他の受講生に知られないよう、口止めをする。
フォーデイズの班長は、全員に献身の決意をさせることが目標であり、ツーデイズと同様、あらかじめ受講生の個人状況や特性に関する情報を把握し、講師の権威付け等をする。また、フォーデイズの最終日には献金の時間が設けられるが、班長は、上司から、受講生の所持金全額を献金をさせるようにとの指示を受け、貴重品を預かるとの名目で受講生から財布等を預り、所持金を確認する。
⑧ 借入れの名義貸し(HG)
信者の名義で銀行等から借入れをすることを指す。信者は名義を貸すのみで、返済等の管理はビデオセンター等の会計が行う。
4 祝福
(一) 合同結婚式
合同結婚とは、被告法人の教義に基く結婚のことを指し、祝福とも呼び、これによりはじめて原罪等が治癒され(血統転換)、幸福な家庭(祝福家庭)を構築でき、救済が実現するとされる。献身後の信者の間では、祝福を受けることが大きな目標とされ、祝福以外の結婚も、結婚しないことも共に教義に反するとされる。祝福の相手方は文鮮明が選び、この相手のことを特に相対者と呼ぶ。
国際合同結婚とは、日本人以外の相対者と結婚することを言い、日本の献身後の信者の場合には、いわゆる韓日祝福(韓国人と日本人との組み合わせ)の方が、日本人同士の組み合わせである日日祝福より価値が高いとされた。
(二) 条件
祝福を受ける条件は、①成約断食をしていること②蕩減献金(一万円程度の一定額の献金を三年間続けること)をしていること③献身して三年以上経っていること④霊の子が三名以上いることであるが、これらを満たさない場合であっても、上司の判断により祝福を受けることもあった。祝福を受ける準備ができたと判断された献身後の信者は、上司から祝福の決定と相対者の指名等を知らされ、渡韓して韓国で行われる合同結婚式に参加する。その際、費用等を含めて百数十万円の祝福献金を準備するようにとの指示を受ける。
祝福を受けてもただちには同居せず、それぞれ別々に活動し、三年程度経過してから同居する。同居に至った夫婦の所帯を、祝福家庭という。
5 棄教
(一) 脱会阻止
献身後の信者の中には、心理的、肉体的に苛酷な各種活動についていけない者がいたが、被告法人の教えを知らない者と知って従わない者とでは後の方が罪が重いとされ、信者は、連絡協議会の活動を止めると、自分だけでなく、家族や先祖までが永遠に霊界で苦しむと言われ、これを信じた。
(二) 反対牧師活動
献身後の信者は、いわゆる反対牧師に対抗する方法についての講義を受けた。
(三) 脱会手続
原告らは、棄教するに当たり、連絡協議会の存在を認識しなかったので、被告法人に対し、それぞれ脱会届を提出した。
二 入教から棄教まで・各論
(原告羽佐田について)
前記認定した事実に加え(第二章、第一と第三章、第二、一)、甲一ないし六一の一、二、七二、一七八ないし一九〇、一九二ないし一九四、一九六、一九七、乙一の一ないし二七、原告羽佐田美千代本人及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 入教の過程
(一) ビデオセンター
原告羽佐田は、大学時代、友人から、「原理研究会は恐ろしいところだから気を付けた方がいい。」と聞かされたが、被告法人の教団名や文鮮明等の名前は知らなかった。
原告羽佐田は、昭和五九年一月、幼なじみである永谷さと美(以下「永谷」という。)と会った際、永谷から、自分の通うビデオサークルが近くにある、ぜひ顔を出そうと誘われ、金山のビデオセンターに行った。
原告羽佐田は、同センターにおいて、社会問題をまとめた短いビデオテープを視聴し、永谷から世話になっている人として中村某を紹介された。中村は、しきりに原告羽佐田を褒めるとともに、教養として聖書を勉強することを勧め、二時間以上の間、同センターに入会するよう説得を続けた。次いで、印藤博志(以下「印藤」という。)が中村と交代し、同様に原告羽佐田を褒め、入会を強く勧めてさらに二、三時間説得を続けたため、原告羽佐田は、根負けし、また永谷の顔を立てる意味もあり、実際に通うつもりはなかったが、形だけ入会手続をした。すると、印藤らは、次回来所予定を執拗に確認したので、原告羽佐田は、結局、次回来所日時を約束して帰宅した。永谷、中村、印藤は、右の間、被告法人の教団名、文鮮明の名前には全く触れなかった。
原告羽佐田は、永谷の手前もあり、約束した日時にビデオセンターに行き、自分を担当するカウンセラーとして知花某を紹介された。知花は、原告羽佐田の入会を大変喜び、歓迎したので、原告羽佐田は、知花を喜ばせるため、次回もビデオセンターに行くことにした。
原告羽佐田は、三度目にビデオセンターを訪れた際、視聴したビデオ講義の内容に疑問を抱き、感想文でその点を指摘したところ、印藤から、「ビデオ講義を全部見た後なら意見を聞く。」などと言われて憤慨し、一三本のビデオ講義を全部見て矛盾を印藤にぶつけてやろうと考え、ビデオセンターへの通学を続ける決心をした。
原告羽佐田は、右ビデオセンターにおいて、創造原理、墜落論、復帰原理等の内容からなるビデオテープを視聴したが、いずれも聖書の言葉を様々に引用し、被告法人の教団名、文鮮明の名前には触れないものであったため、原告羽佐田は、右の内容はいずれも聖書の内容であり、自分は聖書の勉強をしているものと信じた。
(二) ツーデイズセミナー
原告羽佐田は、同年二月ころ、知花に勧められてツーデイズに参加したが、その際、「両親には心配をかけないよう合宿に行くと言っておいたほうがよい。」と言われてこれに従った。
原告羽佐田は、セミナーの直前、ビデオセンターの歌集の表紙裏に、ゴム印で「世界基督教統一神霊協会」と押捺されていることを発見し、セミナーの班長に対し、ビデオセンター等と何か関係があるのかと尋ねたが、班長は、全く関係ないと答えた。同原告は、それまで被告法人の教団名を聞いたことはなかった。
原告羽佐田は、講義中、神様がわからない人は手を挙げるようにと言われて挙手したが、会場内で挙手した受講者が自分一人であったことに驚き、当惑した。
原告羽佐田は、セミナー最後の講義において、聖書の数字を当て嵌めると、再臨のメシアは一九三〇年ころ、一定の条件を満たす国に生まれる、詳しいことを知りたい人はフォーデイズに行くようになどと聞かされ、メシアが誰であるかを知るため、少なくともフォーデイズまでは参加しようと決めた。
原告羽佐田は、同セミナー終了後、ビデオセンターでの祝賀会に参加し、お祝いの色紙を贈られたが、何がめでたいのか分からず、とまどった。
(三)(1) ライフトレーニング
ライフトレーニングは、名古屋市中区栄所在の森ビル内の一室で行われ、原告羽佐田は、約二週間にわたり、同トレーニングに通った。講義はこれまでの内容の繰り返しであったため、同原告は、入会当初のような疑問は抱かず、知っている内容を確認する姿勢で講義を受けた。
原告羽佐田は、その後、以前からの計画に従い、一ヵ月渡米することにしたが、神がいると確信したいと考え、ビデオセンターのスタッフに相談したところ、蕩減条件として渡米中聖書を毎日三頁ずつ読むことを勧められ、これに従った。
(2) ワンデイ
原告羽佐田は、帰国後、ライフトレーニング最終日の特別講義であるワンデイに参加し、再臨のメシアは韓国に生まれた文鮮明であり、世界基督教統一神霊協会は文鮮明を支える団体であるなどの説明を受けた。原告羽佐田は、右の説明に感心し、文鮮明、統一協会に興味を持った。
(四) フォーデイズセミナー
原告羽佐田は、同年四月二六日から三〇日の間、被告法人の天白修練所において、フォーデイズを受講したが、その際、ライフトレーニングの担当者の指示に従い、両親に対しては、ツーデイズセミナーと同様に合宿に行くと告げた。
講義では、班長達が泣き出すのをきっかけに感泣する受講生が続出した。原告羽佐田は、これらの講義を聴いて感動したが、同時に、全員が泣いている周囲の雰囲気には馴染めないとも感じた。これを見た班長が、同原告が神を分からないことを悲しんで泣いたため、原告羽佐田は、申し訳なさを感じ、自分も神様のために泣ける人間にならなければと決意した。
セミナー最終日には宣誓式があり、受講生全員が宣誓をし、原告羽佐田も、右宣誓式において文鮮明夫妻のために生涯を捧げるとの宣誓をし、所持していた現金四〇〇〇円程度を献金した。
原告羽佐田は、フォーデイズ終了後、ビデオセンターでの祝賀会に参加し、お祝いの色紙を贈られたが、このときには当惑なく、スタッフらの期待に応えなければいけないと受け止めた。
(五) 新生トレーニング
原告羽佐田は、献身を決意した人は、献身までの間、原理の内容を深く勉強するため自宅を出てホームに入り、新生トレーニングを受けると聞いて、これに参加することを決め、班長と相談した上、両親には、卒論準備のため合宿すると説明して了解を取り、同年八月、一ヵ月程度のつもりでビデオセンターのホームに入居した。原告羽佐田は、このころには、統一原理など講義の内容は真理であると受け止め、覚えようと務めた。また、毎日原理講論を読むなどの蕩減条件を立てて実行した。
このころ、被告法人名古屋教会長が、原告羽佐田らトレーニング参加者に対し、「統一協会が薬を飲ませたことはないし、洗脳されたと言うことはないよな。」と確認した。
(六) 実践トレーニング
原告羽佐田は、新生トレーニング終了後の同年九月、引き続き他の新生トレーニングの参加者と共に実践トレーニングに参加し、講義を受講し、街頭アンケート活動、展示会動員活動に従事した。
(七) 学生部
原告羽佐田は、同年一〇月、連絡協議会の学生部に入り、本山、覚王山、池下のホームを転々し、街頭アンケート活動、珍味売り等に従事した。
原告羽佐田は、学生部において、所持金は全て出すようにとの学生部長の指示に従い、毎朝、早朝アルバイトの報酬月四万円程度を全額学生部長に渡し、一万円の小遣いの支給を受けた。
原告羽佐田は、そのころ、卒論準備の時間をくれるよう学生部長に申出たが、許可が下りず、活動の合間を縫い、三日間徹夜して間に合わせの卒論を書いて提出した。
原告羽佐田は、睡眠時間を削っての活動を苦しくも感じ、また、珍味売りやアンケート活動で身分を偽ったり、展示会でトーカー(霊能師役)に霊能があるかのように見せかけることなどに良心の呵責も感じたが、そのころ、原理研究会は恐ろしいところだと教えた友人が不慮の事故で死亡したため、自分が家に戻り、あるいは退会すると、家族や右の友人が霊界で苦しむと思ったこと、嘘をついてまでも神様のために頑張ることが必要であると言われてそう信じたことなどから、学生部での生活を止めるわけにはいかないと考え、文鮮明の言葉などを励みにして、これらの活動を続けた。
2 献身後の活動
(一) 献身
原告羽佐田は、新生トレーニングのころから将来的には献身するものと考えており、昭和六〇年一月ころ、卒業後すぐ献身することを決めた。同原告は、両親から献身の承諾をもらうようにとの竹中学生部長の指示に従って家に帰り、両親に対し統一教会に献身する旨告げた。父親は反対したが、原告羽佐田はそのままホームに帰った。
原告羽佐田の両親は、同月中旬ころ、同原告を連れ戻すため学生部に面会に訪れた。同原告は、竹中学生部長から両親を説得するよう言われ、いったん自宅に戻った。右の際、竹中学生部長らは、他の信者が、一週間の断食をして親を説得した例や、二階の窓から飛び降り、骨折した足を引きずりながら統一教会に戻ってきたなどの例をあげ、説得に失敗した場合には必ず戻るよう告げた。
原告羽佐田は、両親の説得に失敗したが、三日間断食をしたところ、両親は驚き、とにかく大学だけは卒業するようにと告げて、原告羽佐田をホームに帰した。原告羽佐田は、ホームに帰った後、竹中学生部長の指導を受けて両親宛に自分をあきらめるよう説得する手紙を書いた。
原告羽佐田は、同年二月、愛知淑徳大学を卒業して献身した。
(1) 青年部
原告羽佐田は、献身した後、同期生数名と共にいいとも青年隊(後にニューホープ隊と改名)に配属され、街頭アンケート活動に従事し、池下のホームで生活を続けた。
(2) 大野十字軍
原告羽佐田は、昭和六〇年三月、当時の中部ブロックの伝道部長の名前を取った大野十字軍と称する研修に参加した。大野十字軍は、実践トレーニングを終了して献身した者を集めた研修であり、珍味売りやアンケート活動の経験の少ない者を含めて全員にこれらの活動の経験を積ませる趣旨で行われた。参加者五〇名が北区にある二DKのアパート二部屋で寝起きし、午前中は珍味売りを、午後はアンケート活動をした。珍味売りには一日三万円ないし七万円程度の、アンケート活動にも一日何人とのノルマが課され、達成できないときには、梶原主任から信仰が足りないとの叱責を受けた。
原告羽佐田は、同年四月、大野十字軍での研修を終了し、池下のホームに帰って活動を続けた。同所では、上司の指示に従い、アンケート活動の報告、その日の心情等を記載した心情日誌を付けて毎日提出した。
(3) 本部教会員
原告羽佐田は、同年五月、被告法人の本部教会員テストを受け、同月二六日、被告法人の本部教会員として登録された(この点は当事者に争いがない。)。
(4) 成約断食
原告羽佐田は、同年六月、成約断食した。
(5) 岡崎教会に転属
原告羽佐田は、同年六月、上司の命令により、岡崎教会に異動し、同年一〇月までの間、アンケート活動、珍味売り、ビデオセンターカウンセラー、展示会動員、セミナー班長などの活動に従事した。
岡崎教会は、名鉄東岡崎駅近くのビルに所在し、団長、その下に教会長、チャーチマザー及びビデオセンター所長がいた。
岡崎教会では、壺、多宝塔、マナ、宝石(CB)、絵画、化粧品等の販売展示会を開催したが、これらの販売(経済)の担当者として横田晴美がいた。
原告羽佐田は、昭和六〇年八月ころ、岡崎教会で開催された宝石展示会において、販売ノルマ三〇万円を達成することができず、横田から叱責を受けたため、両親に真珠のネックレスの購入代金二五万円を出してくれるよう依頼し、送られた代金を全額横田に渡した。原告羽佐田は、右ネックレスの購入はノルマ達成目的の献金であると認識し、ネックレスを受取ったが、使用しなかった。
岡崎教会は、ビデオセンターに勧誘され献身した人が捧げる献金(退職金)、壺、多宝塔、高麗人参茶、宝石、絵画、化粧品等の売上の総合計を献金したが、原告羽佐田の認識によれば、献金の宛先は、被告法人であった。右献金額にはノルマがあり、その額は、原告羽佐田が同教会に所属した間、毎月、二〇〇万円、三〇〇万円、七〇〇万円、一二〇〇万円といったように増加した。
(6) 中部ブロック珍味隊
原告羽佐田は、同年一〇月、上司の命令により、中部ブロック珍味隊に転属し、改造したワゴン車に寝泊まりして珍味売りをする、通称キャラバン活動に従事し、三重県の尾鷲市周辺を回った。珍味売りの際は、統一教会の名前は絶対に出してはいけない、原理講論、文鮮明の写真なども持ち歩いてはいけないとの指示を受けた。
珍味売りにもノルマがあり、一人あたり一日四万から七万円と定められたが、実際には一日に二万から三万円の売り上げを達成するのがせいぜいであったため、文鮮明がどれほど苦労したのか考えたことがあるのかなどの叱責を受けた。
(7) CBS(印鑑研修店舗)
原告羽佐田は、同月末ころ、CBS(印鑑研修店舗)に転属し、印鑑の訪問販売活動に従事した。
原告羽佐田は、そのオリエンテーションにおいて、万物復帰の意義として、印鑑の販売が今非常に願われている、地上天国を作るために国際ハイウェイや日韓トンネルを造る費用として、日本の信者全体で、TV一〇〇(トータルビクトリーの略)、すなわち月間一〇〇億円ずつ献金しなければいけないなどの説明を聞いた。CBSでは、全員が毎日の売り上げ目標を立てるが、あまりに低い金額を設定すると、責任をもつ気持ちがないとして叱責を受け、目標に届かない場合には、文鮮明がお金を必要としているときに、神様がそのお金を用意していないわけがないなどとして、みせしめのため、「売れるまで帰ってくるな。」と言われて再度販売に出された。
(8) 富山印鑑店舗
原告羽佐田は、同年一二月、富山県内の印鑑店舗である高徳商会に転属し、印鑑販売、展示会動員、展示会受付、接待、展示会トーカー、募金活動等に従事した。これらの活動には、いずれもノルマが課された。
このころ、原告羽佐田の母親が、食事代、統一教会を辞めて帰る気になったときの交通費等を心配して二万円を送ってきたが、原告羽佐田は、右二万円を、そのまま印鑑店舗の山田店長に被告法人への献金として渡した。
(二) 二一日修練会
原告羽佐田は、昭和六一年二月、千葉中央修練所において、被告法人の主催する二一日修練会に参加し(この点は当事者間に争いがない。)、街頭アンケート活動、お茶売りに従事した。
(三) 国際機動隊
(1) 原告羽佐田は、昭和六一年三月、国際機動隊に派遣され、三日間の修練会に参加した後、一年二ヵ月の間、キャラバン隊による難民救援名目での募金活動に従事し、岡山、広島、島根、鳥取、山口、愛媛、香川、高知、奈良の各県を、ワゴン車を改造したキャラバンを交通手段として回った。
募金のノルマは一人あたり一日七万円であり、原告羽佐田は、一ヵ月に約一二〇万円、所属したチームは、一ヵ月におよそ八〇〇万円を集めた。国際機動隊は全国に六つあり、当時、全国の国際機動隊全体で一ヵ月に一億円以上の金額を集めた。
原告羽佐田は、難民に送るとして集めた募金のほぼ全額が被告法人に献金として送られていることを知り、隊長に対し、こんなことをしていいのかと聞いたが、かまわない旨の説明を受け、これに従った。
原告羽佐田は、国際機動隊に所属した一年二ヵ月の間、畳の上で寝たのは三回だけであり、他はワゴン車に寝泊まりした。洗濯は二週間に一回、入浴は週に二回、二〇分間、トイレは、駅や公衆トイレを使用した。
当初原告羽佐田と共にチームを組んだキャラバンの七名のうち、水虫がひどくなった、キャラバン隊の活動が嫌になったなどの理由で二人が教会での活動に戻され、他の一人は、活動についていけずに実家に帰り、一人は人事異動で他のキャラバン隊に行ったため、一年二ヵ月後には、原告羽佐田を含め三名のみが残った。
原告羽佐田は、募金活動に使用する重い鞄のため背骨がゆがみ、左足が上がらなくなったため、カイロプラクティックに行って治療した。また、国際機動隊の活動に従事した間、何回も犬に咬まれ、そのうち一回は左足を七針縫う傷害を負ったが、隊長の命により、手術直後、麻酔が抜けないうちに募金活動を始めた。また、昭和六一年夏ころ、四国において、運転手が居眠りしたためワゴン車がガードレールに激突する事故に遭い、額を三針縫う怪我をした。
このころ、母親が、原告羽佐田に対し、三万円を送ってきたが、原告羽佐田は、当時の上司である国際機動隊お茶隊中四国隊の益本優隊長に対し、被告法人に対する献金として全額を渡した。
(2) 原告羽佐田は、両足の指が巻き爪になって化膿したので、手術を受け、歩けなくなったため、昭和六二年七月、国際機動隊本部の食事当番に回された。
(3) 原告羽佐田は、同年一一月、国際機動隊一宮仏壇隊に転属し、仏壇販売に従事した。仏壇販売のノルマは、一日に一件の仏壇を売ることであったが、実際に売れたのは一ヵ月に三件程度であった。
このころ、母親が原告羽佐田に対し、二万円を送ってきたが、原告羽佐田は、一宮仏壇隊の橋本隊長に被告法人への献金として全額を渡した。また、昭和六三年一月、正月に自宅へ帰ることを許され、両親や親戚から合計一一万円のお年玉を受け取ったが、橋本隊長に統一教会への献金として全額を渡した。
(4) 原告羽佐田は、昭和六三年一月、霊石愛好会による運勢鑑定チケットの戸別訪問販売活動に従事した後、同年二月、国際機動隊横浜S(スペシャル)隊に転属し、仏壇販売に従事した。同年四月ころ、母親が、原告羽佐田に対し、三万円を送ってきたが、原告羽佐田は、S隊の綾博文隊長に被告法人に対する献金として全額を渡した。
(5) 原告羽佐田は、同年五月、埼玉県知事選選挙において、上司の指示により、特定の候補の選挙活動の手伝いとして派遣され、戸別訪問、ビラ配りなどをした。
3 祝福
(一) 原告羽佐田は、昭和六三年一〇月二五日、国際機動隊の総団長から連絡を受け、次の合同結婚式参加予定者に同原告が入っていること、ただし、親がもし反対すると被告法人に迷惑がかかるから、親には言わないこととの連絡を受けた。
原告羽佐田は、同月二六日、東京の勝利館という被告法人の建物に他の事業団員と共に集められ、古田コマンダーから祝福の心構えを聞かされ、同月二七日、相対者が韓国人であることとその名前を知らされた。
原告羽佐田は、同月二八日、被告法人により用意されたビザ、チケットにより渡韓した。韓国の統一協会の幹部は、原告羽佐田を含めた祝福参加者に対し、「祝福が終われば両親に連絡をしていい。」と告げた。
(二) 原告羽佐田は、同月二九日、結婚相手である洪正珉(ホン・チョンミン)(以下「洪」という。)と会い、聖酒式をした(この点は当事者間に争いがない。)が、お互いに言葉は通じず、片言の英語と漢字筆談をした。原告羽佐田と洪は、同月三〇日、国際合同結婚式の六五一六双の一組として結婚式を挙げた(この点は当事者間に争いがない。)。
原告羽佐田は、翌日、韓国から両親に電話し、洪と結婚式を挙げたことを告げ、同年一一月一日から一週間程度洪の親戚、職場の人たちに対する挨拶周りのため光州に滞在し、その後ソウルの教会で韓国語の勉強をするなどして、同年一一月二七日、帰国した。帰国後、他の祝福参加者と共に東京の世界日報の工場に集められ、日本にいる間に、韓国で世界日報の会社を作るための費用一〇〇万円、祝福の費用(ドレス、渡航費など)三〇万円、韓国での生活費二〇万円、合計一五〇万円を集め、翌年一月一三日に集合して再度渡韓するように、右の金員は、印鑑販売の歩合や、両親からもらって集めるように、との指示を受けた。
原告羽佐田は、両親が右一五〇万円を用意してくれるというので帰郷することにし、同年一一月三〇日、両親の元に帰った。
4 棄教
(一) 原告羽佐田は、平成元年一月一〇日、洪の家族へおみやげを買いに行くと言われ、両親と共に自動車で出発したところ、途中で原告羽佐田の叔父達が自動車に乗り込み、そのまま滋賀県内の民家(清水与志雄牧師宅)から民宿に連れて行かれた。
原告羽佐田は民宿に着くや、両親をあきらめさせるため、泣き叫んで断食を始めた。清水牧師がやってきたが、反対牧師と口をきいてはいけないという被告法人の指示に従い、泣きわめいて無視した。
翌日、原告羽佐田の叔母達、清水牧師らが民宿に来て、原告羽佐田の横で聖書の輪読会を始めた。原告羽佐田は、自分自身が氏族のメシアで叔父、叔母達をサタンの下から救い出す立場にあるにもかかわらず、これまで一度も聖書すら読ませていなかったことに気づき、悔しい思いを抱いた。三日目、清水牧師は原理講論の輪読会を始め、原告羽佐田は、泣き叫ぶことを止めた。四日目、清水牧師は過去の文鮮明のスキャンダルを叔母達に話し始めたため、原告羽佐田は、両親や親戚の復帰の途が閉ざされないよう、反対牧師対策の指示には反するが、清水牧師を説得して改宗させようと決意した。五日目、清水牧師が、原理講論を含む被告法人が出版した書籍類を大量に持参し、「再度勉強してみたらどうか。」と言ったため、原告羽佐田は、学生部入教以来原理講論をきちんと勉強したことがなかったことに思い至り、いい機会だから勉強してみようと考え、原理講論を読み始めたが、その際、従前から疑問を持っていた原理数の矛盾に気付き、被告法人の教義及び文鮮明に対する疑念が生じた。そこで、原理講論の他、被告法人の出版物以外の書籍をも同時に読むことにしたが、自分がこれらの書籍類を読み解く能力を喪失していることに気付き、驚くと共に、統一協会が同協会以外の出版物を読むことを禁止したことについて、被告法人に対する疑念がさらに広がった。原告羽佐田は、被告法人の教義が真理である証拠を探すつもりで他の神学書を読み進んだが、キリスト教の歴史を知るにつれ、被告法人の教義は嘘であり、被告法人の教えは間違っているのではないかと考え出した。原告羽佐田は、自分のしてきたことが間違っていたと認識することが怖く、すぐには結論を出さなかった、民宿にいた四〇日の間に、被告法人の教義である統一原理は誤りであるとの結論に達し、同年二月ころ、被告法人を脱会すると決めた。原告羽佐田が民宿にいた四〇日の間のうち、三〇日間は、五名から八名の親族が同原告の周囲にいたが、途中で皆帰宅し、最後の一〇日間は一人だった。
(二) 原告羽佐田は、同年三月三〇日、脱会した(この点は当事者間に争いがない。)。同原告は、同年五月ころ、父親と共に渡韓し、洪と会い、被告法人に対する自分の気持を説明した。洪は当初は原告羽佐田を説得しようとしたが、最後には離婚しかないと告げた。原告羽佐田は、同年一二月一二日、洪との協議離婚の届出をした。
(原告大村幸子について)
前記認定した事実に加え(第二章、第一と第三章、第二、一)、甲六二、六三、七四ないし七八、二九三、二九四、二九八の一、二、三一三ないし三一五、乙二四ないし一二三、原告大村幸子本人及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 入教の過程
(一) 印鑑販売による購入
原告大村は、昭和五九年一一月、自宅に被告法人の信者である三品智枝子(以下「三品」という。)の訪問を受けた。三品は、信者である事実を伏せたまま、原告大村から、両親から結婚を反対されているとの悩みを聞き出し、運勢を変えるために印鑑の購入を勧め、原告大村に印鑑を買わせた。その後、三品は、原告大村を度々訪問して励まし、同原告から信頼を得て霊能師と称する人物に会わせた。その霊能師役の人物は、原告大村に対し、同原告の悩みは先祖の因縁であり、先祖を救うためには出家するか命の次に大切な金を捧げなければならないなどと説き、五〇万円を捧げるよう勧めた。原告大村が、これを信じて同意したところ、霊能師役の人物は、同原告に壷一個を授けた。原告大村は、翌日、右の壷について、岡崎市所在の株式会社宝誉名義の額面五〇万円の領収書を三品から受けとった。
なお、原告大村は、本件訴えを提起する前の平成二年一一月、脱会直前に在籍した有限会社三省商会(後記3、(四))に対し、右の印鑑、壷等代金相当額の損害賠償などを求めて横浜簡易裁判所に調停を申し立てた(同庁平成二年(ノ)第一五三号損害賠償等調停事件)。同商会は、平成三年一月三〇日の調停期日において、原告大村に対し、印鑑等の代金相当額の九割と同商会での無償労働の対価相当金を合計した一〇七万七六〇〇円の解決金を交付し、同原告から、右印鑑、壷等の引渡しを受けた。
(二) ビデオセンター、ツーデイズ
霊能師役の人物は、原告大村に対して、因縁克服のため二一回ビデオセンターに行くよう勧め、原告大村は、これに従い、昭和五九年一一月下旬ころから、愛知県豊橋駅前のビデオセンター(以下「豊橋のビデオセンター」という。)に通った。同年一二月第二週には、岡崎市所在のビデオセンター(以下「岡崎のビデオセンター」という。)のスタッフである杉坂から熱心に勧められ、天白区の修練所で開催されたツーデイズに参加した。原告大村は、ツーデイズ終了後、同様に強く勧められてその日のうちにフォーデイズ参加を決めた。
(三) フォーデイズ(一回目)
原告大村は、ツーデイズから約一週間後、フォーデイズ開始の数時間前に、岡崎のビデオセンターにおいて講義を受け、その際、再臨のメシアが文鮮明であり、被告法人はメシアを支える団体であるとの説明を受けた。同原告は、当時、被告法人の教団名、文鮮明の氏名のいずれも知らなかった。同原告は、講義内容が宗教であると知って多少抵抗を感じたが、既にフォーデイズへの参加約束をしており、出発時刻も迫っていたこと、以前に霊能師役の人物から聞かされた因縁克服のための通学回数がまだ残っていたこと、講義内容を秘密にするよう言われ、相談する相手もいないことなどから、そのままフォーデイズに参加した。
フォーデイズは、守山の修練所で行われた。原告大村は、講義を受けて感動し、文鮮明のために何かしたいと考えたが、恋人と別れて献身する決意がつかず、班長面接では、新生トレーニングに出て頑張るとのみ答えた。
(四) 新生トレーニング(一回目)、フォーデイズ(二回目)
原告大村は、昭和六〇年一月中旬ころから、被告法人の岡崎教会において、二一日間にわたり新生トレーニングを受けたが、献身の決意はできなかったため、班長から、再びビデオセンターへ通うよう指導を受けた。原告大村は、昭和六〇年二月から四月ころ、週に一、二回程度の割合で、岡崎や豊橋のビデオセンターに通ったが、献身することはできなかった。
原告大村は、同年五月、被告法人の岡崎教会等の団長(原告大村の認識では、当時、被告法人の岡崎教会、連絡協議会の岡崎のビデオセンターの双方を統括する地位として、団長がいた。以下「団長」という。)から勧められ、守山の修練所で、二回目のフォーデイズを受けたが、なお献身の決意がつかなかったため、再度新生トレーニングを受けることになった。
原告大村は、岡崎のホームにおいて、約一ヵ月の間、新生トレーニングを受けた。
(五) 通いの活動
原告大村は、この段階でも、親や友人との関係を断ち切って献身することになお抵抗を感じたが、先祖を救うためにできる範囲の活動として、昭和六〇年六月から約五ヵ月間、実家から被告法人の岡崎教会に通い、週に一回、街頭アンケート活動をした。
(六) 新生トレーニング(二回目)など
原告大村は、そのころ、自分がビデオセンターに誘った人(霊の子)が献身を決めたことを聞いて、自らも献身を決意し、昭和六〇年一一月ころ、霊の子と共に新生トレーニングを受け、同年一二月ころ、実家を出て、岡崎のホームで生活を始めた。
2 献身後の活動
(一) 献身、浜松のホームへの移動
原告大村は、昭和六一年三月、献身し、岡崎のホームで生活しながら、上司の指示により、珍味売り、街頭アンケート活動をし、同年八月ころから約三ヵ月間、岡崎のビデオセンターの接待係、新生トレーニング班長補佐等に従事した。この間、これらの活動とは別に、月間最低三人をビデオセンターに入会させるノルマを負い、友人、知人の勧誘、街頭アンケート活動をした。
原告大村は、同年一一月、岡崎の上司の指示により、浜松市内のホームに移り、浜松市内のビデオセンターの接待係の仕事に従事した。
(二) 二一日修練会
原告大村は、昭和六二年二月、浜松の上司の指示により、被告法人が宝塚修練所において開催した二一日修練会に参加した。
(三) 浜松のホーム、一宮の店舗での活動
原告大村は、その後、再度浜松のホームに戻り、ホームの食事当番を担当した後、浜松の上司の指示により、マイクロ隊に配属され、昭和六二年五月から二ヵ月間、石川県、富山県内をまわって珍味売りに従事した。その後、再び浜松市内のホームに戻り、約二ヵ月間新生トレーニングの班長を担当し、同年九月、浜松の上司の指示により、一宮市内の店舗(原告大村の認識によれば、弥勒仏像等を扱うところであったが、その連絡協議会との関係は不明である。)に配属され、運勢鑑定チケット、弥勒仏像等の訪問販売に従事した。原告大村は、右活動において、マニュアルに従い、チケットや仏像販売の目的で、手相見や姓名判断をし、悪い因縁があると告げるなどして客を勧誘したが、上司からは、「うそをついて客に金を出させることが客本人のためになる。」と言われてそれを信じた。
(四) 国際機動隊
原告大村は、同年一〇月ころ、一宮の上司の指示により、国際機動隊に入隊し、当初珍味隊に配属されたが、すぐに募金活動のキャラバン隊(内部では「お茶隊」「カンパ隊」と呼ばれた)の東京隊に配属され、昭和六三年四月ころまでの約半年間、神奈川、埼玉県等の各県をまわり、連日、戸別訪問による難民救済名目の募金活動をした。原告大村は、集めた募金が難民救済には使われず、全て被告法人に送られると認識したが、上司から、「地上天国実現のための金であり、騙される人のためにもなるのであるからかまわない。」と言われてそれを信じた。
原告大村は、同年五月、上司の指示により、募金活動のキャラバン隊の九州隊に入隊し、平成元年九月までの一年五ヵ月間、鹿児島、熊本、長崎、佐賀等の各県をまわり、同様に募金活動をした。
3 祝福後の活動
(一) 祝福
原告大村は、九州隊に在籍中の昭和六三年一〇月下旬ころ、九州隊の上司から、祝福が決まったことを知らされ、同月二九日、渡韓して合同結婚式に参加した(なお、同原告は、少なくともこの時点においては、被告法人の本部教会員であったことが窺われる。)。原告大村は、渡韓する直前に相対者の氏名を知り、一人で合同結婚式に参加した後、帰国後の一一月一日、相対者に初めて面会したが、数時間話したのみで、すぐに再び九州隊に戻り、以後、相対者とは文通を続けた。
(二) 中四国隊の会計
原告大村は、祝福後の平成元年一〇月ころ、国際機動隊の上司の指示により、募金活動のキャラバン隊の中四国隊に配属され、中四国隊の会計(中四国隊隊長の次に位置する地位であり、連絡協議会内部では、後に「隊マザー」と呼ばれた。)となり、キャラバン隊の前線との電話連絡、後輩の指導等を担当した。
原告大村が会計を担当した間、中四国隊では、全体で月七〇〇万円程度の募金が集まり、原告大村は、右のうち、キャラバン隊等の経費を除いた残額(月四〇〇万ないし五〇〇万円程度)を、毎月、東京に所在し国際機動隊を総括する中心者に渡したが、その後の金の流れについては知らされなかった。
(三) しんぜん隊の隊マザー
原告大村は、平成二年二月、国際機動隊の上司の指示により、収益を老人ホーム等へ寄付するとの名目で、ハンカチ等を売るキャラバン隊である「しんぜん隊」に配属され、約四ヵ月の間、横浜市内の同隊本部において、隊マザーとして、収益の集計、キャラバン隊の前線との電話連絡、商品仕入れ、後輩の指導等を担当した。原告大村は、同隊の収益も、募金活動と同様、全て被告法人に送られると認識した。
(四) 三省商会
原告大村は、平成二年七月、国際機動隊の上司の指示により、横浜市内の仏壇販売店舗である有限会社三省商会(以下「三省商会」という。)に配属され、位牌、仏具等の訪問販売に従事した。原告大村は、右活動において、マニュアルに従い、位牌等販売目的で、姓名判断や家系図作成をし、悪い因縁があると告げるなどして客を勧誘した。
4 棄教
(一) 脱会
原告大村は、平成二年九月一日、三省商会の上司の許可を得て一泊の予定で実家に帰ったが、原告大村の両親は、同原告を静岡県内の民宿まで連れていき、同所において、飯島牧師の説得を受けさせた。原告大村は、当初は、従前受けた反対牧師対策に従い、同牧師の話を聞かないようにしたが、両親の熱心な様子を見て、徐々に聞く気になり、五日目になって、同牧師から被告法人の出版物の間違いを指摘され、被告法人の教えは間違っているのではないかとの疑念を抱いた。原告大村は、その後、同牧師から同様の矛盾点の指摘を受け、既に脱会した原告羽佐田の話を聞くなどした。原告大村は、民宿に滞在した一六日目ころ、脱会を決意した。
(二) 脱会届
原告大村は、平成二年一〇月三日、被告法人に脱会届を出した(この点は当事者間に争いがない。)。
(原告岩瀬知里について)
前記認定した事実に加え(第二章、第一と第三章、第二、一)、甲六九、七九の一、二、八〇ないし一七七の一ないし八、三一〇、三一一、乙一三〇、一三九、一四〇、原告岩瀬知里本人及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 入教の過程
(一) ビデオセンター
(1) 入会
原告岩瀬は、平成元年六月、街頭アンケート活動中の渡辺裕美(以下「渡辺」という。)から声をかけられ、連絡協議会のビデオセンターである岡崎市明大寺の富士ビル内所在の岡崎教育センター(以下「ビデオセンター」などという。)へ連れて行かれた。同所では、所長の大谷某、石川真寿美(以下「石川」という。)、斉藤清恵(以下「斉藤」という。)が、原告岩瀬に対し、順次、自己啓発のため同センターに入会するよう勧めた。原告岩瀬は、受講の必要を感じなかったが、三時間にわたる説得に負け、入会を承諾した。渡辺らは、右の際、原告岩瀬に対し、被告法人の教団名、文鮮明の名前、同人らが被告法人の信者であることを告げなかった。
(2) 説明
原告岩瀬は、通学開始後間もなく、ビデオ講義の中に聖書や神などの言葉が出てきたことから、石川に対し、宗教と関係があるのかと尋ねた。石川は関係ないと答え、他のカウンセラーもそれぞれ色々な宗教を信仰していると告げた。さらに、ビデオセンターは会社組織であり、職員やボランティアがいる旨説明した。
(3) ワンデイ
原告岩瀬は、通学を開始して一週間たったころ、石川に誘われて、受講料を払ってビデオセンター内で実施される一日セミナーであるワンデイに参加した(第二章、第二、五、(原告らの主張)3、(三)、(1))。
(4) 化粧品購入
原告岩瀬は、右(3)の一週間後、渡辺に誘われて、ビデオセンターと同じ富士ビル内に所在する化粧サロンに行ったところ、同所で男女美化粧品の購入を勧められた。右化粧品は一品五〇〇〇円程度と高額であり、原告岩瀬は購入をためらったが、勧められて断り辛くなり、三回分割払で一一万円程度の男女美化粧品一式を購入した(第二章、第二、五(原告らの主張)3、(三)、(13))。
(5) 宝石展
原告岩瀬は、右(4)の後間もなく、渡辺に誘われて、岡崎のレクワールドで行われた宝石展に参加し、宝石購入の勧めを受けたが、買う気になれず、断った。
(二) ツーデイズ(ライフビジョンセミナー)
原告岩瀬は、同年七月八、九日、受講料を払って、名古屋市中区栄の森ビルで行われたライフビジョンセミナー(従前のツーデイズセミナーに該当する。以下「ツーデイズ」という。)に参加した(第二章、第二、五(原告らの主張)3、(三)、(2))。同セミナーには、講義の他、メンタルトレーニングと称する両親への思いを口に出すなどのプログラムがあり、原告岩瀬は、素直な気持ちになれ、両親の愛を感じることができたと感じ、セミナーの内容に満足した。しかし、帰途、他の参加者から本当にメシアなどいるのかと聞かれて高揚した気持ちが収まり、入会当初からツーデイズまでで止めようと考えていたこともあって、フォーデイズへの参加を断ろうと考えた。原告岩瀬は、岡崎のビデオセンターへ帰った後、渡辺に対し止める旨告げようとしたが、同人から熱心にライフトレーニング参加の説得を受け、断りきれずに参加を決めた。
(三) ライフトレーニング
原告岩瀬は、同年七月一〇日ころから八月初旬まで、岡崎のビデオセンターにおいてライフトレーニングに参加した。原告岩瀬は、そのころ、かねて予定していた海外旅行が中止となり、石川に勧められて代わりに韓国で開かれるリーダースセミナー(従前のフォーデイズセミナーに該当する。以下「フォーデイズ」という。)に参加することを決めた。
原告岩瀬は、トレーニングの終わりころ、メシアは文鮮明であることを知ったが、さして感銘は受けなかった。
原告岩瀬は、そのころ、石川に対し、トレーニングで理解できない部分が出てきたので止めたい旨告げたが、泣き出した石川の様子を見て、退会を迷った。原告岩瀬は、石川の薦めに従い、当時の岡崎の青年団長である黒崎(以下「黒崎団長」という。)の個人教授を受け、疑問点が解消されたと感じた。原告岩瀬は、右講義を受けて、自分も神によって救われる集団の中に入りたいと考えるようになり、トレーニングを続けることにした。
(四) フォーデイズ(リーダースセミナー)
原告岩瀬は、同年八月五日から九日まで、受講料を払って、韓国のホテルで開かれたフォーデイズに参加した(第二章、第二、五、(原告らの主張)3、(三)、(3))。原告は、韓国統一協会の旧本部協会を訪問した際、皆が泣きながら祈る姿を見て驚いたが、同じように祈ってみたところ、涙があふれ、文鮮明の姿が脳裏に浮かび、その悲しむ心が伝わったように感じた。原告岩瀬は、これは啓示であると感じ、被告法人の教えこそ真理であり、文鮮明はメシアであると考えた。
原告岩瀬は、セミナーの最終日に、新生トレーニングの案内を聞き、その場で参加するとの返事をした。
帰国後、原告岩瀬は、岡崎の被告法人の新教会(以下「新教会」などという。)での祝賀会に参加し、渡辺に対し、新生トレーニングに進むことを約束した。なお、原告岩瀬は、当時、家を出ることは考えておらず、自宅から通学して新生トレーニングに通うことにした。
(五) 新生トレーニング
原告岩瀬は、帰国の翌日である同年八月一〇日から同月末ころまで、受講料を払って岡崎の新教会で行われた新生トレーニングに参加し(第二章、第二、五、(原告らの主張)3、(三)、(4))、高橋新生トレーニングに対し、毎日心情日誌を提出した。
原告岩瀬は、このころ、黒崎団長による反対牧師対策の講義を受け、反対牧師に捕まると鎖につながれて自白剤を注射されるなどと聞かされた。
(1) 献金
原告岩瀬は、このころ、新教会において、高橋主任から家系図を観ると称する某女を紹介された。某女は、「原告岩瀬の家は男子の運勢が弱く絶家の家系であるが、原告岩瀬が生命ないし生命の代りの金を出せば氏族が救われる。」などと説き、原告岩瀬は、これを信じて自分の預金一三万円余りを渡した(第二章、第二、五、(原告らの主張)3、(三)、(5))。
(2) 宗教であることの認識
原告岩瀬は、韓国での体験以来、被告法人の教えは真理の道であるとは考えたが、宗教であるとの認識はなかった。そのため、このころ、高橋主任から、被告法人の教えが宗教だと聞かされて驚いたが、既に真理と思い定めていたため、特に抵抗を覚えることなく活動を続けた。
(3) 家族復帰
このころ、原告岩瀬は、父親を、岡崎の新教会での親を招く催しに招待した。また、母親を、男女美化粧品のサロンやビデオセンターに連れて行くなどした。
(六) 実践トレーニング
原告岩瀬は、同年八月末ころ、高橋主任から、同トレーニングの後に実践トレーニングがあること、実践トレーニングからはホームで生活すべきことを聞かされ、参加を承諾した。原告岩瀬が両親に対し家を出て教会近くのアパートに住む旨告げたところ、両親は、渋々ながらもこれに応じ、同原告に今までの生活を棄ててまでのめりこまないようにとの手紙を渡した。
原告岩瀬は、同年九月四日から同年一〇月末ころまで、受講料を払って岡崎市久後崎町のホームにおいて行われた実践トレーニングに参加し(第二章、第二、五、(原告らの主張)3、(三)、(9))、街頭アンケート活動等に従事した。実践トレーニングでは、参加者が、毎日の生活で神を感じた体験を披露し合ったが、原告岩瀬は、当初はそのような体験がなく、早く神を感じたいと考えた。
(1) パーフェクションセミナー参加
原告岩瀬は、同年一〇月二四日から二七日の間、実践トレーニングの主任である斉藤の指示により、実践トレーニングの一環として、韓国の統一協会の教会で行われたパーフェクションセミナーに受講料を払って参加した(第二章、第二、五、(原告らの主張)3、(三)、(7))。
(2) 清涼飲料水購入
原告岩瀬は、このころ、ビデオセンターで扱っていた清涼飲料水(メッコール)を購入し、母親の経営するハンバーガーショップで販売するなどした(第二章、第二、五、(原告らの主張)3、(三)、(14))。
2 献身後の活動
(一) 献身
原告岩瀬は、同年一一月初めころ、それまで断続的に続けてきたアルバイトを辞めて献身し、岡崎のホームでの生活を続けた。原告岩瀬は、前線隊に配属され、被告法人の守山修練所での新人研修会に参加した後、街頭アンケート活動、清涼飲料水の戸別訪問販売活動、募金活動に従事した。いずれにもノルマがあり、清涼飲料水販売の際には、一日一〇ケース(三〇〇本)程度が目標とされ、達成できないときは、午前零時ころまで訪問を続けた。一日の睡眠時間は五時間半程度であった。
(1) 日韓安保セミナー
原告岩瀬は、同年一二月四日から七日の間、浜頭前線隊隊長の指示により、韓国のホテルで開催された日韓安保セミナーに参加したが、その際、隊長から、一般人も参加するから、統一協会のことを口にしないようにとの注意を受けた。
(2) 成約断食など
原告岩瀬は、同年一二月ころ、黒崎団長の呼びかけに応じ、七日間の成約断食をすることを決めた。断食は、同団長の指示により、健康状態の確認もなく直ちに始まったが、開始四日ほどたったころ、体中にシミができた。同原告は、健康に不安を感じて連絡協議会の地区の加藤マザーに相談したが、大丈夫と言われたため、そのまま続けた。
成約断食の終わりころ、食事当番の際、原告岩瀬の唇に食事のつゆが一滴飛んだが、これは、原告岩瀬の受けた教えによれば断食の失敗を意味したため、原告岩瀬は、神に救済される条件を永遠に逃したと思い、恐怖を感じた。原告岩瀬は、右の事実を誰にも告げずに成約断食を終え、これによりさらに罪悪感に苛まれ、脱会するまで心の負担となった。
また、原告岩瀬は、成約断食の終了後、空腹のあまり一〇〇円のチョコレートを買い食いしたが、黙っていた。これも同様に教えに反することであったため、原告岩瀬は、ますます救済が遠のくと感じ、誰にも言えずに悩んだ。
(二) 二一日修練会
原告岩瀬は、浜頭前線隊長の指示により、平成二年一月一五日から、被告法人の千葉中央修練所で行われた二一日修練会に参加した。右修練会では、男性参加者二、三人が戸別訪問販売活動中に逃げ出し、行方不明になった。
(三) 岡崎へ復帰
原告岩瀬は、修練会終了後、岡崎市に戻り、前線隊に復帰し、街頭アンケート活動等に従事した。ノルマが達成できない時には夜遅くまで活動を続け、駅の構内でも勧誘をしたため、駅員の注意を受けた。
原告岩瀬は、このころ、前線隊長に対し、一度帰省したいと申し出たが、不許可となった。
原告岩瀬は、同年三月、前線隊の班長になったが、新たに隊長となった都築則子に馴染めず、しばしば叱責を受けた。原告岩瀬は、このころ、担当する班の女性一名が失踪した件で都築隊長から強く叱られ、ストレスで右手の感覚が無くなり、その症状が三週間ほど続いた。
(四) マイクロ隊
原告岩瀬は、同年四月、当時の岡崎青年団の馬渕団長の指示により、マイクロ隊に配属され、一ヵ月の間、連日珍味販売活動に従事した。原告岩瀬は、ノルマが達成できないときには、午後一一時ころまで活動し、一〇キログラムにもなる重い荷物を持って歩き回ったため、一ヵ月経過後には、背骨が少し曲がっていた。
マイクロ隊の一回の期間は一ヵ月とされたが、原告岩瀬は、販売実績をあげることができなかったため、同年五月、再度別のマイクロ隊に配属され石川県を回った。原告岩瀬は、活動を重ねるに連れ、販売成績が下がっていき、体の調子も悪くなり、また、禁止されている買い食いをしてさらに罪悪感を感じるなど心理的にも落ち込み、マイクロ隊の活動を耐え難いと思うようになった。しかし、販売実績が上がらなかったため、さらにもう一ヵ月活動を続けることになり、同年六月、実績のあがらない者を集めた別のマイクロ隊に配属された。
原告岩瀬は、このマイクロ隊でも実績をあげることができず、隊長から厳しい叱責を受けた。原告岩瀬は、従前、訪問販売は、成功すれば訪問先の客にとっても霊界での徳を積むことになるのに対し、失敗すれば、条件がサタンに奪われ、客自身も霊界で苦しむことになる等と聞かされていたが、失敗が続いたため、自分が訪問すると客の条件を奪ってしまうとの恐怖と、販売活動をすべきとする被告法人の教えとの板挟みになり、精神的に追いつめられて苦しんだ。
(五) 岡崎へ復帰
原告岩瀬は、平成二年七月、岡崎の青年団に戻り、新生トレーニングの班長となったが、班員の行動把握などが上手くできず、何度も叱責を受けた。班長になったら自分で考えて動くように言われたが、それまで上司の指示で行動を決めていたこととのバランスが取れずに混乱した。班長としての活動のため、睡眠時間は四時間程度であった。
3 棄教、脱会
原告岩瀬は、同月二四日、新教会へ向かう路上で、叔父に腕を捕まれて母の乗った自動車に連れ込まれ、民宿に連れて行かれた。原告岩瀬は、よく食べてよく眠り、両親や親戚に対し被告法人の教えを説くなどして四日間を過ごし、五日目、六日目は、杉本牧師と会った。同牧師は、原告岩瀬に対し、被告法人の出版物相互間の矛盾を指摘した。原告岩瀬は、七日目、別の牧師の著書に、何も疑問を持たない素直な心になる方法等についての記載があるのを見つけ、急に目が覚めて地に足が着いた感じを受け、自分のこれまでの状態は、単に右の記載のとおりであったに過ぎないと考えた。八日目、杉本牧師と共に文鮮明についての本を読んだ時には、あまりに荒唐無稽な話に思え、その日に脱会を決意した(原告岩瀬が、平成二年、脱会したことは争いがない。)。
原告岩瀬は、脱会後、自分の決断が正しいかどうか漠然とした不安を持ったが、日常生活を送るうちに薄れた。
4 献金等
原告岩瀬は、平成元年六月のビデオセンター入会から、平成二年七月に脱会するまでの間、何回かにわたり、献金し、受講料を支払い、化粧品などの物品を購入したことが窺われる。
(原告永田暁美について)
前記認定した事実に加え(第二章、第一と第三章、第二、一)、甲二三八ないし二六〇、乙七五ないし八七、証人杉本誠、原告永田暁美本人及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 入教の過程
(一) ビデオセンター入会
原告永田は、昭和六二年四月、街頭アンケート活動中の太田佳代子(以下「太田」という。)から声を掛けられた。太田は、一時間程度立ち話をし、原告永田が進路について迷っていることを知ると、学校で教えてくれない勉強をするところがあるから行こうと誘った。原告永田は断ったが、太田が腕をつかんで説得を続けるので、断りきれず、共に岡崎市明大寺町の富士ビル所在の連絡協議会のビデオセンターである岡崎教育文化センター(以下「ビデオセンター」などという。)に行った。太田は、同所において、原告永田に対し、生き方や社会のあり方を問うビデオテープを視聴させ、小林某(以下「小林」という。)と共に、入会してこれらを勉強するよう熱心に勧めた。原告永田は、当初乗り気ではなかったが、幸せな結婚、幸せな家庭についても勉強するという点に心惹かれ、教養サークルのつもりで入会を承諾し、受講料頭金を支払った(第二章、第二、五、(原告らの主張)4、(三)、(1))。
(二) ビデオセンター
原告永田は、ビデオセンターにおいて、週二回の割合で、創造原理、墜落論等からなるビデオ講義を受講した。右講義は聖書を参照しながら進んだため、同原告は、自分は聖書の内容を勉強しているものと理解した。原告永田は、当時、いわゆる宗教について漠然とした嫌悪感を持っていたため、カウンセラーの高橋に対し、同所は宗教かと尋ねたところ、高橋は違うと答えた。
(三) ツーデイズ
原告永田は、同年七月ころ、小林から誘われ、愛知県蒲郡市において聞かれたツーデイズに参加した。申込みの際、小林は、原告永田に対し、親へどう説明するのかをただし、同原告がサークルの合宿と説明する旨答えると、眼前で復唱させて確認した。
原告永田は、ツーデイズにおいて再臨のメシアの話を聞き、メシアは誰かと興味を持った。
(四) ライフトレーニング
原告永田は、ツーデイズの後、次はフォーデイズに参加すると説明されたが、既にビデオセンターは単なる教養サークルではないと感じ始めており、どれだけ続くのか見通しがつかず不安になった。原告永田は、当時の岡崎の青年団長であった黒崎(以下「黒崎団長」という。)に対し、後どれくらいかを尋ねたところ、黒崎団長は、まだまだ先は長い旨答えた。原告永田は、漠然と、このままビデオセンターへの通学を続けると、小林や太田らのように自分を捧げて打ち込む生活を送ることになると察したが、そこまでの気持ちはわかず、先も長く、自分にはできないと考えた。また、ビデオセンター等に来ていることを親や友人に隠し続けることにも精神的負担を感じた。しかし、退会する決心がつかず、そのままワンデイ、フォーデイズに参加した。
(五) ワンデイ
原告永田は、同年八月、フォーデイズの直前講義であるワンデイに参加し、再臨のメシアとは文鮮明であり、ビデオセンターやセミナーの開催主体は被告法人であると聞かされた。原告永田は、それまで被告法人の名称を聞いたことがなく、文鮮明の名を明かされてもさしたる感銘は受けなかった。宗教であると知らされたが、そのことには特に抵抗感は持たなかった。
(六) フォーデイズ
原告永田は、同月、被告法人の守山修練所において、フォーデイズを受講した。フォーデイズでは、常に緊張状態が続き、睡眠時間は毎日五時間程度であった。原告永田は、文鮮明の生い立ちの講義に感動して泣き、メシアを支える使命を果たさなければとの思いに駆られた。最後の班長面接では、世界を変えるためにどうするかと問われ、選民として使命を果たす旨答えた。原告永田は、自分がビデオセンターの活動を続ければ世界を変え、神を慰めることができると感じて高揚し、直後の宣誓式でも統一協会のためにやっていく旨宣誓した。
(七) 新生トレーニング
原告永田は、同年九月から一ヵ月間、岡崎市内のホームに通い、新生トレーニングを受講した。
(1) 絵画展
原告永田は、このころ、新生トレーニングの班長から、岡崎グランドホテルでの絵画展に誘われた。原告永田は、フォーデイズの折、被告法人が宗教と政治と経済を結びつけた活動をしている旨聞かされており、右絵画展もその活動の一環であると理解したが、それを伏せて、母親と共に絵画展に行き、七〇万円程度の絵画を購入した。
(2) 母親の反対
原告永田は、このころ、カウンセラーの指示に従い、母親を安心させるため、岡崎の教養サークルと称してビデオセンターを見学させた。
ところが、原告永田の母親は、その後、原告永田がビデオセンターで宗教関係の活動をしていると気づいて反対し、同原告の行動を厳しく監視するようになった。
原告永田は、母親の反対に叛いて活動を続けることが精神的に苦しく、街頭アンケートなどの実践をすることにも不安があり、フォーデイズで感じた使命感との間で葛藤を覚えたものの、実践トレーニングへと進む決意がつかなかった。
2 中断・再開
(一) 中断
原告永田は、同年九月ころ、迷いながら新生トレーニングを終えた。ちょうど就職活動の時期でもあり、原告永田は、被告法人の教えに従うかを含め進路を悩んだが、結局は就職活動を選択し、ビデオセンターから離れ、昭和六三年四月、短大を卒業して一色町役場に就職した。この間、太田らから何度か誘いがあったが、全て斥けた。
原告永田は、就職後、社会人として生活する中で、ビデオセンター等での生活も現実離れした夢のような出来事だったと感じたが、同時に、異性に好意を感じることに罪悪感を持つなど、ビデオセンターで教わった価値観を持ち続けた。
(二) 再開
原告永田は、平成元年二月、岡崎のビデオセンターの小林某(前記小林カウンセラーとは別人。以下「小林某」という。)から電話を受け、断りきれずに喫茶店で会った。小林某は、原告永田に対し、もう一度ビデオセンターに通うよう説得し、一時間半にわたり、「一度原理を聞いてしまった者には、世界を変える責任がある。」などと説いた。
原告永田は、ビデオセンターを離れた後、常に、神が嘆き悲しんでいるのに、統一協会の活動をしなくてよいのかという気持ちと、母親の反対に逆らうのが辛い、信者としての生活を一生続ける自信もないとの気持ちとの間で葛藤を感じていたが、小林某の話を聞くうちに葛藤が強まり、今後もこのように悩み続けるよりは、信仰を選択した方がよいと考え、再びビデオセンターへ行くことを約束した。
(三) ツーデイズ(二回目)、スリーデイズ(二回目)
原告永田は、平成元年二月、岡崎のビデオセンターへ入会し直し、同年三月、名古屋市栄の森ビルにおいてツーデイズを、同年四月、被告法人の守山修練所においてフォーデイズの短縮版であるスリーデイズをそれぞれ受講した。
(1) ビデオセンター再入会金
原告永田は、同年二月から五月にかけ、ビデオセンターの再入会金四万円程度を分割で支払った(第二章、第二、五、(原告らの主張)4、(三)、(5))
(2) 宝石展
原告永田は、同年四月、小林某に誘われ、岡崎のレクワールドで開かれた宝石展に行き、万物復帰の教えを実践するつもりで、エメラルドの指輪(一七万円程度)とバールイヤリング(二万円程度)を購入した(第二章、第二、五、(原告らの主張)4、(三)、(3)(4))。
(四) 新生トレーニング(二回目)
原告永田は、活動の再開を母親に隠したが、母親は気づいて厳しく反対した。しかし、原告永田は耳を貸すことなく、同年五月、新生トレーニングが始まると、班長の指示に従い、家を出て岡崎のホームに入居した。新生トレーニングでは、ホームから職場に通勤し、電話伝道(電話を用いて街頭アンケートと同じ活動をする)等に従事した。
(1) 新生トレーニング受講料
原告永田は、同年六月ころ、岡崎の被告法人の旧教会のまとめ役である高橋某(以下「高橋」という。)に対し、新生トレーニング受講料として一万円程度を支払った(第二章、第二、五、(原告らの主張)4、(三)、(6))。
(2) 交通事故
原告永田は、当時、車で通勤していたが、連日五、六時間程度の睡眠で伝道に打ち込み、慢性的な睡眠不足であったため、居眠り運転による二回の追突事故(物損)を起こし、これにより自分の車を廃車にした。
(3) 反対牧師対策
原告永田は、新生トレーニングにおいて、反対牧師は無理矢理信者をさらって鎖に繋ぐと聞かされ、さらわれないように一人で歩かないこと、さらわれたら、反対牧師とまともに話をしないで、隙を見て逃げることと指示を受けた。
(4) 借入れの名義貸し(HG)
原告永田は、同年五月の終わりころ、前記高橋から、教えの実現のために必要だから銀行からの借入れに名前を貸してくれと頼まれて承諾した。原告永田は、高橋と共に二軒の銀行へ行き、高橋の指示通りに借り入れ理由を告げ、各七〇万円、計一四〇万円の借り入れをした。(原告永田が、脱会後、右借入金の帰趨を確認したところ、全額について返済が終了していた。)
(五) 実践トレーニング
原告永田は、同年六月、実践トレーニングを開始し、岡崎の被告法人の旧教会近くのホームに移り、街頭アンケート活動、展示会動員等に従事した。
(1) 断食
原告永田は、班長と相談した上、蕩原条件を積むと称して、一日に一食を抜く一食断食、二食を抜く二食断食等を日常的に行った。
(2) 母親との関係
原告永田は、新生、実践トレーニング期間中、職場が実家の近くだったこともあり、時々実家に帰った。母親は、顔を合わせると家へ戻るよう迫ったが、原告永田は、そのつもりはなく、言葉を濁して返事をしないようにした。原告永田は、そのころ、親交会(家族を入信させること(家族復帰)を目的とする活動。)のメンバーである栗田らと共に、被告法人関連の事業、活動を広報するパンフレット(ただし、被告法人の名前は伏せたもの)を持って何度か原告永田の実家を訪ね、同原告の母親と話をした。栗田らが独自に訪問して話をすることもあったが、どちらも母親を安心させるには至らなかった。
原告永田は、そのころ、母親を、岡崎の被告法人の新しい教会に連れていき、さらに家庭復帰を目的としたファミリー懇親会に参加させた。
(3) パーフェクションセミナー
原告永田は、実践トレーニング中の同年六月、高橋の指示により、六万円程度の参加費用を払って、韓国での三泊四日のパーフェクションセミナーに参加した(第二章、第二、五、(原告らの主張)4、(三)、(7))。高橋は、職場には、有休を取って韓国へ観光旅行に行く旨告げるよう指示し、原告永田は、これに従った。同セミナーでは、講義の受講、世界日報の戸別訪問による拡販活動等をした。
(4) 物品購入
原告永田は、そのころ、化粧品展において、動員実績を上げることができなかったため、自ら七万円程度を払って水道水をイオン水に変える装置を購入した(第二章、第二、五、(原告らの主張)4、(三)、(8))。
また、同年六月一八日、被告法人の関連会社である「有美」が開催した宝石、着物の展示会において、同様に実績をあげることができなかったため、母親に頼んで、九〇万円程度の訪問着一着を購入した(第二章、第二、五、(原告らの主張)4、(三)、(9))。
後日、注文した品と異なる着物が自宅に届いた。原告永田は、実績目的であったため気にしなかったが、母親は怒り、代金の三分の一の支払を拒否した。
3 偽装脱会
(一) 脱会阻止対策
原告永田は、同年八月ころ、黒崎団長から、同原告の両親が反対牧師に依頼して、脱会させる準備をしている旨知らされ、対策のため、実践トレーニング生の入っているホームから、ビデオセンター近くの献身者用のホームへ移り、街頭には出ないように、一日中、同団長か大谷ビデオセンター所長と行動を共にするようにとの指示を受け、これに従い、この間、仕事も休んだ。
原告永田は、その後、反対牧師対策の講義を受け、黒崎団長から、「反対牧師は霊感商法を攻撃してくるが、霊感商法は人間の社会の法では違法でも、万物復帰の手段だから天法にかなうことであり、そのことに確信を持つように」「原理を日本に伝えた西川ですら脱会した、それほど氏族メシアの役割を果たすことは大変なことである」「親の反対は蕩減であり、それを乗り越えて心情復帰するよう神も願っている」旨教えられた。また、同団長は、原告永田に対し、万一両親に捕まりそうになったら、渡された痴漢防止用の催涙スプレーを噴霧して逃げてくること、捕まった場合に備えて予め人身保護願いを書いておくこと、また、もし捕まった場合には、偽装脱会届を書いて、油断した隙に逃げてくること、その際には、偽装と分かるように、文中に「はっきり」という言葉を入れること等の指導を受け、反対牧師について書かれたパンフレット等を読ませた。
(二) 偽装脱会
(1) 説得
原告永田は、黒崎団長から、勤務先で両親に捕まる可能性があり、もう献身してもよいころだから、退職するように言われ、同年八月二四日、退職届を出すために、勤務先である一色町役場へ行った。
原告永田は、同役場から出てきたところで、両親、伯父二人に捕まり、安城市内のアパートに連れて行かれた。
原告永田の両親は、二日間にわたり、同原告に対し、牧師と会うよう説得したが、同原告は、これに応じなかった。三日目、杉本牧師がアパートを訪問し、原告永田に対し、原理講論は聖書の引用を間違えていると指摘し、霊感商法についてのビデオを見せ、西川ですら脱会したなどと話した。原告永田は、反対牧師対策で教わったとおり、表面上は同牧師の言うことを聞く振りをしたが、内心では耳を貸さず、霊感商法についても、だましても神様の資金にするからよい、ビデオの作成者や反対牧師は神様が理解できないに過ぎない、西川の話は既に聞いたなどと考えた。
(2) 脱会届
原告永田は、右のように同牧師の指摘する全てについて心中で反駁したが、話を聞くうちに、原理を正しいと信じる決意が揺らぐのを感じ、ここまでは、偽装ではなく、本当に脱会に追い込まれるかもしれないと考えた。そこで、同牧師との対話が始まって四日目の同年八月三〇日、文鮮明を巡る教義上の疑問点について同牧師が話しはじめた際、話を打ち切らせるため、同牧師に対し、脱会する旨表明し、黒崎団長の指示通り、文中に「原理の誤りがはっきりわかった」と記載した脱会届を作成した。
(3) ホームへ戻る
原告永田は、アパートから移動する間、隙をみて逃げ出そうとしたが失敗し、そのまま杉本牧師の自宅近くのアパートに移り、本当に脱会したように装った。同原告は、三日後、実家へ帰り、その後、母親が電話をしている隙に逃げ出し、岡崎のホームへ帰った。
4 献身後の活動
(一) 富山青年団、献身
(1) 配置換え、偽名
原告永田は、岡崎のホームへ帰った後、岡崎市内のマンションにある別のホームへ移動し、脱会工作を受けた経緯を報告した。
原告永田は、二週間後、黒崎団長から、富山の青年団に行き、友永純子と名乗ること、今後は、連絡協議会内部でも本名、年齢、出身地等は一切隠すこと等の指示を受け、これに従い、以後友永純子として行動した。
(2) 富山青年団
原告永田は、同年九月、富山の青年団に移り、食事当番等を担当した。
(3) 献身
原告永田は、同年一〇月、富山の青年団の馬渕団長から、献身の時期が来た旨告げられた。その際、手続きは何も行われなかったが、同原告は、一一月一日付で献身したことになった。原告永田は、献身後の一一月、富山青年団の前線隊に配属され、街頭アンケート活動等に従事した。
(二) 二一日修練会
原告永田は、同年一二月、上司の指示により、被告法人の千葉中央修練所で開かれた二一日修練会に参加し、連日、五時間弱の睡眠で、講義を受け、長野県内でのお茶売りに従事した。お茶売りのノルマは一日三ないし四万円程度であるが、達成はできなかった。
(三) 富山青年団
原告永田は、二一日修練会終了後、富山青年団に帰り、富山市内の神社で初詣客に対し、恵まれない子に愛の手をと銘打った募金活動等に従事した。
原告永田は、平成二年一月、富山青年団の桑野団長から、衆議院議員選挙の運動員になるよう言われ、被告法人の宝塚修練所に集まって、被告法人の信者である大阪の候補者の選挙運動員として、チアガールや電話での投票勧誘、戸別訪問によるビラ配り等に従事した。この間は、通常義務づけられている上司への報告、連絡、相談はなかった。
原告永田は、同年三月、富山青年団に戻り、新生トレーニングの食事当番、ビデオセンターの新規トーカー、着物、宝石、絵画等展示会の受付等に従事し、その間、月二回程度、名古屋に行って被告法人の守山修練所へ食事当番を担当した。同年八月には、富山県内の印鑑店舗で清涼飲料水の戸別訪問販売(珍味売り等と同様の活動)の研修を受けた。
(四) 両親との関係
原告永田は、富山青年団に移動してからも、青年団長の指示に従い、家庭復帰のため月に一、二回程度自宅に電話をしたが、配属先、名乗っている名称等は秘密にした。原告永田の両親は、月に一回程度、岡崎の被告法人の教会宛に衣服や金員、手紙を送ったが、これらは、富山の原告永田に転送された。
同年四月ころ、原告永田が自宅に電話した際、母親が子宮筋腫の手術を受けると聞き、上司に見舞いのため帰郷したいと告げたが、戻れないかもしれないとの理由で不許可となった。
(五) 成約断食
原告永田は、同年九月、自ら申告して七日間の成約断食をした。
(六) マイクロ隊
原告永田は、平成三年一月、マイクロ隊に転属され、三ヵ月の間、八人で一台のマイクロバスに乗り、岐阜県大垣市、静岡県沼津市、熱海市周辺を廻って、各地域にあるホームに寝泊まりし、珍味を売り歩いた。実績が上がらないときには、断食として昼食を抜いた。
(七) 静岡の青年団
原告永田は、同年三月、静岡の青年団に転属され、街頭アンケート活動、電話伝道、難民救済名目のハンカチ売り等に従事した。静岡の青年団長からは、以後「天野恭子」と名乗るように指示され、これに従った。
5 棄教
原告永田は、平成三年四月一三日、他の信者と共に行った銭湯で、母親らにつかまり、父親の乗った車に乗せられ、愛知県内の山荘に連れて行かれた。原告永田は、同所において、二日間、両親から説得を受けたが、その間、殴りかかろうとするなど激しく抵抗した。偽装脱会の手はもう使えないので内心では牧師が来たらどうしようと怖れたが、表面上は怖れていない風を装った。
三日目、杉本牧師が山荘に訪れた。原告永田は、以前の経験で、鎖に繋ぐ等の反対牧師に対する恐怖は消滅しており、今回は直前に対策を受けていなかったこともあって、同牧師と対話を始めた。同牧師は、文鮮明の美談の証拠とされる写真を見せ、「これが嘘だと知っているか。なぜこんなことをするのだろう。」と尋ねた。原告永田は、反対牧師がその話を持ち出すことは聞かされていたが、その時初めて、「なぜ嘘をつくのか。」と考えた。
同牧師は、韓国の牧師が文鮮明のスキャンダルを説明しているテープを原告永田や両親らに聞かせたが、その際、同原告は、自分以外の全員が、暗い顔をしてテープを聴いていることに気付き、驚いた。
六日目ころ、原告永田は、同牧師が、被告法人を、自分たち自身も批判したカルト集団と似たようなものと考えていることを知ってショックを受けた。原告永田は、次第に被告法人の教えに対する確信が揺らいだ。
九日目ころ、原告永田は、杉本牧師が話をしている時、被告法人の教えや文鮮明に対し、以前のような確信を持てないと思い、脱会する決意をした(原告永田が、平成三年、脱会したことは、当事者間に争いがない。)。
原告永田は、脱会する決意をしたものの、被告法人の教えが間違っているとの確信があったわけではなく、もし被告法人の教えが真理だったら、以前教えられたように霊界に讒訴されたり、交通事故にあったり、廃人になるとの恐怖から逃れ、気持ちの整理がつくまでに半年かかった。
6 献金等
原告永田は、昭和六二年四月のビデオセンター入会から、平成三年四月に脱会するまでの間、何回かにわたり、献金し、受講料を支払い、浄水器などの物品を購入したことが窺われる。
(原告鈴木仁美について)
前記認定した事実に加え(第二章、第一と第三章、第二、一)、甲二九五、二九六、二九九ないし三〇九の一ないし五、乙一二四ないし一二六の一ないし三、一三六、証人松本通代、原告鈴木仁美本人及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 入教の過程
(一) ビデオセンター
原告鈴木は、昭和五九年九月ころ、大学の同級生である新城妙子(以下「新城」という。)に誘われ、連絡協議会のビデオセンターである京都ビデオサンアカデミー(以下「ビデオセンター」という。)へ行った。原告鈴木は、同所において、新城から尊敬する大先輩として磯野某を紹介された。磯野は、原告鈴木が、英語を生かせる仕事につきたいと希望していることを知ると、同人の姉がスチュワーデスであるなどと話し、入会を勧めた。原告鈴木は、同所で勉強することにより人間的に成長できるのではないかと考え、教養サークルのつもりで入会した。
原告鈴木は、京都のビデオセンターの近藤カウンセラーが、「神は誰も知らない自分の心の奥底を理解してくれる。」などと話したことに惹かれ、月に数回程度、同所に通った。原告鈴木は、当時、宗教団体等に対する偏見を持っており、近藤に対し、ここは宗教か、バックに何かあるのかなどと数回尋ねたが、同人は、単なるサークルだと答えた。
(二) ツーデイズ
原告鈴木は、近藤カウンセラーから、冬休みを利用してツーデイズへ参加したらどうかと誘われたので、両親には、友人宅に泊まって勉強すると告げ、帰省を遅らせてセミナーに参加した。
ツーデイズは、昭和五九年一二月二二日から二日間、被告法人宝塚修練所で行われ、原告鈴木は受講料を払ってこれに参加した(第二章、第二、五、(原告らの主張)5、(三)、(1))。講義中、聖歌や祈祷があったが、原告鈴木は、予め講師はクリスチャンであるとの説明を聞いていたので違和感を感じなかった。原告鈴木は、同セミナーにおいて、神戸市中央区のビデオセンターから来た松本通代(以下「松本」という。)と意気投合し、共にフォーデイズに参加することを約束した。
(三) ライフトレーニング(中断)
原告鈴木は、松本との約束はあったものの、実家に帰省した間に、教養を深める勉強としてはこれまでの受講で十分であり、ビデオセンターをやめようと考えた。そこで、その旨新城に告げたが、新城及びライフトレーニングスタッフの女川某から、「この内容以外に本当の幸せを知る道はない。」などと説得を受け、半信半疑ながら、ライフトレーニングに進むことにした。
原告鈴木は、ライフトレーニング受講中の同年四月ころ、同期のトレーニング受講生から、「ビデオセンター等は被告法人の施設である。」と聞き、文鮮明が淫乱であるなどのスキャンダルや被告法人の教義を攻撃する書籍を紹介された。原告鈴木は、右書籍の内容にショックを受け、宗教でないと思ったから入会したのに騙されたと思い、直ちにトレーニングをやめ、神戸の松本に対しても、ビデオセンターをやめるよう勧めた。
原告鈴木は、その後、新城やビデオセンターをやめなかった松本が普通の様子であるのを見て、右書籍の文鮮明のスキャンダルの記載は誤りかも知れないと考えるようになったが、私生活が多忙になったため、ビデオセンターへは行かなかった。
(四) 再入会
原告鈴木は、昭和六〇年九月末ころ、恋愛問題で悩んでいたところ、四条烏丸で、街頭アンケート活動をしていたツーデイズの同期生から、「どんな人でも愛せる自分になればいい。」と言われたことに感銘を受け、悩む気持ちを開放してくれるのではないかと考えて再度ビデオセンターに行った。
原告鈴木は、同所において、被告法人の教義では恋愛は罪とされていることを思い出し、負い目を感じたが、神は全て許すなどとと言われて安心し、一週間後のフォーデイズに参加することを決めた。
(五) フォーデイズ
原告鈴木は、昭和六〇年一〇月、受講料を払って大阪市生野区鶴橋所在の鶴橋修練所で行われたフォーデイズに参加した(第二章、第二、五、(原告らの主張)5、(三)、(1))。同原告は、参加当日、再臨のメシアは韓国に生まれた文鮮明であると聞き、以前読んだ文鮮明のスキャンダルを思いだし、複雑な気持ちになったが、神様とメシアとは別のものだと思い、深く考えないようにした。
原告鈴木は、講義を聴いて高揚し、自分が罪である恋愛をしたために、イエスは十字架に掛けられてしまった、自分は罪人であると強く感じて泣き、救われたい、教えを求めたいとの気持ちになった。
(六) 新生トレーニング
原告鈴木は、フォーデイズの後、新生トレーニングの案内を聞いたが、フォーデイズの講師がかつて統一協会の活動をするために学校を退学した話を思いだし、退学に比べて何でもないことだと考え、すぐ参加を決め、両親には、新生トレーニングのスタッフの指示に従い、大学の友達の所に泊まり込んで勉強すると説明した。
原告鈴木は、一か月半新生トレーニングを受講し、神の働きかけを信じるようになった。
(七) 実践トレーニング
原告鈴木は、新生トレーニング終了後、特に抵抗を感じることなく引き続き実践トレーニングに進み、アンケート活動、FF(ファミリー・フレンド)伝道などに従事した。
2 学生部
(一) 入部
原告鈴木は、昭和六一年一月、学生部に入り、京都市左京区一乗寺のホームに入居した。両親には、友人の下宿の方が勉強しやすいと説明した。新しい下宿を見に来た原告鈴木の両親に対し、学生部の部長及びホームのマザーは、文鮮明の写真、活動実績表を隠し、普通の下宿のように装って応対した。原告鈴木は、その際、初めて両親に学生部での活動のことを話し、被告法人のビデオを見せたが、両親は、被告法人を知らず、強く反対もしなかった。
(二) 学生部での活動
原告鈴木は、同市中京区壬生のホームや同市下京区綾堀川のホームを転々し、その間、家からの仕送りは全てホームに入れ、月五〇〇〇円ないし一万円程度の小遣いを受け取った。
原告鈴木は、学生部において、街頭アンケート活動、印鑑、宝石(CB)、着物、絵画、健康食品器具等の各種展示会の動員等、年末年始の募金活動、ビデオセンター受付、カウンセラー等の活動に従事した。大学の長期休暇には、学生部員七、八名でキャラバン隊を組み、淡路島、四国、名古屋、奈良、京都などを廻り、チャリティー名目でハンカチ等の戸別訪問販売に従事し、一日数万円売り上げた。右の売上金は、そのほとんどが学生部の借金返済、活動資金に充てられた。これらの活動においては、上司から、勧誘、販売の相手方がフォーデイズの段階に到達するまでは、被告法人、文鮮明等の名称は出さないようにとの指示を受けた。
(三) 物品購入
原告鈴木は、昭和六二年春ころ、着物展示会において誰も動員できなかったため、実績をあげるため自分で着物を購入した。その際、展示会の着物を借りて写真を撮り、これを両親に送って、付け下げ小紋の着物一着の代金二五万円を出してもらった(第二章、第二、五、(原告らの主張)5、(三)、(3))。
(四) 留年
原告鈴木は、学生部に入ってから、連日五、六時間程度しか睡眠をとらず、ろくに勉強時間もないまま深夜まで街頭アンケート活動等に打ち込んだため、昭和六一年四月、大学三年生に進級できずに留年した。なお、原告鈴木は、このため卒業の時期が一年遅れ、平成元年三月に卒業したが、最終年度の授業料は、六五万八二〇〇円である(第二章、第二、五、(原告らの主張)5、(三)、(4))。
(五) 成約断食、本部会員登録など
原告鈴木は、昭和六二年六月、成約断食をし、同年一〇月ころ、本部会員テストに合格し、本部会員の登録を受けた(なお、この登録が、被告法人の本部教会員の登録を指すか否かは明らかではない。)。
(六) 帰省不許可
原告鈴木は、昭和六二年秋ころ、いとこが死亡し、昭和六三年一二月、祖母が死亡したため、その都度京都教会の責任者に対し帰省を願い出たが、いずれも不許可となり、葬式に参列できなかった。
3 献身後の活動
(一) 献身、七〇日間修練会など
原告鈴木は、平成元年二月、献身し(同年三月に光華女子大学文学部英米文学科を卒業した)、大阪府豊中市所在の被告法人豊中教会において、大学を卒業して献身したメンバーによる七〇日間修練会に参加し、早朝から深夜まで珍味売りや街頭アンケート活動、勝共連合の活動等に従事し、連続四〇時間の不眠不休の講義演習を受けた。その後、大阪府内に配属され、ビデオセンターのカウンセラー等に従事した。
(二) 二一日修練会
原告鈴木は、同年八月、被告法人の千葉中央修練所において二一日間修練会に参加した。
(三) その後の活動
原告鈴木は、同年九月、大阪市北区天満橋地内に配属され、ライフトレーニングの班長を担当し、平成二年四月、大阪市北区神山町所在の学生部に配属されて学生部補佐、ビデオセンターのトーカー、カウンセラー、宝石(CB)展示会のトーカー、セミナー等の班長役を担当した。原告鈴木は、右学生部の活動をした間、学生部全体の月間目標として、献金七〇万円、借入金四〇万円をそれぞれ集め、展示会で四人の客に二一〇万円分、人参茶等物品販売で三〇人の客に三四〇万円分を売るなどのノルマを課された。
(四) 名義貸し
原告鈴木は、日時は不明であるが、上司の指示により、株式会社アイビーの社員として形式上名前を貸すことに同意した。
4 棄教
(一) 帰省
原告鈴木は、いとこや祖母の墓参りのため帰省を希望したが、家族による監禁の危険があるとの理由で認められずにいたところ、平成三年五月、献身後初めて帰省の許可を受け、同月二四日、愛知県新城市の実家へ向かった。原告鈴木は、母親と接触した後、あらかじめ指示されたとおり、大阪の上司に状況報告の電話をした。
原告鈴木の両親は、自宅から離れた民宿で同原告の将来について話し合いをすると告げ、同原告はしぶしぶながらこれに応じた。
(二) 説得
原告鈴木の両親は、民宿において、同原告に対し、同原告が被告法人の実態を知らずに騙されているなどとして、棄教するよう説得したが、原告鈴木は、両親は被告法人の教えを知らずに反対しているのだから、自分が両親を説得しなければならないと考えた。両者は五日ほど話し合ったが、平行線をたどったため、両親は、原告鈴木に対し、牧師に会うよう頼んだ。
原告鈴木は、かねてから反対牧師のことを聞いており、会うことには不安があったが、会いさえすれば親は納得し、同原告の活動を認めるようになるだろうと考え、飯島牧師と会った。原告鈴木は、同牧師に対し警戒心を持って接し、話は聞いたものの、内心では全て否定し、自分の考えを変える気はなかった。原告鈴木は、いくら話し合っても同じであると考え、両親の商売のことも気になったため、父親に対し、真実棄教する気はなかったが、棄教する旨告げた。ところが、父親は、店がつぶれてもかまわないから同原告が間違いに気づくまでは民宿にいるとの強い姿勢を示したため、原告鈴木は、真剣に考えてみる気になった。
原告鈴木は、数日後、被告法人の幹部であった脱会者が内情について話すテープを聞いた際、突然我に返ったようになり、「もしかして牧師の言うことが本当であったらどうしよう。」と考えた。牧師の話を聞いていくに従い、同原告のこれまでの活動があまりにも人道を外れた行動であったように感じられ、惨めな気持ちになった。
原告鈴木は、その後、他の脱会者の話を聞くなどして、合計二〇日間ほど民宿に滞在した。原告鈴木は、自分が間違っているかもしれないとの考えについては、自分自身を否定されるように感じ、なかなか受け入れられず、しばらく放心状態となった。
(三) 脱会
原告鈴木は、平成三年六月、被告法人に対し、脱会届を出した(平成三年六月、脱会したことは当事者間に争いがない。)。
原告鈴木は、従前、ビデオセンター等の活動をすることにより、確実に成長していると信じていたが、脱会の決意をした後、自分が、家族、友人との関係も疎遠となり、平気で嘘をつくなど、偏った人間になっていると感じ、強いショックを受けた。また、上記活動に従事した間は、常に上司に報告、連絡、相談をし、上司の指示に従って行動していたため、自分の意志で決めるということに不安を感じるなど、精神的に不安定な状態が一年ほど続いた。
5 献金等
原告鈴木は、ビデオセンターに入会した昭和五九年九月ころから脱会した平成三年六月までの間、何回かにわたり、献金し、受講料を支払い、着物などの物品を購入したことが窺われる。
(原告小栗育代について)
前記認定した事実に加え(第二章、第一と第三章、第二、一)、甲二八三ないし二九二、乙一〇〇ないし一一三、一三七、原告野田育代本人及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 入教の過程
(一) ビデオセンター入会
原告小栗は、昭和六〇年二月三日、名古屋市中区栄において、街頭アンケート活動中の長瀬春代(以下「長瀬」という。)に声を掛けられた。長瀬は、原告小栗を近くの栄ハイツビル所在の連絡協議会のビデオセンターである名古屋教育文化センター(以下「ビデオセンター」等という。)に連れていき、他の女性一人と共に、平和や少年非行の防止について話すなどした。原告小栗は、真面目に社会問題を話し合う二人の姿を見て感心し、カルチャースクールのようなものだと考えて、受講料頭金を払って入会した。右の間、長瀬らは被告法人の教団名、文鮮明の名前については一切触れなかった。
(二) ビデオセンター
(1) 講義
原告小栗は、同年二月四日、ビデオセンターに行き、入会金の残金を支払い、以後、土曜日、日曜に同所に通った。同原告は、同所において、一般教養として聖書を学んでいると考えていた。
(2) 印鑑購入
原告小栗は、同月一四日、長瀬の紹介により、加藤カウンセラーに連れられて千種区本山のマンションに行き、占い師と称する人物に会い、家系図を見てもらった。占い師は、同原告に対し、「家を守るために出家するか、印鑑を買わねばならない。」などと告げたが、同原告は、納得できず、購入を断った。原告小栗は、占い師を信用しなかったが、あらかじめこれはビデオセンターとは全く関係がないと言われていたため、ビデオセンターに対しては特に不信感を持たなかった。
原告小栗は、同月一六日、加藤カウンセラーに連れられ、名古屋駅近くの旅館で別の占い師に会った。この時もビデオセンターとは関係ない旨聞かされた。この占い師も同様に原告小栗に対し印鑑の購入を勧め、四時間近く説得した。原告小栗はこれに応じなかったが、三日間に連続して二回も印鑑購入を勧められたため不安になり、長瀬に電話したところ、長瀬は、「ビデオセンターとは別のものだが、ためになる話だからよく聞いてほしい。」と答えた。
(三) ツーデイズ(一回目)
原告小栗は、同年三月八日から一〇日まで、ビデオセンターのスタッフに誘われて、名古屋市千種区内の中京大学の寮において、ツーデイズに参加し。両親に対しては、スタッフの指示どおり、会社の研修と説明した。
ツーデイズでは、軍隊式に列を組んで走るなど全体にきびきびした行動を要求され、他の参加者が楽しそうにしている中で、原告小栗は、精神的、肉体的にきついと感じ、今後のセミナー等への参加に不安を感じた。しかし、講義においては、再臨のメシアの説明を受けて大変なことを聞いたと感動し、メシアが誰かとの興味を抱いた。
(四) ライフトレーニング(一回目)
原告小栗は、同年三月一一日から一九日まで、名古屋市中区の森ビルにおいて、ライフトレーニングに参加した。家族には、会社のセミナーで紹介された別のセミナーを受講料してる旨説明した。
原告小栗は、同トレーニングの最終日に、再臨のメシアは文鮮明であり、ビデオセンターは被告法人が行っている事業である旨聞かされた。
(五) フォーデイズ(一回目)
原告小栗は、同年三月二一日から二四日まで、被告法人の守山修練所において、フォーデイズに参加した。原告小栗は、嘘をつきとおすことは難しいと考え、家族に対し、会社とは関係のない教養サークルのセミナーに参加する旨説明した。母親は心配したが、積極的には反対しなかった。
原告小栗は、同セミナーにおいて、文鮮明の個人史である主の路程の講義を聞いて感動し、自分も人のために何かしなければならないとの使命感を強く持ったが、同時に、ツーデイズで感じた厳しさから、信者としての活動ができるかに不安もあり、班長面接においては、「来ることがあるなら一緒にやっていきたい。」と答えた。
原告小栗は、できれば献身したいとも考えたが、両親が反対して献身できなかった場合、嘘をついたことになり、墜落人間となってしまうとの怖れから、宣誓式においても、新生トレーニングに参加する旨宣誓するに止めた。
(六) 新生トレーニング(一回目)
原告小栗は、両親の反対を慮り、しばらくの間、新生トレーニングへの参加を見合わせ、自宅から前記森ビルに通って講習を受けた。その間、芳賀マザーから、「原告小栗の家は女性が強い家系なので女性である同原告が氏族メシアの役割を引き受けなければならない。」と言われ、これを信じた。
(1) 物品購入
原告小栗は、右の間、班長から名古屋市内のホテルで開かれた宝石(CB)の展示会に誘われ、弟と共に参加し、真珠のネックレスとイヤリング(各々三〇万円、一〇万円程度)を購入した(第二章、第二、五、(原告らの主張)6、(三)、(1))。また、そのころ、勧められて化粧品等も購入した。原告小栗は、これらのいずれも信者がやっているメーカーであると聞かされた。
(2) 新生トレーニング
原告小栗は、同年四月下旬ころ、前記森ビルに泊まり込み、新生トレーニングを始めた。
原告小栗の両親らは、変なところではないのか等と心配したが、同原告が参加の姿勢を示したため、強くは反対しなかった。
原告小栗は、同トレーニング中、珍味売り、街頭アンケート活動をそれぞれ一回ずつ経験した。
(七) 実践トレーニング
原告小栗は、同年六月、名古屋市千種区所在の被告法人の名古屋教会において、一ヵ月の予定で実践トレーニングに参加し、街頭アンケート活動等を行った。
原告小栗は、そのころ、既に献身するつもりでおり、実践トレーニングの秦主任(以下「秦主任」という。)の勧めに従い、職場の上司に対し、同月末で退職する旨告げた。
2 中断
(一) 原告小栗の両親は、同原告が退職することを知り、実践トレーニング中の同年七月ころ、職場の入り口で待ち受け、同原告を実家へ連れて帰った。
原告小栗は、一週間後、従兄弟の尊敬する上司の家に連れていかれ、しばらく同所で生活し、文鮮明の批判等を聞かされたが、活動を止めるつもりはなかった。原告小栗は、同年七月下旬ころ、同所から実家に戻り、秦主任の、家族復帰のためにも親に尽くして安心させるようにとの指示に従い、しばらくビデオセンター等での活動を中断した。
(二) 原告小栗は、同年一二月ころから、週に一、二回程度、半田市内の連絡協議会の下部組織である壮婦の会にビデオ講義受講のため通い、さらに、昭和六一年七月ころから、歯科医院に務める傍ら、前記森ビルに通ったが、信者としての活動はしなかったため、家族もこれを黙認した。
3 再開
(一) ツーデイズ(二回目)
原告小栗は、昭和六三年一月から、半田市内に新しくできたビデオセンターに通い始め、同年末ころにはほぼ毎日通所し、平成元年二月ころ、再びライフトレーニングセミナー(従前のツーデイズに当たる。以下「ツーデイズ」という。)の受講を勧められた。
原告小栗は、同年三月一八、一九日、被告法人の名古屋教会において、ツーデイズを受講したが、両親には伏せて、自宅から通所した。
(二) フォーデイズ(二回目)
原告小栗は、同年五月三日ないし五日、家族の反対を押し切って、被告法人の守山修練所に泊まり込み、リーダースセミナー(従前のフォーデイズにあたる。以下「フォーデイズ」という。)を受講した。
(三) 新生トレーニング(二回目)、実践トレーニング(二回目)
原告小栗は、同年七月ころ、新生トレーニングを、同年八月ころ、実践トレーニングを、名古屋市中区金山のビデオセンターにおいて、それぞれ実家から通学して受講した。
4 献身
(一) 献身
原告小栗は、平成元年一一月初旬、実家を出て献身する決意をし、同月一〇日、一旦実家を出たが、連れ戻され、翌日早朝、家を抜け出して金山のホームに身を隠し、以後清州町のアパート、東枇杷島のアパート等を転々し、平成二年一月、献身した。献身後は、金山の青年団に配属された。
(二) 反対牧師対策
原告小栗は、右の間、募金活動をした他、反対牧師対策の講義等を受け、捕まると鎖につながれるなどと聞かされた。
原告小栗は、当時、募金活動の名実不一致を知っていたが、集まった金は、文鮮明のために被告法人の上部に送られ、地上天国を実現することになるのだから、嘘を付いても許されると考えており、特に罪悪感は感じなかった。
(三) 両親に対する説得
原告小栗は、同年一月五日ころ、献身を認めてもらうため、実家に帰って家族と話し合ったが、折り合わなかったため、金山のホームにいる旨伝えて実家を出た。
5 献身後の活動
(一) 新人研修会、選挙応援
原告小栗は、同年一月中旬ころ、新人研修会に参加し、その後、研修会の責任者の指示により、特定の候補の選挙活動を手伝い、後援会入会の署名を求める戸別訪問等をした。その後、金山のホームに戻り、街頭アンケート活動、募金活動、展示会の接待、ツーデイズの食事当番等に従事した。
(二) 成約断食
原告小栗は、同年三月六日ないし一二日、金山のホームの中尾マザーに促され、七日間の成約断食をした。
(三) 二一日修練会
原告小栗は、同年三月、被告法人の千葉中央修練所で開かれた二一日修練会に参加し、講義の他、福島県を回ってお茶売り、海草の訪問販売等の活動をした。原告小栗は、右修練会中、他の参加者と共に結膜炎に罹ったが、保険証がなかったため、病院には行かなかった。
(四) マイクロ隊
原告小栗は、同年四月、マイクロ隊に配属され、一ヵ月程度、金沢の信者の家を拠点として珍味売りをした。一日一〇時間程度販売活動をし、一日四万円弱の売上があったが、重い荷物のため膝を痛めた。
(五) 印鑑販売
原告小栗は、同年五月から三ヵ月間、名古屋市千種区で印鑑販売の研修として、印鑑の戸別訪問販売に従事した。ノルマは一ヵ月に印鑑三個、売上額四〇万円であったが、他の研修員も含め、ノルマを達成できた者はいなかった。原告小栗は、当時、珍味や印鑑の販売活動は、文鮮明を知らない人が神に金を捧げるための仲介役を務める活動であると認識した。
原告小栗は、同年九月ころ、上司の指示により、名古屋市北区の印鑑店舗に転属し、同市西区中小田井のホームに移動して、本格的に印鑑販売活動を始め、西春日井郡、中村区、海部郡蟹江町等を廻り、戸別訪問をして印鑑を販売した。
原告小栗は、同所において、財産のある家を集中的に訪問して売上を上げるように等の指示を受けたが、物品の購入は神に金を捧げることであり、金額の多寡は関係ないという自分の考えと矛盾を感じた。
原告小栗は、平成三年二月、印鑑の売上実績の低い者を集めた新規隊に配属され、名古屋の他、富山、石川、福井の各県の印鑑店舗を三日ごとに移動して、印鑑の訪問販売を続けた。
(六) 卵巣摘出
原告小栗は、中小田井のホームに戻った後の同年三月ころ、印鑑店舗の北原マザーによる祝福面接の際、「献身したころから生理が止まっている。」旨告げたところ、すぐ病院にいくよう指示され、診断を受けたところ、卵巣腫瘍が見つかり、同年四月二日、名古屋逓信病院において手術を受けた。
6 棄教
(一) 説得
原告小栗は、平成三年三月一四日、同病院を退院したが、両親に半田市内のアパートに連れていかれ、三日間にわたって、両親、叔母、弟らから脱会するよう説得を受けた。四日目、平良牧師が訪問して説得に当たったが、同牧師が高圧的な態度であったため、原告小栗は耳を貸さず、隙をみて、連絡協議会の富山ブロック長に救出を求める手紙を隣家の郵便受けに入れた。七日目ころ、連絡協議会の青年団の信者らがアパートを尋ね、周辺で騒ぐなどした。
(二) 棄教
その後、家族らは同原告を半田市内の別の一軒家に連れていき、杉本牧師と会わせた。同牧師は、原告小栗に対し、物品販売活動がいかに詐欺的な活動であるかなどと説明し、原告小栗は、従前、印鑑販売について感じた疑問に照らし、内心ではもっともだと考え、被告法人の教えは誤りではないかと考え始めた。次に、文鮮明を巡る教義上の疑問点等を聞かされ、原告小栗は、もう一度被告法人について考え直してみようと思い、同五月上旬、同牧師の自宅近くのアパートに移った。原告小栗は、同所において、原告永田の話を聞き、自己の従事した物品販売活動、募金活動等について考えるうち、次第に教義を信じる気持ちを無くし、犯罪行為であるとの確信を深めた。同原告は、平成三年五月二〇日ころ、脱会を決意し、同月三一日付で脱会届を提出した(平成三年五月三一日付で脱会したことは当事者間に争いがない)。
7 献金等
原告小栗は、昭和六〇年二月のビデオセンター入会から、平成三年四月に脱会するまでの間、何回かにわたり、献金し、受講料を支払い、宝石などの物品を購入したことが窺われる。
第三 争点3(被侵害利益、違法性)について
一 はじめに
一般に、当該宗教を広めるために勧誘、教化する行為、勧誘、教化された信者を各種の活動に従事させたり、献金させたりする行為は、それが社会的に正当な目的に基づいており、方法、結果が社会通念に照らして相当である限り、宗教法人の正当な宗教活動の範囲内にあるものと認めるのが、相当である。しかしながら、これに反して、当該行為が、目的、方法、結果から見て社会的に相当な範囲を逸脱しているような場合には、民法が規定する不法行為との関連において、違法の評価を受けるものといわなければならない。ただし、これらを検討するに当たり、裁判所は、憲法二〇条一項に従い、当該宗教の教義の当否等に立ち入って判断しない。
次に、原告らは、被告法人の違法な侵害行為があったと主張するが、被告法人は、連絡協議会、販社などの行為であるから関知しないと反論する。そこで先ず、この点を整理すると、信者が、自らの信仰により行う宗教上の行為を世俗法の面から検討するとき、右の信者の行為が教団あるいは教祖(以下、両者を単に「宗教教団」という。)との関係において直ちに指揮監督関係の下にあるとはいい難い側面を残すことは前示した(第三章、第一、三)。もっとも、連絡協議会、販社などは、前示したように、その生成の過程をみれば、被告法人の一部が宗教法人法上の要請などから組織体系を整える中からできたものであって、相互に人的交流があるなど無関係の組織ではない。実際にも、連絡協議会の系列下の諸集団が、ビデオセンターなどの受講生に対して、被告法人の教義を伝道するため勧誘、教化すること自体は前示したところである。右伝道の場において、勧誘、教化する側、勧誘、教化される側のいずれについても、信教の自由は認められる。したがって、原告らに対する違法な侵害行為及び法益侵害の有無、程度を検討するにあたっては、連絡協議会などと信者の双方の信教の自由を害しないよう慎重な配慮を要する。
二 原告羽佐田について
原告羽佐田は、①いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により人格権(自己決定権)を侵害された、②右勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられた結果、人格権を侵害された、③右勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害され、精神的、身体的自由を拘束されて、労働を強制された結果、人格権を侵害されたと主張するので、以下それぞれについて検討する。
1 ①について
(一) 一般に、当該宗教を布教するために勧誘、教化する行為は、宗教的な目的によるところ、連絡協議会のビデオセンターなどにおける諸活動は、被告法人の教義を布教するための勧誘、教化行為であるというべきである。
(二) 勧誘の方法は、前記認定のとおりである(第三章、第二、一)。すなわち、ビデオセンター等における勧誘の当初においては、被告法人の教団名、文鮮明の名前は隠して勧誘し、聖書の勉強をするところであるなどといい、費用を徴して参加を認める教養講座セミナーの形態をとる。ビデオセンターにおいては、講義をするほか、カウンセラーがついて、一人ずつ個別に指導をする。その後、ツーデイズ、フォーデイズという宿泊を伴う研修を行い、フォーデイズを受ける直前になって、初めて、被告法人の教団名及び文鮮明の名前を開示する。フォーデイズの段階までは、両親にビデオセンターに通っていることや研修を受けていることを言わないようにと指導をする。そして、献身に至るまで、かなり説得を繰り返す。その後、献身をした信者は、基本的にホームで生活し、あるいはキャラバン隊に属するなど、家を離れ、他の信者との集団生活をしながら、アンケート活動、印鑑、珍味などの販売活動に従事するが、献身後の生活は厳しいものがある。
原告羽佐田についてみれば、昭和五九年一月、幼なじみの友人から熱心に誘われてビデオセンターに入会し、その後、ツーデイズ、ライフトレーニングを経て、同年四月、フォーデイズに参加して、そこで周囲の雰囲気に直ちには馴染めないとも感じながらも、他の受講者全員とともに、文鮮明夫妻のために生涯を捧げるとの宣誓をした。同年八月、ビデオセンターのホームで新生トレーニングを受け、同年九月、他の新生トレーニングの参加者と共に実践トレーニングに参加し、ホーム生活を続け、勧誘されてから一年一ヵ月後の昭和六〇年二月、大学卒業と同時に献身した。その後、ホームやキャラバン隊に所属しながら、街頭アンケート活動、難民救済募金、珍味、印鑑、仏壇等の販売活動などに従事し、その間、被告法人の二一日修練会に参加した。同原告は、昭和六三年一〇月三〇日、祝福(合同結婚式)を受けたが、その後、両親の下に帰省した際、民宿に連れていかれ、牧師の話を聞いたり、書物を読んで被告法人の教義を再学習したりする中でその教義に疑問を抱くようになり、平成元年二月ころ、脱会した。(第三章、第二、二(原告羽佐田について))
(三) 原告らは、正体を隠した勧誘及びいわゆるマインド・コントロールによる教義の教込みは違法であると主張する。
たしかに、前記認定したところによれば(第三章、第二、一)、初めは、「統一協会(世界基督教統一神霊協会)」という教団名、文鮮明の名前には触れないで、ビデオセンターに勧誘し、その後、ある程度信仰が受容されるまでは、これを明かさず、また、両親等外部には勧誘、教化の内容を漏らさないよう注意していることが認められる。
しかし、被勧誘者は、被告法人の教団名及び文鮮明がメシアであることは、少なくともフォーデイズの直前の段階で開示され、さらに、新生トレーニング、実践トレーニングを経て、宗教上の決断をして献身に進むことになる。この間、ビデオセンターに入会した者のうち献身まで進む者は少ない。ビデオセンターに通うことなどについて特段の強制はなく、また、脱会についても、宗教上の言説以上にこれを阻止する手段は用いていないこと、外部との接触についても、献身までは必ずしも遮断されたとはいえず、献身後においても口頭で指示を与える以上に物理的な方法等による遮断はないこと(信者が所持している本などを検閲するなど積極的な情報操作をしたことは、本件全証拠を精査しても、窺われない。)が認められる。また、勧誘にあたり、薬物を使ったり、物理的、身体的な強制力を用いたりしたという事実は、本件全証拠を精査しても、未だ認めるに足りる的確な証拠はない。
原告羽佐田については、献身までに一年一ヵ月以上の期間を要し、献身から三年一〇ヵ月経過した後に祝福を受け、その数ヵ月に脱会したこと、同原告は、悩みつつも信仰を受容する過程において、各段階ごとに宗教的な決断をしていること、その後自ら教義を再学習するなかで脱会を決断した(第三章、第二、二(原告羽佐田について))。
以上によれば、連絡協議会の系列下におけるセミナーなどにおける勧誘、教化行為は、被告法人の教団名、文鮮明の名前を明かさない点において、やや道義上の問題を残すとしても、前記(一)(二)認定の目的及び勧誘、教化の方法などを総合考慮するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいうことができない。
また、原告らの主張するいわゆるマインド・コントロールは、それ自体多義的であるほか、一定の行為の積み重ねにより一定の思想を植え付けることをいうと捉えたとしても、前示したところによれば、原告らが主張するような効果があるとは認められず、さらに、前記(一)(二)で認定した勧誘、教化の方法、経過を併せ考慮しても、宗教上の勧誘、教化行為のあり方として、社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告羽佐田は、違法な勧誘、教化行為により人格権を侵害されたとはいえない。
2 ②について
前記認定したとおり(第三章、第二、一)、信者は、献身前には、実践トレーニングのなかで販売活動を行い、献身後には、ホームやキャラバン隊などに属して、印鑑等の販売活動等に従事するところ、これらの活動は、財貨を取得し、物品を販売するなどして収益をあげる点において経済的な側面があるほか、修行などの宗教的行為の側面を持つ。
原告らの行った難民救済募金や因縁トークを用いた印鑑などの販売活動が、刑法上、詐欺罪等に該当するかどうかについては、最終的には個別の事案に即して、検討すべきであるが、少なくとも道義上の問題はなしとしない。原告らは、宗教上の教義との関係において右諸活動の意味を教えられて、その意義を見出していた。もっとも、原告らが、信仰を捨てた脱会後に、顧みて自らが従事してきた諸活動の意味を認識することは必ずしも容易ではない。
前記認定(第三章、第二、一(原告羽佐田について))の事実によれば、原告羽佐田は、当時から、難民救済募金や因縁トークを用いた印鑑などの販売活動は違法ではないかと疑いを持ち、規範の問題に直面したうえで、宗教上の教義との関係で、自ら右活動が意味があると考えて決断していたといえるところ、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、本件全証拠をみても、右決断の過程において、宗教的な言説以上に物理的、身体的な強制力が介在したことを窺わせる証拠もない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告羽佐田を難民救済募金や因縁トークを用いた販売活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告羽佐田は、違法な勧誘、教化行為によって、自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられ、人格権を侵害されたとはいえない。
3 ③について
前記認定したところによれば(第三章、第二、一)、献身後の生活は、主としてホームやキャラバン隊等に属して、他の信者との集団生活をしながら、諸活動をするところ、その活動のなかには、街頭でのアンケート活動やビデオセンターのカウンセラー、セミナーの班長など宗教的行為としての側面が強いもののほか、個別訪問による珍味、印鑑等の販売活動のように外形上は商業活動との区別はつきにくいものもあるが、右の諸活動についても信者の認識としては宗教的行為としての意味を持つ。
献身後の信者は、ホームにおいては、ビデオセンターのカウンセラーや展示会での販売活動等に従事し、また、キャラバン隊等に属して、栄養や睡眠時間も十分とらず、ワゴン車に寝泊まりするなどして、早朝から深夜まで、戸別訪問を繰り返して珍味や印鑑等の販売活動を行うが、右活動にはノルマが設定され、ノルマを達成することが期待されていた。
しかしながら、献身後の信者に対して前記諸活動に従わせるについて、物理的、身体的な拘束力を行使したことは、前示した事実関係からは窺えない(なお、本件全証拠を精査しても、ノルマを達成できない場合に、社会通念に照らして行き過ぎた制裁があった事実を窺わせる証拠は見出し難い。)。また、信者が右のような生活を止めようとした場合に、信者に対して、宗教的な言説以上の方途を用いて物理的、身体的な拘束を加え、あるいは加えようとしたこと、その他、信者の日常生活を監視する体制を敷くこと、あるいはこれと同視すべき特段の警備体制の存在を窺わせる事情を認めるに足りる証拠はない。
原告羽佐田は、少なくとも昭和六〇年二月に献身し昭和六三年一〇月に祝福を受けるまで、ホームで生活し、キャラバン隊等の活動に従事し、前示したような生活を送った。その間、同原告は、重い荷物を持ったために背骨が歪んだり、犬に噛まれて左足を七針縫う手術を受け、その手術の直後に募金活動をしたりしたほか、運転手が居眠り運転をしたため、乗っていたワゴン車が起こした交通事故の巻き添えにあって、額を三針縫う怪我を受けるなどした。
原告羽佐田は、自ら宗教上の決断により献身して厳しい諸活動に従事することを選んだところ、前記1に認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえない。また、右諸活動に従事するなかにおいて、物理的、身体的な強制力や、行き過ぎた制裁の存在を窺わせる事情はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告羽佐田を右諸活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告羽佐田が、違法な勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害されたとはいえず、また、働くことを違法に強制され、もって人格権を侵害されたともいえない。
4 ④について
被告法人又は連絡協議会に信者が献金する行為は、いずれにおいても、宗教的行為として意味づけられるものである。
受講料を支払ってセミナー等に参加する行為は、対価を払って、精神世界に関する、あるいは宗教的な知見などを取得する行為であり、連絡協議会、販社などから信者が宝石、着物等(以下「物品」という。)を購入する行為は、対価を支払って目的物を取得する行為であるが、いずれも、被告法人の教義との関係において、その宗教的意味を持つ行為である。
前記認定したところによれば(第三章、第二、一(原告羽佐田について))、次のとおり認められる。すなわち、原告羽佐田は、ビデオセンターに通うようになった昭和五九年一月から脱会した平成元年三月までの間に、さまざまな教えを受け、自らも学習して信仰を深める過程において、献金、セミナー受講料の支払い、物品の購入(以下「献金等」という。)をすることを、宗教上有意義なものと信じて、自ら決めて行った。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、各献金等を決断するについては、宗教上の言説による勧誘によるところが大きかったが、本件全証拠を精査しても、強制、その他社会通念に反するような手段を弄したことを認めるに足りる証拠はない。さらに、右献金等をする献金等の金額(個別及び合計額)、その頻度、その他をみても、同原告の年齢、知識、経歴等にかんがみて、社会常識に反し、あるいは、合理性を欠くと見るべき特段の事情はない。以上によれば、原告羽佐田に右献金等をさせたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告羽佐田が、違法な勧誘、教化行為により、献金等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたとはいえない。
三 原告大村について
原告大村は、①いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により人格権(自己決定権)を侵害された、②右勧誘、教化行為により自己の自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられた結果、人格権を侵害された、③右勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害され、精神的、身体的自由を拘束されて、労働を強制された結果、人格権を侵害されたと主張するので、それぞれについて検討する。
1 ①について
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告大村について))、以下のとおり認められる。原告大村は、昭和五九年一一月、印鑑の訪問販売を受けたことをきっかけに、ビデオセンターに通うようになり、その後、ツーデイズ、フォーデイズに参加し、昭和六〇年一月ころ新生トレーニングを受けたが、なかなか献身を決意することができず、同年二月から四月にかけて、ビデオセンターに通い、同年五月に二回めのフォーデイズ、その後二回めの新生トレーニングを受け、岡崎教会に通っては街頭アンケート活動を行ったりした後、昭和六一年三月に献身した。その後、ホームやキャラバン隊に所属しながら、珍味売り、街頭アンケート活動、新生トレーニングの班長、難民救済募金等の活動に従事し、その間、被告法人の二一日修練会に参加した。同原告は、昭和六三年一〇月二九日、祝福(合同結婚式)を受け、その後、隊マザー等として再びキャラバン隊等に所属し、募金活動や販売活動等に従事した。原告大村は、平成二年九月、実家に帰った際に、牧師から被告法人の出版物の矛盾を指摘されたり、原告羽佐田の話を聞くなかで、教義に疑念を抱くようになり、平成二年一〇月に脱会した。
原告大村については、献身までに、一年四ヵ月以上の期間を要し、献身から二年七ヵ月経過した後に祝福を受け、その約二年後に脱会した。原告大村は、献身を決意するまでに、フォーデイズ、新生トレーニングを二回づつ受け、逡巡したすえに、信仰を受容したが、その過程において、各段階ごとに自ら宗教的な決断をした。
前記二(原告羽佐田について)1と同様の判断の枠組みのもとに検討すると、原告大村に対する勧誘、教化行為は、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告大村が、違法な勧誘、教化行為により人格権を侵害されたとはいえない。
2 ②について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告大村について))、原告大村は、難民救済募金や因縁トークを用いた仏壇、運勢鑑定チケットなどの販売活動に従事したが、右諸活動について、違和感を感じながらも、宗教上の教義との関係で、右活動が意味があると一応考えて決断したということができる。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、本件全証拠をみても、右決断の過程において、宗教的な言説以上に物理的、身体的な強制力が介在したことを窺わせる証拠はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告大村を難民救済募金や因縁トークを用いた販売活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
そうすると、原告大村は、違法な勧誘、教化行為によって、自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられ、人格権を侵害されたとはいえない。
3 ③について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告大村について))、原告大村は、少なくとも昭和六一年三月に献身してから平成二年九月ころまでの間、ホームやキャラバン隊に所属して、他の信者との集団生活をしながら、街頭アンケート活動、新生トレーニングの班長や難民救済募金、仏壇等の販売に従事したことが認められる。
原告大村は、自ら宗教上の決断により献身して厳しい諸活動に従事することを選んだところ、前記1に認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえない。また、右諸活動に従事するなかにおいて、物理的、身体的な強制力や、行き過ぎた制裁の存在を窺わせる事情はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告大村を右諸活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告大村が、違法な勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害されたとはいえず、また、働くことを違法に強制され、もって人格権を侵害されたともいえない。
四 原告岩瀬について
原告岩瀬は、①いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により人格権(自己決定権)を侵害された、②右勧誘、教化行為により自己の自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられた結果、人格権を侵害された、③右勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害され、精神的、身体的自由を拘束されて、労働を強制された結果、人格権を侵害された、④右勧誘、教化行為により、献金、物品購入等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたと主張するのでこれについて検討する。
1 ①について
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告岩瀬について))、以下の事実が認められる。原告岩瀬は、平成元年六月、街頭アンケートで声をかけられたのをきっかけに、ビデオセンターに通うようになり、その後、ワンデイ、同年七月に、ツーデイズを受けた。原告岩瀬は、その後のフォーデイズ等の参加を断ろうとしたが、ビデオセンターで熱心に説得されてライフトレーニングを受け、同年八月にフォーデイズに参加し、その間、韓国統一教会の旧本部を訪問した際に、啓示を受けたように感じたことをきっかけに、被告法人の教えは真理であり、文鮮明はメシアであると考えるようになった。その後、新生トレーニング、実践トレーニング(その間にパーフェクションセミナーを受講)を経て、同年一一月に献身し、その後は、ホームやキャラバン隊に所属しながら、街頭アンケート活動、清涼飲料水の戸別訪問販売、難民救済募金、新生トレーニングの班長等の活動に従事し、その間、平成二年一月に、被告法人の二一日修練会に参加した。平成二年七月に、路上で親族らに民宿に連れてゆかれ、そこで、牧師の話を聞いたり、書物を読んだりするなかで、被告法人の教義に疑問をもつようになり、同月末に脱会した。
原告岩瀬については、献身までに、五ヵ月以上の期間を要し、献身から八ヵ月後に脱会した。原告岩瀬は、フォーデイズの段階で、啓示を受けたように感じたのをきっかけに、信仰の受容を深め、その後、各段階ごとに自ら宗教的な決断をして、献身に至った。
前記二(原告羽佐田について)1と同様の判断の枠組みのもとに検討すると、原告岩瀬に対する宗教の勧誘、教化行為は、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告岩瀬が、違法な勧誘、教化行為により人格権を侵害されたとはいえない。
2 ②について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告岩瀬について))、原告岩瀬は、難民救済募金等の活動に従事したが、右活動については、違和感を感じながらも、宗教上の教義との関係で、右活動が意味があると一応考えて決断したということができる。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、本件全証拠をみても、右決断の過程において、宗教的な言説以上に物理的、身体的な強制力が介在したことを窺わせる証拠はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告岩瀬を難民救済募金等の活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
そうすると、原告岩瀬は、違法な勧誘、教化行為によって、自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられ、人格権を侵害されたとはいえない。
3 ③について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告岩瀬について))、原告岩瀬は、少なくとも平成元年一一月に献身してから平成二年七月に脱会するまでの間、ホームやキャラバン隊に所属して、他の信者との集団生活をしながら、街頭アンケート活動、難民救済募金活動、清涼飲料水等の販売活動に従事したことが認められる。その間、重い荷物を持ったために、背骨が少し曲がったり、ストレスで右手の感覚がなくなるという症状が三週間程度続いたことがあった。
原告岩瀬は、自ら宗教上の決断により献身して厳しい諸活動に従事することを選んだところ、前記1に認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえない。また、右諸活動に従事するなかにおいて、物理的、身体的な強制力や、行き過ぎた制裁の存在を窺わせる事情はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告大村を右諸活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告大村が、違法な勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害されたとはいえず、また、働くことを違法に強制され、もって人格権を侵害されたともいえない。
4 ④について
以下、前記一、原告羽佐田について、4と同様の判断の枠組みをもとに検討する。
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告岩瀬について))、次のとおり認められる。すなわち、原告岩瀬は、ビデオセンターに通うようになった平成元年一一月から脱会した平成二年七月までの間、さまざまな教えを受け、自らも学習して信仰を深める過程において、献金、セミナー受講料の支払い、物品の購入(以下「献金等」という。)をすることを、宗教上有意義なものと信じて、自ら決めて行った。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、各献金等を決断するについては、宗教上の言説による勧誘によるところが大きかったが、本件全証拠を精査しても、強制、その他社会通念に反するような手段を弄したことを認めるに足りる証拠はない。さらに、右献金等をする献金等の金額(個別及び合計額)、その頻度、その他をみても、同原告の年齢、知識、経歴等にかんがみて、社会常識に反し、あるいは、合理性を欠くと見るべき特段の事情はない。以上によれば、原告岩瀬に右献金等をさせたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告岩瀬が、違法な勧誘、教化行為により、献金等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたとはいえない。
五 原告永田について
原告永田は、①いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により人格権(自己決定権)を侵害された、②右勧誘、教化行為により自己の自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられた結果、人格権を侵害された、③右勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害され、精神的、身体的自由を拘束されて、労働を強制された結果、人格権を侵害された、④右勧誘、教化行為により、献金、物品購入等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたと主張するのでこれについて検討する。
1 ①について
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告永田について))、以下の事実が認められる。原告永田は、昭和六二年四月、街頭アンケートで声をかけられたのをきっかけに、ビデオセンターに通うようになり、その後、ツーデイズ、フォーデイズに参加した後、同原告の母に反対されたこともあって、いったんセミナー等を離れ、その間、短大を卒業し、町役場に就職したが、平成元年二月頃から再びビデオセンターに通うようになり、ツーデイズ、スリーデイズ、新生トレーニング、実践トレーニングを受けて、ホームで生活するようになった。平成元年八月に両親などから脱会を説得されたが、同原告は、反対牧師対策講義で教えられたとおり、偽装の脱会届を書き、同年九月にホームに戻り、一一月、献身した。その後は、ホームやキャラバン隊に所属しながら、街頭アンケート活動、難民救済募金、ビデオセンターのトーカー等の活動に従事し、その間、被告法人の二一日修練会に参加した。
同原告は、平成三年四月、両親に山荘に連れていかれ、牧師の話を聞くなどするうち、教義に疑問を抱くようになり、脱会した。
原告永田については、当初ビデオセンターに通うようになってから献身するまでに、二年七ヵ月以上の期間を要し、献身から一年五ヵ月後に脱会した。原告永田は、献身に至るまでの間、いったんはビデオセンターを離れた時期があったが、再びビデオセンターに通うなかで信仰を受容し、その後の各段階において、自ら宗教的な決断をし、両親などから脱会を説得されたにもかかわらず、自らの判断で、献身に至った。
前記二(原告羽佐田について)1と同様の判断の枠組みのもとに検討すると、原告永田に対する宗教の勧誘、教化行為は、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告永田が、違法な勧誘、教化行為により人格権を侵害されたとはいえない。
2 ②について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告永田について))、原告永田は、難民救済募金等の活動に従事したが、右活動については、違和感を感じながらも、宗教上の教義との関係で、右活動が意味があると一応考えて決断したということができる。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、本件全証拠をみても、右決断の過程において、宗教的な言説以上に物理的、身体的な強制力が介在したことを窺わせる証拠はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告永田を難民救済募金等の活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
そうすると、原告永田は、違法な勧誘、教化行為によって、自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられ、人格権を侵害されたとはいえない。
3 ③について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告永田について))、原告永田は、少なくとも平成元年一一月に献身してから平成三年四月に脱会するまでの間、ホームやキャラバン隊に所属して、他の信者との集団生活をしながら、街頭アンケート活動、難民救済募金活動等の諸活動に従事したことが認められる。
原告永田は、自ら宗教上の決断により献身して厳しい諸活動に従事することを選んだところ、前記1に認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえない。また、右諸活動に従事するなかにおいて、物理的、身体的な強制力や、行き過ぎた制裁はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告永田を右諸活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告永田が、違法な勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害されたとはいえず、また、働くことを違法に強制され、もって人格権を侵害されたともいえない。
4 ④について
以下、前記三、原告羽佐田について、4と同様の判断の枠組みをもとに検討する。
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告永田について))、次のとおり認められる。すなわち、原告永田は、ビデオセンターに通うようになった昭和六二年四月から脱会した平成三年四月までの間に、さまざまな教えを受け、自らも学習して信仰を深める過程において、献金、セミナー受講料の支払、物品の購入(以下「献金等」という。)をすることを、宗教上有意義なものと信じて、自ら決めて行った。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、各献金等を決断するについては、宗教上の言説による勧誘によるところが大きかったが、本件全証拠を精査しても、強制、その他社会通念に反するような手段を弄したことを認めるに足りる証拠はない。さらに、右献金等をする献金等の金額(個別及び合計額)、その頻度、その他をみても、同原告の年齢、知識、経歴等にかんがみて、社会常識に反し、あるいは、合理性を欠くと見るべき特段の事情はない。以上によれば、原告永田に右献金等をさせたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告永田が、違法な勧誘、教化行為により、献金等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたとはいえない。
六 原告鈴木について
原告鈴木は、①いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により人格権(自己決定権)を侵害された、②右勧誘、教化行為により自己の自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられた結果、人格権を侵害された、③右勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害され、精神的、身体的自由を拘束されて、労働を強制された結果、人格権を侵害された、④右勧誘、教化行為により、献金、物品購入等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたと主張するのでこれについて検討する。
1 ①について
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告鈴木について))、以下の事実が認められる。原告鈴木は、昭和五九年九月ころ、大学の同級生から誘われたのをきっかけにビデオセンターに通うようになり、ツーデイズを受け、さらに同級生等から説得を受けて、半信半疑ながらライフトレーニングを受けたが、その後被告法人の教義を攻撃する書籍等に接し、また、私生活が多忙になったこともあって、いったんビデオセンターを離れた。その後、昭和六〇年九月ころ、街頭アンケートに接したのをきっかけに、再度ビデオセンターに通うようになり、フォーデイズ、新生トレーニング、実践トレーニングを受けて、昭和六一年一月に学生部に入り、ホームで生活するようになり、大学の長期休暇にはキャラバン隊に属して、街頭アンケート、印鑑、宝石等の各種展示会の動員、募金活動、ビデオセンターの受付、ハンカチ等の戸別訪問販売等の活動に従事した。その間、大学三年生に進級できずに留年した。同原告は、昭和六二年一〇月ころ、本部会員の登録を受け、平成元年二月に献身し、街頭アンケートや珍味等の販売のほか、ビデオセンターのトーカー、カウンセラー、宝石展示会のトーカー、セミナーの班長等の活動を行い、その間、被告法人の二一日修練会に参加した。同原告は、平成三年五月に帰省した際に、両親や牧師の話を聞き、脱会者の話すテープや脱会者から直接話を聞くなどするうちに、今まで受けた教えについて疑問を持つようになり、同年六月に脱会した。
原告鈴木については、当初ビデオセンターに通うようになってから学生部に入るまでに、一年四ヵ月、さらに献身するまでに、一年余の期間を要し、学生部に入ってから五年五ヵ月後、献身から二年四ヵ月後に脱会した。原告鈴木は、学生部に入るまでの間、いったんはビデオセンターを離れた時期があったが、再びビデオセンターに通うなかで信仰を受容し、その後の各段階において、自ら宗教的な決断をして学生部に入り、さらには献身に至った。
前記二、原告羽佐田について、1と同様の判断の枠組みのもとに検討すると、原告鈴木に対する宗教の勧誘、教化行為は、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告鈴木が、違法な勧誘、教化行為により人格権を侵害されたとはいえない。
2 ②について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告鈴木について))、原告鈴木は、難民救済募金、印鑑販売等の諸活動に従事したが、右活動については、違和感を感じながらも、宗教上の教義との関係で、右活動が意味があると考えて一応決断したということができる。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、本件全証拠をみても、右決断の過程において、宗教的な言説以上に物理的、身体的な強制力が介在したことを窺わせる証拠はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告鈴木を難民救済募金等の活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
そうすると、原告鈴木は、違法な勧誘、教化行為によって、自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられ、人格権を侵害されたとはいえない。
3 ③について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告鈴木について))、原告鈴木は、少なくとも昭和六一年一月に学生部に入ってから平成三年五月までの間、ホームやキャラバン隊等に所属して、他の信者との集団生活をしながら、街頭アンケート活動、難民救済募金活動等の諸活動に従事したことが認められる。
原告鈴木は、自ら宗教上の決断により献身して厳しい諸活動に従事することを選んだところ、前記1に認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえない。また、右諸活動に従事するなかにおいて、物理的、身体的な強制力や、行き過ぎた制裁を窺わせる事情はない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告鈴木を右諸活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告鈴木が、違法な勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害されたとはいえず、また、働くことを違法に強制され、もって人格権を侵害されたともいえない。
4 ④について
以下、前記三、原告羽佐田について、4と同様の判断の枠組みをもとに検討する。
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告鈴木について))、次のとおり認められる。すなわち、原告鈴木は、ビデオセンターに通うようになった昭和五九年九月から脱会した平成三年六月までの間に、さまざまな教えを受け、自らも学習して信仰を深める過程において、献金、セミナー受講料の支払い、物品の購入(以下「献金等」という。)をすることを、宗教上有意義なものと信じて、自ら決めて行った。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、各献金等を決断するについては、宗教上の言説による勧誘によるところが大きかったが、本件全証拠を精査しても、強制、その他社会通念に反するような手段を弄したことを認めるに足りる証拠はない。さらに、右献金等をする献金等の金額(個別及び合計額)、その頻度、その他をみても、同原告の年齢、知識、経歴等にかんがみて、社会常識に反し、あるいは、合理性を欠くと見るべき特段の事情はない。以上によれば、原告鈴木に右献金等をさせたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告鈴木が、違法な勧誘、教化行為により、献金等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたとはいえない。
七 原告小栗について
原告小栗は、①いわゆるマインド・コントロールによる勧誘、教化行為により人格権(自己決定権)を侵害された、②右勧誘、教化行為により自己の自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられた結果、人格権を侵害された、③右勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害され、精神的、身体的自由を拘束されて、労働を強制された結果、人格権を侵害された、④右勧誘、教化行為により、献金、物品購入等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたと主張するのでこれについて検討する。
1 ①について
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告小栗について))、以下の事実が認められる。原告小栗は、昭和六〇年二月ころ、街頭アンケートで声を掛けられたのをきっかけに、ビデオセンターに通うようになり、ツーデイズ、ライフトレーニング、フォーデイズを受けて、同年四月に新生トレーニングに参加し、家を出てホームから職場に通った。実践トレーニングに参加した後の同年六月に、同原告は献身をするために会社を退職したが、両親の知るところとなり実家に帰った。その後昭和六三年一二月までの間、同原告は、歯科医院等に勤務しながら、ビデオセンターに通い、平成元年二月から、ツーデイズ、フォーデイズ、新生トレーニング、実践トレーニングを受け、平成元年一一月、実家を抜け出して、ホームに身を寄せ、平成二年一月、献身した。同原告は、献身後、ホームの青年部やキャラバン隊に所属して募金活動、印鑑の訪問販売等の活動に従事し、その間、被告法人の二一日修練会にも参加した。同原告は、平成三年四月、卵巣摘出の手術を受け、その後、両親、牧師の話を聞く中で、内心抱いていた印鑑販売への疑問と相まって、被告法人の教えに確信を持てなくなり、同年五月、脱会した。
原告小栗については、当初ビデオセンターに通うようになってから献身に至るまでに、四年一一ヵ月の期間を要し、その一年三ヵ月後に、教義に疑問を持ち、脱会した。原告小栗は、実践トレーニングを受けたのち、いったんは両親の保護を受けたが、ビデオセンターに通うなかで各段階において、自ら宗教的な決断をするなかで信仰を受容し、両親のもとを飛び出すかたちで、自らの判断に基づいて献身に至った。
前記二(原告羽佐田について)1と同様の判断の枠組みのもとに検討すると、原告小栗に対する宗教の勧誘、教化行為は、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告小栗が、違法な勧誘、教化行為により人格権を侵害されたとはいえない。
2 ②について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告小栗について))、原告小栗は、募金活動、印鑑販売等の諸活動に従事したが、右活動については、違和感を感じながらも、宗教上の教義との関係で、右活動が意味があると一応考えて決断したということができる。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、本件全証拠をみても、右決断の過程において、宗教的な言説以上に物理的、身体的な強制力が介在したことを窺わせる証拠もない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告小栗を印鑑販売等の活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
そうすると、原告小栗は、違法な勧誘、教化行為によって、自由な意思決定を阻害されて違法な経済活動に従事させられ、人格権を侵害されたとはいえない。
3 ③について
前記認定のとおり(第三章、第二、二(原告小栗について))、原告小栗は、少なくとも平成二年一月に献身してから平成三年四月までの間、ホームやキャラバン隊に所属して、他の信者との集団生活をしながら、印鑑販売等の諸活動に従事したことが認められる。
原告小栗は、自ら宗教上の決断により献身して厳しい諸活動に従事することを選んだところ、前記1に認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえない。また、右諸活動に従事するなかにおいて、物理的、身体的な強制力や、行き過ぎた制裁の存在を窺わせる事情はない。なお、原告小栗は、卵巣摘出の手術を受けているが、これと右諸活動に従事したこととの因果関係は必ずしも明らかではない。結局、本件のような判示した事実関係のもとにおいて、原告小栗を右諸活動に従事させたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告小栗が、違法な勧誘、教化行為により自由な意思決定を阻害されたとはいえず、また、働くことを違法に強制され、もって人格権を侵害されたともいえない。
4 ④について
以下、前記三、原告羽佐田について、4と同様の判断の枠組みをもとに検討する。
前記認定したところによれば(第三章、第二、二(原告小栗について))、次のとおり認められる。すなわち、原告小栗は、ビデオセンターに通うようになった昭和六〇年二月から平成三年四月までの間、さまざまな教えを受け、自らも学習して信仰を深める過程において、献金や物品の購入(以下「献金等」という。)をすることを、宗教上有意義なものと信じて、自ら決めて行った。そして、前記1で認定した事実関係にかんがみれば、同原告に対する勧誘、教化行為は違法とはいえず、各献金等を決断するについては、宗教上の言説による勧誘によるところが大きかったが、本件全証拠を精査しても、強制、その他社会通念に反するような手段を弄したことを認めるに足りる証拠はない。さらに、右献金等をする献金等の金額(個別及び合計額)、その頻度、その他をみても、同原告の年齢、知識、経歴等にかんがみて、社会常識に反し、あるいは、合理性を欠くと見るべき特段の事情はない。以上によれば、原告小栗に右献金等をさせたことは、その目的、方法、結果を総合して判断するとき、いまだ社会的相当性を逸脱したとはいえない。
したがって、原告小栗が、違法な勧誘、教化行為により、献金等の出捐をさせられ、財産権を侵害されたとはいえない。
第四章 結論
以上の次第によれば、原告らの本訴各請求は、理由がなく、失当であるから、いずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官稲田龍樹 裁判官土谷裕子 裁判官森脇江津子)
別紙図面一〜三<省略>