名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)3744号 判決 1992年7月10日
原告
中島鈴子
ほか一名
被告
山羽康秀
ほか三名
主文
一 被告山羽康秀及び被告山羽伍郎は、連帯して、原告らに対し、各五五五万五九八五円宛及びいずれもこれらに対する平成二年一二月二日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告谷地田高也及び被告光岡優は、連帯して、原告らに対し、各四七〇万五九八五円宛及びいずれもこれらに対する平成二年一二月二日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。
五 この判決第一、二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、連帯して、原告らに対し、各一二五〇万円宛及びいずれもこれらに対する平成二年一二月二日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告らが左記一1の交通事故の発生を理由に、被告山羽康秀及び被告谷地田高也に対し民法七〇九条に基づき、被告山羽伍郎及び被告光岡優に対し自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求する事案である。
一 争いのない事実
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成二年一二月二日午前〇時四五分ころ
(二) 場所 名古屋市西区枇杷島二―二三―一八先交差点
(三) 第一車両 被告山羽康秀運転の普通乗用自動車
(四) 第二車両 被告谷地田高也運転、中島律子同乗の原動機付自転車
(五) 態様 別紙図面の南北道路を南進して本件交差点を右折しようとした第一車両と対向直進してきた第二車両とが衝突
2 被告らの責任原因
(一) 被告山羽康秀及び被告谷地田高也は、いずれもその過失により本件事故を引き起こした。
(二) 被告山羽伍郎及び被告光岡優は、それぞれ第一、第二車両を自己のために運行の用に供する者である。
3 損害(一部)
(一) 治療費 五〇万八九五〇円
(二) 文書料 一六〇〇円
4 相続関係
本件事故で中島律子が死亡したが、原告らは、その両親であり、同人の相続人は、原告らのみである。
5 損害の填補
原告らは、本件事故による損害に対し合計二五五三万四八六〇円の支払を受け、これに充当した(原告らの自認)。
二 争点
被告らは、いずれも損害額を争い、過失相殺の抗弁を主張しているほか、被告谷地田高也及び被告光岡優は、好意同乗の抗弁も主張している。
第三争点に対する判断
一 損害額
1 治療費(請求も同額) 五〇万八九五〇円
甲二、甲五、乙三によれば、中島律子は、本件事故により脳挫傷、硬膜外血腫等の傷害を負い、平成二年一二月二日篠辺病院に搬送され、続いて翌日から中部労災病院に入院して治療を受けたが、同月七日同病院で死亡したと認められるところ、この期間の治療費として右金額を要したことは当事者間に争いがない。
2 付添看護費用(請求三万円) 認められない。
付添看護の事実を認めるに足りる証拠がない。
3 入院雑費(請求七八〇〇円) 七二〇〇円
前示入院期間六日間に対し、一日当たり一二〇〇円が相当であると認められる。
4 文書料(請求も同額) 一六〇〇円
当事者間に争いがない。
5 死亡逸失利益(請求二七二〇万九七〇六円) 二二七五万四九九二円
(一) 乙三、原告中島鈴子本人によれば、中島律子は、昭和五〇年三月二四日生まれ(本件事故当時一五歳)の女性で、平成二年七月夜間高校を中退し、喫茶店、ガソリンスタンド、飲食店等でアルバイトして多いときで月額四万円あまりの給与を受け取つており、母親及び姉との三人暮らしをしていたことが認められる。なお、原告中島鈴子は、律子が専門学校入学を希望していた旨供述するが、具体的な入学準備の事実を認めるに足りる証拠はない。
(二) 右の事情のほか、中島律子の家事労働・将来の正式就職の可能性等も考慮に入れれば、同女の死亡による逸失利益を算定するにあたつては、生活費控除の割合を四〇パーセント、就労可能年数を右一五歳から六七歳までの五二年間とし、<1>そのうち一五歳から一八歳までの三年間につき、本件事故の年である平成二年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・新中学校卒業の一七歳以下の女子労働者の平均年間給与額一四八万〇七〇〇円の五〇パーセントを基礎とし、<2>一八歳から六七歳までの四九年間につき、平成二年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・新中学校卒業の一八歳から一九歳までの女子労働者の平均年間給与額一七七万〇六〇〇円の九〇パーセントを基礎として計算するのが相当であり、年五分の割合による新ホフマン係数を使用してこれを本件事故発生時の現価に引き直すと、次のとおり二二七五万四九九二円となる。
{1,480,700×0.5×2.7310+1,770,600×0.9×(25.2614-2.7310)}×(1-0.4)=22,754,992
6 入通院慰謝料及び死亡慰謝料(請求合計二〇一〇万円)
(一) 被告山羽康秀及び被告山羽伍郎に対し 合計一八〇〇万円
後示認定の本件事故の経過・態様とその結果、前示認定の中島律子の治療経過等を総合すれば、右被告らとの関係では合計して右金額が相当である。
(二) 被告谷地田高也及び被告光岡優に対し 合計一六〇〇万円
後示認定の本件事故の経過のとおり、中島律子は、自分のドライブのため無償で第二車両に同乗中本件事故に遭遇したもので、被告谷地田高也及び被告光岡優とはいわゆる好意同乗の関係にたつので、この事情も考慮すると、同被告らの賠償すべき入通院慰謝料及び死亡慰謝料は右金額が相当である。
これに関し、原告中島鈴子は、本件事故後被告谷地田高也側から暴言を吐かれる等して強い精神的苦痛をあじわつた旨供述するが、反対趣旨の同被告の供述も考慮すると、直ちに右供述を採用することができない。
7 葬儀費用(請求一一〇万円) 九〇万円
本件事故と相当因果関係のある部分として右金額が認められる。
二 過失相殺
1 本件事故の経過・態様
前示争いのない本件事故の態様、甲五、乙一、乙二、乙四ないし乙九、被告谷地田高也、被告山羽康秀によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件交差点は、別紙図面記載のとおり、中央分離帯のある片側三車線の南北道路と東西道路とが交差し、信号機による交通整理の行われている交差点で、見通しは良好で夜間でも明るい場所であつた。本件事故当時南北道路の最高速度は時速五〇キロメートルに制限されており、路面は平坦で乾燥していた。
(二) 被告谷地田高也は、本件事故前日の平成二年一二月一日深夜、本件交差点から四、五〇〇メートル南方の枇杷島スポーツセンターの公園で、友人らから交際相手として紹介された中島律子と初めて知り合い、同所で同女らと話をするなどしていたが、本件事故前中島律子から「一周でいいから乗せて。」と、同被告が乗つてきた第二車両でいわゆるドライブをさせてくれと頼まれ、これに応じて近くの庄内川付近まで行つてくることにし、自分で同車両を運転し、同女を後部に同乗させ、二人ともヘルメツトを被らないまま同所を出発した。
(三) 被告谷地田高也は、そのまま前照灯を点灯した第二車両を運転し、別紙図面記載の南北道路を時速約三〇キロメートルで北進して本件交差点に接近し、対面信号の青色表示を確認してこれに進入し、衝突直前になつて対向右折してくる第一車両を発見したが、ブレーキをかける間まなく同記載<×>の地点でこれに衝突した。
この衝撃で、二人は、第二車両から放り出され、被告谷地田高也が衝突地点から約七・五メートル離れた同記載<ウ>の地点に、中島律子が同じく約七・〇メートル離れた同記載<エ>の地点に転倒し、同女は、脳挫傷、硬膜外血腫等の傷害を負つた。
(四) 他方被告山羽康秀は、第一車両を運転して時速約五〇キロメートルで前示南北道路を南進し、本件交差点手前の別紙画面記載<1>の地点で対面信号の青色表示を確認しながら右折の合図を出して減速し、同記載<2>の地点で前方を見たが、対向してくる第二車両を見落としてそのまま進行した。続いて、同記載<3>の地点で右ハンドルを切つたところで同記載<ア>の地点に対向直進してくる第二車両を発見し、ブレーキをかけたが間に合わず、同記載<×>の地点において時速約一五キロメートルでこれに衝突した。
2 当裁判所の判断
(一) 右認定の事実によれば、中島律子にもヘルメツトを被らず第二車両に同乗した過失があり、前示受傷部位や衝突速度等からすれば、これが同女の死亡の一因となつているものとみられるから、前示の損害額からその一五パーセントを控除するのが相当である。
前示一の損害の合計額は、<1>被告山羽康秀及び被告山羽伍郎に対し合計四二一七万二七四二円、<2>被告谷地田高也及び被告光岡優に対し合計四〇一七万二七四二円であるから、それぞれ右のとおり一五パーセントを控除すると、残額は、次のとおり三五八四万六八三〇円ないし三四一四万六八三〇円となる。
42,172,742×(1-0.15)=35,846,830
40,172,742×(1-0.15)=34,146,830
(二) これに対し、被告らは、中島律子には、<1>シンナー吸引の過失、<2>原動機付自転車に二人乗りした過失、及び<3>被告谷地田高也の無謀運転(無灯火、大幅な制限速度超過)を容認した過失があると主張する。
しかしながら、右<1>の主張に沿う被告谷地田高也の供述は、乙四(同被告の警察官に対する供述調書)にもその記載がなく、裏付けとなる他の人証もないことに照らし容易に採用できない。また仮にこのような事情が認められたとしても、前示認定の本件事故の態様等に照らせば、それが本件事故の発生ないし結果の拡大に寄与したとは認め難く、この点は右<2>の事情についても同様である(二人乗りが、被告谷地田高也の前方不注視の原因となつたものではなく、また中島律子が、運転席にいたかあるいは自動二輪車に同乗していたとしても、本件事故の結果が異なつたものとなつたとは直ちに考え難い)。更に右<3>の主張に一部沿う乙五の記載及び被告山羽康秀の供述は、反対趣旨の乙四及び被告谷地田高也に照らし直ちに採用できず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
したがつて、被告らの右主張は、いずれも採用することができない。
(三) なお乙四によれば、被告谷地田高也は、本件事故当時原動機付自転車の運転経験が浅く、かつ免許停止処分中であつたと認められるが、中島律子がこの事情を知りながら第二車両に同乗したと認めるに足りる証拠はない。
三 相続関係、損害の填補、弁護士費用及び好意同乗
1 相続関係及び損害の填補
前示の各損害のうち、中島律子固有の損害については、前示争いのない相続関係に基づき原告らがその賠償請求権の各二分の一を相続し、それ以外の損害については、弁論の全趣旨から原告らが各二分の一を負担していると認められる。
したがつて、まず前示二2(一)の金額から、原告らが填補を受けたことに争いのない二五五三万四八六〇円を控除し、残額を二等分すれば、原告ら一人当たりの損害額は、次のとおり、<1>被告山羽康秀及び被告山羽伍郎に対し各五一五万五九八五円、<2>被告谷地田高也及び被告光岡優に対し四三〇万五九八五円となる。
(35,846,830-25,534,860)×1/2=5,155,985
(34,146,830-25,534,860)×1/2=4,305,985
2 弁護士費用(請求二〇〇万円) 合計八〇万円
本件事案の性質、審理経過、認容額等に照らすと、原告ら一人当たり四〇万円が相当である。
3 好意同乗
被告谷地田高也及び被告光岡優は、好意同乗の抗弁を主張するが、同乗の経過態様等に鑑みれば、前示のとおり慰謝料の算定にあたりこれを考慮すれば十分である。
四 結論
以上の次第で、原告らの請求は、連帯して、<1>被告山羽康秀及び被告山羽伍郎に対し各五五五万五九八五円宛、<2>被告谷地田高也及び被告光岡優に対し各四七〇万五九八五円宛、並びにこれらに対するいずれも本件事故発生の日である平成二年一二月二日から各支払済まで民法所定年の五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 夏目明徳)
別紙 <省略>