名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)17号 判決 1992年9月16日
原告
川合久子
同
川合康弘
同
川合陽子
右三名訴訟代理人弁護士
野島達雄
同
中村弘
被告
千種税務署長
高岡嘉昭
同
名古屋中税務署長
鈴木昇
右両名指定代理人
佐々木知子
外三名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一被告千種税務署長が平成元年七月二一日付けで原告川合久子に対してした昭和六一年分所得税の更生及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、平成二年一一月三〇日付けの過少申告加算税の変更決定により減額された後のもの)を取り消す。
二被告千種税務署長が右同日付けで原告川合康弘に対してした昭和六一年分所得税の更生及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
三被告名古屋中税務署長が平成元年八月八日付けで原告川合陽子に対してした昭和六一年分所得税の更生及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
第二事案の概要
一争いのない事実等
1 当事者
原告久子は亡川合義興(以下「義興」という。)の妻であり、原告康弘、同陽子及び小林思帆(以下「思帆」という。は義興の子であるところ、義興は昭和四四年一月二〇日に死亡した。
2 本件課税処分等の経緯
本件課税処分等の経緯は、別表一ないし三記載のとおりである。
3 原告らの昭和六一年分の総所得金額
原告らの昭和六一年分の総所得金額のうち後記本件補償金を除く部分は、次のとおりである(弁論の全趣旨)。
(一) 原告久子
合計 一三六万九七六〇円
不動産所得の金額
一三六万九七六〇円
(二) 原告康弘
合計 四四九万一一六〇円
不動産所得の金額
二五万九三七〇円
配当所得の金額 六七九〇円
給与所得の金額
四二二万五〇〇〇円
(三) 原告陽子
合計 二一二万一三四九円
不動産所得の金額
七七万四三四九円
給与所得の金額
一三四万七〇〇〇円
4 本件補償金の支払経緯等
(一) 名古屋市猪子石土地区画整理組合(以下「訴外組合」という。)は、昭和三七年四月一六日、土地区画整理法(以下「法」という。)の規定に基づき設立の認可を受け、昭和六二年三月三一日、解散の認可を受けた。そして、残余財産の処分を行い、昭和六三年四月二〇日、清算決算の承認を得て清算を結了した(<書証番号略>、証人安達、弁論の全趣旨)。
(二) 義興は、名古屋市名東区猪高町大字猪子石字上菅廻間二五番の三三、同番の五〇、同番の五一、同番八九、同番一一四及び同番一一五の土地を所有していたところ、昭和四一年七月一三日、右土地につき仮換地の指定がされ(仮換地の指定時期につき弁論の全趣旨)、原告らに対し、昭和六〇年一二月二日付けで換地処分通知が、昭和六一年四月一日付けで換地処分変更通知がされ(<書証番号略>)、同年五月二日に法一〇三条四項の規定による公告がされた(<書証番号略>)。
(三) 訴外組合は、土地価額の高騰などのため保留地となるべき土地(以下「保留地予定地」という。)の実際の処分価額が事業計画上の処分予定価額を大幅に上回ったことによって余剰金及びその運用利益(以下「余剰金等」という。)が生じたので、昭和六〇年一一月二七日の総代会において、仮換地指定時の土地所有者に対し、余剰金等のうち約七〇億円を「宅地整備補償金」との名目(以下「本件補償金」という。)で交付する旨の決議をした(<書証番号略>)。
(四) 原告康弘は、昭和六一年一二月一〇日、請求書並びに原告ら及び思帆(以下「原告ら四名」という。)が原告康弘に対し本件補償金を受領する権限を委任する旨を記載した委任状等を訴外組合に提出し、原告ら四名を代表して、訴外組合から本件補償金合計一四八三万四九九五円を小切手で受領した上、その全額を東海銀行栄町支店の原告久子名義の普通預金口座に入金した。なお、原告ら四名が訴外組合から本件補償金の交付を受けたのは、右の一回限りであった(<書証番号略>、弁論の全趣旨)。
二争点及びこれに関する当事者の主張
本件における主たる争点は、本件補償金の受領により、原告らに一時所得が発生したか否かである。
1 被告ら
(一)(1) 訴外組合は、昭和六〇年一一月二七日の総代会において、仮換地指定時の従前地の所有者、この者が死亡している場合にはその相続人に対して本件補償金を交付する旨、及び補償金の額は従前地の面積に応じて算定する旨の決議をした。したがって、仮換地指定後において従前地の所有者の移転があっても、本件補償金の受給資格等に何らの影響も及ぼさない。
(2) 訴外組合は、仮換地指定時の従前地の所有者である義興が既に死亡していたことから、昭和六一年一一月一五日、義興の相続人である原告ら四名の代表である原告康弘に対し、本件補償金の支払通知をした。
(3) 本件補償金の支払決議及び支払通知がされ、本件補償金を受け取る権利(以下「本件補償金請求権」という。)が発生したのは、義興が死亡して相続が開始した後のことであるから、本件補償金は相続財産とは認められない。
(4) 余剰金等である本件補償金の処分は、法人である訴外組合にすべて委ねられていたということができるところ、本件補償金は、原告ら四名に何の対価もなく無償で、一回限り交付されたものである。したがって、本件補償金は、法人である訴外組合から原告ら四名に対して贈与されたものであり、かつ、継続して交付されたものではないから、所得税法三四条に規定する一時所得に係る総収入金額に算入されるべきである。
(二)(1) 組合施行に係る土地区画整理事業においては、施行区域内の土地の一部を保留地予定地とした上、これを譲渡し、その代金によって事業が遂行されるのであるから、保留地予定地の譲渡は、組合員の所有に係る土地の譲渡と変わりがないと見える一面を有しているが、仮にこのような考え方に立つと、保留地予定地の譲渡はすべて組合員個々人の土地の譲渡に該当し、その譲渡代金の使途の如何にかかわらず、すべて個々人に譲渡所得が発生することとなって相当でない。法(昭和六三年法律第六三号による改正前のもの)一〇四条九項は、保留地の所有権は換地処分の公告があった日の翌日に組合に帰属すると規定しているが、このことは税法の適用に当たっても当然に前提として考えなければならないことであり、保留地予定地が実質的に組合員個々人に帰属するものであるとして課税関係を考えることはできないのである。
(2) また、法(前記改正前のもの。以下同じ。)九四条に定める清算金とは、その換地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等の条件が従前地の条件と比較して過不足があり、かつ、他の従前地とそれについて定められた換地との関係に比べて不均衡がある場合に、右の不均衡を是正するために徴収され又は交付されるものである。これに対して、本件補償金は、訴外組合が解散することを前提として分配されたものであり、その実質は、土地の高騰などにより、実際の保留地予定地の処分価額が事業計画上の保留地予定地の処分予定価額を大幅に上回ったことによって生じた余剰金等の分配金であるから、法九四条の清算金とは全く異なるものである。
(三) 訴外組合は、本件補償金の交付に際し、持分を指定せず、その配分を原告ら四名に任せているが、原告ら四名間で本件補償金をどのように配分するかを取り決めたことがないので、本件補償金は原告ら四名の共有であり、その持分割合は均等であると認めるのが相当である。
(四) そうすると、原告ら各自の昭和六一年分の一時所得の総収入金額は、本件補償金の四分の一である三七〇万八七四八円となり、その収入を得るために支出した金額はないと認められるので、原告ら各自の同年分の一時所得の金額は、右一時所得に係る総収入金額から一時所得の特別控除額五〇万円を控除した金額の二分の一に相当する金額一六〇万四三七四円となる。
(五) 以上のとおりであるから、原告らの同年分の総所得金額は、前記第二の一3記載の各総所得金額に右一六〇万四三七四円を加えた金額というべきであり、また、原告らが過少申告をしたことについて、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)六五条四項、一項に規定する正当な理由があるとは認められない。
2 原告ら
(一)(1) 本件補償金交付の対象となった土地には、義興の死亡により原告ら四名が相続して遺産分割がされたもの(二五番の三三、同番の五〇及び同番の五一)と、義興が昭和四二年三月二五日に原告らに贈与したもの(二五番八九、同番一一四及び同番一一五。持分各三分の一)とがある。
(2) 前者(相続された土地)についてみると、本件補償金が現実に交付されたのは、義興の死亡後であるが、交付の対象者は仮換地指定時の従前地の所有者であるから、仮換地指定時には、潜在的にではあるが既に本件補償金請求権が発生していたものである。義興の死亡時には、潜在的な権利として本件補償金請求権が同人に帰属していて、この潜在的な権利が同人の遺産を構成することとなったのである。その後、訴外組合がその支払を決定したことにより、本件補償金請求権が顕在化して現実のものとなったが、これは、既に潜在的に存在していたものが現実のものとなったにすぎず、この時点で新たに発生したものではない。したがって、本件補償金は、義興の遺産を構成するものとして相続税の課税上考慮されることがあるのはともかくとして、所得税の課税上原告らの所得とされるものではない。
(3) 後者(贈与された土地)についてみると、これを対象として交付された本件補償金請求権は、仮換地指定時には、潜在的にではあるが発生し、この権利がそれぞれの対象土地の所有権に付随する権利として、土地の所有権の移転に伴って移転した。すなわち、本件補償金を受ける権利と土地の所有権とは、後者が主たる権利、前者が従たる権利という関係にある。したがって、本件補償金は、原告らが贈与を受けた土地と一体をなすものとして、又はその土地に付随するものとして、贈与税の課税上考慮されることがあるのはともかくとして、所得税の課税上原告らの所得とされるものではない。
(二)(1) 仮に右の主張が認められないとしても、本件補償金は、一時所得ではなく譲渡所得であり、かつ、租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三三条の四第一項による特例(三〇〇〇万円の特別控除)の適用があるので、結局、原告らの総所得金額に算入する必要はない。その理由は、以下に述べるとおりである。
① 保留地(予定地)は減歩という土地権利者の負担において生み出されるものであるから、本件補償金の財源も土地権利者の負担において生み出されたものである。したがって、保留地(予定地)の価額の高騰による利益は、土地の権利者に帰属すべきものである。
② 保留地(予定地)の処分は、土地区画整理事業の事業費を捻出するために行われるものである。ところが、本件事業においては、保留地予定地処分の金額が一四〇億八六一二万二六八九円であるのに対し、本件補償金の金額は総計七六億七〇一一万五四八五円であり、後者は前者の五四パーセントを占めている。このことは、結果的にみれば、減歩が多すぎたこと、すなわち土地権利者が過大な減歩負担を強いられたことを示すものである。
③ 右の観点からすると、本件補償金は、法九四条の清算金と同趣旨のものというべきである。なぜなら、同条の清算金は、ある土地権利者の受ける換地に不均衡が生ずるときに、金銭を交付し又は徴収して不均衡を是正するものであるが、ここにいう不均衡とは、事業計画作成時における土地の価額と換地処分時における土地の価額を考慮した上で判断すべきだからである。本件事業において、換地処分時の土地価額は、事業計画時のそれに比して著しく高騰している。この高騰による価値の上昇は当然土地権利者に帰属すべきものであるから、土地権利者が取得する換地には、土地価額の高騰による価値上昇分が含まれていなければならない。ところが、本件事業においては、土地価額高騰による価値上昇分の相当部分が保留地予定地の処分により現金に代わってしまい、換地には含まれないこととなって不均衡を生じた。この不均衡は、法九四条の不均衡と同様のものである。
④ 右の不均衡を是正するために本件補償金が交付されたのであるから、本件補償金は、法九四条の清算金と同趣旨のものであり、同条の清算金に該当するか、少なくともこれに準ずるものであるから、課税上、同条の清算金と同様に取り扱われるべきである。
⑤ したがって、本件補償金は譲渡所得であり、措置法三三条の四第一項の規定により、所定の特別控除を受けられるというべきである。
(2) なお、原告らの提出した確定申告書に前記条項の適用を受ける旨の記載はないが、本件補償金は、法の明文規定に根拠のないものであって、納税者に著しい混乱を与えるものであるから、この記載のないことについてはやむを得ない事情があるというべきである。
(三) 本件補償金は、本件事業の施行地区内の個々の従前地につき、その金額が算定されて交付されたものであるから、本件補償金の交付の対象となる土地の権利者が複数存する場合には、遺産分割又は生前贈与によって、どの土地を誰が取得したかを個々の土地について検討し、当該土地に相当する分の本件補償金をその所有者に配分するという方法で交付されなければならない。本件補償金は共有であるからその持分割合が均等であるとする被告らの主張は、極めて不合理である。
第三争点に対する判断
一証拠(<書証番号略>、証人安達、原告康弘本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 訴外組合は、昭和六〇年一一月二七日の総代会において、本件補償金を交付する旨の決議とともに、その金額は従前地の面積に応じて算定する旨の決議をしたが、仮換地指定時の従前地の所有者が死亡した場合における相続人間の取得割合については格別の決議をしなかった。
2 義興の従前地は、仮換地指定時から換地処分時までに、別紙「従前の土地の分筆状況等」記載のとおり、分筆され又は分筆されないまま、原告らに贈与され又は相続され、その後更に、他へ売却されあるいは分割されるなどして、所有者に変動を生じていたが、訴外組合は、右の決議に基づき、仮換地指定時の従前地の所有者である義興を対象として、仮換地の指定を受けた従前地の総面積七三九九平方メートルに本件補償金の単価二〇〇五円を乗じて金額を算定した上、同人が死亡していたので、その相続人である原告ら四名に本件補償金を交付することとし、昭和六一年一一月一五日、義興の長男で相続人の代表者的立場にあった原告康弘に対して本件補償金の支払通知をし、前記のとおり同原告から請求書及び委任状等を徴した上、原告ら四名に交付すべき本件補償金の全額を原告康弘に交付したが、その際、原告ら四名の個々人が取得すべき金額は明示しなかった。
3 訴外組合は、法九四条に基づく清算金については、原告ら四名に対し別途交付している(争いがない。)。
二1(一) 右の事実及び前記第二の一の事実に基づいて考えるに、本件補償金は、土地価額が高騰したことなどにより、保留地予定地の実際の処分価額が事業計画上の処分予定価額を大幅に上回り、余剰金等を生じたために交付されるようになったものであるから、余剰金等の分配金の性質を有するものであって、訴外組合が法九四条に基づく清算金を原告ら四名に対し別途交付していることに照らしても、右の清算金とは異なるものであることが明らかである。したがって、本件補償金の交付は、組合財産の分配であるというべきである。
ところで、法は、右清算金のほか損失補償(法七八条)など、組合員に金銭を交付する場合については明文の規定を設けており、また、組合が解散した場合の残余財産の処分については、清算人が清算事務の一環としてするものとしてその手続を定めている(法四五条ないし五一条参照)が、本件補償金の交付のように、解散前に組合財産を分配することを予定した規定を設けていない。したがって、土地価額の高騰により組合財産に余剰金等を生じたためこれを分配する場合には、本来は、組合の解散に伴う清算手続において、残余財産の処分の一方法としてされるべきものである。この意味で、本件補償金の交付は、実質的には、訴外組合の解散に伴う清算手続においてされるべき訴外組合の残余財産の処分を、訴外組合の解散を前提として事前にしたものであるということができる。そして、前記のとおり、法には余剰金等を分配する規定を設けていないのであるから、本件補償金請求権の発生根拠を法の規定に求めることはできず、これを訴外組合の総代会の決議に求めるほかはない。そして、本件において、総代会の決議で右権利の発生時期につき特段の定めをしたことの主張立証はないので、右権利の発生時期は、右決議のされた昭和六〇年一一月二七日より前であると解することはできない。
そうすると、本件補償金請求権が発生したのは、義興が死亡した昭和四四年一月二〇日よりも後のことであるから、右の権利が同人の遺産を構成するということはできない。
(二) 原告らは、本件補償金請求権は、仮換地指定時に既に潜在的に発生しており、訴外組合の総代会における決議は、これを顕在化させ現実のものにしたにすぎないとの前提に立ち、原告らが相続した土地に対する分は、義興の遺産を構成するものであるから、相続によって原告らが取得したものであり、また、義興が生前贈与を受けた土地に対する分は、当該土地の所有権に付随する権利であるから、贈与による当該土地の所有権の移転に伴って移転した旨主張する。
ところで、法は、「土地区画整理事業の施行の費用に充てるため、又は規準、規約若しくは定款で定める目的のため、一定の土地を換地として定めないで、保留地として定めることができる。」(九六条一項)とし、訴外組合の定款九条は、「事業施行の費用に充てるため、一定の土地を換地として定めないで、その土地を保留地として定め、これを処分するものとする。」(一項)、「保留地の処分方法は、総代会で定める。」(二項)と定めている(<書証番号略>)。右の規定から明らかなとおり、保留地は事業施行の費用に充てるためのものであり、換地計画においては、土地価額が通常予想される範囲内で推移する場合には、保留地の処分により莫大な余剰金等が生ずることは予定されていないということができる。本件事業において莫大な余剰金等が発生したのは、前記のとおり、土地価額の高騰のため保留地予定地の実際の処分価額が事業計画上の処分予定価額を大幅に上回ったためであるから、事業計画において予定されていた結果が発生したというものではない。したがって、本件補償金請求権が、潜在的にではあれ、仮換地指定時に発生していたということは、到底できないというべきである。
(三) この点について、原告らは、本件補償金は、法九四条の清算金と同趣旨のものであるから、一時所得ではなく譲渡所得であり、かつ、措置法三三条の四第一項の適用がある旨主張し、その根拠として、保留地は減歩という土地権利者の負担において生み出されるものであるから、土地価額の高騰により、結果的にみれば減歩負担が多すぎたことによって生じた余剰金等は、減歩負担をした土地の権利者に帰属すべきものであること、及び法九四条にいう不均衡とは、事業計画作成時における土地の価額と換地処分時におけるそれを考慮した上で判断すべきであることなどを挙げている。
しかし、法九四条は、換地を定める場合等において、不均衡が生ずると認められるときに、従前の宅地及び換地等の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して、金銭により清算するものとしているのであるから、同条の清算金は、被告らの主張するように、換地等の右諸条件と他の従前地について定められた換地等のそれと比較して不均衡がある場合に、右の不均衡を是正するために徴収され又は交付される金銭と解すべきものである。これに対して、本件補償金の交付が、土地価額の高騰により、実際の保留地予定地の処分価額が事業計画上の保留地予定地の処分予定価額を大幅に上回ったことによって生じた余剰金の分配であり、実質的には、組合の解散に伴う清算手続を経ない組合の残余財産の分配であることは、前記のとおりであるから、前記清算金とはその性質を著しく異にし、課税上、これと同一に取り扱うことはできない。
なお、法(前記改正前のもの)一〇四条九項は、保留地は、法一〇三条四項に規定する公告があった日の翌日において、組合が取得するものとしているところ、組合施行に係る土地区画整理事業は、施行区域内の土地の一部を保留地(予定地)とした上、これを処分して得た代金によってその事業を遂行するものであるから、保留地(予定地)の処分は、換地処分があった旨の公告がされる前に組合によってされる場合が多い。現に、前記第二の一4の事実によれば、本件事業においても、換地処分の公告前に処分されたことが明らかである。したがって、保留地予定地の処分時にはその所有権は未だ組合にはないのであるから、保留地予定地の処分は、組合による組合員の所有地の処分と異ならないようにみえないではない。しかし、組合は、組合員の所有地を組合員に代わって処分しているのではなく、前記の規定により、保留地予定地が、換地処分があった旨の公告によって、保留地となり、かつ、訴外組合の所有となることを停止条件とし、組合として処分しているものと解されるのであるから、右の処分代金は訴外組合に帰属するものであり、これをもって組合員個人の譲渡所得と同視することはできないというべきである。
2(一) 前認定の事実、すなわち、訴外組合の総代会は、本件補償金を交付する旨の決議をした際に、相続人間の取得割合については格別の決議をせず、本件補償金の交付に際しても、原告ら四名個々人の取得分について何らの指定もしなかったこと、及び証拠(<書証番号略>、証人安達)により、総代会において、仮換地指定時に従前地が共有であった場合については、持分の定めがあるときにはその割合に応じて、持分の定めがないときには均等に配分するとの応答がされたが、仮換地指定時の従前地の所有者がその後死亡した場合については、相続人が確定されるとその者に通知するとの応答がされたにすぎないものと認められること、以上の事実を総合すると、総代会は、仮換地指定時の従前地の所有者が死亡した場合については、右の者が生存していたとしたら同人に交付されるべき本件補償金を相続人に交付することのみを決議したにすぎないというべきである。そうすると、前記のとおり、本件補償金に対する権利は総代会の決議によって発生したものであり、かつ、原告ら四名の場合には、本件補償金請求権を相続したものと解することはできないのであるから、総代会の決議がない以上、本件補償金が当然に法定相続分に応じて原告ら四名に帰属するということはできない。そして、原告ら四名の間で分割の合意をしたとの主張立証はない。
以上のとおりであるから、本件補償金は原告ら四名の共有に属するものであり、その持分の割合は均等であると解するのが相当である。
(二) 原告らは、遺産分割又は生前贈与によって本件補償金の交付の対象となる土地の権利者が複数存する場合には、個々の土地の所有者が誰であるかを検討し、当該土地に相当する分の本件補償金をその所有者に配分するという方法で配分額を算定しなければならない旨主張するが、既に述べたとおり、本件補償金は、仮換地指定時の従前地の所有者、その者が死亡している場合にはその相続人に交付されるものであるから、仮換地指定後の従前地の所有者の変動については、これを考慮する必要がないというべきである。したがって、原告らの右主張は採用することができない。
3 以上に述べたところによれば、原告らの昭和六一年分の一時所得の総収入金額は、本件補償金の四分の一である三七〇万八七四八円となり、その収入を得るために支出した金額はないと認められるので、原告らの同年分の一時所得の金額は、一時所得に係る総収入金額三七〇万八七四八円から一時所得の特別控除額五〇万円(所得税法三四条三項)を控除した金額の二分の一(同法二二条二項二号)に当たる一六〇万四三七四円となる。したがって、原告らの同年分の総所得金額は、前記第二の一3に記載した各原告の総所得金額に右一六〇万四三七四円を加えた金額というべきである。
4 したがって、本件各更生処分は、原告らの総所得金額と同額でされたものであるからいずれも適法であり、また、原告らが過少申告をしたことについて、国税通則法六五条四項、一項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条一項の規定に基づいてされた過少申告加算税の本件各賦課処分はいずれも適法である。
三結論
以上のとおりであるから、原告らの請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官瀬戸正義 裁判官後藤博 裁判官入江猛)
別紙従前の土地の分筆状況等<省略>
別表
一 川合久子昭和六一年分
(単位 円)
区分
年月日
総所得金額
納付すべき税額
過少申告加算税額
確定申告
昭六二・三・一六
一、三六九、七六〇
八六、一〇〇
―
更正・賦課決定
平元・七・二一
二、九七四、一三四
三一四、八〇〇
一一、四〇〇
加算税の変更決定
平二・一一・三〇
―
―
一一、〇〇〇
異議申立
平元・九・一九
一、三六九、七六〇
八六、一〇〇
―
異議決定
平元・一二・一八
棄却
審査請求
平二・一・一七
一、三六九、七六〇
八六、一〇〇
―
裁決
平三・三・六
棄却
別表
二 川合康弘昭和六一年分
(単位 円)
区分
年月日
総所得金額
納付すべき税額
過少申告加算税額
確定申告
昭六二・三・一二
四、四九一、一六〇
△一〇、五四七
―
更正・賦課決定
平元・七・二一
六、〇九五、五三四
三七一、三〇〇
一九、〇〇〇
異議申立
平元・九・一九
四、四九一、一六〇
△一〇、五四七
―
異議決定
平元・一二・一八
棄却
審査請求
平二・一・一七
四、四九一、一六〇
△一〇、五四七
―
裁決
平三・三・六
棄却
別表
三 川合陽子昭和六一年分
(単位 円)
区分
年月日
総所得金額
納付すべき税額
過少申告加算税額
確定申告
昭六二・三・一六
二、一二一、三四九
一〇四、一〇〇
―
更正・賦課決定
平元・八・八
三、七二五、七二三
三七九、八〇〇
一三、五〇〇
異議申立
平元・九・一九
二、一二一、三四九
一〇四、一〇〇
―
異議決定
平元・一二・一八
棄却
審査請求
平二・一・一七
二、一二一、三四九
一〇四、一〇〇
―
裁決
平三・三・六
棄却