名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)7号 判決 1993年12月22日
名古屋市北区辻本通三丁目三一番地
原告
株式会社安藤産業
右代表者代表取締役
安藤鋭治
右訴訟代理人弁護士
竹下重人
同右
打田正俊
同右
打田千恵子
名古屋市北区清水五丁目六番一六号
被告
名古屋北税務署長 石川唯司
右指定代理人
長谷川恭弘
同右
金沢良孝
同右
鈴木幸雄
同右
芳野満
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一申立て
被告が原告の昭和五七年六月一日から昭和六一年五月三一日までの四事業年度の法人税について昭和六三年三月一六日付けでした別紙「申告・決定一覧表」記載の各賦課決定処分(平成元年六月五日付け変更決定により一部取り消された後のもの)のうち、同表の「上記重加算税額のうち過少申告加算税相当額」欄記載の金額を超える部分をいずれも取り消す。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告は、肩書地において建築請負、土地建物売買業を営む法人で、法人税法二条一〇号にいう「同族会社」である。
2 原告の昭和五七年六月一日から昭和五八年五月三一日までの事業年度、昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度、昭和五九年六月一日から昭和六〇年五月三一日までの事業年度、昭和六〇年六月一日から昭和六一年五月三一日までの事業年度(以下、昭和五七年六月一日から昭和六一年五月三一日までの四事業年度を合わせて「本件各係争年度」という。)における法人税についての確定申告から審査裁決に至るまでの経過は、別表一のとおりである。
3 被告が本件各係争年度の重加算税賦課決定処分(平成元年六月五日付け変更決定により別表一の変更決定欄記載のとおり一部取り消された後のもの。以下「本件各処分」という。)の根拠とする本件各係争年度の原告の増加所得金額等は、別紙「増加所得金額と重加算税の計算明細」(以下「別紙明細書」という。)記載のとおりである。
4 本件各処分の基礎となる所得金額(本件各係争年度における原告の所得金額)は、別表一の修正申告の所得金額欄記載のとおりであり、その計算明細については、別紙明細書のNo.1、2、4ないし21欄記載のとおりである(弁論の全趣旨)。
5 原告は、別表二の1ないし4記載のとおり、「金融機関名」欄記載の各金融機関から「借入月日」欄記載の日に「借入金」欄記載の金員の借入れをし、本件各係争年度期末に「期末支払利息」欄記載の利息を支払い、「返済月日」欄記載の日に借入金を返済をして「戻り利息」欄記載の利息の払戻しを受けた(別表二の1区分Bの岡崎信用金庫城北支店(以下「岡崎信用金庫」という。)に対する期末支払利息及び戻り利息の額につき乙二〇、二三、二四の各一ないし六、別表二の2の区分Bの同支店に対する期末支払利息の額につき乙二六の一ないし六、別表二の4の区分Bの中京銀行城北支店(以下「中京銀行」という。)からの借入金及びこれに対する期末支払利息の額につき乙二八の一ないし七)(なお、「通知預金預入額」欄記載の預入額については争いがある。)。
6 原告は、別表三記載の物件AないしI(以下、それぞれを「本件物件A」のようにいい、それらを合わせて「本件各物件」という。)を同表注2記載の各買受人に対して同表「売上金額」欄記載の金額で売却し、「引渡日」欄記載の日に買受人に引き渡し、代金については、最終代金のうち各一〇〇万円を同表「通知預金」欄記載のとおり買受人名義の通知預金とし、「解約年月日」欄記載の日に右預金を解約した(弁論の全趣旨)。
二 争点
1 原告の主張
(一) 支払利息の架空計上について
(1) 重加算税の課税要件は、納税者が課税要件を構成する事実であることを知りながらその事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したことにより正当な税額の全部又は一部を免脱することになることを認識して納税申告書を提出するという一連の故意の行為を指すものと解される。
原告は、本件係争の対象となっている各銀行取引を行って利息の支払を経費に計上することは税務上適正と認められるものと信じ、顧問税理士の指導の下に各取引を行ってきたものであり、しかも各取引の経過は帳簿に正確に記帳されているから、仮装・隠ぺいの事実はなくその故意もない。
したがって、支払利息の計上は重加算税の対象とはならないものである。
(2) 別表二の1ないし4について
<1> 区分Aの借入れについて
区分A記載の借入れについて、「通知預金預入額」欄各記載の通知預金額は、原告の決算書中の通知預金額の記載と一致せず、期末借入分以外のものも含むものであってその明細が不明である。
<2> 区分Bの借入れについて
区分Bの借入れのうち岡崎信用金庫のものについては、既存の借入れの利息前払いにつき、いずれも借入期間を変更せず旧債務の返済と新規借入れの組み合わせによって処理されたものであり、他行の借入れも同様の可能性がある。したがって、本件各係争年度期末直前に、満期までの期間を一年とする新規の手形に書き換えて借り入れたものではない。
<3> 区分Cの借入れについて
原告は、区分Cに記載された三か月の期間の手形借入れについて、一年分の利息として支払った事実はない。
<4> 原告がした借入れに関しては、隠ぺい又は仮装の行為は存在しない。すなわち、原告がした借入れは、銀行との間で消費貸借契約が成立し、金銭の移動が行われ、返還義務、利息支払義務が発生したものであり、完全に実質を備えた借入れである。被告は、一週間程度で返済することを予定していたと主張するけれども、これはあくまでも予定であり、原告としては借り入れた後に返済を行わないことも法的には当然可能であり、その場合、金銭機関は一年先の返済期限を待たなければならないから、右の予定は契約内容を構成するものでなく、借入れの実質には影響がない。また、借入金の使途が何であるかは、重加算税の賦課要件とは何の関係もない。
被告は、法人税を軽減・回避する行為がすべて許されないかのような主張をするけれども、租税を軽減・回避しようという発想自体は非難されるべきではなく、節税策が適正な範囲を逸脱すれば、経費性を否認され、後日、過少申告加算税や延滞税を賦課されることとなるのも当然である。しかしながら、課税要件事実を仮装・隠ぺいする行為が存在しない以上、重加算税が賦課されることはない。
(二) 分譲住宅に係る売上除外について
原告は、本件各物件の代金領収の時期を遅らせたことはあるが、入金の事実を隠したことはない。入金の経過は建築工事代帳簿に明確に記載されており、帳簿を操作するなどして事実を仮装したことも隠ぺいしたこともない。原告は、最終代金の入金の時期を遅らせれば、売上計上の時期を次期に繰り越すことも適正経理の範囲内であると考えていたものであり、仮装・隠ぺいの故意はない。
(三) 本件各処分は、右(一)及び(二)の点において課税の要件を欠く違法なものであるから、別紙「申告・決定一覧表」記載の「上記重加算税のうち過少申告加算税相当額」記載の金額を超える部分の本件各処分は違法である(なお、原告は、本件各係争年度の修正申告による増差税額につき過少申告加算税を課すべきではないとまで主張するものではないから、本件各処分のうち、過少申告加算税に相当する部分についてはその違法性を主張しない。)。
(四) よって、原告は、本件各処分につき、別紙「申告・決定一覧表」記載の「上記重加算税のうち過少申告加算税相当額」記載の金額を超える部分の取消しを求める。
2 被告の主張
(一) 支払利息の架空計上について
原告は、不当に法人税を回避する目的をもって、本件各係争年度各期末直前に、かねてから取引のあった金融機関に依頼し、多額の借入金の支払利息が存在するごとく仮装し架空の支払利息を損金に計上していたものであり、その行為は、国税通則法(以下「法」という。)六八条一項に規定する「隠ぺい・仮装」に該当する。
重加算税を課すための要件としては、納税者が故意に課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい・仮装行為を原因として過少申告の結果が発生すれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでは必要ないのであって、これと異なる原告の主張は失当である(なお、原告の架空の支払利息を計上する行為が意図的に課税を免れるためにされていることも明らかである。)。
架空の支払利息の計上に関する事実関係は以下のとおりである。
(1) 別表二の1ないし4の各借入れのうち、区分Aの借入れは、原告が、本件各係争年度期末直前に、かねてから取引のあった金融機関などから満期までの期間が一年の手形を新規に差し入れて手形借入れをしたものであり、その利息を一年分前払した上、当該係争年度期末経過直後に当該借入金を返済し、戻り利息の払戻しを受けている。
なお、原告は、右のとおり借り入れた金員を別表二の1ないし4記載のとおり通知預金とし、これを解約して借入金の返済に充てたものであるが、その預入額のうち原告の確定申告書添付の決算報告記載の各金融機関の通知預金額と一致しないものがあるのは、同欄には被告が租税法上否定した支払利息の元本である借入金を原資として預け入れした通知預金のみが記載され、その余の通知預金額が含まれていないからである。
(2) 区分Bの借入れは、原告が本件各係争年度期末直前に、満期までの期間が三か月の既存の手形借入れについて、満期までの期間を一年とする新規の手形に書き換えて借入れをし、その利息を一年分前払いしたものであり、当該係争年度期末経過直後に当該借入金を返済し、戻り利息の払戻しを受けている。
(3) 区分Cの借入れは、原告が本件各係争年度期末直前に、満期までの期間が三か月の既存の手形借入れについて、満期までの期間を三か月とする新規の手形に書き換えて借入れをしたにもかかわらず、その利息を一年分前払いしたものであり、当該係争年度期末経過直後に当該借入金を返済し、戻り利息の払戻しを受けている。
(4) 原告は、不当に法人税を免れることを目的として、あらかじめ各金融機関の貸付担当者らとの間で一週間程度で借入金等を返済して利息の払戻しを受ける旨の了解を得た上、一年分に相当する利息を支払ったごとく仮装し架空の支払利息を計上した申告書を被告に提出した。
(二) 分譲住宅に係る売上除外について
原告は、分譲住宅販売による売上計上時期を販売代金の全額を受領した日とする経理方法によっていたところ、本件各係争年度期末までに本件各物件を別表三記載の各買受人に引き渡し、その販売代金全額を受領しているにもかかわらず、最終残金のうち各一〇〇万円を各買受人名義の通知預金とし、これを帳簿に記載せず、当該事業年度の利益を不当に圧縮した。原告の右行為は、法六八条一項に規定する「隠ぺい・仮装」に該当する。
申告に際し納税者において過少申告を行うことの認識を有していることが必要である旨の原告の主張は、2(一)で述べたように失当である(なお、原告は、不正に分譲住宅に係る売上金額を除外して所得金額を過少にした納税申告書を提出したのであるから、右行為が意図的に課税を免れるためになされていることは明らかである。)。
(三) 本件各処分の適法性
原告は、右(一)及び(二)のとおり、支払利息の架空計上又は分譲住宅に係る売上除外に基づき、所得金額を過少に計算して本件各係争年度につき確定申告書を提出したものであり、右行為は、原告の仮装・隠ぺい行為に当たるとともに、隠ぺい・仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに当たるので、本件各処分は適法である。
第三争点に対する判断
1 支払利息の架空計上について
(一) 証拠(甲二三及び二四の各一、二、甲三八、乙三ないし八、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 岡崎信用金庫は、別表二の1ないし4の区分Aの該当欄記載のとおり、毎年原告に対してその決算期末に新規融資を行っていたが、右融資は、毎年五月一〇日頃に原告代表者から同金庫に依頼がされていた。また、右融資は、原告が決算期末に借入金総額を決定し、これを原告の各取引金融機関に割り振り、融資額(借入額)は融資(借入)後一週間で返済するが利息は一年分前払する旨原告代表者から申出がされていた。
(2) 右貸付を担当していた同金庫の担当者は、本件貸付は利息を一年分支払って経費を多くするために行われているものと理解しており、同人の上司も、原告において特に資金使途なく決算時に一年分の利息を前払することにより利益を圧縮し所得を減らすことを目的とする決算対策資金である旨報告を受けていた。
(3) 岡崎信用金庫は、原告に対する既存手形貸付については通常期間を六か月とし、利息微求を三か月ごとに行っていたが、原告の決算期の手形書換えの際には、原告代表者の依頼により支払期日を一年後としても利息も一年分を微求し、原告の決算期を経過した六月の初めに、再び通常の三か月毎の利息微求に戻す処理を行っており、別表二の1ないし4の区分Bの該当欄記載の借入れは、この処理によるものである。
(4) 名古屋市信用農業協同組合楠支店は、別表二の1ないし4の区分Aの該当欄記載のとおり、毎年原告に対してその決算期末である五月末日に新規融資を行っていたが、原告は、一年分の借入利息を支払った上、借入額と支払利息の差額を通知預金とし、同月末の翌日又はその一週間後に右預金及び貸付金の戻し利息により右借入れを返済していた。
(5) 右融資の使途は事業資金とされていたが、事業資金に使用されたことはなく、同組合の担当者も決算時に収益が出た場合に経費を多く計上するためと認識していた。
(6) また、同組合は、原告の依頼により、別表二の1ないし4の区分Cの該当欄記載のとおり、通常三か月ごとに手形の書換えを行っている手形貸付について、決算期末の五月末日に利息を一年分前払で受け取る手続を取り、翌六月一日には右貸付金の返済を受けて利息の払戻しをしていた。
(7) 中京銀行の貸付けのうち別表二の1ないし4の区分Aの該当欄記載のものについては、以下のような事情があった。
<1> 右貸付けの貸出申請書の資金使途は株式購入と記載されていたが、担当者は前任者からの引継ぎにより、右資金使途は形式的なものであって真実は原告の税務対策上決算時に支払利息を計上することが目的であると聞かされていた。
<2> 右目的のため、通常の手形貸付では三か月後を満期とするところを、一年後を満期として前払利息が多くなるようにしていた。
<3> 右貸付に当たっては、貸付金額から一年分の利息を差し引いた金額を同銀行の通知預金にすることとなっており、その通知預金を貸付の担保とすることとなっていた。
<4> さらに右通知預金は、貸付をした一週間後くらいの翌期当初に解約して貸付金の返済に充てることになっていた。
(8) 第三銀行飯田支店は、原告に対する手形貸付について通常三か月の利息微求を行っているのに、決算期末には原告代表者及び原告の経理担当者から一年分の利息支払をするとの要望があり、一年後を満期とする手形での利息受入れの事務手続をし、翌期に入ると原告からの手形の支払期限短縮の要望で受入れ利息の返戻を行う処理を毎期行っていた。
(9) 原告代表者は、銀行借入金の利息前払について、仮決算の結果期末に大きな利益が出ることが予測できる場合に、翌一年分の利息を前払してその利息を計上することによりその年の利益があまりでないように調整することを目的としてその期中に銀行から借入れを行うが、本来必要であって借りた金ではないため期が明ければ返還するものとしていた。
(二) 前記第二の一5、右(一)の(9)事実によれば、原告は、原告代表者の依頼により各金融機関の貸付担当者の了解のもと、利益を翌期に繰り越すことを目的として借入れから一週間程度後の翌期早々に借入金を返済しあるいは手形借入れの期間を短縮して利息の払戻しを受けることを前提として、別表二の1ないし4記載のとおり、新規の手形借入れを行って一年分の利息を前払し(区分Aのもの)、既存手形を期間一年の新規の手形に書き換えて一年分の利息を前払し(区分Bのもの)、又は既存手形を期間三か月の新規手形に書き換え一年分の利息を前払し(区分Cのもの)、次いで、翌期早々に借入金の返済や再度手形の書換えをすることによって前払した利息の大部分(区分B及びCについては既存の貸付期間三か月分の利息を除いた金額)について戻し利息として払戻しを受けたものである。
原告は、区分Bの借入れのうち岡崎信用金庫のものについては、いずれも借入期間を変更したものではなく旧債務の返済と新規借入れの組み合わせによって処理されたものである旨主張するが、右の事実を認めるに足りる証拠はなく、また、区分Cの借入れについて、一年分の利息を支払った事実はないとの主張についても前記第二の一5及び右(一)の事実に照らし採用することはできない。
(三) 右に判示した事実によれば、原告は、真実は、期末の翌日ないし一週間後に返済するとの約定の下に借入れをしたにもかかわらず、これと異なり、借入期間を一年とする外形を作出した上で、期末に一年分の利息を前払してこれを損金に計上していたというべきであるから、法六八条一項にいう課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装した場合に当たる。
原告は、本件において隠ぺい又は仮装の行為は存在しないと主張するけれども、本件の借入れは、外形は貸付期間を一年としながらも、実際には、翌期早々には利息の払戻しを受ける意図を有し、金融機関の貸付担当者からもそれについて了解を得ていたものであり、このような場合に、期間を一年とする手形を差し入れた上で一年分の利息を前払することは、事実を仮装したものというべきであって、利息の前払とその払戻しの事実等が帳簿等に記載されているからといって、事実の仮装行為がなかったものということはできない。
ところで、原告は、重加算税の課税要件としては納税者が課税要件を構成する事実であることを知りながらその事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したことにより正当な税額の全部又は一部を免脱することになることを認識して納税申告書を提出するという一連の故意の行為が必要である旨主張する。しかし、法六八条に規定する重加算税は、法六五条ないし六七条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、法六八条一項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因とし過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものはないと解される(最高裁昭和五九年(行ツ)第三〇二号同六二年五月八日第二小法廷判決・裁判集民事一五一号三五頁)。したがって、期中における借入行為等の際に、課税要件の事実についてこれを隠ぺい又は仮装することについての認識がある場合には、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したものというべきであり、右のような隠ぺい・仮装に該当する以上、納税者において租税負担を回避する意図を有していたか否かは関係がないものというべきである。これと異なる原告の主張は、採用することができない。
2 分譲住宅に係る売上除外について
(一) 証拠(甲三八の一、乙一五ないし一七、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告から本件物件Cを購入した中林寛一(以下「中林」という。)は、昭和五七年八月二三日から昭和五八年三月一六日までの間に順次本件物件Cの代金を原告に支払い、原告従業員から領収書を徴していた。また、中林は、同日までに本件物件Cの引渡しを受けて居住した。
(2) 原告は、本件物件Cの最終代金一〇〇〇万円につき、利益を先送りする目的でその一部を入金せず最終入金を翌期に繰り越して売上金全額を翌期の収入に計上するため、昭和五八年三月一六日に受領した一〇〇〇万円のうちの一〇〇万円を中林名義の通知預金として作成し、同人に対して、同日付けの九〇〇万円の領収書と同年六月九日付けの一〇〇万円の領収書を交付した。
(3) 右通知預金の通帳は、原告が預かり保管していた。
(4) 中林は、右一〇〇万円について原告従業員から税金関係で入金の一部を遅らせて欲しい旨告げられたが、中林としては昭和五八年三月一六日に右一〇〇万円を含めて最終入金一〇〇〇万円全額を原告に支払ったと理解している。
(5) 原告から本件物件Eを購入した沢井恒裕は、昭和五九年二月六日から同年五月二一日まで順次小切手で代金を支払い、同日にはすべての支払を完了して本件物件Eの引渡しを受けた。
(6) 原告代表者は、当期のうちに最終入金が可能であるケースについても利益を翌期に繰り越すために売上金の最終入金の一部を右のような通知預金とするやり方を用いていた。
(二) 前期第二の一6及び右(一)の各事実並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、別表三記載のとおり本件各物件をそれぞれ買受人に売却し、その代金の全額を受領しながら、最終入金を翌期に繰り越し売上金全額を翌期の収入に計上するため、そのうちの一〇〇万円について買受人名義の通知預金を作成し、翌期の早々に右通知預金を解約していたことが認められる。
原告は、内金一〇〇万円については受領を遅らせたものであり事実を仮装したものではないとするが、買受人から提供を受けた最終入金を利益繰越しのためにあえて買受人名義の通知預金としたこと、右預金は原告においていつでも解約できる状況にあったこと(買受人は代金全額を支払ったとの認識を有しており、通帳も原告において保管していた。)に照らせば、預金開設の印鑑が買受人のものであるか否か及び預金利息の取得者が買受人であるか否かにかかわらず、原告において預金に係る一〇〇万円を既に受領していたものと見るべきであって、原告の右主張は採用できず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 右によれば、原告の行った前記各行為は、いずれも決算期において生じた利益を翌期に繰り越すことを目的として、実際には本件各物件の売却代金を別表三記載の本件各係争年度にいずれも受領しているにもかかわらず、そのうちの一〇〇万円を受領していないように仮装したものというべきであって、法六八条一項に規定する課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいした場合に当たるというべきである。
なお、仮装・隠ぺいの故意に関する原告の主張は、前記1(三)で述べたように原告独自の見解であって採用することはできない。
3 右1及び2に説示したところによれば、本件各係争年度の重加算税の税額は、別紙明細書記載の本件各係争年度の重加算税の基礎となる所得金額に対する法人税(ただし、法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てたもの。)に法六八条一項所定の一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額であるというべきであるから、これと同旨の本件各処分は適法である。
第四結論
以上の次第であるから、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 裁判官 入江猛)
(別紙)
申告・決定一覧表
<省略>
別表一
課税処分経緯表
<省略>
別紙
増加所得金額と重加算税の計算明細
<省略>
別表二の1
昭和58年5月期借入金及び支払利息等明細書
<省略>
別表二の2
昭和59年5月期借入金及び支払利息等明細書
<省略>
別表二の3
昭和60年5月期借入金及び支払利息等明細書
<省略>
別表二の4
昭和61年5月期借入金及び支払利息等明細書
<省略>
別表三
<省略>
<省略>