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名古屋地方裁判所 平成4年(ワ)1975号 判決 1994年6月29日

原告

有限会社バックヤードスペシャル

被告

有限会社バックヤード

主文

一  被告は、「有限会社バックヤード」の商号を使用してはならない。

二  被告は、名古屋法務局岡崎支局平成三年七月二三日受付をもってされた設立登記中の商号「有限会社バックヤード」について他の商号への変更登記手続をせよ。

三  被告は、その営業上の施設又は活動に「バックヤード」及び「BACK YARD」の標章を使用してはならない。

四  被告は、被告本店の看板、印章、ゴム印、印刷物から「バックヤード」及び「BACK YARD」の各標章を抹消せよ。

五  被告は、原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成四年六月二六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一ないし第四項と同趣旨

2  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成四年六月二六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  第1項(変更登記手続に係る部分を除く。)及び第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告(商号・有限会社バックヤードスペシャル)は、昭和六一年五月二八日に名古屋市名東区を本店所在地として設立された有限会社であり、カー用品の販売、自動車の販売等を目的としている。

2(一)  原告の前身は、原告代表者であるA(以下「原告代表者」という。)が昭和五八年五月に「バックヤードスペシャル」という商号で開始したカー用品等の販売を目的とする個人商店であり、原告は、設立とともに右個人商店の事業を承継した。

(二)  原告代表者は、中古車販売業務のため、昭和六〇年八月九日、愛知県公安委員会より古物商の免許を受けた。

(三)  また、原告代表者は、次の商標権を有している。

(1) 登録番号 商標登録第二〇七六四二四号

(2) 査定年月日 昭和六三年二月二六日

(3) 指定商品 輸送機械器具、その部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)

(4) 登録商標 別紙1記載のとおり

3(一)  原告は、設立以降、本店において、次に掲げる営業を行っており、平成四年五月の時点での従業員は三名であり、平成三年二月二〇日の決算における売上額は約一億一八六七万円であった。

(1) カー用品及びマフラー、サスペンション等のアフターパーツの販売、取付け及び修理

(2) オリジナルパーツの企画、製造、販売、取付け及び修理

(3) 中古車販売

(二)  また、原告は、昭和六一年ころから、アフターパーツ及びオリジナルパーツの通信販売も行っている。

(三)  さらに、原告は、外国産中古車の販売、外国車用のアフターパーツの販売、取付け及び修理の分野にも進出を予定していた。

4(一) 原告代表者は、個人経営のときから、自動車愛好家を購読対象とする「FREE WAY(現在はFREE ROAD)」等の雑誌に広告を掲載したり、自動車愛好家が多数集まるジムカーナという小レースを主催したり、他者の主催するレースに「Back Yard」の標章を記載した自動車で参加したり、名古屋市港区の金城埠頭で毎年開催される名古屋パフォーマンスカーショーに出展するなどして、原告の営業を表示する標章として、「バックヤード」「バックヤードスペシャル」、「Back Yard」、「Back Yard SPECIAL」という標章の浸透及びイメージの向上に努力してきた。そして、原告及び原告の製造販売するオリジナルパーツ等は、数多くの自動車雑誌で取り上げられるようになっていた。

(二) その結果、原告商号中の「バックヤードスペシャル」及びその英語表記である「Back Yard SPECIAL」は、被告が設立された平成三年七月二三日までには、原告の営業を表示する標章として、自動車愛好家の間では、全国的に広く認識されていた。

5(一)  被告は、平成三年七月二三日に自動車の販売及び修理、損害保険代理店業等を目的として設立された有限会社である。

(二) 被告は、被告本店の外壁及び看板、被告の営業用の印刷物、広告等に被告の商号である「有限会社バックヤード」という商号を記載し、また、被告の営業であることを示す表示として「バックヤード」、「BACK YARD」という標章を記載している。

6(一) 原告の使用している標章「バックヤードスペシャル」及び「Back Yard SPECIAL」のうち、「スペシャル」及び「SPECIAL」の部分は、等級的差別化を図り、高級イメージを与えるために付加された普通名称であるから、被告の使用している各標章との比較においては、この部分は排除されるべきで、要部である「バックヤード」及び「Back Yard」のみが抽出されるべきである。

(二)  そうすると、片仮名表記の両標章は同一であり、英語表記の両標章も同一呼称・同一つづりであって一部に大文字と小文字の差異があるに過ぎない。

(三)  したがって、被告の各標章は、原告の各標章と同一又は類似のものである。

7(一)  被告は、設立以降、原告と同一業種である自動車販売業を原告とほぼ同じ商号を使用して営んでいる。しかも、原告の店舗と被告の店舗は、共に愛知県内にあり、自動車でわずか三〇分(東名高速道路経由)しか離れていない。

(二)  そのため、一般の需要者又は取引者には原告と被告の区別がつかず、その営業主体が誤認混同されている。

現に、原告は、「岡崎でも店を開いたのですか。」等との電話での問い合せを受けたことや、同業者や常連客から「岡崎で車まで本格的に売り出したのか。」と言われたことがある。

(三)  原告は、被告がその商号及び標章を使用して営業をしていることにより、多大な営業上の利益を害されるに至り、また、将来も営業上の利益を害されるおそれがある。

8  被告は、被告商号及び被告標章の使用が原告との間で営業主体の誤認混同を生じさせるものであることを知りながら、又は過失により知らないで、平成四年一月以降も、被告商号及び被告標章を使用し続け、次のとおり、原告の営業上の利益を害し、もって、原告に対し、合計三〇〇〇万円の損害を与えた。

(一) 無形損害 四〇〇万円

被告の右不法行為により、原告は営業上の信用を害されたが、その損害額は、原告の営業状況、信用状況からして、四〇〇万円を下らない。

(二) 得べかりし利益の喪失 二五〇〇万円

原告の得べかりし利益は、商標法三八条一項、著作権法一一四条一項、意匠法三九条一項、特許法一〇一条一項の規定を類推適用して、被告の行為によって被告が得た利益の額と同一と推定すべきところ、被告は平成四年一月から平成六年一月まで一か月当たり少なくとも平均一〇〇万円の自動車を少なくとも五台は販売していたのであり、利益率は少なくとも二〇パーセントを下らないから、被告は、その間に合計二五〇〇万円の利益を上げた。したがって、原告は、被告の右不法行為により、二五〇〇万円の得べかりし利益を喪失したことになる。

(三) 弁護士費用 一〇〇万円

原告は、被告の右不法行為により、弁護士会所定の報酬を支払う旨約した上、弁護士に依頼して違法行為差止めの仮処分を申請し、かつ、本件訴えを提起せざるをえなかったが、その報酬額のうち、被告の不法行為との間で相当因果関係のある損害として認められるべき額は、一〇〇万円を下らない。

9  よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項二号に基づき、請求の趣旨第1項記載の差止等を求め、かつ、同法一条の二第一項に基づき、不法行為による損害金のうち五〇〇万円及びこれに対する損害発生後である平成四年六月二六日から支払済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

1  第1項の事実は、認める。

2(一)  第2項(一)(二)の事実は、知らない。

(二)  同項(三)の事実は、認める。

3  第3項の事実は、知らない。

4(一)  第4項(一)の事実は、知らない

(二)  同項(二)の事実は、否認する。被告本店のある岡崎市には、原告の広告は全くない。被告と同様に小規模な原告の商号及び標章が全国的に認識されていることなど有り得ない。現に被告代表者は、原告の存在も原告の商号・標章も全く知らないで被告商号を定め、被告標章の使用を開始したものである。

自動車、自動車部品の販売業者は名古屋市内においても大小数百社存在するのであって、小規模な原告の商号、標章が全国的に認識されていることなど考えられない。

5(一)  第5項(一)の事実は、認める

(二)  同項(二)の事実は、外壁への記載は否認するが、その余の事実は認める。

6 第6項は、争う。「スペシャル」「SPECIAL」は、「バックヤード」「Back Yard」と一体となっており、また、格別、特別、特製などを意味する言葉であって、一般に対し優秀さを誇示する機能を有するものであるから、これが付加されている原告商号・原告標章は、単なる「バックヤード」「BACK YARD」とは全くイメージを異にするものである。したがって、原告標章と被告商号・被告標章とは、類似しているとは言えない。

7  第7項に(二)(三)の事実は、否認する。

他人の営業上の施設又は活動と混同するおそれがあるか否かは、具体的な施設、販売商品などにより判断されるべきであり、単に定款に掲げる目的のみを対比して決定すべきではない。

原告は、実際には国産車の部品の販売を業としており、他方、被告は外国産中古車の販売を業としている。そして、被告は、国産車の部品を販売したことも、国産の新車、中古車の販売をしたこともない。また、将来もこれらの商品を販売する意思を有していない。

そうすると、原告と被告とは、商号、業種、顧客層及び営業の地域が異なるというべきである。しかも、被告は、外国産中古車の販売という業務の性質上、商標を使用していない。

したがって、原告と被告との間で営業主体を誤認混同するおそれは全くないというべきであって、被告の行為により原告が営業上の利益を害されるおそれはない。

8  第8項の事実は、否認する。原告と被告との間で営業主体の誤認混同が生じる余地はない。したがって、原告が被告の行為によって営業上の利益を害されたことはない。

9  第9項は、争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因第1項の事実は、当事者間に争いがなく、同第2項(一)(二)の事実は、証拠(甲一、三、一二、原告代表者)と弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、同項(三)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、次に請求の原因第3項及び第4項について判断する。

1  証拠(甲五の一、二、甲六、甲八の一、二の各一、二、甲八の三の一ないし三、甲九の一の一ないし三、甲九の二の一、二、甲九の三の一ないし四、甲九の四の一ないし四、甲九の六の一ないし一二、甲九の七の一ないし一二、甲九の八の一、二、甲九の九の一、二、甲九の一〇の一、二、甲九の一一の一ないし三、甲九の一二の一、二、甲九の一三の一、二、甲九の一四の一、二、甲九の一五の一、二、甲一一、一二、甲二七の一ないし三、甲三三、原告代表者)と弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。(なお、原告が、外国産中古車の販売、外国産車用のアフターパーツの販売、取付け及び修理の分野に進出することを具体的に計画していたことを認めるに足りる証拠はない。)

(一)  原告は、設立以降、本店において、次に掲げる営業を行っており、平成四年五月の時点での従業員は三名であり、平成三年二月二〇日の決算における売上額は約一億一八六七万円であったこと。

(1) カー用品及びマフラー、サスペンション等のアフターパーツの販売、取付け及び修理

(2) オリジナルパーツの企画、製造、販売、取付け及び修理

(3) 中古車販売

(二)  また、原告は、アフターパーツ及びオリジナルパーツについては、昭和六一年ころから全国の需要者を対象として雑誌広告による通信販売も行っていること。

(三)  もっとも、原告は、ホンダ車を対象とするカー用品(他社製のアフターパーツ、原告のオリジナルパーツを含む。)の販売、取付け及び修理を専門としており、国産車、外国車の販売実績もあるが自動車の販売は、客から特に要望があったときにたまに行う程度であること。

2  また、証拠(前掲証拠と甲九の一五の一、二、甲一〇、甲一五の一、二、甲一六の一ないし四、甲二六の一ないし三、甲二九ないし三二、証人B)と弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、設立以来、「Back Yard SPECIAL」の看板を店舗に掲げて営業を行っており、陳列商品やパンフレットには「Back Yard」又は「Back Yard SPECIAL」の表示をしていること。

(二) 原告代表者は、個人商店のころから宣伝広告に努力しており、株式会社プロジェクトエイト(現社名・株式会社プロトコーポレーション)が昭和五八年七月一〇日に発売した東海地方の月刊雑誌「FREE WAY」に「ベストカーファッション&チューニング」の見出しのある広告を掲載して以来、同誌及びその名称変更後の「FREE ROAD」に、別紙2、3記載の標章、「バックヤード・スペシャル」、「バックヤードスペシャル」、「Back Yard SPECIAL」の標章などを用いて継続して広告を掲載し、その発行部数及び掲載料金は以下のとおりとなること。

(1) 昭和五八年 二五万部 二二万五〇〇〇円

(2) 昭和五九年 六〇万部 九〇万円

(3) 昭和六〇年 六〇万部 一二〇万円

(4) 昭和六一年 六〇万部 一二〇万円

(5) 昭和六二年 六〇万部 一二〇万円

(6) 昭和六三年 六〇万部 一二〇万円

(7) 平成元年 六五万部 一三〇万円

(8) 平成二年 七二万部 一四四万円

(9) 平成三年 七六万部 一七二万円

(10) 平成四年 九八万部 三八二万円

合計 六三六万部 一四二〇万五〇〇〇円

(三)  また、原告は、全国誌にも右と同様の標章を用いて広告を掲載しており、雑誌「オートファッション」には平成元年四月から平成二年七月まで合計一六冊、「カー&ドライバー」には平成二年一月から同年三月まで合計三冊、「ベストカー別冊NSX」には平成二年九月の一冊、「OPTION」には昭和六三年五月から平成四年一二月まで合計五六冊、「レブスピード」には平成三年一〇月から同年一一月まで合計二冊、「KICARスペシャル」には平成四年四月から同年一〇月まで合計四冊と、それぞれ広告を掲載し、その延べ発行部数は三四四四万部に達し、広告掲載料は一九〇二万円になること。

(四) 他方、原告代表者は、個人商店時代から他社の主催するカーレースに「Back Yard SPECIAL」と表示した改造自動車で出場したり、自らジムカーナという小レースを開催したり、名古屋国際展示場で毎年開催されている名古屋パフォーマンスカーショーに出場したりしており、その際には、「バックヤードスペシャル」、「Back Yard SPECIAL」の標章を用いていること。

(五) このように、原告(設立前は原告代表者個人)により、原告の商号及び標章の浸透のため毎年多額の費用が投入されて宣伝広告が継続された結果、原告は、「SPE-CIAL SHOP PART3」(昭和六一年五月増刊号)、「MEMORIES」(昭和六一年一〇月二〇日号)などの自動車雑誌の取材を受けるようになっただけでなく、原告の顧客らは、「Back Yard SPECIAL」の表示がなされたシールを購入した上、車に貼付して走行するほどになったこと。

3  以上において確定した事実によると、原告の「バックヤードスペシャル」の標章及びそれを英語表記した「Back Yard SPECIAL」の標章は、被告が設立された平成三年七月二三日までには、原告の営業であることを示す表示として、少なくとも愛知県を中心とする東海地方において、カー用品や自動車の改造などに興味を有するいわゆるカーマニアの間において、広く認識されるに至っていたものと認められる。

三  次に請求の原因第5項(一)(二)(外壁における表示を除く。)は、当事者間に争いがない。

四  そこで、進んで請求の原因第6項(営業表示の類似性)について判断する。

1  まず、原告標章と被告商号とを比較すると、被告商号は「バックヤード」の部分においては原告標章と完全に一致している。

そして、原告標章中の「スペシャル」という部分は、「特別」や「特殊」等の意味を想起させるが、記憶に残る部分として重要な部分、すなわち要部は「バックヤード」(裏庭という意味を有している。)であり、「スペシャル」の部分はこれに特殊化又は高級化したものという意味を付加するに過ぎないから、原告標章と被告商号は類似しているものと認められる。

2  次に、「バックヤードスペシャル」と「バックヤード」との標章も、右に判示したのと同様の理由により類似していると言える。

3  さらに、原告標章の「Back Yard SPECIAL」と被告標章の「BACK YARD」についても、その観念(意味するところ)において類似していることは、右1において判示したとおりであり、その称呼及び外観において類似していることは明らかである。

したがって、両標章は、類似していると言える。

五  次に請求の原因第7項(営業主体の誤認混同と営業上の利益侵害のおそれ)について判断する。

1  営業主体の誤認混同について

原告の店舗は愛知県名古屋市名東区○○a丁目に、被告の店舗は愛知県岡崎市△△町b丁目にあり、その距離は、直線距離で四、五〇キロメートル(東名高速道路を経由すれば自動車で約三〇分)である(甲一三、原告代表者、弁論の全趣旨)。

そして、前示のように原告はホンダ車向けのカー用品の製造、販売、取付け及び修理を主な業務としており、現状では車の販売は例外的に行っている付随業務に過ぎない。他方、被告は、外国産の中古自動車の販売を主な業務としている(被告代表者)。

しかしながら、自動車関連の雑誌の広告においては、スポーティカーとしてのホンダ車とヨーロッパ車の比較がしばしば取り上げられており(甲一七の一、二、甲一八の一ないし三、甲一九の一ないし四、甲二〇の一ないし三、甲二一、二二の各一ないし四、甲二三の一ないし一二、原告代表者)、ホンダ車と外国車との間で、その愛好者に大きな隔たりがあるとすることはできない。そして、前示のとおり、原告は自動車の販売もその事業目的とし、付随的ではあっても実際に中古自動車を販売している(原告の広告にはホンダの新車も販売する旨記載されているものがある(甲八の二の一、二)。)。また、ホンダ車の所有者のみならず、他の日本車や外国車の所有者も原告の店舗を訪れ、部品の購入等をしている(甲二九)。

他方、被告も自動車の販売を目的としており、現状では外国産中古車の販売を主な業務としているが、ホンダ車その他の日本車の中古車を販売することもある(乙一、被告代表者)。また、被告の行っている中古車の販売は、その性質上、部品の取替え、修理、追加等を伴うものがあり、部品の販売という形態で業務がされていない場合であっても、原告の主たる業務である部品の販売、取付け、修理等と競合する部分があると言える。

さらに、名古屋市緑区鳴海のカーマニアデイトナ、春日井市のカーショップ森口、松阪市の鈴木自動車など、自動車部品販売から中古車販売へと業務範囲を拡大していった例もあり(証人B)、特定の店が中古車販売と部品販売の宣伝広告を一つの雑誌において同時に行っていることもある(甲二八の一ないし六)。

そうすると、前示の商号、標章の類似性、原告と被告との位置関係を考慮すると、原告の商号、標章を知る取引者又は需要者においては、被告の施設・活動を原告の施設・活動と混同し、あるいは原告と資本等の点において密接な関連を有する会社の施設・活動と誤認するおそれがあると言うべきである(実際、雑誌中に「BACK YARD」の標章を付した被告の広告を見つけ、原告が岡崎市で外国車中心の支店を出したのであろうと思っていた例や、被告店舗の「BACK YARD」という看板を見て、原告代表者となんらかの関連のある会社であると誤解していた例もある(甲一三、三一、三二)。)。

したがって、被告が自己の営業上の施設又は活動に被告商号・被告標章を使用することは、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為に当たると言うべきである。

2  営業上の利益侵害のおそれについて

1において判示したような誤認混同が生じると、原告の売上が減少したり、営業活動の混同により信用が低下し、さらには、原告商号・原告標章の他商号・標章との識別能力が低下するおそれがあると言える。また、原告が、中古車販売や外国車のカー用品の分野に進出しようとすれば、被告の施設・営業と混同されるおそれがあり、そのため、本来、原告の事業目的の範囲内にある行為について、その実施が妨げられるおそれがあると言える。

したがって、原告は、被告の前示行為によって、営業上の利益を害されるおそれがあるものと認められる。

六  次に請求の原因第8項(被告の故意過失及び原告の損害)について判断する

1  故意又は過失について

営業主体の誤認混同を生じさせる行為により、他人をして営業上の利益を害されるおそれのある状態に置くことは、故意過失のある場合には不法行為を構成すると言うべきところ、証拠(甲三〇、原告代表者)と弁論の全趣旨によると、被告は、開店直後、弁理士であるCから原告の商号を知らされ、その類似性の指摘と被告商号の変更を勧告されたことが認められるので、その時点で、取引関係者に問い合せるなどして市場調査を実施しておれば、原告標章が周知性を獲得していること、被告商号・被告標章を使用すれば原告との間で営業主体について誤認混同を生じさせ、その結果、原告の営業上の利益を害するおそれを生じさせることを容易に予測し得たものと認められる。

したがって、被告が開店後、被告商号・被告標章を使用し、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為を継続したことについては過失があったものと言うべきであり、被告の右行為は原告に対する不法行為に該当する。

2  営業上の利益侵害の事実及び損害額

(一)  本件においては、誤認混同の結果、原告が具体的にどのような信用を毀損されたかについては主張立証がなく、全証拠を検討するも、原告が被告の行為により金銭に評価して賠償すべき程度に信用を毀損されたとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。

(二)  また、前示のように原告はカー用品等の販売等を主たる業とし、他方、被告は外国産の中古車の販売を主たる業としているので、被告が自動車を販売して得た利益をもって原告の得べかりし利益であると推認することはできず、他に原告の得べかりし利益の喪失について主張立証はない。

(三)  次に、証拠(甲一二、三〇、原告代表者)と弁論の全趣旨によると、原告は、平成三年中に弁理士であるCに相談した上、同人を介し被告に対して被告商号・被告標章の変更を求めたが、被告から「名称変更には応じられない。訴訟は受けて立つ。」として変更を拒絶されたこと、そのため、原告は、原告訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起するとともに仮処分の申立て(平成四年(ヨ)第六三〇号)を余儀なくされたこと、原告は、原告訴訟代理人に対し弁護士報酬として弁護士会所定の金額を支払う旨約したこと、以上の事実が認められ、これらの事実と本件訴訟の経緯、内容その他諸般の事情を総合考慮すると、被告の不法行為との間に相当因果関係のある損害はそのうち金五〇万円と認めるのが相当である。

七  よって、原告の本件請求は、そのうち被告商号の使用差止め及び商号の変更登記手続を求める請求並びに被告標章の使用差止及び看板等において使用されている被告標章の抹消を求める請求は理由があるからこれを認容し、損害賠償を求める請求については、損害金五〇万円とこれに対する損害発生後である平成四年六月二六日から支払済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

なお、本件において仮執行の宣言を付すのは相当ではないので、その申立てを却下する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 田澤剛)

別紙1

商標出願公告 昭62-82323

公告 昭62(1987)11月6日

商願 昭60-74989

出願 昭60(1985)7月19日

出願人 A

名古屋市<以下省略>

代理人 弁理士 C

審査官 D

指定商品 12 輸送機械器具、その部品および附属品(他の類に属するものを除く)

別紙2

<省略>

別紙3

<省略>

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