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名古屋地方裁判所 平成5年(ワ)2605号 判決 1997年1月31日

原告

堀田司朗

ほか一名

被告

小野瀬信二

ほか一名

主文

一  被告小野瀬信二は、原告堀田司朗及び原告堀田敬子それぞれに対し、各金一二九四万二一一八円及びこれらに対する平成四年九月二四日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告小野瀬信二に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  被告日動火災海上保険株式会社は、原告堀田司朗及び原告堀田敬子それぞれに対し、各金七五〇万円及びこれに対する平成五年八月六日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告小野瀬信二は、原告堀田司朗及び原告堀田敬子それぞれに対し、各金二七八七万〇一九七円及びこれらに対する平成四年九月二四日(本件不法行為の日)から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―自賠法三条(民法七〇九条)に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】

二  被告日動火災海上保険株式会社は、原告堀田司朗及び原告堀田敬子それぞれに対し、各金七五〇万円及びこれに対する平成五年八月六日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―自賠法一六条一項に基づく保険金請求権(損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。)】

第二事案の概要

本件は、車線変更をした被告小野瀬信二運転の自動車と衝突して死亡した自動二輪車の搭乗者の遺族である原告らが、自賠法三条(民法七〇九条)、自賠法一六条一項に基づき、加害者である被告小野瀬信二及びその保険会社である被告日動火災海上保険株式会社に対して、その損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

訴外堀田裕司(昭和四三年九月一二日生、事故当時満二四歳、以下「亡裕司」という。)は、次の交通事故により死亡した(以下、右事故を「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成四年九月二四日午後八時〇〇分ころ

(二) 場所 愛知県海部郡甚目寺町大字坂牧字阿原四番地一先の道路上(以下「本件道路又は本件事故現場」という。)

(三) 被害車両 自家用自動二輪車(以下「亡裕司車」という。)

右運転者 亡裕司

(四) 加害車両 自家用普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告小野瀬信二(以下「被告小野瀬」という。)

2  損害の一部填補(損益相殺、合計金一五〇〇万円)

原告らは、本件事故による損害賠償として、自動車損害賠償責任保険金一五〇〇万円を受領した。

二  原告らの主張(本件事故の態様について)

本件事故は、本件道路の第二通行帯(中央分離帯寄り)を走行中の被告車が、左後方に対する安全を十分確認しないまま(左折の合図をしないまま)第一通行帯(歩道寄り)に進路を変更したところ、第一通行帯を進行してきた亡裕司車に衝突したというものである。

三  被告らの主張(本件事故の態様について、過失相殺)

〔被告日動火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)の主張〕

本件事故については、被告小野瀬は、本件事故当時、制限速度(毎時五〇キロメートル)を遵守して第一通行帯を走行中であつたが、亡裕司は、左後方より追い抜きをかけ、被告車に接触、転倒して、本件道路左側のブロツク塀に激突したものである。

したがつて、本件事故は、亡裕司の不適当な方法による追い抜きという、著しい注意義務違反によるものであり、亡裕司には、本件事故の発生につき九割以上の過失がある。

四  本件の争点

被告らは、本件事故の態様を争い、亡裕司には、無理な追い抜きという著しい過失があるので、本件事故の責任についてはほとんど亡裕司にあるとして、前記のとおりの過失相殺を主張し、さらに、原告ら主張の各損害額、責任原因、原告らの相続関係等について争つた。

第三争点に対する判断

一  損害額について

1  逸失利益について(請求額金四四四四万〇三九五円)

認容額 金四四四四万〇三九五円

争いのない事実及び証拠(甲第二号証、甲第四号証の一、二、原告堀田司朗本人の供述、弁論の全趣旨)によれば、亡裕司は、本件事故当時満二四歳の健康な男子であつて、株式会社高岳製作所に勤務して、本件事故前年の平成三年には年額金三九三万一〇三九円の収入を得ていたことが認められる。

右の事実によれば、亡裕司は、本件事故に遇わなければ、その後四三年間にわたり稼働可能であり、右稼働期間中右の年収額である金三九三万一〇三九円を下らない年収を得ることができ、全期間について生活費として収入の五割を必要とし、右の稼働可能期間に対応する新ホフマン係数二二・六一〇を乗じると、原告の逸失利益は金四四四四万〇三九五円(円未満切捨て。以下同じ。)となる。

(計算式)

三九三万一〇三九円×(一-〇・五)×二二・六一〇=四四四四万〇三九五円

2  慰謝料について(請求額金二〇〇〇万円)

認容額 金二〇〇〇万円

本件事故の態様、亡裕司の年齢等本件に現れた一切の事情を総合すれば、亡裕司の慰謝料としては、金二〇〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用について(請求額金一三〇万円)

認容額 金一二〇万円

争いのない事実及び証拠(原告堀田司朗本人の供述、弁論の全趣旨)によれば、原告らは、亡裕司の葬儀を執り行い、約金一五〇万円を支出している。

右の事実と本件に現れた諸事情によれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は金一二〇万円をもつて相当と認める。

二  本件事故の態様及び事故原因について

前記の争いのない事実に、証拠(甲第一号証、甲第五号証の一ないし八、甲第六号証、甲第七号証の一ないし一五、甲第八ないし甲第一一号証、乙A第一ないし乙A第三号証、乙A第四号証の一ないし五、乙B第三号証、鑑定嘱託の結果(鑑定人横森求作成の鑑定書)、証人高山昌光の証言<ただし、後記の採用しない部分を除く。>、被告小野瀬本人の供述<ただし、後記の採用しない部分を除く。>、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場の状況としては、被告小野瀬及び亡裕司がともに東から西に向けて走行していた道路は、中央分離帯のある片側二車線の幅員六・二メートル(被告小野瀬が走行していた第二通行帯〔中央分離帯寄り〕の車線の幅員は三・一メートルで、亡裕司が走行していた第一通行帯(歩道寄り)の車線の幅員も三・一メートル、アスフアルト舗装)の道路であること、そして、本件道路の南側には、幅員が一・六メートルの歩道があり、その歩道と第一通行帯との間にはコンクリート製の縁石が設けられていること、本件事故現場の西側には、南北に本件道路と交差する道路(本件道路から南側に続く道路は、その幅員は七・八メートルの中央線の設けられていない道路であるのに対して、本件道路から北側に続く道路は、その幅員は約一〇メートル以上の片側一車線の道路である。)があつて、信号機の設置された交差点(以下「本件交差点」という。)となつていること、その本件交差点の南側の前記歩道と第一通行帯との間にはガードパイプが設けられていること、

また、本件道路の交通規制については、その制限速度は毎時五〇キロメートルであり、さらに、駐車禁止の規制がなされていたこと、そして、本件事故当時の状況としては、当時は夜間で、かつ、雨が降つていたことから、路面は湿潤の状態であつたこと、

2  本件事故の態様としては、

被告小野瀬は、被告車を運転して本件道路の第二通行帯(中央分離帯寄り)を時速約五〇~六〇キロメートルで走行中であつたが、本件交差点において、前記の北側道路への右折車線があつて停車していたことから、そのままでは同第二通行帯を走行できないことから、進路変更(左折)の合図をすることなく、そのままの速度で、左後方に対する安全を十分確認しないまま第一通行帯(歩道寄り)に進路を変更したところ、第一通行帯を進行してきた亡裕司車に衝突(被告車の左側のサイドミラーと亡裕司車のハンドル右側部分が接触)したというものであること、

これに対して、亡裕司は、亡裕司車を運転して本件道路の第一通行帯(歩道寄り)を時速約五〇~六〇キロメートルで走行していたものであるが、前記のとおり突然被告車が第二通行帯から自分の走行する第一通行帯に進路変更してきたことから、前記のとおり第一通行帯の南側は縁石やガードパイプがあつてそれ以上は歩道側に避けることができなかつたことから、被告車と前記のとおり衝突し、亡裕司車もろともに本件交差点南西角のブロック塀に激突して転倒したこと、

右の点に関して、

(一) 被告車と亡裕司車とが接触(衝突)していることは動かしがたい事実であること、

(二) 被告車と亡裕司車の衝突地点については、被告小野瀬が指示する実況見分調書上の地点(甲第五号証)があるが、右地点は単に被告小野瀬が指示説明するのみで、他の客観的証拠と対比してただちには採用しがたいこと、

(三) 亡裕司車の転倒、激突地点に関しては、第一通行帯の南側の歩道との間に存在する縁石やガードパイプとの関係が問題となるが、そもそもその衝突地点については右に述べたとおりであり、さらに、亡裕司車が被告車と接触した場合に、その地点でただちに転倒することなく、走行の安定を失いながらしばらく走行した後に転倒することのあることは公知の事実であるから、被告車と亡裕司車の衝突と亡裕司車の転倒、激突地点との間には何らの矛盾はないこと、

(四) 被告らは、亡裕司は、寄つてくる被告車に対して左後方より追い抜きをかけた旨主張するが、本件全証拠によるも、右主張事実については、客観的裏付けに基づいてこれを認めるに足りる証拠はないこと、

以上の1及び2の各事実が認められ、右認定に反する証人高山昌光の証言及び被告小野瀬本人の供述は、前掲の他の各証拠に照らしていずれもこれらを採用できない。

3  そこで、まず、被告小野瀬の過失を検討するに、

本件道路の被告車からみての後方の見通しは良かつたのであるから、被告小野瀬は、その進路を変更するに際しては、あらかじめその合図をし、左後方の安全の確認、すなわち、特に本件道路の左後方を注視して、本件道路(特に第一通行帯)を走行して来る自動車の有無などその安全を十分に確認して、第一通行帯を進行して来る自動車の進路を妨害しないようにして進行すべき注意義務があつたのに、これを怠つたという過失があること、

4  これに対して、亡裕司の過失を検討するに、

本件道路の前方の見通しは良かつたのであるから、亡裕司は、本件道路を走行するに際しては、本件交差点における右折車両の存在と第二通行帯を走行する自動車の動静などを注視して、十分に減速するなどして、第二通行帯から第一通行帯へ進路を変更して来る自動車の有無などその安全を十分に確認して走行すべき注意義務があるのに、これを怠つたという過失があること、

以上3及び4の認定判断に反する被告小野瀬本人の供述は、前掲の他の各証拠に照らしてこれを採用できない。

三  過失相殺について

前記二で認定の各事実及び認定判断によれば、本件事故は、前記認定の被告小野瀬の過失と亡裕司の過失とが競合して発生したものといわざるをえない。そして、前記認定の諸事情に徴すると、本件事故における被告車と亡裕司車との過失割合については、被告車(被告小野瀬)が六割、亡裕司車(亡裕司)が四割と認めるのが相当である。

四  被告小野瀬の責任原因

本件事故については、前記二で認定判断のとおり、被告小野瀬には、安全確認義務違反の過失があり、原告らに対して、民法七〇九条による不法行為責任を負担するものである。

また、被告小野瀬本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、被告小野瀬は、被告車を自己のため運行の用に供していた者であるから、原告らに対して、自賠法三条による損害賠償責任を負担するものである。

五  相続

甲第三号証によれば、亡裕司は、原告らの長男であり、原告らは、法定相続分に従い、各二分の一の割合で亡裕司が本件事故により被つた損害賠償請求権を相続した。

六  具体的損害額について

そうすると、前記一で認定のとおり、本件で原告ら(亡裕司)が被告小野瀬に対して請求しうる損害賠償の総損害額は合計金六五六四万〇三九五円となり、前記三の過失割合による過失相殺をすれば、原告らの具体的な損害賠償請求権は金三九三八万四二三七円になるところ、原告らは、損害の一部填補として、自動車損害賠償責任保険金一五〇〇万円の支払を受けた(争いのない事実の2)ので、これらを損益相殺すると、被告小野瀬が原告らに賠償すべき賠償額は金二四三八万四二三七円となる。

七  弁護士費用について(請求額金五〇〇万円)

認容額 金一五〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金一五〇万円と認めるのが相当である。

八  結論

1  被告小野瀬に対する請求

以上の次第で、原告らの被告小野瀬に対する本訴請求は、金二五八八万四二三七円(原告堀田司朗及び原告堀田敬子各人につき金一二九四万二一一八円)及びこれらに対する不法行為の日である平成四年九月二四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

2  被告会社に対する請求

以上の次第で、原告らの具体的な損害賠償請求権は、自動車損害賠償責任保険金の残額金一五〇〇万円を上回るものであるから、原告らの被告会社に対する本訴請求は、金一五〇〇万円(原告堀田司朗及び原告堀田敬子各人につき金七五〇万円)及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成五年八月六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求全部につき理由がある。

(裁判官 安間雅夫)

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