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名古屋地方裁判所 平成6年(ワ)1883号 判決 1996年4月16日

主文

一  被告株式会社ニチイは、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明渡せ。

二  被告株式会社キャロットは、同目録記載の建物から退去せよ。

三  被告株式会社ニチイは、原告の同目録記載の建物に対する占有、使用を妨害してはならない。

四  原告と被告らとの間において、原告が同目録記載の建物についての、被告株式会社ニチイを賃貸人とし、原告を賃借人とする賃借権を有することを確認する。

五  被告株式会社ニチイは、原告に対し、金三〇四二万一〇〇〇円及びこれに対する平成七年一〇月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告の被告株式会社ニチイに対するその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用中、原告と被告株式会社ニチイ及び被告株式会社ニチイ補助参加人ジャスコ株式会社との間に生じた分はこれを二分し、その一を被告株式会社ニチイ及び被告株式会社ニチイ補助参加人ジャスコ株式会社の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告株式会社キャロットとの間に生じた分は被告株式会社キャロットの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告株式会社ニチイは、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明渡し、かつ、平成六年四月二三日から右建物明渡済まで一日当たり金一〇万円を支払え。

二  主文第二項ないし第四項同旨

三  被告株式会社ニチイは、原告に対し、金六五二二万四七五〇円及びこれに対する平成七年一〇月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  仮執行宣言

第二  事案の概要

本件は、被告株式会社ニチイ補助参加人ジャスコ株式会社(以下「補助参加人」という)からショッピングセンターの一部分である別紙物件目録記載の建物(以下「本件店舗」という)を転借していたテナントの原告が、補助参加人から右店舗の賃貸人の地位を承継した被告株式会社ニチイ(以下「被告ニチイ」という)が、本件店舗を別のテナントである被告株式会社キャロット(以下「被告キャロット」という)に占拠させて原告の右店舗に対する占有、使用を排除し、本件店舗での原告の営業継続を妨害し、かつ本件店舗に置いてあった原告所有の備品類を破棄したことにより損害を被ったとして、被告ニチイに対し、賃借権及び占有回収訴権に基づき、本件店舗の明渡及び原告の本件店舗に対する占有使用の妨害禁止を求めるとともに、債務不履行ないし不法行為に基づくいわゆる懲罰的損害賠償請求を含めて、一日当たり一〇万円の割合による金員並びに金六五二二万四七五〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、また被告キャロットに対し、賃借権に基づき、本件建物からの退去を求め、さらに原告の賃借権の存在を争う被告らとの間で、原告が賃借権を有することの確認を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  津北ショッピングセンター「エル」(以下「エル」という)は、建物所有者である中央毛織株式会社(以下「中央毛織」という)から、補助参加人と被告ニチイが同一面積である四〇〇〇平方メートルを賃借し、その直営部分については両者がそれぞれ自ら営業をなし、テナント部分についてはこれを各テナント(賃借人)に転貸して営業をなさしめ、その他専門店街の占有部分一八〇〇平方メートルとを合わせて全体が一体化して成るショッピングセンターであり、昭和五三年九月にオープンした(原告、被告ニチイ間において争いがなく、原告、被告キャロット間において弁論の全趣旨により認めることができる)。

2  原告は、昭和五三年八月八日、補助参加人から、本件店舗を、建設保証金及び敷金を一〇〇〇万円、賃料月額一〇万円、共益費月額一二万円とし、賃借期間を同年九月一日から昭和五六年二月二〇日までとする約定で賃借し(以下「本件賃貸借」という)、その引渡を受け、以来右店舗において、服飾、雑貨の販売を営んできた(原告、被告ニチイ間において争いがなく、原告、被告キャロット間において弁論の全趣旨により認めることができる)。

3  補助参加人は、平成四年末ころ、エルから撤退することとし、被告ニチイが、補助参加人及びそのテナントの営業している部分を引継ぎ、増築、改装等の上ショッピングセンター「サティ」の名称で再出発することになった(証人小川莞爾の証言及び弁論の全趣旨により認めることができる)。

4  被告ニチイと補助参加人は、平成五年一月二五日、補助参加人がエルから撤退することに伴い、およそ次の合意をなし、確認書を取り交わした(証拠(乙一、二、六)により認めることができる)。

(1) 被告ニチイは、補助参加人が中央毛織から賃借している部分において、補助参加人から、補助参加人と補助参加人の同友店(テナント)として入店している各店との間の各店舗賃貸借契約に基づく補助参加人の賃貸人(転貸人)の地位を、補助参加人の撤退日と同時期に承継する。

(2) 被告ニチイは、補助参加人に対し、補助参加人が契約している各店を、被告ニチイの契約している協友店(テナント)と同等に処し、差別待遇は一切しないことを確約する。

(3) 補助参加人は、補助参加人のテナントに対し、被告ニチイのテナントと同様、新築増床改装に伴う配置変更及び賃貸借条件の改定があることを説明する。

(4) 補助参加人は、被告ニチイが右(1)の賃貸人の地位を承継するについて、各同友店(テナント)との合意を補助参加人の責任において取りつける。

5  被告ニチイは、平成六年一月一二日、右4の合意書に基づき、補助参加人から、右4(1)記載の契約に基づく補助参加人の各テナントに対する賃貸人(転貸人)の地位を継承した(証拠(丙四)により認められる)。

6  原告、補助参加人間の昭和五三年八月八日付け本件賃貸借の契約書(甲二、以下「本件契約書」という)の一九条には、「本契約時の本件店舗の位置、面積などが建物の設計、店舗レイアウト、法規制などの関係上変更の必要が生じたときは、位置、面積、賃貸借料、共益費、建設協力預託金、敷金などの額を改定するものとし、原告は、これに対し異議を述べない。原告は、これらの変更によって生じた内装・什器の移転・新設などの費用を負担し、休業補償など名義のいかんを問わず、補助参加人に対して一切の請求をしない」旨定めている。

二  被告ニチイ及び補助参加人の主張

1  本件賃貸借は、被告ニチイないし補助参加人の次の各意思表示により終了している。

(1) 津市内におけるショッピングセンターの競争関係激化の実情から、エルは大規模な増改築を実施しなければ、存立の危機に直面する事態に至った。そして補助参加人は、大規模な追加投資を断念して撤退を決意し、一方被告ニチイは、多額の追加投資をして競争に打ち勝つことを決意した。多額の追加投資をして大規模な店舗を開設することが、多数の顧客を吸引する集客力につながり、結果的には各テナントの業績を向上させ、ショッピングセンター全体として同業他社との競争に勝利をおさめることとなる。そうすると、本件店舗については、本件契約書一九条にいう「変更の必要」が生じたというべきであり、補助参加人は、平成五年一月二五日以降平成六年一月七日までの原告との折衝において、原告に対し、右のことを説明するとともに、原告が被告ニチイとの賃貸借に当たり条件面で合意に達しなければ原告は補助参加人とともに退店せざるを得ない旨を申入れ続けてきたにもかかわらず、原告は、頑なまでに一切の賃貸借条件の変更を拒否した。原告の右行為は、本件契約書一九条に違反する行為であり、また補助参加人の前記申入れは原告の右違反行為を理由とする本件賃貸借の解除の意思表示と評価できるから、本件賃貸借は、遅くとも平成六年一月一二日までに終了した。

(2) 補助参加人の担当者は、平成五年一月二五日、原告方を訪れ、原告代表者に対し、平成六年一月に補助参加人がエルを撤退することを説明して、補助参加人の本件賃貸借における賃貸人の地位が被告ニチイに承継されることに対する原告の承諾書書式を呈示してその署名捺印を求め、原告が被告ニチイの右承継を望まなければそれは原告自身の退店になることを説明したが、これは、補助参加人の原告に対する本件契約書二四条に定める六か月の予告期間をおいた文書による解約の申入れにあたる。そして、補助参加人及び被告ニチイと原告とのその後の折衝内容、特に補助参加人が、原告との賃貸借が円満に被告ニチイに引継がれるよう最大限の努力を払い、他のテナントが被告ニチイとの間で新規の賃貸借条件で賃貸借契約関係に入った中で、ただ一人被告ニチイとの契約内容は補助参加人と原告との従前の契約条件と一言一句同一にせよと頑なな態度をとり続けた原告に対し、什器備品の買取や代替店舗の提供をしたりしたこと等の事情に鑑みると、補助参加人の原告に対する右解約の申入れは遅くとも平成六年一月一二日をもって正当事由を具備してその効力を生じ、本件賃貸借は同日をもって終了した。

(3) 原告は、被告ニチイとの間で、賃貸場所や新賃料条件等の折衝をしたが、被告ニチイに対し、被告ニチイにとって明らかに承服できない要求を突きつけた上、補助参加人との話がつくまでは被告ニチイと話をしないなどと言い出した。万一、原告が新装オープン寸前になって補助参加人との賃貸借を解約させてその営業を取り止めたら、被告ニチイにとっては、原告出店予定場所が空白のまま店がオープンすることになり、他のテナントに対する重大な義務違反の状態を招来することになる。そこで被告ニチイは、平成六年二月一〇日、原告に対し、同月一五日が被告ニチイの出店準備のタイムリミットであることを説明して、同日までに中断している被告ニチイとの折衝の再開を回答しないと権利放棄になる旨通告した。被告ニチイの原告に対する右通告の法律上の意味は、被告ニチイが原告に対し期限を定めて本件契約書一九条所定の賃貸条件改定交渉の履行を催告し、右履行がない場合は本件賃貸借が解除されるという趣旨のものであった。ところが、原告は、被告ニチイの右催告にもかかわらず、補助参加人との旧条件を一切変更しないことを明言し続けた。そうすると、本件賃貸借は、補助参加人から賃貸人の地位を承継した被告ニチイの原告に対する右平成六年二月一〇日付けの期限つき履行催告並びにその不履行を条件とする本件賃貸借の解除の意思表示により同月一五日の満了をもって終了した。

(4) 原告、補助参加人間の本件賃貸借は、昭和五六年二月二〇日以降は、一年毎に自動更新を続けていた。本件契約書七条によれば、期間満了で本件賃貸借を終了させるには六か月前までに更新拒絶の意思表示が必要であるところ、補助参加人の前記(1)の平成五年一月二五日の解約の意思表示は右更新拒絶の意思表示にも当たるから、原告、補助参加人間の本件賃貸借は、平成六年二月二〇日をもって期間満了により終了した。なお、右更新拒絶の意思表示に正当事由が存在することは前記(1)のとおりである。

2  後記原告の主張2について

被告ニチイは、平成六年二月末日、原告の売場を含む全面大改装の目的で、原告の承認を得て、原告所有のアルミ製看板ボーダー、間仕切用カガミ、床タイル等を破棄したものである。

また被告ニチイは、新店舗の増床大改装によるオープンに際し、原告の売場のみを空白のままで開店することは、他の大勢のテナントの売上げに悪影響を及ぼすことが明白であるため、それは絶対に回避しなければならない情勢にあったので、原告の売場に隣接したテナントである被告キャロットに懇請して、急遽同被告に対し店舗拡張を依頼し、本件店舗を同被告に占有させたものである。

三  原告の主張

1  本件賃貸借が、被告ニチイ及び補助参加人主張の各意思表示により終了しているとの主張は争う。

補助参加人の解約申入れないし更新拒絶の意思表示は存在していない。無理にこれが存在したと解しても、六か月の予告期間の最初から最後まで正当事由が継続して存在しなければならず、それはあり得ない。

また本件契約書一九条は、改定の内容が全く明らかでないので、法的な拘束力はない紳士条項ないし例文である。仮に右条項が具体的な改定条件を規定しているとしても、招来の不確定な事情を現在において予測して定めようとするもので、借家法七条の精神に反する無効なものである。賃貸人の改定要求に異議なく応じなければならず、これに応じなければ契約解除の事由になるというのは、借家法一条一項の対抗力を認めた趣旨にも反する。さらには本件契約書一九条は、本件のように賃貸借関係の法律上当然承継の場合を予定するものではないといえる。

2  原告は、平成六年二月二八日、被告ニチイから、改築するので、本件店舗内にあった陳列ケース、什器及び備品を一時他に移動して欲しいとの申出を受け、これを名古屋の倉庫に一時的に移動した。ところが、被告ニチイは、同年四月初めころ、原告が本件店舗に残していた原告所有のアルミ製看板ボーダー、間仕切用カガミ、床タイル等を一方的に破棄し、被告キャロットに本件店舗を不法占拠させ、原告の抗議を無視して、原告の本件店舗に対する占有、使用を排除し、原告の本件店舗での営業継続を妨害した。

そして、原告は、被告ニチイの右行為により合計六五二二万四七五〇円の損害を被った。

四  被告キャロットの主張

被告キャロットは、平成六年四月一一日、被告ニチイの一〇〇パーセント子会社である株式会社マイカル協友(以下「マイカル協友」という)との間で、本件店舗につき、「出店及び営業に関する基本契約」を締結し、右契約に先立つ同月六日、本件店舗の引渡を受け、商品を納入し、同月二三日にオープンして右店舗に対する占有を続けている。仮に原告が被告ニチイに対し本件賃貸借に基づき、本件店舗の占有引渡請求権を有するとしても、被告キャロットは、右経緯により、原告が被告ニチイに対して有する本件店舗の賃借権に対抗できるものである。

第三  当裁判所の判断

一  前記第二の一1ないし6の事実に証拠(甲三、五、乙一ないし七、丙一ないし二七、三六の1・2、三七ないし四五、原告代表者(但し後記信用できない部分を除く、証人小川莞爾、同西尾遼)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  補助参加人は、平成四年一二月一八日、その全テナントに対し、説明会を開き、補助参加人がエルから全面的に撤退し、被告ニチイが補助参加人のテナントの営業していた部分を引継ぎ、「サティ」として新装オープンする旨を公式に発表した。

2  補助参加人は、平成五年に入り、補助参加人と賃貸借契約を結んでいる各テナントに対し、賃貸人としての地位が被告ニチイに承継されることについての承諾書を呈示し、原告を除くその他のテナントについては、退店したテナント三店を除き右承諾書に署名してもらった。

3  補助参加人の担当者小川莞爾(以下「小川」という)は、平成五年一月二五日、原告方を訪れ、原告代表者に対して、前記承諾書への署名を求め、署名がむずかしければ補助参加人が平成六年一月初旬をもって撤退するため原告も補助参加人とともに撤退してもらうことになる旨説明したところ、原告代表者は、右承諾書がなくても補助参加人は被告ニチイに賃貸人としての地位を譲れるのであるから右承諾書に署名する必要はないと考える旨述べた。

4  小川は、同年二月八日、原告方に電話をしたが、弁護士と相談すると言っていた原告代表者は、営業場所の移動がなく、賃料の値上げがないのなら承諾書に署名すると述べた。

5  被告ニチイは、同年三月以降、補助参加人の各テナントと個別交渉を開始し、原告との間についても同月以降数回にわたり交渉を続けて営業場所と経済条件等についての話し合いを続け、その中で、被告ニチイから原告側に対し原告の希望する角地での一七坪を提供する案が出されたり、同年一一月六日には、原告代表者から被告ニチイに対し、賃料等の支払につき賃料、共益費その他諸経費を含めて売上額(なお当時の原告の月平均売上額は約五四〇万円であった)の一〇パーセント以内にしてほしい旨の提案がなされたが、原告代表者は、同年一二月一〇日には、被告ニチイに対し、右提案でも年間六〇〇万円の赤字が出るので右提案からさらに年間三五〇万円程ダウンしてほしい旨要望したため、被告ニチイは、原告代表者に対し、あまりにも非常識な要求であり、何とか当方の条件で了承してほしい旨述べた。

6  補助参加人は、被告ニチイから原告との交渉が難渋している旨の報告を受けたので、小川は、同年一一月二六日、原告方を訪れたが、原告代表者は、被告ニチイが呈示する賃料では赤字になり、場所も悪い、被告ニチイと話をするが、話がつかないときは今の場所で現在の条件で営業をするか又は退店する旨述べた。

7  小川は、同年一二月一四日、原告代表者との間で、原告が営業場所を移動する場合の内装什器商品等の補償についての協議を行い、原告代表者から、残存簿価は二五六万一〇〇〇円であると言われた。

8  小川は、平成六年一月五日、原告代表者から、被告ニチイとの交渉は平行線のままである、被告ニチイが譲歩しなければそのまま営業を続ける旨言われた。

9  補助参加人は、同月一二日、エルから撤退するとともに、被告ニチイとの間で、引き続き補助参加人が速やかに原告の合意を取りつけ、右合意が得られない場合はすべて補助参加人の負担において原告を退店させる旨の覚書(丙四)を取り交わした。

10  被告ニチイは、同月一四日、原告代表者に対し、同月一二日に被告ニチイが補助参加人と原告との賃貸借を引継いだことを伝えるとともに、オープンに間に合うように被告ニチイと条件につき確定してほしい旨伝えたが、原告代表者は、被告ニチイとは現時点で話し合っても仕方がないから被告ニチイとは交渉しない旨述べた。

11  被告ニチイは、同年二月一〇日、原告代表者に対し、被告ニチイに入店希望があるのなら、オープンまでの諸準備の都合もあり、同月一五日までに回答してほしい、回答がなければ権利放棄になる旨伝えたが、同日までに原告から何の返答もなかった。

12  エルは、同年二月二八日、被告ニチイの実施する新装工事のため一斉休館に入り、すべてのテナントが一旦退店した。

13  小川は、同年一月一七日及び同年二月二一日、原告方を訪れ、原告代表者から、被告ニチイ呈示の大幅賃料アップはのめない、二か月の休業補償を求めたい位だと言われ、同年三月五日には、原告代表者から代替店舗の要求があったので、補助参加人は、同月以降、原告に対し、補助参加人の四日市南店(平成六年末オープン予定)、伊賀上野店、補助参加人の四日市店A館二階、松坂店一階、久居店一階、四日市南店「セガ」ゾーン等の代替店舗の提供をしたが、結局原告との間で折り合いがつかなかった。

14  補助参加人の担当者は、同年三月二五日、原告代表者に対し、できるだけ原告の言い分に近くなるよう被告ニチイと協議してみると回答したが、同年四月五日、原告代表者に対し、被告ニチイと協議したが、条件の引下げは無理であり、これ以上とる手段がない旨伝えた。

15  補助参加人は、同月八日、原告に対し、補助参加人としてはあらゆる手段を尽くして誠心誠意努力を払ってきたこと、被告ニチイに承継された本件賃貸借は、補助参加人の、原告との交渉を通じての解約の申入れとその解約の申入れにつき正当事由が存在することにより終了したこと、そこで補助参加人は今後原告との交渉を断念し、被告ニチイと原告との間の協議、解決に委ねることを内容とする内容証明郵便を送付した。また補助参加人は、同日、被告ニチイに対し、本件賃貸借が、補助参加人と原告との長い交渉を通じての解約の申入れに正当事由が具備したから終了している旨通知した。

16  ところで、被告ニチイが原告に対し新規に求めてきた主な賃貸条件は、営業保証金を一三五〇万円とするほか、賃料につき、従前では補助参加人と原告との間の賃貸借における固定賃料一〇万円に売上歩合賃料一〇万八〇〇〇円(売上額の二パーセント)を加えた二〇万八〇〇〇円としていたのを、売上歩合賃料(売上の七パーセント)一本とするものであった。そして原告と補助参加人間の契約における旧賃料等(共益費、テナント会費等を含む)と、被告ニチイの呈示した新規の賃料等を比較すると、前者が月額三三万四三二〇円のところ、後者は六二万五〇〇〇円となる。なお原告と補助参加人との間の賃貸借における賃料は一六年間一度も値上げがなされたことがなかった。

以上の事実が認められ、原告代表者本人尋問の結果中右認定に反する供述部分はにわかに信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  右認定事実によれば、被告ニチイは、平成六年一月一二日、補助参加人から、原告、補助参加人間の本件店舗についての賃貸借における賃貸人の地位を承継したものであるから、原告は、被告ニチイに対し、承継された右賃貸借における賃借権を主張できることになる。

ところで、被告ニチイ及び補助参加人は、右賃貸借が前記第二、二1(1)ないし(4)の各意思表示により終了した旨主張するので、この点につき検討する。

1  前記第二、二1(1)(補助参加人の解除の意思表示)について

被告ニチイ及び補助参加人が原告のいかなる行為をもって本件契約書の一九条に違反すると主張しているのか必ずしも明らかでないが、前記認定事実によれば、原告は、補助参加人や被告ニチイとの賃貸借の条件交渉において、被告ニチイや補助参加人に対し、営業場所につき角地を要求したり、一時は賃料につき売上額の一〇パーセント以内という提案をしたり、また補助参加人の提供する代替店舗につき自ら検討したりしていたものであり、被告ニチイや補助参加人に対し、従前の補助参加人との賃貸借における条件の変更を一切拒否する態度であったものではないから、この点に関する被告ニチイ及び補助参加人の主張は理由がない。

2  前記第二、二1(2)(補助参加人の解約申入れ及びこれについての正当事由)について

前記認定事実によれば、補助参加人は、原告と補助参加人との本件店舗についての賃貸借が被告ニチイに円満に引き継がれるよう原告と交渉し、被告ニチイと原告との条件交渉が難渋すると、原告に対し、内装什器備品等の買取を申し出たり、数多くの代替店舗の提供をしたりしたが、他方原告も、補助参加人と原告間の賃貸借における補助参加人の賃貸人としての地位は基本的には被告ニチイにそのまま承継されるとの理解のもとに、被告ニチイが呈示した賃貸借の条件が、営業場所の移動と賃料等の大幅な上昇(従前の約二倍)を伴っていたこと等から、右交渉の中で、被告ニチイや補助参加人に対し、前記1のとおり営業場所について角地を要求したり、一時は賃料につき売上額の一〇パーセント以内という提案をしたり、また補助参加人の提供する代替店舗につき自ら検討したりして原告なりの要望を出したりしていたものであり、これらの事情を総合すると、原告以外の従前の補助参加人のテナントが、退店したテナントを除いてみな被告ニチイとの間で賃貸借契約を締結したことや被告ニチイが原告に対し呈示した賃料等の額が従前のそれに比較して大きく上回っているのが、原告、補助参加人間の賃貸借において賃料の値上げが一六年間なされなかったことにも起因していること等の事情を考慮に入れても、補助参加人の平成五年一月二五日の行為が本件賃貸借の解約申入れと評価しうるとしても、右解約申入れに正当事由が具備されたということはできず、他に右正当事由の具備を認めるに足りる証拠はない。そうするとこの点に関する被告ニチイ及び補助参加人の主張も理由がない。

3  前記第二、二1(3)(被告ニチイの解除の意思表示)について

被告ニチイ及び補助参加人は、被告ニチイは平成五年二月一〇日原告に対し、原告が同月一五日までに本件契約書一九条所定の賃貸条件改定交渉の履行をしない場合は本件賃貸借を解除する旨の意思表示をした旨主張するが、前記2のとおり原告は、補助参加人と原告間の賃貸借における補助参加人の賃貸人としての地位は基本的には被告ニチイにそのまま承継されるとの理解のもとに、被告ニチイが呈示した賃貸借の条件が、営業場所の移動と賃料等の大幅な上昇(従前の約二倍)を伴っていたこと等から、被告ニチイとの交渉の中で、被告ニチイや補助参加人に対し、営業場所について角地を要求したり、一時は賃料につき売上額の一〇パーセント以内という提案をしたり、また同年三月以降も補助参加人の提供する代替店舗につき自ら検討したりしていたものであり、賃貸条件改定につき原告なりに被告ニチイや補助参加人と話し合いを続けていたものといえるから、仮に被告ニチイの平成五年二月一〇日の行為が被告ニチイら主張のような本件賃貸借の解除の意思表示と評価しうるとしても、右解除の意思表示はその効力を生じないものというべきである。したがってこの点に関する被告ニチイ及び補助参加人の主張も理由がない。

4  前記第二、二1(4)(補助参加人の更新拒絶の意思表示及びこれについての正当事由)について

被告ニチイ及び補助参加人主張のように、補助参加人が、平成五年一月二五日、原告に対し、本件賃貸借につき更新拒絶の意思表示をしたと評価しうるとしても、右更新拒絶につき正当事由が具備されたということはできないことは前記2のとおりであり、他の右正当事由の具備を認めるに足りる証拠はない。そうするとこの点に関する被告ニチイ及び補助参加人の主張も理由がない。

三  以上によると、原告、補助参加人間の本件店舗についての賃貸借は、その賃貸人としての地位が補助参加人から被告ニチイに承継されて現在なお存続し、原告はその賃借人であるといえる。

ところで、証拠(原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、被告ニチイから、改装のため売場の陳列ケース、什器備品類を一時他に移動してほしい旨言われ、平成六年二月二八日、商品等を名古屋の倉庫に一時的に移動したところ、被告ニチイは、同年四月初めころ、原告が本件店舗に残した原告所有のアミル製看板ボーダー、間仕切用カガミ、床タイル等を原告の承諾を得ず破棄したこと、被告キャロットは、平成六年四月一一日、被告ニチイの一〇〇パーセント子会社であるマイカル協友との間で、本件店舗につき、「出店及び営業に関する基本契約」を締結し、右契約に先立つ同月六日、本件店舗の引渡を受け、商品を納入し、同月二三日にオープンして右店舗に対する占有を続けていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告ニチイは、原告の意に反して原告の本件店舗についての占有を排除し、被告キャロットにこれを占有させたものであり、被告ニチイは、原告に対し、賃貸借契約上の明渡義務の履行を怠り(本件店舗は被告ニチイが被告キャロットに賃貸し現在同被告がこれを占有しているのであるが、被告ニチイにとってこれを空室にして原告に明渡すことは不可能ではないといえる)、原告の占有使用を妨害しているといえるから、原告は、賃借権に基づいて、被告ニチイに対し、本件店舗の明渡を求めうるとともに、原告の右店舗に対する占有使用の妨害禁止を求めうるものというべきである。したがって原告の被告ニチイに対する賃借権に基づく本件店舗の明渡請求及びこれに対する占有、使用の妨害禁止請求はいずれも理由がある。

また右認定事実によれば、原告は、被告ニチイの申出に応じて本件店舗内の商品等を一時的に運び出した後、被告ニチイにより自らの意に反して本件店舗に対する占有を排除されたものであるから、被告ニチイ(の一〇〇パーセント子会社のマイカル協友)からその後本件店舗についての賃借権を取得しその引渡を受けた被告キャロットに対しても、なお対抗力を有し、賃借権に基づいて、同被告に対し本件店舗の明渡を求めうるというべきである。したがって原告の被告キャロットに対する賃借権に基づく退去請求は理由がある。

また原告の被告両名に対する賃借権確認の請求も理由がある。

さらに被告ニチイが原告に対し賃貸借契約上の明渡義務の履行を怠っていること、原告の承諾を得ずに原告所有の前記アルミ製看板ボーダー、間仕切用カガミ、床タイル等を破棄したことは前記のとおりであるから、被告ニチイは、債務不履行及び不法行為に基づき、原告に対し、原告がこれにより被った損害を賠償すべき責任を負う。

四  そこで原告の損害について検討する。

1  休業損害(請求額 一六五二万一〇〇〇円)

証拠(甲一二、一三、二二(枝番を含む)、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件店舗において、昭和六二年度から平成四年度までの間に、年間平均一一〇一万四〇〇〇円(一か月当たり九一万七八三三円)の経常利益を上げていたことが認められる。そして原告は、被告ニチイの前記債務不履行により平成六年三月以降右利益を喪失したものといえるから、同月から平成七年八月までの一年六か月間で一六五二万一〇〇〇円の損害を被ったことになる。

2  内装費残高(請求額 二一五万一〇〇〇円)

原告は、平成二年一〇月に本件店舗を全面改装したが、その内装費の平成六年二月三〇日時点の残高二一五万一〇〇〇円を損害として主張するが、これを裏付ける客観的資料はなく、これを認めるに足りる証拠はない。

3  什器備品類(請求額一八六七万六三六二円)

原告は、平成六年四月二二日のオープンへ向けて、一八六七万六三六二円相当の什器備品類を株式会社拓創に製作させたが、現在これらは使用できず、倉庫に保管してある旨主張するが、これを原告の損害と認めるに足りる証拠はない。

4  仕入商品(オープン用、請求額六六五万九〇〇〇円)

原告は、オープンのため、二二一九万九四二二円(小売価格)の商品を仕入れたが、そのうち半分は他店で消化できず、その仕入原価(六〇パーセント)の損害を被った旨主張するが、これを裏付ける客観的資料はなく、これを認めるに足りる証拠はない。

5  備品代(請求額一二三万五〇〇〇円)

原告は、被告ニチイに看板、間仕切り、ボーダー等を破棄され、一二三万五〇〇〇円相当の損害を被った旨主張し、原告が被告ニチイに看板、間仕切り、ボーダー等を破棄されたことは前記認定のとおりであるが、これにより一二三万五〇〇〇円相当の損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。

6  備品代(請求額一二万九〇〇〇円)

原告は、オープンの際の使用のため購入したスコープ、レジ等が使用できなくなったことにより一二万九〇〇〇円の損害を被った旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

7  退職金(請求額一四万九四〇〇円)

原告は、被告ニチイの債務不履行により出店不可能となったため、本件店舗の従業員の一部が職場を失って退職したが、これにより支払った退職金一四万九四〇〇円を本件損害と主張するが、これが被告ニチイの債務不履行と相当因果関係にある損害と認めるに足りる証拠はない。

8  給与、賞与(請求額一九三〇万三九八八円)

原告は、被告ニチイの債務不履行により出店不可能となったが、本件店舗において業務に従事していた従業員が他に仕事を持っていなかったために、同人らに対し、平成六年三月以降平成七年八月までの間に(五反田直子につき同年五月まで、南野正彰についてはアルバイト代)次のとおり合計一九三〇万三九八八円の給与、賞与を支払い、これは原告の損害である旨主張する。

平野輝美 六二〇万七九四五円

五反田直子 四二三万八一二〇円

小林直樹 八一四万五六七八円

南野正彰 七一万二二四五円

ところで証拠(甲一二、一三、原告代表者)によれば、原告は、昭和六二年度から平成四年度までの間に、年間平均九〇〇万円(一か月当たり七五万円)の人件費を要していたことが認められる。そして証拠(原告代表者)によれば、原告は、被告ニチイの前記債務不履行により本件店舗が使用できなくなったものの、右店舗の従業員が他に仕事を持っていなかったため、平成六年三月以降平成七年八月までの間に、同人らに対し給与、賞与を支払ったことが認められる。そうすると原告は、被告ニチイの右債務不履行により次の計算式のとおり合計一三五〇万円の損害を被ったものというべきである。

計算式 75万円×18=1350万円

原告が右金額以上の損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。

9  供託金に対する金利(請求額四〇万円)

証拠(甲九)によれば、原告は、被告ニチイにより本件店舗の占有を排除されたため、津地方裁判所に対し、仮処分の申立てをし(平成六年ヨ第三九号)、同裁判所は、同年四月、右申立てを相当と認めて仮処分決定をなしたが、原告は、右仮処分の保証金として六〇〇万円を供託したことが認められる。そうすると、原告は、被告ニチイの前記債務不履行により平成六年五月から平成七年八月までの間の右六〇〇万円の法定金利相当分である四〇万円の損害を被ったものというべきである。

10  結局原告は、被告の前記債務不履行により右1、8及び9の合計三〇四二万一〇〇〇円の損害を被ったことになる。

11  原告は、さらに被告ニチイに対し、懲罰的損害賠償請求を含めて平成六年四月二三日から本件店舗明渡済まで一日当たり一〇万円の請求をするが、そもそも右損害の中身が明らかではない上、右10で述べた損害に加えてこれを原告の損害と認めるに足りる証拠はない。

12  そうすると、原告は、被告ニチイに対し、債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償として、金三〇四二万一〇〇〇円及びこれに対する平成七年一〇月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものというべきであるから、原告の金員請求は右の限度で理由があるが、原告のその余の金員請求は理由がない。

五  なお仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。

(裁判官 植屋伸一)

別紙物件目録<省略>

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