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名古屋地方裁判所 平成6年(ワ)244号 判決 1998年10月26日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

中部交通共済協同組合に対し、被告石川和昌は金七三八五万五四三〇円、被告伊藤勝実は被告石川和昌と連帯して右内金一七七二万五九六〇円及びこれに対する平成六年二月三日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、中部交通共済協同組合(以下「中交協」という。)の代表理事(以下「理事長」という。)、同理事である被告らが愛知県東部貨物運送事業協同組合(以下「東部貨物協」という。)及び東三貨物事業協同組合(以下「東三貨物協」という。)との間で違法な業務委託契約を締結し、更新し、右業務委託契約に基づいて東部貨物協及び東三貨物協に対し手数料を支払ったことにより中交協に手数料相当額の損害が生じたとして、中交協の組合員である原告らが、中交協の理事長又は理事である被告らに対し、中小企業等協同組合法三八条の二、四二条、商法二六七条に基づき、右損害額を中交協に対し支払うよう請求した代表訴訟である。

一  争いのない事実

1 当事者

(一) 中交協は、中部地方の六県(愛知県、福井県、石川県、富山県、静岡県、岐阜県)のトラック運送事業者を組合員の対象とし、対人共済事業、搭乗者傷害共済事業、対物共済事業、車両共済事業、労働災害共済事業、損害保険代理業及び右各事業に附帯する事業を行う協同組合である。

(二) 被告石川和昌(以下「被告石川」という。)は、昭和四六年六月一二日から昭和六三年七月三一日まで中交協の理事を、同年八月一日から現在まで中交協の理事長を務めている。

被告伊藤勝実(以下「被告伊藤」という。)は昭和五五年五月二九日から現在まで中交協の理事を務めている。

(三) 被告らがいずれも中交協の理事であった右期間中、被告石川は東部貨物協の、被告伊藤は東三貨物協の各理事長の職にあった。

(四) 原告らは、いずれも平成五年五月三一日以前から中交協の組合員である。

2 中交協と東部貨物協及び東三貨物協との間の業務委託契約

(一) 中交協は、昭和六二年三月三〇日、東部貨物協及び東三貨物協との間で、共済契約業務に関する委託契約(「以下それぞれ「本件業務委託契約」という。)を締結し(契約期間は同年四月一日から一年間)、以後同契約は昭和六三年四月一日から毎年自動的に更新され、平成五年三月三一日に終了した。

(二) 被告らは、本件業務委託契約の締結及び更新を契約当事者双方の理事又は理事長として行った。

(三) 中交協は、東部貨物協及び東三貨物協に対し、本件業務委託契約に基づいて別紙支払手数料額一覧表記載のとおり手数料を支払った。

3 本件業務委託契約に対する規制等

(一) 中交協の組合運営規約(以下「規約」という。)三八条は、中交協が規約別表二記載の団体に対し同条所定の業務を委託することを認め、その場合中交協は業務委託費を支払うと規定している。

中交協が本件業務委託契約に基づいて東部貨物協及び東三貨物協に対し委託した業務は、規約三八条所定の業務に含まれる。

(二) 中交協は、昭和六〇年三月一五日の第九四回理事会決議において、契約等手数料は中交協本部の直扱いにより難い地域にあり覚書によってその取扱団体を確認したうえ契約業務を委託した中交協の支部(以下「支部」という。)に対し支払い、事故受付等手数料は業務委託費算出基準(以下「算出基準」という。)の定めにかかわらず算出しないこととした。

(三) 中交協は、昭和六二年二月二七日の第一〇六回理事会決議において、算出基準を変更し、契約等手数料及び事故受付等手数料をその対象から除外した。

(四) 中小企業等協同組合法(以下「中協法」という。)三八条は、中小企業等協同組合の理事は理事会の承認を受けた場合に限り、組合と契約することができると規定する(理事の自己取引の禁止)。

(五) 被告らは、中交協の理事長又は理事として、規約、理事会決議、中協法を順守すべき業務がある。

4 原告らは、中協法四二条の準用する商法二六七条所定の手続を経て本訴に及んだ。

二  争点

1 本件業務委託契約の違法性の有無

(一) 規約違反の有無

(1) 原告らの主張

規約三八条は、中交協の業務委託先を中交協の支部に限定して認めているところ、本件業務委託契約は、中交協が支部以外の団体である東部貨物協及び東三貨物協に対し業務を委託するもので、しかも右二者は、その業務を更に関係会社に再委託しており、規約三八条に明らかに違反する。

(2) 被告らの主張

中交協設立当初から本件業務委託契約締結、更新当時まで、中交協の支部は中交協が委託した業務を行うだけの人員、設備を有する組織ではなく、実体を有していなかったのであり、中交協が支部に対し業務を委託したとしても支部が委託業務を行うことは不可能であった。

したがって、支部への業務委託を定める規約三八条は空文であって、本件業務委託契約は規約三八条に反しない。

(二) 第一〇六回理事会決議違反の有無

(1) 原告らの主張

中交協は、昭和六二年の第一〇六回理事会決議において、算出基準を改正し、契約業務及び事故受付業務については昭和六二年度以降支部に対する委託を止め、中交協が直接取扱うことを前提に、契約等手数料及び事故受付等手数料を算出基準の対象から除外した。

そして、規約三八条は中交協が支部に委託することができる業務として契約業務とその他の業務を特に区別して扱っていないのであるから、算出基準の対象から除外された契約等手数料を中交協が支出することは許されない。

ところが、中交協は、本件業務委託契約に基づいて東部貨物協及び東三貨物協に対し契約業務を委託するとともに契約等手数料を支払い、右決議に違反した。

また、算出基準は中交協が支部に対し支払う業務委託費を算出するものであるから、仮に支部以外の団体である東部貨物協及び東三貨物協に対する手数料の額が改正前の算出基準に基づいて算出された場合であってもその支出が正当化されることはない。

(2) 被告らの主張

第一〇六回理事会決議が契約等手数料を算出基準の対象から除外した理由は、商取引の対価的性質を有する契約等手数料と支部に対する援助協力費的性質を有する組合事業運営協力費とはその性質を異にするから別個の算出基準により算出すべきであるという考え方に基づくものである。

また、当時算出基準が改正されたのは、組合事業運営協力費の支出が不明朗であったためであり、契約等手数料の支出に問題があったわけではなく、中交協は、右決議以降も、東部貨物協及び東三貨物協に対し、契約等手数料を従前の算出基準が規定していた契約手数料の算出基準に従って支払っており、適切な処理を行っている。

したがって、中交協は、契約業務の委託を継続することを前提としつつ、契約等手数料を算出基準の対象から除外したというべきであり、右決議が中交協の契約業務の委託及び手数料の支出を禁止したということはできない。

(三) 中協法三八条違反の有無

(1) 原告らの主張

本件業務委託契約の締結、更新は、被告らが代表者となっている東部貨物協、東三貨物協及びその関連会社を用い、自らの利益を得るためされた被告らの自己取引であるにもかかわらず、中交協の理事会による承認を受けていないから、中協法三八条に違反する。

昭和六〇年の第九四回理事会決議は、原則として中交協が契約業務を直接取り扱うこととし、例外的に支部に対する業務委託を認めたのであって、東部貨物協及び東三貨物協のような支部以外の団体に対する業務委託は認めていないのであるから、本件業務委託契約を中交協の理事会が事前に承認したということはできない。

また、平成五年の第一三八回理事会決議は、本件業務委託契約の締結、更新について、理事会の承認がなかった事実を確認するとともに理事会の承認を要しないとの解釈を容認したにすぎず、右決議をもって本件業務委託契約を中交協の理事会が事後的に承認ないし追認したということもできない。なお右決議に際し、東部貨物協、東三貨物協が関係会社に業務を再委託させていたとの事実は明らかにされていなかった。

(2) 被告らの主張

本件業務委託契約は、外形上理事の自己取引に当たるが、その取引の性質上組合にとって一方的に利益となり、また理事が自己の個人的利益を図る余地のない取引であるから、右契約の締結、更新については中協法三八条の理事会による承認を本来要しない。

仮に理事会による承認を要するとしても、中交協は、昭和六〇年の第九四回理事会において、本件業務委託契約の締結、更新について事前に包括的な承認をしている。

また、中交協は、平成五年の第一三八回理事会において、本件業務委託契約の締結及び更新を事後的に承認ないし追認している。

さらに、中交協による本件業務委託契約の締結、更新に当たっては、理事会の承認があったものと同視すべき事情も存在するのであって、仮に中交協の理事会が昭和六二年度以降単年度ごとに本件業務委託契約の締結、更新について正式に討議していたとしても、中交協の理事会が右契約の締結、更新を承認したことは確実であるから、本件業務委託契約は中協法三八条に反しない。

(四) 保険募集の取締に関する法律違反の有無

(1) 原告らの主張

中交協の行う共済事業は、多数の組合員から徴収した共済掛金を管理運用することにより事故の発生に際して確実に共済金の支払をすることを目的とし、その利益を保護されるべき組合員が広範に存在するほか員外利用も認められている公益性の高い事業であって、保険業法が定める保険事業と同視できる。

したがって、中交協の行う共済事業については、本件業務委託契約締結当時の保険募集の取締に関する法律一八条(保険業法(平成七年法律第一〇五号)附則二条により同法が廃止される前のもの。なお同旨の規定として保険業法二七五条が置かれた。)が準用ないし類推適用され、同条は保険募集業務を第三者に委託すること及び委託手数料の支払を禁止している。また、運輸省の通達も中交協のようなトラック交通共済協同組合が契約業務を他の法人又は個人に委託することを原則として禁止している。本件業務委託契約の締結、更新はこれらの法令、通達に違反する。

(2) 被告らの主張

中交協は中小企業の事業者という特定の階層に属する組合員が組織する組合であり、規約二六条は員外利用者を中交協組合員の関連団体に限定しているから、中交協の共済事業は広く大衆から保険契約者を募ることを事業の特徴とする保険事業とは性格を著しく異にする。

したがって、中交協の行う共済事業について、保険募集の取締に関する法律を準用ないし類推適用することはできない。

また、通達は法規ではなく行政組織内部の行政規則にすぎないから国民に対する拘束力を有しない。したがって、中交協が通達に従わなかったとしても違法ではない。

2 中交協の損害額

(一) 原告らの主張

中交協が東部貨物協及び東三貨物協との間で本件業務委託契約を締結、更新し右契約に基づき契約等手数料を支出したことは、規約三八条に違反し、定款及び規約を順守すべき理事の業務執行権限の範囲外の行為であるから、中交協が東部貨物協及び東三貨物協に対し契約等手数料として支出した金員全額が損害となる。

また、本件業務委託契約の委託業務は中交協本部において直接に取り扱うことが十分に可能なものであり、業務委託の必要性は全く存在しなかったのであるから、中交協が本件業務委託契約によって得た利益は認められず、これを中交協の損害額と損益相殺する余地はない。

(二) 被告らの主張

中協法三八条の二第一項の損害は、被害者の現在の財産状態と損害賠償請求権を根拠づける事態(加害行為)がなければ存するであろう財産状態との差を言い、また、被害者の現在の財産状態を算定するには出捐とこれに対応する利益を共にその算定の基礎とすべきである。

本件業務委託契約の手数料は、一般の損害保険の代理店契約の場合の手数料に比べて低額であり、中交協が東部貨物協及び東三貨物協に対して支払った手数料は、昭和六二年度以降平成五年度まで各年度当たり約九二四万円から一四八二万円にすぎない。他方、本件業務委託契約の期間中、仮に中交協が契約業務を直接に取扱っていた場合の費用は、中交協が平成六年に開設した中交協豊橋事務所(以下「豊橋事務所」という。)の維持運営費用と同程度であるとみられるところ、豊橋事務所の維持運営費用のうち東部貨物協及び東三貨物協担当分の業務に要した費用は、平成六年度が豊橋事務所の開設費用約六〇〇万円を除外して約一五八六万円、平成七年度が約一七一七万円に及んだ。

したがって、中交協が本件業務委託契約の対価として東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った手数料は、中交協が仮に契約業務を直接取扱っていた場合に要する費用と比較してはるかに少ないということができるから、本件業務委託契約によって中交協に損害は発生していないというべきである。

また、豊橋事務所開設後、中交協の共済掛金収入は約二〇〇〇万円増加しているが、そのうち豊橋事務所の開設の効果といえる増加分は約一二〇万円余りに過ぎず、共済掛金の新規加入分が全体で約二八〇〇万円あることも考慮すると、豊橋事務所の開設は共済掛金収入の増加に特に貢献してはいない。

さらに、保険料の支払は豊橋事務所開設後約五〇〇〇万円近く増加しており、中交協の財産状態は悪化している。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件業務委託契約の違法性の有無)について

1 前記争いのない事実並びに《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 中交協は、昭和四六年六月に愛知県交通共済協同組合として設立された。

愛知県交通共済協同組合は、設立当初愛知県のみを事業地区としていたが、事業地区の範囲は陸運局単位とすることが望ましいとする運輸省の通達に従ってその規模を拡大し、昭和四七年七月に北陸三県(福井県、石川県、富山県)を事業地区に加えた。そして、愛知県交通共済協同組合は、昭和四八年五月にその名称を中交協に変更した上、同年七月に静岡県、昭和五三年四月に岐阜県をそれぞれ事業地区に加え、現在中部六県を事業地区としている。

中交協は、その事業地区を一六の地域に分け(愛知県内を一一地域に分け、愛知県以外の県は各県一地域としている。)、各地域を総代の選出単位とし、各地域ごとに総代の選出母体として支部を置いている。

(二) 中交協は、設立後組織の整備が遅れたため、その不備を補い契約数の増加と共済事業の円滑化を目的として支部に対する業務委託制度を採用した。

業務委託制度は、当初、中交協がその下部組織である支部に対し中交協の業務を事実上委託するとともに業務委託費を支払うというものであった。

そして、福井県、石川県、静岡県及び岐阜県の各支部は、専従の職員を有していたので、各支部において中交協の委託業務を直接処理していた。

しかし、愛知県内の各支部及び富山県支部は、専従の職員を有しておらず、その事業地域内のトラック協会や事業協同組合の職員が支部の業務を兼務する状態にあり、組織としての実体を有していなかった。そのため、中交協は、愛知県内及び富山県地域においては、支部から更にその事業地域内のトラック協会や事業協同組合などの団体に対し支部への委託業務を事実上再委託させ、支部を通じて業務委託費を右再委託先の団体に対し支払っていた。

すなわち中交協の業務委託制度は、中交協の設立当初、共済契約業務の経験やトラック運送事業者とのパイプを有する職員が不足し、中交協が自前の職員を育成するよりも、事業地域内のトラック協会や事業協同組合に対し業務を委託することが効率的であるとの見地から採用されたものである。

中交協は、愛知県の東三河地域(以下「東三地域」という。)においては、東三地域を事業地域とする東三支部から更に東三地域内の事業協同組合六組合(東部貨物協、東三貨物協、渥美貨物協運送事業協同組合、愛知県豊川貨物協輸送事業協同組合、宝飯豊川トラック事業協同組合及び三河港トラック運送事業協同組合)に対し同支部への委託業務を事実上再委託させ、東三支部を通じて業務委託費を右六組合に対し支払っていた。

ところで、東部貨物協は、保険業務を行うことが可能で損保の代理店も兼ねる関連小会社である五協株式会社(現在は有限会社、以下「五協」という。)に対し、東三貨物協は、同様に新和商事有限会社(以下「新和商事」という。)に対し、それぞれ中交協の委託業務を一括して事実上再々委託していた。

そして、東部貨物協は、中交協から東三支部を通して支払を受けた業務委託費から、五パーセントないし二〇パーセントを、東三貨物協は、同じく右の二〇パーセントをそれぞれ差し引いた金額を、五協、新和商事に対し支払った。

(三) 右(二)のように、業務委託制度は、支部に対する事実上の委託を建前としていながら、支部が実体を有していない事業地域においては再委託先の団体が存在し、中交協、支部、再委託先の団体の間の法律関係が不明確となっていたこと、また、業務委託費も全国的に見て突出して高額になったこと等から、昭和五六年ころ、税務当局が中交協に税法上の問題点を指摘するに至った。

そこで、中交協は、昭和五六年四月、業務委託制度の法律関係を明確化するため、支部の中交協における位置づけを下部組織から任意団体に変更し、中交協とは別個の任意団体たる支部との間で業務委託契約を締結することとした。

そして、中交協は、当時の規約三八条において、(1)事業の普及宣伝及び契約勧奨に関すること、(2)組合加入の申込み及び変更届等の受理に関すること、(3)共済契約の申込み及び異動承認請求の受理に関すること、(4)事故報告の受付又は組合の指示した範囲内における損害調査等に関すること、(5)共済金請求書類の取付けに関すること、(6)事故防止活動に関すること、(7)その他組合から特に指示したことの各業務を中交協が支部に対し委託することができること、その場合には別に定める算出基準により支部に対し業務委託費を支払うことを規定した。

また、中交協は、支部との間の各業務委託契約書六条に定める別途覚書に、支部の下部組織として直接契約業務を行う取扱団体を記載することとした。

そして、中交協は、愛知県内の名古屋第一、名古屋第二、名古屋第三、尾東、知多、西三、東三の各支部及び富山県支部との間の各業務委託契約において、従前の再委託先の団体を三四団体に整理して取扱団体に指定した(愛知県内の他の支部との間の業務委託契約においては、再委託先の団体を取扱団体に指定しなかった。)。

(四) 中交協は、前述した当時の規約三八条に基づく算出基準(適用開始日昭和五九年四月一日)を作成し、業務委託費を、組合事業運営協力費(前記規約三八条についての前述の(1)、(2)、(6)、(7)の業務の対価)と、契約等手数料(同(3)の業務の対価)及び事故受付等手数料(同(4)、(5)の業務の対価)の各項目に分け、組合事業運営協力費は所定金額に全支部と各支部との契約組合員数割合及び共済契約数割合を、契約等手数料は共済掛金に一定比率を、事故受付等手数料は所定金額に事故受付件数を各乗じることによりそれぞれ算出することとした。

そして、中交協は、以後、支部に対する業務委託費を算出基準に基づいて算出し、取扱団体を指定した支部については、支部を通じて取扱団体に対しこれを支払った。

(五) その後、中交協は、昭和五九年度決算において約一億八〇〇〇万円に及ぶ大幅な赤字を出し、また、昭和六〇年三月六日、共済事業の運営について監査を行った中部運輸局長から、中交協が委託している業務の内容、委託先及び業務委託費の使途が適切でないので必要な措置を採ること等の内容の改善勧告を受けた。

そこで、中交協は、収支の改善を図り、また中部運輸局長の勧告に対応すべく、まず業務委託費の算出方法から見直すこととし、同月一五日、第九四回理事会において、組合事業運営協力費算定のための前記所定金額を契約組合員数割、共済掛金割ともに各一五〇〇万円とすること、契約等手数料は中交協本部の直扱いにより難い地域にあり所定の団体に契約業務を取り扱わさせることになる支部に支払う、その場合は中交協と支部との覚書によってその取扱団体を確認すること、事故受付等手数料は算出基準の定めにかかわらず算出しないこととすること、これらにより組合事業運営協力費と契約等手数料を合わせた昭和六〇年度の業務委託費予算を四〇〇〇万円に圧縮するとの内容の同年度業務委託費案及び同年度中に、委託業務の内容、業務委託団体等につき、委託に関する規約、算出基準等の見直しを図るとの内容の業務委託変更に関する趣意書案を承認した。そして、細部の処理については理事長に一任した。

中交協は、同月末をもって従前業務委託契約を締結、更新していた支部のうち東三支部及び富山県支部以外の支部との間の業務委託契約を終了させ、これらの契約を終了した支部に対しては組合事業運営協力費は支払うが、契約等手数料、事故受付等手数料は支払わないこととするとともに、三一の取扱団体を廃止した。

しかし、中交協は、同年四月以降も、東三地域及び富山県地域は中交協の直扱いにより難い地域であるとして、東三支部及び富山県支部との間の業務委託契約を継続し、東三支部においては東部貨物協及び東三貨物協を、富山県支部においては高岡地区陸運事業協同組合を、中交協と各支部との覚書に記載して確認した上、取扱団体として残した。そして、中交協は、両支部を通じ右の三組合に対し組合事業運営協力費に加え契約等手数料を支払った。

当時、中交協は、東三地域内の契約業務を中交協が直接取扱うための事務所を東三地域に開設することを内部で検討したが、採算及び人員確保の点に問題があったことから断念した。

中交協は、同月三〇日、中部運輸局に対し右業務委託費の見直措置を報告した。

以上のような業務委託費の見直しの結果、中交協が昭和六〇年度に支出した業務委託費は約四八九八万円となり、昭和五九年度に支出した約九一七六万円から大幅に減少した。

(六) 中交協は、前記のとおり昭和六〇年度中に業務委託全般に関する見直しをすることを予定していたが、これが実行できず、そのため、昭和六一年二月一三日、第一〇〇回理事会において、業務委託費の算出方法を暫定措置として再度見直した。これにより、昭和六一年度分の業務委託費について、組合事業運営協力費は契約勧奨費、事故防止活動費、支部運営費、調整費に細目化、明確化して算出することとし、契約等手数料及び事故受付等手数料は前年度と同様、契約等手数料は中交協本部の直扱いにより難い地域にあり覚書によってその取扱団体を確認した上、契約業務を委託した支部に対し所定額を支払い、事故受付等手数料は算出基準の定めにかかわらず算出しない扱いとした。

そして、中交協は、前年度と同しく東三支部及び富山県支部以外の支部に対し組合事業運営協力費を支払うとともに、業務委託契約を東三支部及び富山県支部との間で更新し、両支部を通じて取扱団体(東部貨物協、東三貨物協、高岡地区陸運事業協同組合)に対し組合事業運営協力費及び契約等手数料を支払った。

(七) 中交協は、昭和六二年二月二七日、第一〇六回理事会において、算出基準を正式に改正し、従前の組合事業運営協力費を契約協力費、事故防止活動費、支部運営費、調整費に変更することとし、契約等手数料、事故受付等手数料については、算出基準の対象から除外した。

そして、契約等手数料は、職員による契約の直接扱いが困難で、契約業務を委託することが中交協全体にとってプラスになると判断した地域の取扱団体に対する支払として認められることとなった(この点は後に判断する。)。

さらに、中交協は、業務委託の法律関係の見直しを行い、専務理事までの稟議を経た後、特に理事会に諮ることなく、同年三月三一日に東三支部及び富山県支部との間の業務委託契約を終了させ、同月三〇日、取扱団体であった東部貨物協及び東三貨物協並びに高岡地区陸運事業協同組合との間で直接業務委託契約を締結した。その契約期間は同年四月一日から一年間であるが、その後も原則として自動更新するとの契約であった。

その結果、中交協は、東三支部及び富山県支部に対しても他の支部に対してと同じく契約協力費、事故防止活動費、支部運営費、調整費として業務委託費のみを支払い、東部貨物協及び東三貨物協並びに高岡地区陸運事業協同組合に対し共済掛金の総額に応じた手数料及び事故防止活動等に対応する業務協力費を支払うこととなったが、中交協の損益計算書の勘定科目としては、支部に対する業務委託費と委託先各組合に対する手数料とを区別せずに支部を単位とする業務委託費として一括計上する扱いとした。

もっとも、前記のとおり東部貨物協は五協に、東三貨物協は新和商事にその業務を再委託していた(その内容については後に認定する。)。そのため、従前同様、東部貨物協、東三貨物協に支払われた右手数料、業務協力費のうち所定割合は、東部貨物協、東三貨物協から五協、新和商事に支払われた。

(八) 中交協は、高岡地区陸運事業協同組合との間の業務委託契約が平成二年三月三一日に終了した際これを更新せず、平成二年度以降は、中交協と東部貨物協及び東三貨物協との間の本件業務委託契約のみが存続した。

中交協は、平成三年九月一九日、規約三八条一項を変更し、委託業務を、(1)組合事業の普及宣伝に関すること、(2)組合加入及び契約勧奨に関すること、(3)共済契約及び事故処理等に関し特に依頼したこと、(4)事故防止活動に関すること(5)その他、特に指示又は依頼したことに整理した。

(九) 平成五年五月、原告株式会社イトー急行(以下「イトー急行」という。)の従業員小田切秀夫が中交協の平成四年度業務委託費算出表に計上された業務委託費の合計金額(約四一六二万円)と中交協の平成四年度損益計算書に計上された業務委託費の金額(約五四九一万円)が大幅に異なっていることを発見し、これをイトー急行の代表者伊藤保男(以下「伊藤」という。)に報告した。

伊藤が同年六月一七日、中交協に対し右各金額の食い違いについて問い合わせをしたところ、両者が食い違った原因は、中交協が本件業務委託契約に基づき東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った平成四年度の手数料を同年度の業務委託費算出表には計上せず、他方、同年度の損益計算書には計上したことによるものであることが判明した。

伊藤は、そのころ、規約が中交協の業務委託先を支部と記載しているにもかかわらず中交協が東部貨物協及び東三貨物協との間で本件業務委託契約を締結、更新していることを知ったが、従前から、委託業務の内容など多くの問題を含み陸運局などから改善指導を受けていた中交協の業務委託制度について不信感を持っていたほか、支部に対する業務委託を原則的に廃止した昭和六〇年の第九四回理事会以前において中交協が自己の経営するイトー急行の加入する事業協同組合を取扱団体に指定していなかったことへの不満も加わって、中交協に対し本件業務委託契約について説明を求めた。

これを受け、平成五年六月一八日、イトー急行に中交協の鈴木専務、片山営業部長、水野総務部長が赴き、伊藤に対し本件業務委託契約について説明を行ったが、伊藤は納得せず、これを中交協の運営上の問題として公にした。

その後、中部運輸局も中交協に対し検査を行い、同年一一月九日、中交協に対し、事業運営を規約等に従い適切に行うとともに、委託業務及び委託先を見直し、業務委託費の使途も明確にすること等を内容とする事業の改善勧告を行った。

そして、伊藤は中交協の理事として、同月一五日、中交協の第一三七回理事会において、本件業務委託契約の違法性と被告石川の責任を追及する緊急動議を提出した。

また、原告富士サービス株式会社代表者成瀬哲郎も中交協の理事として、同理事会において、前記のとおり小田切の発見した記載の食い違いに関連して、平成四年度の業務委託費算出表等に改ざんがあったとして追及した。

(一〇) 右(九)の中部運輸局の指導及び伊藤らの追及を受けて、中交協は、第一三七回理事会において、本件業務委託契約についての特別調査会(以下「特別調査会」という。)及び業務委託制度改善特別委員会を設置することを決定した。

特別調査会は、その後、本件業務委託契約について調査を行った。そしてその結果、中交協が東部貨物協及び東三貨物協との間で本件業務委託契約を締結、更新するに当たっては地域性等中交協の直扱いにより難い事情があり、他方、本件業務委託契約に基づいて中交協が支出した手数料は仮に中交協が東三地域内に直扱いのための事務所を設置していた場合の経費と比較すればコスト的に低額であって中交協は本件業務委託契約によって損害を受けていなかったと判断し、また、中協法三八条の適用についても、外形上理事の自己取引であっても取引の性質上中交協にとってのみ一方的に利益となる取引や理事が自己の個人的利益を図る余地のないような取引については理事会の承認を要しないと解した上、本件業務委託契約は理事会の承認を要する理事の自己取引に当たらないから同条に抵触しないとの調査結果を得るに至った。

そして、中交協は、平成五年一二月二二日、第一三八回理事会において、右特別調査会の調査結果の報告を受けた後、これを出席理事の賛成多数で支持し、伊藤提出の緊急動議を出席理事の賛成五五名、反対二名で否決した。

(一一) 中交協は、業務委託制度改善特別委員会(伊藤及び前記成瀬もその出席者の一人であった。)の審議を経て、平成六年一月の理事会において、同年三月三一日に終了する東部貨物協及び東三貨物協との間の本件業務委託契約の更新をせず、東三地域内に中交協直轄の事務所を開設することを決議し、同年四月一日、豊橋事務所を開設した。

豊橋事務所は、平成六年度から、中交協が本件業務委託契約に基づき東部貨物協及び東三貨物協に対し委託していた組合事業の普及宣伝業務、組合加入及び契約勧奨業務、共済契約業務を東部貨物協及び東三貨物協から引き継ぐとともに、中交協が昭和六二年度から直接業務を行っていた東三地域内の東部貨物協及び東三貨物協担当分以外の組合事業の普及宣伝業務、組合加入及び契約勧奨業務、共済契約業務を引き継いだ。

東三地域内の事故処理業務及び事故防止活動については、昭和六〇年から中交協本部が担当しており、平成六年度は両者ともに中交協本部が行ったが、豊橋事務所の態勢が整った平成七年度からは豊橋事務所が事故処理業務を引き継ぎ、東三地域における中交協の業務は事故防止活動を除いてすべて豊橋事務所が行うこととなった。

以上のとおり認められる。

2(一) 右認定事実によると、中交協の業務委託制度は、中交協の設立当初、共済契約業務の経験やトラック運送事業者とのパイプを有する職員が不足し、中交協が自前の職員を育成するよりも、事業地域内のトラック協会や事業協同組合に対し業務を委託することが効率的であるとの見地から採用されたものであるが、中交協が支部を下部組織と位置づけて事実上の業務委託を行い、東三支部など実体のない支部においては、中交協は形式的に支部を通じてその事業地域内の事業協同組合などの団体に対し業務を事実上再委託したために、中交協、支部、再委託先の団体の三者間の法律関係が明確性を欠き、業務委託費も多額となり、また不明朗な部分が生じ、関係行政官庁から改善勧告を受け、中交協の収支が悪化した原因となったことから、中交協は昭和五六年から業務委託制度の改善を繰り返し行うようになったということができる。

そして、中交協の業務委託制度の改善の経緯についてみると、中交協は昭和五六年から委託当事者間の法律関係の明確化を図って支部を中交協とは別個の任意団体と位置づけて契約関係を結んだものの、取扱団体を支部の下部組織として残したため中交協と取扱団体との関係に曖昧な点が残り、また、昭和六〇年から算出基準の見直しにより業務委託費の縮減を図り、事故受付等手数料の支払を止めたうえ、契約業務も原則的に中交協が直接取り扱い、これにより難い地域についてのみ例外的に支部に委託することとしたが、東部貨物協及び東三貨物協を含む三組合については直接取扱いにより難いとして支部を通じて事実上契約業務の委託を継続したというのであって、右改善の経緯において、中交協が実体のない支部を通じて再委託先の団体に対し業務を事実上再委託する構造は変化しておらず、昭和六二年から中交協が右三組合との間で直接本件業務委託契約を締結、更新するようになってようやく、業務委託制度の実態と法律関係が整合したというべきである(被告らは昭和六〇年の第九四回理事会において、支部でなく取扱団体に委託する旨決議されたと主張するが、右決議の文言と明らかに相違し、採用できない。)。

このように、本件業務委託契約は中交協による業務委託制度の改善過程において締結、更新されるに至ったものであるから、その違法性の判断に当たっては、右業務委託制度の趣旨、経緯を前提として判断する必要がある。

以下、前記認定の事実に基づき順次判断する。

(二) まず、規約三八条違反の有無について検討する。

前記認定したところによると、中交協は、昭和六二年度以降、支部に当たらない東部貨物協及び東三貨物協との間で本件業務委託契約を締結、更新したのであり、本件業務委託契約は形式的には規約三八条に違反するというほかない。

しかし、前記認定の事実によると、第九四回理事会の開かれた昭和六〇年度当時の中交協が直接取扱いにより難い地域として例外的に契約業務の委託をするに当たっては、事業地域の地域性を考慮するだけでなく、契約実務に豊富な経験と実績を有する関連子会社を有している取扱団体かどうかを確かめた上、右取扱団体に対する業務委託と中交協の直接取扱いのどちらが中交協にとって有利かどうかを考慮することが必要であったものと考えられる。そして、第九四回理事会は業務委託制度の改善案を承認するとともに細目については理事長に一任し、その後中交協が富山県とともに東三地域についても業務委託の継続と中交協の事務所を開設することを比較して業務委託が有利であると判断し、業務委託の方式を継続したことが認められるのであるから、右事実によれば、中交協がその後さして事情に変化がないと思われる昭和六二年において東三地域について直接東部貨物協及び東三貨物協との間で本件業務委託契約を締結したことは、その必要性が認められ、やむを得ない措置であったといえる。

これら東三地域における業務委託の必要性及びこれを前提とした従前からの扱いを考慮すると、規約三八条は中交協が取扱団体に対し例外的に業務を委託することを絶対に禁止したものとまでいうことはできず、本件業務委託契約は規約三八条に実質的には違反しないというべきであり、この点について、原告らの主張を採用することはできない。

ところで前記認定のとおり、東部貨物協、東三貨物協は、委託した業務を五協、新和商事に再委託したことが認められる。しかし《証拠略》によると、五協、新和商事はそれぞれ昭和四三年に、東部貨物協、東三貨物協の各組合員を出資者として設立されたこと、設立の趣旨は東部貨物協、東三貨物協は、中協法等の制約上損害保険業務を担当することができなかったことから、東部貨物協、東三貨物協の組合員につき損害保険業務を行うには別会社を設立する必要があったため設立されたというものであること、したがって前記のとおり出資者は東部貨物協、東三貨物協の組合員であり、代表者も東部貨物協、東三貨物協の代表者が就任し、事務所も東部貨物協、東三貨物協の組合事務所をもってあてられ、専従職員も一、二名にとどまったこと、右のように事業協同組合とは別個に会社を作って損害保険業務を担当するとの扱いは愛知県内の他のトラック事業協同組合においても多くみられ、中交協発足の当初、支部、取扱団体に業務を委託していたころも、取扱団体たる事業協同組合は多く同様な関連会社に再委託をしていたことが認められる。そして、右認定の事実によると五協、新和商事と、東部貨物協、東三貨物協とは法律上は別人格であるが、実体的には前者は後者の一部門としての性格を有していたこと、このような扱いが中交協において一般的であったことが認められる。

そうすると、前記のとおり、本件業務委託契約をもって規約三八条に実質的には違反しないと解する以上、右のような五協、新和商事への再委託も、直ちに前記規約に反するとまではいえないものである。

(三) 次に第一〇六回理事会決議違反の主張について検討する。

中交協は、昭和六二年の第一〇六回理事会決議において、算出基準を変更し、契約等手数料、事故受付手数料を算出基準の対象から除外したのであって、これによると中交協が契約等手数料を以後支出することは許されない旨原告らは主張する。

しかし、前記認定の事実及び《証拠略》によると、第一〇六回理事会決議における算出基準の変更は、組合事業運営協力費を契約協力費、事故防止活動費、支部運営費、調整費に変更して各費用を明確にし、業務委託費を圧縮することを主な目的としていたのであり、契約等手数料を従前の算出基準によって算出することに特に問題はなかったこと、中交協の契約等手数料は一般の損害保険の代理店等との契約に比べ低額であったこと等が認められ、これらの事実に照らすと、中交協が第一〇六回理事会決議において契約等手数料を算出基準の対象から除外した趣旨は、支部に対する援助協力費的な性質を有する組合事業運営協力費と契約業務委託の対価たる性質を有する契約等手数料とは性質を異にすることから別の基準によって算出することにあったというべきである。

また、《証拠略》によると、中交協が第九四回理事会、第一〇〇回理事会においてそれぞれ議決した「昭和六〇年度業務委託費(案)」及び「昭和六一年度業務委託」と題する各書面はいずれも事故受付等手数料は算出基準の定めにかかわらず算出しないと記載し、第一〇六回理事会において改正された算出基準は、契約等手数料、事故受付等手数料は算出基準の対象から除外すると記載しているにとどまること、したがって、これらすべての書面において、契約等手数料を廃止するとの文言は記載されていないことが認められ、これらの事実によっても、中交協は第一〇六回理事会決議において、契約等手数料を算出基準とは別個に算出することを前提としていたことが裏付けられる。

もっとも、中交協は第一〇六回理事会において算出基準を組合事業運営協力費の部分について変更したのみで契約等手数料について新たな基準を設けていないから、第三者に対し、中交協が以後契約等手数料を支出しない扱いとなったとの誤解を与えるおそれはある。

しかし、前記のような必要性に基づく業務委託制度の存在を前提にした場合、これに対し適正な対価を支払うのは当然であり、他方、従前、契約等手数料の支出が変更前の算出基準において特に問題とされていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、中交協が契約等手数料についての新たな基準を設けなかったからといって、このことから直ちにこれを支出しない旨を定めたとまでいうことはできない。

右によれば、中交協が第一〇六回理事会において算出基準から契約等手数料を除外したことをもって、直ちに中交協が契約等手数料の支出を止め、支部又は取扱団体に対する契約業務の委託を廃止したということはできず、この点についても原告らの主張を採用することはできない。

(四) 中協法三八条違反の主張について検討する。

中協法三八条の規定する理事の自己契約は、理事が自ら当事者として、又は他人の代理人若しくは代表者として、組合と取引することをいうと解するべきである。

本件において被告らは東部貨物協及び東三貨物協の代表者として中交協と本件業務委託契約を締結、更新しているのであるから、本件業務委託契約は理事の自己契約に当たる。

もっとも、債務の履行等性質上裁量により会社に不利益を及ぼすおそれがないと判断される行為については理事会の承認を要しないと解される。しかし、本件業務委託契約は有償双務契約であるから、契約等手数料が不当に高く設定された場合には中交協が不利益を被るおそれがあるのであって、東部貨物協及び東三貨物協が、後に判断するように結果において本件業務委託契約により利益を得ていなかったとしても、このことのみをもって直ちに本件業務委託契約が理事会の承認を要する理事の自己契約に当たらないということはできない。

そして、中交協は昭和六〇年の第九四回理事会において支部に対する業務委託を例外的に認めたにすぎず、本件業務委託契約は同理事会の議題の対象となっていなかったのであるから、前記のとおり、客観的にその必要性はあったとはいえ、同理事会が昭和六二年度からの中交協と東部貨物協及び東三貨物協との間の本件業務委託契約を事前かつ包括的に承認していたとまでいうことはできない。

また、中交協は、平成五年の第一三八回理事会決議において特別調査会の報告を承認しているが、右報告は右認定と異なり、本件業務委託契約は理事の自己取引に当たらないものと判断し、その結果中協法三八条に抵触しないとしたにすぎないから、この事実のみをもって、同理事会が本件業務委託契約を明示的に事後承認ないし追認したということもできない。

しかし、前記認定の事実及び《証拠略》によると、昭和六二年以前の業務委託制度において、中交協は形式的に支部を契約業務の委託先としていたにすぎず実質的な委託先は一貫して東部貨物協及び東三貨物協を含む再委託先の団体であったこと、東部貨物協及び東三貨物協は契約業務に熟練していたほか、本件業務委託契約に基づく契約手数料は共済掛金の六パーセント以下であり一般損害保険の代理店の手数料が一〇数パーセントであるのに比べて低額であるといえ、その算出方法も昭和六二年の変更前の算出基準に基づく機械的なものであったこと、中交協が東三地域において事務所を開設することは人員の確保及び採算面で困難であったこと等が認められ、これらの事実に照らすと、東部貨物協及び東三貨物協に対する業務委託が中交協にとって有利であったことは明らかである。そして、前記認定の事実によると、以上の経緯を踏まえて中交協は平成五年の第一三八回理事会において本件業務委託契約について問題はないとの特別調査会報告を承認したものと考えられること、《証拠略》によると、中交協は損益計算書の事業損益の科目として業務委託費の中に本件業務委託契約に基づいて東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った手数料を算入しこれを昭和六二年度以降の理事会において支部に対する業務委託費と一括して業務委託費名目で決算の承認を受けていたことが認められること、これらの諸事情を総合すると、中交協の理事会は昭和六二年度以降、本件業務委託契約の締結、更新を黙示的に事後承認ないし追認していたということができる。

したがって、本件業務委託契約の締結、更新は中協法三八条に違反せず適法であって、原告の主張には理由がない。

なお、前記のとおり、東部貨物協、東三貨物協は五協、新和商事に業務を委託する際、相当割合分(五パーセントないし二〇パーセント)を取得していたことが認められる。しかし、前記認定のとおり、東部貨物協、東三貨物協と五協、新和商事とは実質的に一体で後者は前者の一部門にすぎないと認められるのであるから、右のような扱いは結局、両者の会計処理上のものと考えられ、実質的には東部貨物協、東三貨物協に前記手数料を支払うことの可否を問題とすれば足りるものである。

(五) なお、保険募集の取締に関する法律違反の有無について検討するに、中交協の行う共済事業については、中協法、保険募集の取締に関する法律のいずれにも中交協の行う共済事業に保険募集の取締に関する法律を準用する旨の規定はなく、類推適用を推認させる規定も存しない(中部運輸局長に対する調査嘱託の結果も同旨である。)。

したがって、中交協の行う共済事業に、保険募集の取締に関する法律を準用ないし類推適用し、直ちに違法であるとすることはできず、この点について原告らの主張も失当である。

また、《証拠略》によると、共済契約対象車両の募集、契約業務の他の法人又は個人に対する委託は原則として認めないとの趣旨の運輸省自動車局業務部貨物課長の通達(事務連絡)(昭和四八年一二月二七日付け自貨第二九八号の二、昭和五〇年七月二三日付け自貨第七四号の二)があることが認められるが、右は保険募集の取締に関する法律に基づき発せられたものではなく(前記調査嘱託の結果)、また右通達は、「原則として」の禁止を定めるものであり、本件のように委託の必要性、相当性が認められる事例についてまで禁止するものとは考えられないから、一般に通達は行政庁の内部規定にすぎないことも考え併せると、本件をもって右通達違反と認めることもできない。

3 以上によると、中交協と東部貨物協及び東三貨物協との間の本件業務委託契約の締結、更新は適法であるというべきであり、原告らの主張はこれを認めるに足りない。

二  争点2(中交協の損害額)について

右争点1についての判断によれば、原告の本件請求は、その根拠となる損害賠償請求権自体が認められないことから、その理由がないことは明らかであるが、当事者双方の主張及び審理の経過にかんがみ、争点2についても、念のために判断する。

1 前記争いのない事実及び《証拠略》によれば次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 中交協が本件業務委託契約に基づいて東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った昭和六二年度以降平成五年度に至るまでの契約等手数料は、各年度当たり、最低額が昭和六二年度の九二四万三八〇〇円であり、最高額が平成三年度の一四八二万七〇七〇円である。

また、仮に本件業務委託契約が平成六年度も存続したとして、その場合に中交協が東部貨物協及び東三貨物協に対し支払ったであろう手数料は、一二七六万五六九〇円である。

(二) 中交協が豊橋事務所の開設に要した費用は五九九万二七〇七円であり、このほかに豊橋事務所の維持運営に要した費用は、平成六年度が二二二四万六〇一四円、平成七年度が四七三九万三八七三円である。

ところで豊橋事務所の担当する組合事業の普及宣伝業務、組合加入及び契約勧奨業務、共済契約業務分の費用は平成六年度においては右豊橋事務所の維持運営費用額に一致する。しかし、平成七年度は右豊橋事務所の維持運営費用のうちに事故処理業務分の費用が二三五一万一〇八〇円あったことから、二三八八万二七九三円であった。

そして、豊橋事務所の平成六年度及び平成七年度の組合事業の普及宣伝業務、組合加入及び契約勧奨業務、共済契約業務分の費用に、平成五年度末から平成七年度末にかけての東三地域内における東部貨物協及び東三貨物協の契約組合員数比(約七一パーセント)、契約数比(約七八パーセント)、共済掛金比(約七四パーセント)を乗じて算出すると、豊橋事務所の維持運営費用のうち、従前東部貨物協及び東三貨物協が担当していた業務相当分の費用は、平成六年度が約一五八六万円から約一七三七万円の間、平成七年度が約一七一七万円から約一八四六万円の間となったものと推認される。

(三) 中交協が契約等手数料のほか昭和六二年度以降平成五年度まで事故防止活動等につき東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った業務協力費の合計は、各年度当たり、最低額が平成三年度の約一六一万円、最高額が平成五年度の約一七六万円である。

(四) 豊橋事務所の収入につき、平成六年度は東三地域内の四組合が共済契約に新規加入(計二八二九万二五九〇円)し、東部貨物協及び東三貨物協分の共済掛金は三億七〇六一万二五〇七円となり、東部貨物協及び東三貨物協が共済契約業務を行っていた平成五年度の三億五〇五三万四〇一六円から約二〇〇〇万円増加しているが、その大部分は従前から加入していた組合員の掛金収入に変化があったことによるものであって、豊橋事務所開設の効果といえるのは、豊橋事務所職員が勧誘した新規許可事業者である株式会社精章物流の共済掛金一二三万八七六〇円のみである。

2(一) 右事実に基づき、本件の損害額につき判断するが、前記のとおり、本件につき保険募集の取締に関する法律等の違反の事実が認められない以上、中交協が、東部貨物協、東三貨物協に支払った手数料等全額が損害であるとすることはできない。

そこで中交協が東部貨物協、東三貨物協に委託した場合と自らこれをした場合との損益の比較をすることになるが、まず収入については、前記一認定事実のとおり東部貨物協及び東三貨物協は契約業務に豊富な経験と実績を持っており、地理的条件に劣り、契約者とのつながりを有する職員を持たない中交協が直接に取り扱うよりも効率的な業務運営が可能であったことが認められ、これによれば、東部貨物協及び東三貨物協が本件業務委託契約に基づいて共済契約業務を行ったことにより中交協が得た財産的利益(共済掛金収入)は、中交協が東部貨物協及び東三貨物協担当分の共済契約業務を直接取扱処理した場合に中交協が得べかりし財産的利益(共済掛金収入)を上回ることが推認される。

したがって、仮に中交協が本件業務委託契約によって得た財産的利益を最小限に見積もっても、中交協が直接取扱いをした場合に得べかりし財産的利益と同額となる。

(二) 次に、右1の認定事実によれば、昭和六二年度から平成五年度までに中交協が本件業務委託契約に基づき東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った契約等手数料が約九二四万円から約一四八二万円の範囲内であり、仮に平成六年度も本件業務委託契約が存続していた場合に中交協が東部貨物協及び東三貨物協に対し支払ったであろう契約等手数料が約一二七六万円であること、これに対し、平成六年度から七年度の豊橋事務所の運営費用のうち中交協が東部貨物協及び東三貨物協に委託していた業務に要した分相当の費用は約一五八六万円から約一八四六万円であることが認められ、右各事実からは昭和六二年度から平成五年度までの各年度においても、中交協が東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った契約等手数料よりも本件業務委託契約の期間中に東三地域において中交協が仮に委託業務を直接取り扱ったとした場合に要したであろう費用が超過することが推認できる。

もっとも、前記のとおり、豊橋事務所は契約業務以外の組合事業の普及宣伝、組合加入及び契約勧奨業務も行っており、これら業務に要した費用が豊橋事務所の維持運営費用額には含まれるから、右維持運営費用額をもって直ちに契約業務分の費用額と認めることは相当でないといえる。

しかし、《証拠略》によると、豊橋事務所の主たる業務は契約業務であり、組合事業の普及宣伝業務、組合加入及び契約勧奨業務は従たるものにすぎず特にこれらを行うための費用が必要となるものではないことが認められるから、これら業務に要した豊橋事務所の維持運営費用と中交協が東部貨物協及び東三貨物協に対し支払った契約手数料とを比較することに支障はない。

(三) これらによると、中交協の損害額はこれを認めるに足りないということができる。

もっとも、前記認定のとおり、中交協は東部貨物協及び東三貨物協に対し契約手数料とは別に事故防止活動費の趣旨で業務協力費を支払っている(右業務協力費は原告らの本件請求外の支出である。)。そして、前記認定の事実及び《証拠略》によると、中交協は東三支部に対し事故防止活動費を組合事業運営協力費の性質をもつ業務委託費の一部として支払っていること、中交協は東三地域の事故防止活動を本部において行っていたことが認められ、これらの事実に照らすと、右業務協力費は本件業務委託契約の対価とみることができる。

しかし、前記認定のとおり、右業務協力費は、約一六〇万円から約一八〇万円程度にとどまり、これを契約等手数料に加えても東三地域において中交協が委託業務を直接取り扱った場合に要したであろう費用を上回ることはないものと認められる。

したがって、本件業務委託契約の締結、更新によって中交協が損害を被ったということはできない。

3 これに対し、原告らは、地理的条件において東部貨物協及び東三貨物協の担当業務が中交協本部の直扱いにより難いことはなく直接取引が可能であったとして支払手数料自体が損害となる旨主張する。しかし、この場合には中交協本部の直扱いによる費用と中交協が東部貨物協、東三貨物協に委託したときの費用の比較が必要となるが、前者が後者を下回るとの立証はない。したがって、原告らの右主張も失当である。

三  結論

以上によれば、本件業務委託契約は適法であって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北沢章功 裁判官 堀内照美 裁判官 中辻雄一朗)

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