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名古屋地方裁判所 平成6年(行ウ)7号 判決 1997年3月28日

名古屋市千種区千代田町瓶杁二二番一一八号

原告

早川東助

右訴訟代理弁護士

佐藤浩史

名古屋市西区押切二丁目七番二一号

被告

名古屋西税務署長 横井毅

右指定代理人

堀悟

同右

太田尚男

同右

片桐教夫

東京都千代田区霞ケ関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長 小田泰機

右指定代理人

奥野武

同右

河村正

被告両名指定代理人

番場忠博

同右

河瀬由美子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告名古屋西税務署長が平成三年九月二五日付けで原告の平成元年分の所得税についてした更正のうち総所得金額五四一八万〇九〇七円、納付すべき税額一八〇一万七〇〇〇円を超える部分及び過小申告加算税の賦課決定のうち過小申告加算税の額一七四万八五〇〇円を超える部分を取り消す。

二  被告国税不服審判所長が平成六年一月一八日付けで原告の平成元年分の所得税の更正及び過小申告加算税の賦課決定に対する審査請求についてした棄却裁決を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1(一)  原告の父早川清一(以下「清一」という。)は、早川商店の商号で鋼材の卸販売業をしていたが、昭和五三年一月三一日に死亡し、その相続人は、妻壽満子、長女博子、長男東助(原告)、二男宗助、二女恵美子、三女智子、四女道子であった。

(二)  清一の死亡当時、原告及び宗助は、早川商店の従業員として勤務していたが、清一の死亡後は、取引や税金の申告との関係では、原告が早川商店の経営者となり、宗助は、その従業員という立場となった。

(三)  原告及び宗助は、早川商店を法人化するため、昭和六三年一月五日、株式会社ハヤカワカンパニー(事業年度は、四月一日から翌年の三月三一日。以下「ハヤカワカンパニー」という。)を設立した上、共に、その代表取締役となり、同年四月一日からハヤカワカンパニーとして営業活動を行った。

(四)  その後、早川商店は、ハヤカワカンパニーから、別表2記載のとおり合計四億八四四六万八四五〇円(以下「本件受取金」という。)の送金を受け、それによって早川商店振出しの約束手形等の支払をした。

2(一)  別紙株式目録記載(一)の株式(以下「本件株式(一)という。)及び同目録記載(二)の株式(以下「本件株式(二)」という。)は、清一の遺産に含まれていた株式である。

同目録記載(三)の株式持分(以下「本件株式持分」という。)は、豊和工業株式会社(以下「豊和工業」という。)の持株会が保有している株式のうち早川商店の出資持分に相当するものであって、昭和五九年三月二六日から昭和六三年三月二二日まで早川商店が出資して取得したものである。

(二)  ハヤカワカンパニーは、その帳簿上、原告から、平成元年二月二八日に本件株式(一)を二億六四〇八万六〇三一円で、同年三月三一日に本件株式(二)を二億九四一九万八〇八〇円で、本件株式持分を五六九万四一七七円で譲り受けた旨の処理をした。

そして、平成元年三月三一日の時点において、本件受取金四億八四六六万八四五〇円については、早川商店に対する債権として計上しなかった。

3(一)  原告は、平成元年分の所得税について確定申告及び修正申告をした。

これに対し、被告名古屋西税務署長は、右修正申告に対して更正(以下「本件更正」という。)及び過小申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をし、右更正及び賦課決定に対する異議申立てに対して棄却決定(以下「本件異議決定」という。)した。

また、被告国税不服審査所長は、右更正及び賦課決定に対する審査請求についてした棄却裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

右の経緯は、別紙「課税の経緯」記載のとおりである。

(二)  本件更正及び本件賦課決定は、右2(二)のとおり本件株式(一)(二)及び本件株式持分(以下、これらを「本件株式等」という。)を譲渡したことにより原告に譲渡所得があったとの前提の下にされたものであり、右の前提の下では、原告の係争年分の所得税の総所得金額等は、別紙「総所得金額等の算出根拠」の記載のとおりとなる。

4  清一の遺産に関する処理の経緯は、次のとおりである。

(一) 清一の保有していた株式は、東海銀行名古屋駅前支店の貸金庫に入れられていたが、原告と宗助は、相続開始直後、他の相続人の同意を得た上、保管者名義を原告と宗助に変更した。

(二) 清一の相続人らは、昭和五三年七月二二日、清一の妻壽満子の取得する遺産について遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)を作成し、同年七月三一日、これに基き相続税の申告をした。

(三) 本件遺産分割協議書には、壽満子の取得する財産として、建物(別紙1記載の1ないし4の物件)、株式、預金などが含まれていた。

(四) しかし、その後、右建物を含め、清一の遺産に属した不動産については、別表1記載(同表に早川東助ほか5名とあるのは、清一のその余の子五名である。)のとおり相続を原因として所有権移転登記がされた。

また、本件遺産分割協議書において、壽満子が取得するものとされた東海銀行株式六万八七一二株は、昭和五三年一二月三〇日と昭和五四年一月八日に、清一の子六人とその子供等に名義変更がされた。

(五) (一)の貸金庫には、清一名義の日本鋼管株式会社の株式五三万〇三〇三株が保管されていたが、昭和五五年九月三〇日、そのうち二七万〇三〇三株(本件株式(一))については原告に、二六万株については宗助に、それぞれ名義変更され、同年一二月四日、共に、早川商店の取引先である株式会社吾孀製鋼所(現在のトーアスチール株式会社。以下「トーアスチール」という。)に取引上の債務の担保として交付され、以後、同社において保管している。

また、本件株式(二)も清一が保有し、右貸金庫に保管されていた株式であり、相続開始後、株式配当があったため株数は増加しているが、清一名義のまま、右貸金庫に保管されている。

二  争点

1  原告の主張

(一) 本件株式(一)(二)は、いずれも清一の遺産に属する株式であって、これらについては、未だ遺産分割はされていない。

したがって、これらは、清一の子六人の共有に属するものであって、原告において同一銘柄の株式を一二万株以上譲渡したことにはならないから、その譲渡所得は、非課税所得である。

(二) 清一の死後、早川商店は、原告及び宗助が共同経営してきたものであって、その事業用の資産及び負債は、相続人全員に属するものである。

したがって、早川商店が取得した本件株式持分は、相続人全員の共有に属する。

また、仮に、実際に経営を行ってきた者に属するとする場合には、原告及び宗助の共有ということになる。

(三) 本件受取金は、早川商店の営業をハヤカワカンパニーに譲渡したことに伴い、本来、ハヤカワカンパニーにおいて自己の債務として支払うべき早川商店振出しの約束手形等について、便宜上、早川商店の口座において決済をしたことから、その決済資金として早川商店の預金口座に送金されたものであって、ハヤカワカンパニーからの借入金ではない。

したがって、原告は、本件株式等をもって、自己のハヤカワカンパニーに対する債務について代物弁済をしたことも、その譲渡代金と個人債務とを相殺したこともない。

また、ハヤカワカンパニーは、その経理上の処理においても、本件株式等の譲渡代金を計上したり、譲渡代金債権と原告に対する貸金債権とを相殺する処理をしたことはない。

したがって、原告が本件株式等の譲渡により利益を受けたことはない。

(四)(1) 本件株式等については、ハヤカワカンパニーに対してその株券の交付がされていないから、譲渡としての効力は、生じていない。

(2) また、豊和工業持株会の持株会規約においては、持分は、他への譲渡・質入が禁止されている。

したがって、本件株式持分については、譲渡の効力が生じていない。

(五) 本件異議決定は、本件株式(一)(二)が遺産分割未了であり、清一の六人の子の共有であることを前提として、その譲渡による経済的利益が原告のみに帰属することを理由としているが、本件裁決は、本件株式(一)(二)が原告に遺産分割されており、原告の単独所有であることを理由としている。このように、本件裁決は、本件異議決定の理由と異なる理由に基づいてされたものであるから、違法である。

(六) よって、原告は、本件更正のうち総所得金額五四一八万〇九〇七円、納付すべき税額一八〇一万七〇〇〇円を超える部分及び本件賦課決定のうち過小申告加算税の額一七四万八五〇〇円を超える部分の取消しを求めるとともに、本件裁決の取消しを求める。

2  被告の主張

(一)(1) 清一の相続人らは、相続開始後、原告において早川商店として清一の事業を承継すること、原告が自己の判断により事業のために必要な財産と認めたものについては、原告が単独所有することを認めること、その他の財産については、原告の判断に基づいて分割することを合意した。

したがって、原告が本件株式(一)を自己名義にし、あるいは、本件株式(二)をハヤカワカンパニーに譲渡することを決定した時点では、これらを原告が単独承継したものといえる。

(2) 右(1)の合意がないとしても、清一の遺産に含まれていた不動産、東海銀行株式について遺産分割が完了した昭和五四年一〇月ころ、相続人間において、本件株式(一)(二)を原告の単独所有とする旨の遺産分割の合意が成立した。

(3) したがって、本件株式(一)(二)がハヤカワカンパニーに譲渡された時には、これらの株式は原告に帰属していた。

(4) 清一の死後、早川商店は、原告が承継し、自己の名で経営を行っていたのであるから、早川商店が取得した本件株式持分は、原告が単独で保有していたことになる。

(二)(1) 原告は、本件株式(一)をハヤカワカンパニーに譲渡したところ、トーアスチールに対し指図をして、ハヤカワカンパニーに、その占有を移転した。

(2) 本件株式(二)は、ハヤカワカンパニーの代表者である原告及び宗助が原告及び宗助の共同名義の貸金庫において保管していたものであり、ハヤカワカンパニーが平成三月三一日の時点において本件株式(二)を保有している旨の会計処理をしていることからして、ハヤカワカンパニーに占有の移転があったといえる。

(3) 本件株式持分については、平成元年一月二〇日現在の会員別持分明細簿において、名義が「早川商店」から「ハヤカワカンパニー」に変更されているから、その時点までに、原告において指図による占有移転を行ったものといえる。

(三)(1) ハヤカワカンパニーは、昭和六三年四月一日から、平成元年三月三一日までの間に、原告から、合計四億〇三九〇万三九六八円の資産を譲り受け、また、合計四億六四五四万七二五四円の債務を引き受けた。

したがって、差引き、ハヤカワカンパニーが原告に対し、六〇六四万三二八六円の債権を有していたことになる。

(2) 本件受取金四億八四四六万八四五〇円は、原告が自己(早川商店)振出しの約束手形の支払のためにハヤカワカンパニーから借り受けたものである。

(3) 原告は、ハヤカワカンパニーに対し、本件株式等を合計五億六三九七万八二八九円で譲渡し、他に有価証券を合計一億三九一八万七二四七円で譲渡した。

(4) そして、(1)の差引き金及び本件借入金相当額については、諾成的代物弁済に充て、余剰分である一億五八〇五万三八〇〇円については、原告のハヤカワカンパニーに対する未払金債権として残存している。

右未払金債権については、ハヤカワカンパニーの帳簿と原告の帳簿との双方に平成元年三月三一日付けで計上されている。

(5) 右の処理は、諾成的代物弁済といえないとすれば、相殺処理に当たる

(6) なお、仮に本件株式等が贈与されたものであるとすれば、所得税法五九条一項一号の規定により、原告に右譲渡代金相当額の所得があったことになる。

(7) したがって、いずれにしても、本件株式等の譲渡により、平成元年中に原告に右譲渡代金相当の経済的利益が生じたことになる。

(四) 豊和工業の持分会規約において会員の持分の譲渡等が禁止されているとしても、右持株会は、取引先を会員とするものであるから、個人である会員に代わり、その個人が代表取締役である会社が取引先となる場合には、その個人から会社への持分の譲渡が禁止されているとすることはできない。

(五) 本件異議決定は、本件株式(一)(二)の保有関係について明確に述べておらず、本件株式が原告ら六名の共有であることを前提としているとはいえないから、本件裁決は、本件異議決定と異なる理由に基づいてされたとはいえない。

(六) したがって、本件更正及びこれを前提とする本件賦課決定並びに本件裁決に、違法はない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四争点に対する裁判所の判断

一  遺産分割について

1  証拠(甲一ないし三、一六、二六、乙一、乙二の一、二、乙一四ないし一六、証人今津博子、同早川宗助、原告本人)と弁論の全趣旨によると、清一の急死後、長男である原告が、原告の名で、遺産に属する事業用資産を用い、かつ事業により生じた清一の債務を弁済しながら、早川商店の事業を継続したこと、相続人の間でそのこについて異論がなかったことを認めることはできるが、そのことから、直ちに、相続人間において、遺産のうち原告が事業のために必要な財産と認めたものについては、原告の単独所有とする旨の合意が成立したとすることはできず、他に相続開始直後に相続人間に右のような合意が成立したとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。

2  次に、清一の遺産のうち、東海銀行の株式については、昭和五三年一二月三〇日と昭和五四年一月八日に、清一の子及びその子等に名義変更がされ、土地については、昭和五四年一〇月、別表1のとおり、相続を原因として、清一の子に相続登記がされている。

そして、証拠(乙二の一)によると、清一の相続税の申告書には、取得財産の価額が六億五六一〇万三七七九円、債務及び葬式費用の金額が四億八九一三万四七七三円、純資産価額が一億六六九六万九〇〇六円と記載されていること、土地の価額が合計一億三一一四万一六九五円、建物の価額が合計二四二〇万四七一四円、東海銀行の株式の価額が一六四二万二一六八円と記載されていることが認められる。

そうすると、右のように相続人に分割された不動産と東海銀行株式の価額は、清一の遺産の純資産価額にほぼ相当することになる。また、証拠(乙二の一)によると、清一の事業上の債務と事業用財産、預金及び有価証券等(東海銀行株式を除く。)とがほぼ均衡していることが認められる。

したがって、昭和五四年一〇月に、不動産の相続登記を経た時点において、清一の実質的な遺産は、その六人の子の間において実質的に分割されたものと認められる。

しかしながら、証拠(甲二六、二九ない三四、証人早川宗助、原告本人)と弁論の全趣旨によると、その他の有価証券は、原告と宗助の共同名義となっている貸金庫に依然として保管されていたこと、その配当金は、原告名義の預金口座に振り込まれ、原告において自己の所得として課税の申告をしていたが、宗助において預金口座の印鑑を所持し、配当金の管理に関与していたことが認められる。そして、昭和五五年九月三〇日に、日本鋼管の株式五三万〇三〇三株をほぼ二等分した上、原告に二七万〇三〇三株、宗助に二六万株の名義変更をしている。そうすると、右に判示したように、昭和五四年一〇月までに、分割の対象とならなかった有価証券については原告において取得すべき旨の遺産分割の合意が成立したとまで認めていることはできない。

もっとも、証拠(甲二六、乙一四ないし一六、証人今津博子、同早川宗助、原告本人)と弁論の全趣旨によると、有価証券は、通常、遺産分割に適する財産であるにもかかわらず、昭和五四年一〇月以降、原告、宗助以外の相続人から、その遺産分割を求めることはなかったこと、原告及び宗助においても遺産として分割しようとしなかったこと、日本鋼管の株式については、原告と宗助のみが相談した上、二人に名義変更し、トーアスチールに担保として提供していること、本件株式(一)(二)についても、原告と宗助のみでハヤカワカンパニーに譲渡することを決定したことが認められるので、清一の相続人らは、残存する遺産については、原告及び宗助において早川商店の事業遂行のために処分をする等して利用することを承認していたものと推認できる。

二  本件株式等の譲渡と原告の経済的利益について

1  証拠(乙二三)と弁論の全趣旨によると、ハヤカワカンパニーは、昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの間に、原告から、合計四億〇三九〇万三九六八円の資産を譲り受け、また、六九〇万三九六八円の資産を譲り受け、また、合計四億六四五四万七二五四円の債務を引き受けたことが認められる。したがって、差引き、ハヤカワカンパニーが原告に対し、六〇六四万三二八六円の出超であったことになる。そうすると、原告の主張するように、本件受取金四億八四四六万八四五〇円が、本来、ハヤカワカンパニーにおいて支払うべき原告振出しの約束手形の決済資金として送金されたものである場合には、ハヤカワカンパニーの合計五億四五一一万一七三六円の出超となる。そして、その場合には、早川商店の営業権といった無形の財産的価値を認め、それを控除しても、本件においては、営業譲渡により原告に数億円の利益が生じたことになるものと認められるが、原告がそのような前提の下に所得税の申告をしたことを認めるに足りる証拠はない。

むしろ、証拠(甲一九、乙二二、二三、二六)によると、ハヤカワカンパニーでは早川勘定を設けて、一年以上にわたって原告との債権債務を記帳している上、原告が昭和六三年分の所得税の確定申告書に添付した資産負債調べにおいては、期首に四億二七一七万三九一三円の支払手形があったが期末にはなくなった旨記載するとともに、ハヤカワ勘定として、期首になかった四億四七二〇万円の債務が期末に存在する旨記載していること認められる。

そして、証拠(乙二三)と弁論の全趣旨によると、ハヤカワカンパニーの早川勘定には、平成元年二月二八日付けで、本件株式(一)を二億六四〇八万六〇三一円で、同年三月三一日付けで、本県株式(二)を二億九四一九万八〇八〇円、本件株式持分を五六九万四一四七円、その他の有価証券を合計一億三九一八万七二四七円で譲り受けた旨記載されていること、さらに、前示の六〇六四万三二八六円及び本件受取金をも差引き計算した後に、同日の未払金として一億五八〇五万三八〇〇円と電話加入権の未払金五五万七四四〇円とを計上していることが認められる。また、証拠(乙三七)と弁論の全趣旨によると、原告も、原告個人の総勘定元帳に、平成元年三月三一日付けでハヤカワ勘定として、右未払金の合計金額に相当する一億五八六一万一二四〇円の未収入金がある旨計上していることが認められる。

そうすると、本件株式等については、その他の有価証券とともに右帳簿記載の価額で売買された後、原告とハヤカワカンパニーの合意の下、平成元年三月三一日付けをもって、本件受取金の返金債務等と相殺処理され、その結果、原告のハヤカワカンパニーに対する未収入金として一億五八六一万一二四〇円の債権が残存しているものと認めるのが相当である。

2  ところで、株式については、売買契約が成立しても、株券の交付がなければ株式移転の効果は生じないところ、本件株式(二)については、原告と宗助が共同して管理している貸金庫に保管されていること、原告及び宗助がハヤカワカンパニーの代表取締役であること、ハヤカワカンパニーが右のとおり、代金の相殺処理をしていることからして、相殺処理後は、原告において、ハヤカワカンパニーの代表者としての立場で占有しているものと認めることができる。

また、本件株式持分(乙三三によると、会員は、株式の持分を有するものと認められる。)については、証拠(乙三三)によると、ハヤカワカンパニー設立後である平成元年一月二〇日までに、原告(早川商店)からハヤカワカンパニーへの名義変更の届出がされ、会員持分名簿が変更されたことが認められる(名簿の変更が認められている以上、譲渡について承認があったものと認められる。)したがって、本件株式持分については、株券の交付があったといえる。

しかし、本件株式(一)については、担保権者として直接占有しているトーアスチールに対し、占有移転の指図がされたことを認めるに足りる証拠はない。

3  一2において判示したとおり、清一の相続人は、原告及び宗助に対し、早川商店の事業のために本件株式(一)(二)を処分することを認めていたのであるから、原告は、本件株式(一)(二)を処分する権限を有していたものである。

また、本件株式持分については、原告が自己の名で事業を行っていた早川商店が取得したものであるから、原告に帰属していたものである。

そして、前示のとおり、原告は、自己の名でハヤカワカンパニーに本件株式等を売り渡し、その譲渡代金債権によって自己が負担している債務との相殺を受けることにより、相殺額に相当する経済的利益を受け、また、前示のとおり、原告とハヤカワカンパニーの双方において原告が未収入債権を有するものと確定して経理処理をしている。

そうすると、本件株式(一)については、株券の交付があったとはいえないので、ハヤカワカンパニーに株式の移転があったとはいえないが、原告はハヤカワカンパニーの代表者であって、その占有の移転は、原告において随時行うことができる状態にあるから、原告は、平成元年中に本件株式等の譲渡代金との相殺処理により相殺額相当の経済的利益を受け、また、確定的に右未収入債権を有することになったといえる。

したがって、原告には、平成元年中に本件株式等の譲渡代金額に相当する所得があったことになる。

三  本件裁決の違法性について

証拠(甲二、三)によると、本件異議決定と本件裁決は、いずれも本件株式等の譲渡により原告の譲渡所得が生じたとするものであり、また、本件異議決定は、本件株式(一)(二)の保有関係について明確に述べておらず、本件株式(一)(二)が原告ら六名の共有であることを前提としているとはいえないから、本件裁決は、本件異議決定と異なる理由に基づいてされたとはいえない。

よって、本件裁決には、これを取り消すべき違法があるとはいえない。

第五総括

以上判示したところによると、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 岩松浩之)

(別紙)

株式目録

(一) 日本鋼管株式会社の株式 二七万〇三〇三株(原告名義)

(二) 豊和工業株式会社の株式 三三万四三一六株(早川清一名義)

(三) 豊和工業株式会社の株式持分 七六八四・四五一株相当分(豊和工業株式会社持株名義)

(別紙)

総所得金額等の算出根拠

1 原告の平成元年分の所得税に係る総所得金額は、次のとおりである。

((一)ないし(五)の金額については、原告の修正申告額と同額である。)

(一) 配当所得の金額 五一一万一六一〇円

(二) 不動産所得の金額 八八一万三四〇〇円

(三) 事業所得の金額 一一四万五七六二円

(四) 給与所得の金額 一二七二万〇七八七円

(五) 雑所得の金額 一五万二一七〇円

(六) 総合課税の譲渡所得の金額 二億二六六五万九七〇〇円

(七) 合計 二億五四六〇万三四二九円

2 右各金額のうち争いのある(六)の金額の算出根拠は、次のとおりである。

(一) 本件株式等の譲渡に係る所得について

所得税法九条一項一一号(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの。)は、有価証券の譲渡による所得のうち同号掲記の所得以外のものについては所得税を課さないとしている。そして、所得税法施行令二七条の三(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの。)「同一銘柄の株式等を相当数譲渡したことによる所得の範囲」は、同一銘柄の株式等でその年において譲渡したものの株式又は口数の数の合計が一二万株以上である場合における当該株式又は出資の当該譲渡による所得については、非課税所得としての適用がない旨規定している。

したがって、本件においては、原告が、昭和六四年一月一日から平成元年三月三一日までの期間に譲渡した本件株式等は、いずれも同一銘柄で一二万株以上譲渡されていることになるから、有価証券の譲渡による非課税所得とはならないことになる。

(二) 長期譲渡所得の金額

本件株式(一)(二)及び本件株式持分のうち昭和五九年三月二六日までに取得した二三三・二三株相当の譲渡は、いずれも取得した日から譲渡した日までの期間が五年を超えているから、当該株式等の譲渡による所得は、長期譲渡所得(所得税法三三条三項二号に掲げる所得)となる。

(1) 収入金額……五億五八四五万六九三四円

右金額は、平成元年二月二八日に本件株式(一)、同年三月三一日に本件株式(二)及び本件株式持分の一部を譲渡した価額であり、その内訳は、本件株式(一)・二億六四〇八万六〇三一円、本件株式(二)・二億九四一九万八〇八〇円、本件株式持分の一部・一七万二八二三円)で、その合計額が五億五八四五万六九三四円となる。

(2) 取得費……一億六〇二一万六八六三円

右本件株式持分の一部の実際の取得費は、四万九〇五三円である。

本件株式(一)(二)は、清一が取得したものであり、その取得費は清一が右取得に要した費用ということになる。しかし、その取得日は、清一の相続開始日(昭和五三年一月三一日)以前であるが、実際の取得日は不明である。そこで、原告に最大限有利に解し、相続開始日前の最高価額(日本鋼管株式・昭和四八年当時二五八円、豊和工業株式・昭和二八年当時二九五円)を基にして算出した額に有価証券売買委託手数料(一株当たりの約定値段の一般利率に取得株数を乗じた価額、本件株式(一)・四五万九五一五円、本県株式(二)・五一万五五〇一円)を加算した価額とするのが相当である。右額は、本県株式(一)については、七〇一九万七六八九円、本額は、本件株式(一)については、七〇一九万七六八九円、本件株式(二)については、八九九七万〇一二一円となる(本件株式(二)の株数は三三万四三一六株であるが、それと相続時の株式数との差三万一〇八〇株は、昭和五六年四月及び昭和五七年四月の無償増資により増加した株数である)。

(3) 譲渡費用……三〇七万一五一二円

右金額は、原告とハヤカワカンパニーとの相対取引である本件株式等の譲渡に係る別途納税義務のある有価証券取引税(譲渡代金の〇・五五パーセントを乗じた金額)の合計金額である(内訳・本件株式(一)・一四五万二四七三円、本件株式(二)及び本件株式持分の一部・一六一万九〇三九円)

(4) 右株式譲渡以外の譲渡に係る長期譲渡所得の金額は、原告の修正申告額五二四七万六四三五七円に所得税法三三条五項の規定により、同条三項一号に掲げる所得(以下「短期譲渡所得」という。)から控除されるべき特別控除額五〇万円を加算した五二九七万四三五七円である。

(5) 長期譲渡所得の金額は、前記(1)の金額から(2)及び(3)の金額を控除し、(4)の金額を加算した四億四八一四万二九一六円である。

(三) 本件株式持分の譲渡に係る短期譲渡所得の金額

(1) 収入金額……五五二万一三五四円

右金額は、平成元年三月三一日に譲渡した本件株式持分の一部(右(二)に記載したものを控除した残部)の譲渡代金価額である。

(2) 取得費……二四〇万二七四五円

右金額は、右株式持分の取得に要した費用である。

(3) 譲渡費用……三万〇三六七円

右金額は、前記(二)、(3)の長期譲渡所得の金額の場合の譲渡費用と同様の方法により算出した有価証券取引税の金額である。

(4) 短期譲渡所得の金額は、前記(1)の金額から(2)及び(3)の金額を控除し、さらに、特別控除額五〇万円を控除した二五八万八二四二円である。

(四) 総合課税の譲渡所得の金額(総合譲渡所得の金額)は、右(二)の(5)の長期譲渡所得の金額四億四八一四万二九一六円の二分の一に相当する金額二億二四〇七万一四五八円と(三)と(4)の二五八万八二四二円との合計金額二億二六六五万九七〇〇円となる。

3 本件更正により原告が新たに納付すべき所得税額は、九七八八万四〇〇〇円(国税通則法一一九条一項により百円未満の端数切り捨て。)であるから、同法六五条二項により、右金額に一〇〇分の一五の割合を乗じると、過少申告加算税の額は、一四六八万二〇〇〇円となる。

課税の誠意

<省略>

別表1

本件遺産分割協議書内容と所得権移転登記状況との対比

<省略>

別表2

原告のハヤカワカンパニーからの借入れ

<省略>

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