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名古屋地方裁判所 平成6年(行ウ)8号 判決 1996年6月28日

愛知県豊橋市大村町字袋小路五四番地

原告

鈴木志郎

右訴訟代理人弁護士

川崎浩二

同右

高和直司

愛知県豊橋市大国町一一一番地

被告

豊橋税務署長 服部光延

右指定代理人

中山孝雄

同右

舟元英一

同右

戸刈敏

同右

種村敏

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成三年二月二八日付けでした原告の昭和六二年分の所得税の更正のうち総所得金額五八〇万四八八二円、納付すべき税額六二万一三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

二  被告が平成三年二月二八日付けでした原告の昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額七二九万五三九三円、納付すべき税額六四万九四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

三  被告が平成三年二月二八日付けでした原告の平成元年分の所得税の更正のうち総所得金額六三五万二五二〇円、納付すべき税額三六万九四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(一)  原告は、昭和六三年三月一一日、原告の昭和六二年分の所得税につき、総所得金額を五八〇万四八八二円、納付すべき税額を六二万一三〇〇円とする確定申告をした。

(二)  被告は、平成三年二月二八日付けで、原告の昭和六二年分の所得税につき、総所得金額を一六二五万六一四三円、納付すべき税額を四三二万九〇〇〇円とする更正及び税額を五二万四〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定をした。

(三)  原告は、右更正及び過少申告加算税賦課決定に対して異議申立てをしたが、棄却され、更に審査請求をしたが、これも棄却された。

2(一)  原告は、平成元年三月一三日、原告の昭和六三年分の所得税につき、総所得金額を七二九万五三九三円、納付すべき税額を六四万九四〇〇円とする確定申告をした。

(二)  被告は、平成三年二月二八日付けで、原告の昭和六三年分の所得税につき、総所得金額を一八六〇万六三五五円、納付すべき税額を四五二万三二〇〇円とする更正及び税額を五四万八〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定をした。

(三)  原告は、右更正及び過少申告加算税賦課決定に対して異議申立てをしたところ、異議決定において、右更正のうち総所得金額一八一四万二三三八円、納付すべき税額四三三万七六〇〇円を超える部分及び右過少申告加算税賦課決定のうち税額五一万九五〇〇円を超える部分が取り消された。原告は、更に審査請求をしたが、これは棄却された。

3(一)  原告は、平成二年三月一三日、原告の平成元年分の所得税につき、総所得金額を六三五万二五二〇円、納付すべき税額を三六万九四〇〇円とする確定申告をした。

(二)  被告は、平成三年二月二八日付けで、原告の平成元年分の所得税につき、総所得金額を一八四六万〇三〇六円、納付すべき税額を四二八万二〇〇〇円とする更正及び税額を五六万一五〇〇円とする過少申告加算税賦課決定をした。

(三)  原告は、右更正及び過少申告加算税賦課決定に対して異議申立てをしたところ、異議決定において、右更正のうち総所得金額一八一九万三四五一円、納付すべき税額四一七万五二〇〇円を超える部分及び右過少申告加算税賦課決定のうち税額五四万五〇〇〇円を超える部分が取り消された。原告は、更に審査請求をしたが、これは棄却された。

4  原告は、肩書地において、大葉栽培業を営んでいる。

二  争点(原告の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分の各所得金額)についての当事者の主張

1  被告の主張

(一) 推計課税の必要性について

(1) 被告は、原告の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分(以下「本件係争各年分」という。)の各所得金額を確認するため、次のとおり被告所部の調査担当職員(以下「被告係官」という。)を原告方に赴かせるなどして調査したが、原告は、次のとおり調査に非協力的であった。

ア 被告係官は、平成二年一〇月九日、原告方に調査に赴いた。その際、原告は、「勝手に調べてくれ。」、「見せるものは何もない。」、「更正を打たれりゃ異議を出す。」などと述べるのみで、終始被告係官の調査に協力しようとしなかった。

イ 被告係官は、同月一三日、原告に対し、電話で面接調査の要請を行ったが、原告は、「会ってもしょうがない。どうしてもというのなら、忙しいので、来月半ばまで待ってくれ。」というのみで、具体的な会う日時を約束しなかった。

ウ 被告係官は、同年一一月一四日、原告に対し、電話で面接調査の要請を行ったが、原告は、「税理士に頼んでいるが、聞いたら年内は忙しくて揃わんそうだ。」、「私の所得は出しすぎなんだ。最後まで闘い抜くからな。」などと述べて、被告係官の調査に協力しようとしなかった。

(2) 右(1)のとおり、原告は、被告係官の調査に協力しよとせず、帳簿書類を提示しなかったし、また、そもそも、原告は、大葉栽培業に関して帳簿を作成していなかった。したがって、被告は推計による課税を行う必要性があった。

(二) 課税処分の根拠について

(1) 事業所得金額

ア 原告の本件係争各年分における事業所得に係る収入金額は、次のとおりであり、その内訳は、別表二のとおりである。

昭和六二年分 三九七四万七八四五円

昭和六三年分 四一二五万九四一三円

平成元年分 四一三三万三六四三円

イ 原告の本件係争各年分における事業所得に係る一般経費、人件費及び外注費(以下「一般経費等」という。)の額は、次のとおりである。この額は、推計によって算出したもので、その算出方法は、後記(三)のとおりである。

昭和六二年分 二二四二万五七三四円

昭和六三年分 二四三一万〇〇四六円

平成元年分 二二八六万五七七一円

ウ 原告の本件係争各年分における事業所得に係る建物の減価償却費の額は、次のとおりであり、その内訳は、別表四のとおりである。

昭和六二年分 二八六万四一三〇円

昭和六三年分 二八八万九七四二円

平成元年分 二九一万一〇五四円

エ 原告の本件係争各年分における事業所得に係る借入金の利息支払額は、次のとおりであり、その内訳は、別表五のとおりである。

昭和六二年分 二三九万二九四六円

昭和六三年分 一七五万〇七一三円

平成元年分 一四六万二九三三円

オ 原告の本件係争各年分における事業専従者控除の金額は、次のとおりである。

昭和六二年分 一五〇万円

昭和六三年分 六〇万円

平成元年分 八〇万円

カ 原告の本件係争各年分における事業所得金額は、右アの金額からイないしオの金額を差し引いた次の各金額となる。

昭和六二年分 一〇五六万五〇三五円

昭和六三年分 一一七〇万八九一二円

平成元年分 一三二九万三八八五円

(2) 不動産所得金額

ア 原告の本件係争各年分における不動産所得に係る収入金額は、次のとおりであり、その内訳は、別表六のとおりである。

昭和六二年分 一〇四四万九八〇〇円

昭和六三年分 一二〇四万九八〇〇円

平成元年分 一二二七万九三〇〇円

イ 原告の本件係争各年分における不動産所得に係る固定資産税及び都市計画税の額は、次のとおりである。

昭和六二年分 一一九万五三二〇円

昭和六三年分 一二三万五三四一円

平成元年分 一二七万〇六五九円

ウ 原告の本件係争各年分における不動産所得に係る損害保険料の額は、次のとおりである。

昭和六二年分 一〇万九一九四円

昭和六三年分 一一万〇七六六円

平成元年分 一一万一一六二円

エ 原告の本件係争各年分における不動産所得に係る減価償却費の額は、次のとおりであり、その内訳は別表七のとおりである。

昭和六二年分 一九〇万六八四一円

昭和六三年分 二一九万五四一五円

平成元年分 二四九万二三五〇円

オ 原告の本件係争各年分における不動産所得に係る借入金の利息支払額は、次のとおりであり、その内訳は別表八のとおりである。

昭和六二年分 一五万二三二四円

昭和六三年分 九五万二七一一円

平成元年分 一八五万六四一二円

カ 原告の本件係争各年分における不動産所得に係る雑費の額は、次のとおりである。

昭和六二年分 六〇万円(中部松下システム株式会社との賃貸借契約の更新に係る仲介料)

平成元年分 三二万二二〇〇円(大須賀知一司法書士に支払った抵当権設定費用)

キ 原告の本件係争各年分における不動産所得金額は、右アの金額からイないしカの金額を差し引いた次の各金額となる。

昭和六二年分 六四八万六一二一円

昭和六三年分 七五五万五五六七円

平成元年分 六二二万六五一七円

(3) 総所得金額

原告の本件係争各年分における総所得金額は、右(1)カの金額と(2)キの金額の合計額である次の各金額である。

昭和六二年分 一七〇五万一一五六円

昭和六三年分 一九二六万四四七九円

平成元年分 一九五二万〇四〇二円

(4) 税額

右(3)の総所得金額に基づき税額を算定すると、別表一の一ないし三のとおり、次の各金額となる。

昭和六二年分 四七一万円

昭和六三年分 四七八万六四〇〇円

平成元年分 四七〇万六〇〇〇円

(三) 推計の合理性について

(1) 被告において、原告の事業所の所在地を管轄する豊橋税務署管内において原告と同種の事業を営み青色申告書を提出している個人を、別紙「同業者の選定基準」に従って抽出した上、これらの同業者の本件係争各年分における売上げに対する一般経費等の割合の平均値を求めたところ、別表三の一ないし三のとおり、次の各割合となった。

昭和六二年分 五六・四二パーセント

昭和六三年分 五八・九二パーセント

平成元年分 五五・三二パーセント

(2) そこで、原告の本件係争各年分における事業所得に係る収入金額に右の割合の平均値を乗じて、原告の本件係争各年分における一般経費等の額を求めたところ、右(二)(1)イの各金額となった。

(3) 別紙「同業者の選定基準」は、原告と業種、業態が同一であり、事業所が近接しており、事業規模が近似する業者を選定する基準として合理性を有している。

右(1)(2)の推計は、そのような合理性を有する抽出基準に従って機械的に抽出された同業者について、売上げに対する一般経費等の割合の平均値を求め、その平均値に基づき原告の本件係争各年分における一般経費等の額を求めたのであるから、合理性がある。

(四) 課税処分の適法性について

被告が平成三年二月二八日付けでした原告の昭和六二年分、昭和六三年分、平成元年分の所得税の各更正(昭和六三年分、平成元年分の各更正は、異議決定により一部取り消された後のもの。以下「本件更正処分」という。)における所得金額及び税額は、右(二)(3)(4)の所得金額及び税額を下回るものであるから、本件更正処分は適法である。また、被告が平成三年二月二八日付けでした原告の昭和六二年分、昭和六三年分、平成元年分の所得税の過少申告を理由とする過少申告加算税賦課決定(昭和六三年分、平成元年分の所得税の過少申告を理由とする過少申告加算税賦課決定は、異議決定により一部取り消された後のもの。以下「本件賦課決定」という。)も適法である。

2  原告の主張

(一) 推計の必要性等について

(1) 本件更正処分及び本件賦課決定に至るまでの事実関係は、次のとおりである。

ア 平成二年一〇月中旬ころ、被告係官が事前の通知もなく突然原告方に来て、「昭和六二年からの帳簿を見せてもらいたい。」と言ったので、原告は、「突然来てそんなことを言われても困る。今は娘の結婚の準備と父親の病気の看病で時間が取れないので、一二月上旬まで待ってくれ。」と述べた。被告係官は、それでも帳簿を見せるよう求めたが、原告が、「私は、ここで生まれ育った者で、これからもずっとここで生活していきます。逃げも隠れもしないのだから、こちらの事情も考えてくれ。」と述べると、被告係官は、「わかりました。」と言って帰った。

なお、原告の娘は、平成二年一〇月二七日に結婚式を挙げた。また、原告の父親は、平成二年一〇月中旬ころは、直腸癌の手術後で通院治療を続けていた。

イ 被告係官は、平成二年一一月下旬ころ、原告に電話をかけて、「帳簿を見せてもらいたい。」との申入れをしてきたが、原告の父親の容態が同月一三日ころから急変し、同月一五日から病院に入院して治療を受けている状況であったので、原告は、「今父親が大変危険な状態にある。もう少し待ってくれ。」と述べた。

ウ 次に原告が被告係官から連絡を受けたのは、平成三年二月上旬ころであった。原告が、被告係官からの求めに応じて豊橋税務署に赴いたところ、被告係官は、税務署において計算したという所得金額を示し、「あなたが非協力的だからこちらで計算した。明細を見せるつもりはない。」と述べた。

エ そして、被告は、本件更正処分及び本件賦課決定を行った。

(2) 憲法三一条の適正手続を保障する条項は、行政手続にも及ぶから、税務調査手続も適正なものでなければならない。しかるところ、本件更正処分及び本件賦課決定に至るまでの調査は、次の各点において、適正手続に違背しており、そのような違法な調査に基づいてされた本件更正処分及び本件賦課決定は違法である。

ア 申告所得以外に課税すべき所得があることを疑わせる合理的な理由も客観的な根拠もなく、調査が開始されたこと。

イ 原告に対して、調査理由が開示されなかったこと。

ウ 被告係官は、調査のために原告方を訪問するに当たり、事前に通知しなかったこと。

(3) 右(1)のとおり、原告は、娘の結婚と父親の病気のために、時間が取れなかった。そのため、原告は、調査に対する協力を一時先延ばししたが、そのことは、やむを得なかったということができる。したがって、原告は被告係官の調査に非協力的であったわけではないから、推計の必要性はない。

(二) 課税処分の根拠について

右1(二)の事実のうち、(1)(事業所得金額)のア、ウないしオ及び右(2)(不動産所得金額)のアないしキは、認め、(1)のイ及びカは、争う。

(三) 推計の合理性について

(1) 被告が抽出した同業者は、農業協同組合(以下「組合」という。)に加入していると推認されるところ、原告は、組合に加入していない。

(2) 組合に加入している業者は、大葉を摘み取り、パック詰めした後、組合に出荷する。組合では、組合に加入している業者から集荷した大葉を、全国の市場に出荷する。その際に必要な段ボール箱等の出荷資材は、組合において調達したものを用い、出荷に容する運賃は、組合において支払う。市場からは、市場手数料八パーセントを引かれた代金が組合に入金され、組合は、入金された代金から、出荷資材の費用、運賃等を差し引いて、組合員である業者に支払う。

これに対し、原告は、出荷資材の費用、運賃等を自分で負担した上、市場に出荷し、市場からは、市場手数料八・五パーセントを引かれた代金が原告に支払われる。

(3) 組合に加入している業者の中には、組合から入金された金額、すなわち、代金額から出荷資材の費用、運賃等を差し引いた額をもって売上金額とする業者(「相談後記帳」業者)と、組合から入金された金額に出荷資材の費用、運賃等を加算した額を売上金額とする業者(「両建記帳」業者)がある。売上金額をいずれの方法で計上するかによって経費率は異なってくるところ、原告は、代金額から出荷資材の費用、運賃等を差し引いた額をもって売上金額とする余地はないから、「相殺後記帳」業者の経費率によって原告の経費率を推計することはできない。

(4) 組合に加入している業者と原告とでは、市場における販売単価に大きな違いがあり、原告の販売単価は、組合に加入している業者の販売単価と比べてかなり低い。その理由は、組合は、全国の市場の動向を見ながら、価格が有利な市場に出荷することができるのに対し、個人ではそのようなことはできないこと、組合の出荷物は、市場において優先的に取引されるのに対し、個人の出荷物は組合の出荷物の後に取引されることによる。

平成元年七月から一二月までの間における豊橋温室園芸農業協同組合(以下「豊橋温室園芸農協」という。)と東三温室園芸農業協同組合(以下「東三温室園芸農協」という。)に加入している業者の大葉の月別販売単価(大葉一パック当たり価格)を、同時期における原告の大葉の月別販売単価と比較した結果は、別表九のとおりである。

また、豊橋温室販売推進連絡協議会が毎年作成している資料に記載されている「大葉 出荷数量、平均単価前年対比表」によると、組合に加入している業者の平均単価(大葉一パック当たり価格)は、昭和六二年は三〇五・六一円、昭和六三年は二七九・五六円、平成元年は三一九・七三円であった。これに対し、各年において原告の支払った運賃の総額を一一円(一パック当たりの運賃額)で割って原告の各年における出荷数量を算出した上、原告の各年における売上金額を右出荷数量で割って原告の各年における平均単価を求めると、昭和六二年は二四七・一八円、昭和六三年は二四八・一〇円、平成元年は二六九・八九円となる。したがって、昭和六二年から平成元年までの別表九記載の時期以外の時期においても、組合に加入している業者の販売単価と原告の販売単価の間には、大きな差が生じているということができる。

よって、原告が、組合に加入している業者と同じ額の売上げを確保するためには、組合に加入している業者よりも多くの経費を要するから、原告の経費率は、組合に加入している業者の経費率よりも高い。

以上のとおり、組合に加入している業者の経費率から原告の経費率を推計することはできない。

(5) 組合に加入している業者の場合は、市場手数料の率は八パーセントであるが、原告の場合は、市場手数料の率は八・五パーセントであるから、組合に加入している業者と原告とでは、市場手数料に差異がある。また、組合に加入している業者には、出荷奨励金として、市場から売上金額の一・七パーセントが支払われるが、原告には、このようなものは支払われない。さらに、出荷資材の費用や運賃についても、組合は、一括して大量に契約するから、これらの費用は原告よりも低い金額になる。

したがって、右のような理由によっても、原告の経費率は、組合に加入している業者の経費率よりも

高くなるのであり、組合に加入している業者の経費率から原告の経費率を推計することはできない。

3  被告の反論

(一) 推計の必要性等について

税務職員の質問調査権の行使は、税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられており、税務職員は、過少申告であることを疑うに足りる事情が存しない場合であっても調査することを妨げられるものではなく、また、税務職員が調査に際して調査理由を開示することや調査することを事前に通知することが法律上要件とされているわけでもないから、本件更正処分及び本件賦課決定に至るまでの調査手続に、原告が右2(一)(2)で主張するような違法な点はない。

(二) 推計の合理性について

(1) 被告が抽出した同業者は、すべて「両建記帳」の業者であり、「相殺後記帳」の業者は含まれていない。

(2) 推計課税において、原告と比準同業者との類似性を過度に要求することは、推計による課税を不可能にする。被告は、業者が組合に加入しているかどうかを判別する資料を持っていない上、組合に加入していない大葉栽培業者で、原告との間で事業所の近似性及び事業規模の類似性の要件を満たす業者は存在しないから、組合加入の業者と原告との間に原告が主張するような差異があるとしても、それだけでは、推計を不合理ならしめるということはできない。

(3) 組合に加入している業者が原告よりも高い単価で大葉を販売しているとしても、組合は、組合員の費用負担で共撰等検査を実施するなどして、出荷する大葉の品質を高めているために、高い単価で販売することができる。したがって、組合に加入している業者は、原告が負担していない右共撰等検査の費用やその他の費用を負担しているのであって、大葉の販売単価が原告よりも高いからといって、直ちに組合に加入している業者の経費率は原告に比べて低いということはできない。

また、原告が出荷している大葉は、L規格が中心であり、2L、特Lといった大きいサイズの大葉の出荷数量は少ない。大葉のサイズが小さければ販売単価は低くなるが、反面、費用は少なくなるから、販売単価が低いからといって、直ちに経費率が高いということはできない。

(4) 豊橋温室販売推進連絡協議会が毎年作成している資料に基づき算定された平均単価は、市場手数料を控除する前の販売金額に基づいて算定されたものであるが、原告の売上金額を出荷数量で割って算定された平均単価は、販売金額から市場手数料を控除した後の金額に基づいて算定されたものであるから、これらの平均単価を比較する場合には、豊橋温室販売推進連絡協議会が毎年作成している資料に基づき算定された平均単価から市場手数料相当額を差し引いて比較する必要がある。

また、原告は各年において原告の支払った運賃の総額を一一円(一パック当たりの運賃額)で割って、原告の各年における出荷数量を算出しているが、原告が支払う運賃は二〇パック入りのケースごとに算定され、原告は、ケースが二〇パックに満たない場合であっても、二〇パック分の運賃を支払わなければならないから、実際に出荷していなくとも、その分の運賃が支払われている場合がある。したがって、この点を考慮すると、原告の出荷数量は、原告が主張するよりも少なくなる。

(5) 組合に加入している業者の愛知県内の市場における市場手数料の率は八パーセントであるが、愛知県外の市場における市場手数料の率は八・五パーセントである。したがって、原告の市場における市場手数料の率が八・五パーセントであるとすると、組合に加入している業者が愛知県内の市場に出荷した場合には、〇・五パーセントの差が生じることになるが、組合に加入している業者は、全国七〇の市場に出荷しており、そのうち愛知県内にある市場は六市場であるから、手数料の差は、平均すると、〇・五パーセントよりはるかに小さく、僅少であるということができる。

また、出荷奨励金は、一旦組合に支払われ、そのうち、一部が特別配当金として業者に支払われるが、組合から業者に支払われるのは、〇・五ないし〇・六パーセント程度である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四争点についての当裁判所の判断

一  推計の必要性等について

1  証拠(証人宮地帝、原告本人)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 豊橋税務署の署員であった宮地帝(以下「宮地」という。)は、平成二年一〇月九日、原告の昭和六二年ないし平成元年分の所得税の調査のため、原告方へ赴き、原告に対し、昭和六二年以降の帳簿の提示を求めた。これに対し、原告は、「見せるものは何もない。銀行でも何でも勝手に調べてくれ。」と述べて、帳簿を提示しようとしなかった。そこで、宮地は、都合のよい日時を連絡するよう求めて、帰った。

(二) しかし、原告から連絡がなかったので、宮地は、同月二三日、原告に電話をかけて、面接調査の要請を行ったが、原告は、「会ってもしょうがないが、どうしてもというのであれば、忙しいので、一一月中旬まで待ってほしい。」と述べた。これに対し、宮地は、「もっと早い時期に会いたい。」と述べたが、原告は、「税務署は何も信じてくれない。」と述べるのみで、面接調査の時期については返答しなかった。そこで、宮地は、原告に対し、「当方で必要なところを調べさせていただく。」と述べた。

(三) 宮地は、同年一一月五日、原告に電話をかけたが、原告は不在で、原告の妻が電話に出た。そこで、宮地は、原告の妻に対し、折り返し電話をするよう原告に伝言することを依頼して、電話を切った。しかし、原告から電話がかかって来なかったので、宮地は、同月一四日、原告に電話をして、再度面接調査の要請を行った。これに対し、原告は、「税理士に頼んでいるが、年内は忙しいので、帳簿が揃わない。」、「私の所得は出しすぎなんだ。もとの申告額が多すぎるときは返すことを約束してくれ。そうでなければ、最後まで闘い抜く。」と述べた。なお、原告は、そのころ、税理士に依頼してはいなかった。

(四) 以上のような経緯から、宮地は、反面調査によって原告の収入金額を把握するとともに、経費率を同業者の経費率から推計して、原告の所得金額を算定し、平成三年二月七日に、原告に電話をして、調査結果が出たことを告げ、豊橋税務署まで来るよう求めた。そして、宮地は、豊橋税務署へ来た原告に対して、推計した所得金額を告げた。

2(一)  右1認定の事実によると、被告係官であった宮地は、平成二年一〇月九日から同年一一月一四日まで間に、一回原告方を訪れて帳簿の呈示を求めたほか、三回原告方に電話をし、うち二回は原告と話して面接調査の要請をしたにもかかわらず、原告は、帳簿を呈示せず、具体的な面接の日時を約束しなかったばかりか、右1で認定したような挑発的な発言を行ったことが認められるから、被告において、原告の協力を得て所得金額を実額によって把握することは困難であったということができる。したがって、推計の必要性があったものと認められる。

(二)  証拠(甲一、原告本人)によると、原告の娘は、平成二年一〇月二七日に結婚したこと、原告の父は、昭和六三年一一月二日に直腸癌により手術を受け、その後、通院して治療を受けていたが、平成二年一〇月ころには、時々発熱するなど体調が良くなかったこと、原告の父は、同年一一月一三日ころから高熱が出たため同月一五日に病院に入院したこと、以上のようなことから、原告は、平成二年一〇月から一一月ころには、大葉栽培の仕事以外に、娘の結婚準備や父親の看病で多忙であったこと、以上の各事実が認められる。

しかし、これらの事実があったとしても、原告が被告係官の調査におよそ応じることができなかったとまで認めることはできない。

また、証人(原告本人)と弁論の全趣旨によると、原告は、平成二年一二月には同年一〇月ころや一一月ころに比べて多少時間的な余裕ができたが、平成三年二月までの間に、原告の側から連絡をして、税務署に資料を提出するといったことはしなかったものと認められる(右1認定の経緯からすると、原告は、単に税務署からの連絡を待っているのみではなく、自分の方から連絡をしてしかるべきであったといえる。)。

したがって、右認定の原告が多忙であるという事実は、右の推計の必要性があるとの認定を覆すに足りるものではない。

3  右1認定の宮地の行為は、所得税法二三四条の税務職員による質問検査権の行使とされたものであると解されるところ、右質問検査権は、過少申告の疑いが明らかでない場合であっても、申告内容の正確性を確認するために行使することができるものであるから、質問検査権の行使に当たって、申告所得以外に課税すべき所得があることを疑わせる合理的な理由や客観的な根拠を必要とするものではない。

また、右質問調査権行使の方法は、税務職員の合理的な裁量、選択に委ねられており、調査日時場所の事前通知や具体的な調査理由の告知が、常に義務付けられているということはできない。

したがって、原告が前記第二の二2(一)(2)アないしウで主張する各点は、いずれも、直ちに、宮地による質問調査権の行使を、適正手続に違背するものとして違法ならしめるものではない。

二  課税処分の根拠及び適法性並びに推計の合理性について

1  前記第二の二1(二)(課税処分の根拠)の事実のうち、(1)(事業所得金額)のア(収入金額)は当事者間に争いがない。

2  証拠(乙一、乙二の一ないし三、証人種村敏)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 被告において、原告の事業所の所在地を管轄する豊橋税務署管内において原告と同種の事業を営み青色申告書を提出している個人を、別紙「同業者の選定基準」に従って機械的に抽出した上、これらの同業者の本件係争各年分における売上げに対する一般経費等の割合の平均値を求めたところ、別表三の一ないし三のとおり、次の各割合となった。

昭和六二年分 五六・四二パーセント

昭和六三年分 五八・九二パーセント

平成元年分 五五・三二パーセント

(二) 原告の本件係争各年分における事業所得に係る収入金額(前記第二の二1(二)(1)ア)に右(一)の平均値を乗じて、原告の本件係争各年分における一般経費等の額を求めると、次のようになる。

昭和六二年分 二二四二万五七三四円

昭和六三年分 二四三一万〇〇四六円

平成元年分 二二八六万五七七一円

3  別紙「同業者の選定基準」は、原告と業種、業態が同一であり、事業所が近接しており、事業規模が近似する業者を選定する基準として合理的なものである。そして、右2の推計は、そのような合理的な抽出基準に従って機械的に抽出された同業者について、売上げに対する一般経費等の割合の平均値を求め、その平均値に基づき原告の本件係争各年分における一般経費等の額を求めたものであるから、原告において、原告に右同業者の平均値に吸収されないような事情があることを主張立証すれば格別、そうでない限り右推計の合理性を認めることができる。

4  そこで、原告に右同業者の平均値に吸収されないような事情があるかどうかについて判断する。

(一) 証拠(乙六、八、九、証人種村敏、原告本人)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 被告が右2で抽出した同業者は、すべて組合に加入しているが、原告は、組合に加入していない。

(2) 組合加入の業者は、大葉を摘み取り、パック詰めした後、組合に出荷し、組合では、集荷した大葉を、全国の市場に出荷する。その際に必要なダンボール箱等の資材は、組合において調達したものを用い、出荷に要する運賃は、組合において支払う。

市場からは、市場手数料を引かれた代金が組合に入金され、組合は、入金された代金から、出荷資材の費用、運賃、組合手数料、共撰費用等を差し引いて、組合員である業者に支払う。

組合員である業者が組合を通して販売する場合の市場手数料は、愛知県外の市場においては、販売金額の八・五パーセント、愛知県内の市場においては、販売金額の八パーセントである。

(3) 原告と事業所が近接した区域において大葉栽培業を営んでいる者が加入している組合のうち、大葉栽培業を営んでいる組合員が多い組合は、豊橋温室園芸農協と東三温室園芸農協である。これらの農協における取引の形態等は次のとおりである。

ア 豊橋温室園芸農協は、全国七〇の市場に大葉を出荷している。このうち、愛知県内の市場は六市場であり、他は愛知県外の市場である。出荷量は、愛知県内の市場が約一〇パーセントであり、愛知県外の市場が約九〇パーセントである。東三温室園芸農協も、全国の市場に大葉を出荷している。

イ 豊橋温室園芸農協では、組合員から、次のような手数料等を徴収しており、その昭和六二年から平成元年当時の額は、次のとおりである。同農協では、大葉の代金を組合員に支払うときに、これらを差し引いて支払う。東三温室園芸農協も、同様の手数料等を徴収している。

<1> 組合手数料 市場から支払われた金額の一パーセント

<2> 開発研究費 大葉一パック当たり四〇銭

<3> 共撰費用 大葉一パック当たり三〇銭

<4> 賦課金 一年間に一〇〇〇円と栽培面積一坪当たり温室が一〇円、ビニールハウスが四円

<5> 部会費 一箇月一五〇〇円

ウ 市場から組合へ出荷奨励金として、販売金額の一・七パーセントが支払われるが、豊橋温室園芸農協及び東三温室園芸農協では、これを直接組合員へ支払うことはなく、組合の管理運営の費用にあて、余剰金が生じたときは、豊橋温室園芸農協では、利用分量配当金として、東三温室園芸農協では、販売奨励金として、組合員に支払っている。

豊橋温室園芸農協における利用分量配当金の支給額は、昭和六二年が販売代金額の〇・五四パーセント、昭和六三年が販売代金額の〇・五一パーセント、平成元年が販売代金額の〇・六パーセントであった。

(4) 原告は、出荷資材の費用、運賃等を自分で負担した上、市場に出荷し、市場からは、販売代金額の八・五パーセントに当たる市場手数料を差し引かれた代金が原告に支払われる。

(二) 原告は、組合に加入している業者の中には、組合から入金された金額、すなわち、代金額から出荷資材の費用、運賃等を差し引いた額をもって売上金額とする業者(「相殺後記帳」業者)がいると主張する。しかし、被告が抽出した右2の同業者は、すべて青色申告を行っている業者であるところ、青色申告を行う業者は、正規の簿記の原則に従って帳簿を作成しなければならない(所得税法施行規則五七条)。そして、弁論の全趣旨によると、正規の簿記の原則に従うと、組合から入金された金額に出荷資材の費用、運賃等を加算した額を売上金額としなければならないものと認められる。したがって、特に反対の証拠がない限り、被告が抽出した右2の同業者は、「両建記帳」を行っているものと認められるところ、本件においては特に反対の証拠はないから、被告が抽出した右2の同業者は「両建記帳」を行っているものと認めることができる。

(三) 次に、組合に加入している業者と原告との経費率の差異について判断する。

(1) 証拠(甲五、八、原告本人)と弁論の全趣旨によると、原告が運送会社に支払っている運賃の額は、一パック当たり一一円であること、昭和六二年から平成元年までの各年において原告が支払った運賃の総額を右の一一円で割って、原告の各年における出荷数量を算出すると、昭和六二年は一六万〇八〇〇個、昭和六三年は一六万六三〇〇個、平成元年は一五万三〇〇〇個となること、原告の各年における売上金額(前記第二の二1(二)(1)アの金額(平成元年は大阪生鮮食品集配センターに対する売上金額))を右出荷数量で割って原告の各年における平均単価(大葉一パック当たりの単価)を求めると、昭和六二年は二四七・一八円、昭和六三年は二四八・一〇円、平成元年は二六九・八九円となること、右売上金額は市場手数料を控除した後の金額であること、以上の各事実が認められる。

これに対し、証拠(甲二ないし四、原告本人)と弁論の全趣旨によると、豊橋温室販売推進連絡協議会が毎年作成している資料に記載されている「大葉 出荷数量、平均単価前年対比表」によって、組合に加入している業者の平均単価(大葉一パック当たり価格)を求めると、昭和六二年は三〇五・六円、昭和六三年は二七九・五円、平成元年は三二一・八円となることが認められる。しかし、証拠(乙八)と弁論の全趣旨によると、右の組合に加入している業者の平均単価は、市場手数料を控除する前の販売金額に基づいて算定されたものと認められ、これに反する証拠はないから、右の組合に加入している業者の平均単価から販売金額の八・四五パーセント(後記(4)ウ<1>の豊橋温室園芸農協に加入している業者の平均値)の市場手数料を控除すると、組合に加入している業者の市場手数料を控除した後の平均単価は、昭和六二年は二七九・七円、昭和六三年は二五五・八円、平成元年は二九四・六円となる。そうすると、原告の平均単価の組合に加入している業者の平均単価に対する率は、昭和六二年は〇・八八、昭和六三年は〇・九六、平成元年は〇・九一となる。

また、証拠(乙九)によると、東三温室園芸農協に加入している業者の平均単価(販売金額から市場手数料を控除した後の金額に基づいて算定されたもの。)は、昭和六二年は二六一円、昭和六三年は二八〇円、平成元年は三〇四円であったことが認められるから、原告の右平均単価の東三温室園芸農協に加入している業者の右平均単価に対する率は、昭和六二年は〇・九四、昭和六三年は〇・八八、平成元年は〇・八八となる。

なお、被告は、原告が支払う運賃は二〇パック入りのケースごとに算定され、原告は、一ケースが二〇パックに満たない場合であっても、二〇パック分の運賃を支払わなければならないから、実際に出荷していなくとも、その分の運賃が支払われている場合があると主張するが、証拠(調査嘱託の結果)と弁論の全趣旨によると、原告が一度に出荷する大葉のパック数は、ほとんどの場合、二〇の倍数(特Lサイズは一ケース三〇パックであるので、三〇の倍数)であることが認められるから、原告が実際に出荷していなくともその分の運賃を支払う事例はわずかであると認められる。したがって、原告が実際に出荷していなくともその分の運賃を支払っているために、原告の出荷数量が右認定の数量よりも少なくなることがあるとしても、その量はわずかであると認められる。

(2) 証拠(調査嘱託の結果)と弁論の全趣旨によると、平成元年七月から一二月までの間における原告の大葉の月別販売単価(大葉一パック当たりの単価。市場手数料を控除する前の販売金額に基づいて算定されたもの。)は、別表一〇の「原告」欄記載のとおりであることが認められる。

これに対し、弁論の全趣旨によると、豊橋温室園芸農協と東三温室園芸農協に加入している業者の平成元年七月から一二月までの間における大葉の月別販売単価(大葉一パック当たりの単価。市場手数料を控除する前の販売金額に基づいて算定されたもの。)は、別表一〇の「豊橋温室」欄及び「東三温室」欄記載のとおりであること、右の二農協に加入している業者の平成元年七月から一二月までの間における大葉の平均販売単価は三九六・五円となること、以上の各事実が認められる。

(3) 右(1)認定の事実によると、原告の一年間の平均販売単価を組合に加入している業者の一年間の平均販売単価と比べた場合において、その差異が最も大きい数字は、本件係争各年分について、いずれも〇・八八であることが認められる。そして、他の条件がほぼ同様であれば、右販売単価の差異があることによって、原告の経費率は組合に加入している業者の経費率の一・一三(一〇〇を八八で除した数値)倍となる可能性がある。

なお、右(2)認定の事実によると、平成元年七月から一二月までの半年間における原告の平均販売単価は組合に加入している業者の平均販売単価に比べて、〇・八三(三三二・三円を三九六・五円で割った数値)の差異があるものと認められるが、右の数値は、平成元年半年分の資料に基づくものにすぎないから、右の数値を、直ちに原告の本件係争各年分の経費率の算定に当たって採用することはできない。

(4) 右(3)認定のとおり、原告の経費率は組合に加入している業者の経費率の一・一三倍となる可能性があるが、次に述べるような事情を総合すると、販売単価に〇・八八の差異があるからといって、直ちに、原告の経費率が組合に加入している業者の経費率の一・一三倍よりも低い数値となることも十分に考えられる。

ア 証拠(乙一〇、調査嘱託の結果)と弁論の全趣旨によると、大葉には、特L、2L、L、Mというサイズがあり、サイズが大きくなると、大葉の単価は高くなるが、反面、多くの経費を要することが認められる。したがって、大葉のサイズが異なる場合には、販売単価に差異があるとしても、直ちに、経費率に販売単価の差異に相当する差異があると認めることはできない。しかるところ、原告が出荷している大葉のサイズと組合に加入している業者が出荷している大葉のサイズが同じであることを認めるに足りる証拠はない。

イ また、そもそも経費率は、販売単価のみで定まるものではない。経営を合理化し経費の節減に成功している業者とそうでない業者では、販売単価に差異がなくとも、経費率に大きな差が生じることが考えられる。現に、後記(5)認定のとおり、組合に加入している業者の中でも、経費率が高い業者と低い業者の間には、約二〇パーセントの差異がある。

ウ さらに、組合に加入している業者と原告との出荷に要する経費を比較すると、次のとおり、組合に加入している業者の方が多くの経費を要している可能性がある。

<1> 右(一)(2)で認定したとおり、組合員である業者が組合を通して販売する場合の市場手数料は、愛知県の市場においては、販売金額の八・五パーセント、愛知県内の市場においては、販売金額の八パーセントであるから、組合に加入している業者が愛知県内の市場において販売した場合には、原告とは、市場手数料が〇・五パーセント異なることになるが、右(一)(3)認定のとおり、豊橋温室園芸農協の愛知県内の市場に対する出荷量は全体の出荷量の約一〇パーセントであるから、同農協加入の業者の市場手数料の平均値は、約八・四五パーセントであり、原告との間の市場手数料の差は、約〇・〇五パーセントであるといえる。

<2> 右(一)(3)認定のとおり、市場から組合に出荷奨励金として、売上金額の一・七パーセントが支払われているが、豊橋温室園芸農協も、東三温室園芸農協も、出荷奨励金を直接組合員に支払うことなく、組合の管理運営費にあてており、余剰金が生じた場合には組合員に配分されるが、配分されるのは、組合に支払われたものの一部(販売代金額の〇・五ないし〇・六パーセント)にすぎない。

<3> 証拠(乙六)によると、豊橋温室園芸農協の組合員が組合に支払う運賃は一パック当たり一〇円八〇銭であると認められるから、原告が支払う運賃よりは低額であるが、証拠(乙九)によると、東三温室園芸農協の組合員が組合に支払う運賃は、一パック当たり約一二円であると認められるから、原告が支払う運賃よりも高額である。したがって、必ずしも組合に加入している業者の支払う運賃が原告の支払う運賃よりも低額であるということはできないし、出荷資材等の他の費用について、組合に加入している業者の支払う費用が原告の支払う費用よりも低額であることを認めるに足りる証拠はない。

<4> 組合に加入している業者は、市場から支払われた金額の一パーセントの割合による組合手数料等の右(一)(3)イ<1>ないし<5>で認定した費用を負担しなければならない。

<5> 以上を総合すると、組合に加入している業者は、原告よりも、出荷に要する経費が低いと認めることができないばかりか、かえって、組合に加入している業者は、原告よりも、出荷に要する経費が高い可能性がある。

(5) また、原告の経費率が組合に加入している業者の経費率の一・一三倍であるとしても、次のとおり、原告の経費率について、右2(一)認定の同業者の経費率の平均値に吸収されないような事情があると認めることはできない。

ア 別表三の一ないし三のとおり、右2の推計に用いられた各同業者のうち最も経費率が低い者の経費率は、昭和六二年分については、四七・七七パーセント、昭和六三年分については、四七・四九パーセント、平成元年分については、四五・〇二パーセントであり、右2の推計に用いられた同業者の経費率の平均値は、昭和六二年分については、右の経費率が最も低い者の数値の一・一八倍、昭和六三年分については、右の経費率が最も低い者の数値の一・二四倍、平成元年分については、右の経費率が最も低い者の数値の一・二二倍となる。

イ 別表三の一ないし三のとおり、右2の推計に用いられた各同業者のうち経費率が最も高い者の経費率は、昭和六二年分については、六六・一六パーセント、昭和六三年分については、六六・五七パーセント、平成元年分については、六六・三二パーセントであり、その数値は、それぞれ右2の推計に用いられた同業者の経費率の平均値の一・一七倍、一・一二九倍、一・一九倍となる。

ウ したがって、右2の推計に用いられた同業者の経費率には、おおむね上下に一・一三倍以上の開きがあるということができるから、原告の経費率が組合に加入している業者の経費率の一・一三倍であるとしても、右の程度の経費率の差異は、右2(一)認定の同業者の経費率の平均値を求める過程で包摂されているということができる。

(6) よって、原告の経費率について、右2(一)認定の同業者の経費率の平均値に吸収されないような事情があると認めることはできない。

5  以上の次第で、右2の推計には、合理性があると認めることができる。

6  前記第二の二1(二)(課税処分の根拠)の事実のうち、(1)(事業所得金額)のウないしオ及び(2)(不動産所得金額)のアないしキは、当事者間に争いがない。

7(一)  よって、原告の本件係争各年分の事業所得金額は、前記第二の二1(二)の(1)のア(収入金額)から、右2(二)認定の一般経費等の額及び前記第二の二1(二)の事実の(1)のウないしオの各金額を差し引いた次の金額となる。

昭和六二年分 一〇五六万五〇三五円

昭和六三年分 一一七〇万八九一二円

平成元年分 一三二九万三八八五円

(二)  そして、右(一)の事業所得金額に、前記第二の二1(二)の(2)のキの原告の本件係争各年分の不動産所得金額を加算して、原告の本件係争各年分の総所得金額及び税額を求めると、次のようになる。

(1) 総所得金額

昭和六二年分 一七〇五万一一五六円

昭和六三年分 一九二六万四四七九円

平成元年分 一九五二万〇四〇二円

(2) 税額(別表一の一ないし三のとおり)

昭和六二年分 四七一万円

昭和六三年分 四七八万六四〇〇円

平成元年分 四七〇万六〇〇〇円

(三)  本件更正処分における所得金額及び税額は、右(二)の所得金額及び税額を下回るから、本件更正処分は適法である。また、過少申告があったことになり、過少申告税の税額は、本件賦課決定の税額の範囲内であるから、本件賦課決定も、適法である。

第五総括

よって、本件請求はいずれも理由がないので、棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 鈴木和典)

別紙

同業者の選定基準

同業者は、以下の選定基準に基づき、抽出されたものである。

対象者

豊橋税務署管内において、大葉栽培業を営む個人事業者のうち、所得税法一四三条(青色申告)の承認を受けて、昭和六二年分ないし平成元年分の所得税の確定申告について、青色申告書を提出している者で、次の一及び二のいずれにも該当する者

ただし、次のイないしハに該当する者を除く。

イ 昭和六二年一月一日から平成元年一二月三一日までの間の中途において、開業、廃業、休業又は業態の変更をした者

ロ 更正処分又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立中又は訴訟中の者

ハ この報告書の作成日現在において、所得税の調査が行われている者

一 他の業種目を兼業していない者

二 上記一に該当する者のうち、次のいずれかに該当する者

イ 昭和六二年分については、売上金額が一九八七万三九二二円以上七九四九万五六九〇円以下の範囲内にある者

ロ 昭和六三年分については、売上金額が二〇六二万九七〇六円以上八二五一万八八二六円以下の範囲内にある者

ハ 平成元年分については、売上金額が二〇六六万六八二一円以上八二六六万七二八六円以下の範囲内にある者

別表一の一 被告主張額計算表(昭和六二年分)

<省略>

別表一の二 被告主張額計算表(昭和六三年分)

<省略>

別表一の三 被告主張額計算表(平成元年分)

<省略>

別表二 事業所得の収入額

<省略>

別表三の一 同業者比率表(昭和六二年分)

<省略>

別表三の二 同業者比率表(昭和六三年分)

<省略>

別表三の三 同業者比率表(平成元年分)

<省略>

別表四

事業所得に係る建物減価償却費の額

<省略>

別表五 事業所得に係る借入金利子の額

<省略>

別表六 不動産所得の収入金額

<省略>

別表七

不動産所得に係る減価償却費の額

<省略>

別表八 不動産所得に係る借入金利子の額

<省略>

別表九

原告及び各農協の月別単価比較表

<省略>

別表一〇

原告及び各農協の月別単価比較表

<省略>

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