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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)1826号 判決 1999年6月18日

原告

藤井芳江

被告

尾嶋幸子

ほか二名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一九六万五六五四円及びこれに対する平成四年一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金九八二万六八四七円及びこれに対する平成四年一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告らに対し自賠法三条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成四年一月二三日 午前八時三〇分ころ

(二) 場所 愛知県刈谷市野田町西田二一〇番地先市道上

(三) 加害車両 被告尾嶋幸子(旧姓深津幸子(以下「尾嶋」という。)運転の原動機付自転車

(四) 被害車両 原告運転の自転車

(五) 態様 加害車両と被害車両が衝突し原告が転倒

(六) 傷害 本件事故により原告は左足関節骨折等の傷害を受けた。

2  責任原因

被告尾嶋は、加害車両を自己のために運行の用に供する者である。

3  当事者

本件事故当時被告尾嶋は未成年であり、被告深津進及び同被告深津久子は被告尾嶋の親権者であった。

二  争点

1  被告深津進及び同深津久子は加害車両の保有者か。

2  後遺障害の存在

3  過失相殺

4  損害額

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  被告深津進及び同深津久子の責任

甲第一号証、被告尾嶋本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、加害車両は被告尾嶋が自己のアルバイト収入で購入したもので、被告尾嶋のみが使用していたことが認められるが、他方、本件事故当時、被告尾嶋は未成年(一九歳)で専門学校生徒であり、その親権者父母である被告深津進及び同深津久子と同居して同人らに扶養されていたこと、被告尾嶋は加害車両を通学に用いていたことも認めることができ、これらの事実に照らすと、被告深津進及び同深津久子は、被告尾嶋の加害車両の運行につき支配を及ぼし得る立場にあり、かつ、支配管理すべき責務が認められるから、自賠法三条の運行供用者に該当するものと認められる。

二  後遺障害の存在

甲第八、第九号証、第一〇号証の一ないし三、乙第一一、第一七、第二一号証、第二二号証の一、二及び証人加藤文彦の証言によると、以下の事実が認められる。

1  原告は本件事故により傷害を負い、刈谷総合病院で左足関節三果骨折、左第五中足骨骨折と診断されて平成四年二月三日に左足関節の骨接合術の手術を受け、平成五年七月六日に症状固定の診断を受けた。当時の後遺障害診断書には、自覚症状は左下腿に力が入らない、精神・神経の障害、他覚症状は左下腿筋力低下、歩行時脱力感、関節機能の障害は認められないとの記載がある(乙一七)。

2  また、同病院のカルテ上では、平成五年六月二二日、同年七月六日に「左足首背屈・底屈ともに可動域制限なし」、同年六月二五日にも「左足関節背屈一五度で軽度制限あり」と記載され(乙一一・一一、一二頁)、同病院リハビリテーション科の牧野理学療養士も平成五年六月二九日に「左足関節可動域検査正常」と報告されており、当時の原告の主治医のひとりは被告代理人の照会に対して、右の六月二二日、七月六日とも診察の上記載したものであり、可動域制限はなかったと答えている(乙二二の一、二)

3  しかし、原告は左足関節痛、歩行障害を訴えて以後も通院を続け、平成八年一〇月三〇日に中部労災病院に受診した。同病院の加藤文彦医師は、症病名を左下腿骨遠位端粉砕骨折、左第五中足骨骨折と診断し、当日症状固定と診断した。当時、原告のレントゲン写真上には左下腿骨下端部の変形治癒があり、正面像にて内踝部が外側関節面より三ミリメートル挙上、正面像、側面像にて五ミリメートルの骨欠損が認められた。また、左足関節が他動で背屈五度、底屈四五度、内返し二〇度、外返し五度、自動で背屈五度、底屈一〇度の運動制限があり、自覚症状として左足関節痛、歩行障害があった(甲九)。

4  加藤文彦証人は、刈谷総合病院の左足関節三果骨折は一部の骨折を見落としたもので左下腿骨遠位端粉砕骨折が正しく、同病院における骨折合術による骨折修復の程度はかなり良いが、なお変形は残存しており、その状況からして事故後可動域制限がないというのはおかしい、また、他動の可動域制限に精神的なものが影響している可能性は認められないと述べる。

これらの事実、特に加藤証人の証言に照らすと、刈谷総合病院における症状固定の診断に誤りはないものの、後遺障害の状況についてのカルテ及び後遺障害診断書の記載は信用することができない。そして、中部労災病院の後遺障害診断書により認められる骨折部位の変形の状況、数値等に照らすと、原告には平成五年七月六日当時後遺障害等級一二級七号に該当する後遺障害かあったと見るのが相当である。

三  過失相殺

甲第一号証、乙第一号証の一、二、第一二ないし第一四号証、原告(後記の信用しない部分を除く)及び被告尾嶋本人尋問の各結果、弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  本件事故当時の本件事故現場は変形十字路交差点であり、東西方向のほぼ直線の市道に、北及び北西から二本の道路が合流する形となっている。交差点の北西角には建物があり合流する二本の道路と市道とは互いに見通しが悪い。北から市道に合流する道路には一時停止の規制がある。交差点の南側にはカーブミラーが設置され、西側には市道を南北に横断する横断歩道がある。

2  被告は東西方向の市道を西から本件交差点に向けて走行して来た。市道北側は無蓋の側溝があったため、被告は左端(北端)に若干余裕を見た位置を走行していた。また、被告は時速約三〇キロメートルで走行し、横断歩道手前では約一〇キロメートル減速してカーブミラーを確認したが人影を発見することはできなかったためそのまま進行したところ、横断歩道の二、三メートル手前で左側(北側)から被害車両に乗った原告が出てきたため急ブレーキを掛け、ハンドルを左に切ったものの避けることができず、前輪を被害車両の後輪に衝突させた。

3  原告は、北から市道に合流する道路を南下して、本件交差点で右折して市道を西方向に向かうところであった。原告は通常勤務先で午前八時三〇分に勤務を開始しており、本件交差点から勤務先までは自転車で一〇分ないし一五分で到着するところ、本件事故は午前八時三〇分ころに発生した。

4  衝突位置は交差点内北西であった。

右の事実を総合すると、原告は右折するに当たり自転車について定められた右折方法をとらず、交差点の手前から道路を右側に横断し始めて斜めに市道内に入り、かつ、一時停止の規制があるにもかかわらず一時停止をしなかった過失があること、他方、被告には交差点左側(北側)の見通しが悪いにもかかわらず安全確認が不十分であることが明らかである。原告本人は市道をまっすぐに(法定の右折方法を遵守して)横断していたところ交差点南東で右側(南側)走行していた被告と衝突したと述べるが(原告本人尋問、甲第三号証)、前掲各証拠によれば被告が右側(南側)走行をしなければならない事情は認められず、右の供述は信用することができない。

そこで、右に認められろ原告の走行態様及び原告が自転車、被告が原動機付自転車であることも併せ考慮すると、原告の過失割合は被告のそれを上回ることが明らかであり、原告と被告の過夫割合は六〇対四〇と見るのか相当である。

四  損害額

1  治療費等(請求零円) 三四万七三四〇円

弁論の全趣旨によれば、右金額を認めることができる。

2  入院雑費(請求一一万二八〇〇円) 一一万二八〇〇円

乙第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故により事故当日である平成四年一月二三日から同年四月一八日までと同年九月二四日から同月三〇日まで合計九四日入院治療したことが認められる。したがって、入院雑費として一日当たり一二〇〇円の割合で入院雑費を損害として認めるのが相当である。

3  通院交通費(請求五万二五〇〇円) 五万二五〇〇円

甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は症状固定までに刈谷総合病院に一二五日間通院治療したこと、通院一日当たりの交通費が四二〇円であることが認められるから、通院交通費として右の金額を損害として認めるのが相当である。

4  休業損害(請求二八五万七七七一円) 二八五万七七七一円

甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時川澄精工株式会社で自動車部品加工のパートタイムとして稼働していたところ、本件事故による傷害のために原告は本件事故当日から症状固定の日である平成五年七月六日まで五三〇日間休業したこと、事故直近の平成三手の給料は年額一九六万八〇八八円であることが認められるから、休業損害として右の額を認めるのが相当である。

5  後遺症による逸夫利益(請求二三六万六八二二円) 七一万九六九〇円

前記認定のとおり、原告の後遺障害は一二級七号に該当するものと認められるから、労働能力喪失率は一四パーセントとみろのが相当であるところ、原告の症状固定時の年齢、職種を考慮すると、労働能力喪失期間は三年とみるのが相当である。したがって、前記認定の年収額の一四パーセントの三年分から本件事故時からの中間利息を控除すると、右の金額が逸失利益として認められる。

1,968,088×14%×(3.5643-0.9523)=719,690.4

6  慰謝料(請求―入通院一九〇万円、後遺障害二二〇万円)

入通院一九〇万円 後遺障害二二〇万円

前記認定の入通院の状況及び後遺障害の程度に照らすと、右の金額が損害として認められる。

7  小計 八一九万〇一〇一円

8  過失相殺

前記認定のとおり原告の損害額から六割を減額するのが相当であるから、被告らが原告に対して賠償すべき損害額は、三二七万六〇四〇円となる。

五  損害の填補

乙第八号証、弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故の損害の填補として自賠責保険から一二〇万円、休業給付から三一万〇三八六円の支払いを受けたことが認められるからこれを右損害額から控除すると、残額は一七六万五六五四円となる。

原告が給付を受けた休業特別給付金一〇万三四二八円は損害の填補には当たらないと認めるから、これを右損害額から控除しない。

六  弁護士費用(請求一五〇万円) 二〇万円

原告が被告に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、本件事故当時の現価に引き直して二〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上によれば、原告の請求は、一九六万五六五四円及びこれに対する本件事故当日である平成四年一月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

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