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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)355号 判決 2000年1月14日

原告

井本勝司

被告

テスコ株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二三五万七四六九円及びこれに対する平成五年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金二二二一万一五一六円及びこれに対する平成五年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告らに対し自賠法三条、民法七〇九条、七一五条一項により人的損害について損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成五年四月一日 午前四時五〇分ころ

(二) 場所 名古屋市中川区太平通二丁目一番地先道路上

(三) 加害車 被告野本運転の普通乗用自動車

(四) 被害車 原告所有、運転の普通乗用自動車

(五) 態様 追突

2  責任原因

被告テスコ株式会社(以下「被告会社」という。)は被告野本を使用し、被告野本は被告会社の業務を遂行中過失によって本件事故を起こした。

二  争点

被告らは、原告の本件事故による人的損害の額、特に休業損害及び後遺障害に基づく逸失利益の存在を争う。

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  損害

1  治療費(請求額 九万七四五〇円) 一万四五二〇円

原告は本件事故に基づく傷害の治療費から既払い分を除いた分として以下の費用を請求する。

<1> 三和治療院(平成五年六月二六日から平成六年三月一一日まで) 四万六五〇〇円

<2> かいせい病院(平成五年六月二四日から同年七月二六日まで) 一万〇九八〇円

<3> 掖済会病院(平成五年七月一五日) 一万四五二〇円

<4> 中部労災病院(平成六年二月一八日) 二万〇一五〇円

<5> 石塚外科整形外科病院(平成六年三月三日) 五三〇〇円

このうち、<3>掖済会病院分一万四五二〇円は当事者間に争いがない。

<1>三和治療院分は原告本人尋問の結果によれば整体治療であるところ、これを必要とする医師の指示は認められないから、本件事故と相当因果関係に立つ治療費とは認められない。<2>かいせい病院分は、甲第二三、第三四号証及び原告本人尋問の結果によればびらん性胃炎に対する内科の治療であると認められるところ、このびらん性胃炎が本件事故に基づく傷害あるいはその治療によるものと認めるに足る証拠はない。<4>、<5>の中部労災病院及び石塚外科整形外科病院分は、甲第一、第五、第三一号証及び原告本人尋問の結果によれば症状固定後の治療であってこれを必要と認めるに足る証拠はない。

したがって、未払いの治療費としては一万四五二〇円のみを本件事故と相当因果関係に立つ損害として認めるのが相当である。

2  入院雑費(請求額 四〇万九五六四円) 九万円

甲第二三、第三一号証によれば、原告は平成五年四月一日の本件事故当初は石塚外科整形外科病院に通院治療して経過観察をしていたものの、同月七日に同病院に入院して同年六月二〇日まで七五日間入院治療したものと認められるから、入院雑費は一日当たり一二〇〇円の割合(合計九万円)で認めるのが相当である。原告は入院雑費として衣類、食器、洗面具等の費用、テレビ代、新聞代及び携帯電話料金の合計額を請求するが、衣類、食器、洗面具等については日常生活品以外に新たに必要とされたものがあると認めるに足る証拠はなく、携帯電話料金については入院期間後の分を被告が負担する理由は認められず、結局、右の割合を超えて入院雑費を必要としたと認めるに足る証拠はない。

3  文書料(請求額 三万〇九六〇円) 二万二七八〇円

原告は診断書料を請求し、その根拠として甲第一二ないし第一九号証をあげるが、このうちかいせい病院分(甲一三。二〇〇〇円)及び中部労災病院分(甲一八。六一八〇円)は前記認定のとおり同各病院への通院自体が本件事故と相当因果関係が認められないから、診断書料も本件事故と相当因果関係があるとは認められない。したがって、その余の二万二七八〇円について本件事故と相当因果関係に立つ損害として認める。

4  通院交通費(請求額 一一万三四〇〇円) 一万四〇六〇円

原告は別紙通院交通費明細書記載のとおりの費用を損害として請求するが警察署から自宅への帰宅費用は損害とは認められない。また、前記認定のとおりに症状固定(平成五年八月九日)以後の治療の必要性を認めるに足る証拠はないから同日以降の通院及びこれに関する診断書の受領のための交通費は損害とは認められない。三和治療院での治療は前記認定のとおり相当因果関係が認められないからこれに対する交通費も損害とは認められない。

したがって、甲第二三、第三一号証、弁論の全趣旨に照らし、平成五年四月五日の共立病院分一六〇〇円、同月七日及び同年六月二〇日の石塚外科整形外科病院の入退院分二四六〇円、石塚外科整形外科病院の通院七日分(症状固定までの通院日数八日から四月一日分を除く)五六〇〇円、掖済会病院分四〇〇円、石塚外科整形外科病院及び掖済会病院の診断書受領分四〇〇〇円の合計一万四〇六〇円が本件事故と相当因果関係に立つ通院交通費として認めることができる。

5  付添看護費用及び付添人交通費(請求額 六三万四五〇〇円) 零円

甲第三〇号証(平成六年一月二〇日付石塚敬止医師作成の診断書)には、本件事故日から平成五年六月二〇日まで付添看護を要することを認める旨の記載がある。しかし、甲第二三号証(石塚外科整形外科病院診療録)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故のあった平成五年四月一日に石塚外科整形外科病院を受診し、頸部痛が強いためポリネックで固定したものの入院はすることなく消炎鎮痛剤の投与、湿布処置を施行して通院加療となったこと、疼痛が軽快せず同月七日に安静加療のために入院となったが、入院当時の症状は全身倦怠感、頸部ないし右上腕部疼痛、肋骨部痛であってレントゲン上では異常は認められず、入院中の加療も点滴注射、湿布処置、一時間程度の持続牽引でこれもほとんどおこなわれていなかったこと、原告自身、付添を必要としたのは腕が上がらないために着替えができない、首があがらないため寝返りがうてないというもので、これらも入院後一か月半くらいまでにはできるようになったというのであるから、甲第三〇号証の記載は信用することができず、他に付添看護を必要と認めるに足る証拠はない。

6  休業損害(請求額 五五三万三六九三円) 二一万六一〇九円

原告は、事故発生から平成六年三月一一日までの三四五日間、個人営業のドラム缶加工業を十分に行うことができず、売上げ及び収益が減少し、その減少した金額は少なくとも賃金センサスによる平均賃金相当額であると主張する。

しかし、甲第三六ないし第三八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は六人の雇人を使用して中古ドラム缶の洗浄、塗装、販売等のドラム缶加工業を営んでいるところ、その申告所得額は平成四年が一六四万四三六四円、平成五年が一二一万二一四七円であって賃金センサスを大きく下回り、実所得がこれを上回ることを認めるに足る証拠はない。そして、事故前年と事故当年の申告所得額の差額四三万二二一七円についても雇人を使用している営業形態や入院中も原告自身携帯電話を用いて仕事の指図はしていたことに照らすと原告の入通院による減収であるか否かは疑問である。

そこで、現に稼働していた原告が七五日間入院治療をしたことにより何らかの損害が生じたことは推認できるから、右の差額の二分の一に相当する二一万六一〇九円についてのみ、本件事故による休業損害として認めるのが相当である。

7  逸失利益(請求額 六九九万一九二二円) 一〇万円

原告は、本件事故により惹起された頸部痛等の障害が現在まで長期にわたり継続しており、その後遺障害の程度は後遺障害等級一〇級に相当すると主張し、原告本人尋問の結果によれば、未だに頸部、頭部及び右肩部の痛みがあるほか、本件事故により視力低下もあり、力仕事をすると痛みが出ると述べる。

しかし、甲第二三号証、第二八号証の一、二、第三一ないし第三三号証、第三五号証、乙第四号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、石塚外科整形外科病院に入院当初、頸部痛及び前胸部痛があり、頸部筋肉の緊張がみられ、平成五年五月二四日に行われたMRI検査では第五・第六頸椎及び第六・第七頸椎の各椎間板の膨隆が認められた。

(二) しかし、事故当日のジャクソン、スパークリングの各検査の結果には問題はなく、以後、知覚障害もみられず、レントゲン上も特記事項はなかった。また、入院中は、頸部痛、背部痛の訴えがあったものの、散発的であった。頸部痛は同年六月二〇日の退院時にも残存していた。

(三) 平成五年八月九日の症状固定時の自覚症状は頸部ないし両肩部痛、右上肢しびれ感、頸部運動障害であり、他覚症状は前記の椎間板の膨隆であった。このうち、頸部の運動障害は骨折等の骨の傷害が認められないことから痛みによるものと認められる。また、椎間板の膨隆は、前記のとおりこれに対応する神経症状が認められないことから、本件事故によって生じたものではなく、原告の既往症と認められる。

(四) 平成五年六月二〇日の退院後は、同年八月九日までに石塚外科整形外科病院に五回程度通院し、その後も平成六年三月二九日までに四回通院しており、他に掖済会病院に平成五年七月一五日、中部労災病院に平成六年二月一八日受診している。平成六年三月三日に行われたMRI検査では、前記の椎間板の膨隆はいずれもほぼ軽快している。

(五) 原告の昭和六一年一〇月一一日の視力は右一・五、左一・二であったところ、本件事故後の平成六年三月一四日には右〇・四、左〇・六で近視性乱視と診断されている。

右の各事実に照らすと、原告には平成五年八月九日の症状固定時に、頸部痛、視力障害を中心とする後遺障害があったことが認められる。そして、症状固定後の通院の頻度、甲第三六ないし第三八号証により認められる事故前後の申告所得の内容及び前記の本件事故当時の稼働状況に照らすと、右の後遺障害による逸失利益は症状固定から二年程度であって、その額も合計一〇万円を超えないものと認めるのが相当である。

8  慰謝料(請求額 六四〇万円) 一七〇万円

前記入通院の状況及び後遺障害の状況に照らすと、入通院慰謝料として一二〇万円、後遺障害慰謝料として五〇万円が相当である。

9  弁護士費用(請求額 二〇〇万円) 二〇万円

右に認定した損害の程度に照らすと、本件事故と因果関係のある損害として認められる弁護士費用は二〇万円が相当である。

二  結論

以上によれば、原告の請求は、二三五万七四六九円及びこれに対する本件事故当日である平成五年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

通院交通費明細書

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