名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)3616号 判決 1998年3月13日
原告
森島子
被告
藤田由美
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金七七〇万円及びこれに対する平成四年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告と被告との間の交通事故について、原告が被告に対して、自動車損害賠償保障法三条に基づいて、損害の内金の賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実及び括弧内の証拠等により容易に認められる事実
1 本件事故
平成四年六月二六日午後一時ころ、愛知県知立市西町新川四三番地一七先市道上において、原告が運転する原動機付自転車(以下「原告車」という。)と、被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とが、衝突した(争いがない。)。
2 被告の責任
被告は、被告車を自己のために運行の用に供していた(争いがない。)。
3 既払金
被告は、原告に対し、合計一〇二万三八六四円を支払った(乙三号証の一から一二まで)。
二 争点
1 本件事故による原告の受傷と、受けた治療、後遺症
(原告の主張)
(一) 原告は、本件事故により、頭部挫傷、脳震とう、脳内出血の疑い、両膝部・右手・左足挫傷、右腓骨骨折、外傷性頭頸部症候群、右腓骨神経麻痺、前胸部挫傷、胸骨骨折の疑い、眩暈症の傷害を負い、以下のとおり治療を受けた。
(1) 入院
平成四年六月二六日から同月二七日まで 岩瀬外科
同日から同年七月二日まで 八千代病院
同日から同月一一日まで 岩瀬外科
同年九月一六日から同月一九日まで 八千代病院
同年一一月二一日から同年一二月一八日まで 川手病院
(2) 通院
平成四年七月一二日から平成五年五月一八日まで、右入院期間を除き、右三病院に通院
(二) 原告には、右治療にもかかわらず、眩暈著明(自賠責後遺障害等級表第三級三号該当)、右足しびれ感の後遺症が残った(同表第一四級一〇号該当)。
2 原告の損害額
3 本件事故の態様と過失相殺
(被告の主張)
本件事故は、被告車が本件事故現場付近道路を南方から北方に時速約二〇キロメートルで走行していたところ、進行方向左方から被告車の直前に原告が飛び出してきたことにより発生したものであり、原告の損害を算定するにあたっては、その過失割合を九割として斟酌するのが相当である。
(原告の主張)
本件事故は、本件事故現場付近道路を南方から北方に向かって走行していた原告車が、道路左側に停止したところ、折から原告車の後方を同一方向に進行してきた被告車が原告車に衝突したものであり、原告に過失はない。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 原告は、本件事故により、頭部挫傷、脳震とう、両膝部・右手・左足挫傷、右腓骨骨折、外傷性頭頸部症候群、右腓骨神経麻痺、前胸部挫傷の傷害を負った(甲二号証の一、二、三号証の一、六号証の一から九まで)。脳内出血及び胸骨骨折についてはその疑いが存したにすぎない。原告が本件事故による傷害として主張する眩暈症については、証拠(甲六号証の一、証人岩瀬三男)によれば、藤田保健衛生大学病院脳神経外科におけるMRI及びDSA検査の結果、本件事故との因果関係が明確に否定する結果が同病院により示されている事実が認められ、これを排斥して右眩暈症を本件事故による傷害と認めるに足りる証拠はない(原告の主張に沿う岩瀬三男医師の診断は同医師の推定によるもので直ちに信用することはできない。)。
2 原告は、右1の傷害の治療のため、平成四年六月二六日から同月二七日まで岩瀬外科に、同日から同年七月二日まで八千代病院に、同日から同月一一日まで岩瀬外科にそれぞれ入院した(合計一六日間)後、同月一七日八千代病院に通院し(一日)、さらに平成五年四月二六日から同年五月一八日までの間岩瀬外科に通院し(実通院日数五日)、同日症状固定した(争いがない。)
原告が本件事故による傷害の治療のためとして主張するその余の入院、通院については、前掲の証拠によれば原告には本件事故以前にも高脂血症や上気道炎などにより岩瀬外科などに通院していた事実が認められることや、前記のとおり原告が治療を受けていた眩暈症について本件事故との因果関係が認められないことなどに照らすと、これを本件事故による傷害の治療のために行われたものと認めるに足りる証拠はない。
3 原告が本件事故による後遺症として主張する眩暈については前記のとおりこれを本件事故によるものと認めることはできない。また、右足のしびれ感については原告にそのような後遺症が存する事実は認められる(甲五号証)が、これが原告の労働能力に影響を及ぼすと認めるに足りる証拠はない。
二 争点2について
1 治療費
証拠(甲二号証の三、四、三号証の二)によれば、前記本件事故と相当因果関係のある原告の治療のための治療費は四二万九九七〇円と認められる。
2 慰謝料
原告は、原告の主張するような入通院を要する傷害を負ったことについての慰謝料として二〇〇万円、後遺症に対する慰謝料として一九〇〇万円(本件では内金五七〇万円)を請求する。
しかしながら、本件事故と相当因果関係の認められる原告の傷害による前記入通院に対する慰謝料としては、五〇万円が相当である。また、原告の前記右足のしびれ感の後遺症についての慰謝料としては三〇万円が相当である。
3 よって、原告の本件事故による損害の額は、合計一二二万九九七〇円である。
三 争点3について
1 証拠(乙一号証、四号証、五号証、原告本人、被告本人)によれば以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
本件事故現場付近道路は、最高速度が四〇キロメートル毎時に制限され、アスファルト舗装された、見通しの良い、片側一車線の南北に延びる市道であり、南方から北方へと若干上り坂になっている。右道路の車道の幅は片側三・五メートルであり、その外側に約二・〇メートルの幅の路側帯が設けられている。
被告は、本件事故の現場近くの勤務先である岩瀬外科から右道路に右折進入し、時速約二〇ないし三〇キロメートルの速度で被告車を走行させたところ、路側帯に止まっている原告車を左前方約三三・〇メートルの地点に発見したため、原告車の動静に注意して被告車を走行させていた。
他方、原告は、右道路の路側帯上を、南方から北方へと原告車を走行させて買い物から自宅に帰るところであったが、本件事故現場西側にある金物屋に寄ろうと路側帯上に原告車を一旦停止させた。その後原告は、先に買い物してきた荷物を本件事故現場東側にある自宅に置いてくることにしようと、右道路を横断することにした。そして原告は、もっぱら北方から来る車について注意を払い、南方から来る車に対する注意を怠ったまま、原告車を運転して右道路の横断を開始した。被告は、原告車の動きに危険を感じたものの、急ブレーキを踏む間もなく原告車に衝突し、本件事故が発生した。
2 右のような原告の損害については、公平の観点からその過失を斟酌するのが相当であり、その割合は原告が高齢(大正一〇年四月一五日生)であることを考慮しても八五パーセントとするのが相当である。
四 結論
以上によれば、被告が賠償すべき原告の損害は一八万四四九五円であるから、前記既払金を損益相殺すると、これはすべててん補されていることになる。したがって、原告の本訴請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 榊原信次)