大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(わ)945号・平8年(わ)1157号 判決

主文

被告人を懲役三年及び罰金五〇〇〇万円に処する。

罰金を完納できないときは、七万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から五年間懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、岐阜県大垣市禾森町二丁目六七番地の二において、不動産の売買・仲介などをしているものであるが

第一  平成五年一一月三〇日に解散し、平成六年三月二三日に清算を結了した農事組合法人小牧養豚組合の清算人として組合の清算業務に従事していた分離前の相被告人塚原三佳、同玉置義一、同安藤義鉦及び同玉寄兼光と共謀の上、組合所有の固定資産である不動産を株式会社安田工機こと被告人に売却した不動産取引に関し売買代金額を偽って組合の法人税を免れようと企て、組合所有の不動産の真実の売買代金が一七億四八六万四五〇〇円であるのに一一億円であるとの虚偽の売買契約書を作成し、被告人から六億四八六万四五〇〇円の裏金を受領して組合の固定資産売却益の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、組合の実際の清算所得金額が一六億七九二万九一六八円であったにもかかわらず、平成六年三月二四日、愛知県小牧市中央一丁目四二四番地所轄小牧税務署において、同税務署長に対し、組合の清算所得金額が一〇億三〇六万四六六八円で法人税額が三億五三二二万七七〇〇円であるとの虚偽の法人税確定申告書を提出した。その結果、組合の平成五年一二月一日から平成六年三月二三日までの清算結了事業年度における正規の法人税額五億六三七二万五〇〇円と申告税額との差額二億一〇四九万二八〇〇円を免れた。

第二  所得税を免れようと企て、株式会社安田工機の名称で、前記組合から、組合所有の不動産を一七億四八六万四五〇〇円で購入し、株式会社シミズに二二億五〇〇〇万円で転売した不動産の売買に関して、架空の経費を記載した領収書を作成し、売上金を他人名義の預金口座に入金するなどの方法により、その所得を秘匿した上、平成五年分の実際総所得金額は五〇〇〇万円で、分離課税による超短期所有土地に係る雑所得の金額が二億一〇八九万五五〇〇円であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成六年三月一五日までに岐阜県大垣市丸の内二丁目三〇番地所轄大垣税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の所得税一億四七一九万五五〇〇円を免れた。

(証拠) カッコ内の甲乙の番号は検察官請求証拠番号を示す。

全部の事実

一  被告人の公判供述、第一回公判調書中の供述部分、検察官調書(乙27から35)

一  分離前の相被告人塚原、同玉置、同安藤、同玉寄の第一回公判調書中の各供述部分

一  分離前の相被告人塚原(乙2から6)、同玉置(乙9、10)、同安藤(乙13から16)、同玉寄(乙20から23)の検察官調書

一  吉野和利(甲4)、舟橋弘(甲5)、清水善一(甲6)、清水峯子(甲7)、今村堅三(甲8、謄本)、市原謙二(甲9、10)、川瀬文彦(甲11、18)、國井澄男(甲13)、大栁利夫(甲19から21)、德田季隆(甲22)、梅本正敏(甲23)、貞木正宗こと李炳始(甲24)、中村こと金昭洋(甲25、26)、夏山政勝こと曺圭復(甲28から30)、横田康司こと朴康鎭(甲31)、山本次郎こと呉次郎(甲32、33)、河合秀雄(甲34から38)、伴博文(甲40)、平輝史(甲45、47)の検察官調書

一  捜査報告書(甲110、111、113、114)

一  法人閉鎖登記簿謄本(甲1)

一  証明書(甲2)

一  脱税額計算書(甲3)

第二の事実について

一  被告人の検察官調書(乙36から57、59)

一  中村こと金昭洋(甲27)、河合秀雄(甲39)、平輝史(甲48、49、52から57)、今村堅三(甲60から62、各謄本)、川瀬文彦(甲63から66)、岩本秀夫(甲73)、日比勝子(甲74から76)、日比清二(甲78)、田中美子(甲79、80)、生頼久夫(甲84)、岩本勝男(甲99)の検察官調書

一  捜査報告書(甲112)

一  脱税額計算書(甲46)

(第二の事実認定の補足説明)

被告人は、事実を認めるものの、<1>所得税のほ脱による秘匿所得の使途先について、岩本勝男に一億二〇〇〇万円を、「金」と称する人物に一一〇〇万円をそれぞれ支払った、<2>小牧養豚組合との最終決済時において、組合から税務対策保証料として五〇〇〇万円を受領したことはないと公判等で弁解する。

しかし、<1>については、被告人の供述によっても、岩本や金は、いずれも本件不動産について何ら権利がないし、本件不動産の取引に関与したとも認められず、取引には不必要というべきであるから、たとえ支払い事実があったとしても、経費とは認められない。また、支払ったことの証拠は被告人の供述のみであるところ、この点に関する被告人の供述は、捜査の過程で支払先を隠したり、支払金額を転々と変えるなど信用性が低く、他に支払い事実があったことを裏付ける証拠もない。

次に、<2>については、被告人も第一回と第六回公判ではこれを認めていた上、塚原ら分離前の相被告人全員が一致して、最終決済時に被告人が五〇〇〇万円を持っていったと供述しており、これに疑いを入れるような事情もない。

したがって、被告人の弁解はいずれも採用できず、第二の事実を認定できる。

(法令の適用)

罰条 第一の行為 平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、法人税法一五九条、一〇四条一項

第二の行為 所得税法二三八条

刑種の選択 いずれも懲役、罰金の併科刑

併合罪の処理 前記改正前の刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき前記改正前の四八条二項

労役場留置 前記改正前の刑法一八条

執行猶予 (懲役刑につき) 前記改正前の刑法二五条一項

(量刑理由)

本件は、被告人が、分離前の相被告人塚原三佳らと共謀して、塚原らが理事兼組合員となっていた農事組合法人小牧養豚組合の解散に際し、組合のほぼ唯一の資産であった養豚場跡地を被告人が買い受け、塚原らに一人当たりの税引後の手取額一億六〇〇〇万円以上という高額な配当を得させる目的で、虚偽の売買価格の申告をして法人税の一部を不正に免れ(第一)、さらに、右土地を産業廃棄物処理業を営む株式会社シミズに転売して高額の利益を得たにもかかわらず、確定申告をしないで、平成五年分の所得税の全部を免れた(第二)事案である。

被告人は、売主の組合理事らがいわゆる裏金取引を渋っていたところ、これに積極的に働きかけて取引を押し進め、実際は被告人が約一七億円で購入した本件土地の購入価格を一一億円に圧縮し、不動産売却による収入の三分の一以上を秘匿した(第一)。そして、その土地を二二億五〇〇〇万円で転売して利益を上げたのに、借名口座に預金したり、架空の領収証を作成するなどして、所得を秘匿した(第二)ものである。いずれも、態様悪質であるばかりか、産業廃棄物処理業を始めるための資金を蓄えるという自らの利欲目的に基づく犯行でもあり、動機に酌むべき点はない。

法人税法違反のほ脱税額は約二億一〇〇〇万円と極めて多額で、ほ脱率も約三七・三パーセントと低くない。所得税法違反事件のほ脱税額は約一億五〇〇〇万円で、ほ脱率は一〇〇パーセントと高率であり、延滞税・重加算税等は未納である。

被告人は、昭和六〇年ころから、無資格の土地仲介業をしながら、会計帳簿や帳票を作成せず、これまでに一度も所得税の確定申告をしたことがないなどまったく納税意識が欠如しており、常習的に脱税を重ねていた。平成六・七年分のほ脱所得の申告については、未処理のままである。

この種高額、悪質な脱税事犯が社会に及ぼす悪影響なども考慮すると、被告人の刑事責任は重い。

一方、法人税法違反については、組合理事が多額の手取額に固執したことが犯行の一因になっている。そして、法人税については塚原らにおいて既に国税・地方税とも全額納付している。被告人は、平成五年分の所得税本税を全額納付しており、延滞税等未納分の一部についても借金をして納付する計画を立てている。犯罪事実自体は認めており、税理士と委嘱契約を結ぶなど再犯防止のための措置もとって、反省の態度を示している。その他、本件で逮捕勾留され相当期間身柄拘束を受けていることや、同種前科がないこと、直近の懲役前科で服役してからすでに一五年以上経っていることなど被告人のために酌むべき事情もある。

以上の事情のほか、脱税事犯の一般的な量刑等も考慮して、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑とし、懲役刑については刑の執行を猶予する。

(求刑-懲役三年及び罰金五〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 安江勤 裁判官 土屋哲夫 裁判官 水野将徳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!