名古屋地方裁判所 平成8年(モ)1166号 決定 1998年7月31日
名古屋市<以下省略>
申立人(原告)
X株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
織田幸二
右訴訟復代理人弁護士
角谷晴重
同
朴憲洙
東京都中央区<以下省略>
被申立人(被告)
国際証券株式会社
右代表者代表取締役
B
右訴訟代理人弁護士
松下照雄
同
川戸淳一郎
同
竹越健二
同
白石康広
同
鈴木信一
同
本杉明義
以下、申立人を原告と、被申立人を被告という。
主文
一 被告は以下の文書(当該日時における全店舗分の原告以外の記載欄もすべて。)を、原告以外の顧客名・顧客コードを消去し、顧客ごとに符号を付して提出せよ。
1 本件「システム・オープン・ブロックオファー」の平成二年一〇月二日の取引日記帳
2 本件「THK」株に関する平成三年四月二二日の取引日記帳
二 原告のその余の申立を却下する。
事実
第一申立
被告は以下の文書(当該日時における全店舗分の原告以外の記載欄もすべて)を提出せよ。
1 本件「インデックス・ポートフォリオ・ファンド」に関する平成二年八月二三日、同月二四日の取引日記帳(ただし、原告以外の顧客分については顧客コードを残し、顧客名を抹消したもの)
2 本件「システム・オープン・ブロックオファー」の平成二年一〇月二日の取引日記帳
3 「THK」株に関する平成三年四月二二日の取引日記帳
第二当事者の主張
一 申立の理由
1 証すべき事実
(一) 本件「インデックス・ポートフォリオ・ファンド」の取引につき、実際には平成二年八月二四日に原告に売られているのにも関わらず、被告の帳簿上前日の八月二三日に販売されたものと記載し、被告は大蔵省令で定められた法定帳簿に不実の記載をしている。被告が原告以外の顧客にも同様の販売をしているか否かを明らかにして、組織的に本件「インデックス・ポートフォリオ・ファンド」を「不当日商い」等と称して確実に利益が出るかのごとき誤解を誘引する違法な販売方法を行っていることを明らかにする。
(二) 本件「システム・オープン・ブロックオファー」の取引につき、平成二年一〇月二日における被告の買付及び売付の受注数量・約定数量から、右当日の申込状況を明らかにし、実際に右当日予定募集口数限度一杯の売買がなされたか否かを明らかにする。
(三) 本件「THK」株の取引につき、平成三年四月二二日に原告は単価一万四一〇〇円で買い付けているが、同値での売付をしたのは誰か(A社長か、彼自身か、被告関連会社か)につき明らかにする。
2 提出義務
民事訴訟法二二〇条四号
二 被告の主張
1 提出義務について
取引日記帳は、注文内容の詳細が記載された注文伝票の内容をもとに、証券会社の控えとして作成されるものであり(同時に顧客に送付する書類として取引報告書が作成される)、その控えとしての意味が重要であるから被告の内部文書である。また原告以外の他の顧客の取引が記載された部分は、挙証者と所持者との間の法律文書ではなく、これを提出することは金融機関として顧客に対して有する守秘義務に違反する。
2 提出の必要性について
(一) インデックス・ポートフォリオ・ファンドの取引については、取引日記帳には平成二年八月二三日及び同二四日の取引の記載があるのみであって、原告が主張する「なぜに前日値で、売却(購入の誤りと思われる。)できたのか」とか、「原告の取引には他のと顧客と比べて特別の利益を図ったものか」などの点に関する情報は何ら記載されていない。
(二) システム・オープン・ブロックオファーの取引については、取引日記帳には最終的に成立した取引内容が記載されているのであって、募集口数の超過状況等取引成立にいたる経過の情報は何ら記載されていない。
(三) THK株の取引については、すでに平成三年四月二二日付け日名古屋支店における取引日記帳を提出済みであるところ、区分欄「三部」、取引欄「08」及び付合欄「54」の記載により本件取引が日本店頭証券株式会社に対する委託販売であることが示されている。そして、右同日被告がTHK株式の自己売買を行っていないことは甲一五により明らかである。
第三判断
一 文書について
取引日記帳はいずれも証券取引法に基づいて証券会社に作成が義務づけられた法定帳簿であり、日記またはメモのような備忘録ではなく、専ら所持者または作成者の内部的な自己所有目的で作成されたに過ぎない内部文書とはいえない。
二 提出の必要性について
原告が取引をした日時に同一の銘柄を取り引きした原告以外の顧客や被告の自己取引の内容が開示されなくては争点解明の目的を達し得ない場合には、取引日記帳の原告の取引以外の記載についても、提出の必要性があるというべきである。
1 「インデックス・ポートフォリオ・ファンド」に関する取引日記帳について
被告が、平成二年八月二四日に、原告に対し同月二三日の基準値で購入できる旨勧誘したことは被告も認めるところである。
ところで、一件記録によれば、投資信託の取引において顧客は証券会社に基準価格で受益証券の買い取りを請求することができる旨約定があることから、証券会社は顧客から買取請求を受け買い取りをした場合、これを保有することがあること、証券会社が保有する受益証券の取引では、投資信託委託会社での手続を要せずに前日の売却価格で取引が行うことが可能であることが認められる。したがって、原告以外にも同様の取引がありうることであるが、仮に同様の取引があったとしても、直ちに、断定的判断の提供があったことを立証できるものではないし、取引日記帳から、原告の主張するような勧誘文言を立証するに足りる情報が明らかになるとは考えがたいところであるから、右取引の取引日記帳を提出させる必要性は認めがたい。
2 「システム・オープン・ブロックオファー」の取引に関する日記帳について
取引日記帳には最終的に成立した取引内容が記載されるのであって、募集口数の超過状況等取引成立に至る過程の情報は何ら記載されていないため、募集口数の超過状況は明らかにならないが、原告以外の顧客に割り当てられた口数は、取引日記帳から明らかとなり、当日予定募集口数限度一杯の売買がなされたかを証明することができるから、取引日記帳を提出させる必要がある。
3 「THK」株の取引について
THK株の取引がクロス商いであるか否かを確定するために、平成三年四月二二日に原告が買い付けた単価一万四一〇〇円と同値での売付をしたのは誰を明らかにする必要があり、そのためには同日の取引日記帳の提出が必要である。
4 ただし、提出すべき2、3記載の取引日記帳について、他の顧客のプライバシー保護、証券会社の守秘義務の観点から、原告以外の顧客の名前、コード番号を消去し、顧客ごとに符号を付して提出させるのが相当である。
三 以上によれば、原告の申立は主文一項記載の範囲で理由があるので認容し、その余は理由がないので却下する。