大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)1558号 判決 1997年10月24日

原告

三村文夫

被告

尾崎健二

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二〇〇万五七九二円及びこれに対する平成五年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一五分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一五三三万一六四四円及びこれに対する平成五年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、客として乗車中のタクシーに大型貨物自動車が衝突した事故により負傷した被害者が、右貨物自動車の運転者に対し民法七〇九条により、同車の保有者に対し自賠法三条により、それぞれ損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  被告尾崎健二は、平成五年二月二三日午前一〇時三五分ころ、大型貨物自動車を運転して、国道一七二号の第二車線を東から西に向かって走行し、大阪市港区三光二丁目一番一三号先の交差点(以下「本件交差点」という。)において、東方へUターンしようとして同車を右方へ転回させた際、折から同国道の第三車線を東から西に向かって走行してきた國本則行運転のタクシーと衝突した。

2  被告尾崎は、本件交差点においてUターンが禁止されていたにもかかわらず、これに違反し、かつ、このような場合、自動車運転者としては、方向転換をしようとする右方はもとより、右前方に対しても十分注意し、交差点に進入している車両等の動向に留意し、その交通の安全を確認した後に進行し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、右前方不注視のまま右方への転回を続けた過失がある。

3  被告有限会社上田産業運輸は、本件事故当時、被告尾崎運転の加害車両を自己のために運行の用に供していた。

4  原告は、本件事故による損害の填補として、一二万一〇八五円の支払を受けた。

二  争点

原告の損害額が争点であり、これにつき、原告は、治療費八四〇円、通院交通費二三万六九二〇円、文書料等二万二四三〇円、休業損害一八四万四〇四九円、通院慰謝料九〇万円、後遺障害逸失利益八五五万八四九〇円(一二級一二号)、後遺障害慰謝料二五〇万円、弁護士費用一三九万円を主張し、被告は、右主張を争い、原告は昭和五七年一二月二九日にも交通事故に遭遇し、後遺障害一四級一〇号の認定を受けており、右後遺障害による症状は、原告が現在の症状として主張しているものと同一であると主張する。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲六の1、2、八、九、一〇、一一、乙一、二、三の1ないし7、四の1ないし3、五の4ないし18、20、原告)によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、愛知県海部郡弥富町に自宅を持ち、本件事故当時、大阪市西区内の東亜建設工業株式会社大阪支店に単身赴任していた。

原告は、本件事故当日、大阪市西区内の多根病院において診察を受け、頭部外傷第二型、左肘部打撲、外傷性頸部捻挫との診断を受けた。

原告は、平成五年二月二五日、名古屋市港区内の中部労災病院に転院し、同病院脳神経外科において診察を受け、頭重感、頸部痛、右手の痺れを訴え、頭部外傷、腰部挫傷、外傷性頸部捻挫、腰椎挫傷との診断を受けた。

中部労災病院における診察では、神経学的所見は認められず、頸部、腰部のX線撮影、頭部CT撮影による検査の結果も異常は認められず、一方で、原告には変形性脊椎症の既往障害が存在することが確認された。

以上の診断に基づき、原告は、同病院において、炎鎮痛剤の投与、温熱療法による対症的治療を受けた。

2  原告は、平成五年二月二五日から平成六年三月三一日までの間、中部労災病院に一月に一回ないし二回程度の割合で実日数一七日の通院をし、主治医は、同年二月初旬ころの時点で、原告は同年二月一日より出社可能だが、身体的、精神的に負荷の過剰な仕事は避けた方がよいとの判断をし、同年三月末日の時点では、原告は四月一日より正常勤務が可能であるが、更に一、二か月の内服治療、リハビリテーションが必要であるとの判断をしていた。

3  原告は、平成六年四月一日以降、同年一二月一四日までの間、同病院に二か月に一回程度の割合で実日数四日の通院をし、右一二月一四日付けで症状固定となった。

原告の右症状固定時における自覚症状は、頭重感、頸部痛、右手の痺れ、腰痛、右下肢冷感、右下肢がつってくる感じであり、他覚的には、握力は右手が三二キログラム、左手が四一キログラムで、右上肢腱反射がやや亢進しており、頸部運動制限、右頸部の突っ張りが見られ、右ラセーグ、ケルニッヒ反射は陽性であり、右座骨神経領域の知覚が鈍麻していた。しかし、頭部CT撮影、腰部X線撮影の結果は正常であり、頸部MRI検査でも外傷性の変化は認められなかった。

原告は、現在、長時間にわたって腰掛けていたり、歩行したりすると、右半身に痺れと冷感が発現する。

原告の主治医は、原告には変形性脊椎症の既往障害があるが、このような障害がある場合には、そうでない場合と比較して、治療が遷延するとの判断を示している。

自賠責保険は、平成七年一一月二二日、原告には自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表に該当する後遺障害はないとの判断をした。

4  原告は、昭和五七年一二月二九日にも交通事故に遭遇し、頸部挫傷の傷害を負い、昭和六〇年二月二日まで整形外科医院に通院し、右手握力の低下、頸椎運動痛等の後遺障害につき自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号該当の認定を受けた。しかし、右後遺障害による身体症状は、本件事故前には消失していた。

二  右のとおり、原告には、本件事故後の診察において他覚的異常所見は認められなかったものの、本件事故後、頭重感、頸部痛等の身体症状が発現し、医師もこれに対する治療の必要を認めたものであり、他方、昭和五七年の事故による後遺障害が本件事故当時も継続していたことを認めるに足りる証拠はないことに照らせば、多根病院及び中部労災病院が原告についてした前記診断による傷害及びこれについて要した治療は、本件事故に起因するものというべきである。

もっとも、原告には、変形性脊椎症の既往障害が存在し、これが原告の治療を遷延させた可能性が強いことは前記のとおりであり、これに前記治療の経過等の事情を併せ考えれば、平成六年四月一日以降、本件事故による傷害のために原告に生じた損害については、その三分の二の限度でその原因を本件事故に帰せしめるのが相当である。

また、前記認定事実によれば、原告に、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表に該当する程度の後遺障害が存在するものということはできない。

三  右認定事実に基づき、原告が被った損害について判断する。

1  治療費 五六〇円

証拠(甲三の1、2)によれば、原告は、中部労災病院での治療費として、平成六年五月二六日に五五〇円、同年七月七日に二九〇円を支払ったことが認められ、前記のとおりその合計額八四〇円の三分の二の五六〇円が本件事故による損害となる。

2  通院交通費 二万八七一三円

原告は、中部労災病院への通院交通費として、新大阪駅から名古屋駅までの新幹線乗車費用を含む交通費を請求しているが、原告の傷害の内容に照らし、治療のために敢えて大阪市内から中部労災病院に通院する必要があったものとは認められず、右病院への通院交通費としては、原告が愛知県海部郡弥富町内の自宅から同病院に通院したと仮定した場合の交通費の限度で認めるのが相当である。

そして、証拠(甲四の3)によれば、公共の交通機関により右自宅から中部労災病院に通院した場合の交通費(往復)は一四六〇円であることが認められるから、通院実日数二一日間(そのうち、四日間については三分の二)の合計は二万八七一三円となる。

3  文書料等 二万二四三〇円

証拠(甲五の1ないし8、原告)によれば、原告は、本件事故に関連して、文書料等として合計二万二四三〇円を支出したことが認められ、右金額は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

4  休業損害 一〇九万五一七四円

証拠(甲六の1、2、原告)によれば、原告は、本件事故後平成六年四月末日までに合計四六日の欠勤をし、一二〇万七七一三円(そのうち平成六年四月分は三三万七六一六円)を給与から減額されたことが認められ、そのうち一〇九万五一七四円(八七万〇〇九七円+三三万七六一六円×二/三)は、本件事故による損害と認めるのが相当である。

原告は、右のほか、有給休暇分の三六日につき原告の平均給与日額を基礎とする休業損害六三万六三三六円を主張するが、右休暇日数につき給与の減額はされなかったのであるから、原告主張の右金額を休業損害と認めるのは相当でなく、原告が本件事故により右のとおり有給休暇の使用を余儀なくされたことは、慰謝料算定の一事情として斟酌するのが相当である。

5  通院慰謝料 八〇万〇〇〇〇円

原告の傷害の程度、前記治療の経過、前記のとおり、原告は本件事故のために有給休暇の使用を余儀なくされたこと等の事情に照らせば、原告の通院慰謝料の額は八〇万円と認めるのが相当である。

6  後遺障害による逸失利益、慰謝料

前記のとおり、原告には、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号に該当する程度の後遺障害が存在するものということができず、しかも、証拠(甲六の3、一二ないし一四、原告)によれば、原告は、本件事故後、欠勤による給与の減額のほか、勤務先において処遇上不利益を受けてはいないことが認められるから、後遺障害による逸失利益及び慰謝料の損害は認められないものといわなければならない。

以上によれば、原告の損害額の合計は一九四万六八七七円となり、右金額から前記既払金一二万一〇八五円を控除すると、残額は一八二万五七九二円となる。

三  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一八万円と認めるのが相当である。

(裁判官 大谷禎男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例