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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)1589号 判決 1997年4月30日

原告(反訴被告)

有限会社陸進運輸

被告(反訴原告)

河上圭三

主文

(本訴事件について)

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金一二五万〇四〇〇円及びこれに対する平成六年一二月一一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

(反訴事件について)

三 反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対し、金九万七〇〇〇円及びこれに対する平成六年一二月一一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四 反訴原告(被告)のその余の請求を棄却する。

(訴訟費用について)

五 訴訟費用については、本訴事件及び反訴事件を通じて、これを一〇分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

六 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

<以下においては、原告(反訴被告)有限会社陸進運輸を単に「原告」と、被告(反訴原告)河上圭三を単に「被告」と、それぞれ略称する。>

第一請求

一  本訴事件(原告の請求)

被告は、原告に対し、金一四四万四七四五円及びこれに対する平成六年一二月一一日(不法行為の日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―民法七〇九条に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】

二  反訴事件(被告の請求)

原告は、被告に対し、金九七万円及びこれに対する平成六年一二月一一日(不法行為の日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―民法七一五条、民法七〇九条に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】

第二事案の概要

本件交通事故は、交通整理の行われている交差点において、原告の従業員である訴外千葉康(以下「訴外千葉」という。)運転のトラツクと、被告運転の自動車とが衝突したものであり、右の事故により双方の車両が損壊するなどの損害が発生したことから、右の物的損害につき、原告と被告が、民法七一五条、民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

訴外千葉と被告との間において、次のような交通事故が発生し、双方の車両が損壊するなどの損壊が生じた(以下、右事故を「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成六年一二月二日午後二時五〇分ころ

(二) 場所 名古屋市名東区猪高台一丁目一四一〇番地猪高台交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 被害車両 大型貨物自動車(以下「原告車」という。)

右運転者 訴外千葉

右所有者 原告

(四) 加害車両 普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告

右所有者 被告

(五) 態様 信号機のある本件交差点を青色信号に従つて、北から南へ直進通過しようとした訴外千葉運転の原告車と対向右折しようとした被告車とが衝突した。

2  責任原因

(一) 被告の責任原因

被告は、民法七〇九条により、原告の本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

(二) 原告の責任原因

訴外千葉は、原告の業務に従事中に本件事故を起こしたものである。

二  本件の争点

損害額のほか、本件事故の具体的状況並びにそれに基づく訴外千葉と被告の過失の有無及びその程度に争いがあるが、主たる争点は以下のとおりである。

1  過失相殺

(一) 被告の主張

訴外千葉には、対向車線から右折してくる車両の有無と安全を確認する注意義務があるのにそれを怠り、漫然と本件交差点へ進入したという過失がある。

(二) 原告の主張

本件事故は、被告の前方注視義務違反・安全運転義務違反の全面的過失によつて発生したものであり、訴外千葉には、直進車の直前を右折通過しようとする車両のあり得ることまで予測すべき注意義務はなく、訴外千葉は無過失である。

2  原告の損害

原告は、本件事故による損害として休車損害が金五九万四三四五円である旨主張するが、被告は、その算定方法につき休車期間中の訴外千葉の人件費を休車損害額から差し引くべきであると主張する。

第三争点に対する判断

(なお、以下において使用する書証の成立については、甲第二号証の一ないし五、甲第三号証、甲第七号証及び甲第八号証については、証人竹内淑子の証言及び弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められ、甲第六号証の書き込み部分及び乙第二号証については、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められ、その余の各書証については、その成立<写しについては、原本の存在とその成立ともに。写真については、その主張通りの写真であることに関して。>につきいずれも当事者間に争いがない。)

一  原告の損害額について

1  車両損害(請求金額七〇万〇四〇〇円)

認容額 金七〇万〇四〇〇円

争いのない事実及び証拠(甲第四号証の一、二、証人竹内淑子の証言)並びに弁論の全趣旨により、原告主張のとおりこれを認めることができる。

2  休車損(請求金額五九万四三四五円)

認容額 金四五万円

争いのない事実及び証拠(甲第二号証の一ないし五、甲第三号証、甲第七号証、証人竹内淑子の証言、証人千葉康の証言)並びに弁論の全趣旨によれば、原告車の損壊により修理期間一五日間を要して原告車を修理し、原告車を休業せざるを得なかつたことによる本件事故と相当因果関係のある損害額は、金四五万円(一日当たりの原告車休業による損害は、金三万円であると認めるのが相当である。)であると認めるのが相当である。

二  被告の損害額について

車両損害(請求金額八七万円)

認容額 金八七万円

争いのない事実及び証拠(乙第一号証、被告本人の供述)並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故により被告車は大破し、その修理費用は被告車の本件事故当時のその時価額を上回ることが認められ、したがつて、被告車の損害としては、被告車の時価相当額である金八七万円の限度で認めるのが相当である。

三  本件事故の態様及び事故原因について

前記の争いのない事実に、証拠(甲第一号証、甲第四号証の一、二、甲第五号証、甲第六号証、乙第一号証、乙第二号証、証人千葉康の証言、被告本人の供述、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場の状況

本件交差点は、本件交差点において東から西に走る道路(以下「東西道路」という。)と南から北に走る道路(原告車及び被告車がともに走行していた道路。以下「南北道路」という。)とがほぼ直角に交差する信号機により交通整理の行われている十字交差点であること、東西道路は、その幅員約一〇・七メートルであり、南北道路は、車道幅員約二六・四メートルで、幅員約八・六メートルの中央分離帯によつて、南行車線(原告進行道路、幅員約九・六メートル)と北行車線(被告進行道路、幅員約八・二メートル)とに区分されていること、南北道路は片側二車線で本件交差点付近で右折専用車線が加わり三車線となつていること、また、南北道路は最高速度五〇キロメートルの交通規制が実地されており、本件事故当時、本件交差点の信号機には右折車用の矢印信号は設置されていなかつたこと、本件交差点の四方の各入口の路上には、白線によつて幅約四・二メートルの横断歩道が表示されているほか、本件交差点のほぼ中央には右折車両のために右折の方法を指示する菱形の道路標示が存在すること。

2  本件事故の態様

被告は、被告車を運転して、対面の青色信号に従い被告車進行道路の右折専用車線を北進して本件交差点に進入し、本件交差点中央の菱形道路標示付近で一時停止した後、発進して右折進行した際、同乗していた被告の妻との会話及び右折方向前方(東西道路の東側)の横断歩道に気を取られ、原告車進行道路を南進してくる対向車両の有無を確認しなかつたことから、折から青色信号に従つて原告車進行車線を南行し、時速約五〇キロメートルで本件交差点に直進進行してきた原告車の存在を被告車の前方約一メートルの地点に初めて認め、あわてて急ハンドルの措置を採つたものの間に合わず、被告車の前部が原告車の右前部に衝突したものであること。

これに対して、原告は、対面の青色信号に従い原告進行道路の第一車線を時速約五〇キロメートルで南進し、時速約五〇キロメートルで本件交差点に直進進行しようとして、本件交差点手前約八・二メートルに至つて本件交差点を右折進行してきた被告車の存在を右前方に初めて認め、急ブレーキの措置を採つたものの間に合わず、原告車の右前部が被告車の前部に衝突したものであること。

<以上1及び2の各事実が認められ、右認定に反する被告本人の供述は、前掲の他の証拠に照らして、これを採用することができない。>

3  そこで、以上の事実関係を前提にして、まず、被告の過失を検討するに、

本件交差点内を右折進行するに際しては、原告車進行道路を南進してくる対向車両の有無を十分に確認し、対向直進車両が存在しないこと、あるいは対向直進車両が存在する場合にはその位置及び速度を的確に判断して、当該車両の運転者に対して衝突の危険を感じさせることなく安全に被告車の右折を終了することができることを確認した後に被告車の右折進行を開始すべき注意義務がある(道路交通法三七条)のに、これを怠り、対向車両の有無を十分に確認しないまま漫然右折進行した重大な過失がある。

4  これに対して、訴外千葉の過失を検討するに、

原告進行道路は幅員の広い幹線道路であり、対面信号が青色を表示しており、さらに原告車は右折車に優先する直進車であるとはいえ、原告車は信号機の表示に従つて、制限速度を守つて進行しさえすれば足りるというものではなく、対向車線からの右折車両が交差点内に進入し原告車の進路を妨害し衝突する事故に至ることのあり得ることは十分予見できたのであるから、原告車には、本件交差点に進入するにあたり対向車線からの右折車両の有無及び安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、本件交差点の安全確認が不十分のまま漫然本件交差点に進入しようとした過失がある。

ただし、原告車が本件交差点に制限速度を超える速度で進入するなどの他の過失を認めるに足りる証拠はないから、訴外千葉の右過失は、被告の前記重過失に照らして軽微なものにとどまるものと認められる。以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  過失相殺について

前記三で認定の各事実によれば、本件事故は、被告と訴外千葉の過失とが競合して発生したものといわざるをえない。そして、前記認定の諸事情に徴すると、本件事故における被告車と原告車との過失割合については、被告車(被告)が九割、原告車(訴外千葉)が一割と認めるのが相当である。

五  原告の責任原因について

前記の争いのない事実、前記三で認定した各事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は、民法七一五条、民法七〇九条により、被告の本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

六  具体的損害額について

1  原告について

前記一で認定のとおり、本件で原告が被告に対して請求しうる損害賠償の総損害額は合計金一一五万〇四〇〇円となり、前記四で認定の過失割合による過失相殺をすれば、原告の具体的な損害賠償請求権は金一〇三万五三六〇円となる。

2  被告について

前記二で認定のとおり、本件で被告が原告に対して請求しうる損害賠償の損害額は金八七万円となり、前記四で認定の過失割合による過失相殺をすれば、被告の具体的な損害賠償請求権は金八万七〇〇〇円となる。

七  弁護士費用について

1  原告について(請求額金一五万円)

認容額 金一〇万円

本件事故と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当の損害は、金一〇万円と認めるのが相当である。

2  被告について(請求額金一〇万円)

認容額 金一万円

本件事故と相当因果関係のある被告の弁護士費用相当の損害は、金一万円と認めるのが相当である。

八  結論

1  原告の請求(本訴事件)について

以上の次第で、原告の本訴請求は、金一二五万〇四〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日である平成六年一二月一一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

2  被告の請求(反訴事件)について

以上の次第で、被告の反訴請求は、金九万七〇〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日である平成六年一二月一一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 安間雅夫)

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