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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)569号 判決 1999年2月09日

原告

石田永泰

右訴訟代理人弁護士

水野弘章

被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

樋口公啓

右訴訟代理人弁護士

後藤和男

田中登

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実および理由

第一  請求

被告は原告に対し、金一億二七四三万〇六四三円及びこれに対する平成八年三月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、被告との間で店舗総合保険契約を締結した保険契約者コモタージこと池永広子(以下「池永」という)から、保険事故による保険金請求権を譲り受けたとする原告が被告に対し、保険金の支払を求めたのに対し、被告は後記のとおり主張してこれを争った事案である。

二  前提事実

1  店舗総合保険契約の締結(当事者間に争いがない)

(一) 保険者 被告

(二) 保険契約者 コモタージこと池永広子

(三) 保険の目的の所在地

名古屋市守山区<番地略>

(四) 保険の目的及びこれを収容する建物の構造、用法

商品、原材料、製品等

収容場所は鉄骨スレート張り金属板金葺併用住宅(以下「本件倉庫」という)

(五) 保険期間 平成五年一二月二四日から平成六年一二月二四日午後四時まで

(六) 保険金額 二億五〇〇〇万円

2  右保険約款一条一項には、「被告はこの約款に従い、火災によって保険の目的について生じた損害に対して損害保険金を支払います」旨の規定がある(当事者間に争いがない)。

3  平成六年八月五日午前〇時一二分頃、前記保険の目的の収容場所において火災が発生した(以下「本件火災」という)(当事者間に争いがない)。

二  当事者の主張

1  原告

(一) 本件火災により、保険の目的である別紙被害品リスト記載の商品、原材料、製品等が全焼した。

(二) 右損害は、点数で一万〇九八三点、金額で一億二七四三万〇六四三円である。

(三) 原告は、平成六年九月一四日、池永から右一億二七四三万〇六四三円の保険金請求権を譲り受け、その頃池永は被告又はその代理店に右債権譲渡を口頭で通知した。

2  被告

(一) 原告の主張はすべて否認ないし争う。

(二) 他人のためにする保険契約による免責

本件保険契約の約款一九条一号によると、「他人のために保険契約を締結する場合において、保険契約者が、その旨を保険契約申込書に明記しなかったとき」は、「保険契約は無効」とされているところ、本件火災により損害を被ったと主張する商品は、池永の所有ではなく、原告の所有する物であるのに、その旨保険契約申込書に明記されていないから、前記約款に違反するものとして、本件保険契約は無効である。

(三) 不実の表示による免責

本件保険契約の約款二六条一項によると、「保険契約者または被保険者は、保険の目的について損害を生じたことを知ったときは、これを被告に遅滞なく通知し、かつ損害見積書を被告の要求するその他の書類を添えて、損害の発生を通知した日から三〇日以内に提出しなければならない」とされ、同条四項によると、「保険契約者または被保険者が、正当な理由がないのに一項の規定に違反したとき、または提出書類につき知っている事実を表示せずもしくは不実の表示をしたときは、被告は保険金を支払わない」とされているところ、原告が本件火災により損害を被った商品の損害見積書及びその付属書類として提出した動産り災状況調書、インボイスにおいて、購入数量、金額等に不実の表示をし、また被告の要求するその他の書類を、度重なる催告にもかかわらず、正当な理由なく提出しなかったから、前記約款に違反するものとして、被告は保険金を支払う義務はない。

(四) 故意・重大な過失の事故による免責

本件保険契約の約款二条によると、「被告は、保険契約者、被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反(一号)、被保険者でない者が保険金の全部又は一部を受け取るべき場合においては、その者またはその者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反(二号)、によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない」とされているところ、保険契約締結及び保険金額増額の経緯、火災の発生原因及び通報の経緯、保険の目的物の所有関係及びその品数、単価並びに購入経路及びその資金源、被保険者及びその関係者の火災直後及びその経営状態等について、極めて不審な点が数多く存在するのであり、原告による故意の事故招致であることを肯定するに十分であるから、前記約款に違反するものとして、被告は保険金を支払う義務はない。

三  争点

被告の前記主張(二)ないし(四)(選択的主張)の採否

第三  争点に対する判断

一  前提事実に加えて証拠(甲九、乙二〇、証人池永広子、同好美幸雄、原告、後掲証拠)によれば、以下の事実が認められる。

1  原告、池永及び関係会社の設立等について

(一) 原告は、平成三年三月一九日、衣料品、服飾雑貨の販売等を目的とする有限会社タージコーポレーション(本店住所 名古屋市中区千代田<番地略>)を、当時原告の内妻であった加藤りかを代表取締役として設立し、同年八月頃名古屋市昭和区安田通の賃借店舗兼倉庫で営業を開始したが、平成四年一二月頃、前記賃借店舗兼倉庫を閉鎖したこと(甲六)

(二) また原告は、スナックを経営していた池永と平成二、三年頃から同棲生活を送っていたが、平成四年六月頃、池永の名義で名古屋市東区筒井町のAT3ビルの賃借店舗において「ブティックコモタージ」を開店したこと、池永は同店舗を手伝ったことがあるのみで、その実質的経営者は原告であったこと

(三) 平成四年九月頃、原告は池永の名義で、名古屋市守山区小幡の本件倉庫を賃借したこと、平成四年一二月二四日、原告は池永の名義で、被告との間で、本件倉庫内にある商品について保険金額を五〇〇〇万円とする店舗総合保険契約を締結し、一年後の平成五年一二月二四日、後記のとおり、右保険金額を五〇〇〇万円から二億五〇〇〇万円に増額する本件契約を締結したこと

2  本件契約締結の経緯

平成五年一一月下旬、池永及び原告から被告の保険代理店である日之出商事株式会社(以下「日之出商事」という)に対して、保険金額を五億ないし一〇億円に増額したい旨の申し出があり、被告の営業社員の藤本副主任、日之出商事の坂野所長が応対したこと、原告は、保険金額増額の申し出の理由として、冬期の間閉店して本件倉庫に商品を移すこと、近く大量の商品がシンガポールから搬入されることを述べていたこと、そこで、藤本副主任は、右増額の申し出金額の根拠となる資料の提出を求めたところ、原告からインボイスの写しが提出されたこと、右提出されたインボイスの写しと原告が本訴訟において提出した甲三の1ないし54(インボイス)と同一のものであること、右増額の申し出の際には、原告の私物に対しても保険の目的としたい旨の申し出があったが、その金額の裏付け資料がないため、被告の方でこれを拒否したこと

3  本件火災の三日後である平成六年八月八日午前九時頃、池永から日之出商事に対して、本件火災の連絡があったこと、しかし、池永からは本件火災の詳細な状況について説明を受けることができず、同日午後一時頃、池永に代わって原告から電話で「早く現場に行け」との要求を受けたこと、そして被告は、本件火災現場を調査した際、本件倉庫にあったインボイスの一部(乙一四、一五)を持ち帰ったこと

4  インボイス(甲三の1ないし54、乙一三ないし一五)の検討

(一) 原告提出にかかるインボイス(甲三の1ないし54)について検討するに、各インボイスのナンバーとその日付の順序が時系列的に対応していないこと、また原告の供述及び陳述書(甲九)によると、各インボイスの商品はシンガポール・コモタジ・PTE・LTDから有限会社タージコーポレーションに輸出され、さらに池永に譲渡されたものであるというが、各インボイスの日付からすると、日本に到着したと推定される頃のタージコーポレーションの本店の住所は「名古屋市中区千代田<番地略>」、その店舗・倉庫の所在地は「名古屋市昭和区安田通」であり、いずれも各インボイス上の注文者の住所地である「名古屋市東区筒井」とは異なっていること、またインボイス上の注文者名も「有限会社タージコーポレーション」ではなく「コモタジ・PTE・LTD」となっていること、したがって、少なくとも右インボイスの内、商品の輸入が開始されたとされる平成四年(一九九二年)二月二〇日から右商品が池永に譲渡されたとされる同年一二月までのインボイス(甲三の1ないし34、39ないし42)は原告の供述及び陳述書(甲九)と矛盾すること、さらに、右インボイスには、通常その最下段に存在すべき商品の供給者足るべき者の署名がなく、上段中央部の支払期日の記載もなく、右インボイスに記載の商品が原告主張の如く高価であれば貨物保険が付保されてもよいと思われるのに、その記載欄は空白であること等不合理な点が指摘できるところ、これらについて原告から納得できる説明はないこと

(二) 本件火災現場から採取されたインボイスの一部(乙一四、一五)と被告が弁護士照会により原告の依頼した通関業者の三洋ショッピング株式会社(甲七の78)から取り寄せた原告において通関手続に使用したとされるインボイス(乙一三)とを対比すると、これらは同一のインボイスであり、原告が実際に通関手続に使用したインボイスであると認められること(乙二〇)

(三) 乙一三に記載の商品と甲三の1ないし54記載の商品と同一と考えられる商品で対比すると、輸入先は甲三の1ないし54記載の「コモタジ・PTE・LTD」のみではなく香港及び上海の会社もあり、しかも甲三の1ないし54記載の商品価格は乙一三に記載の商品価格の六倍ないし一〇倍以上であること(乙二〇)

(四) 以上の検討によると、原告が被告に対して、本件火災により損害を被った商品の購入及び金額を裏付ける証拠として提出したインボイス(甲三の1ないし54)は、実際の通関手続において使用したインボイスとは異なり、不実の内容が記載されたものであると認められること

5  また本件火災現場に残留していた商品の一部に対する外観(縫製・仕上がり・付属品)検査によると、生地の欠点(織傷)・染色不良(色むら)・縫製不良等が認められ、右商品は日本国内においてA格商品とは認められないものであること(乙六)

6  本件火災後、被告は原告から提出された資料のみでは不明点があるとして、原告に対して、面談した上で平成六年一二月一日付けの書面をもって、インボイス数量と立会調査結果の数量が異なっていることを説明できる資料、インボイスに記載の商品の原材料入手ルート等の追加資料の提出を求めたのに対し、全く回答していないこと(乙四の1、2)

7  なお、本件火災の出火原因として油類を使用した放火に起因する疑いが濃厚であること(乙一、五)

二 以上の事実が認められるところ、右事実(前記一、7を除く)に弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件火災により損害を被った商品の損害見積書並びにその付属書類として提出した動産り災状況調書(乙一)及びインボイス(甲三の1ないし54)において、商品の購入数量、金額等について不実の表示をしたものと認めるに十分であるから、本件保険契約の約款二六条四項後段に違背するものというべきである。よって、被告の主張(三)は理由があり、被告に本件保険金を支払う義務はない。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官黒岩巳敏)

別紙被害品リスト<省略>

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