名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)85号 判決 1997年2月07日
原告
白井完彦
被告
渡辺脩
ほか一名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 控訴費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自一九三万五五〇〇円及び内金一六五万五五〇〇円に対する平成七年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、左記一1の交通事故の発生を理由として、原告が、被告渡辺脩(以下「被告渡辺」という。)に対して不法行為又は自賠法三条に基づき、被告すみれタクシー株式会社(以下「被告会社」という。)に対して不法行為(使用者責任)又は自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求するものである。
一 争いのない事実
1 本件事故
(一) 日時 平成七年四月九日午後二時五〇分ころ
(二) 場所 名古屋市中川区万町二〇六番地先道路上
(三) 関係車両 原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車両」という。)
(四) 関係車両 被告渡辺運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)
(五) 態様 右場所付近の南北に通ずる道路に北西から南東に向かつて通ずる道路(以下「脇道」という。)が接する変形の三叉路交差点(以下「本件交差点」という。)において、脇道を北西から南東に向かつて進行し本件交差点に進入した原告車両の右前部側面と、南北に通ずる道路を南から北に向かつて進行し本件交差点に進入した被告車両の右前部が衝突した。
2 責任原因
(一) 被告渡辺には、前方不注視義務を怠つた過失がある(なお、原告は、被告渡辺にも自賠法三条に基づく責任があると主張するが、被告渡辺が被告車両の運行供用者であることを認めるに足りる証拠はない。)。
(二) 被告会社は、被告車両を自己のために運行の用に供するものであり、かつ、被告渡辺の使用者であつて、被告渡辺は、本件事故当時、被告会社の業務の執行として被告車両を運転していたものである。
二 争点及び当事者の主張
1 損害額(特に素因減額の可否)
(一) 被告らの主張
原告は、本件事故による受傷に対する治療と同時に、既往の神経因性膀胱炎、右根性座骨神経痛、右骨盤部痛などに対する治療も受けており、このような原告の素因が損害の拡大に寄与していることを考慮すべきである。
(二) 原告の主張
原告は、確かに、本件事故前に坐骨神経痛の治療のために入院していたが、しかし、本件事故は、退院準備のために外出している際に発生したものであるから、右既往症は治癒していたものというべきであり、また、右の既往症による痛みの部位と本件事故に基づく痛みの部位は異なつており、医師も本件事故による受傷と右既往症とを区別しているから、被告らの主張は理由がない。
2 過失相殺
(一) 被告らの主張
本件交差点においては、南北に通ずる道路が優先道路であり、原告車両の進行してきた脇道は、本件交差点の手前において一時停止の規制がなされているものであるところ、原告は、脇道から優先道路に進入するに際し、左右の安全を充分に確認することなく、漫然と原告車両を進行させたものである。
したがつて、被告渡辺にも前方不注視義務を怠つた過失があるものの、本件事故は、基本的には原告の安全確認義務違反という右過失によつて発生したものというべきであり、少なくとも七割の過失相殺がなとれるべきである。
なお、本件事故当時、被告車両の前を走行していた車両(以下「先行車両」という。)が存在し、これが脇道に向かつて左折して行つたことは、原告の主張するとおりであり、また、被告車両が進行していた車線の左端の、本件交差点の南側の位置に駐車車両があつたことも、原告の主張するとおりであるが、被告渡辺は、これらの車両を避けようとしてハンドルを右に切つたものではなく、原告車両が突然本件交差点に進入してきたため、咄嗟にハンドルを右に切つて原告車両を避けようとしたものである。また、右衝突の際には、被告車両の右前輪は概ね中央線上に位置する状態であつて、被告車両が、対向車線にはみ出して走行していたということでもない。
(二) 原告の主張
原告は、脇道から本件交差点に進入する際、原告車両を一時停止させ、かつ、脇道から南東方向にそのまま直進するのではなく、一旦、左方(東方)に原告車両を向け、緩やかなS字状のカーブを描いて、本件交差点に原告車両を進入させたものであるところ、本件事故が発生したのは、原告車両が、右のようにして右折を完了した後、南北に通ずる道路の南行き車線上を、八メートルないし一〇メートル程度、南に向かつて直進していた際のことであつて、結局、本件事故は、先行車両ないしは左側の駐車車両を避けようとして、咄嗟にハンドルを右に切り、被告車両を対向車線上に進出させた被告渡辺の過失に基づいて発生したものである。
したがつて、本件事故の発生について原告には何ら過失はなく、本件事故は被告渡辺の一方的な過失に基づくものというべきである。
第三争点に対する判断
一 争点1(損害額)について
1 治療費(請求額四八万一五三五円) 三三万七〇七四円
甲三ないし五号証、甲六ないし八号証(各枝番を含む。)、原告本人によれば、原告は、本件事故後、三菱名古屋病院に受診し、頭部・頸部・胸部挫傷、外傷性腰部椎間板ヘルニアであるとする診断を受け、本件事故当日である平成七年四月九日から同年六月一二日までの六五日間、右病院に入院し、退院後、同年一二月一九日までの間に四九日、同病院に通院したこと、原告は、本件事故の以前である平成六年一二月三日、神経因性膀胱、排尿困難症、前立腺肥大症の診断名で右病院に受診しているほか、平成七年三月一四日には、右根性坐骨神経痛、右骨盤部痛の診断名で右病院に受診し、本件事故当時は、右の坐骨神経痛等に対する治療のため、右病院に入院中であつたこと、本件事故前の原告の症状は、右下腿の痺れと痛みであつたが、これについて、右病院の医師は、原告に対し、腰部を痛めたのが原因となつて発症しているものであると説明していたこと、原告は、本件事故当時、近々退院する予定であり、本件事故は、退院準備のために外出している際に発生したものであつたこと、右病院の医師は、本件事故後、原告には右臀部と右大腿部に新たな痛みが出現しているとするほか、右下腿の痛みも増強しているとし、また、腰痛症も新たに発症したものであるとしていること、原告は、本件事故による受傷に対する治療費として、右病院に対し四八万一五三五円を支払つていることが認められる。
右によれば、原告は、本件事故により、既往の右根性坐骨神経痛とは別の部位に痛みを生じたりしていることが窺われるものの、従前から右骨盤部痛を訴えていることに照らしても、果たしてこれが本件事故に起因するものか否かについて疑問を抱かざるを得ない部分もあり、また、右病院においては、外傷性腰部椎間板ヘルニアであるとする旨の診断もなされているが、右根性坐骨神経痛の既往があることからすれば、原告には従前から腰部の神経根に圧迫症状があつたことになるのであるから、安易に本件事故に基づく外傷性ヘルニアであるとすることはできないといわざるを得ないところである。
そうすると、右認定の原告の入通院治療が本件事故に基づくものであることは否定できないものの、右治療の中には既往症に基づく症状に対する治療も含まれているものと推認せざるを得ず、右治療のすべてが本件事故に基づくものであるとは到底いい得ないところであるから、原告が、本件事故当時、近々退院予定であつたことなど、諸般の事情を斟酌し、右治療について本件事故が寄与している割合は七割程度であると推認するのが相当であるというべきである。
よつて、本件事故と相当因果関係のある治療費相当の損害額は、原告の支払つた治療費額四八万一五三五円の七割に相当する三三万七〇七四円であるというべきである。
2 通院交通費(請求額二万七八七〇円) 一万九五〇円
原告が前記病院に四九日の通院をしていることは右に認定したとおりであるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、右通院に二万七八七〇円の費用を要したことが認められる。そして、この通院交通費についても原告の既往症の寄与を考慮せざるを得ないから、本件事故と相当因果関係のある通院交通費相当の損害額は、右金額となる。
3 入院雑費(請求額六万五〇〇〇円) 五万九一五〇円
前記認定のとおり、原告は六五日間の入院をしているところ、入院雑費は一日当たり一三〇〇円であると認めるのが相当であり、かつ、これについても原告の既往症の寄与を考慮すべきであるから、本件事故と相当因果関係のある入院雑費相当の損害額は、右金額となる。
4 休業損害(請求額七三万八八〇五円) 五一万七一六三円
甲一〇、一一号証、原告本人と弁論の全趣旨によれば、原告は、三菱重工業株式会社名古屋航空宇宙システム製作所に勤務しており、本件事故の三か月において月額平均五九万九七三三円の給与を得ていたこと、原告は、平成七年四月九日から同年六月一二日までの六五日間、右勤務先を欠勤したが、右給与の内七割相当額の支給を受けていたので、右休業によつて支給されなかつた額は三八万九八〇五円であつたこと、原告は、右休業のため、同年に支払われる賞与について、三四万九〇〇〇円を減額されたことが認められる。したがつて、原告が右休業によつて支給を受けられなかつた給与及び賞与の額は七三万八八〇五円となるところ、これについても原告の既往症の寄与を考慮すべきであるから、本件事故と相当因果関係のある休業損害額は、右金額となる。
5 入通院慰藉料(請求額一五二万円) 一〇〇万〇〇〇〇円
既に認定した原告の受傷の部位・程度、入通院期間、既往症の寄与等、本件における一切の事情を斟酌すると、原告の入通院に対する慰藉料は、右金額と認めるのが相当である。
6 治療補助器費用(請求額二万二二九〇円) 一万五六〇三円
甲二号証と弁論の全趣旨によれば、原告は、前記認定の治療に際し、腰椎装具(コルセツト)を必要とし、その費用として二万二二九〇円を要したことが認められるが、これについても原告の既往症の寄与を考慮すべきであるから、本件事故と相当因果関係のある治療補助器具費用相当の損害額は、右金額となる。
二 争点2(過失相殺)について
1 甲一三ないし一五号証、乙一号証、原告本人、被告渡辺本人によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件交差点付近の南北に通ずる道路は、片側の幅員がいずれも四・五メートルの片側一車線の道路であつて、その最高速度は時速四〇キロメートルと規制されているものである。なお、本件交差点においては、右道路が優先道路とされている。
他方、脇道は、幅員が六・四メートルの道路であるところ、その片側の路側には電柱が設置されており、その部分については、車両の通行可能な幅員が若干狭くなつているが、南北に通ずる道路と接する部分については、本件交差点が変形交差点であることもあつて、かなりの幅があり、また、右の脇道の停止線の位置から、南北に通ずる道路の北行き走行車線の左端までは、直線にして四・六メートルの距離がある。そして、脇道には、本件交差点の手前において一時停止の規制がなされている。
また、本件交差点において、南北に通ずる道路を南から北に向かつて進行する車両と脇道を北西から南東に向かつて進行する車両の双方の運転者にとつて、相互の見通しは必ずしも良好ではない。
さらに、本件事故当時、南北に通ずる道路の北行き車線の、本件交差点の南側の左端には、通常の普通乗用自動車より車体の大きな車両が駐車していた。
なお、本件事故現場付近の路面は、アスフアルト舗装されているが、本件事故当時は、雨が降り始めた状態であり、路面はなお乾燥していたものの、本件事故後の警察官による実況見分の際には、既に湿潤した状況になつており、また、その付近の路面には、スリツプ痕は残つていなかつた。
(二) 被告渡辺は、被告車両を運転して、右の南北に通ずる道路を南から北に向かつて時速約四〇キロメートルで進行し、被告車両の前を走行していた先行車両が、時速約三〇キロメートル程度で脇道に左折進行したのを見届け、右の駐車車両の側方を通過しようとした際、本件事故の衝突地点の手前約一六メートル余の付近で、脇道から本件交差点にゆつくり進入してきている原告車両を発見し、そのときには、原告車両が停止して被告車両の通過を待つものと考えたが、原告車両がそのまま進入してくるので、咄嗟に急ブレーキをかけハンドルを右に切つて、これを避けようとしたものの間に合わず、被告車両の右前部を原告車両の右前輪付近に斜めに衝突させた。
なお、右衝突地点は、被告車両が右の駐車車両の側方を通過し終えた位置であり、南北に通ずる道路の中央線から、右道路の南行き車線に〇・五メートル進入した地点であつた。
(三) 他方、原告は、原告車両を運転し、脇道を北西から南東に向かつて進行して、本件交差点の手前の停止線の位置で一時停止した後、被告車両の先行車両が左折進入してくるのを確認して、原告車両を発進させ、その後は停止することなく本件交差点に進入したが、原告車両に気付く間もなく、これと衝突するに至つた。
2 他方、甲一六号証(原告の陳述書)、乙一号証、原告本人の供述中には、原告は、本件交差点の停止線の位置で一時停止している際、被告車両の先行車両が時速一〇キロメートルないし時速二〇キロメートルで脇道に左折進行してくるのを認めたので、原告車両が脇道から発進しないと右先行車両が脇道に進入することができないため、原告車両を発進させ、時速五キロメートルないし時速一〇キロメートルで進行し、一旦、左方(東方)に原告車両を向け、緩やかなS字状のカーブを描いて、本件交差点に原告車両を進入させ、原告車両が南北に通ずる道路の中央線付近に至つたときに右先行車両と擦れ違い、さらに、南北に通ずる道路を南に向かつて約一〇メートル程度直進した際に、突然、被告車両が衝突してきたとする部分、被告渡辺がハンドルを右に切つたのは、右の先行車両が左折する際に後部を右に振つたため、これを避けようとしたものであろうと推測されるとする部分がある。
しかしながら、原告本人の右供述部分のとおりだとすれば、原告車両が右の先行車両と擦れ違つたのは、南北に通ずる道路の中央線付近だつたというのであるから、その際には、先行車両もまだ脇道に入りかけている位置にあつたものということとなり、また、前記認定によると、原告が先行車両の左折を確認してから右車両と原告車両が擦れ違うまでに、原告車両は約九メートル進行しなければならないこととなり、原告車両と右先行車両がいずれも時速一〇キロメートルで走行していたと仮定すれば、この間に、先行車両も同様に少なくとも約九メートルは進行することになるのであるから、原告が先行車両の左折を確認した時点では、先行車両は本件交差点の南方約九メートル付近を走行していたことになるが、前記認定のとおり、脇道を進行してきた車両の運転者にとつて、本件交差点の南方への見通しは必ずしも良好ではないのであり、駐車車両も存在していたのであるから、右位置を走行していた先行車両を原告が確認することができたとするのには相当の疑問があるというべきである。この点については、原告車両が停止した状態から発進していることと、原告本人の右供述部分によれば先行車両の速度は右に仮定した速度より速かつたとする方が自然であることに照らすと、原告車両が中央線付近にまで進行する間に、先行車両はより長い距離を走行することになるというべきであるから、原告が先行車両の左折を確認したとする時点においては、先行車両は、本件交差点から約九メートルの位置ではなく、もつと南方を走行していたものとする方が合理的なのであつて、そうすると、右の疑問はさらに大きなものになるといわなければならないところである。なお、甲一六号証中には、右の先行車両は、殆ど止まつているかと思われる程度の速度であり、原告車両が中央線付近に達するまで、原告車両を待つていたとする部分があるが、これは原告本人の前記供述部分を理由なく変遷させるものであるのみならず、さらに、脇道が南北に通ずる道路と接する部分は、前記認定のとおり、本件交差点が変形交差点であることもあつて、かなりの幅があるほか、南北に通ずる道路の車道の左端から脇道の停止線の位置までは直線にして四・六メートルの距離があるのであるから、先行車両は、仮に、原告車両の発進を待つていたとしても、南北に通ずる道路の後続車両の進行を妨げることのない位置まで進行することが可能であるというべきであり、敢えて後続車両の進路の妨げとなる位置で待つていたとするのは相当に不自然であるというほかないところである。
また、原告本人の右供述部分のとおりであるとすれば、原告車両は、先行車両と擦れ違つてから一〇メートル程度進行して被告車両に衝突されたというのであるから、右と同様に原告車両と先行車両の速度が同程度であつたと仮定しても、その間に、先行車両も一〇メートル程度は進行していることになるのであつて、そうすると、被告車両にとつては、先行車両は何ら被告車両の進路を妨げる存在ではないこととなり、被告渡辺がハンドルを右に切る理由がないこととなる。この点に関し、原告は、前記の駐車車両を避けようとした可能性があると指摘するが、右認定のとおり、被告車両は右駐車車両の側方を通過し終えた後に衝突しているのであつて(この点は原告本人の前記供述部分等に従つても同様である。)、右駐車車両を避けるために、被告車両が衝突地点のかなり手前から対向車線側にはみ出して走行していた可能性はあるといい得るとしても、被告渡辺が、右駐車車両を避けるために、衝突地点でハンドルを右に切る可能性はないというほかない。そうすると、被告渡辺は、何らの理由もなく、突然、ハンドルを右に切つていることになるが、これが極めて不自然な事態であることはいうまでもないところである。
右のとおりであつて、原告本人の前記供述部分等は、基本的な部分において極めて不自然なものであるといわなければならず、その他、原告本人の供述中には、一時停止している際に右方四〇メートルないし五〇メートルの付近に被告車両が走行しているのを確認したと一旦供述しながら、見通し状況に照らして不自然であることを指摘され、これを撤回している部分や、南北に通ずる道路を直進したとしながら、被告車両の存在には気付いていなかつたとする部分など、極めて不自然な部分が多いといわなければならないのであつて、結局、原告本人の前記供述部分等は到底採用できないものといわざるを得ない。
3 また、原告は、被告渡辺本人の供述は、急ブレーキをかければ充分停止可能な距離において原告車両を発見したとしているのに衝突していること、衝突を避けようとする運転者の通常の行動に反して、原告車両の進行方向にハンドルを切つていること、駐車車両の側方を通過する際には中央線からはみ出さずにはおれないのに、ハンドルを右に切つたために中央線を越えたとしていること、脇道は狭い道路であり、かつ、原告車両が存在していたのに、先行車両が時速三〇キロメートルもの速度で左折進行して行つたとしていることなどにおいて、不自然な部分が多いと主張する。
しかし、前記認定のとおり、被告渡辺は、衝突地点の手前約一六メートル余の付近で原告車両を発見したのであつて、原告車両が被告車両の通過を待つものと考えて、一瞬、ブレーキを踏む操作が遅れたことにも照らすと、時速約四〇キロメートル程度で走行していた原告車両が、衝突を回避できなかつたことに何ら矛盾はないし、被告渡辺が、原告車両が被告車両の通過を待つものと考えたことも通常の運転者の心理として頷けるところであり、また、左方から進行してくる原告車両との衝突を避けようとしてハンドルを右に切つていることについても、一般的に見られることであつて、何ら不自然ではないというべきである。次に、被告車両が、駐車車両の側方を通過する際に、中央線をはみ出していた可能性があることは否定できないものの、前記認定の道路幅員に照らすと、仮にはみ出していたとしても僅かな距離であるというべきであつて、被告渡辺本人の供述中に、はみ出してはいなかつたとする部分があることをもつてしても、これを不自然であるとまではいえないものというべきである。さらに、原告は、脇道は極めて狭いから、車両が擦れ違うためには徐行せざるを得ないと主張するが、前記認定によれば、脇道は、その片側に電柱が設置されているため、その部分は、若干狭くなつているものの、路側を含めて六・四メートルの幅員があるのであつて、原告が強調するほど余裕のない道路ではないというべきであり、南北に通ずる道路と接する部分は、前記認定のとおり、本件交差点が変形交差点であることもあつて、かなりの幅があるのであるから、被告渡辺の供述する先行車両の速度が感覚的なものであることにも照らすと、先行車両が脇道に左折進行する際の速度が時速約三〇キロメートルであつたとする被告渡辺の供述部分も、格別に不自然なものではないというべきである。
したがつて、被告渡辺本人の供述が不自然であるとする原告の右主張は採用できない。
4 以上のとおりであり、本件事故の態様に関する原告の主張は採用することができず、他に、原告の右主張に沿う事実を認めるに足りる証拠はない。
5 そうすると、前記1において認定したところによれば、本件事故は、基本的には、原告が、優先道路である南北に通ずる道路に、原告車両を脇道から進入させようとする際、左右の安全を充分に確認すべき注意義務を怠つて、漫然と原告車両を進入させたために発生したものというべきであるが、被告渡辺にも、前方注視義務を怠つて、原告車両の動静に対する注意を欠いていたところがあるといわざるを得ず、原告車両と被告車両がいずれも右側部分において衝突していることにも照らすと、本件事故の発生についての原告と被告渡辺の過失割合は、原告が七割、被告渡辺が三割であるとするのが相当であるというべきである。
三 損害の填補等
原告が、本件事故に基づく損害の填補として、自倍責保険から一二〇万円の支払を受けていることは当事者間に争いがない。
したがつて、前記一認定の損害額合計一九四万八四九九円に右二説示の七割の過失相殺をした五八万四五四九円から、右既払額を控除すべきこととなるが、そうすると、原告に生じた損害については、既に全額が填補されていることになるというほかないところである。
四 弁護士費用(請求額二八万円) 〇円
右のとおり、原告の請求は理由がないことに帰するから、本訴遂行に原告が要した弁護士費用の請求にも理由がないといわざるを得ない。
五 よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 貝原信之)