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名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)48号 判決

原告

加藤茂治

右訴訟代理人弁護士

野浪正毅

福島啓氏

被告

愛知県知事 鈴木礼治

右指定代理人

中山孝雄

藤居正樹

志治孝利

若山泰文

星川元

井上荘之助

安原通浩

江口行雄

田中宏之

一柳繁利

宮川敏勇喜

飯田憲男

宮田文雄

佐久間英視

川村慎一

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  原告適格について

1  原告は、主位的に本件許可処分の無効確認を、予備的にその取消しを求めているが、無効確認の訴えの原告適格について規定する行政事件訴訟法三六条の「法律上の利益を有する者」は、取消訴訟の原告適格について規定する同法九条の「法律上の利益を有する者」と同義であると解される。

そこで、以下では、原告が本件許可処分について「法律上の利益を有する者」であるか否かを検討する。

2  同法九条、三六条にいう「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益にあたり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の無効確認又は取消訴訟における原告適格を有する。

他方、当該処分を定めた行政法規が、専ら一般的公益を保護すべきものとする趣旨であると解される場合には、仮に、当該行政法規により個々人の個別的利益が保護されるとしても、それは一般的公益を保護することの結果生じた反射的利益にすぎず、個々人は当該処分の無効確認又は取消訴訟における原告適格を有しない。

当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解されるか否かは、当該行政法規の趣旨、目的、当該行政法規が当該処分を通じて保護しようとしている利益の内容、性質等を考慮して判断すべきである。

3  砂防法上、主務大臣は、治水上砂防のため、一定の行為を禁止若しくは制限すべき土地を指定することとされ(二条)、地方行政庁(具体的には都道府県知事を指す。)は、右砂防指定地について、治水上砂防のため、一定の行為を禁止若しくは制限することができるとされている(四条一項)。

砂防法四条一項、砂防法施行規程三条の各規定を受け、愛知県は、愛知県砂防指定地管理規則(乙一、以下「管理規則」という。)を制定しているが、同規則によれば、砂防指定地内において、「竹木を伐採(樹根の採取を含む。)し、又は滑下若しくは地引により運搬すること。」、「宅地造成、開墾その他土地の原状を変更すること」等の一定の行為をしようとする者は、知事の許可を受けなければならないこととされている(管理規則四条一項)。

そして、ここにいう治水上砂防のためとは、砂防法の立法経過からして、次のことをいうものと解される。すなわち、土砂の生産は、山地の斜面が降雨などにより表面侵食等により削り取られ、また、渓床や渓岸が流水の作用により縦横侵食を起こすことによって絶えず行われており、これにより生産された土砂は不断に下流の河川へと流送され、あるいは台風や梅雨等による異常降雨時には土石流等となって莫大な量の土砂を流出させる。これら土砂の生産、流出は河状を常に変化させ、また河床上昇等の現象を生じさせ、水害の主要な原因を形成する。このため、土砂の生産を抑制し、流出土砂を扞止調節することによって災害を防止するのが治水上砂防である(乙四参照)。

以上によれば、砂防法は、災害防止という公益保護を目的としていることは明らかである。

4  しかしながら、前記のとおり、砂防指定地においてどのような行為を禁止、制限するのかということも、都道府県知事に委ねられているところ、管理規則上は、知事の許可基準についての何ら具体的な定めはなく(愛知県は、知事が管理規則四条一項の許可をするにあたっての審査基準等(乙四)を定めているが、同審査基準等は、許可の運用指針にすぎない。)、管理規則四条一項の許可処分に際して第三者保護につながる手続規定も存在しないのであって、周辺土地所有者の個人的利益に配慮した規定や、周辺土地との関係で水害防止等の具体的な技術的細目を定めた規定は存在しない。

なお、砂防指定地内行為許可申請書には、利害関係者の承諾書、承諾が得られない場合においては、その理由書を添付することとされているが(管理規則五条五号)、弁論の全趣旨によれば、右承諾書を求める趣旨は許可に係る行為の遂行可能性を判断するためであり、このことにより、管理規則ひいては砂防法が、個々人の個別的利益を保護しようとしていると解することはできない。

よって、砂防法が、右公益保護のみならず、さらにその公益に吸収解消されないものとして、不特定多数者の具体的利益までもそれが帰属する個々人の個別的利益として保護しようとしていると解することはできない。

以上によれば、本件許可処分の無効確認又は取消しを求めるについて、原告は法律上の利益を有する者とはいえず、原告適格はない。

5  ところで、土石流や火山泥流等が下流の人家を直撃し、住民の身体、財産に重大な被害を与えるケースが発生しているところ、前記のとおり砂防の概念には、土石流による大量の土砂の流出の防止も含まれると考えられており、このような土砂災害が発生するおそれがあるとして砂防地として指定され、砂防施設を設置し、一定の行為を禁止若しくは制限する運用がなされている(乙四、審査基準等)。

このような土砂災害の発生を考慮して砂防地として指定された土地についてなされる禁止若しくは制限行為の許可処分に当たっては、当然にこのような土砂災害が発生しないように技術的基準を満たしているかを重要な判断内容とすることが要求されていることになり、そのような運用がなされている。

このように土石流等による身体、財産への直接的被害の防止も治水土砂防の概念に含まれ、許可処分に当たってもそのような被害が発生しないことが考慮されていることからすると、砂防法には水害防止のための土砂の生産の抑制という平常的措置のみならず、土石流等の土砂災害の直撃を受けるおそれのある一定の範囲の住民の生命、身体の安全、財産の保全等を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解する余地がないわけではなく、仮にそうだとすると、土石流等の直撃を受けるおそれがある区域に居住する者は、砂防指定地内における行為の許可処分の無効確認又は取消しを求めるにつき、法律上の利益を有する者として、その無効確認訴訟又は取消訴訟における原告適格を有すると解する余地がある。

6  そこで、原告がかかる意味で原告適格を有するかについて判断するに、原告は、自己が本件工事により砂防上の危険増大による危機に直面せざるを得ない立場にあると極めて抽象的に主張するのみで、なんら本件許可処分により砂防上どのような危険がなぜ増大するのか具体的に主張していない。

そして、本件砂防指定地が土石流等の発生のおそれがあるものとして砂防指定されたことや、本件処分の結果土石流の発生の危険が生じたと認めるに足りる証拠はない。

原告は、その他にも、原告適格を基礎づける事実として、原告所有土地の所有権が侵害される危険性が高いこと、本件工事により本件工事対象土地に隣接する水路が破壊され、その結果、その水路に隣接する原告所有土地の利用が害されることとなると主張するが、それらは、およそ砂防法上保護された利益と解する余地がないものである。

したがって、この観点からいっても、原告に原告適格が認められるとは解されない。

二  以上より、原告の本件訴えは、いずれも原告適格を欠き不適法なものであるから、本件処分の適法性について検討するまでもなく、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 森義之 安永武央)

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