名古屋地方裁判所 平成9年(わ)1674号
主文
被告人を懲役一年及び罰金一、八〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金八万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、株式会社スペースホームの取締役を務めていたが、加藤千尋らが相続税の支払いに窮して所有土地を売却しようとし、松本忠昭に対し、その納税資金等の調達及びその土地売却斡旋を頼み、松本が被告人に対しその納税資金の提供を求め、被告人がその資金を提供していたところ、被告人において、松本と共に右土地の売買の仲介を行って多額の報酬を得たのに、自己の平成四年分の所得税を免れようと考え、仮名で定期預金を預入れるなどの方法により所得を秘匿し、平成四年分の実際の総所得金額が一億五、五四五万五、五〇〇円であったのにもかかわらず、所得税の納期限である平成五年三月一五日までに、名古屋市北区清水五丁目六番一六号所轄名古屋北税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで期限を徒過させ、もって、不正の行為により、自己の平成四年分の所得税額七、一四九万五、〇〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
1 被告人の公判供述、検察官調書(乙2ないし6の五通)及び大蔵事務官調書(乙7)
2 加藤千尋(甲6)、松本忠昭(甲8、9の二通)、米本忠良(甲10)、福本健児こと閔泰洙(甲11)及び佐藤昭一(甲12{ただし謄本})の各検察官調書
3 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲2)、査察官調書(甲3ないし5、14ないし17の7通)、証明書(甲13)
(法令の適用)
罰条 所得税法二三八条一項、二項
刑種の選択 懲役と罰金を併科
労役場留置 刑法一八条(一日金八万円に換算)
刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)
(量刑の理由)
本件は、判示のとおり、被告人が加藤らの相続税費用の捻出のための同人らの所有土地の売買の仲介等にかかわって得た報酬を全く申告せず、平成四年分の所得税額七、一四九万五、〇〇〇円を免れたという所得税法違反の事案であるところ、
右犯行の経緯は、松本忠昭から、加藤千尋の相続税納税資金捻出に絡んでの話があったことによるものであるにしても、被告人において、加藤らの所有土地の売却の仲介などにかかわって得た報酬などの所得税を免れようとした利欲的、自己中心的な犯行動機であり、その点で酌むべき事情はない。その報酬の多くを松本名義で他の者に貸付けたり、五名の仮名で預金したりして隠匿した上、平成四年分の確定申告期限である平成五年三月一五日までに同所得の確定申告をせず、期限を徒過させて本件犯行に及んだものであって、その犯行態様は悪質であり、その結果のほ脱額も多額であり、ほ脱率も一〇〇パーセントというものであり、申告納税制度の根幹を損ねるもので、犯情は悪く、被告人の刑事責任を軽視することができない。
しかしながら、被告人の脱税は一回限りであること、被告人は平成九年五月二九日に三、〇〇〇万円を、同年一二月三日に一〇〇万円を、平成一〇年一月一六日に一、八〇〇万円を納めた形になったりしており、今後も、被告人の妻所有のマンションを売却して資金を作るなどして残りの分の本税、重加算税なども納めるため努力していること、被告人が本件につき反省の態度を示していること、その他に扶養看護すべき妻がいることや罰金以外に前科がないことなど被告人のために酌むべき情状も認められるので、以上の諸事情を勘案すると、今回は懲役刑の執行を猶予し、主文の懲役及び罰金が相当であると判断する。(求刑・懲役一年及び罰金二、三〇〇万円)
(検察官酒井治幸、私選弁護人村瀬尚男、同弁護人宮崎真 各出席)
(裁判官 山本哲一)