名古屋地方裁判所 平成9年(わ)2023号
主文
被告人を懲役一〇か月及び罰金三五〇万円に処する。
罰金を完納することができないときは、五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から三年間懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、東京都江戸川区西小松川町三六番二号に居住し、株式会社ヤクルト球団と一九九五年度野球選手契約を締結したプロ野球選手であり、平成七年分の被告人の所得税の申告手続を「中小企業相談協会」会長を自称する坂本行徳こと坂本幸則及び小菅誠に依頼したものであるが、坂本及び小菅と共謀の上、被告人の平成七年分の所得税を免れようと考え、架空の顧問料を計上する方法により所得を秘匿し、被告人の平成七年分の実際の総所得金額が一億六二五万三八〇六円であり、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除して八四九万二八〇〇円であるのに、平成八年三月一二日、同江戸川区平井一丁目一六番一一号の江戸川北税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が七一二五万三八〇六円で、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除すると四六九万一六〇〇円の還付を受けることになるとの虚偽の所得税確定申告書を提出し、不正の行為により、被告人の平成七年分の所得税額との差額一三一八万四四〇〇円を免れた。
(証拠)カッコ内の甲乙の番号は、検察官請求証拠番号を示す。
一 被告人の公判供述、検察官調書(乙2、3)
一 秦真司(甲4)、坂本行徳こと坂本幸則(甲5、6)、小菅誠(甲7、8)の検察官調書謄本
一 加藤勝巳の大蔵事務官調書謄本(甲9、10)
一 証明書(甲1、11)
一 査察官調査書(甲2)
一 脱税額計算書(甲3)
一 証拠物複写報告書(甲12)
(法令の適用)
罰条 刑法六〇条、所得税法二三八条一項
刑種の選択 懲役刑と罰金刑の併科刑
労役場留置 刑法一八条
執行猶予(懲役刑) 刑法二五条一項
(量刑理由)
本件は、プロ野球選手である被告人が、多数のプロ野球選手の脱税工作を請け負っていた坂本らと共謀して、架空の顧問料を計上する方法により、一三一八万四四〇〇円もの所得税を免れた事案である。
利欲に基づく犯行で、動機に特に酌むべき点はない。被告人自身も脱税によって利益を得ようとしており、必ずしも坂本らに利用されたとはいえない。脱税額も、国民一般の感覚からすれば相当に高額で、ほ脱率も約四四パーセントと低くない。被告人は、修正申告はしたが、資力がないため、追加して支払うべき税金をほとんど納付していない。多くのプロ野球選手が、安易に脱税に関与しており、社会的影響の大きさからも、厳しい処罰により警鐘を鳴らす必要性が高い。そうすると、被告人の刑事責任は重い。
他方被告人は、本件で検挙され、批判を受けて、納税が国民としての重要な義務であることを自覚し、社会人として欠けた点のあったことを反省し、犯行を素直に認めている。契約金の多額さなどからみて、契約時等において、納税に関し球団等がより積極的かつ緻密な指導、監督をすべきであった。被告人は、脱税により重加算税や罰金などを支払わなければならなくなった結果、正当な納税額に比べ、多くの金額の支払いを余儀なくされている。納付していない税金については、分割で支払っており、今後野球で頑張り、早期に支払うと述べている。被告人には、前科、前歴はなく、発覚後、球団の指示により、更生保護施設での奉仕活動にも従事している。その他、マスコミ等で大きく報道されたことにより、相当の社会的制裁を受けており、さらに今後球団等の処分も予想されるなど、被告人のために酌むべき事情も認められる。
以上の事情を考慮し、主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑については、相当期間刑の執行を猶予し、被告人の今後を見守ることとした。
(求刑―懲役一〇か月及び罰金四〇〇万円)
(裁判官 安江勤)