名古屋地方裁判所 平成9年(わ)2333号・平9年(わ)2338号
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する(公判出席検察官中村葉子)。
主文
被告人を懲役一年及び罰金二〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人は、愛知県刈谷市野田町石仏三六番地に居住してその所有する土地を売却した丹羽宏から依頼されて、坂本行徳こと坂本幸則とともに丹羽宏の所得税の申告手続に関与したものであるが、丹羽宏及び坂本幸則と共謀の上、丹羽宏の平成四年分の所得税を免れようと企て、不動産売却に伴う架空の取りまとめ料を計上する方法により所得を秘匿した上、丹羽宏の平成四年分の実際の総所得金額が三七一万六二〇〇円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が五九一三万五〇一六円であったのに、平成五年三月一五日、愛知県刈谷市神明町三丁目五〇一番地所在の所轄刈谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が三七一万六二〇〇円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が二七万六二五〇円で、これに対する所得税額が八万二八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、丹羽宏の正規の所得税額一七七七万五五〇〇円と右申告税額との差額一七六九万二七〇〇円を免れた(別紙<1>修正損益計算書及び別紙<2>脱税額計算書参照)。
第二 被告人は、岐阜市清七五六番地に居住してその所有する土地を売却した森島和子から依頼されて同人の代理人としてその所得税の申告手続に従事した野口規子の依頼を受けて、坂本行徳こと坂本幸則及び松尾正信とともに森島和子の所得税の申告手続に関与したものであるが、野口規子、坂本幸則及び松尾正信と共謀の上、森島和子の平成四年分の所得税を免れようと企て、架空の保証債務を作出し、その履行を仮装して不動産譲渡所得を圧縮する方法で所得を秘匿した上、森島和子の平成四年分の実際の総所得金額が一六二万八二三一円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六七八二万四五一三円であったのに、平成五年三月一日、岐阜市加納清水町四丁目二二番地の二所在の所轄岐阜南税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一九八万五一三六円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が三〇〇万五三七五円で、これに対する所得税額が一〇一万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、森島和子の正規の所得税額二〇四二万三二〇〇円と右申告税額との差額一九四一万円を免れた(別紙<3>修正損益計算書及び別紙<4>脱税額計算書参照)。
(証拠の標目)
括弧内の記号番号は、検察官請求証拠の記号番号(番号は記録上算用数字)である。検察官に対する供述調書は「検察官調書」、大蔵事務官に対する供述調書である質問てん末書は「大蔵事務官調書」と記載する。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
判示第一の事実について
一 被告人の検察官調書(乙三)
一 丹羽宏の検察官調書三通(各謄本。甲二一ないし二三)
一 坂本幸則の検察官調書(謄本。甲六)
一 飯沼憲一(甲七)、稲垣均(甲八)、河合正夫(甲一二)及び向井健次(甲一四)の各大蔵事務官調書(各謄本)
一 坂逸裕(甲一五)、上田幸子(甲一六)及び水野達彦(甲一七)の各大蔵事務官調書(各謄本)
一 大蔵事務官作成の証明書(謄本。甲一)、査察官調査書三通(各謄本。甲二ないし四)及び脱税額計算書(謄本。甲五)
一 登記官作成の登記簿謄本二通(各謄本。甲一九、二〇)
判示第二の事実について
一 被告人の検察官調書(乙二)
一 松尾正信の検察官調書(謄本。甲三六)
一 坂本幸則の検察官調書(謄本。甲三七)
一 森島和子の検察官調書(謄本。甲四一)
一 野口規子の検察官調書二通(各謄本。甲四二、四三)
一 河嶋孝(甲三八)及び小森鈴生(甲三九)の各大蔵事務官調書(各謄本)
一 検察事務官作成の証拠品複写報告書(謄本。甲二五)
一 大蔵事務官作成の査察官報告書(謄本。甲二六)、査察官調査書六通(各謄本。甲二八ないし三三)及び脱税額計算書(謄本。甲三四)
一 岐阜県揖斐郡大野町長の証明のある住民基本台帳(謄本。甲二七)
一 登記官作成の全部事項証明書(謄本。甲三五)
(法令の適用)
一 罰条 判示各所為につきそれぞれ所得税法二四四条一項、二三八条一項、平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)六五条一項、六〇条
二 刑種の選択 いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
三 併合罪の処理 懲役刑について改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)
罰金刑について同法四八条二項(各罪所定の罰金額を合算)
四 労役場留置 改正前の刑法一八条
五 懲役刑の執行猶予 改正前の刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、被告人が、脱税の請負をしていた共犯者の坂本らと共謀して、依頼者二名の合計三七〇〇万円余りの所得税の脱税に関わった所得税法違反の事案であり、被告人は、内容虚偽の所得税確定申告書の作成という重要な役割を分担し、その報酬を得ているから、その刑事責任は重い。
他方、被告人には、自己の行為を率直に反省していること、前科がないこと、贖罪寄付をしていること、犯行を主導したのは共犯者の坂本で、被告人は従属的な立場にあったことなどの、量刑にあたって被告人のために考慮すべき事情もある。
こうした事情及び記録にあらわれたその他の諸事情を総合考慮して、主文の刑を量定し、懲役刑については特に刑の執行を猶予することとする。
(裁判官 三宅俊一郎)
別紙<1>
修正損益計算書
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
<丹羽宏>
<省略>
別紙<2>
脱税額計算書
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
(丹羽宏)
<省略>
税額の計算
<省略>
別紙<3>
修正損益計算書
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
<森島和子>
<省略>
別紙<4>
脱税額計算書
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
(森島和子)
<省略>
税額の計算
<省略>