名古屋地方裁判所 平成9年(わ)286号 判決
主文
被告人柴田永を懲役一〇月及び罰金四〇〇万円に、被告人中丸隆行を懲役一年及び罰金三〇〇万円に各処する。
被告人らにおいて、その罰金を完納することができないときは、金五万円をそれぞれ一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
被告人両名に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人柴田永は、平成六年二月六日に死亡した柴田照夫の配偶者として同人の財産を相続した愛知県高浜市芳川町一丁目二番地八八に居住する柴田芳子の代理人として、同女の相続税申告手続を行ったもの、松本忠昭、松本成功、長谷川哲也こと金炳大、松木一也及び被告人中丸隆行は、被告人柴田永から依頼されて柴田芳子の相続税の申告手続に関与したものであるが、被告人柴田永、松本忠昭、松本成功、長谷川哲也こと金炳大、松木一也及び被告人中丸隆行は、共謀の上、右柴田芳子の相続税を免れようと企て、柴田照夫が他から二億五〇〇〇万円の債務を負担していた旨仮装して所得を秘匿した上、平成六年一〇月二〇日、愛知県刈谷市神明町三丁目五〇一番地所轄刈谷税務署において、同税務署長に対し、柴田芳子の相続財産にかかる実際の課税価格が三億六九三九万円で、これに対する相続税額は一八〇三万二五〇〇円であったにもかかわらず、前記仮装債務二億五〇〇〇万円のうち一億二五〇〇万円を承継したことにより課税価格は二億四九〇七万円となり、これに対する相続税額は零円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により、柴田芳子の正規の相続税額一八〇三万二五〇〇円を免れた(別紙相続財産の内訳、脱税額計算書参照)。
(証拠の標目)
括弧内の数字は、証拠等関係カードの検察官証拠請求番号を示す。
一 被告人柴田永の
1 公判供述
1 検察官調書(乙二、三)
一 被告人中丸隆行の
1 公判供述
1 検察官調書(乙七、八)
一 柴田芳子(甲一二、一三)、石川園子(甲一四)、神谷敏子(甲一五)、柴田昭子(甲一六)、加藤和夫(甲一七)、岩本巌(甲一八)、黒田茂(甲一九)、杉浦仁一(甲二〇)、松本忠昭(甲二一、二二)、松本成功(甲二三)、長谷川哲也こと金炳大(甲二四)及び松木一也(甲二五、二六)の検察官調書(各謄本)
一 検察官作成の捜査報告書(甲三〇)
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲二七、三一)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(各謄本・甲一ないし四、一一)、証明書(各謄本・甲五ないし七)、脱税額計算書(謄本・甲二九)
(補足説明)
なお、被告人柴田永の弁護人は、相続財産の課税価格の中には、土地及び有価証券の過少評価等被告人にほ脱の認識のなかったものまでほ脱額の計算に含めている旨、被告人が本件申告前に相続税申告書の作成を依頼した岩本税理士作成の申告書の案による相続税額が一八五万九五〇〇円であることから、被告人のほ脱の意思の認められる範囲は右の限度にとどまる旨、及び、被告人が本件後の平成七年五月三一日に自主的に修正申告し、その修正申告した相続税額が一〇九六万六〇〇〇円であるところ、右修正申告された税額については、ほ脱額に含めるべきではないから、ほ脱額は、右修正申告額との差額である七〇六万六五〇〇円である旨主張する。
そこで検討するに、ほ脱犯が成立するためには、申告した相続財産の課税価格を超えるなにがしかの相続財産があり税を免れることを概括的に認識すれば足り、個々の勘定科目や会計的事実、ほ脱額の具体的金額の認識は、故意の内容をなすものではないと解される。また、虚偽過少申告をして納期限を徒過した以上、ほ脱犯は成立し、その後の修正申告は、情状として考慮することは別として、犯罪の正否に影響を及ぼさないと解される。なお、弁護人が言及する重加算税等の行政上の制裁とほ脱犯の処罰とは目的、要件、手続を異にし同列には論じられない。したがって、弁護人の主張はいずれも採用できない。
(法令の適用)
(平成七年法律第九一号による改正前の刑法を「改正前刑法」と表記する。)
罰条 改正前刑法六〇条、相続税法七一条一項、六八条一項
(被告人中丸隆行の関係でさらに改正前刑法六五条一項)
刑種の選択 それぞれ懲役刑及び罰金刑を選択
労役場留置 刑法一八条
刑の執行猶予 刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、被告人両名がいわゆる「えせ同和団体」で脱税請負組織である全日本同和事業連盟の者らと結託し、判示のとおり、被告人柴田永の母親の相続税一八〇〇万円余りをほ脱した事案である。本件における脱税額は右のように多額で、ほ脱率も一〇〇パーセントであるうえ、右全日本同和事業連盟は、内容虚偽の確定申告書を作成する者、右虚偽の確定申告書を税務署に受理させ圧力をかける者等に役割を分担して組織的かつ計画的に脱税工作を行い、その方法も大胆かつ巧妙で極めて悪質である。また、わが国の申告納税制度に与えた悪影響も無視しえない。
被告人柴田永は、長男として自宅の新築資金を捻出したいと考えて本件犯行に及んだものであるが、納税意識の欠如した自己中心的な動機に酌量の余地はない。また、被告人中丸隆行は、右全日本同和事業連盟中部総本部長の松本忠昭と通じて、脱税工作の資料を入手したり、脱税工作を依頼するか迷っている被告人柴田永を積極的に説得して、その決意をさせる等本件で重要な役割を果たしている。そして、その動機も、多額の報酬を得たいという自己中心的なもので酌量の余地はない。そうしてみると被告人両名ともその刑事責任を軽視することはできない。
しかしながら、他方で、被告人柴田についてほ脱額の点を除き、被告人両名とも本件犯行を認め反省していること、被告人柴田については、修正申告をし重加算税等を納付済みであること、贖罪寄付をしていること、前科がなく、会社役員として稼働してきたこと、被告人の妻が監督を誓約していること、被告人中丸については、交通関係での罰金前科以外の前科がないこと、被告人の妻が監督を誓約していること等被告人両名にとって斟酌すべき事情もある。
当裁判所は、これらの事情を総合考慮した上、主文の刑を定めた。
(求刑 被告人柴田永に対し懲役一〇月及び罰金六〇〇万円
被告人中丸隆行に対し懲役一年及び罰金四〇〇万円)
(裁判官 長倉哲夫)
相続財産の内訳
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脱税額計算書
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