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名古屋地方裁判所 平成9年(レ)80号 判決 1999年1月18日

控訴人

井本勝司

被控訴人

株式会社土屋工務店

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人の第一次的請求を棄却する。

三  被控訴人は、控訴人に対し、金三二万〇一六〇円及びこれに対する平成六年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  控訴人のその余の第二次的請求を棄却する。

五  訴訟費用は、第一審、第二審を通じこれを五分し、その三を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

六  この判決は、控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2(一)(第一次的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、原判決認容額の外に金五八万二六八五円及びこれに対する平成六年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  (第二次的請求)-当審における新請求

被控訴人は、控訴人に対し、原判決認容額の外に金五〇万一五九四円及びこれに対する平成六年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  当審における控訴人の請求を棄却する。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件は、控訴人が運転し所有する普通貨物自動車(控訴人車)と、被控訴人の従業員である訴外伊藤和弥(以下「訴外伊藤」という。)が運転し被控訴人が所有する普通貨物自動車(被控訴人車)とが衝突した事故(以下「本件事故」という。)につき、控訴人が、被控訴人に対し、民法七一五条に基づき損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成六年七月三一日午後二時ころ

(二) 場所 名古屋市中川区蔦本町二丁目一五番地先交差点

(三) 控訴人車 普通貨物自動車(名古屋四四ろ四〇六一)

右所有者 控訴人

(四) 被控訴人車 普通貨物自動車

右運転者 訴外伊藤

右所有者 被控訴人

(五) 事故態様 訴外伊藤が、本件事故現場の交差点において波控訴人車を後退させる際、後方を注視する義務を怠ったために、後退した被控訴人車の後部が控訴人車の左側面に衝突し、控訴人車の左側面が破損した。

2  訴外伊藤は被控訴人の従業員であり、本件事故当日、被控訴人から被控訴人車を借りてこれを運転していた。

二  争点

1  訴外伊藤が被控訴人車を運転したことは被控訴人の「事業ノ執行」(民法七一五条一項)に当たるか

(一) 控訴人の主張

訴外伊藤は、被控訴人の従業員であり、被控訴人から被控訴人車を借りてこれを運転中本件事故を起こしたのであるから、訴外伊藤が被控訴人車を運転したことは被控訴人の「事業ノ執行」に当たる。

(二) 被控訴人の主張

本件事故当日は日曜日であり、訴外伊藤は、訴外伊藤自身の友人の引越作業を手伝うために被控訴人から被控訴人車を借り、右引越作業の途中において本件事故を起こした。したがって、右使用目的・態様からして、訴外伊藤が被控訴人車を運転したことは被控訴人の「事業ノ執行」に当たらない。

2  損害額

(一) 控訴人の主張

被控訴人の契約する損害保険会社は、本件事故後、控訴人車を修理せず、また控訴人車の損傷状況を直接確認することなく平成八年一〇月、控訴人に対し控訴人車の修理費相当額を通知した。控訴人車の本件事故当時の修理費は三一万六九三〇円であるが、現在の修理費は六七万八九〇九円である。そして、控訴人車の本件事故後の市場価格は四一万四〇〇〇円であり、右市場価格は控訴人車の現在の修理費に達しないから、控訴人車はいわゆる全損である。したがって、控訴人の損害額は、控訴人車の本件事故前の市場価格八三万一〇〇〇円と修理見積費一万九〇〇〇円の合計八五万円である。

仮に控訴人車が全損でないとしても、損害額は、控訴人車の現在の修理費(六七万八九〇九円)と、評価損九万円の合計七六万八九〇九円である(第二次的主張)。

(二) 被控訴人の主張

損害額について、不知ないし争う。

第三争点に対する判断

一  争点1(訴外伊藤が被控訴人車を運転したことは被控訴人の「事業ノ執行」(民法七一五条一項)に当たるか)について

前記争いのない事実によれば、訴外伊藤は被控訴人の従業員であり、本件事故当日、被控訴人から被控訴人車を借りてこれを運転していたことが認められるから、訴外伊藤の運転行為は外形上被控訴人の民法七一五条の「事業ノ執行」に当たるというべきである。

これに対し、被控訴人は、本件事故当日は日曜日であり、訴外伊藤は友人の引越作業を手伝っていた際に本件事故を起こした旨主張するが、単に休日に友人の引越作業を手伝っていたという一事をもってその行為が外形上被控訴人の「事業ノ執行」に当たらないということはできないから、被控訴人の主張は失当である。なお前記借出しが被控訴人に無断でされたとの事実はこれを認めるに足りる証拠がないが、仮にそうであったとしても、このことから直ちに前記判断を覆すものとはいえない。

二  争点2(損害額)について

1  証拠(甲一ないし七、九の1、2、一〇、一二の1ないし4、一三、一四、乙二、三の1ないし4、四、原審における証人鈴木正慶、同安藤正光及び控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故により控訴人車は左側面のセンターピラーを挟むフロントドア、スライドドア等の部分に損傷を受けた。

(二) 控訴人は、本件事故後、被控訴人から代車の提供を受け、控訴人車をトヨタカローラ中京株式会社(以下「トヨタカローラ中京」という。)津島営業所に預けて修理を依頼した。そして、トヨタカローラ中京の従業員である訴外鈴木正慶及び同伊藤篤子は、平成六年八月一日、控訴人車の修理費を三一万六九三〇円(内消費税分九二三〇円)とする見積書(甲四)を作成し、同月四日、控訴人と被控訴人の契約する損害保険会社とに右見積書を送付した。

しかし、被控訴人の契約する損害保険会社の調査担当者は、同月二日に自ら行った調査に基づき、右トヨタカローラ中京の見積書には修理不要の部分が四か所あり、右見積書から修理不要部分の見積金額を減額した二六万六八〇〇円(内消費税分七七七〇円)が控訴人車の修理費相当額であるとしてトヨタカローラ中京が前記金額で控訴人車を修理することに同意せず、その旨をそのころ被控訴人に通知した。そして、控訴人は被控訴人に対し前記トヨタカローラ中京作成の見積書記載の修理費に控訴人の主張する評価損を加えた額の賠償を求めたが、被控訴人はこれに応じず、控訴人車の修理は行われなかった。

(三) 控訴人は、平成六年九月、トヨタカローラ中京に対し控訴人車の市場価額の見積りを依頼し、トヨタカローラ中京は同月三〇日、控訴人がトヨタカローラ中京から他の自動車を購入することを前提に、控訴人車を本件事故前に下取りしたならばその価額は八三万一〇〇〇円であり、本件事故後に下取りしたならばその価額は四一万四〇〇〇円であるとの回答をした。その後、控訴人は弁護士等を通じて被控訴人と、控訴人車の右のような本件事故前後の下取り価額の差も理由として控訴人車の損害額について交渉したが、合意に至らなかった。

(四) 控訴人は、平成九年八月、トヨタカローラ中京に対し控訴人車の修理費の見積りを再度依頼したが断られた。そして、次に控訴人が控訴人車の修理費の見積りを依頼した訴外有限会社井ノ上自動車は、同年九月二八日、右時点における控訴人車の修理費は六七万八九〇九円(内消費税分三万二三二九円)であるとする見積書を作成した。

以上の事実が認められる。

控訴人は、被控訴人の契約する損害保険会社は平成八年一〇月に初めて控訴人に対し控訴人車の修理費相当額を通知したと主張する。しかし証拠(甲五、証人安藤正光(原審))によると、被控訴人の契約する保険会社は控訴人側から前記見積書(甲四)の提出を受け、直ちにこれを利用した見積書(甲五)を作成したことが認められ、そうすると損害保険会社の業務の性質上、これを直ちに控訴人側に通知したものと推認するのが相当である。これに反し、証拠(甲九の1)中には、控訴人車を保管したトヨタカローラ中京の担当者である鈴木に対し、二年三か月後に減額の通知があったとする部分があるが、トヨタカローラ中京がこのような長期間修理もせず専ら保管をしていたとするのは理解できず、右は採用できない。

また証拠(甲一四)によると、本件を平成七年夏か秋ころ控訴人から受任した加藤昌秀弁護士に対し、平成八年六月ころ、前記被控訴人の契約する損害保険会社作成の見積書(甲五)がファクシミリで送信されたことが認められるが、右のとおり、加藤弁護士は事故後(したがって右保険会社の見積り後)一年余を経過して受任したもので、これまでに控訴人本人等に対し通知があったことは十分に考えられるものであり、直ちに前記認定を覆すものとはいえない。そして他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件事故直後における控訴人車の修理費は少なくとも被控訴人の契約する損害保険会社がトヨタカローラ中京の見積額から修理不要な部分にっいての費用を減額した二六万六八〇〇円を要したことが認められる。しかし、これを超える修理費を要するとの事実については、証拠(甲四、証人鈴木正慶(原審))中にはこれに沿う部分があるが、証拠(甲五、乙二、証人安藤正光(原審))に照らし直ちに採用することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そして、本件事故後控訴人車の修理が行われず修理費が高額化したとしても、そのことについての責は過大な見積り・損害を主張し、修理を怠った控訴人側にあると認めるのが相当であるから、本件事故による控訴人車の修理費相当の損害額は二六万六八〇〇円であるというべきである。

また、控訴人は本件事故前の控訴人車の市場価額(八三万一〇〇〇円)を控訴人車の損害額と認めるべきであると主張する(第一次的請求)。しかし、交通事故による被害車の事故前の市場価額は、修理不能の場合又は右市場価額が被害車の事故当時の修理費を下回る等し被害車が経済的に修理不能と認められる場合に限って被害車の損害額として認められるというべきである。そして、控訴人の主張する右本件事故前の控訴人車の市場価額は、前記認定の控訴人車の修理費相当額(二六万六八〇〇円)を大幅に上回るから被害車の損害額として認めることはできない。したがって、控訴人の右主張は失当である(なお、控訴人は自己の主張する本件事故後の控訴人車の市場価額(四一万四〇〇〇円)が本件事故から三年三か月後の控訴人車の修理費(六七万八九〇九円)を下回るから控訴人車は全損であると主張するが、独自の主張であって採用することができない。)。そして控訴人が第一次的請求において主張する修理見積費(一万九〇〇〇円)も直ちにこれを被控訴人の負担すべき損害額と認めることはできない。

2  次に、控訴人車の評価損について検討する。

前記1の認定事実及び証拠(甲四、五、一一)によれば、控訴人車はいわゆる初度登録が平成五年一一月で、登録後一年を経過していない国産のワンボックスカーであること、控訴人車の損害は軽微なものではないこと、控訴人車の前記認定の修理費は不必要な部分についての費用を除くものであること、財団法人日本自動車査定協会が控訴人主張による控訴人車の本件事故当時における消費税分を除いた修理費(三〇万七七〇〇円)を基準として査定した事故損傷による減価額は八万円であること等の事実が認められ、右各事実に照らすと、控訴人車の評価損は前記1認定の控訴人車の修理費相当額(二六万六八〇〇円)の二〇パーセントである五万三三六〇円が相当であるというべきである。

3  したがって、控訴人車の損害額は、本件事故当時の修理費相当額二六万六八〇〇円と評価損五万三三六〇円の合計三二万〇一六〇円である。

第四結論

以上によれば、控訴人の本訴請求中第一次的請求は理由がないが、第二次的請求は、被控訴人に対し損害金三二万〇一六〇円及びこれに対する平成六年七月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるがその余は理由がない。原判決は右と一致する限度で相当であるが、異なる部分は失当である。よって原判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤章功 堀内照美 中辻雄一朗)

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