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名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)1613号 判決 1998年9月18日

愛知県豊田市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

太田勇

岩本雅郎

森田茂

東京都中央区<以下省略>

被告

豊商事株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

奥村敉軌

主文

一  被告は、原告に対し、平成六年一月一日から同年九月三〇日までの期間における原告の委託に係る商品先物取引の内容及び結果並びに右期間において原告が被告に預託した金銭の処理の内容及び結果について別紙記載の全事項を書面により報告せよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  主位的請求の趣旨

被告は、原告に対し、原告にかかる委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別委託証拠金現在高帳の写しを送付して交付せよ

二  予備的請求の趣旨

被告は、原告に対し、平成六年一月一日から同年九月三〇日までの期間における原告の委託に係る商品先物取引の内容及び結果並びに右期間において原告が被告に預託した金銭の処理の内容及び結果について別紙記載の全事項を書面により報告せよ。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告は、商品取引所法に基く商品先物取引市場における上場商品及び上場商品指数の先物取引、商品市場における取引の委託の媒介、取り次ぎ及び代理などを目的とする株式会社であり、商品取引員であり、商法上の問屋である。

2  原告は、平成六年一月ころから同年九月ころまで、被告の名古屋支店との間で、東京工業品取引所における金及びゴムの商品先物取引をした。

3  被告は、商品取引員として、商品取引所法第五四条により、商品市場における取引について、主務省令で定めるところにより、自己の計算による取引と委託者の計算による取引とを帳簿上区分して経理しなければならないものとされ、同法施行規則第二三条第二項に基き、委託者別先物取引勘定元帳、委託者別委託証拠金現在高帳を作成すべきものとされている。

4  被告は、問屋であるから、商法第五五二条第二項により、委託者である原告との間では、民法の委任に関する規定が準用される。そして、民法第六四五条により、被告は、原告に対して、原告と被告の間の取引関係についての報告義務(以下「本件報告義務」という。)を負っている。

二  請求の概要(原告の主張)

1  主位的請求

本件報告義務の内容として、委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別委託証拠金現在高帳の送付及び交付が当然に含まれるので、原告は、主位的には、被告に対し、その履行を求める。

2  原告は、予備的には、本件報告義務の履行として、平成六年一月一日から同年九月三〇日までの期間における原告の委託に係る商品先物取引について別紙記載の全事項を書面により報告することを求める。

三  争点(被告の主張)

1  委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別委託証拠金現在高帳は、委託者に対する報告を目的として作成されるものではないから、その写しの交付が本件報告義務の内容となるものではない。

2  被告は、原告に対し、原告との間の取引が行われた都度、当該取引の内容及び結果が記載された売買報告書及び売買計算書を送付し、毎月委託証拠金の内訳、現在建玉の内訳及び値洗損益が記載された残高照合通知書を送付し、取引終了に当たって、取引勘定を記載した書面を送付しているので、本件報告義務を履行している。

3  原告は、原被告間の取引終了後、二年半も経過した時点において本訴を提起したものであるが、その目的は、原告訴訟代理人らが、予め原被告間の取引関係を把握した上で、これを基に勝手な事後評価に基いた事実を捏造してもっともらしい損害賠償請求訴訟を提起するためのものであり、不当訴訟である。

第三裁判所の判断(乙第一号証の一及び二、第二号証の一及び二、第三ないし第八号証、証人B、弁論の全趣旨)

一  主位的請求について

委任関係に基く報告義務の内容は、報告義務の対象となる事項について、その事項に適切な方法により、報告することに尽きるものであり、仮に、当該事項の報告を書面によってなすべきであるとともに、当該事項が記載された帳簿が存する場合であっても、報告に際して、当該帳簿の写しの送付ないし交付を要するものではない。けだし、報告義務の履行を求める請求権と、帳簿の閲覧、謄写あるいは写しの交付を求める請求権(以下「閲覧等請求権」という。)は、実体法上は、別個の請求権であり、前者が認められるとしても、後者がこれによって、認められる関係にはないからである。

そして、本件報告義務に基いて、原告の被告に対する委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別委託証拠金現在高帳についての閲覧等請求権を認めるべき、法律上あるいは契約上の根拠を見いだすことはできないので、原告の主位的請求には理由がないものというべきである。

二  予備的請求について

1  事実経過等

(一) 商品取引法第九五条、同法施行規則第三五条により、商品取引員である被告は、委託を受けた商品市場における取引が成立したときは、遅滞なく、書面をもつて、成立した取引の種類ごとの数量及び対価の額又は約定価格等並びに成立の日等を委託者に通知しなければならないものとされており、原告に対して、取引の都度、売買報告書及び売買計算書を送付していた。そして、その記載事項は、別紙報告事項一の1ないし12を網羅するものであった。

(二) また、被告は、原告に対して、取引の期間中は毎月、残高照合通知書を送付しており、その記載内容は、預委託証拠金、委託証拠金内訳、預有価証券内訳、現在建玉内訳であった。

(三) 原告は、被告との取引終了後、取引の結果が記載された書面を被告に求めたところ、被告は、平成六年一〇月一四日付で、原告との間の東京ゴム及び東京金の取引についての差引損益金、委託証拠金預り金合計額、支払金額、その差引合計額(いずれも結論のみの数字)が記載された書面(乙第三号証)を作成しそのころ原告に対して送付した。

(四) 被告は、平成六年九月五日付の完済通知書(乙第七号証)をそのころ原告に対して送付した。

(五) 被告は、会社の方針として、顧客に対し、委託者別先物取引勘定元帳及び委託者別委託証拠金現在高帳の内容を開示しないこととしている。

2  原告が予備的請求において報告を求めている別紙報告事項は、いずれも原告と被告の間の取引に関する重要事項であり、本件報告義務の対象となるものというべきである。

ところで、被告が原告に対して送付した右1(一)ないし(三)の書類並びに原被告間で授受された、領収書、受取書の各記載事項を逐一検討すれば、別紙報告事項のすべてを知ることができないではない。

しかしながら、これらの個別的に送付ないし授受された書面等を顧客である原告の負担においてすべて保管し、原告の責任で対照、照合すれば別紙報告事項の内容を知ることができることをもって、本件報告義務の履行がなされたものということは到底できない。けだし、民法第六四五条は、委任事務の終了後に受任者が委任事務処理の顛末を報告すべきことを定めており、この趣旨は、委任事務の終了時点において委任事務の開始から終了に至る事務処理の経過の一部始終を報告すべきことを内容としており、原告と被告のような商品取引についての継続的な関係が存した場合においては、その取引開始から取引終了に至るまでの取引の経過の一部始終の報告を一括して求めることができるものというべきだからである。

そうすると、原告は、別紙報告事項についての報告を被告に対して求めることができるものというべきであり、その報告の方法としては、当該報告事項が多数回にわたる取引(乙第四号証によれば、被告は、原告に対して四九回にわたって売買報告書及び売買計算書を送付しており、原告と被告の間で取引がなされた日は合計四九日も存する。)に関する数量、金額にわたるものであることを考慮すると、口頭によることは不相当であり、書面によるべきものといわなければならない。

3  被告は、本訴が不当訴訟であると主張するところ、本訴の提起が取引終了後二年半以上を経過しており、原告の準備書面中に被告が一任売買をなしたとする記載が存するものの、これによって、本訴の提起が不当な目的でなされたものとすることはできない。

けだし、報告義務は、受任者、受託者である被告が善管注意義務を尽くしたか否かを委託者である原告が確認、検討するための手段として存するのであるから、報告の結果として、その内容に不審な点がある場合には、原告から被告に対する責任追求のための損害賠償請求訴訟等が別途提起されることがありうるのは当然のことであり、その可能性があるからといって、本訴が不当な目的により提起されたものということはできないところである。

そして、原告訴訟代理人らが、予め原被告間の取引関係を把握した上で、これを基に勝手な事後評価に基いた事実を捏造することについては、具体的な証拠は、なんら存しないところである。

4  以上によれば、原告の予備的請求には理由がある。

三  以上の事実によれば、原告の主位的請求は理由がないから棄却し、予備的請求は、理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第六一条、第六四条但書を適用して、主文のとおり判決する(平成一〇年三月二七日口頭弁論終結)。

(裁判官 櫻井達朗)

<以下省略>

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