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名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)2743号 判決 1998年9月04日

原告

余語充伸

被告

林田忠昭

主文

一  被告は、原告に対し、金一五〇〇万四〇四五円及びこれに対する平成四年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金四一五八万六〇〇〇円及びこれに対する平成四年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告に対し自賠法三条及び民法七〇九条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成四年六月三日 午後九時四五分ころ

(二) 場所 愛知県愛知郡日進町大字浅田字平子八番地先県道上(旧表示)

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害者 原告

(五) 態様 路外駐車場においてエンジン停止した訴外山田実運転の普通乗用自動車(以下「故障車」という。)の前面を原告ほか三名が押して右道路に進入したところ、飲酒の上で前方不注視のまま進行してきた加害車が、直前になって原告らを発見してハンドルを右に切って避けようとしたが間に合わず、原告に衝突したもの。

(六) 傷害 原告は故障車と加害車の間に挾まれて、右大腿骨顆上部開放性粉砕骨折、右膝顆間隆起骨折等の傷害を負った。

2  責任原因

被告は、加害車を自己のために運行の用に供する者である。

二  争点

被告は、本件事故による損害額(特に逸失利益の存在)を争うほか、原告には車道に出るに当たり安全確認をすべき注意義務を怠った過失があるとして過失相殺の抗弁を主張している。

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  損害額

1  治療費(請求額零円) 六〇六万三二八七円

甲第一三号証及び弁論の全趣旨によれば原告の治療費は総額一二八五万五五六三円であるところ、このうち六七九万二二七六円は健康保険から支払を受けたものと認められるから、その残額六〇六万三二八七円を損害と認める。

2  付添看護費(請求額二二九万三五〇〇円) 零円

甲第四号証の二、三(平成四年九月二一日付及び平成五年六月一〇日付各診断書)にはいずれも「現在もなお付添看護を要している」との記載があるが、このうち甲第四号証の二は同時期の甲第七号証の一(平成四年八月一八日付診断書)の付添看護を要した期間の欄に明白に斜線が記入されていることと矛盾していること、甲第四号証の三には他に平成五年四月二一日より部分荷重歩行開始との記載もあり、また甲第八号証の一によれば同年七月二四日には原告は退院していること、さらには原告本人尋問の結果によれば原告の入院先である愛知医科大学付属病院は完全看護制をとっていることが認められることに照らすと、前掲甲第四号証の二、三は現実に原告の妻が付き添っている事実を記載したに過ぎず、医師の付添看護が必要との判断を記載したものとは認められない。そして、他に医師が付添看護を必要と判断し又は医師の指示で付添看護が付されたと認めるに足る証拠がない。したがって、付添看護費を本件事故に相当因果関係のある損害として計上することは認められない。

3  入院雑費(請求額五三万八八〇〇円)四四万九〇〇〇円

入院日数四四九日につき、一日当たり一〇〇〇円を認めるのが相当である。

4  通院交通費及び諸費(請求額一六六万六一四二円) 一六四万二七一六円

甲第一〇号証ないし第一二号証によれば、症状固定までの通院期間中の交通費として一一五万八七三〇円、入通院先である愛知医科大学の運動療育センターにおけるリハビリテーション費用として二三万二〇〇〇円、旅行キャンセル代、めがね代、松葉杖等の装具代として合計二五万一九八六円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

5  将来の装具代(請求額七八万二一五二円) 零円

原告は下肢短縮を矯正するための特殊な靴が必要であると主張するが、これを認めるに足る証拠がない。

6  休業損害(請求額二三一二万三七五〇円) 一五〇三万九一八九円

(一) 甲第一四号証、同第一九号証の一、二(原告の勤務先である余語印刷株式会社の所得源泉徴収簿及び給与支払帳簿)によれば原告の給与は平成三年一月から一〇月まで月額四七万円、一一、一二月が月額四九万円であり、賞与が年額一二三万五〇〇〇円となっている。しかし、乙第二号証(原告の平成三年の源泉徴収票)によれば給与支払総額が六七三万円であり、また、乙第三号証(余語印刷株式会社の平成四年度確定申告書控)によれば原告の役員報酬として平成三年一〇月から平成四年九月までに五八八万円(月額四九万円)のみが計上されている。そこで、税務申告内容がより真実の支給額を反映しているものとみなして、前掲各証拠から平成三年一〇月以降の給与月額を四九万円、それ以前の給与月額を四七万円と認めると平成三年一月から一二月までの賞与額は一〇三万円となることから(六七三万円から四七万円の九か月分と四九万円の三か月分を控除した残額)、事故直近の平成三年六月から平成四年五月までの原告の年収は六九一万円(四九万円の一二か月分に一〇三万円を加算)となる。

(二) 原告は事故当時余呉印刷株式会社の取締役であったから、右の年収のうち労働の対価に当たる分のみを原告の損害の算定根拠とすべきである。そこで検討するに、乙第三号証、第六号証及び原告本人尋問の結果によれば、同社の平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度の所得金額は三一万五六一七円であるところ、同社の同事業年度の賃金は実際には稼働していないが同社の取締役である原告の親族二名にも支払われており、支払賃金の総額は後述の福岡秀逸の分を含めて合計一八三五万円余であるのに対し、原告の兄(代表取締役)、その妻(取締役)及び原告三人に支給された報酬は合計一六三四万円であること、同社は原告の兄、原告及び福岡秀逸が中心となって経営しており、右福岡の仕事内容は原告と同じであったにもかかわらず、平成四年六月分の基本給は原告が四二万円、福岡が二八万円(原告の約七割)であったことが認められ、これらの事実に照らすと、原告の給与(報酬)のうちにはその労働に対する対価を超えて取締役への収益の還元が含まれていることが明らかであり、かつ、福岡との間に勤続年数の差があるであろうことを考慮してもなお、原告の給与のうち少なくとも二割は右の収益の還元としての性格を有していたものと認めるのが相当である。したがって、前記の年収のうちの八割に当たる五五二万八〇〇〇円を原告の損害の算定根拠とするのが相当である。

(三) そして、前掲各証拠により認められる傷害の状況、事故後の原告の稼働状況に照らすと、入院期間(四四九日)、実通院日(二五五日)の全部、通院期間中のその余の日数(四七八日)については二分の一の限度で休業損害を認めるのが相当であるから、休業損害は合計一五〇三万九一八九円(五五二万八〇〇〇円を三六五日で除して九九三日を乗じた数。一円未満四捨五入)となる。

7  後遺障害による逸失利益(請求額二七九九万六一〇二円) 一三一〇万〇二五四円

(一) 甲第九の一、二、乙第七号証の一、二、同第八号証の一、二、弁論の全趣旨を総合すると、原告の傷害は平成七年八月二八日に症状固定し、後遺障害として右大腿骨骨折治癒後の右下腿短縮(二センチメートル)、腸骨部の骨採取による骨盤骨の変形及び右膝痛があり、その障害の程度は後遺障害等級併合一一級に相当するものであることが認められる。したがって、症状固定後の労働能力喪失率は二〇パーセントとするのが相当である。

(二) 原告の事故直前の労働の対価に係る年収は前記のとおり五五二万八〇〇〇円であるところ、原告は本件事故後の平成七年四月に市議会議員に立候補して当選し、平成八年の年収は六〇九万九三八〇円(甲一六の二)であって事故前を上回る。しかし、前掲各証拠、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の後遺障害の程度は重く、市議会議員という現在の職務は原告自身及びその支持者の努力により獲得・維持されたものであって、将来に亘ってその地位が確保できる可能性は高いとは言えない。また、従前の雇用先についても実兄が経営する会社とはいえ、原告の代わりとなる人材が採用された現在、原告の議員辞職後も当然に復職できるとも言えないことは明らかである。よって、なお労働能力の喪失が現存すると認められるから損害を認めるのが相当である。

(三) したがって、事故直前の年収五五二万八〇〇〇円の二〇パーセントに、事故時から六七歳までの二二年の新ホフマン係数一四・五八〇から事故時から症状固定時まで三年の新ホフマン係数二・七三一を控除した一一・八四九を乗じた一三一〇万〇二五四円(一円未満四捨五入)が逸失利益と認められる。

8  慰謝料(請求額八〇〇万円) 七三〇万円

前記認定の各事実によれば、入通院慰謝料として三五〇万円、後遺障害慰謝料として三八〇万円が相当である。

9  小計 四三五九万四四四六円

二  過失相殺

1  甲第二号証、乙第一号証の一ないし一三、原告及び被告各本人尋問の結果並びに前掲争いのない事実によれば、次の事実を認めることができる。

2  本件事故は、原告を含めた四名が、夜間、故障車を駐車場から道路へと押して出たところ、進行してきた加害車が故障車に衝突し、原告は故障車と加害車の間に挟まれて受傷したこと、被告は酒気を帯びて前方不注視のまま運転していたため約二〇メートルまで接近して初めて故障車が停車していることに気づいてハンドルを右に切って衝突を避けようとしたが、故障車の左前部付近に衝突したこと、原告は故障車の後部に故障車の方を向いて立っており加害車の接近に気づかなかったこと、原告と共に故障車を押していた他の三名はいずれも加害車が接近して来ることに気づき衝突前に路外へ待避したことが認められる。これらの事実に照らすと、本件事故の責任の大半は被告にあるといえるが、なお原告にも夜間に道路上に出た際に走行車両の動向に十分な注意を払うことなく屹立していた点で落ち度がないとはいえないから、双方の過失を対比して原告の損害額から五パーセントを減額するのが相当である。

3  したがって、被告が原告に対して賠償すべき損害額は四一四一万四七二四円(一円未満四捨五入)となる。

三  損害の填補 二七四一万〇六七九円

甲第一三号証及び弁論の全趣旨を総合すると、損害の填補として被告が支出した額は合計二七四一万〇六七九円であると認められる。

四  弁護士費用(請求 二〇〇万円)一〇〇万円

原告が被告に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、本件事故当時の現価に引き直して一〇〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上によれば、原告の請求は一五〇〇万四〇四五円及びこれに対する本件事故当日である平成四年六月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

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