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名古屋地方裁判所 昭和22年(刑)75号 判決 2001年8月14日

主文

被告人を免訴する

理由

本件公訴事実の要旨は、

『 被告人は、

第1  Aと共謀の上、他人を脅迫して金員を領得することを企て、昭和二〇年八月三〇日午後九時過ぎころ、名古屋市北区杉栄町四丁目付近路上において、B'ことB、C、D等を呼び止め、同区生駒町七丁目<番地略>先に連行し、被告人が、上記Bに対し、「ぐずぐずせずに財布を出せ。」と脅迫して現金一〇〇円を交付させ、上記Aが、上記Cに対し、「金を貸せ。」と脅迫して現金一五円を交付させた。

第2  上記のように恐喝されたことを無念とする上記Bらが憤激して、上記Bが被告人及び上記Aを手けんで殴打したことから、入り乱れて組み打ちとなるや、殺意をもって、所携のあいくちを振り回して、まず、上記Cの右腕部を切り付けたが、同人が逃走したため、同人の右上膊部に全治二週間を要する傷害を与えたものの、殺害の目的を遂げず、さらに、上記Dの頭部、胸部、その他数箇所目掛けて切り付け、同人を左胸部その他の刺傷による出血多量のため、前記場所付近において即死させた。』

というものである。

本件各罪の公訴時効の成否については、刑事訴訟法施行法二条等により旧刑事訴訟法(大正一一年法律第七五号)の規定に基づくことになるところ、一件記録によると、被告人は、本件各事実につき、昭和二〇年九月二〇日に予審請求されたものであるが、同月二七日、被告人が名古屋拘置所から逃走したため、同年一一月一六日、被告人に対する本件の予審手続は中止され、その後、昭和二一年一月二八日、本件第一の共犯者Aに対し判決の言渡しがあり、昭和二二年五月三日には、昭和二二年法律第七六号(日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律)の施行により予審制度が廃止されたことに伴い、予審手続中止の効力が失われ、本件は公訴提起後の合議事件として扱われることとなり、その後、昭和三二年五月一一日を始めとして昭和六一年七月三日まで合計七回公判期日指定がされたが、そのほかに旧刑事訴訟法二八五条の定める公訴時効の中断事由ないし同法二八七条の定める公訴時効の停止事由がないまま今日に至っていることが認められる。

そうすると、本件第一の各恐喝罪の公訴時効は、予審制度が廃止されて予審手続中止の効力が失われた後、被告人に対する第一回目の公判期日指定がされるまでの間に、公訴時効の中断事由ないし停止事由のないまま時効期間である七年が経過したことにより成立し(旧刑事訴訟法二八一条三号、刑法二四九条一項)、また本件第二の殺人罪及び同未遂罪の公訴時効は、最後の公判期日指定から本日(平成一三年八月一四日)までの間に、同事由のないまま時効期間である一五年が経過したことにより成立した(旧刑事訴訟法二八一条一号、刑法一九九条、二〇三条)ものと認められる。

よって旧刑事訴訟法三六三条四号により被告人に対し免訴の言渡しをする。

(裁判長裁判官・片山俊雄、裁判官・橋本一、裁判官・高橋正幸)

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