名古屋地方裁判所 昭和28年(行モ)2号 決定
申立人は被申立人議会の職員であつたところ、被申立人議会は昭和二十八年八月二十九日の議会において申立人を除名する旨の決議をなし、右処分は同日申立人に通知せられた。そして右除名の理由とするところは、被申立人議会規則第一条(議員は招集せられた日時に議場に参集しなければならない。)同第三十四条(発言は簡明を旨とし議題外に亘ることはできない。議長において議題外に渉ると認めるときはこれを制止することができる。)同第八十九条(……議事を妨げる行為があつてはならない。)及び地方自治法第百三十二条等に違反する言動が申立人にあつたというにある。然しながら昭和二十八年八月十六日開催せられた第七回碧南市緊急臨時議会において申立人が欠席したのは、同年同月十四日申立人が起債の件に関し上京したがためであり、右のための不参届は被申立人議会事務局長国松康治を通じ当時副議長たりし杉浦敏一に対し提出済みであつたのである。しかも申立人は同年同月十六日午後二時ごろ帰省し未だ議会開催中たることを聞き直ちに議場に赴いたのであるが、当日上程せられた議題は碧南市における公金不当支出に関するものであつた。ところで当時一部新聞紙上等において申立人の公金不当支出に関する記事が掲載せられていたため、申立人としては生来の正義感により黙することができず、既に閉会後ではあつたが(右議会は元来申立人が上京留守中を奇貨とし一部反対者の策動により招集せられたものである)敢て議長の了解の下に登壇し申立人の潔白であることを弁明したのである。このように申立人の不参集は一部反対者の策謀によるものであり、かつ右の弁明に当つても申立人に何等の責むべき言動はなかつたのであるから、その除名決議は理由を欠く違法のものであり、また仮にかゝる言動があつたとしても既に閉会後の議場における行動であつて、懲罰の対象とはならないものである。なお除名決議なるものは議員の地位を終局的に剥奪する最高の懲罰であるから、懲罰委員会としては本人及び関係者を召換して尋問する(前記規則第九十一条参照)等慎重に事を処理すべきであつたに拘らず、これをなさずまた申立人は昭和二十七年四月二十九日議員当選以来被申立人議会議長の地位にあつたが、当時申立人の議長不信任の声も一部にあつたので、進んで引退することが市民のためとも考え同二十八年四月十四日議長辞任届を提出してあつた等の点よりみても、申立人を除名しなければ議会の秩序を保持し難いほど重大な事情のある筈はなく、右除名決議は申立人に対しあまりにも不当苛酷な措置であり、ひいてはその決議の違法を招来するものといわなければならない。よつて申立人は当裁判所に対し右除名決議取消請求の訴を提起し目下繋属中であるが、右判決確定を俟つてはその間相当の日時を要し、申立人の任期満了により償うことのできない損害を蒙る虞があり、緊急の必要に迫られている上に、公共の福祉にも重大な影響を及ぼす虞もないので、右判決の確定まで被申立人議会のなした本件除名決議の効力の停止を求めるため本件申請に及んだのである。
申立人は疎明として甲第一ないし第五号証を提出した。
そこで考えてみるに、本件除名処分取消請求の本訴が当庁に提起されていることは、当裁判所に顕著なところであり、申立人提出の疎明資料によれば被申立人議会が申立人に対し、申立人主張の日にその主張の理由によりその主張のような処分をしたことが認められる。そして申立人の主張する如く、右除名処分取消の訴の裁判が確定するまで相当の日時を要し、その間或いは申立人の任期満了することも全然想像し得ないことでもないが、かかる事実のみを以ては直ちに右除名処分の執行により「償うことのできない損害を避けるため」当該処分の執行を停止すべき「緊急の必要がある」場合に当るものとはいえない。申立人は右除名処分が違法であることについて縷々述べているが、これらの事実は右処分の取消を認むべきか否かに関する問題であつて本訴において審理さるべきであり、これを以て直ちに右処分の執行を停止すべき事情に当るものとは認め得ない。又本件においては他に執行を停止すべき事由に関し格段の主張も疎明もなされていないから、右執行停止を求める申立人の申立は理由のないものと称せねばならない。
よつて申立人の申立は却下すべきものとし、申立費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 山口正夫 村本晃 山田義光)