名古屋地方裁判所 昭和28年(行モ)3号 決定
被申立人碧南市議会が昭和二十八年五月二十七日申立人に対してなした除名決議は、当庁昭和二十八年(行)第一四号議員除名決議取消請求事件の本案判決確定に至るまで、その執行を停止する。
二、理 由
申立人は主文同旨の裁判を求め、その申立の理由として次のように主張した。
(一) 申立人は碧南市議会の議員であつたところ、昭和二十八年五月二十七日の緊急議会において、同年三月十六日の本会議における申立人の所為が地方自治法(以下単に法と称する)第百三十二条に違反するとのかどで、法第百三十四条、第百三十五条により議員を除名せられた。
(二) しかしながら、右除名決議は次の如き理由により違法である。
(1) 申立人の昭和二十八年三月十六日碧南市議会における発言には、いささかも無礼な言葉を使用したり、又は他人の私生活にわたる言論をしたということはなく、市議会議員として当然許さるべき言論の自由の範囲内の発言であつて、これを法第百三十二条違反とすることは絶対にできない。
(2) 仮りに右発言のうちに法第百三十二条違反の内容があつたとしても、該発言は昭和二十八年三月十六日の本会議における所為であり同日の会期は閉会したに拘らず、同年五月二十七日の緊急臨時議会において本件除名決議がなされている。即ち右除名決議は法第百十九条の会期不継続の原則にてい触し無効である。
(3) なお、仮りに申立人の前記発言のうちに、法第百三十二条違反の内容があつたとしても、議員に対するいわば極刑とも称すべき除名処分に付するが如きは、明かに懲罰の限度を超えたもの即ち懲罰権の乱用と認むべきものであり、右除名決議は違法たるを免れない。
(三) 申立人はさきの選挙において碧南市民より千百六十四票の多数の投票を得て当選したものであり、申立人が前示除名決議取消訴訟の判決確定に至るまで碧南市会議員としての職責をつくし得ぬことは、社会的政治的見地よりとうてい堪え得ないところである。なお又昭和二十八年秋の大台風の被害を受けた碧南市としてはその復興のため議員の任務も重大さを増してきている現状であり、申立人の碧南市会議員としての地位は一日も忽かせにできない状態である。よつて右判決確定までの暫定的処置として本件停止決定の申立をなす次第である。
そこで右申立の当否につき審査するに、本件除名決議がはたして申立人主張のように違法であり取消を免れないものであるかどうかは、本案訴訟の審理の上でなくてはにわかに断定できないところである。しかし当裁判所が当事者の意見を聴き疏明資料を精査し、且つ諸般の事情を考慮した結果によると、さしあたり申立人の主張を正当と認めて右除名決議の効力の発生を一応停止しておくべき緊急の必要があるように考えられる。そして行政事件訴訟特例法第十条第二項にいわゆる処分の執行停止とは、単に行政処分に基きその執行行為として現実に何等かの法律行為又は事実行為がなさるべき場合これが執行を停止することを意味するに止まらず、広く本件除名決議のように行政上の意思表示の効力の発生を停止する必要のある場合をも含むと解せられるので、同法第十条第二項、第四項にもとずき主文のように決定する次第である。
(裁判官 山口正夫 村本晃 安達昌彦)