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名古屋地方裁判所 昭和28年(行)12号 判決 1965年1月30日

名古屋市昭和区曙町二ノ三

原告

中島五一

同市

端穂区雁道町二の六

亡大橋庄吉訴訟承継人

原告

大橋よ志

同所

同番地

同承継人

原告

沼部富貴子

同所

同番地

同承継人

原告

大橋美良子

同所

同番地

同承継人

原告

大橋森雄

同所

同番地

同承継人

原告

大橋繁雄

同所

同番地

同承継人

原告

大橋節子

同市

中区大池町五ノ三八

原告

大橋金一

原告等訴訟代理人弁護士 森健

右原告等訴訟復代理人弁護士

大矢和徳

同市昭和区桜山町五の一〇三

被告

昭和税務署長

岡野栄

同市中区南外堀町六ノ一

被告

名古屋中税務署長

伊藤育

右被告等指定代理人

水野祐一

久野忠志

須藤寛

柴田富夫

右当事者間の昭和二八年(行)第一二号課税処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用については、中島五一と被告昭和税務署長との間に生じたものは原告中島五一の、原告大橋よ志同沼部富貴子、同大橋美良子、同大橋森雄、同大橋繁雄、同大橋節子と被告名古屋中税務署長との間に生じたものは右原告等(原告大橋よ志以下六名)の、原告大橋金一と被告名古屋中税務署長との間に生じたものは原告大橋金一のそれぞれ負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告等の申立

(一)  原告中島五一

被告昭和税務署長が昭和二七年七月二八日同原告に対してなした昭和二六年分所得税に関する総所得金額を金三七二、〇〇〇円と訂正した決定のうち金二五〇、〇〇〇円を超過する部分を取消す。

訴訟費用は同被告の負担とする。

との判決

(二)  原告大橋よ志、同沼部富貴子、同大橋美良子、同大橋森雄、同大橋繁雄、同大橋節子(以下原告大橋よ志外五名という)被告昭和税務署長が昭和二七年五月一四日亡大橋庄吉に対してなした、昭和二六年分所得税に関する総所得金額を金三五〇、〇〇〇円と更正した決定のうち金二五三、二七七円を超過する部分を取消す。

訴訟費用は同被告の負担とする。

との判決

(三)  原告大橋金一

被告名古屋中税務署長が昭和二七年七月三一日同原告に対してなした昭和二六年分所得税に関する総所得金額を金二三五、五〇〇円と訂正した決定のうち金一八八、〇〇〇円を超過する部分を取消す。

訴訟費用は同被告の負担とする。

との判決

二、被告等の申立

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

との判決

第二、原告等の請求原因

(一)  原告中島五一

同人は被告昭和税務署長に対して昭和二六年分所得税に関する確定申告に於て総所得金額を金二五〇、〇〇〇円としたところ、同被告は昭和二七年三月二八日右金額を金四二二、〇〇〇円と更正し右原告に通知した。よつて同人は右被告に対し再調査請求をしたところ同年七月二八日右更正金額を金三七二、〇〇〇円に訂正する決定があつた。これに対し同原告が名古屋国税局長に対し審査請求したところ昭和二八年四月二八日請求棄却の決定があり同決定は同年五月一日同原告に送達された。しかしながら同原告の所得は確定申告の通りであり、右被告の訂正決定は確定申告を超える限度において違法であるから、同決定のうちの右超過部分の取消を求める。

(二)  原告大橋よ志外五名

亡大橋庄吉は被告昭和税務署長に対して昭和二六年分所得税に関する確定申告に於て総所得金額を金二五三、二七七円としたところ、同被告は昭和二七年五年一四日右金額を金三五〇、〇〇〇円と更正し右大橋庄吉に通知した。よつて同人は右被告に対し再調査の請求をしたところ請求棄却の決定があつた。これに対し同大橋庄吉が名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ昭和二八年五月二五日請求棄却の決定があり同決定は同月二八日同大橋庄吉に送達された。しこうして同人は昭和三三年一月一〇日死亡し原告大橋よ志外五名がこれを相続した。しかしながら大橋庄吉の所得は確定申告の通りであり右被告の更正決定は確定申告の金額を超える限度において違法であるから、同決定のうちの右超過部分の取消しを求める。

(三)  原告大橋金一

同人は被告中税務署長に対して昭和二六年分所得税に関する確定申告に於て総所得金額を金一八八、〇〇〇円としたところ、同被告は昭和二七年四月一日右金額を金二五〇、〇〇〇円と更正し同原告に通知した。よつて同人は右被告に対し再調査の請求をしたところ昭和二七年七月三一日同金額を金二三五、五〇〇円との一部取消があつた。これに対し同原告が名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ昭和二八年五月二五日請求棄却の決定があり同決定は同月二八日同原告に送達された。しかしながら同原告の所得は確定申告の通りであり右被告の更正決定は確定申告の金額を超える限度において違法であるから、同決定のうちの右超過部分の取り消しを求める。

第三、被告等の答弁及び主張

(一)  原告ら主張の課税処分があつたことは認める。

(二)  原告中島五一に対する課税所得の計算関係は左のとおりである。

同人は昭和二六年当時諸帳簿を完備していなかつたので、被告税務署長は同年分の所得金額を資産負債増減法により推計した。即ち

期首 資産合計(A) 九四、三六一円七六銭

負債合計(B) 一四二、二〇八円二〇銭

差引純資産(C)((A)-(B)) △ 四七、八四六円四四銭

期末 資産合計(D) 五三三、三七一円七六銭

負債合計(E) 二〇二、九四〇円二〇銭

差引純資産(F)((D)-(E)) 三三〇、四三一円五六銭

同年中純資産の増加(所得金額)(F)-(C)) 三七八、二七八円

なお右期末資産には次のものを計上してある。

期末在庫品 一〇〇、〇〇〇円

什器設備の増加分 四七、〇〇〇円

否認公課(所得税、市民税) 一四、七四九円

生計費 二八一、八五六円

(三)  亡大橋庄吉に対する課税所得の計算関係は左のとおりである。

同人についても前同様帳簿不備のため、資産負債増減法により推計した。即ち

期首 資産合計(A) 二〇四、一七四円

負債合計(B) 一八七、三六五円

差引純資産(C)((A)-(B)) 一六、八〇九円

期末 資産合計(D) 六四三、八六九円

負債合計(E) 二五三、七七九円

差引純資産(F)((D)-(E)) 三九〇、〇九〇円

同年中純資産の増加(所得金額)((F)-(C))  三七三、二八一円

なお右期末資産には次のものが計上してある。

生計費 二四六、六二四円

否認公課 三五、八一五円

簡易保険掛金 七、〇五〇円

又右期末負債には次のものが計上してある。

買掛金 一七九、六二三円

借入金 五五、〇〇〇円

(四)  大橋金一に対する課税所得の計算関係は左のとおりである。同人についても前同様帳簿不備のため、資産負債増減法により推計した。即ち

期首 資産合計(A) 三、〇〇〇円

負債合計(B) 四五、二五〇円

差引純資産(C)((A)-(B)) △ 四二、二五〇円

期末 資産合計(D) 五二〇、六九四円

負債合計(E) 三二四、〇九〇円

差引純資差(F)((D)-(E)) 一九六、六〇四円

同年中純資産の増加(所得金額)((F)-(C)) 二三八、八五四円

なお右期末資産には次のものが計上してある。

生計費 一七六、一六〇円

又右期末負債には次のものが計上してある。

個人借入金 三〇、〇〇〇円

第四、原告等の答弁

(一)  原告中島五一

被告昭和税務署長が昭和二六年分所得金額を計算した内訳中

期末在庫品 一〇〇、〇〇〇円 とあるは 八四、〇〇〇円

什器設備の増加分 四七、〇〇〇円 とあるは 〇円

否認公課 一四、七九四円 とあるは 三、〇〇〇円

生計費 二八一、八五六円 とあるは 二四〇、〇〇〇円

である。従つて

期末資産 四一六、七二一円七六銭

差引純資産 二一三、七八一円五六銭

所得金額 二六一、六二八円

となる。その余の右被告の主張事実は認める。

(二)  原告大橋よ志外五名

被告昭和税務署長が昭和二六年分所得金額を計算した内訳中

生計費 二四六、六二四円 とあるは 一八六、五五六円

否認公課 三五、八一五円 とあるは 一九、七七八円

買掛金 一七九、六二三円 とあるは 一九五、八四〇円

借入金 五五、〇〇〇円 とあるは 七八、〇〇〇円

である。又簡易保険掛金は否認する。その余の右被告の主張事実は認める。

(三)  原告大橋金一

被告名古屋中税務署長が昭和二六年分所得額を計算した内訳中、生計費、負債額を否認し、他を認める。

第五、証拠関係

一、原告中島五一

(1)  証人上田正光の証言及び右原告本人尋問の結果を援用し、

(2)  乙第一号証の一、二、第二ないし六、五四各号証の成立を認めた。

二、原告大橋よ志外五名

(1)  甲第一ないし三各号証を提出し、

(2)  証人馬淵ゆき子、同津坂正年の各証言及び右原告本人尋問の結果を援用し、

(3)  乙第一号証の一、二、第七ないし一一、五四ないし五六各号証の成立を認め、乙第一二ないし一五、四七ないし四九各号証の成立は不知。

三、原告大橋金一

(1)  甲第四ないし六各号証を提出し、

(2)  右原告本人尋問の結果を援用し、

(3)  乙第一号証の一、二の成立を認め、乙第五三号証の成立は不知。

四、被告昭和税務署長――原告中島五一関係

(1)  乙第一号証の一、二、第二ないし六、五四号証を提出し、

(2)  証人鈴木行雄の証言を援用した。

五、被告昭和税務署長――原告大橋よ志外五名関係

(1)  乙第一号証の一、二、第七ないし一五、四七ないし四九、五四ないし五六号証を提出し、

(2)  証人鈴木行雄、同鹿野邦彦、同刈谷肇の各証言を援用し、

(3)  甲第一ないし三各号証の成立は不知。

六、被告名古屋中税務署長

(1)  乙第一号証の一、二、第五三号証を提出し、

(2)  証人駒宮雄二の証言を援用し、

(3)  甲第四ないし五号証の成立は不知。

理由

一、被告昭和税務署長が原告中島五一及び原告大橋よ志外五名の先代大橋庄吉に対し、同原告ら主張の如き課税処分をなし、被告名古屋中税務署長が原告大橋金一に対し同原告主張の如き課税処分をなしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、原告中島五一、同大橋金一及び大橋庄吉が昭和二六年度の営業並びに家計につき正確な諸帳簿を作成してないことは当事者間に争いのないところであるから、被告税務署長が資産負債増減法によつて原告らの所得を推計したことは適法であるというべく、また、原告らの生計費を名古屋市における平均生計費によつて推計したことも適法であるということができる。

なお成立に争いのない乙第一号証の一、二によれば昭和二六年度における名古屋市民の一ケ月間の平均生計費は金二、九三六円であることが認められる。

三、被告税務署長が原告らの所得額を査定するに当つてなした計算関係は、左の部分を除き、その他は原告らにおいて争わないところである。

よつて当事者間に争いのある部分と、これに対する当裁判所の判断を示せば左のとおりである。

(1)  原告中島五一関係

争いのある項目 被告税務署長の査定 右原告の主張

期末在庫品 一〇〇、〇〇〇円 八四、〇〇〇円

什器設備の増加分 四七、〇〇〇 〇

否認公課 一四、七九四 三、〇〇〇

生計費 二八一、八五六 二四〇、〇〇〇

成立に争いのない乙第二号証によれば、右原告の昭和二六年度期末における在庫品は金一〇万円相当あつたことが認められる。成立に争いのない乙第三号証、証人鈴木行雄の証言を総合すれば、同原告は昭和二六年度において、ケース一個(価額一〇、〇〇〇円)、ネオン燈(価額二二、〇〇〇円)、螢光燈五本(価額一五、〇〇〇円)以上合計四七、〇〇〇円の設備をなしたことが認められる。また成立に争いのない乙第四、五号証によれば同原告は昭和二六年度において所得税一二、〇〇〇円市民税二、七九四円以上合計一四、七九四円の税金を納付していることが認められる。

成立に争いのない乙第七号証によれば、同原告の昭和二六年度における家族人員は八名であつたことが認められるから、その生計費を前記名古屋市民の平均生計費によつて推計するときは、金二八一、八五六円となることが計算上明らかである。

よつて右当事者間に争いのある事項については、被告税務署長のなした査定が正当であることを認めることができる。

右認定に反する原告中島五一の供述は措信し難く、また証人上田正光の証言によるも右認定を覆すに足らない。

(2)  大橋庄吉関係

争いのある項日 被告税務署長の査定 原告大橋よ志外五名の主張

買掛金 一七九、六二三円 一九五、八四〇円

借入金 五五、〇〇〇 七八、〇〇〇

簡易保険掛金 七、〇五〇

否認公課 三五、八一五 一九、七七八

生計費 二四六、六二四 一八六、五五六

証人鈴木行雄の証言により成立の認められる乙第一三ないし一五号証によれば右大橋庄吉の昭和二六年度期末における買掛金は訴外株式会社東海アサヒに対し五三、〇一〇円、同株式会社新興ゴム商会に対し六一、八三五円、同愛知ゴム製品協同組合に対し六四、七七八円以上合計一七九、六二三円を負担していたことが認められるが、右の外に買掛金があつたとの点については、甲第一号証は右乙第一三号証に対して措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。証人鹿野邦彦の証言により成立の認められる乙第一二号証、同第四八号証及び証人馬淵ゆき子の証言を総合すれば大橋庄吉の昭和二六年度における借入金は訴外馬淵武雄及び馬淵ゆき子から約二八、〇〇〇円、自己の母から約一五、〇〇〇円、自己の妻の実家から約三〇、〇〇〇円以上合計七三、〇〇〇円であつたことが認められる。乙第四七号証の馬淵武雄の供述中右認定に反する部分は措信しない。証人鹿野邦彦の証言により成立の認められる乙第一二号証によれば、同大橋庄吉は昭和二六年度において簡易保険掛金として同年三月から一二月まで毎月七〇五円合計七、〇五〇円を支払つたことが認められる。成立に争いのない乙第八ないし一一号証によれば同大橋庄吉は昭和二六年度内に所得税二四、四四〇円、市民税四、二九七円、不動産取得税附加税及び手数料三、五三七円、不動産取得税及び手数料三、五四一円以上合計三五、八一五円を納付したことが認められる。成立に争いのない乙第七号証によれば、右大橋庄吉の昭和二六年度の家族人員は七名であつたことが認められるので、その生計費を前記名古屋市民の平均生計費によつて推計すると、二四六、六二四円となることが計算上明らかであり、これに反する原告大橋よ志本人尋問の結果は措信し難い。

よつて原告大橋よ志外五名が争わない金額と当裁判所が認定した金額とによると、大橋庄吉の昭和二六年度の推計所得金額は次のとおりになる。

期首 資産合計(A) 二〇四、一七四円

負債合計(B) 一八七、三六五

差引純資差(C)((A)-(B)) 一六、八〇九

期末 資産合計(D) 六四三、八六九

負債合計(E) 二七一、七七九

差引純資産(F)((D)-(E)) 三七二、〇九〇

同年中純資産の増加(所得金額)((F)-(C)) 三五五、二八一

然るところ被告税務署長は大橋庄吉の昭和二六年度所得金額を金三五〇、〇〇〇円と査定しているのであるから、右査定には何等違法がない。

(3)  原告大橋金一関係

争いのある項目 被告税務署長の査定

住宅金融公庫以外の個人借入金 三〇、〇〇〇円

生計費 一七六、一六〇

証人駒宮雄二の証言により成立の認められる乙第五三号証によれば、原告大橋金一の昭和二六年度における個人借入金は訴外河村正雄から三〇、〇〇〇円であつたことが認められ、右借入金が五〇、〇〇〇円であつた旨の原告大橋金一本人尋問の結果は措信し難い。又は右乙第五三号証によれば同原告の昭和二六年度の家族人員は五名であつたことが認められるのでその生計費を前記名古屋市民の平均生計費によつて推計すると一七六、一六〇円となることが計算上明らかであり、これに反する右原告本人尋問の結果は措信し難い。

よつて右当事者間に争いのある事項については被告税務署長のなした査定が正当であることを認めることができる。

四、以上の理由により、被告税務署長らがなした更正ないしその訂正決定はいずれも正当であるので、これらの取消を求める原告らの請求はすべて理由がない。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条(但し原告大橋よ志外五名と被告昭和税務署長との間においては同法第八九条、第九三条一項本文)を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 松本重美 裁判官 加藤義則 裁判官 横山弘)

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