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名古屋地方裁判所 昭和29年(行モ)1号 決定

申立代理人は、被申立人が昭和二十八年七月二十五日申立人に対してなした一色町議会議員除名処分の執行を当裁判所昭和二十八年(行)第一六号町議会議決取消請求事件の判決が確定するまで停止する。との決定を求め、その理由とするところは、

「申立人は昭和二十六年四月三十日施行の一色町議会議員選挙に立候補して当選(当選三回目)をし爾来引き続き一色町議会議員として右一色町議会議長、一色町教育委員長、一色町消防団長等の公職を兼任し如何なる政党にも所属せず誠心誠意町政の発展に努力してきたものであるが、社会党に好意を抱いていたためもつぱら自由党を支持する議員渡辺一衛、同黒野甚作、同犬塚吉三郎等より白眼視され来つた傾があつた。かゝる状況のもとに昭和二十八年六月より七月にかけて町政上に二個の問題即ち消防自動車寄附金の問題と旧一色中部小学校の廃校舎売却問題が起り、渡辺一衛一派はこれらの問題を取上げて申立人及び町長の不信任、町政からの追放を画策するに至つた。

消防自動車寄附金問題とは一色町の消防自動車購入資金を一色町民や一色町縁故者より寄附募集をするに当り元来右募金運動の主体は町自体が当るのが合理的であつたが、現実問題としては町の募金運動の形式を採ると運動員の出張運動費の支出方法等に種々煩雑なる手続が必要であるため、町長、議員等とも相談の結果、便宜上町議員有志の募金運動の形式をとり町長は外部より之を援助するという形式を採つた。そして申立人は議長であり町消防団長を兼任していた関係上右募金運動の責任者となり右運動はほぼ所期の目的を達したのであるが渡辺一衛一派はこの問題を取上げ、この運動は元来町のために為す運動であるから町議会の決議を経て町の運動として為すべきである。然るに前記のような形式で運動したのは申立人及び町長が議会を無視するものでありかくの如く議会を軽視する議長(申立人)及び町長は信任することが出来ないと主張して議長及び町長不信任の理由の一つに取り上げたのである。(町長も申立人と同様社会党に好意を抱いていた。)

又一色中部小学校廃校舎売却問題というのは昭和二十八年度町予算面には前記廃校舎を金五十万円にて売却処分する件が計上されていたがこの予算執行に当り町長の奔走にも拘らず金五十万円では価格が高すぎて売却できずやつと金三十二万五千円にて一色町の加藤銀次郎という買手がついたので町長はこれを町議員二十二名より構成される町議会内の保育園建設委員会の会議に諮り全員の承認を得て金三十二万五千円で右加藤銀次郎に売却処分したのである。然し元来この処分は予算面に金五十万円と計上されているものを金三十二万五千円で処分するのであるから法理的には予算変更を伴う処分であり町議会の予算変更の決議を必要とするのであるが町長としては既に町議員の大半三十名中二十二名より構成される保育園建設委員会の全員一致の承認を得ていることだから次の議会において当然賛成決議は得られるものと軽く考え事前に町議会に諮ることなく売却処分したのである。ところが渡辺一衛一派の議員はこの問題を取り上げ町長が議会の議決を経ずに前記処分をしたのは議会を無視する越権行為であり又申立人が議長としてかゝる越権行為を制止しなかつた行動も亦議会を無視するものでありかような議長及び町長を信任することは出来ないと主張しだしたのである。そこで渡辺一衛一派は申立人及び町長追放の方法として同年七月十三日渡辺一衛一派十五、六名の議員が一色町今済寺に会合し先ず申立人及び町長の不信任案を町議会に提出し場合によつては申立人の議員除名決議をもなす旨の相談をとりまとめ不信任決議及び除名決議には地方自治法(以下法と略称する)及び一色町議会会議規則(以下規則と略称する)により全議員の三分の二以上の出席議員の四分の三以上の同意を必要とするところからこゝに申立人及び町長の不信任案賛成の署名運動を始めるに至つた。しかしてその運動が極めて執拗且つ威圧的であつたため心中反対でありながら止むなく賛成署名する議員もあつて遂に渡辺一衛一派は二十三名の議員の署名を獲得するに至つたので町長はこの形勢を見て遂に同月二十日辞表を提出した。

かくて、町政は愈々紛糾するに至つたので申立人は局面を打開し町政の円滑なる運営を計るため申立人名を以て同月二十二日全員協議会を招集し全議員に対し町政円滑のための懇談を求めたのであるが当時既に渡辺一衛一派は申立人及び町長の不信任案賛成署名運動に成功していたため右協議会席上においては前記二個の問題を中心に激しく申立人及び町長を非難し、申立人に対しては議長の辞任はもとより教育委員長の辞職をさえ要求し、万一この要求に応じないならば除名決議を以て申立人を議員から除名すると申立人を威圧して、その要求を一歩も譲らなかつた。然し、申立人は右要求に対して、公開の議場において申立人の政治行動に対して十分討論をたたかわし、実情を議事録にも残し、その結果申立人に辞職すべき理由があれば、何時でも議長も議員も辞職するがかかる秘密会議の席上で諸君の要求に屈して議長や教育委員長を辞職する事は申立人の政治的生命は勿論社会的生命をさえ失うものであるから今茲で辞職するわけにはいかない。次の議会(七月二十五日の定例議会)の公開の席上正々堂々と諸君と討論した結果申立人の進退を決する。申立人の背後には三百五十余名の投票者があるから政治の闇取引は一切出来ない旨を告げはつきりと渡辺一衛一味の要求を拒否したので申立人と反対派との話はあくまで対立したのである。その結果協議会は二十一対五の多数議員の意思として申立人及び町長の不信任の意思を表示し、申立人及び町長側と反対派は意見対立のまゝ物別れの結果となつた。しかし町長はその後何故か七月二十四日に至つて先に提出した辞表を取下げた。

かくして定例議会は昭和二十八年七月二十五日に開かれたが午後一時の招集時間より三十分位遅れて全員揃つたので申立人は開会に先立つて議長席より発言し、

「本日は予て協議会の席上で約束した通り私の政治行動に関し公開の議場で反対派の諸君と正々堂々と質疑応答を闘わしその結果私の進退を決したいと思う。それには私が議長を勤めていては都合が悪いから本日の議長の役は中川副議長に勤めて貰いたいと思う。先の二十二日の協議会においては反対派の諸君は多数を以て私の議長不信任を表明し教育委員長辞職の要求までせられたが私は議員を職業としているものではないからやめるべき理由があれば何時でもやめる。私は長い議員生活において誠心誠意町政に努力して来たのに拘らず本日の如く町政の紛糾を来たした事は甚だ遺憾に堪えない。本日は公開の議場で私の政治行動の是非に関し正々堂々と諸君と質疑応答を闘わしたいと思うそれについて諸君は私の責任ばかりを追及せられるが私としては諸君の側にも十分反省して貰いたいと思つている。例えば犬塚議員は以前にも町議員として町政を紛糾せしめて遂にその責任上議員を辞職した前歴を持つていられる。その犬塚議員がこの度又私や町長の不信任や追放運動の発頭人の一人となつて居られるのは甚だ遺憾である。この点十分同議員の反省を求めたいと思う。又松井議員は町長と親戚の間柄にあるのであるがその松井議員が町長不信任の運動をせられるということは人情の上からみても甚だ遺憾に思われ私としてはこの点同議員に十分反省をして貰いたいと考えている。この度の紛糾について或人(一色町元教育委員長田善一)が私に語られたところによればその人は町長宅の座敷で居合わせた町議員数名に対し君達は大勢寄つて渡辺(申立人)一人を除名するとかリコールするとか言つて騒いでいるが渡辺一人をそんなに恐がつているところを見ると渡辺は町議会議員級以上の大物だと見えるなあと冷やかしてやつたと言つて居られた。現にこのように心ある町民はこの度の町政の紛糾を冷笑して居られるのであるからこの際諸君の側においても大いに反省して貰いたいと思う云々」という発言をした。しかして右発言を終り議長席を中川副議長に譲り申立人が自己の議席に着くと、次に町長が発言を求めて前記二問題に関連する陳謝をなし、午後二時二十分中川副議長は開会を宣し議事録署名者を指定し終るや待兼ねていたように渡辺一衛議員が申立人の前記協議会の席上及び本日定例議会での発言中において犬塚、松井両議員を侮辱し暴言をなして議員の品位を汚したとの理由で申立人に対する議員除名の緊急動議を提出し黒部甚作、犬塚吉三郎の両議員が直ちにこの動議に賛成したので右動議は議会に採択され同時に申立人は被懲罰者として議場から退席せしめられた。そして申立人の退席後右除名動議は懲罰委員会に附され同委員会の意見に基き本会議において表決の結果賛成二十三票反対六票を以て申立人の除名決議は成立したのである。

しかしながら右除名決議には次のような違法がある。即ち、

(1)  本件除名決議の理由となつた申立人の発言はいずれも議会開会前の発言であつて法及び規則に規定する議会もしくは議場内の発言ではない。故にかかる発言を理由とする本件除名決議は違法である。

(2)  仮に(1)記載の主張が理由なしとするも申立人の前記発言は主観的にも言葉の表現形式においても何等犬塚、松井両議員を侮辱した言葉でもなく又規則第五十八条第二項後段に所謂「品位を汚す」発言でもないのであるから本件除名決議は違法である。

(3)  仮に申立人の発言中に犬塚、松井両議員を侮辱するが如き発言があつたとしてもその場合には法第百三十三条及び規則第五十八条第三項によつて被侮辱両議員の処分の請求を待つて始めて被申立人議会は申立人の処分を審議決定すべきであつて本件の如く被侮辱議員でない渡辺一衛議員の唐突なる除名緊急動議に基き直ちに除名処分をなすが如きは法第百三十三条及び規則第五十八条第三項の法意を無視する違法決議である。

(4)  仮に(1)(2)(3)項記載の主張が理由なしとするも本件除名決議は前記の如く申立人と政見を異にする渡辺一衛一派の多数議員の申立人に対する反感及び勢力争いから強いて前記寄附金問題及び廃校舎売却問題を取り上げ申立人を町政より葬り去らんとする悪辣なる計画のもとに仕組まれたる除名決議であつて所謂多数派横暴の典型的なものである。惟うに本件除名決議の如く多数派の威力を以て少数派たる申立人に対し一言半句の釈明の余地をも与えず唐突に議員にとつては死刑にも相当する除名処分という最高の懲罰を科するが如きは憲法に保証する言論の自由を抑圧し選挙制度を基調とする地方自治制度を破壊し少数意見を尊重し自由なる討論によつて万事を決することを基本的目的とする民主議会制度の基本的精神を蹂躪するものであり著しく妥当性を欠く措置でありひいては決議の違法を招来するものである。

以上の如く本件除名決議は違法として取消さるべきものであるから、申立人は被申立人を相手方として当裁判所に対し昭和二十八年九月八日町議会議決取消請求事件として提訴して右事件は同庁昭和二十八年(行)第一六号事件として目下繋属中であるが、右判決の確定迄には今後なお長期間を要し、申立人の任期は余すところ僅か一年位で満了となり、その上一色町は昭和二十八年秋の台風十三号の被害最も激甚なる地方でありその復興のため町議会議員の任務も益々重要さを増してきている現状であり、この秋に当り違法不当なる決議によつて議席を失つたまゝ町政に対して何等の貢献をも為し得ないことは申立人を支持する多数の選挙民に対しても申訳なく又多年努力して培つてきた申立人の政治的生命をも失う結果となり償うことのできない損害を生ずる虞があり且つ緊急の必要に迫られているので本件除名決議執行停止の決定を求める。」というのであり、疏明として、甲第一乃至第十六号証を提出した。

そこで、右申立の当否について考えてみるに、本件町議会議決取消請求の本訴が当庁に提起されていることは、当裁判所に顕著なところであり、申立人提出の疏明資料によれば被申立人議会が申立人に対し、申立人主張の日にその主張の理由によりその主張のような処分をしたことが認められる。そこで、本件除名処分の執行により償うことのできない損害の有無について判断するに、まず行政事件訴訟特例法第十条第二項の規定は、行政処分執行不停止の原則を貫くときは、折角勝訴を得ても償うことのできない損害を蒙るような結果の発生を防ぐ為に設けられた一種保全的の性質を有するものであるから、右の損害の有無を判断するにはまず当該行政処分の取消を求める請求自体の疎明の有無について検討すべきである。ところで、議員の除名処分はこれを決議した議会が自主的自律的に決定するものであつて、議会の自由才量に属する事項であるから、右除名処分手続に違法があるか、或はその処分が行政庁の裁量権の限界を超え甚だしく不当であつて著しく正義に反し違法のそしりを免れぬ限り、裁判の対象とはならない。

しかるに本件疎明資料によれば、

(1)  本件除名処分の理由となつた申立人の発言は議会開会前の発言で、議会若しくは議場内の発言ではないと申立人は主張するが、議会は議員が集つて開会の準備が整い、議長が開議を宣告すると議会は活動を開始するのであるが(規則第十四条)議長である申立人が議長席に着し当日の議事進行につき発言を開始したときは既に議事が進行し始めたのであるから明らかに開議が宣告されなくてもそのときにおける申立人の発言は議会における発言と見るべきである。

(2)  又本件除名処分が地方自治法及び一色町議会会議規則の第何条に該当して行われたか明らかでないから申立人の発言中に犬塚、松井両議員を侮辱するような発言があつたとしても法第百三十三条及び規則第五十八条第三項によつて被侮辱両議員の処分の請求をまたずしてなされた除名処分は違法であるという申立人の主張を直ちに容れることはできない。

(3)  又申立人の発言が犬塚、松井両議員を侮辱した言葉ではなく、又規則第五十八条第二項後段に所謂「品位を汚す」発言ではないと推断する疎明は十分でない。

(4)  更に本件除名処分が渡辺一衛一派の悪辣な計画による多数横暴の威力によつたものと主張する事実の疎明も又十分ではない。

即ち本件除名処分が違法であるとする事由の疎明が十分でないから申立人の主張する如く、右取消請求の訴の裁判が確定する迄には今後なお相当の日時を要し、その間或いは申立人の任期が満了することも想像し得ないところではないが、かかる事実のみを以て右除名処分の執行により償うことのできない損害ありとなすことはできない。なお、一色町が昭和二十八年秋の台風十三号による被害の激甚であつたことは申立人提出の疏明資料によつて認められ、その復興のために同町議会議員の任務がその重要さを増してきていることも当然考えられるところではあるが、本件除名決議のなされたのは前認定の如く昭和二十八年七月二十五日であり、本件執行停止申請のなされたのは昭和二十九年三月九日であること本件記録上明らかであつて、その間七ケ月余の月日が経過していることが認められるし、且つ又、右七ケ月余の間において申立人が同町議会議員の席を失つていても、一色町の復興は着々進捗し町政の運営にも重大な支障が存在しなかつたことが本件記録に徴し窺われるから、右除名処分の執行に因り償うことのできない損害を避けるため之を停止すべき緊急の必要ありとなすことはできない。いずれにしても償うことのできない損害を避けるため本件除名処分の執行を停止すべき緊急の必要ありとなしうべき事情は認められない。

然らば、申立人の本件申立は理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 木戸和喜男 和田嘉子 辻下文雄)

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