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名古屋地方裁判所 昭和29年(行)14号 判決 1960年4月01日

原告 中央林材株式会社

被告 名古屋国税局長

訴訟代理人 林倫正 外三名

主文

原告の昭和二十六年度法人税更正処分及び審査請求棄却決定に対する各取消請求を棄却する。

原告の「原告の昭和二十六年度における所得を金四十七万二千円とする」との訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告の申立

「訴外岐阜北税務署長が昭和二十八年三月三十日付で原告に対しなした昭和二十六年四月一日から同二十七年三月三十一日までの事業年度分法人税の更正処分並びに被告が昭和二十九年四月十二日付でなした右更正処分に対する審査請求棄却決定を取り消す。原告の昭和二十六年四月一日から同二十七年三月三十一日までの事業年度における所得を金四十七万二千円とする。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求める。

第二、被告の申立

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、原告は昭和二十六年四月一日から同二十七年三月三十一日までの事業年度(以下係争事業年度と略称)における所得を金六十万一千七百八十二円と確定申告したところ、訴外岐阜北税務署長(以下訴外税務署長と略称)は昭和二十八年三月三十日付で原告の係争事業年度における所得を金百二十二万八千五百円と更正し原告は同年四月一日右更正の通知書を受領した。

二、原告は右更正に不服であるので同月二十八日訴外税務署長に対し再調査の請求をなしたところ同税務署長は之を棄却した。

三、そこで原告は同年八月二十二日被告に対し審査請求をなしたところ被告は同二十九年四月十二日付で右請求を棄却し原告は右決定の通知書を同月十四日受領した。

四、しかしながら原告の係争事業年度における所得の確定申告には次の如き誤謬があつた。即ち右申告において原告は(イ)法人税金一万三千四百五十円、市町村税金七千七百十八円、源泉徴収加算税金千百五十円、未払役員賞与金十万円、以上合計金十二万二千三百十八円を損金に計上して申告したがこれは損金に計上すべからざるものであり、(ロ)未納利子税金一万三百四十五円、仕掛品金二十万円、税金仮払金金四万一千七百七円以上合計金二十五万二千五十二円を利益に計上して申告したがこれは損金として認められるべきものであるから原告の係争事業年度における正当な所得は金四十七万二千円(即ち前記確定申告所得額に(イ)の金額を加えこれより(ロ)の金額を差し引きその百円未満を切り捨てた金額)となる。

五、しかるに訴外税務署長は原告の申告した雑損中未払金五十三万四千六百四十二円及び未払金償却金二十二万一千九百八円(尤も後日訴外税務署長は内金一万五千六百六十九円については損金に算入する旨訂正したので現在は金二十万六千二百三十九円となつた)を否認したが、右未払金は現在国が原告を被告として岐阜地方裁判所に対し請求訴訟を提起しているもので国が原告において当然支払うべきものと主張し原告はこれを信用してやむなく負担した未払金であり従つて損失金であるから課税の対象とさるべきでない。よつて、右未払金及び未払金償却金を否認し、原告の所得額を金百二十二万八千五百円とした訴外税務署長の前記更正処分並びにこれを認容した被告の前記審査請求棄却決定は違法であるからその取消を求め且つ係争事業年度における原告の所得を金四十七万二千円とする旨の決定を求めるため本訴に及んだ。

第四、被告の答弁及び主張

(被告の答弁)

請求原因事実中一乃至三項を認める。

(被告の主張)

一、原告の係争事業年度における所得の確定申告に対して訴外税務署長は原告の帳簿等を調査した結果次の誤謬を発見したので右原告の係争事業年度におけ所得を金百二十二万八千五百円と更正したのである(後に訴外税務署長は所得額を金百二十一万二千九百二十九円と訂正した。以下同じ)即ち原告は右事業年度における当期利益金として金六十万一千七百八十二円を計上申告したのであるが、訴外税務署長は(イ)次に記載するものは法人税法上当期の損金として認められないから利益金に加算すべきものとした。(1)法人税金一万三千四百五十円、(2)市町村民税金七千七百十八円、(3)源泉徴収加算税金一千百五十円、(4)未払金否認金五十三万四千六百四十二円、(5)未払金償却否認金二十二万一千九百八円、(6)未払役員賞与金十万円、以上合計金八十七万八千八百六十八円。(ロ)次に記載するものは法人税法上当期損金として認められ利益金から除外すべきものとした。(1)未納利子税金一万三百四十五円、(2)仕掛品金二十万円(3)税金仮払金四万一千七百七円、以上合計金二十五万二千五十二円。右により算出すると、原告の係争事業年度における所得は金百二十二万八千五百九十八円(即ち前記申告所得額に(イ)の金額を加え、これより(ロ)の金額を差し引き、その百円未満を切り捨てた金額)となる。

二、而して訴外税務署長が原告の雑損として計上した未払金及び未払金償却を否認した理由は次の通りであつて何等違法はなく従つて又訴外税務署長のなした更正処分を認容して原告の審査請求を棄却した被告の決定も違法ではない。即ち右の未払金は原告において昭和二十五年十月三十一日訴外岐阜造船株式会社(以下訴外会社と略称)が国に対して負担している船舶払下代金の支払債務を承継したことによつて発生したものであり、原告はこれを帳簿上資産として船舶勘定金七十五万六千五百五十円二十六銭を計上すると共に同額を国に対する未払金として経理したものである。ところが昭和二十六年十月二十三日右船舶が台風により流失したので損失が発生したことにしてこれを帳簿上資産に計上してあつた船舶勘定金七十五万六千五百五十円二十六銭を雑損に振り替えた。しかしながら右船舶勘定は前記のとおり原告が訴外会社の債務を承継したもので実質的には債務の引受をなしたものであり、その方法として帳簿上引受額と同額を船舶勘定として計上したものと認められるから船舶が実在するものではなく、従つて又台風により之が流失する筈もないから雑損振替は全くの架空経理であると認めた。従つて訴外税務署長は雑損に振り替えた右未払金は原告がその事業経営中に発生し税法上当然認められる通常の未払金と認めることができないので之を否認し当期利益金に加算したものである。

三、前記のとおり右の未払金は訴外会社の債務を引受けたことによつて生じたものであるが原告は右行為計算をなした当時において法人税法上の同族会社であり、且つ訴外会社も又同法の同族会社であつてしかも両者はその代表者を同じくする。而して原告の右債務の引受は国の依頼によつてなされたものではあるが任意にしかも無償でなしたものであるから、かゝる未払金を損金として認めるときは原告の当期利益は引受額だけ減少することゝなる。そこで訴外税務署長は法人税法第三十一条の三の規定により原告の前記行為計算に拘らず之を否認して課税標準を算定したのである。而して右規定は国の債権に関し特別の扱をなしていないから当然原告の前記行為計算にも適用さるべきものである。

第五、立証<省略>

理由

請求原因第一乃至第三項の事実は当事者間に争がない。

そこで訴外税務署長の右更正処分が違法であるかどうか、延は右更正処分を維持した被告の審査棄却決定が違法であるかどうかについて判断する。

原告の係争事業年度における所得の確定申告中原告が損金に計上したもののうち損金に計上すべからざるものとして法人税の金一万三千四百五十円、市町村税の金七千七百十八円、源泉徴収加算税の金千百五十円及び未払役員賞与の金十万円の合計金十三万二千三百十八円があり、原告が利益に計上したもののうち損金として認められるべきものとして未納利子税の金一万三百四十五円、仕掛品の金二十万円、税金仮払金の金四万一千七百七円の合計金二十五万二千五十二円の各誤謬があることは当事者間に争がない。又訴外税務署長が右事業年度における損金として原告が申告したもののうち未払金五十三万四千六百四十二円及び未払金償却金二十二万一千九百八円を否認したこと及び右未払金償却中金一万五千六百六十九円については後日被告により損金として認められたことは当事者間に争がない。

成立に争のない乙第一号証の三の記載並びに原告代表者山崎一本人の供述によれば、原告は訴外税務署長が否認した未払金及び未払金償却の合計金七十五万六千五百五十円は係争事業年度の前年度中の昭和二十五年十月三十一日訴外山谷林材株式会社(旧商号岐阜造船株式会社以下単に訴外会社と略称)から金七十五万六千五百五十円二十六銭相当の船舶を譲り受け右代金は同訴外会社が国に対して負担している債務中同額の未払金債務を引受けるという形で決済経理した事実が認められる。

しかしながら成立に争のない甲第四号証、乙第一号証の三及び六及び公文書につき真正に成立したと認むべき同第七号証の各記載並びに証人竹市肇の供述を綜合すると、原告と訴外会社とは共に代表者が山崎一であること、昭和二十一年四月頃国はその所有に係る伝馬船十隻、機付艀舟十三隻を訴外会社に貸与したところ同訴外会社は右船舶を名古屋港務所、野間町漁業組合等に売却したこと、国は右の事実を昭和二十五年七月頃知つたので右船舶代金(当時の時価)九十七万三千七百九十円と使用料相当の損害金を訴外会社に請求したところ右訴外会社は昭和二十六年三月右債務を承認し、その際原告は国に対し右訴外会社の債務中金七十五万六千五百五十円二十六銭について訴外会社と連帯して支払うべきことを約したこと、原告が訴外会社の債務中右金額について国に対して訴外会社と連帯して支払うべきことを約するに至つたのは訴外会社と原告の代表者が同一人であり当時訴外会社は清算手続に入つていたゝめ原告が任意且つ無償でなしたものであること、従つて昭和二十五年当時前記船舶は訴外会社に存在していなかつたこと、原告が昭和二十五年十月三十一日訴外会社から譲り受けた旨経理した船舶は右訴外会社において既に他に売却処分ずみの船舶と同一のものであつて原告は現実に訴外会社から右船舶の引渡を受けていないこと、従つて又昭和二十六年十月十五日台風によつて右船舶が破損流失するいわれのないこと及び原告は右事実にも拘らず昭和二十六年十月二十三日付で右船舶十三隻が台風のため流失したことゝして之を雑損勘定に振り替え経理した事実を認めることができる。右認定に反する証人谷本磯二及び原告代表者山崎一本人の各供述部分は前掲各証拠に照して措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。

右の事実によると、原告は昭和二十六年三月訴外会社の国に対する債務を引受けた際訴外会社からは何らの対価も得なかつたのであるから右金額は訴外会社に対する贈与に等しく従つて本来「借方、寄附金、貸方、未払金」なる経理をすべきものである。ところで成立に争のない乙第二、第三号証の各一、二及び第四号証の各記載によれば係争事業年度中原告会社は法人税法上の同族会社であることが認められるからその始期より一ケ月以内である昭和二十六年三月当時においても同族会社であつたことが推認せられるところ、原告のなした右寄附金は前記認定のとおり原告に利益をもたらすのに必要又は有益なものではなく、当該事業年度の利益金の任意的処分と同視すべく、従つてその本質は純粋に会社財産を減少せしめる処の贈与と同視すべきものであつて、しかもそれは会社代表者を同じくする訴外会社に対してなされたものであるから、かゝる行為計算は非同族会社においては通常なしえないところであるから法人税法第三十一条の三の規定により右の行為計算は否認さるべきものなのである。

しかしながら右事業年度においては金七十五万六千五百五十円二十六銭の未払金に見合うべき船舶が増加資産として計上されているので差引すると右事業年度における損益にはかゝる行為計算の結果変動を生ずるに至らず、従つて課税標準又は法人税額の更正をなしえないからこれを前提とする未払金の否認も右事業年度についてはなしえないのであるが、係争事業年度においては右未払金の対象として架空の船舶勘定を雑損勘定に振り替えたので実質上は右架空の船舶勘定の対象とした未払金を雑損として経理したことに帰し、これをそのまゝ放置すれば右未払金相当額は原告の係争事業年度における課税標準から控除されて課税を免れる結果となる。よつて船舶勘定を雑損勘定に振り替えた架空の経理は否認され右未払金の計算は係争事業年度において法人税法第三十一条の三の規定により否認さるべきものである。而して同条の規定は国の債権について特別の扱をなしていないから本件未払金が国に対するものであつてもその適用を除外されるいわれはない。従つて右未払金の一部を現実に支払つた未払金償却勘定も又同様否認され、利益金の処分として原告代表者に対する賞与と認定さるべきものである。被告は審査棄却決定後右未払金償却の金二十二万一千九百八円については法人税法第九条の規定に従つて一部損金に算入することを認めたのであるが、これはあくまで恩恵的処置にすぎない。

然らば原告の係争事業年度における所得額に対する訴外税務署長のなした更正処分には違法はなく、従つて又右更正処分を維持した被告の審査棄却決定にも違法はなく原告のこの点に関する本訴請求は失当として棄却を免れない。

次に原告は右の訴外税務署長のなした更正処分及び被告のなした審査棄却決定が違法であつて取り消さるべきことを前提として本訴において当裁判所が原告の係争事業年度における所得を金四十七万二千円と定める旨の請求をなしているが、およそ租税の具体的賦課徴収手続は法律の定めるところに従つて行政庁がなすべき行政権の行使としての行政処分であつて、一定の事業年度における或る法人の所得額について争が生じたときこれを決定するのは行政庁の行政処分によるのである。従つてかゝる行政庁の権限に属すべきものを行政庁に代つてその権限を行使するに等しい効果を生ずる裁判をなすことは司法権の限界を超えるものであつて、特に法律に明文の存しない限り許されないものである。この理はたとえある更正処分について争われた事案の裁判の理由中に、裁判所が更正処分のどの範囲が違法であり、従つてどの範囲の所得の認定が正当であるとの見解が示されていたとしても、それは決して裁判所が裁判をもつて所得額を決定したものではなく、あくまで行政庁の決定した所得額中違法な部分を指摘して取り消すに止まるものと解すべきである。従つて原告の右の訴は不適法として却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤淳吉 小渕連 梅田晴亮)

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