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名古屋地方裁判所 昭和33年(ヨ)857号 決定 1958年11月21日

申請人 王子製紙工業株式会社

被申請人 王子製紙労働組合

主文

一  申請人会社が金百万円の担保を供することを条件として

(一)  被申請人組合は、申請人会社の指定する従業員および申請人会社の委託を受けた者が別紙第一目録記載の物件内に出入することおよびこれらの者が右物件内に一切の物品を搬入し、同物件内から一切の物品を搬出することを実力をもつて妨害してはならない。(但し、これらの者が申請人会社春日井工場専用線により出入および搬出入をする場合を除く)。

(二)  申請人会社の委任する名古屋地方裁判所執行吏は右の趣旨を公示するためおよび右の命令に違反する妨害行為を除去するため、適当の方法をとることができる。

二  申請人会社のその余の申請は却下する。

三  訴訟費用は五分し、その四を被申請人組合の負担、その余を申請人会社の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

申請人は、

一  別紙第一および第二目録記載の各物件に対する申請人ならびに被申請人およびその組合員の占有を解き、申請人の委任する名古屋地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。

二  右執行吏は、申請人の申出があるときは、申請人に右各物件を保管させ且つ申請人にその使用を許さなければならない。

三  被申請人およびその組合員は左の各号の妨害となる一切の行為をしてはならない。

(一)  申請人およびその従業員ならびにこれらの者から依頼を受けた者が別紙第一目録記載の物件内に出入すること。(但し、申請人会社春日井工場専用線による場合を除く。)

(二)  申請人およびその従業員が別紙第一および第二目録記載の各物件を使用して操業すること。

(三)  申請人およびその従業員ならびにこれらの者から依頼を受けた者が別紙第一目録記載の物件内に一切の物品を搬入しまた同物件から一切の物件を搬出すること。(但し、前記専用線による場合を除く。)

四  被申請人またはその組合員は別紙第一目録記載の物件内に立ち入つてはならない。

五  被申請人またはその組合員において前各項に違反する行為があるときまたはそのおそれがあるときは、受任執行吏は前各項の目的を達するため必要な措置をとることができる。

六  受任執行吏は前各項の目的を達するため適当な公示方法をとることができる。

との裁判を求め、被申請人は申請却下の裁判を求めた。

第二当事者間に争のない事実

一  申請人会社は、本店を東京都中央区銀座四丁目三番地に置き洋紙類一切の製造販売を主たる業務とする資本金三十二億円の株式会社で、北海道苫小牧市に苫小牧工場、愛知県春日井市に春日井工場を有し、全従業員は約四千七百六十名、そのうち春日井工場の従業員は約千百名(同工場長は常務取締役川添蓊)である。

二  被申請人組合は、主たる事務所を東京都中央区銀座四丁目三番地に置き、申請人会社本店に東京支部、苫小牧工場に苫小牧支部、春日井工場に春日井支部の三支部を有し、昭和三十三年八月二日現在の全組合員は約四千五百名で、そのうち春日井支部員は約千六十名(同支部長は高橋正)であつた。

三  被申請人組合は、昭和三十三年二月二十八日申請人会社に対し、賃金ベース三〇、〇二一円を二、二八八円増額すること、退職金および結婚資金を増額すること等を要求し、申請人会社はこれに対し同年五月十七日、(一)賃金ベースの増額は一、〇五三円とする。(二)操業手当(十二日間連続操業し、二日間連休するという新操業方式実施に伴い新たに支給する手当)を職階給の四、一パーセント支給する(平均四七七円増)という趣旨の最後的回答をすると同時に、同年六月十日期間満了によつて失効する労働協約改訂(組合を除名された者は解雇する旨の条項を削除するとともに、組合を除名された者は非組合員とすることを改訂案の骨子とする)の意思を表示した。被申請人組合は右回答および右協約改訂の申入を拒否し、その後両者間に数度にわたる交渉が試みられたが妥結するに至らずただ労働協約の有効期間を同年六月十一日から同月十七日まで延長する旨の協定が成立したのみで、翌十八日以降は無協約状態となり、その後同年九月二日より数回にわたり両者間に団体交渉が行われたがまだ妥結するに至らず、今日に及んでいる。そして、被申請人組合は、その間、同年六月二十三日申請人会社に対して同月二十五日以降ストに入る旨の通告をし、同二十五日以降各支部においてストを行い、春日井支部においては翌二十六日以降部分ストまたは一齊ストを行い同年七月十八日以降は無期限一齊ストに突入した。

第三申請の趣旨第一項ないし第三項について(これに附随する第五項および第六項を含む)

一  疎明により一応認められる事実

(一)  別紙第一目録記載の物件は申請人会社の所有であり、申請人会社は、同所を申請人会社春日井工場として同物件を使用し上質紙および純白ロール紙の生産を行い、平常時においては、その従業員をして該生産業務に当らしめるとともに、約三十者に及ぶ下請業者を常時右工場内に入構せしめて、構内作業、原材料の納入、製品資材の運搬等の業務を行わしめているものである。(下請業者の主なものは、原木の椪積、椪崩、皮剥、調材土木建築等の作業を行う丸彦渡辺建設株式会社、貨物自動車等により製品の運搬作業を行う合資会社瀬古組、構内清掃チツプ輸送等の作業を行う亀甲通運株式会社、タンク、コンベヤー、安全装置の製作改造、機械部品の熔接修理等の作業を行う西沢商会、原木の搬入、貨車卸し、椪積、椪卸し、流送等の作業を行う日本通運株式会社春日井支店等である。)ところで、被申請人組合春日井支部は前記のように昭和三十三年七月十八日以降無期限一齊ストに突入したので、右工場における業務は専ら申請人会社の非組合員たる従業員と右の下請業者によつて行われることになつたが、その後同年八月二日被申請人組合春日井支部の組合員百十余名が同組合に対して脱退届を提出するとともに申請人会社に就労の意思を表明し、申請人会社はこれに対して七十九名の入構就労を認めさらに同月十一日その後の脱退者を含め合計約二百名によりあらたに王子製紙春日井工場労働組合(以下単に「新組合」という。代表者執行委員長吉藤秀男)が結成されるに及び、新組合員の入構就労を認めたので、結局現在においては、申請人会社の非組合員もしくは新組合員たる従業員と前記下請業者が右工場における業務を行うことになつている。(新組合員は現在三百六十四名である。)

(二)  しかるに、被申請人組合(以下単に「組合」という。)は前記無期限一齊ストに突入後、上部団体および友誼団体の応援のもとに、組合員多数を春日井工場各出入門およびその附近の要所に交替制で常時配置し、厳重なピケを張るとともに、必要に応じ随時組合員を動員できる態勢を整え、かつ、九月十日以降は正門および北門に移動式バリケードを構築し、同月十九日以降は正門脇守衛室の唯一の出入扉の把手を外部からロープで固く縛りつけて構内からの開閉を不可能にし、さらに同月二十七日には北門に固定的バリケード、十月十三日には社宅門にバリケードをそれぞれ構築し、なお、十一月二日以降は亀甲門および北門の外部に幅約三尺、深さ約三尺の濠を掘る等の方法により、右工場における業務に従事すべき非組合員、新組合員および下請業者の右工場への出入および同工場への物品の搬出入を不可能ないし著しく困難ならしめる程度に強力に阻止しているのであつて、その具体的な状況は次のとおりである。

先ず、非組合員については、

(1) 八月三日午前八時頃、申請人会社春日井工場(以下単に「工場」という。)資材課長代理松原幸吉が工場北門より自転車を引き入構しようとしたところ、同所のピケをしていた組合員約四十名は同人が非組合員であることを熟知しながらその入門を拒否し、約十四、五分にわたり、非組合員証その他非組合員たることの証明を要求するとともに、「世間には同じ顔が三つある。偽者かも知れないから入れられない」等と言つたため遂に入構の目的を達せず、

(2) 同月七日午後十時十五分頃、工場動力部長渡辺遜が連絡業務のため正門より入構しようとしたところ、同所でピケをしていた組合員約四十名は同人が非組合員であることを熟知しながら、互に腕を組み、「何処の人か分らない」等と言つてその入門を阻止し、かつ間もなく約百名のピケ隊が増強されるや、同人を中に置いて円陣を作り、円陣を前後左右に移動させるいわゆる洗濯デモを行つて、同人の身体をよろめかしたり、つねつたりした末、漸く十時五十分に至つて右入門を可能ならしめ、

(3) 同月二十日午後三時頃、申請人会社本社(以下単に「本社」という。)施設部総務課長代理渡辺音次外二名が正門より入構し、同時に本社山林部調査課長代理南福市外二名が正門より出構しようとしたところ、同所のピケをしていた組合員約三十名は同人等の身分および氏名を熟知しているのに従業員証の提示を要求したりして、約四時間にわたり右の入出構を阻止し

(4) 九月二十三日午前十時頃、佐瀬受渡課長が春日井駅長と打合せのため北門より出構するに当り、あらかじめその旨を組合に連絡したところ、組合は、執行委員会の結論として本日は非組合員の出構を認めぬ旨回答して、その出構を阻止したため、出構の目的を遂げず

(5) 同月二十五日午後一時三十分頃、山本山林部大阪出張所長が大阪へ帰任のため正門より出構しようとしたところ、同所のピケ隊はこれを阻止したため、出構の目的を遂げず、

(6) 十月二十六日午後三時頃加賀副部長外四名、同月二十七日午後三時二十分頃岡村課長外二名、同月二十九日午後四時十五分頃加賀副部長外五名がいずれも帰宅のため工場社宅門より出構しようとしたところ、組合はこれを阻止したため、出構の目的を遂げず(その後同月三十日に至り、組合は非組合員三名が社宅門より帰宅することを認めたが、同月三十一日、十一月一日の両日は再び非組合員の右門よりの出構を拒否した。)

(7) 現在においても、非組合員が工場から出構する場合にはあらかじめその用務、行先等を組合に連絡し、組合の承認がなければ自由に出門はできない。

という状況にある。

次に、新組合員については、

(1) 九月十一日午前十時五十分頃、新組合員約百二十名が就労の目的で正門より入構しようとしたところ、同所でピケをしていた組合員はこれを阻止し、新組合員が就労のため入構するにつきバリケードを外し、ピケを解いてもらいたい旨申し入れたのに対し、「駄目だ」と答えて、再三再四の交渉にも一歩も譲らず、さらに「実力で入れるなら入つて見よ」「殺してしまえ」「実力で追い返せ」等叫ぶ者もあつたため、遂に入構することを得ず、

(2) その後新組合員は九月十四日約百八十名が工場に入構したが、組合員は以後工場の周辺に塀に沿つてバラ線を張り、各所に見張小屋を設ける等の方法により新組合員の出構を阻止してこれを工場構内に籠城の状態とし、たまたま塀を越えて構外に出た新組合員は組合員に取り押えられ、組合員に囲まれて長時間罵言を浴びせられたり、洗濯デモをされたりした後再び工場構内に押し戻され、社宅への自由な帰宅もできない。

という状況である。

さらに、下請負業者については、

(1) 九月二十五日中央運輸株式会社のトラツクが工場にタンク入液体硫酸ばん土約三千九百瓩を搬入しようとしたところ、組合員のピケ隊に阻止されて入構できず、翌二十六、二十七日の両日も同様の阻止を受けて入構の目的を達せず、

(2) 十月一日瀬古組および佐合木材のトラツク、チツプ車合計十三台が工場に紙棒、木材、背板等を搬入するため北門より入構しようとしたところ、同所にピケしていた組合員約三百名がスクラムを組んでその入構を拒否し、右業者等が約三時間にわたり再三、再四入構を求めたのに、組合員はあくまでこれを阻止したため、遂に入構をなし得ず、

(3) 同月二十八日朝、瀬古組等のトラツクが工場の製品を搬出するため工場より出構しようとしたところ、組合員は北門および亀甲門に厳重なピケを張つてその出構を阻止し、右業者等が組合と話し合たつ結果、漸く同日午後六時過ぎに至り、翌二十九日午前十一時出構を認める旨の組合側の諒解を得て、二十九日に出構することができ、

(4) 現在においても、業者が製品資材の搬出入、構内作業等のための一般的な工場出入を求めているのに対し、組合側は構内作業のための入構は認めず、製品資材の搬出入も各業者毎に協議してその業務内容を検討し、搬出入の量をきめなければこれを認めないと主張して譲らないため(十月二十八日業者と組合とは「製品資材の搬出入の量は三十日以降両者協議のうえ各業者別にきめる」旨相互に諒解し、同月三十日および三十一日両者間に接渉が行われたが協議が進まず、三十一日業者は組合に対し右諒解は白紙に返す旨通告し、その後右協議は行われていない)、業者の工場への出入および物品の搬出入は阻止されている。

という状況である。

二  当裁判所の判断

(一)  組合は現にストを行つているものであり、従つてこれを効果あらしめるため、申請人会社の非組合員、新組合員、下請業者等の工場への出入、物品の搬出入等につき、言論による説得行為または団結による示威の方法により心理的に働きかけ、これらの行為を自由意思によつて思い止まらせる程度のピケツテイングを行うことは、もとより正当な争議行為の範囲に属するものであつて、これを禁ずべき理由はない。しかるに、前記認定の事実によれば、時期、方法ないし対象者の如何により若干の差異は窺われるにしても組合員は、右非組合員、新組合員および下請業者のいずれに対しても、右の程度を越えるピケツテイングを行い、実力によつて工場への出入、物品の搬出入等を阻止していると認められるのであつて、そのピケツテイングは右の限度を逸脱する限りにおいて許されないものであり、申請人会社が別紙第一目録記載の物件を使用して行う業務に対する不法な妨害行為であるといわなければならない。(もつとも、各個の場合について見ると、組合側が右の者等の出入構を阻止するに至つたについては諸種の事情に基づくものがあり、例えば、十月二十八日瀬古組等のトラツクの出構が阻止されたのは、同日早朝右トラツクが組合員ピケ隊の手薄な亀甲門から同門のバリケードを除去して強行入構したことが原因であつたことが疎明により認められるが、これらの事情が存するからといつて前記の如き実力による出構阻止が当然正当化されるものとは認められない。)従つて、申請人会社は別紙第一目録記載の物件の所有権に基いて右の妨害行為の排除を求め得るものであり、かつ本件においては、前記の事実に照らし、仮処分をもつてかかる妨害行為の排除を求める必要も存するものと認められるので申請人の仮処分申請はこの部分において理由があり、金百万円の担保を供することを条件として主文第一項掲記の程度においてこれを許容すべきものとする。(申請人会社は申請の趣旨第三項第二号において、被申請人組合に対し、申請人会社および従業員が別紙第二目録記載の物件を使用して操業をすることの妨害の禁止を求めているが、被申請人組合が右の妨害行為を行つていることについての疎明がないので、この部分については、申請の理由がないものと認める。)

(二)  被申請人は、右に関し、(1)ピケ権は憲法上保障された団結権を基礎とするものであり、争議権を侵害するいかなる者に対しても対抗できる権利であるから、暴力にわたらない平和的スクラムはたとえ威力に該当しても正当であると解すべきである、と主張するが、ピケツテイングの正当性の限界についての当裁判所の見解は前叙のとおりであつて、被申請人の右の見解には左祖し難く、また(2)申請人会社の非組合員および下請業者は、被申請人組合の組合員の固有業務に代置する目的もしくは不当労働行為(支配介入)をする目的で工場構内への出入を図るものであるから、これらの者に対するある程度強度の説得もしくは必要最小限度の有形力の行使を伴う就労阻止行為も違法ではない、と主張するが、申請人会社の非組合員および下請業者が右のような目的で工場構内への出入を図つているとの点についてはこれを認めるべき疎明がなく(なお申請人会社と被申請人組合間には現在労働協約が存在しないが、本年六月十七日をもつて失効した労働協約にも争議中の職場代置の禁止については何等定めるところがなかつた)、また出入阻止はいかなる場合においても実力によるものであつてはならないと解するので、右の主張も亦これを採るを得ない。さらに、被申請人は、(3)被申請人組合の組合規約によれば組合員の脱退は認められておらず、従つて新組合員は現在なお被申請人組合の統制下にあり、当然ストライキを実行する義務があり、就業をなし得ない、と主張するが、脱退はそれが組合規約に定めがなくとも組合員の自由になし得るところであり、本件において脱退者は前記の如く新組合を結成し、申請人会社より就労を認められている以上、新組合員がなお被申請人組合の統制下にあつて、就業をなし得ないとすべき理由はない。また、被申請人は、(4)申請人会社は現に二割生産を行つていると称しているが、右は仮装生産であり、仮りに実際二割生産を行つているとしても到底合理的な営業行為はなし得ず、従つて申請人の本件仮処分申請は単に組合員の分裂、脱退の促進、団結の破壊を目的とするもので、必要性を欠くものである、と主張するが疎明によれば、申請人会社は小規模とはいえ現に操業を行つており、本件仮処分申請はその操業のため申請人会社の非組合員、新組合員、下請業者等の工場構内への出入、物品の搬出入等の妨害の排除を求めるためなされたもので被申請人の主張するような意図のもとになされたものとは認められないから、右主張も亦採用することができない。

第四申請の趣旨第四項について(これに附随する第五項および第六項を含む)

一  申請の理由

申請人が申請の趣旨第四項に掲げる立入禁止の仮処分を求める理由の要旨は、

(一)  別紙第一目録記載の物件は申請人会社の所有であり、申請人会社は組合が一齊ストに突入以来工場構内への全面的立入禁止を通告すると同時にその立入を阻止するため正門、北門、社宅門を完全な施錠のもとに閉鎖して常時警備員を配置し、さらに九月十五日には工場閉鎖の通告をすると同時に、右各門の警備員を増員のうえ、内側よりバリケードを構築し、組合員の立入を一層厳重に阻止する態勢を整えた。

(二)  しかるに、被申請人組合においては、

(1) 八月八日午前一時半頃から午前三時半までの間および同月十一日の同時刻頃、工場構内に侵入して、建物外部や建物内の機械等に「明晩なぐり込み決行」「覚悟してろ明夜」等のビラを貼り、

(2) 同月十日午後十時半頃、組合員約百名が正門前広場においてデモを行い、扉に体当りをして、内部の施錠を破壊し、

(3) 同月十一日午前五時頃、組合員約十五名が北門を乗り越えて工場構内に侵入し、さらに組合員約四十五名が正門の施錠を体当りをもつて破壊して侵入し、両者合流のうえ構内において約二時間にわたり気勢をあげ、

(4) 同月十二日午後十時頃、組合員約三十名が北門を破壊して工場構内に侵入し、さらに組合員約四十名が正門を破壊して侵入し、両者合流して約一時間にわたり構内でデモを行い、

(5) 同月二十六日午後八時十五分頃組合員約二百五十名、同月二十八日午後八時頃約百五十名が、いずれも社宅門より工場構内に侵入し、約一時間にわたり構内でデモを行い、

(6) 九月二十四日午後八時頃組合員約百五十名が社宅門より工場構内に侵入し、約二時間余にわたり構内でデモを行い、

(7) 同月二十七日午後八時十五分頃組合員約十名が北門および鉄道門より工場構内に侵入し、さらに午後八時四十分頃約四十名が春日井市役所と接した工場の塀の一部を破壊して侵入し、続いて午後九時三十分頃約四十名が右破壊口より侵入し、

(8) 十月六日午後八時十分頃組合員約二百名が北門附近の塀を乗り越えて工場構内に侵入し、さらに外三箇所より合計約百二十名が侵入し、

(9) 同月七日午後七時三十分頃組合員約四百名が社宅門附近の有刺鉄線を破壊して工場構内に侵入し、

(10) 同月九日午後九時三十分頃組合員二名が西門(非常門)の扉の施錠を破壊して工場構内に侵入し、さらに午後十時頃約十名が同所附近の塀を乗りこえて侵入し、

(11) 同月二十七日組合員約十五名が鉄道門より工場構内に侵入し、

(12) 十一月六日午後四時頃組合員約三百五十名が桜門附近より工場構内に侵入し、

(13) 同月七日午前八時頃組合員約四百名が桜門附近の有刺鉄線を破壊して工場構内に侵入し、

右の如き構内侵入の可能性は今後においても極めて濃厚であると認められる。

(三)  よつてかような不法侵入の危険性を排除するため、立入禁止の仮処分を求める、

というのである。

二  当裁判所の判断

疎明によれば、申請人主張の右(一)の事実および(二)のうち組合員が申請人主張の各日時に工場構内に立入つた事実が一応認められる。そして、組合員が申請人会社の所有する別紙第一目録記載の物件内に申請人会社の許諾なくして立入ることが許されないことも多言を要しない。しかし、疎明によれば、右立入は、いずれも新組合の結成や新組合員の強行出構等特殊の事態が発生した際組合員が一時的に感情の興奮に駆られて偶発的に行つたもので、組合員として継続して工場構内に立入る意図を有していたものでないこと、右立入の際の状況も概ね広場や通路において暫時デモを行う程度のものであつて、建物内に対する立入はなかつたことおよび立入回数は徐々に減少し、現在においては立入の危険は殆どないことが認められる。従つて右立入禁止を求める本件仮処分申請はその必要性の疎明が十分でなく、かつ、この点の疎明不十分を保証をもつて補わしめることも相当ではないと認めるので、右申請はこれを却下すべきものとする。

第五結論

以上の次第であるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西川力一 大内恒夫 浪川道男)

(別紙)

第一目録

春日井市王子町一番所在

宅地二十三万三千五百四十坪二合八勺のうち、別紙図面赤線をもつて囲む部分

ならびに同地上に存する建物、門、塀等の工作物一切および右土地、工作物内に存する機械器具一切。

第二目録

別紙図面(イ)点より(ロ)点までおよび(ハ)点より(ニ)点までに通ずる申請人会社春日井工場と水源地ポンプ室間の動力線および同線の附属設備。

(別紙図面省略)

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