名古屋地方裁判所 昭和35年(む)547号 判決 1960年6月16日
被疑者 森賢一
決 定
(被疑者氏名略)
右の者に対する道路交通取締法違反等被疑事件につき、名古屋地方検察庁検察官検事桑原一右がなした右被疑者と弁護人桜井紀、同尾関闘士雄、同大矢和徳との接見交通の指定に対し右弁護人等から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
原処分を次のとおり変更する。
指定の日時及び時間、
昭和三十五年六月十七日午後一時から午後五時までの間、及び同年六月十八日午後一時から午後五時までの間、弁護人一人につきそれぞれ三十分間、
指定の場所、
愛知県中警察署
理由
本件申立の趣旨及び理由は別紙申立書のとおりである。よつて按ずるに、検察官は刑事訴訟法第三十九条第三項により被疑者と弁護人との接見交通をその捜査の必要上から制限することができるけれども、本件事案の性質に照らし、原処分は被疑者が防禦の準備をするのにその日数、時間が稍々短かきうらみがあるので、刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第二項によりこれを変更し、主文のとおり決定する。
(裁判官 赤間鎮雄 石川正夫 中田耕三)
指定書<省略>
刑事訴訟法第四三〇条に基く申立
被疑者 森賢一
右の者に対する道路交通取締法違反等被疑事件につき名古屋地方検察庁検察官検事桑原一右は昭和三十五年六月十五日弁護人等に対して、被疑者との接見交通の日時場所を別紙の通り指定したのであるが、弁護人は右指定に不服なるにより変更の申立をする。
申立の趣旨
弁護人は被疑者の勾留中毎日午後一時から午後五時迄の間一時間被疑者と接見することができる
旨の裁判を求める。
申立の理由
一、憲法第三四条により被疑者は直ちに弁護人に依頼する権利が与えられている。被疑者がその弁護人に勾留期間中五日に一日しか接見できないとか、その接見時間が十五分間しか接見できないということは、憲法第三四条の弁護人選任の権利を根本的に蹂躪するものと言わざるを得ない。かゝる考え方が刑事訴訟法第三九条第三項但書に表現されているものと考える。
二、刑事訴訟法第三九条第三項の「捜査の必要があるときは」という文言は、被疑者を直接取調に当つている際中に弁護人との接見の為取調が中断することを防ぐ意味に解すべきが至当である(「逮捕勾留、保釈」(刑訴実務の綜合研究)一二二頁参照)、検察官が被疑者を直接取調べるときばかりでなく、事案の性質等によつて、その他の捜査をしている時間も必要があるときの中に含まれるとすれば、弁護人選任の憲法上の保障は無意味となるのである。
刑事訴訟法は被疑者被告人の供述を主たる証拠とすることがないことは供述の強要されていないことでも明かである。被疑者の供述を重要視していない刑事訴訟法の建前から言つて弁護人の被疑者との接見の制限は最小限に止めるべきものと言わなければならない。
三、弁護人は本件指定によれば十五分しか接見できない。一例をとれば本件被疑事件については、被疑者の愛知県条例違反行為の共謀者は千名乃至三千名と言われる。かゝる多数の者の関係する事件につき十五分で、然も勾留期間(十日間)現在のところ一回の接見にては被疑者の防禦の準備が不当に制限されないと言えようか。
四、以上の理由にて被疑者の防禦の準備をする為申立の趣旨の如き裁判を求めるのである。
右申立する
昭和三十五年六月十六日
右弁護人
桜井紀代 <印>
尾関闘士雄 <印>
大矢和徳 <印>
名古屋地方裁判所 御中
別紙
指定の日時及び時間
昭和三十五年六月十七日午後四時から午後五時迄の間或は
同年六月十八日午後一時から午後三時〇分迄の間十五分
指定の場所
愛知県中警察署