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名古屋地方裁判所 昭和36年(ヨ)548号 決定 1961年7月10日

申請人 伊藤美恵子

被申請人 倉敷紡績株式会社

主文

被申請人は申請人に対し、昭和三六年五月末日以降本案判決確定に至るまで毎月末日一〇、九四三円を仮に支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

本件仮処分申請理由は、「申請人は当裁判所昭和三六年(ヨ)第五号仮の地位を定める仮処分申請事件につき昭和三六年一月三〇日被申請人は本案判決確定に至るまで仮に申請人が被申請人会社安城工場の従業員であることを確認する旨の決定を得、右決定に基き被申請人は申請人に対しその退職手続がなされた後における一月当り賃金一〇、三四三円及び住宅手当六〇〇円、合計一〇、九四三円を昭和三六年四月末日迄仮払したが、その後申請人の父母が申請人被申請人間の労働契約を申請人に不利であるとの理由により解除したので、昭和三六年五月一二日当裁判所に対し右仮処分決定取消の申立をなしたことをもつて、右賃金等の仮払を同年五月分以降停止した。しかしながら申請人は被申請人安城工場の従業員たる地位を認められるべきであつて、就労を求めているのにこれを拒否されており、また前記本案訴訟の追行及び生活のための費用を必要とするので、被申請人に対し昭和三六年五月末日以降本案判決確定に至るまで毎月末日前記金額一〇、九四三円を仮に支払うことを求める。」というのである。

申請人の疏明するところによれば、本申請に至るまでの経過として、申請人(昭和一六年一〇月一八日生)は被申請人安城工場において従業中、申請人の父伊藤功が昭和三五年三月七日付で申請人名義の退職願を提出したのに基き、被申請人は申請人につき右同日依願退職の手続をとつたが、申請人は当裁判所昭和三六年(ヨ)第五号仮の地位を定める仮処分申請事件において右退職願は申請人の意思に基かないものであるから、申請人は依然として被申請人安城工場の従業員であると主張し、当裁判所は昭和三六年一月三〇日右退職願が申請人の意思に基かず、又本人に不利でもないものとして、被申請人は本案判決確定に至るまで仮に申請人が被申請人会社安城工場の従業員であることを確認する旨の決定をなし右決定の趣旨に則り被申請人は申請人に対しその退職手続のとられた昭和三五年三月七日の翌月である同年四月分から昭和三六年四月分まで一月一〇、九四三円を任意に仮払して来たところ、申請人の父伊藤功、同母伊藤澄子は被申請人に対し昭和三六年四月一七日付内容証明郵便をもつて、申請人をこのまゝ安城に居住させその交友関係のなかにおくことは本人の前途のため実に不安かつ不利であり、その上親許では多忙のため田畑の耕作も他人まかせの状態にある家庭の実情をも考えあわせて家庭に戻すべく、申請人、被申請人間の労働契約を解除する旨の意思表示をなして来たので、被申請人は右意思表示に基き同年五月分以降の賃金等の仮払を停止したことが認められる。申請人の父母によつてなされた昭和三六年四月一七日付の労働契約解除の意思表示については、申請人の関知しないところであつてその意思に基かないことが明かなばかりでなく、その解除の理由である申請人に不利であるとの点については、現在申請人は前記仮処分決定により被申請人安城工場の従業員の地位を仮に認められてはいるが、その就労を拒否されていて工場内における被申請人による教護監督は行われず、島根県在住の親権者にとつては不安な状況にあるとはいうものの、それが必ずしも申請人本人にとつて不利な生活環境であるとはいゝ難く、又家庭内の労働力として帰郷を求めることは、親権者が本人の意思に基かずに労働契約を解除する理由とはならないから、右解除の意思表示がなされたことをもつて、前記昭和三五年三月七日付退職願がその効力なきものとして申請人の従業員たるの地位が仮に認められる事情を変更するに足りるものとは未だ考えられない。

したがつて申請人は引き続き被申請人安城工場の従業員たるの地位を仮に認められるべきところ、就労の意思があるのに被申請人によつてこれを拒否されているが、右従業員たるの地位に基いて賃金請求権を有しており、その疏明するところによれば生活のため賃金一月一〇、九四三円の支払を受ける必要が認められるので、申請人の申請を相当と認め、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤淳吉 村上悦雄 渡辺一弘)

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