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名古屋地方裁判所 昭和37年(行)6号 判決 1965年3月20日

愛知県刈谷市小垣江町大字本郷下一〇ノ一

原告

加藤伊八郎

右訴訟代理人弁護士

大池竜夫

福岡宗也

名古屋市中区南外堀町六丁目一番地

被告

名古屋国税局長

奥村輝之

右指定代理人

松崎康夫

天野俊助

須藤寛

猿渡敬三

右当事者間の昭和三七年(行)第六号所得税審査決定取消事件につき当裁判は次のおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三六年一一月一日付でなした昭和三二年度分所得金額を金五四八万二四七八円とする所得税審査決定中、所得金額二〇九万五四三五円を超える部分の決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二六年四月一二日訴外東京中島電気株式会社より別紙第一ないし第四目録記載の土地及びその地上に存在する建物三〇棟を代金六〇〇万円で買受けたのであるが、昭和三二年一〇月二二日多額の債務を整理する必要上、別紙第一目録記載の土地及びその地上の建物五棟を訴外武市政之に代金一六七万五三〇〇円で、別紙第二目録記載の土地を訴外加藤ふみに代金一一八万六〇六円で、別紙第三目録記載の土地を訴外石川三郎に代金一一〇万八八九〇円で、別紙第四目録記載の土地及びその地上の建物六棟を訴外岡崎紡績株式会社に代金二〇三万円でそれぞれ売渡した(以上売却代金合計金五九九万四五七六円)。

原告が訴外東京中島電気株式会社より買受けた建物中前記売却家屋以外の建物は、昭和三二年一〇月二二日当時既に朽廃して存在しなかつた。

従つて原告は右訴外会社より買受けた土地建物を後日売却処分したことによつて何等利得するところはなかつた。

二、然るに、被告は昭和三六年一一月一日原告の昭和三二年度分の所得金額を合計金五四八万二四七八円(内訳、農業所得一二万一六六九円、配当所得二万七五〇〇円、給与所得一六五万九九二〇円、山林所得二八万六三四六円、譲渡所得三三八万七〇四三円)とする所得税審査決定をなし、これを同年一一月一二日原告に告知した。

三、よつて原告は右決定中、譲渡所得に関する部分については前記の如き事情により到底承服することができないから、請求の趣旨記載の判決を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べ、被告の主張に対し、原告は昭和三二年度所得税確定申告につき昭和三三年四月一五日更正請求をなしたが、それに対する却下決定は受領していない、と述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その理由として、原告は昭和三二年度分所得税確定申告において譲渡所得を金四三九万一一九六円と申告しているが、被告はこれを金三三八万七〇四三円と認定した。従つて仮りに本訴によつて被告の右審査決定が取消されたとすれば、当然右譲渡所得額は原告の申告額に復元されることになるから、原告は本訴によつて何等利益を受けない。よつて原告の本訴請求は訴の利益なきものとして却下せらるべきである。なお、原告が昭和三二年度分確定申告につき、昭和三三年四月一五日更正請求をなしたことは認めるが、右更正請求は昭和三五年一〇月一七日却下せられ、同決定は同日原告宛に発送せられ原告に告知されたのに拘らず、原告はこれに対し何等不服の申立をなさなかつた。と述べた。

(証拠関係)

原告訴訟代理人は、甲第一号証を提出し、証人斎藤功及び原告本人の各尋問を申出で、乙第一ないし第四号証の成立を認める、その余の甲各号証の成立は不知、と述べた。

被告指定代理人は、乙第一ないし第六号証を提出し、証人杉浦三二(第一、二回)同鴨下芳枝、同榊原一弌の各尋問を申出でた。

理由

一、原告が昭和三二年度の所得税確定申告において同年度の譲渡所得を金四三九万一一九六円と申告したことは、原告が本件口頭弁論において明らかに争わないところであるから、原告においてこれを自白したものとみなすべく、被告が右譲渡所得を金三三八万七〇四三円と認定して審査決定をなしたことは当事者間に争いがない。

二、原告が右確定申告に対し昭和三三年四月一五日更正請求をなしたことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない乙第一号証及び証人杉浦三二(第一回)の証言を総合すれば、岡崎税務署長は昭和三五年一〇月一七日右更正請求の却下決定をなしたことが認められ、そして証人榊原一弌及び同杉浦三二(第一、二回)の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、岡崎税務署長は、同税務署の小使榊原一弌をして、右更正請求却下決定書を昭和三五年一〇月一八日、原告が単身で間借りしていた訴外多羅尾八郎方へ持参せしめたが、その際原告が不在だつたので、榊原一弌は右多羅尾八郎の妻に、原告に渡してくれるよう依頼して右決定書を交付したことが認められる。甲第一号証証人斎藤功の証言及び原告本人尋問の結果によるも右認定を覆すに足らない。

証人榊原一弌の証言によれば、原告は多羅尾八郎の妻に、税務署から書類が来なかつたか否かを尋ねていたことが認められるから、原告は多羅尾八郎の妻に税務署から書類が来たならば受取つておくように依頼していたものと推測できる。原告本人は右更正請求却下決定書を受取つていないと供述するが、多羅尾八郎の妻が、榊原一弌から交付された右決定書を原告に交付しなかつたとは容易に考えられない。よつて特段の事情の認められない本件においては、右決定書は昭和三五年一〇月一八日頃多羅尾八郎の妻から原告に交付せられたものと推定するを相当とすべく、従つて同決定は同日原告に告知せられたものと解するを相当とする。

三、右更正請求却下決定に対して原告が不服申立をなさなかつたことは原告が本件口頭弁論において明らかに争わないところであるから、右確定申告は、原告としてはもはや動かし得ないものとなつたものというべきである。

そうすれば原告が本訴において勝訴し、被告のなした譲渡所得に関する決定が取消されたとすれば、原告の譲渡所得は確定申告のとおりとなり、そしてその結果は被告の認定よりも原告にとつて不利となることは計算上明らかである。

四、以上の理由により原告の本訴請求は訴の利益がないから、不適法としてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本重美 裁判官 加藤義則 裁判官 横山弘)

第一目録

岡崎市柱町字林壱番の拾六

一、宅地  五拾壱坪七合壱勺

岡崎市柱町字林壱番の拾五

一、宅地  参拾坪

岡崎市針崎町字北門参拾八番

一、宅地  五百拾弐坪

同所同字参拾八番の壱

一、宅地  四百六拾八坪

岡崎市針崎町字北門参拾八番の六

一、宅地  拾六坪弐合

同所同字参拾八番の七

一、宅地  拾六坪五合

岡崎市針崎町字北門参拾八番の八

一、宅地  弐拾七坪四勺

同所同字参拾八番の拾五

一、宅地  五百五拾壱坪

岡崎市柱町字鐘場弐拾六番

一、宅地  弐坪五合八勺 以上

第二目録

岡崎市針崎町字東カンジ弐拾弐番の壱

一、宅地  八拾弐坪四合九勺

同町同字弐拾参番の弐

一、宅地  九坪九合

岡崎市柱町字鐘場弐拾五番

一、宅地  弐拾弐坪四合五勺

岡崎市柱町字林壱番の拾

一、宅地  四百六拾七坪八合四勺

岡崎市柱町字林壱番の拾弐

一、宅地  五百六拾六坪 以上

第三目録

岡崎市柱町字林壱番の拾参

一、宅地  弐百参拾四坪

岡崎市柱町字林壱番の拾四

一、宅地  七拾八坪八勺

岡崎市針崎町字北門参拾八番の弐

一、宅地  四百六拾坪

岡崎市針崎町字北門参拾八番の参

一、宅地  弐百六拾六坪

岡崎市針崎町字北門参拾八番の四

一、宅地  拾五坪

岡崎市針崎町字北門参拾八番の五

一、宅地  拾九坪 以上

第四目録

岡崎市針崎町字北門参拾八番の九

一、宅地  拾坪六合

同所同字参拾八番の拾

一、宅地  拾五坪

同所同字参拾八番の拾壱

一、宅地  拾五坪

同所同字参拾八番の拾弐

一、宅地  五百坪

同所同字参拾八番の拾参

一、宅地  五百坪

同所同字参拾八番の拾四

一、宅地  四百七拾五坪

同所同字参拾八番の拾六

一、宅地  参百八拾坪

同所同字参拾八番の拾七

一、宅地  参百八拾八坪

同所同字拾四番の五

一、雑種地 拾七歩

同所同字四拾参番

一、山林  六畝歩

内八歩用水溜 以上

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