大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和39年(行ウ)15号 判決 1970年10月16日

愛知県一宮市向山町一丁目六番地

原告

柴田次郎

右訴訟代理人弁護士

佐藤正治

太田博之

右弁護士佐藤正治訴訟復代理人弁護士

塚平信彦

愛知県一宮市明治通り二丁目四番地

被告

一宮税務署長

福脇茂

右訴訟代理人弁護士

本山亨

右指定代理人

東隆一

飯田光正

野々村昭二

内山正信

石田柾夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は被告が原告に対して昭和三八年四月二四日付でなした譲渡所得金額七〇八万七五二八円、増加税額金三〇五万三、一二〇円とする昭和三五年分所得税の更正処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として

一、被告は原告が昭和三五年分所得税につき確定申告をしたところ、昭和三八年四月二四日付で原告に対し譲渡所得を金七〇八万七、五二八円とする右年度分所得税の更正処分をなした。

二、原告は右処分につき適法な異議申立、審査請求をしたが名古屋国税局長は昭和三九年四月二八日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、その頃原告にその通知をなした。

三、しかし原告は右譲渡所得の計上に不服であるから右更正処分の取消を求める。

と述べ、被告の主張事実一の点を認め、二のうち被告の主張のとおりの更正処分のなされた点を認め、売却代価が著るしく低額であつた点および譲渡所得の金額を否認し、三のうち(一)の点を否認し、同(二)の点を争い、ただ柴木物産株式会社が別紙目録(一)、(二)記載の各土地を被告主張のとおり取得し、転売した点を認める。(旧)所得税法第九条第一項第八号に規定する譲渡所得は現実の収入金額をいうものである。かりに本件譲渡が低額譲渡であるとして(旧)所得税法第五条の二第二項が適用され時価により算定されるとしても、右(一)、(二)の各土地には根抵当権が設定されているのであるから、時価の算定にあたつては抵当権消滅のための費用が控除されるべきである。さらに右(一)、(二)の土地には柴木物産株式会社の借地権があり、柴田ふみ子、長倉謙三らが転借権を有していたのであるからこれらの価額が控除されるべきである。なお右(一)の土地についてのみ借地権価額五〇パーセントとしているが右借地権価額を争う。時価は相続税法による財産の評価方法である路線価方式によるべきである。譲渡後に偶々転売された価額を基礎として算定するのは不公平である。被告の主張する売買実例は買急ぎや比較にならない土地の売買であつて適切ではない。同法第一〇条の六第二項は保証債務の履行として資産を譲渡した場合で求償権を行使できない部分は所得に計上しない旨規定しているが、右規定は昭和三七年分以降に適用されるものであるから本件のような場合にも類推適用されるべきである。また保証債務のために譲渡せざるをえないとき、債務者と買主とか同一人で時価では代金回収が不能であるときは同法第五条の二の規定は適用できないものである。同(三)の(1)の点を認め、(2)の点を争い、四の点を争い、原告が右(一)、(二)の各土地を右柴木物産株式会社に譲渡した代金金二五九万八、七三〇円は右会社の債務につき原告が負担していた保証債務の弁済にあてられ原告にはほとんど入金がなく、原告はただ右保証債務を履行したことによる右会社に対する求償権を取得したのみであつたが当時右会社は債務超過の状態であつて右求償権を行使することもできず、右(一)、(二)の各土地の売却による所得は計上されないものとして前記確定申告をなしたものである。と述べ、なお原告の反論として、原告は右(一)、(二)の各土地を譲渡するに際し一宮税務署資産税係に問い合わせて知つた評価額をもつて譲渡価額としたものであるのに、被告は本件更正処分をしたものであり、また原告が右(一)、(二)の各土地につき再評価額を金九二七万六、六〇〇円として申告したのに対し、被告は昭和三七年一二月二七日再評価額を金七九万一、六六一円とする減額更正をなし、原告はこれに対し不服を申し出たところ既に確定している旨の回答がなされ、昭和三八年四月二四日に本件更正処分をしたもので、これは被告が原告の無知に乗じて右不服申立ができなくなるのをまつたうえでなしたものであつて右いずれよりしても本件更正処分は信義則に反し取消されるべきである。と述べた。

被告は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、請求の原因たる事実一、二の各点を認め、三の点を争い、被告の主張として、

一、原告が被告に対しなした昭和三五年分所得税の確定申告の内容は別表(一)のとおりである。

二、原告は昭和三五年中に別紙目録(一)、(二)記載の各土地を柴木物産株式会社に金二五九万八、七三〇円で売却したのは時価に比して著しく低額であると認めて(旧)所得税法(昭和二二年法律第二七号)第五条の二第二項により時価により右各土地の譲渡があつたものとみなして原告の昭和三五年分所得税を更正したものであるがその内容は別表(二)のとおりである。

三(一)  右更正処分における譲渡所得金額の算出内容は次のとおりである。

収入金額金一、八〇五万二、九一七円(右(一)の土地の分金八一七万九、二一七円、右(二)の土地の分金九八七万三、七〇〇円)取得価額金七四万九、三六〇円(右(一)の土地の分金五五万七、一四七円、右(二)の土地の分金一九万二、二一三円)

差引譲渡所得金一、七三〇万三五五七円(右(一)の土地の分金七六二万二、〇七〇円、右(二)の土地の分金九六八万一、四八七円)

譲渡所得の特別控除金一五万円

課税譲渡所得金八五七万六、七七八円

(二)  そして時価とは譲渡時の現況における客観的な交換価値即ち通常成立すると認められる取引価額であるところ、右(一)、(二)の各土地の時価の評価は次のとおりである。

(1)  右(一)の土地は原告が昭和三五年五月一八日柴木物産株式会社に譲渡した後右会社は同年七月二日万栄株式会社に金一、七一二万九、二五〇円で転売しているので、原告の右譲渡時と右柴木物産株式会社の転売時との期間差に当時の一ケ月土地価格上昇率三パーセントで修正(修正率四・五パーセント)したうえ右(一)の土地には右原告の譲渡時に原告、柴田ふみ、長倉謙三らの建物が存していたので借地権割合を更地価額に対し五〇パーセントと認めて計算し時価金八一七万九、二一七円と算出したものである。

<省略>

(2)  右(二)の土地には原告が昭和三五年五月一八日柴木物産株式会社に譲渡した後右会社は右土地のうち八七・三一坪(仮換地七六・四一坪)を同年八月九日株式会社越田商店に金七六四万一、〇〇〇円で転売しているので、原告の右譲渡時と右柴木物産株式会社の転売時との期間差に当時の一ケ月土地価格上昇率三パーセントで修正(修正率九パーセント)し右転売された部分の時価は金六九五万三、三一〇円と算出し、

7,641,000円×(1-0.09)=6,953,310円

転売されなかつた部分ももと一筆の土地で同一価値と認められるので右転売部分の修正額に準じ、残部分は金二九二万三九〇円と算出し、

結局右(二)の土地の時価は合計金九八七万三、七〇〇円と算定したものである。なお、右(二)の土地は原告の譲渡時において更地であつた。

(三)  右(一)、(二)の各土地の取得価額は資産再評価法(昭和二五年法律第一一〇号)にもとずき算定したものである。即ち、

(1)  原告は昭和三五年分の個人の再評価税につき別表(三)のとおり申告した。

(2)  原告の右申告にかかる現実の取得価額を認める証拠がなかつたので昭和二一年三月三日現在で財産税法(昭和二一年法律第五二号)により課税された財産税の評価額を基準として右財産税の評価基準日と右取得時までの地価上昇率を乗じて別表(四)のとおり取得価額を算定し、右取得価額および取得時期より資産再評価法にしたがつて本件土地の再評価額を別表(五)のとおり算定した。

四、以上のとおり算定した金額の譲渡所得にもとづき原告の昭和三五年分の所得税額は別表(六)のとおりとなり、本件更正処分はその範囲内でなされたものであるから違法ではない。

と述べ、原告の主張に対し、(旧)所得税法第五条の二第二項は売買契約の効力に影響するものではないから、同項のみなし譲渡価額について原告に請求権が発生するものではなく、従つて譲渡代金回収不能などという問題は生じないから本件は(旧)所得税法第一〇条の六第一項に該当する事案ではない。又抵当権が設定されているからといつて土地の交換価値が低下するものではない。時価は市場資料比較法による評価が取引実例から算定するもので現実的であるうえ最も適切であり、しかも右(一)、(二)の土地の評価はその土地自体が本件譲渡後間もなく転売された価額を基礎としたもので妥当なものである。なお右(一)の土地は坪(三・三〇平方米)当り金七万五、〇〇〇円、右(二)の土地は坪(三・三〇平方米)当り金一〇万円であつてこれを他の取引実例と比較すると、右(一)の土地附近で昭和三五年二月に茶周染色株式会社が坪(三・三〇平方米)当り金八万円で右(二)の土地附近で昭和三六年五月に太陽生命保険相互会社が坪(三・三〇平方米)当り金二五万円で買入れており、これらの実例は買急ぎなとや特別地にあたる実例ではないものである。路線価方式は相続税における時価推計の基準にすぎず適切ではない。原告の反論につき、譲渡価額につき相談を受けたこともなく、再評価の更正と本件更正処分は事務処理上原告主張の日になされただけであつて何らの意図も存しない。と述べた。

証拠として、原告は甲第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四、第五、第六号証を提出し、証人田中幸市の証言と原告本人尋問の結果を援用し、乙第四、第一〇号証の各成立は不知と述べ、その余の乙号各証の成立を認め。被告は乙第一ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二、第一三、第一四号証を提出し、証人藤吉動、同浜嶋こと浜島正雄の各証言を援用し、甲第一、第二、第五、第六号証の各成立を認め、同第三号証の一、二、三の各成立は不知、同第四号証のうち宮署作成の部分の成立を認めその余の部分の成立は不知と述べた。

理由

請求の原因たる事実一、二の各点は当事者間に争いがない。而して被告の主張事実一の点は当事者間に争がなく、同二のうち原告が昭和三五年五月一八日右(一)、(二)の各土地を柴木物産株式会社に金二五九万八・七三〇円にて売却した点は原告においてかねて自白するところにかかり被告の主張通りの更正がなされた点は当事者間に争いがない。

そもそも時価は一般の自由市場における売買取引において社会通念上通常形成される取引価額を意味するものであるところ、これを本件についてみると、右(一)の土地は原告が柴木物産株式会社へ譲渡した昭和三五年五月一八日のわずか一ケ月半ほど後たる同年七月二日右会社が万栄株式会社に対し代金金一、七一二万九、二五〇円で転売したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第六、第七、第八号証、証人浜嶋こと浜島正雄の証言により真正の成立を認めうる乙第四号証と同証言によると右(一)の土地と同一路線に面しその価値において大差がないものと推認しうる一宮市音羽通二丁目一九番宅地二一五坪(換地一六八ブロツク一番宅地一五三坪七合)および同町二丁目一九番の二宅地一二五坪の一部(換地一六八ブロツク一五番宅地四五坪三合四勺)を昭和三五年二月三日に坪当り金八万円にて、以前から右土地を借用していた茶周染色株式会社がビル建築のため購入していることが認められ、また本件全証拠によるも右各売買に通常の取引価額に比して特に高価でなされたとすべき特段の事情も認められないから右の取引価額に対比してみて右(一)の土地の原告から柴木物産株式会社への譲渡時における時価算定にあたつて同土地の柴木物産株式会社から万栄株式会社への前記転売価額を基礎にすることは合理性があるということができる。そして成立に争いのない乙第三号証によるとその計算上一ケ月の土地価格上昇率は当時約三パーセントと認められ、また前記の右(一)の土地についての原告の譲渡時と柴木物産株式会社の転売時との期間差は約一・五ケ月であるからその修正率は約四・五パーセントとなり、更に右土地譲渡時には右土地に柴田ふみ子、長倉謙三らの借地権が存したことは当事者間に争いがなく、証人藤吉勤の証言によれば右借地権割合は五〇パーセントと認められる。そうすると右(一)の土地についての原告から柴木物産への譲渡時たる昭和三五年五月一八日における時価算定についての被告の主張は首肯しうるところであり、結局同時価を金八一七万九、二一七円と認定する。次に右(二)の土地は原告が柴木物産株式会社へ譲渡した昭和三五年五月一八日のわずか二ケ月半ほど後たる同年八月九日そのうち八七・三一坪(仮換地七六・四一坪)は右会社が株式会社越田商店に代金金七六四万一、〇〇〇円で転売したことは当事者間に争いがなく、右藤吉証人の証言によると右(二)の土地は当時更地であつたことが認められ成立に争いのない乙第一一号証の一、二、第一二、第一三、第一四、号証と右浜島証人の証言により真正の成立を認めうる乙第一〇号証、同証言によると右(二)の土地の附近である一宮市八幡通り二丁目五五番地外二筆合計一〇八坪一合四勺(仮換地一宮市第六工区七ブロツク九番宅地七八坪一合三勺)の更地を昭和三六年五月九日坪当り金二五万円で買入申込によつて太陽生命保険相互会社が購入していることが認められ本件全証拠によるも右各売買が通常の取引価額に比較して特に高価にてなされたとすべき特段の事情も認められないから、右取引価額に対比してみて右(二)の土地の原告から柴木物産株式会社への譲渡時における時価算定にあたり同土地の柴木物産株式会社から株式会社越田商店への前記転売価額を基礎にすることは合理性があるということができる。そして一ケ月の土地価格上昇率が当時三パーセントであること前記認定のとおりであり、また前記右(二)の土地についての原告の譲渡時と柴木物産株式会社の転売時との期間差は約三ケ月弱であるからその修正率は約九パーセントとなり、そうすると右(二)の土地についての原告から柴木物産株式会社への譲渡時たる昭和三五年五月一八日における時価算定についての被告の主張もまた首肯しうるところであり、結局同時価を金九八七万三、七〇〇円(以上)と認定する。よつて右(一)、(二)の各土地の原告の譲渡時における時価は合計金一、八〇五万二、九一七円であつて原告主張の右(一)、(二)の各土地の柴木物産株式会社への譲渡価額(金二五九万八、七三〇円)は時価に比して著しく低額であると認められることが明らかであり被告が(旧)所得税法第五条の二第二項により右認定の時価により右(一)、(二)の各土地の譲渡があつたものとみなしたことは正当であるという外はない。(鑑定人伊藤武夫の鑑定の結果によると昭和三五年六月一日現在右(一)の土地は賃借権の存する場合に金八〇〇万三、〇〇〇円の時価を存し、右(二)の更地の時価は金五四七万一、〇〇〇円で合計金一、三四七万四、〇〇〇円となり、被告の計算と若干の相違を存するも前記売買実例も存しこれをもつていまだ前記認定を覆えす資料となし難い。)

尚土地の時価を算定するについては各種の方法が存しそのいづれをとるかによりその算定価額に差異の生ずるのは当然のことであるが各事案毎に相当な方法によつて算定すべきであり、本件については売買実例を基礎とする市場資料比較法によるのが相当であり、これと異なる原告主張の路線価方式によらねばならないわけはない。

また原告の右(一)、(二)の各土地の譲渡代金が柴木物産株式会社の債務につき原告が負担していた保証債務の弁済にあてられ、原告が取得したのは右会社に対する求償権のみであるうえ右会社が債務超過で右求償権を行使することができなかつたとしても、資産譲渡による譲渡所得としての収入の発生時期は当該資産の所有権が譲受人に移転した時であり、原告の右請求権は右譲渡代金のうちから右保証債務の弁済がなされたことによりその代位弁済的効果としてはじめて発生する権利であつて、右求償権が事実上行使できないとしても、かかる事情は所得の成否および算出につき何んらの消長をきたすものではなく、(最高裁判所昭和四〇年九月二四日判決、民集一九巻六号一六八八頁参照)右求償権の事実上の行使の障害をもつて右譲渡代金の回収不能と同一視することはできず、また本件譲渡所得につき昭和三七年三月三一日法律第四四号により追加された(旧)所得税法第一〇条の六第二項を適用することができないことはもとより右規定を類推適用すべき根拠もない。また右(一)、(二)の各土地につき根抵当権が設定されていたとしてもその客観的交換価値が低下するものでないから、(旧)所得税法第五条の二第二項の時価算定にあたり何んらの影響を与えるものではなく、このことは民法第五六七条の売主の担保責任、同法第五七七条の買主の代金支払拒絶権等の規定に照らし明らかであつて右時価算定につき右抵当権消滅のための費用を考慮に容れるべき理由はない。よつて右各点に関する原告の所得はいずれも理由のないものとしてこれを採用しない。

次ぎに右(一)、(二)の各土地についての原告の取得価額についてみると被告の主張事実三の(三)の(1)の点は当事者間に争がなく、同(2)については成立に争いのない甲第五号証、前記藤吉証人の証言と弁論の全趣旨によると右取得価額を明らかにする資料のないことが明らかであり成立に争いのない甲第一、第二号証によると原告は右(一)の土地を昭和二三年五月二五日、同(二)の土地を昭和二一年八月三日それぞれ取得したことが認められ、前記乙第三号証と成立に争いのない乙第九号証、第一一号証の一、二によると、旧地租法第八条にもとずく昭和二一年三月現在の賃貸価額が右(一)の土地につき金二四〇円、右(二)の土地につき金七四円四七銭であり、財産税法第二五条、第二六条にもとずく財産税評価倍数が右(一)の土地につき四五、右(二)の土地につき五〇であることおよび全国市街地価格推移指数(昭和一一年九月 一〇〇)が昭和二一年一月現在二六二であるのに対し同年九月は五〇一、昭和二三年九月は三、六五三であることが認められるので被告のこの点に関する計算(別表(四)、(五))は首肯しうべく、右(一)の土地の取得価額は金一五万五八一円、同(二)の土地の取得価額は金七、一一九円であると認められ、右各取得金額および前記各取得時期をもとに資産再評価法(昭和二五年四月二五日法律第一一〇号)第二一号により再評価すると本件譲渡所得の計算上原告の取得価額は右(一)の土地につき金五五万七、一四七円、同(二)の土地につき金一九万二、二一三円となり、結局原告の本件差引譲渡所得は被告の主張事実三の(一)(同(二)、(三))のとおり金一、七三〇万三、五五七円となり、これと被告の主張事実一、二により原告の昭和三五年分の所得税を計算すると被告の主張事実四のとおりとなることは明らかである。而して前記別表(一)、(二)と別表(六)によると本件更正処分は右(六)表の範囲内でなされたことが認められ違法でないことが明らかである。しかるに被告に原告主張の信義則違反廉を存する旨の事実を認むるに足るべき証拠はなく、原告の各証拠中前記各認定に反する部分は被告の右各証拠に対比して措信しがたく、他に本件更正処分を取消すべき瑕疵は認められなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法第八九条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小沢三朗 裁判官 日高乙彦 裁判官 太田雅利)

目録

(一) 愛知県一宮市音羽町通一丁目二〇番地の二

宅地 二四〇坪(実坪二二八・三九坪)

(二) 同県同市八幡通一丁目二一番地の二

宅地 一二四・一二坪

(一坪は三・三〇五七平方米)

別表 (一)

総所得金額 一、二六二、六一〇円

配当所得 一二九、二一〇円

不動産所得 三二三、四〇〇円

給与所得 八一〇、〇〇〇円

所得控除額 二一五、九三二円

課税総所得金額 一、〇四六、六〇〇円

算出税額 二二三、九八〇円

税額控除額 二五、八四二円

差引所得税額 一九八、一三八円

源泉徴収税額 七〇、七二九円

申告納税額 一二七、四〇〇円

別表 (二)

総所得金額 八、三五〇、一三八円

配当所得 一二九、二一〇円

不動産所得 三二三、四〇〇円

給与所得 八一〇、〇〇〇円

譲渡所得 七、〇八七、五二八円

所得控除額 二一五、九三二円

課税総所得金額 八、一三四、二〇〇円

算出税額 三、二七七、一〇〇円

税額控除額 二五、八四二円

差引所得税額 三、二五一、二五八円

源泉徴収税額 七〇、七二九円

申告納税額 一二七、四〇九円

更正による増差税額 三、〇五三、一二〇円

別表 (三)

<省略>

別表 (四)

<省略>

別表 (五)

<省略>

((一)の土地は登記の日をもつて取得年月を改めた。)

別表 (六)

総所得金額 九、八三九、三八八円

配当所得 一二九、二一〇円

不動産所得 三二三、四〇〇円

給与所得 八一〇、〇〇〇円

譲渡所得 八、五七六、七七八円

所得控除額 二一五、九三二円

課税総所得金額 九、六二三、四〇〇円

算出税額 四、〇二一、七〇〇円

税額控除額 二五、八四二円

差引所得税額 三、九九五、八五八円

源泉徴収税額 七〇、七二九円

申告納税額 三、九二五、一二〇円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例