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名古屋地方裁判所 昭和40年(ワ)76号 判決 1966年3月25日

主文

(一)  被告は原告に対し、原告が別紙第一号目録記載の土地につき、期間の定めなく、建物所有の目的、賃料は別紙第二号目録記載の土地と一括して年額金一五〇〇円毎年末日銀り支払の約なる賃借権を有することを確認する。

(二)  被告は原告に対し、別紙第二号目録記載の土地を囲繞する高さ約七〇糎の鉄条網を撤去せよ。(占有権に基くもの)

(三)  原告のその余の請求を棄却する。

(四)  反訴被告は反訴原告に対し、別紙第五号目録記載の樹木を収去して第二号目録記載の土地を明渡せ。(所有権に基く)

(五)  反訴被告は反訴原告に対し、昭和四〇年二月二七日以降前項土地明渡済に至る迄月額金三一七円の割合による金員を支払え。

(六)  反訴原告のその余の請求を棄却する。

(七)  訴訟費用は本訴反訴を通じ之を三分し、その二を原告(反訴被告)のその一を被告(反訴原告)の負担とする。

(八)  本判決中(二)(五)項に限り仮り執行することができる。

事実

第一、本訴事件について

(原告の請求の趣旨)

(一)  被告は原告に対し、原告が別紙第一号目録記載の土地につき期間の定めなく、建物所有の目的、賃料は別紙第二号目録記載の土地と一括して年額金一五〇〇円毎年末日払の約なる賃借権を有することを確認する。

(二)  被告は原告に対し、別紙第二号目録記載の土地を囲繞する高さ約七〇糎の鉄条網を撤去せよ。(第一次的に賃借権に基き第二次的に占有権に基く。)

(三)  被告は原告に対し、別紙第二号並に第三号目録記載の土地につき、期間の定めなく、農耕用の目的、賃料は別紙第一号目録記載の土地と一括して年額金一五〇〇円毎年末日払の約なる賃借権の設定につき、大府町農業委員会に対し、原告と連名にて許可申請手続をせよ。

(四)  訴訟費用は被告の負担とする。

(五)  第二項につき仮執行宣言。

(請求原因)

(一)  別紙第一乃至第三号目録記載の土地(以下第一、第二、第三の土地という)は被告所有であるが、原告は本件土地の管理につき代理権を有する被告の父成田菊松と昭和二一年三月頃次のような約定で賃貸借契約を締結した。期間の定めはなく第一の土地については建物所有、第二の土地については果樹園兼農耕用、第三の土地については農耕用として使用する、賃料は年額二三六円(現在一五〇〇円となる)毎年末日払。被告は右賃借権に基き、第一土地上に別紙第四号目録記載の建物(以下本件建物という)を建築所有して居住し、第二の土地を果樹園兼農耕の用に供し、第三の土地を農耕の用に供してきている。

(二)  仮に右賃貸借契約が無効とするも、原告は右賃貸借契約が成立したことを確信し、昭和二一年三月より本件各土地に善意、無過失にて賃借権を行使し、被告に賃料の支払をなし平穏、公然と本件土地の占有を継続し、右日時より一〇年後である昭和三一年三月末日を経過したから、取得時効完成により右土地の賃借権を取得したものである。

(三)  しかるに被告は昭和三九年八月頃より原告の本件各土地に対する右賃借権の存在を否認する態度をとるにいたり、原告に無断で第二の土地を囲繞する高さ約七〇糎の鉄条網をはりめぐらし、原告の賃借権に基く同土地の使用を妨害している。

(四)  仮に原告において第二の土地につき前記のような賃借権を有しないとするも、原告は本件土地を果樹園兼農耕用として使用占有中であるから、同土地につき占有権を有するものである。

(五)  前記(一)記載のように原告は第二の土地につき果樹園兼農耕用第三の土地につき農耕用と使用目的を定めて賃借したものであり、右賃借権設定については所轄大府町農業委員会えの許可申請手続をとることを要したのであるが、被告が自作農創設特別措置法等により農地買収されることを恐れ、右手続をとらないようにと懇請するので手続をとらないまゝ土地の引渡しを受け、第二の土地を果樹園兼畑として、第三の土地を畑として使用しているものである。しかるに被告は今日にいたり原告の右各土地の賃借権を否認するに至つたものである。被告は原告に対し賃貸借契約の当初右のように懇請しておきながら今日にいたり、県知事の許可のないことを理由にその効力を否認することは禁反言の法理からいつても許されない。

(六)  よつて原告は被告に対し第一の土地につき、請求の趣旨(一)のような賃借権を有することの確認を求めるため、第二の土地につき第一次的に賃借権に基き、賃貸人たる被告に対しその完全なる使用を与えることを請求する権利の行使として、第二次的に占有権に基くその妨害排除請求権の行使として同(二)の作為を求めるため、及び第二、第三の土地につき賃貸借契約義務履行乃至は取得時効完成により取得した賃借権に基き同(三)の意思表示を求めるため本訴各請求に及んだものである。

(被告の申立)

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

(請求原因に対する答弁)

請求原因(一)の事実中第一乃至第三の土地が原告の所有であること、成田菊松が被告の実父であること、第一土地上に被告が本件建物を建築所有し居住していること、第二の土地には別紙第五号目録のような樹木を植えていることは認めるがその余の事実を否認する。成田菊松は山本家に婿養子としてきたものであるが被告が四歳のとき山本家と離縁し同家を出たものであるから被告の代理人となるわけがない。請求原因(二)のの事実を否認する。同(三)の事実を認めるが、原告の承諾を得ているものである。同(四)乃至(六)の主張を争う。

第二、反訴事件について

(反訴原告の請求の趣旨)

(一)  反訴被告は反訴原告に対し、別紙第四号目録記載の建物及び第五号目録記載の物件を収去して、別紙第一、第二号目録記載の土地を明渡せ。

(二)  本反訴状送達の翌日から右土地明渡済に至る迄月額五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(三)  (第二次的請求の趣旨)

反訴被告は反訴原告に対し、昭和四一年一一月二四日限り、別紙第二号目録記載の土地を明渡せ。

(四)  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

(五)  前(一)(二)項につき仮執行宣言。

(反訴原告の請求原因)

(一)  第一、第二の土地は反訴原告の所有である。

(二)  反訴被告は反訴原告に対抗し得べき正当の権限もなく、第一の土地上に本件建物を建築所有し、第二の土地上に別紙第五号目録記載の樹木(以下本件概木という)を所有して夫々同土地を不法に占有している。

(三)  右各土地の賃料相当金額は月額五〇〇〇円以上 ある。

(四)  よつて反訴原告は第一次的に第一、第二の土地所有権に基き本件建物並に本件樹木を収去して同土地の明渡しを求めるものである。

(五)  仮に反訴被告が主張するように、第二の土地について反訴原告との間に果樹園兼農耕用の目的で、期間の定めのない賃貸借契約が存するとするも、右賃貸借契約については借地法の適用がないから、反訴原告は反訴被告に対し民法第六一七条に基き本件第六回口頭弁論期日(昭和四〇年一一月二四日)において右賃貸借契約解約の申入れをなした。よつて右賃貸借契約は右期日より一年を経過した昭和四一年一一月二四日消滅すべきものである。

(六)  よつて反訴原告は反訴被告に対し、第二の土地につき賃貸借契約終了に基く同土地の返還を求めることを第二次的請求とするものである。尚右返還の期日は将来にかゝわるが、反訴被告はその義務を争い、右期日においても履行しないことが明白なので現在においても訴の利益を有するものである。

(七)  尚、反訴被告の主張に対する答弁は、本訴請求原因に対する答弁書記載の通りである。

(反訴被告の申立)

(一)  反訴原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

(反訴請求原因に対する答弁並に主張)

(一) 反訴請求原因(一)の事実を認め、同(二)の事実中反訴被告が第一、第二の土地上に反訴原告主張の建物及び樹木を所有して同土地を占有していることを認め、その余の事実を否認し、同(三)乃至(六)の各主張を争う。

(二) 反訴被告は本訴請求原因(一)(二)記載のような正当な貨借権に基き第一、第二の土地を占有するものである。尚反訴原告の第二の土地明渡し請求については、本訴請求原因(五)記載と同様の主張をなす外、右請求は同項記載のような事情のもとでは権利の乱用として許されないものであることを付加して主張する。

立証(省略)

理由

第一、本訴事件について。

(一)  第一乃至第三の土地が被告の所有であることは当事者間に争がなく、証人田中茂子の証言、原被告各本人尋問の結果を綜合すると、成田菊松は被告の実父であり第一乃至第三の土地の管理をなし、之につき代理権を有していたところ、昭和二一年頃、当時住居に困つていた原告の懇請を受け、之を容れて原告に対し第一、第二の土地を一括して、期間の定めなく住宅敷地として賃貸したこと(当初賃料は不明、現在年額一五〇〇円)が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。尚、右証言並に被告本人尋問の結果中、右賃貸部分は第一の土地のみである趣旨の供述部分もあるが、同供述部分自体並に成立に争のない乙第五号証の一、二によると、賃貸当初第一、第二の土地は山林四〇番の一一三九として一筆の土地であり、形態の上でも一筆であり、且つ被告は賃借当初より一括して使用占有してきた事実が認められることに照らしにわかに措信しがたい。しかしながら原告主張のように、第二の土地について果樹園兼農耕用の目的で賃貸借契約が締結せられたことを認定するに足る証拠はない。

(二)  次に第三の土地についても農耕用の目的で賃貸借契約が締結せられている旨の原告の主張について考えるに、右主張にそうが如き甲第二号証は、にわかに措信できず、証人川崎国雄の証言は当時同証人が一〇歳前後の若年であることに照らし信用できず、他に之を認定するに足る証拠はない。もつとも、証人小島要治の証言に被告本人尋問並に検証の結果を綜合すれば、原告が昭和二三年頃から昭和三九年頃迄第三の土地で野菜、麦等を作つている事実が認められるが、前記第一、第二の土地賃貸借契約の日時と異るし、またその耕作部分も第三の土地の一部分であり、その内容も戦後の家庭菜園程度に止るものと認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。従つて、前認定の第一、第二の土地賃貸借契約の一部としても、又別個の契約としても第三の土地が農耕用の目的を有する賃貸借契約の目的となつたものとは認定することができない。

(三)  次に原告の賃借権時効取得の主張について考えるに、第二の土地については原告は被告より昭和二一年頃第一の土地と一括して住宅敷地として賃借したものであること前認定の通りであり、第三の土地については之を昭和二三年頃より家庭菜園として事実上使用してきたものに止ること前認定の通りであるから、いずれも原告主張のような使用目的をもつてする賃借権の行使をなし来つたものと認めがたく、他に右主張を認定するに足る証拠はない。

(四)  次に、請求原因(三)の事実は当事者間に争がなく、被告において鉄条網を張り廻らすにつき原告の承諾を得たことを認めるに足る証拠はなく、又原告が第二の土地上に別紙第五目録の樹木を所有し同土地を占有していることは当事者間に争がない。

(五)  右各認定事実よりすれば、原告の本訴請求中、請求の趣旨(一)は理由があるから之を認容し、同(二)の第一次的請求は、その請求各原因とするところの果樹園兼農耕用の目的でなした賃借権が存しないから(第二の土地については、第一の土地と一括して住宅敷地として賃貸借契約の目的となつたものであること前認定の通りであるが、原告は敢て之を請求原因としないから、本訴判決の資料としない)理由がないので之を棄却し、第二次的請求としての占有権に基く妨害排除の請求は理由があるから之を認容し、同(三)は原告と被告との間に第二及び第三の土地につき主張のような賃貸借契約乃至は賃借権の時効取得の事実が認められないからその余の争点を判断する迄もなく理由なきに帰し、之を棄却することゝする。

第二、反訴について、

(一) 第一、第二の土地が反訴原告の所有であること、反訴被告が第一の土地上に本件建物を、第二の土地に本件樹木を所有し夫々占有していることは当事者間に争がない。しかし、反訴被告が第一の土地につき反訴被告主張のような賃借権を有すること前認定の通りである。しかし一方、第二の土地については、反訴被告が主張するような果樹園兼農耕用の使用目的での賃借権を有しないことも前認定の通りである。

よつて反訴請求中、反訴被告に対し本件建物を収去して第一の土地の明渡しを求める部分は理由がないから之を棄却し、本件樹木を収去して第二の土地の明渡しを求める部分は理由がある(尚、第二の土地は、前認定の通り、第一の土地と共に住宅の敷地として一括して賃貸借契約の目的となつたものであるが、反訴被告はこの事実を抗弁として主張しないので、本反訴請求を妨げる資料となしえない。又、占有権の主張も反訴原告の本権〔所有権〕の訴を妨げる資料とし得ないこと民法第二〇二条に照らし明白である。)よつて、同土地部分についての予備的請求については判断しない。そこで、反訴原告の損害金請求について考えるに、鑑定人早川友吉の鑑定の結果によると、第二の土地の賃料相当額は月額坪一円七八銭と認められ他に右認定に反する証拠はなく、第二の土地(一七九坪)全部で合計三一七円となるから、本反訴状が反訴被告に送達せられたことが記録上明白な昭和四〇年二月二六日の翌日より同土地明渡済に至る迄月額金三一七円の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから右範囲で認容し、その余を失当として棄却する。

第三、本訴反訴を通じて。

訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条を適用し、仮執行宣言の申立については、本訴原告の申立部分並に反訴原告の申立中金員支払部分についてのみ之を附するのを相当とし、他の部分は不相当と考え同法第一九六条に則り主文の通り判決する。

第一号目録

愛知県知多郡大府町大字大府字ガンジ山四〇番の一八八

一、宅地  五八坪

同所四〇番の一三九

一、山林  六畝二四歩中東北部現況宅地約二五坪(別紙図面(イ)の部分)

第二号目録

同所四〇番の一三九

一、山林  六畝二四歩中現況畑約六畝歩(約一七九坪・別紙図面(ロ)の部分)

第三号目録

同所三八番の二九五  一、畑  二畝二一歩

同所三八番の二五六  一、畑  八畝一四歩

同所三八番の二五八  一、畑  七畝二歩

同所三八番の二六一  一、畑  七畝歩中の南部約二畝一〇歩

第四号目録

同所四〇番地所在家屋番号大字大府第七三二番の七

一、木造瓦葺平家建居宅  床面積一九坪五合

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建物置  床面積三坪

第五号目録

<省略>

<省略>

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