名古屋地方裁判所 昭和40年(行ウ)27号 判決 1965年12月25日
名古屋市千種区御棚町三丁目二十六番地
原告
小杉仁造
右訴訟代理人弁護士
大道寺和雄
名古屋市中区外堀町
被告
名古屋国税局
右代表者局長
奥村輝之
愛知県半田市堀崎町一丁目五十三番地
被告
半田税務署
右代表者署長
前田金一
右被告等指定代理人
水野祐一
天野俊助
須藤寛
猿渡敬三
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は請求の趣旨として(一)被告国税局が原告に対してなしたる昭和四十年三月十七日附名局資審第四四号裁決を取消す。(二)被告半田税務署が原告に対してなしたる昭和三十九年九月一日附異議棄却決定を取消す。(三)被告半田税務署が原告に対してなしたる昭和三十九年六月一日第八二号による昭和三十七年分所得税に対する再更正決定を取消す。訴訟費用は被告等の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、(一)原告は不動産仲介業柴田鍗一の仲介により昭和三十四年二月二十五日近藤豊より名古屋市千種区猪高町大字猪子石字八前八十八番地の百二十六山林八反三畝十歩を代金坪当り金四千円計金千万円で買受け、昭和三十七年五月これを小杉株式会社に代金金三千万円で売却した。仍而原告は右の山林売買により金二千万円の利得を得た。然るに被告半田税務署は原告の右の買受価額を金五百万円と見積つているので原告の所得利益を金二千五百万円と査定し、この利益に対して課税したので右の差額金五百万円についての課税額は約金百六十二万千円となり、原告はこの額だけ不当課税を受けた。(二)その経過は被告半田税務署は原告の右の山林買受代金を金五百万円と査定して昭和三十九年六月三日再更正通知を発したので原告はこれに対し昭和三十九年六月五日同被告に対し異議の申立をなしたが、同年九月一日右の申立は棄却された。よつて原告は昭和三十九年十月四日被告名古屋国税局に対して審査請求をなしたが同請求も昭和四十年三月十七日同被告により棄却の裁決がなされた。(三)仍而原告は右再更正決定並に棄却決定及び右の裁決に服することができないので本申立に及ぶ。と述べた。
被告等は主文と同旨の判決を求め、答弁として、請求の原因たる事実(一)中原告が昭和三十七年五月右の山林を代金金三千万円で小杉株式会社に売却し、被告半田税務署長が原告の右の山林の買入価額を金五百万円となしその所得利益を金二千五百万円と査定の上原告に対して課税した点を認め、その余の点を否認し、同(二)の点を認め本件課税処分には何等違法を存しなく、請求の趣旨(一)においては被告名古屋国税局長のなした裁決の取消が求められているも行政事件訴訟法第十条第二項によると処分の取消の訴とその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消の訴とを提起することができる場合には裁決の取消の訴においては処分の違法を理由として取消を求めることができない。と規定せられている。それにも拘らず原告は本件において被告名古屋国税局長のなした昭和四十年三月十七日付の棄却裁決についてもその取消を求めているが右の条文によるとかかる場合には棄却の裁決の基因となつた原処分の取消の訴により取消を求むべきであり、またこれをもつてじゆうぶんなのであるから裁決固有の瑕疵を理由とせず、結局原処分の違法のみを理由とする右請求の趣旨(一)は違法理由を缺くことになるので棄却を免れない。又請求の趣旨(二)の異議棄却決定の取消を求める利益はない。蓋し仮に確定判決によつて原処分たる再更正決定が取消されるならばその判決の効力は当然に行政庁たる当事者を拘束し(行政事件訴訟法第三十三条)、再更正決定と同一の事実認定、適用条項をもつてなされた異議申立棄却決定を独立の請求をもつて取消すべき理由がないからである。(同旨昭和四十年三月二十六日富山地方裁判所)従つて請求の趣旨(二)は訴の利益を缺くことになり却下を免れない。と述べた。
証拠として原告は甲第一乃至第六号証を提出し、証人柴田栄一、同加藤博正、同森川勇、同小川竜三(二回)、同近藤豊の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証、第四号証の一、二、第五号証の一、二の各原本の存在と成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べ、乙第四号証の一、二、第五号証の一、二を利益に援用し、被告は乙第一、第二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、三、第八号証の一、二を提出し、証人前田保寛、同近藤豊の各証言を援用し、甲第一乃至第五号証の各成立は不知、甲第六号証中公署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知と述べ、甲第六号証の成立を認めた。
理由
請求の原因たる事実(一)中原告が昭和三十七年五月同山林を代金三千万円で小杉株式会社に売却し、被告半田税務署長が原告の右の山林の買入価額を金五百万円となしその所得利益を金二千五百万円と査定の上原告に対し課税した点及び同事実(二)の点は当事者間に争がない。而して原告の右山林の買入価格が金千万円である旨の原告の主張に副う証人柴田栄一、同加藤博正、同森川勇、同小川竜三(二回)の各証言及び被告本人の尋問の結果における各部分は証人前田保寛の証言に対比して措信しがたく、同証言及び同証言により真正の成立を認めうる乙第二、第三、第六号証、公文書であるから真正の成立を認めうる乙第八号証の一、二、原本の存在並に成立に争のない乙第一、第四、第五号証によると原告は当初右の土地の買入価額を坪当り金八千五百円と主張し、名古屋国税局の認定する坪当り金二千五百円との喰違につき国税局より証拠の提出を求められながら容易その提出をなすことができず、同国税局はその売主近藤豊につき資料の提出を求め、相場をも聞糺し詳細なる調査したるに坪当り金二千円なることの確証を得て原告の買入価額を金五百万円と認定したものであり、特に右乙第一、第二、第三号証、第五号証の一の下部の2,500,000なる記載、右前田証人の証言により認められる如く右国税局の調査にあたり右乙第五号証の一の金七百五十万円より右の金二百五十万円を控除した残額金五百万円については原告において説明のできなかつたことと同号証の二の裏書人が小杉株式会社取締役小杉仁造となつていること、国税局の相当綿密なる調査に対し原告の資料の提出の遅々として渉らなかつたこと及び原告がその主張を維持する明白且つ有力な証拠であるとする甲第一乃至第五号証が右前田証人の尋問の後たる第五回口頭弁論期日に始めて提出せられたこと、証人小川竜三(第二回)の証言によるとこれら甲号各証は右国税局の調査にあたつて遂に提出せられなかつたこと等よりして原告の弁疎は極めて苦しく、しかも真実と認めることは甚だしく困難であり、これらの諸点を斟酌するときは名古屋国税局の認定従つて半田税務署の前記査定を妥当とせざるを得なく、甲第一乃至第五号証の各記載は右認定に供した各証拠に対比して原告の主張を支うる資料となし難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。而して被告の行政事件訴訟法第十条第二項、第三十三条に依拠する請求の趣旨(一)、(二)に関する所説は理由があり、右認定の如く請求の趣旨(三)に関する原告の主張事実も理由がないので原告の請求はすべて失当としてこれを棄却し、民事訴訟法第八十九条により主文のように判決する。
(判事 小沢三朗)