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名古屋地方裁判所 昭和41年(ワ)3251号 判決 1967年12月22日

原告 総評全国一般名古屋ダイハツ労働組合

被告 全金同盟愛知金属名古屋ダイハツ労働組合

主文

被告は原告に対し、金四六四、一二六円およびこれに対する昭和四〇年一二月一日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金銭を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

「一、原告は、昭和三七年五月訴外名古屋ダイハツ株式会社(以下訴外会社と称する。)の従業員二三〇名をもつて結成された労働組合であり、被告は、昭和四〇年一一月二六日に原告組合を脱退した訴外会社従業員により、同日新たに結成された労働組合であるが、その実体は、いずれも所謂権利能力なき社団である。

二、ところで前項掲記の脱退の際、偶々原告組合の会計係が右脱退者の一員であつたところから、同係は被告組合の結成と同時に原告の組合財産である現金四六四、一二六円(以下本件金銭と称す。)を被告組合の占有に移し、爾来被告組合代表者執行委員長加藤円は、右金銭が原告組合の財産である事情を知りながら、同金銭を被告の組合財産として独占保管し、原告組合に同額の損害を与えた。

三、よつて原告は被告に対し、右四六四、一二六円の損害賠償金およびこれに対する右損害発生の日の後である昭和四〇年一二月一日から右支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「原告主張の請求原因事実中、訴外会社の従業員二三〇名が昭和三七年五月総評全国一般名古屋ダイハツ労働組合(以下旧組合と称す)を結成したこと、訴外会社従業員等が昭和四〇年一一月二六日新たに被告労働組合を結成したこと原告、被告両組合共にその実体は所謂権利能力なき社団であること本件金銭が昭和四〇年一一月二六日まで旧組合の組合財産であつたこと、被告が同日以降同金銭を被告組合の財産として保管していることは認めるが、その余の事実はすべて否認すると述べ、抗弁として次のとおり述べた。

「一、旧組合は昭和四〇年一一月二六日に開催された臨時組合大会において、組合解散の決議が可決されて、解散し消滅した。

即ち(1) 同組合の規約第三二条によれば、解散の議事の採決は組合大会で組合員の直接無記名投票による三分の二以上の賛成を要するものと規定されているが、右に規定された解散決議の方法は、決議の議決機関である組合の大会が、民主的に運営される通常の場合に妥当する方法であつて、一部の者の暴力により議決の妨害が行われ、規約に従つた議事の採決が不可能な事情の下にあつては、挙手等の一般の会議の議決方法により組合員の三分の二以上の賛成決議があれば、解散の決議の方法を変更し、他の合理的な一般の会議における議決方法(挙手や起立等)によつて解散の決議を為し得るものと解すべきであり、又右のような特別の事情の下にあつては、一般の会議の原則に従い、大会議長において議決方法の変更を議場にはかる権限があるものと解すべきである。

(2) ところで昭和四〇年一一月二六日には旧組合員二五三名の出席のもとに、臨時組合大会が開催され、旧組合執行委員長加藤円より、組合解散の動議が提出され、右規約第三二条の方法に従い組合員の直接無記名投票による解散決議の採決が行われようとしたが、その際少数の解散反対者が投票用紙を奪いこれを破棄する等して運営委員による投票用紙の配布を妨害したため、結局無記名投票による解散の決議が不可能の状態となつた。そこで大会議長の判断により、非常措置として、起立による採決を議場にはかつたところ、圧倒的多数(出席組合員の三分の二以上)の賛成で右決議方法の採用が可決された。次いで議長は解散を可とするものの起立を求めたところ、旧組合員総数三三二名中同大会出席者二五三名全員及び委任状による賛成者一九名総計二七二名の賛成を得るに至つた。

(3) 従つて右臨時組合大会においては、民主的に解散決議が成立し、旧組合は消滅した。

原告組合は、右解散後解散に反対した少数の旧組合員三六名によつて新たに結成された労働組合であり、原告組合と旧組合との間に同一性はないから、結局本件金銭は原告組合に帰属する財産といえないので、原告の本訴請求は失当である。

二、仮に前項の解散決議が無効であつて、旧組合は解散により消滅していないとしても、

(1) 被告組合は昭和四〇年一一月二六日旧組合の財産(本件金銭)を保管するにあたり、原告に代つて旧組合の負債金一〇、五八〇円を弁済した。よつて原告は被告の出捐により、一〇、五八〇円の債務の支払を免れたわけであるから、仮に被告において原告に対し不法行為責任を負うとしても、その損害の額は本件金銭から右負債金一〇、五八〇円に相当する額を差し引いた残額四五三、五四六円の限度にとどまる。

(2) また、旧組合は昭和四〇年一一月二六日当時、その内部において、同組合の上部団体であつた総評全国一般労働組合(以下総評と称する)からの離脱の問題、旧組合の運営方針闘争方針等をめぐり、互に妥協の不可能な対立を生じ、組合大会においても、これらの問題を民主的に議決することができず、結局旧組合は総評派と反総評派に分断された状態で、組合としての存立ないし運営が不可能な実状にあつた。

そして前項の解散決議の直後、旧組合員三三二名中二二四名が思想その他の面で旧組合とは異つた性格を有する被告組合を新たに設立し、旧組合は被告組合と被告組合の結成に反対した総評系組合員等(三六名)による原告組合との二つの組合に分裂した。

右分裂により、旧組合の財産は、原告、被告両組合員等の旧組合に対する出資額の合計割合に応じ、夫々両組合に帰属すべきものであるところ、現在旧組合の組合員で原告組合に属する者は二六名、被告組合に属する者は二五五名であり、しかも旧組合における組合員各自の出資額は均等であつたから、被告組合に属すべき金額は、本件金銭のうち前記(1)の負債金一〇、五八〇円を差引いた残額四五三、五四六円の二八一分の二五五に相当する四一一、五八一円である。

よつて被告は同金銭を被告組合の財産として保管する正当な権利を有するわけだから、すくなくともその部分については原告組合の財産を侵害したものといえず、原告の本訴請求はその限度において理由がない。」

原告訴訟代理人は被告の抗弁に対する答弁として「抗弁の一の事実中、旧組合の規約第三二条に組合の解散決議の要件として、組合大会において組合員の直接無記名投票による三分の二以上の賛成が必要である旨規定していること、昭和四〇年一一月二六日に臨時組合大会と称し旧組合員多数が集合したこと、その際議案の採決が起立による方法で行われたことは認めるが、その余の事実は否認する。同大会で決議された議案の内容は、旧組合の解散ではなく、同組合のダイハツ系連絡協議会加盟の可否である。仮に、それが解散決議であつたとしても、同組合規約第三二条の解散決議の要件に違背し起立による方法で為されたものであるから無効である。更に右起立による採決においても、大会議長は賛成者の人数を確認していないので、それが組合員総数の三分の二以上に及ぶものか不明である。抗弁の二の(1)の事実は否認する。抗弁の二の(2)の事実中、被告主張の解散決議の直後旧組合員の一部の者等によつて被告組合が結成されたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告組合は旧組合との間に社団としての同一性を維持しているから、旧組合の分裂はあり得ない。旧組合の組合員で現在原告組合に属する者の人数は三六名である。」と述べ、抗弁の一に対する再抗弁として、旧組合の組合規約第七条によれば、臨時組合大会の開催には、組合執行委員会の要求又は組合員の三分の一以上の大会開催請求が必要である旨規定されているにも拘らず、被告の主張する臨時組合大会はそのいずれの要件をも充たしていない上に、当日の朝になつて執行委員長名で突如として開催の告示が為されたものであり、大会付議事項も明らかにしていない等大会開催手続に違法があるから、臨時組合大会としては適法に成立していないものというべく、右大会は単なる組合員の集合にすぎないことになり、組合解散決議は存在しない。」と述べ、被告訴訟代理人は、「再抗弁事実を否認する。」と述べた。

(証拠省略)

理由

一、訴外会社の従業員二三〇名が、昭和三七年五月旧組合を結成したこと訴外会社従業員の多数の者が、昭和四〇年一一月二六日新たに被告労働組合を結成したこと原告、被告両組合共にその実体は権利能力なき社団であること本件金銭が昭和四〇年一一月二六日まで旧組合の組合財産であつたこと被告が同日以降本件金銭を被告組合の財産として保管していることについては当事者間に争いがない。

証人伊藤進の証言によつて成立を認められる乙第一号証、証人川口代志雄、同伊藤進の各証言および被告組合代表者尋問の結果を綜合すれば、次の事実が認められる。すなわち、旧組合の組合員二二四名は、昭和四〇年一一月二六日の臨時組合大会で解散の決議が可決され旧組合は消滅したと主張し、同日引続き被告労働組合を結成し、旧組合執行委員長加藤円を新組合の執行委員長に選任した。その際、旧組合の会計係が被告組合に加入した一員であり、被告組合の結成に参加した人員が解散に反対した人員に比し圧倒的に多数であつた事情等もあつて、旧組合の財産(本件金銭)は被告組合の財産として、被告組合代表者執行委員長加藤円が保管するに至つた。他方右解散決議の成立に反対した旧組合員約四〇名は、組合の執行委員長を新たに補充したのみで、他の組合役員及び組合規約並びに組合の名称につき何等変更を加えることなく、原告組合(即ち旧組合)として現在に至つた。以上のように認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二、そこでまず被告の抗弁一について判断する。

旧組合の規約第三二条に、被告主張の如き解散決議の要件が規定されていること、昭和四〇年一一月二六日臨時組合大会と称し旧組合員多数が集合したこと、その際議案の採決が起立による方法で行われたことについては当事者間に争いがない。

証人伊藤進の証言によつて成立を認められる乙第一号証、証人川口代志雄、同伊藤進の各証言(但し証人川口代志雄の証言については後記信用しない部分を除く)、被告組合代表者尋問の結果を綜合すれば、次の事実が認められる。すなわち、旧組合執行委員長加藤円は、昭和四〇年一一月二六日、予め組合員に通知せず、自己の独断で臨時組合大会を招集し、その結果同日午後六時から旧組合員二五三名が出席して、ダイハツ工業営業所三階会議室において、臨時組合大会が開催された。同大会席上、加藤は、旧組合従来の上部団体たる総評の傘下を離れ、新たにダイハツ系連絡協議会に加盟する問題を説明すると共に、右加盟の前提として、旧組合の解散を緊急動議として提案した。これに対し、一、二の者が反対の趣旨の発言を行つたが、議長はその反対発言を時間的に制限した上、直ちに旧組合規約第三二条に従つて解散の議事の採決に移行しようとした。そのため、解散に反対の総評系組合員等がそのような議事の進行は一方的だと反撥し、自席を立つて議長席に詰め寄り、議長を難詰する等したので議場が騒然となつた。議長はこれを無視し大会運営委員を促し、無記名投票のための投票用紙の配布を強行しようとした。反対派の一部の者は運営委員により投票用紙が配布されるのを阻止しようとして、運営委員ともみ合つて投票用紙を奪い破棄する等したため、その用紙の配布が困難になつた。そこで議長は採決の方法を変更して、起立の方法により解散の決議を採決する当否を議場にはかつたところ、これに賛成する八割ほどの者が挙手した。議長は賛成多数と認め、直ちに、解散に賛成の者に起立を命じたところ、これに応じて多数の者が起立した。証人川口代志雄の証言中には、右認定に反する部分があるけれども、これは前記乙第一号証、右証人伊藤進の証言、被告組合代表者尋問の結果に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで労働組合における組合規約は、組合の自主法規として、組合および組合員を拘束する効力を有するわけだから、組合規約において、組合大会の決議方法を定めている場合この方法に違反する決議は、原則として無効と解するのが相当である。

前記の事実に徴すれば、本件の解散決議が組合規約第三二条の直接無記名投票によるとの規定に違反し、起立による採決で行われたことは明らかであるが、直接無記名投票が投票者の附和雷同を排しその真意を表明することの妨げとならないためにとられる採決方法であり、起立による方法が右のような直接無記名投票の長所とするところを欠き、これに準ずる採決方法といえないことは明かである。そうすると、解散決議が、直接無記名投票により為されるか、起立により為されるかは、決議権を行使する者の意思の表明に重大な影響を及ぼすものといえるから、かかる規約違反の決議は、その瑕疵が重大であつて組合員全員の明白な同意がある場合等特段の事情なき限り無効と解するほかない。

被告は、規約第三二条に規定された解散決議の方法は、議決機関である組合の大会が、民主的に運営される通常の場合に妥当する方法であつて、本件のように一部の者が暴力によつて議決を妨害し、規約に従つた議事の採決が不可能な場合には、直接無記名投票によらなくても、組合員の三分の二以上の賛成があれば、起立等その他一般の会議における議決方法によつて解散の議事の採決を為し得る旨主張する。しかし、前記認定の事実に照らせば、旧組合の臨時組合大会で、解散反対派に属する一、二の者が運営委員による投票用紙の配布を妨げた事実は明らかであるが、大会前大会運営委員が、予め各組合員に投票用紙を配布しておくとか、あるいは投票用紙を再度配布し直した上で新ためて採決を行う等規約に従つて採決を行うための合理的な手段に訴えることができなかつた事情についての認めるべきもののない本件の場合、規約に従つた議事の採決が不可能な状態にあつたものとは断定できないのみならず、解散の決議は組合員全員の地位に変動を生ずる重大事項であるから、その決議の方法が規約に規定されている場合に、これに反する例外を安易に認めるべきではないのであつて、被告の右主張は前記の特段の事情に相当しないものとみるべきである。

そうだとすると、起立による方法の当否につき組合員の一部の者が反対したことは前認定のとおりであり、その他組合規約違反を正当化するに足りる特段の事情について他に主張立証のない本件において、右規約違反の決議は前記原則に従い無効といわざるを得ない。

すなわち、旧組合は解散により消滅しておらず、旧組合と原告組合は同一性を喪つていないことになり、被告の抗弁の一はその理由がない。

三、次に被告の抗弁の二の(1)について判断する。

まず被告組合代表者尋問の結果によれば、被告が本件金銭を保管するにあたり、原告に代つて旧組合の負債金一〇、五八〇円を第三者に支払つたため、原告が同額の債務の支払を免れた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

被告は不法行為の責任額につき損益相殺を主張しているが、損益相殺にいう請求権者の利益とは、当該不法行為によつて直接生じた利益を意味するものと解すべきところ、本件において被告の主張する原告の利益とは、被告が負債金を弁済したことによつて原告が債務の支払を免れたことをいうのであるが、被告の右弁済が本件不法行為とは別個の行為であることは明らかであり、従つて原告の利益も、被告の不法行為自体によつて原告が直接それを得たわけではないから、被告が原告に対して本訴とは別途に右弁済金を求償するのは格別、本訴において、不法行為により生じた損害を、右のような別途に得た利益をもつて損益相殺することはできないものといわざるを得ない。そうだとすれば被告の右抗弁も理由がないことに帰着する。

四、抗弁の二の(2)について判断する。

本件解散決議の直後旧組合員の一部の者によつて被告労働組合が結成されたことについては当事者間に争いがない。

証人伊藤進の証言によつて成立が認められる乙第一号証、同第三号証、証人川口代志雄、同伊藤進の各証言、被告組合代表者尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、旧組合は従来その名称の如く総評の傘下に属しその下部組織として活動して来たが、訴外会社と関連あるダイハツ系労働組合のほとんどすべてが、ダイハツ系連絡協議会に加盟しているところから、年末一時金の要求等訴外会社との種々の折衝に関し、組合を有利に導くためには、総評の傘下を離れ、ダイハツ系連絡協議会に加盟した方が都合がよいという意見が組合内部に生じ、その趣旨に賛同する者は、執行委員長加藤円を中心に、組合員の同意を求め、昭和四〇年一一月二五日前には、ダイハツ系連絡協議会組織化に賛同する旨の組合員約二三〇人の署名を得るに至つた。然し組合内部には、なお右組織変更に反対し、従来の総評傘下の下部組織としての立場を頑強に維持しようとする少数派があり、賛成派としても、右反対派の存在を無視し得ない実状にあつた。昭和四〇年一一月二五日に至り委員長加藤は組合執行委員会を招集し、前記組合員の署名を理由に、臨時組合大会の開催を要請したが、前記両派に属する執行委員よりなる執行委員会は、これに検討を加えた上、右署名の存在を調査することに決したのみで、組合大会の開催を決定するには至らなかつた。そこで加藤は、組合執行委員長の独断で臨時組合大会を開催し、大会席上組織変更問題を説明した上旧組合の解散を緊急動議として提案し即時採決を強行しても充分組合員多数の賛同を得られるものと判断し、反対派の策動を封じ解散の決議を可決させるために、臨時組合大会の議案を予め組合員に告知せず、従つて議案の当否に関し組合員に準備検討の余地を与えることなく、翌二六日の朝、大会の開催を告示し、前記第二項認定のとおりの経過を経て解散動議の採決を強行した。そして右採決の直後に、予て加藤等賛成派と打合せを行い、議場の外で解散決議の可決を待つて待機していたダイハツ系連絡協議会(上部団体)の役員等が議場に入つた。そのため反対派約四〇名は退場したが、引続きその場に残つた旧組合員二二四名は、直ちに新組合結成大会を開催し、右上部団体役員等の挨拶がされてから新組合規約制定に関する説明、提案及び新労働組合の役員の選出が行われ、新組合の執行委員長に右加藤を選任し、被告労働組合を結成すると共にダイハツ系連絡協議会への加盟を果し、新組合の名称を全金同盟愛知金属名古屋ダイハツ労働組合と決定した。

右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、所謂組合分裂とは、一個の労働組合からこれと同一性のない二個の労働組合が発生し、旧組合が消滅することであり、単純な集団脱退と違つて、分裂にあつては、組合の内部における対立抗争により、旧組合の存立ないしは運営が事実上不可能になつた状態において、相当数の組合員により集団的に脱退が行われ、その結果旧組合と残留者の集団の間に社団としての同一性が失われる場合をいうものと解される。

そこで本件についてこれをみるに、前記認定の事実に照らせば、被告組合員等は、昭和四〇年一一月二六日限りで旧組合が解散したものと主張し、同日付で被告組合結成大会を開催し、新役員、新規約、新名称を決定し、被告労働組合を結成して、従来の上部団体たる総評の傘下を離れ新たにダイハツ系連絡協議会に加盟した事実は明らかであるから、被告労働組合の結成に参加した旧組合員二二四名は、右被告労働組合の結成を契機として、旧組合からの脱退を表明したものと解するのが至当である。

しかし、前記認定の事実に徴すれば、昭和四〇年一一月二六日の旧組合臨時大会当時、旧組合内部には、従来の総評傘下の体制を維持しようとする少数派と総評の傘下を離れ新たにダイハツ系連絡協議会に加盟しようとする一派の対立があり、両派相互に意思の疏通を欠いて組合の運営が多少円滑を欠いたであろうことは想像に難くないけれども、右臨時組合大会に至る迄において、両派の対立抗争により組合大会の決定や議事の採決が実行不可能になつた例は見当らず、却つて右臨時大会の前日は両派に属する組合執行委員が夫々出席して執行委員会が開催され、その席上臨時組合大会の招集につき討論をし検討を加えていること前認定のとおりであり、結局本件においては両派の対立抗争により旧組合の存在ないしは運営が事実上不可能な状態にあつたとの事実は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。なるほど前記第二項認定の事実によれば、臨時組合大会において解散に反対する一、二の者が運営委員による投票用紙の配布を妨げたために、大会議長が無記名投票による採決を諦め、起立による採決に及んだ事情は窺われるが、右の事態は、委員長加藤等の多数派が、反対派(少数派)を出し抜くため予告なく臨時組合大会を招集し、抜打ち的に解散の動議を提出し少数派に充分な質疑応答の暇を与えず解散決議の採決を強行しようとしたため少数派の反撥をかい、議事の進行に支障を来たしたものであることも明かである。すなわち、その事態は組合内部における両派の対立抗争に根差して起るべくして起つた事態というよりむしろ、多数派の右のような功を急いだ態度に誘発され偶発的に生じた事態とみられるので、それをもつて直ちにその当時の旧組合の運営ないし存立が不可能な状態にあつたものとみることはできない。

すなわち、被告組合員等の集団脱退は、組合内部の対立抗争により旧組合の存立ないしは運営が事実上不可能な状態においてなされたものとはいえず、従つて、本件の場合所謂法律上の組合分裂があつたとはいえない。そうすると、組合の分裂があつたことを前提とする被告の主張は爾余の点につき判断するまでもなくその理由がないこと明らかであるから、被告の右抗弁もまた採用することができない。

五、以上認定のとおり被告の抗弁はすべて採用し難く、原告の請求は正当と認められるからこれを認容し、訴訟費用の負担に関しては民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言については同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西川正世 元吉麗子 豊永格)

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