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名古屋地方裁判所 昭和41年(行ウ)61号 判決 1974年12月16日

原告 浅井甚助

被告 一宮税務署長

訴訟代理人 遠藤きみ 成瀬章 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  原告が本件係争年(昭和三九年)当時、原告肩書地で酒類・煙草・食料品等の小売業および農業を営むかたわら、不動産の賃貸をしていたところ、昭和三九年分所得税につき原告主張の経緯で本件更正処分がなされたことは当事者間に争いがない。

二、原告は、本件更正処分は不十分な調査、資料に基づいた恣意的なもので自主申告制度の趣旨に反し違法である旨主張するので、以下この点につき考察する。

所得税法はいわゆる申告納税方式を採り、納税義務者が納付すべき税額はその者の申告により確定することを原則とするが、最終的な税額の確定は税務署長に留保され、その更正のないことを条件として当該申告が承認されるにすぎないものであり、税務署長は常に納税義務者がその義務を正しく履行したか否かを調査する職責を有し、申告税額が自己の調査したところと異なる場合には、申告税額に拘束されることなくこれを更正しうるのである。そして、税務署長がいかなる場合にかかる調査をなすべきかは法律に特に定めるところがなく、また、国税通則法二四条等の規定および他の法律によるも、右調査については何らその手続が定められていないから、調査の範囲、程度および手段等については、すべて税務署長等の決するところに委ねられ、従つて各調査と調査によつて得た資料がともに不充分であるとしても、そのこと自体更正処分を違法ならしめるものではないと解すべく、右事由により更正された所得金額ないし税額を不当とする場合には、右不当を理由として更正処分の取消しを求めれば足りるものと考えられる。もつとも、更正処分をなすに当り、税務署長等において、全く調査をなすことを怠つた場合や、その調査方法が明らかに不当と思われる場合には、当該更正はこれをなしうべき前提要件を欠くことになり、違法となると解すべき余地がある。

ところで<証拠省略>によれば、原告が昭和四〇年三月被告に提出した同三九年分所得税の確定申告書(白色申告)には、事業税控除・所得金額の記載があるのみでその他売上金額・必要経費の記載がなく、前年より所得金額が下回つていたため、一宮税務署職員鷹羽常夫が実地調査の必要があるとして同四〇年七月原告方へ調査のため赴いたこと、同入は原告との面談の結果、納品書・請求書等の売上・仕入に関する原始記録および帳簿類の保存がないため、原告に取扱商品別の売上先・仕入先・仕入金額等について質問をなしさらに同年八月ころ差益率・必要経費等につき質問する一方、仕入先への文書・電話照会によるいわゆる反面調査により仕入金額を把握し、原告申立等による純現金仕入を勘案して年間総仕入金額を算定し、いわゆる差益率により売上金額・所得金額を推計により算出し、被告は右推計をもとに本件更正処分をなしたこと、以上の事実を認めることができるところ、右認定事実によれば、本件更正処分について、被告において、その前提となる調査をしなかつたということはできないし、調査方法が不当であるということもできない。

もつとも、<証拠省略>によれば、被告の本件調査は当初酒類の仕入金額に重点が置かれたが、本件更正処分においては結局、酒類について原告申告額が容認されたことを認めることができるが、このことから直ちに、本件調査方法が不当であるということはできない。

なお、原告は、被告が本件更正処分の調査過程およびその作成資料を明らかにせず、かつ原告らの質問に対しても明確な回答をしないのは違法であり、また、右処分の当初の理由と全く別異の理由で右処分を正当づけるのは違法である旨主張するが前述のように調査の手続につき何ら法定されていないことからすれば、被告が調査過程・作成資料を明らかにしないこと、原告らの質問に明確な回答をしないこと等が更正処分を違法ならしめることは考えられないし、また、更正処分において考慮されなかつた事由を同処分を正当づける理由として訴訟等の過程に至つて新たに主張することが制限されるべき理由はないと考えられるから原告の右主張も失当である。

三、原告において所得計算の基礎となる営業取引等についての帳簿書類等を保存し備付けていなかつたことは格別原告も争わないところであり、<証拠省略>によれば、調査担当者の仕入.売上金額、仕入、売上先等営業取引についての質問に対し、原告は収支計算が可能な程度に具体的な説明・回答をしなかつたことを認めることができる。以上の事実によれば、被告においては本件係争年分の仕入金額・売上金額・営業所得金額の実額を把握し計算することはできない状況にあつたものといわざるをえない。従つて、被告が原告の右金額を推計により算定したことは許容すべきである。

四  そこで被告のなした推計について検討するに、被告主張の売上原価・売買差益率をもとに売上金額を算定するいわる比率法は、右売上原価および売買差益率算出の基礎となる数額が正確であれば合理的な推計方法というべきである。

ところで原告は、右売上原価即ち仕入金額の一部を推計により算出することを指し推計の基礎となる事実の推計であつて所得税法一五六条の規定の趣旨から逸脱する旨主張するが、前記比率法は同条の是認する推計方法であり、また、同条が格別推計の方法について何等かの限定をするものとも解せられないから、右推計は同条の趣旨に反するとはいえない。

五、さて別(二)売上金額計算表中、菓子類・酒類・食塩・煙草の各品種の売上金額については当事者間に争いがない。そこで、以下、争いのある食料品類・食肉類・燃料・雑貨・鶏卵の売上原価・売買差益率・売上金額について順次検討する。

1  燃料(プロパンガス)・雑貨の各売上原価については当事者間に争いがない(別表(三)売上原価表(七)燃料・(八)雑貨欄参照。)。

2  食料品類

別表(三)売上原価表(三)食料品類中、青果物のうち「その他」の部分、水産加工品のうち「その他」の部分、および、砂糖・粉外を除くその余の各品目の売上原価については当事者間に争いがない。

(一)  青果物・水産加工品

原告が訴外一宮青果株式会社より本件係争年である昭和三九年九月三日から同月一一月二八日までの間に青果物二九七、三七七円を、同一宮水産市場株式会社より同年八月二六日から同年一二月三一日までの間に水産加工品九四七、三九三円をそれぞれ仕入れていることは当事者に争いがない。

ところで被告は右各仕入金額に基づき青果物につき前記係争年九月三日から同年一一月二八日までの間の仕入金額二九七、三七七円を一月当りに換算し(297,377円×(80日/86日)-103,736÷100,000円)、右一月当り仕入金額一〇〇、〇〇〇円を係争年一月ないし八月および一二月の各月の青果物仕入金額として右合計九〇〇、〇〇〇円(100,000円×9ヶ月)と右二九七、三七七円を加算して年間一、一九七、三七七円の仕入金額とし、また、水産加工品につき前記係争年八月二六日から同年一二月三一日までの間の仕入金額九四七、三九三円を一月当りに換算し(947,398円×(30日/127日)-223,798円÷220,000円)右一月当り仕入金額二二〇、〇〇〇円を係争年一月ないし七月の各月の水産加工品仕入金額として右合計一、五四〇、〇〇〇円(220,000円×7ヶ月)と右九四七、三九三円を加算して年間二、四八七、三九三円の仕入金額として各算出するところ、青果物、水産加工品等日常食料品という性質上需要の季節的変動が少なく、従つて原告方店舗の仕入金額についても各月間さして変動はなく、概ね安定していたものということができるので、格別の変動を生ずべき事由がなければ右推計方法は合理的として首肯することができる。

ところで<証拠省略>を総合すれば、係争年中原告経営の店舗「タツミヤ」が在する一宮市大和町毛受(以下、毛受地区と称する。)には、原告と競業関係に立つ日常食料品販売業者は同年九月五日開店の「アサヒヤ」(訴外浅井勇美経営)以外になく(なお、毛受区近在の同業者「尾西セルフサービスセンター」は前年七月ころの開店、同地区所在の同業者訴外丹羽国雄経営「八百国」は翌年二月ころの開店である。)、従つて同地区住民は通常、青果物・水産加工品等の日常食料品について主として原告店舗を利用していたことを認めることができる。右認定に反する<証拠省略>は措信できない。

また、<証拠省略>によれば、豆腐・鮮魚等日常食品の行商が同地区で引売りを行ない、若干の住民で右行商から購入するものがあつたことを認めることができるが、右引売りの存在が原告方仕入に格別変動を及ぼす程度に影響力があることを認めさせるにたりる適切な証拠はない。

ところで、原告は、前記訴外一宮青果株式会社から仕入れる以前の青果物仕入は訴外宮崎善市から一ケ月約一〇、〇〇〇円、同じく同一宮水産市場株式会社から仕入れる以前の水産加工品仕入は訴外有限会社三井商店から一ヶ月約一五、〇〇〇円ないし二〇、〇〇〇円のみであり、右訴外各会社から大量に仕入れるようになつたのは、近在の「尾西セルフサービスセンター」に対抗する必要があつたためである旨主張するところ、<証拠省略>によれば原告が右三井商店、宮崎善市らより相当程度青果物・水産加工品の仕入があつたことを認めることができるが、その仕入金額が原告主張のとおりであることを認めさせるに足りる証拠として、<証拠省略>は不十分であり、その他適確な証拠はない。また<証拠省略>に基づき毛受地区住民の係争年中の青果物の購入額を試算すると別表(五)購入額試算表のとおり四、三六〇、四〇〇円であり一ケ月当り三六三、三六六円、水産加工品については八、三一八、二〇〇円で一ヶ月当り六九三、一八三円となるが、前記認定によれば同地区住民は主として原告の店舗を利用していたことは先に認定したところであるから、原告の係争年中の各仕入金額は右各試算購入額に見合う程度の額であると考えられるところ、原告の前記各主張額は右各試算額に比し著しく少額であつて不自然であり、さらに、原告主張の「尾西セルフサービスセンター」の開店は、前記認定のとおり係争年の前年である昭和三八年七月ころであるから、右センターが出現したことが一年余後の係争年九月の大量仕入の原因になつたことは通常考えられないところである。さらに、原告の主張仕入金額は当事者間争いない前記仕入金額の月平均額に比し、仕入金額が約一〇倍(青果物)、約一二倍(水生加工品)増加したことになるところ、本件係争年中原告方店舗の改造または設備の増強を行なつたことはなく、原告方の業務用大型冷蔵庫が継続利用されていたことは当事者間に格別争いがなく、<証拠省略>によれば、営業のための自動車二台、従事人員三人についても係争年中変化がなかつたことを認めることができ、以上の各事実から考えると、原告主張の一〇倍ならびに一二倍もの仕入金額増加は極めて異常かつ不自然である。この点につき、原告は右仕入増加分を自動車による出張販売により販売した旨主張するが、ガソリンの係争年間消費量が一一月を除きほとんど一定していることは原告の自認するところであり、右のごとく一〇倍ならびに一二倍もの量の青果物・水産加工品を販売するためには、いかに近距離を仕入・配達の途中に巡回したとしても、自動車の走行距離・ガソリン消費量に特段の変化がないことは通常考えられないこと等から、原告の主張は是認し難い。

(二)  砂糖・粉外

<証拠省略>によれば、原告は係争年において訴外米良商店から砂糖・小豆・小麦等を一ヶ月二、三回、一回につき五、〇〇〇円ないし一〇、〇〇〇円仕入れていたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

従つて、被告が右事実を基に平均仕入回数月二・五回、平均仕入金額一回当り七、五〇〇円として係争年の仕入金額を二二五、〇〇〇円(2.5回×7,500×12ヶ月)と計算したのは正当である。

2  食肉類(鶏肉)・鶏卵

別表(三)売上原価表(四)食肉類中、「三楽」の部分の売上原価については当事者間に争いがない。

原告が訴外合資会社櫛田養鶏場より昭和四一年中に相当量の鶏肉・鶏卵を仕入れたことは当事者間に争いがない。

被告は、原告は係争年においても鶏肉・鶏卵を商品として取扱つていたとして、昭和四一年の仕入金額、さらに、これを基に係争年の仕入金額を各推計しているので、以下、かかる推計の合理性を考察する。

<証拠省略>によれば、係争年当時原告が鶏肉を顧客に相当程度販売していたことを認めることができる。たまに鶏を譲り受けて自宅で処理し試みに売つた程度(同年六羽程度)であるとする証人浅井三次、原告本人尋問の結果は前掲証拠に照らし措信できない。従つて、原告が係争年において鶏肉を商品として取り扱つていたとする被告主張は是認できる。

次に、<証拠省略>によれば、原告の訴外合資会社櫛田養鶏場からの昭和四一年三月および一一月の鶏肉・鶏卵の仕入については、一日の仕入金額が二、七〇〇円ないし二、八〇〇円以下の場合は鶏肉で、それ以上の場合は鶏卵一五キログラムと鶏肉であること、鶏卵一五キログラムの当時の相場は一五キログラム当り二七、〇〇円ないし、二、八〇〇円であることを認めることができるから、右事実に基づき右各月中の仕入日毎に鶏卵の仕入金額を区分して算出すると、別表(七)一中の一覧表のとおりとなり、右二ケ月の仕入金額は鶏肉八四、一九五円、一ケ月当り仕入金額は四二、〇〇〇円、鶏卵六四、四〇〇円、一ケ月当り仕入金額は三二、〇〇〇円である。同年の右二ケ月以外の月の仕入金額については被告において把握できなかつたが、前記一ケ月当り仕入金額をもつて右各月の仕入金額とすることに格別争いがないから、結局同年の年間仕入金額は鶏肉五〇四、〇〇〇円、鶏卵三八四、〇〇〇円と算定される。

被告は、昭和四一年中の鶏肉・鶏卵仕入金額に、係争年(昭和三九年)に対する同四一年の卸売物価の上昇率、毛受地区人口の増加率、同地区住民の鶏肉・鶏卵摂取量の一人当り増加率を算出して加味することにより原告の係争中の鶏肉・鶏卵仕入金額を推計するが、かかる推計方法は他により適切合理的な方法を見出すことができず、かつ明らかに相反する資料のうかがえない本件においては、基礎となる数値が適正である限り、やむをえない合理的な方法として是認すべきである。

鶏肉・鶏卵の卸売物価の上昇率につき、<証拠省略>によれば、名古屋市の係争年および昭和四一年の畜産食品の卸売物価指数は係争年一一四・〇、昭和四一年二二四・九であり、係争年に対する昭和四一年の上昇率は〇・一五((134.9-114.0/134.9)÷0.15)と算定されるが、一宮市内の鶏肉・鶏卵の卸売物価の統計数値が不明であり、名古屋市は一宮市に近接しているところから、右上昇率〇・一五をもつて一宮市の卸売物価上昇率とみなすことができる。毛受地区人口の増加率につき、<証拠省略>によれば、一宮市大和町の係争年一月の入口は一七、四〇三人、昭和四一の人口は一八、九八四人であり、係争年に対する昭和四一年の増加率は〇・〇八((18,984-17,403/18,984)÷0.08)と算定されるが・同町毛受地区の人口の統計数値が不明であり、同地区は同町の一部であつて、両者の増加率は近似するものと考えられるから、右増加率〇・〇八をもつて毛受地区の人口増加率とみなすことができる。

毛受地区住民一人当りの鶏肉・鶏卵の購入摂取量につき<証拠省略>によれば、愛知県農家の鶏肉・鶏卵の一入当り購入摂取量は別表(七)四の一覧表・鶏鳥肉鶏卵欄記載のとおり、係争年鶏肉五三七グラム、鶏肉三四・九個、昭和四一年鶏肉八五五グラム、鶏卵五六・七個であり、係争年に対する昭和四一年の増加率は鶏肉〇・三七((855-537/855)=0.37)鶏卵〇・三八((56.7-34.9/56.7)=0.38)と算定されるが、一宮市および毛受地区の住民一人当りの鶏肉鶏卵購入摂取量の統計数値が不明であり、同地区が農家中心の地域である(格別当事者間に争いがないところである。)ところから、右増加率〇・三七をもつて毛受地区住民の一人当り鶏肉鶏卵購入摂取量の増加率とみなすことができる。

従つて、被告が鶏肉について、前記昭和四一年中の仕入金額五〇四、〇〇〇円に右卸売物価上昇率〇・一五、右入口増加率〇・〇八、右鶏肉摂取量増加率〇・三七をそれぞれ加味して、原告の係争年の鶏肉仕入金額を二四八、〇〇〇円(504,000円×(1-0.15)×(1-0.08)×(1-0.37)÷248,000円)と推計計算し、鶏卵の仕入金額について同様一八六、〇〇〇円(384,000円×(1-0.15)×(1-0.08)×(1-0.38)÷186,000円)と推計計算したのは合理的である。

ところで、<証拠省略>は、原告は近所で係争年当時養鶏業を営み鶏卵を販売していた訴外浅井悦若から、鶏卵を一回につき、七、八キログラム(バケツ一杯)、金額にして、一、〇〇〇円ないし一、三〇〇円で、週二回くらい購入していたと証言するが、右証言は適確な資料に基づいたものではなく不明確であり、<証拠省略>は原告方店舗の近隣者、<証拠省略>は原告の実弟であることをも考慮すると、右証言はにわかに措信でない。

4  なお、前記青果物・水産加工品・砂糖粉外・鶏肉・鶏卵の各品目の係争年期首・期末の原告の在庫が概ね同額であることについては格別当事者間に争いがないから、前記認定の右各品目の仕入金額がそれぞれ右各品目の売上原価である。

六  売買差益率

鶏卵の売買差益率については当事者間に争いがない。

<証拠省略>によれば、被告は食料品類・食肉類・雑貨について売買差益率を算定するに当り、係争年当時原告の住所地を管轄する一宮税務署管内には原告と同規模の同業者(総合食料品等小売業者)で青色申告をしている者がいなかつたため、右各種品別にそれぞれ管内の個人の青果物販売業者、食肉販売業者、雑貨(荒物)商で青色申告を行なつている者全員(それぞれ一五名、三名および四名)の中から、係争年分の青色申告決算書のある者を抽出し(食料品類については第一次選定)、食料品類については、右一五名のうち原告と同規模の者を選ぶに当り、従事人員二名ないし三名の者一二名を抽出し(第二次選定)、さらに、タバコの兼業販売のない者一一名(第三次選定)、一部製造を行なつている(コロツケ、てんぷらを作つて売る)ため通常の差益率よりも高いと認められる者を除いた者一〇名(第四次選定)を各抽出し(別表(六)類似業者の選定経過および選定者の事業規模明細表(3)食料品類参照。)、右一〇名の売買差益率を計算して各差益率を単純平均した二三・二〇パーセントをもつて原告の食料晶類の差益率としたこと、食肉類については、前記三名のうち従事人員が四名以上で卸売が相当の比重を占めるものを除いた者一名を抽出し(第一次選定、同表(4)食肉類参照。)、右の者の売買差益率二八・四八パーセントをもつて原告の食肉類の差益率としたこと、雑貨については、前記四名のうち一部製造を行なつているため通常の差益率よりも高いと認められる者を除いた者三名を抽出し(第一次選定、同表(5)雑貨参照。)、右三名の売買差益率を計算して各差益率を単純平均した三二・七五パーセントをもつて原告の雑貨の差益率としたこと、被告が前記青果物販売業者の差益率を水産加工品・砂糖等の各品目についても妥当するとしたのは、前記管内に水産加工品、乾物を専門的に販売している業者がなく、また、経験則上右各品目の差益率と青果物のそれとほぼ近似すると認められたからであることをそれぞれ認めることができる。

ところで原告方店舗の従事人員は四名であり、その取扱商晶の種類・量・店舗の構造等からいつて、総合食料品等小売業であることは格別当事者間に争いがなく、一宮税務署管内には右形態の店舗が一軒も存在しなかつたこと、水産加工品・乾物を専門的に販売する業者がなかつたことは前記認定のとおりであるから、食料品類につき青果物販売業者、食肉類につき食肉販売業者、雑貨につき雑貨(荒物)商の管内において個人の青色申告者・青色申告決算書のある者全員を抽出し、さらに、従事人員二名ないし三名の者、タバコ兼業販売のない者、一部製造を行なつていない者、卸売が相当の比重を占めるものを除いた者(食肉類)を各選定抽出したことは、できる限り、管内の原告の営業規模に類する選定抽出した点で合理性があると認めることができる。

そして一般に青色申告者は業務に関する帳簿書類を備付け事業所得に関する取引を正確に記帳するものであるから、前記各選定基準により抽出された食料品類につき一〇名、食肉類につき一名、雑貨につき三名の青色申告者の各収入金額・売上原価(差益金額)は正確に算出されたものというべく、従つて、右各青色申告者の売買差益率を計算し、右一〇名および三名の売買差益率を単純平均して算定した各平均売買差益率および前記一名の売買差益率をそれぞれ適用することは他により適切合理的な推計方法がなく、また、明らかに相反する資料の見出しえない本件においては、別段合理性を欠くものとはいえないところである。

なお、被告が青果物販売業者の売買差益率を水産加工品・乾物・砂糖等の各品目についても妥当するものとして、右差益率をもつて食料品類の売買差益率とした点については、前記認定のとおり管内には水産加工品・乾物を専門に販売している業者がないことからすればやむをえないものというべきである。従つて、食料品類については二三・二〇パーセント(別表(四)売買差益率算定表(3)食料品類欄参照。)、食肉類については二八・四八パーセント(同表(4)食肉類欄参照。)雑貨については三二・七五パーセント(同表(5)雑貨欄参照。)がそれぞれ原告方店舗に適用することができる売買差益率であるということができる。

原告は、食料品類の差益率二三・二〇パーセントにつき、前記一〇名中には右差益率以下の者、二〇パーセント前後の者が多いこと、雑貨類につき、前記三名中の業者間の差益率の開きが三倍もあることをそれぞれ把えて被告主張の各平均差益率は不合理である旨主張するが、前記認定のとおり前記各選定基準による選定抽出が合理的であり、単純平均による計算方法も経験則上妥当なものとして是認できるとする以上、右主張のごとき事態は当然生じうるものであつて、これをもつて、被告主張の各平均売買差益率を不合理とすることはできない。

また、原告は原告の長年の経験、日常の販売状況等によれば食料品類・食肉類の売買差益率は二〇パーセント、雑貨のそれは一五パーセントをそれぞれこえるものではないと主張し、原告本人尋問の結果によれば、右主張に沿う部分があるが、右主張は原告の経験上の推測に基づくのみで、明確な資料に基づいたものではないから、未だ被告主張の各平均売買差益率を不合理とするにたりない。

燃料(プロパンガス)の売買差益率について、まず被告は、原告の仕入先訴外東海液化ガス株式会社の一般消費者向け小売価格キログラム当り平均七五円および愛知県プロパンガス協会尾張西支部一宮分会の協定販売価格同七五円を以て原告の係争年販売価格とするが、<証拠省略>によれば、右協定価格は昭和三七、八年ころ一〇キログラム当り八〇〇円、その後は同七〇〇円であつたことを認めることができるところ、右事実からは直ちに同価格が係争年においてキログラム当り平均七五円であるとはいえないし、<証拠省略>によれば、原告は得意先である訴外真の清隆に対し同年一一月一九日、二七日、一二月一七日、三一日の四回にわたりプロパンガスを一〇キログラム当り六〇〇円で販売したこと、農業協同組合が当時一〇キログラム当り五五〇円で売つていた関係上、原告においてもある程度協定価格より低い価格で売らざるをえない状況にあつたことを認めることができるから、原告の販売価格をキログラム当り平均七五円とする被告主張は是認できない。却つて右認定事実からすれば、原告の販売価格はキログラム当り六〇円であると認めるのが相当である。そして、仕入価格が係争年当時同四五円であることは当事者間に争いがないから、右仕入・販売価格を基礎に、売買差益率を計算すると、三三・三三パーセントとなる。

従つて、原告の燃料(プロパンガス)の売買差益率は被告主張の六六・六七パーセントではなくて、三三・三三パーセントであるということができる。

七  売上金額

売上原価に売買差益率を乗じて売買差益金額を算定し、これに売上原価を加算すると売上金額となる。

前記五中の売上原価、六売買差益率においてそれぞれ認定した各品種の売上原価・売買差益率により売上金額を計算すると、別表(二)売上金額計算表のとおりである(但し、菓子類・酒類・食塩・煙草の各品種の売上金額については当事者間に争いがない。)。

同表によれば、売上金額合計は一六、二三一、八八八円である。

八  必要経費

1  売上原価

別表(二)売上金額計算表中、売上原価欄記載のとおりである。同欄によれば、売上原価合計は一三、六四六、九四一円である。

2  その他の必要経費

その他の必要経費の合計は五〇八、七八六円(別表口その他の必要経費表参照。)であることは当事者間に争いがない。

3  接待交際費

原告は訴外宮崎善市らとの交際費一二〇、〇〇〇円を必要経費であると主張し、<証拠省略>によれば、原告は右金額の大部分を同訴外人との飲食費に、その余を一、二人の友人との交際費や近所の顧客への慶弔金に費消したと供述するが、しかし、原告の主張によれば、原告の同訴外人からの青果物仕入金額が係争年中一四〇、〇〇〇円程度であるにもかかわらず食料品類の売買差益率は前記認定のとおり二三・二〇パーセントであるから、差益金額は約三二、〇〇〇円となるところ、右供述によれば右差益金額を取得するために多額の接待交際費を費消したことになつて不自然であるから、右供述は措信できない。また、友人との交際費、顧客への慶弔金は家事上の費用と明確に区分できる証拠はなく、事業の遂行上必要な費用とは認めえない。従つて、前記接待交際費を必要経費であるとする原告主張は採用できない。

4  借入金利子

原告は必要経費として貸家建築資金の借入金利子五三、九四六円算入すべきことを主張するが<証拠省略>によれば、原告主張の建築資金は原告の弟である訴外訴井三次名義の貸家の建築資金に使用するために借入れられ、右資金に使用されたことを認めることができるから、原告主張の右借入金利子を本件営業所得計算上必要経費とみることはできないというべく、原告の主張は採用できない。

九  従つて、原告の営業所得金額は前記七において認定した売上金額一六、二三一、八八八円から、同八において認定した必要経費一四、一五五、七二七円(売上原価とその他の必要経費とを加算したもの)および当事者間に争いのない専従者控除二五八、九〇〇円を差し引いた一、八一七、二六一円である。

従つて、原告の総所得金額は、右営業所得金額に当事者間に争いのない不動産所得金額一八一、五〇〇円、農業所得金額四九、七四〇円、譲渡所得金額△八〇、〇九〇円(赤字)を加算した一、九六八、四一一円であるから、右金額の範囲内である一、八一七、一九〇円を総所得金額としてなした被告の本件更正処分は適法である。

一〇  よつて、原告の本訴訟請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 鏑木重明 樋口直)

別紙<省略>

別表(七)ないし(二)<省略>

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