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名古屋地方裁判所 昭和42年(モ)1132号 判決 1967年5月12日

申立人 国際観光開発株式会社

右代表者代表取締役 伊藤英男

右代理人弁護士 石川則

被申立人 稲垣幸一

右代理人弁護士 安藤久夫

加藤坂夫

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

事実

一、申立代理人は、「被申立人から申立人に対する名古屋地方裁判所昭和四一年(ヨ)第一四九号不動産競売実行停止仮処分決定を取消す。申立費用は被申立人の負担とする。」との判決を求めその申立の理由として、

(1)  被申立人は、申立人に対して、名古屋地方裁判所昭和四〇年(ケ)第二一五号不動産競売申立事件は不当であると称し、申立の趣旨記載の仮処分決定を得た。

(2)  しかして、申立人は、名古屋地方裁判所昭和四一年(手ワ)第一二七号約束手形金請求事件の判決にもとづき、右仮処分の保証金六五万円ならびにその利息に対し、債権差押および転付命令の申請をなしたところ、同裁判所昭和四一年(ル)第七四八号、同(ヲ)第九〇三号をもって、右保証金等は申立人に転付された。

(3)  そこで、申立人は、右仮処分に対し昭和四一年一〇月二五日担保取消決定を得たので、供託書の還付を受け、名古屋法務局より右供託金等を取戻した。

(4)  よって、被申立人は、右仮処分につき保証金の納付をしていないことになったので、右仮処分決定の取消を求める。

と述べ(た)。

疎明≪省略≫

二、被申立代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、「申立の理由(1)、(2)の事実は認める。同(3)の事実は不知、同(4)の事実は争う。」と述べ、次に、主張として、「(一)被申立人は、申立人主張の仮処分決定に際し、供託金六五万円を右仮処分の担保として供託したものであり、右保証金の返還請求権が何人に差押転付されても、仮処分の担保であることに変りはない。(二)したがって、右保証金返還請求権が差押転付により、たまたま申立人に移転しても、保証金としての性質に変りはないから、申立人が任意に担保取消決定を求めても、右仮処分決定につき事情の変更はない。」と述べ(た)。

≪証拠省略≫

理由

一、被申立人が、申立人を債務者として当裁判所に対し申立人主張の仮処分申請をなし、同裁判所の仮処分決定(以下本件仮処分という)を得たこと、その後、申立人は、当裁判所昭和四一年(手ワ)第一二七号約束手形金請求事件の判決にもとづき、右仮処分の保証金六五万円ならびにその利息に対し、債権差押ならびに転付命令の申請をなし、同裁判所昭和四一年(ル)第七四八号、同(ヲ)第九〇三号をもって、右保証金等が申立人に転付されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、≪証拠省略≫によると、申立人が右仮処分に対し、昭和四一年一〇月二五日に担保取消決定を得て、同年一一月八日供託書の還付を受けたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

二、そこで、以上認定の事実が、申立人主張のごとき事情変更にあたるか否かについて、検討する。

裁判所において決定により保全命令を発する場合、あらかじめ立保証を命ずる決定をなし、これにもとづき現実に保証が立てられたとき、初めて保全処分命令を発する方法が一般にとられ、本件仮処分も、同様にして発せられたこと、記録に徴し明白である。

しかして、一般に、保全処分における保証は、保全処分によって債務者に生ずるであろう損害を担保する性質を有し(民訴法第七四一条二項、第七五六条)、その額は、被保全権利の価額・保全の対象物の価額・疎明の程度・債務者が蒙ることの予想される苦痛の程度、その他諸般の事情を斟酌して決定されている。

ところで、民事訴訟法第七四七条にいわゆる事情の変更とは、通常、保全処分命令が発せられた後、その要件たる被保全権利や保全の必要性を欠くに至った事情をいうが、さきに認定したごとく、保全処分の保証金返還請求権につき転付がなされ、供託書の還付がなされてしまった場合の如きも、右にいう「保全の必要性につき事情の変更」があったと解せられぬことはない。しかしながら、本件は、保全処分の当事者以外の第三者が、保証金返還請求権につき転付を受けた場合と異なり、担保権者である申立人自身が別個の債権の債務名義でもって差押および転付を求め、積極的に自己の担保を放棄する手段をとったためであるから、この点において、本件仮処分につき、担保そのものが不用に帰したものと考えざるを得ない。

してみると、右認定のような事情の下では、いわゆる事情変更には当らないと解するのが相当である。したがって、申立人の右主張は、被申立人の主張の点を判断するまでもなく、理由がない。

よって申立人の本件申立は失当であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口正夫 裁判官 大山貞雄 谷口伸夫)

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