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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)3539号 判決 1970年10月23日

原告

牧野和子

ほか二名

被告

愛電交通株式会社

ほか一名

主文

一、被告らは各自、原告牧野和子に対し金三五万円、同川村敏子に対し金三九万二〇〇〇円及びこれらに対する被告愛電交通株式会社については昭和四三年一一月二〇日から、被告宮地俊雄については昭和四四年九月二八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告牧野和子、同川村敏子のその余の請求及び原告川村の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告ら

「被告らは各自、原告牧野和子に対し金九五万円、同川村敏子に対し金一六一万三〇〇〇円、同川村に対し金一〇万円及びこれらに対する被告愛電交通株式会社については昭和四三年二月二〇日から、被告宮地俊雄については昭和四四年九月二八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告ら

「原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決を求める。

第二、請求原因

一、原告牧野和子(以下原告和子という)、同川村敏子(以下原告敏子という)は左記交通事故により傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四三年五月一七日午後一〇時四〇分頃

(二)  場所 名古屋市東区豊前町三丁目三三番地先交差点

(三)  加害車 (1) 被告宮地運転の普通乗用自動車(以下加害車(1)という)

(2) 訴外伊藤善彦運転の軽四輪貨物自動車(以下加害車(2)という)

(四)  態様 加害車(1)が時速約六〇キロメートルの高速度で南進して来て前記交差点に進入し東進して来た加害車(2)と衝突し、同車を南東に跳ね飛ばし、折から同所を通行中の原告和子、同敏子に同車が衝突した。

(五)  傷害 原告和子

両大腿部挫傷兼右大腿部多創性挫創、逆行性健忘症

原告敏子

後頭部挫創

二、右受傷の結果、原告和子は事故当日より昭和四三年七月一七日まで入院し、同年八月一五日まで勤務先を休んで通院して治療を受け、同月一六日から出勤しながら通院治療を続け傍らマツサージ等により療養に努めているが、現在にいたつても体調思わしくなく、特に右大腿部には手のひら大の傷痕が残るほか左右の足の太さが著しく不均等となつている。

原告敏子は事故当日から昭和四三年六月一七日まで入院し同月一八日から昭和四五年四月一六日まで勤務先を休んで通院して治療を続けたが頭部外傷件後遺症として頭重感、頭痛に悩まされている。

三、被告らは本件事故により、生じた損害を賠償する義務がある。すなわち

(一)  被告会社は自己のために加害車(1)を運行の用に供するものである。

(二)  被告宮地は、制限速度時速三〇キロメートルを超える高速度のまま一時停止、徐行することなく本件交差点に進入した過失により本件事故を惹起したものである。

四、本件事故により原告らの受けた損害は次のとおりである。

(一)  原告和子分

慰藉料 一五〇万円

本件事故の態様、原告和子の傷害、後遺症の内容、年令、その他諸般の事情を斟酌すると右金額が相当というべきである。

(二)  原告敏子分

1 休業損失 四八万三〇〇〇円

原告敏子は勤務先より一カ月二万一〇〇〇円の給料を受給していたところ、本件事故により受傷のため昭和四三年五月一七日より昭和四五年四月一六日まで二三カ月間稼働できず、この間の休業による損害を算出すると頭書の金額となる。

2 休業による賞与減少分 一八万円

3 慰藉料 一五〇万円

本件事故の態様、原告敏子の傷害、後遺症の内容、その他諸般の事情を斟酌すると右金額が相当というべきである。

(三)  原告川村(以下原告という)分

1 入通院中の諸経費 一七万円

原告は原告和子、同敏子の父であるが両原告の入院通院中、牛乳代、治療費、通院交通費、氷代等の諸経費合計一七万二六〇〇円を支出したが、うち一七万円を請求する。

2 弁護士費用

原告は本件訴訟提起を原告ら代理人に依頼し、その着手金として三万円を支払い、成功報酬として別途に一〇万円の支払を約した。

五、原告らは本件事故の損害賠償として被告会社より一〇万円訴外伊藤善彦より九〇万円、自賠責保険より三〇万円の支払を受けたがこれらを原告和子、同敏子の損害に各五五万円、原告の損害に二〇万円充当した。

六、よつて、原告らは被告らに対し残額の申立記載の各金員及びこれらに対する本件事故の日の後である被告会社については昭和四三年一一月二〇日から、被告宮地については昭和四四年九月二八日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

第三、請求原因に対する答弁

一、第一項の事実中、原告ら主張の日時、場所において南進して来た加害車(1)と東進して来た加害車(2)とが衝突して本件交通事故が発生し、原告和子、同敏子が負傷したことは認めるがその余の事実は争う。

二、第二項の事実は争う。

三、第三項の(一)の事実は認めるが、同項(二)の事実は争う。本件事故は後記の通り訴外伊藤善彦の一方的過失によつて発生したものである。

四、第四項の事実は争う。

五、第五項の事実は認める。

第四、抗弁

一、免責の主張(被告会社)

本件事故には左記の各事由が存するから被告会社は賠償の責を免れるものである。すなわち、

(一)  被告会社は運転手に対する指導、監督、運転手の休養施設の完備、自動車の機能、構造の点検、整備に遺漏なき様日頃から全力を尽しており、加害車(1)の運行に関し注意を怠らなかつた。

(二)  本件事故の状況は次のようであつたから、本件事故発生につき被告宮地には全く過失がなく、本件事故は訴外伊藤善彦の一方的過失によつて惹起されたことは明らかである。

すなわち、

本件交差点は共に幅員七・五メートルの東西路、南北路の交差するところであつて、訴外伊藤善彦の走つて来た東西路の本件交差点手前には一時停止の標識がある。被告宮地は南進して来て制限速度等の交通規制を全て遵守した上で本件交差点に進入したところ、訴外伊藤善彦は酒に酔つて東進して来て本件交差点に差しかかり標識を無視し一時停止することなく本件交差点に進入し、南進して来た加害車(1)を発見したにもかかわらずブレーキをかけることなく同車に衝突して来たものである。

(三)  被告会社は自動車の整備、点検につき万全の方策を講じており加害車(1)に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

二、権利濫用の主張(被告両名)

仮に右の免責の抗弁が認められず又被告宮地に何らかの過失ありとしても、原告らは本件事故発生につき大部分の過失がある共同不法行為者の訴外伊藤善彦とは損害賠償額合計九〇万円で簡単に和解しながら、右訴外人に較べれば比較にならない程度の僅少の責任しかない被告らに対しては右訴外人には資力がなく被告会社には資力があるというだけの理由ではすでに二五万円を支払つているにもかかわらず、執拗に高額の賠償を求めることは明らかに信義衡平の原則に反し権利の濫用というべきである。

第五、抗弁に対する答弁

争う。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、事故の発生

原告ら主張の日時、場所において加害車(1)と加害車(2)とが衝突して本件交通事故が発生したことは当事者間に争いないところ、〔証拠略〕によるとその状況は次のように認められる。

本件交差点は東西路と南北路の交差するところで、信号機は設置されておらず東西路の幅員は約七・七メートル、南北路の幅員は約八・二メートルであり、いずれの方向からも左右の見通しは悪く、東西路の交差点手前には一時停止の標識が設置されており、南北路には速度制限時速三〇キロメートルの交通規制が行なわれている。被告宮地は加害車(1)を運転し時速三〇キロメートルないし三五キロメートルで南進して本件交差点に差しかかり、交差する東西路の交差点手前に一時停止の標識があるのを知つていたので速度を落すことなくそのまま通過しようとして交差点内に進入したところ、右方から加害車(2)が一時停止することなく時速約三五キロメートルの速度で進行して来るのを至近距離で発見し、直ちに急制動措置をとつたが及ばず自車前部を加害車(2)の左側部に衝突させて同車を半回転させ、たまたま同交差点東南角付近で道路を横断しようとして立つていた原告和子、同敏子に衝突させ本件事故となつた。

二、原告和子、同敏子の受傷及びその治療経過

〔証拠略〕を総合すると、原告和子、同敏子は本件事故により原告ら主張の傷害を受け、原告ら主張の期間入通院して治療を受けたが、現在でも後遺症的症状として原告ら主張の諸症状が残存していることが認められる。

三、被告らの責任

請求原因第三項(一)の事実は当事者間に争いなく、前記認定の本件事故状況に照らすと、被告宮地は交通整理の行なわれていない左右の見通しの悪い交差点に進入する際徐行すべき義務を怠つた過失により本件事故を惹起したというべきである。したがつて被告会社は自賠法三条により被告宮地は民法七〇九条により連帯して本件事故より原告らの受けた損害を賠償する義務がある。

四、抗弁に対する判断

(一)  免責の抗弁

右のように当該運転者の被告宮地に過失を認めることができる以上その余の点についてまで判断するまでもなく、被告会社の免責の抗弁は理由がない。

(二)  権利濫用の主張

被告らは、原告らが本件共同不法行為において大部分の過失があつた訴外伊藤善彦と金九〇万円で簡単に和解をしておきながら同訴外人に較べて極めて僅かな過失しかなかつた被告宮地とその自動車の保有者である被告会社に対し本訴において高額の賠償を求めるのは権利の濫用である、と主張する。

然しながら、自動車の運行によつて人の身体が害された場合の自賠法第三条による運行供用者(被告会社)の損害賠償債務と当該自動車の運転者(被告宮地)の民法第七〇九条による損害賠償債務及びこれらの債務と当該事故の共同不法行為者として民法第七〇九条第七一九条により責任を負担すべき者(訴外伊藤)の損害賠償債務の三者の債務関係はいわゆる不真正連帯債務の関係であつて、債務の満足を得しめること以外の事由については絶体的効力を有せず、被害者たる債権者(原告等)はいずれの債務者に対しても損害金額の賠償を請求することができると解するのが相当であるから、被告等主張の如き事情があるとしても原告等の本訴請求はなお正当な権利行使の埓内に属するものというべく、これを権利の濫用という被告等の主張は採用できない。

五、損害

(一)  原告和子分

慰藉料 九〇万円

本件事故の態様、傷害の程度、身体の傷痕の存在、その他諸般の事情を斟酌すると右金額と認めるのが相当である。

(二)  原告敏子分

1  休業損失 三四万二〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告敏子は本件事故当時店員として勤務し一カ月二万一〇〇〇円の俸給及び上半期三万円、下半期六万円の賞与を得ていたことが認められるが、本件事故による同原告の傷害の程度、その治療経過を考えると同原告は本件事故後少なくとも一年間は稼働することができなかつたと解される。

そこで、この間の休業による損失(賞与減収分を含む)を算出すると頭書の金額となる。

2  慰藉料 六〇万円

本件事故の態様、傷害の程度、後遺症の内容、その他諸般の事情を斟酌すると右金額と認めるのが相当である。

(三)  原告分

1  入通院中の諸経費 一〇万円

〔証拠略〕によると、右原告らの父親である原告は右原告らの入院、通院中の諸経費として原告ら主張の金額を支出したことが窺えるが、右原告らの傷害の程度、入院期間、その他諸般の事情を考えると右のうち本件事故による損害として被告らに求め得るものは頭書の金額と認めるのが相当である。

2  弁護士費用 一〇万円

本件の請求額、認容額、内容、その他諸般の事情を斟酌すると本件事故による損害賠償として被告らに求め得る弁護士費用は右金額と認めるのが相当である。

六、弁済

原告らが本件事故の損害賠償として訴外伊藤、被告会社、自賠責保険より合計一三〇万円の支払を受けていることは当事者間に争いないので、これを原告らの充当したところに従つて原告の損害に先ず全額充当し、残額一一〇万円を原告和子、同敏子の損害に半額宛充当することとする。

したがつて、原告和子の損害残額は三五万円、原告敏子の損害残額は三九万二〇〇〇円となり、原告の損害は全額補填されたことになる。

七、結び

よつて、原告和子、同敏子の請求は右の各金員及びこれらに対する本件不法行為の日の後である被告会社については昭和四三年一一月二〇日から、被告宮地については昭和四四年九月二八日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余を棄却し、原告の請求は理由がないことに帰するからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用の上主文のとおり判決する。

(裁判官 西川力一 藤井俊彦 岩淵正紀)

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