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名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)3239号 判決 1971年5月25日

原告

後藤義作

原告

渡辺常治

外四名

代理人

青柳虎之助

兵藤俊一

被告

大西喜太郎

代理人

野呂汎

主文

被告は、原告らとともに、別紙目録記載の土地につき、愛知県知事に対し農地法第五条の規定による許可申請手続をし、右許可があつたときは、原告らに対し、各六分の一の共有持分移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、当事者双方の求める裁判

(一)  原告

主文と同旨の判決。

(二)  被告

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求原因

原告らは、昭和三七年一月二六日被告から愛知県知事の農地法第五条の規定による許可のあることを条件として別紙目録記載の土地(以下、本件土地という)を買い受けた。

よつて、原告らは、被告に対し、原告らとともに、本件土地につき愛知県知事に対し農地法第五条の規定による許可申請手続をし、右許可があつたときは、原告らに対し、各六分の一の共有持分移転登記手続をすることを求める。

三、請求原因に対する認否

全部認める。

四、抗弁

被告は、本件売買契約成立後、本件土地につき愛知県知事の農地法第五条の規定による許可が得られるよう努力してきたが、本件土地は、いわゆる開拓地であつて、農業に対する公共投資の対象となつた農地であるため、愛知県知事に対し、農地法第五条の規定による許可申請手続をしても右許可を得ることはできないことが判明した。したがつて、本件売買契約は、実現不可能なことがらをその内容とするものであるから無効である。

五、抗弁に対する認否

全部否認する。

六、証拠<略>

理由

一請求原因事実については、当事者間に争いがない。

二そこで、被告の抗弁について検討する。

<証拠>によれば、本件土地は、いわゆる開拓地であつて、昭和三四年一〇月二七日・三四農地第三三五二号(農)農林事務次官通達「農地転用許可基準」にいう第一種農地のうち、「土地改良事業、開拓事業等の農業に対する公共投資の対象となつた農地」に該当するものであること、そして、右許可基準では、右第一種農地については、右許可基準に定める例外の場合を除き、農地を農地の目的に転用することを許さないという原則をとつているところ、本件売買契約において、買主である原告らが意図した本件土地の転用目的は、右許可基準に定める例外のいずれにも該当しないものであることが認められ、これによれば、本件土地については、将来右許可基準が改正されることでもない限り、愛知県知事の農地法第五条の規定による許可を得ることは、まず不可能と認められる。

しかしながら、農地の売買契約においては、それにつき都道府県知事の許可があつてはじめて当該農地につき所有権移転の効力を生ずるのであつて、右許可のない段階においては、右売買契約は、単に契約当事者間に、農地法の定めるところにしたがい都道府県知事に対し、許可申請手続をして当該農地の所有権移転につき許可が得られるよう相互に協力すべき義務を生じているに過ぎないものであるところ、右許可申請手続をすること自体は、たとえ売買契約成立後の調査によつて当該農地の所有権移転につき都道府県知事の許可を得ることが不可能であることが判明したとしても、これによつてただちに不可能となるわけではなく、また農地の所有権移転を目的とする法律行為は、これにつき都道府県知事の不許可処分があつてはじめてその効力を生じないことに確定するのであるから、当該農地の所有権移転につき都道府県知事の許可を得ることが不可能な事情のある場合でも、売買契約の当事者一方が、なおかつ、都道府県知事の現実の処分を受けることを希望して農地法の規定による許可申請手続に協力すべきことを求めている以上、他の一方は、これに応ずべき義務を免れないものというべきである。したがつて、被告の抗弁は、それ自体において理由がない。

三もつとも、本件のような場合において、右のように解すると、農地の買主である原告らは、売主である被告との間の訴訟において、被告の、愛知県知事に対する許可申請手続に協力すべき義務を認容する確定判決を受けながら、知事の不許可処分をさけるために、許可処分を受け得る時期の到来するまで右許可申請手続を差し控えることも考えられ、そうなると、被告は、原告らの一方的な措置によつて長期間不安定な状態におかれることも確かである。しかしながら、農地の売買契約によつて生ずる契約当事者の右許可申請手続に協力すべき義務は、売主にとつてのみ固有のものではなく、契約当事者に相互的なものであるから、右のような場合においては、売主である被告は、さらに買主である原告らを相手方として愛知県知事に対する許可申請手続に協力すべきことを訴求して原告らの右引き延ばし措置に対抗することができるし、許可申請手続をなすべき時期につき特段の定めのない本件においては、被告は、原告らに対し、相当な期間を定めて許可申請手続をなすべきことを催告し、原告らが右催告期間内にこれをしなければ、原告らとの間の売買契約を解除することもできるのであるから、前段説示のように解しても、被告にとつて格別の不公平を招くことにはならない。

四なお、原告の本訴請求のうち、共有持分の移転登記手続を求める部分は、本件土地の所有権移転につき愛知県知事の許可処分のあることを停止条件とするもので、いわゆる将来の給付の訴えであるけれども、被告の本訴における態度から推して右許可処分があつても任意の履行を期待することは困難と認められるから、右請求は、民事訴訟法第二二六条に「予めその請求をする必要がある場合」に当るものというべきである。

五よつて、原告の本訴請求は、すべて理由があるから正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(大塚一郎)

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