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名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)856号 判決 1973年10月19日

原告

右代表者法務大臣

田中伊三次

右指定代理人

伊藤賢一

外二名

被告

松原運送株式会社

右代表者

松原一

右訴訟代理人

小山斉

主文

一、被告は、原告に対し金八八万〇、九七一円および、内金二万三、六四二円に対する昭和四〇年九月三日から、内金二万〇、六七八円に対する昭和四〇年一〇月二九日から、

内金二万〇、二九〇円に対する昭和四〇年一〇月三〇日から、

内金六万〇、九〇七円に対する昭和四〇年一一月一三日から、

内金九万八、五五九円に対する昭和四〇年一二月四日から、

内金七万七、七五七円に対する昭和四〇年一二月二三日から、

内金一一万四、〇二三円に対する昭和四一年一月二二日から、

内金一一万七、〇四六円に対する昭和四一年二月二二日から、

内金六万九、二五五円に対する昭和四一年三月二九日から、

内金六万五、五三五円に対する昭和四一年五月一四日から、

内金三万三、〇七三円に対する昭和四一年六月一日から、

内金二万二、八七〇円に対する昭和四一年六月二九日から、

内金二万四、九八六円に対する昭和四一年七月二二日から、

内金一〇万一、〇二四円に対する昭和四一年一〇月二八日から、

内金一万三、三二〇円に対する昭和四一年一一月二六日から、

内金一万〇、五三〇円に対する昭和四一年九月三〇日から、

内金一、五四二円に対する昭和四一年一二月二一日から、

内金一、一六二円に対する昭和四二年二月二四日から、

内金一、一八三円に対する昭和四二年二月二四日から、

内金二、二八〇円に対する昭和四二年四月二二日から、

内金一、三〇九円に対する昭和四二年四月二八日から、

各支払ずみまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四、この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金一二五万八、五四二円および、

内金三万三、七七五円に対する昭和四〇年九月三日から、

内金二万九、五四〇円に対する昭和四〇年一〇月二九日から、

内金二万八、九八六円に対する昭和四〇年一〇月三〇日から、

内金八万七、〇一一円に対する昭和四〇年一一月一三日から、

内金一四万〇、七九九円に対する昭和四〇年一二月四日から、

内金一一万一、〇八二円に対する昭和四〇年一二月二三日から、

内金一六万二、八九一円に対する昭和四一年一月二二日から、

内金一六万七、二〇九円に対する昭和四一年二月二二日から、

内金九万八、九三七円に対する昭和四一年三月二九日から、

内金九万三、六二二円に対する昭和四一年五月一四日から、

内金四万七、二四八円に対する昭和四一年六月一日から、

内金三万二、六七二円に対する昭和四一年六月二九日から、

内金三万五、六九五円に対する昭和四一年七月二二日から、

内金一四万四、三二〇円に対する昭和四一年一〇月二八日から、

内金一万九、〇二九円に対する昭和四一年一一月二六日から、

内金一万五、〇四三円に対する昭和四一年九月三〇日から、

内金二、二〇三円に対する昭和四一年一二月二一日から、

内金、一、六六一円に対する昭四二年二月二四日から、

内金一、六九一円に対する昭和四二年二月二四日から、

内金三、二五八円に対する昭和四二年四月二二日から、

内金一、八七〇円に対する昭和四二年四月二八日から、

各支払ずみまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  訴外水田芳一は、大型特殊自動車(タンクローリー車、以下本件車両という)を運転し、昭和三九年一二月二六日午後九時五分頃愛知県小牧市大字南外山一、五〇〇番地先国道四一号線交差点において、自転車で道路を横断中の訴外石原章麿に自車を衝突せしめ、よつて同人に対して頭蓋骨蝉裂骨折、右大腿骨折等の傷害を与えたものである(以下本件事故という)。

2  被告は、本件車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により生じた訴外石原の損害を賠償すべき義務がある。

3  しかるところ、訴外石原は、原告国の機関たる航空自衛隊第三航空団第一〇二飛行隊に所属する隊員であるため、原告国(所管庁中部航空方面隊司令官)は、防衛庁職員給与法二二条の規定にもとづき、訴外石原の前記傷害の療養について、別紙1<略>記載のとおり、昭和四〇年九月二月から昭和四二年四月二七日までの間に、二三回にわたつて合計金一二四万三、四九九円の療養費および金一万五、〇四三円相当の療養を給付した。

4  よつて原告は、民法四二二条の類推により右療養費および療養の給付の時期、程度において、訴外石原に代位して、被告に対し損害賠償請求権を取得したので、これらの合計金一二五万八、五四二円および各給付金に対する各支払日の翌日から各支払ずみまで、民法所定各年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1および2の事実は認める。

2  同3は不知。

3  同4は争う。すなわち、

原告主張の療養者等の給付は、原告自身が自認するように防衛庁職員給与法二二条の規定によるものであり、国家公務員共済組合法の立法趣旨から勘案しても、これは元来が受傷者たる公務員に対して、加害の背景を問わず一律に損失を補償し、生活を保障しようという福祉給付の意味をもつものと解するのが相当である。そうとすれば原告の右給付は、加害者たるものに対する求償を前提にしているものではないといわなければならない。

従つて、原告がその主張にかかる代位権を取得するには、民法四九九条に従い「其弁済ト同時ニ債権者ノ承諾ヲ得」る必要があり、しかも同四六七条の規定により対抗要件を備えなければならないと解さなければならない。

単純な公平理論からのみで民法四二二条の類推を是認する従前の判例は、変更されなければならない。

三、抗弁

1  (免責)

(一) 本件事故は訴外石原章麿(以下石原という)の重大な過失により惹起されたものである。すなわち、石原は本件事故当時、小牧市大字南外山一、五〇〇番地先交差点付近の路上で自転車にまたがり道路を横断すべく同僚の平松隆治と共に待機していた。

同人らはしたたか飲酒した上極度に酪酊しており、特に石原の酪酊の度合は高かつた。そして石原は、横断すべく道路上の交通状況を充分に確認せず、本件車両を認めたものの、ままよとばかりにその直前を急ぎ横断しようとしてとび出し、本件事故が起きたものである。石原の右とび出しにあたり、同僚の平松はこれを制止しているが、石原はこれをふりきつている。

従つて、本件事故は石原が酪酊の上、安全を無視したまま車両の前にとび出したという重大な過失のみにより惹超されたものである。

(二) 被告および訴外石原に過失はなく、本件車両には構造上の欠陥または機能の障害がなかつた。

2  (過失相殺)

仮に被告側に過失ありとしても、石原の前記のような過失は重大であるから過失相殺の主張をする。

3  (時効消滅)

仮に、原告の代位権が認められるとしても、本件請求は、原因たる交通事故が起きた昭和三九年一二月二六日より三ケ年を経過した後に提起されたもので、すでに時効により本件債権は消滅している。被告は本訴において右時効を適用する。

四、抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)中、訴外石原が事故発生交差点付近の路上で自転車にまたがり、道路を横断すべく同僚の訴外平松隆治とともに待機していたこと、および石原が一合程度の酒を飲んでいたことはそれぞれ認めるが、その余は否認する。

すなわち、石原は、本件事故発生前の午後六時三〇分ころ同僚の訴外松田幹雄宅を訴外平松とともに訪れ、日本酒一合程度を飲んだのちテレビを見ていたが、午後八時四〇分ころ右平松とともに松田宅を辞し、自転車に乗つて約二キロメートル先の航空自衛隊小牧基地内宿舎への帰途、本件事故地点の丁字型交差点にさしかかつた。その時(午後九時頃)、被害者はすでに飲酒の酔いもなく正常な状態であり、一旦停止して、横断しようとする通路の左右を確認し、横断の安全を確め、訴外平松とともに横断を開始したが、右平松は偶々出遅れたもので、被害者の横断を制止した事実もなく、制止すべき危険を感じてはいなかつた。したがつて、道路横断につき石原に重大な過失があるとの被告の主張は事実を曲げるものである。

本件事故は、被告の被用者である訴外永田の一方的な過失に基因するものであり、石原には過失は認められい。

すなわち、石原は、本件交差点の横断歩道手前で一旦停止し左右を確認したところ、右方(北側)約五〇メートル先に本件車両を認めたが、日常しばしば同所を横断している経験から、右程度の距離があれば余裕をもつて安全に横断できると判断したうえで横断を開始した。ところが、同所を横断中の石原が道路中央にさしかかろうとしたところ、本件車両が減速徐行の様子もなく約二〇メートル近くまで進行接近してきたので、横断を急いだが、本件車両は自車の進行すべき左側(東側)車両区分からセンターラインに向かつて、すなわち、あたかも石原めがけて突進する状態となり、ために石原は逃れきれず自己の自転車後部に本件車両右前部が衝突し、本件事故となつたのである。

(二)  同1(二)は否認する。

2  同2は抗弁に対する認否1(一)記載のとおり争う。

3  同3の事実は認めるが、その効果は再抗弁1記載のとおり争う。

三、再抗弁

1  (時効中断)

原告は被告に対し、昭和四一年五月一八日付納入告知書第一六号をもつて、昭和四〇年六月分ないし昭和四一年一月分の療養費につき、昭和四一年六月六日を納期限として納入を告知し、また、昭和四二年三月一四日付納入告知書第一一一号をもつて、昭和四一年二月分ないし同年九月分の療養費につき、昭和四二年三月三一日を納期限として納入を告知し、さらに、昭和四二年六月一九日付納入告知書第二七号をもつて、昭和四一年一〇月分ないし昭和四二年二月分の療養費につき、昭和四二年七月八日を納期限として納入を告知したので、会計法三二条の規定により時効は中断している。

六、再抗弁に対する認否

1  原告主張の年月日においてその主張の納入の告知がなされたことは否認する。

原告は、会計法三二条による時効の中断を主張するが、同条によつて民法一五三条が適用されないのは、正に「国の権利」すなわち公法上の権利の場合である。その理由は、公法上の債権はその発生原因においてすでに疑いを入れず明らかであり、その請求する数値と計算根拠においても極めて高い蓋然性が認められるからである。本件債権は、その発生原因と請求する数額と計算根拠において公法上のそれと大きく差がある以上、たとえ納入告知の手続を踏んだとて、民法一五三条の適用を排除しうると解することはできない。またそう解さなければ、本件債権を代立行使するものが、国である場合と私人である場合との差があまりに不合理である。従つて時効は中断されていない。そして、原告の本訴請求にかかる債権は、民法七二四条の三年の時効により消滅しているといわなければならない。

第三、証拠<略>

理由

一請求原因1および2の事実は当事者間に争いがない。

二前記確定の請求原因1の事実および<証拠>を総合すれば、本件事故の状況および事故当事者の過失は次のとおりに認められ、右認定に反する<証拠>は信用しない。

1  本件事故現場は、愛知県小牧市大字南外山一、五〇〇番地先の信号機の設置されていない交差点で、幅員12.2メートルの南北に通じる国道四一号と、幅員五メートルの東西に通じる道路が、国道四一号の航空自衛隊小牧基地正門前で東側から丁字型に交差する三差路をなしている。交差点南側には、愛知県公安委員会が設置した道路標識・標示により横断歩道が設けられ、制限速度は毎時四五キロメートルである。国道の現場付近は直線・平坦道路であるが、国道東側に家屋が建つているため国道北側から東西道路の見透しは悪い。現場には街路灯があり付近は明かるい地点である。現場付近は舗装路面で事故当時は乾燥している。

2  訴外永田芳一は、昭和三九年一二月二六日、本件事故の約四〇分前、空腹時に食事をとらず、日本酒一合五勺を飲んで、被告所有の大型特殊自動車(タンクローリー車)を運転して時速約六〇キロメートルで国道四一号を前進し、同日午後九時五分ころ本件事故現場付近にさしかかつたところ、進路左前方約三八キロメートルの地点に、前示交差道路を西進して同交差点にいたり、同国道を西に向かい横断しようとして、自転車にまたがり同国道東側端において並んで待機中の訴外石原章麿、同平松隆治を発見したが、同訴外人らがそのまま停止しているものと速断し、警音器を吹鳴することなく同一速度で進行したところ、訴外石原が自転車に乗つて右方へ横断を開始したのを約二〇メートル前方に発見し、あわてて急制動の措置をとるともに右に転把したが及ばず、横断歩道から0.6メートル交差点の内側で、センターラインから左側に0.6メートル(東側端より5.7メートル)の地点で石原の自転車後部に自車右前部を衝突させ、同人を自転車もろとも約二四メートル跳ね飛ばして国道右側の側溝に転倒させ、本件車両は、約四九メートルのスリップ痕を残して、右衝突地点から国道右側車線中央寄りを左に弧を描きながら、さらに約三五メートル進行し、道路中央付近に左斜めに停車した。

訴外石原は、本件事故発生日の午後六時三〇分ころ、同僚の訴外松田幹雄宅(小牧市大字北外山地内)を訴外平松とともに訪れ、日本酒一合五勺程度を飲んだ後、午後八時四〇分ごろ右平松とともに松田宅を辞し、自転車に乗つて国道四一号のすぐ東側に併進する道路を約二キロメートル南進して本件三差路交差点に通じる東西道路へ右折し、航空自衛隊小牧基地正門の向い側である国道四一号の本件交差点東側で自転車にまたがつたまま右足を地面について一時停止した。そこで石原は左右の交通の安全を確かめたところ、左方からの車両(北進車両)はなく、右方からの南進車両を約五〇メートル右方に一台(本件車両)認めたが、同車の通過前に横断しうるものと判断して、左足で自転車をこぎながら自転車にまたがつて横断を開始した。石原が国道を5.7メートル進行し、センタータインの0.6メートル内側に達したところで、自転車の後部に永田運転の本件車両が衝突して本件交通事故に至つた。石原とともに交差点東側で一時停止し、左右の安全を確認していた平松は、石原が横断を開始したのに出遅れて、横断を断念し、石原の横断状況と南進車両との関係を傍観していた。

3  右認定の事実によれば、永田は本件交差点で道路を横断しようとして自転車にまたがつたまま一時停止をしている石原を進路前方約三八メートルの地点に認めたのであるから、同人の動静を十分注視し、夜間のことでもあるから警音器を吹鳴して警告を与えるとともに、いつでも急停車避譲できるよう減速徐行し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、同人が自車の接近に気付いてそのまま停止してくれるものと確信し、警音器も吹鳴することなく、漫然制限速度を超える時速六〇キロメートルの速度で進行した過失があつたものと認められ、右は本件事故発生の主要な原因をなしたことが明らかである。

他方、本件事故の約二時間前に日本酒約一合五勺を飲み多少酩酊していたため、接近して来る車両との距離・同車の速度と、片側6.1メートルの車道を自転車で乗車横断するに要する時間との判断を誤り、漫然片足で自転車をこいで発進し、横断した石原の過失も看過しえない。

以上の次第であるから、被告の免責の抗弁1は理由がなく、右永田の過失と石原の過失の割合は、永田七に対し石原三と認めるのが相当である。

三以上によれば、被告は、本件車両の運行供用者であり、その運転者である永田が前記のとおり事故に関し無過失とは認められない以上、自賠法三条によつて、訴外石原章麿の受傷による損害につき賠償する責任があるといわざるを得ない。

四原告の代位

1  <証拠>によれば、本件事故の被害者である訴外石原章麿は、原告国の機関たる航空自衛隊第三航空団第一〇二飛行隊に所属する隊員であつたところ、その公務外において本件事故に遭遇したものであるため、原告国(所官庁中部航空方面隊司令官)は、防衛庁職員給与法二二条の規定にもとづき、被害者の前記傷害の療養について、別紙1記載のとおり、昭和四〇年九月二日から同四一年四月二七日までの間に、二三回にわたつて合計金一二四万三、四九九円の療養費および金一万五、〇四三円の相当の療養を給付したことを認めることができる。そして<証拠>によれば、訴外石原章麿の本件事故による治療費として合計金一二五万八、五四二円を要したことが認められるから、右金額を本件事故による相当損害と認める。そこで各給付金ごとに前記の訴外石原の過失を斟酌すると、訴外石原が被告に対し治療費として請求し得る金額は別紙2<略>金額らんのとおり合計金八八万〇、九七一円となる。

2  しかして、自衛隊の隊員の受傷について第三者が不法行為に基づく損害賠償責任(自賠法三条による責任を含む)を負担するような場合には、防衛庁職員給与法二二条に基づく療養費等の支給を行つた国は、民法四二二条の規定を類推し、その支給した時期および程度で被害者に代位して第三者に対し賠償請求権を取得するものと解するのが相当である。これに反する被告の主張は採用しない。

但し、民法四二二条による代位は、債権の法律上の当然移転であるから、本件のごとく過失相殺さるべき債権の場合には、代位者たる原告は過失相殺により減額された債権を取得するに過ぎないものであることは論をまたない。これに反する原告の主張は採用しない。

そうすると、原告は被告に対し合計金八八万〇、九七一円の賠償請求権を取得したものと認められる。

五時効について

1  抗弁3(時効消滅)の事実は当事者側に争いがなく、被害者訴外石原章麿が損害および加害者を知つた時が本件事故発生日と同一でみる点につき、原告は明らかに争わない。

2  そこで再抗弁1(時効中断)について判断する。

<証拠>によれば、再抗弁1の事実を認めることができる。

ところで、被告は会計法三二条の規定は国の公法上の債権についてのみ適用があり、本件のような私法上の債権にまでも適用されると解することは、国と私人との比較においてあまりにも大差があり、不合理であると主張するので考えてみるに、原告の取得した本件損害賠償請求権が、訴外石原の被告に対する前記認定のそれと同質で私法上の債権であることは所論のとおりであるが、会計法三二条にいう「法令の規定により国がなす納入の告知」とは、国がその歳入の徴収をなすため同法六条、予算決算及び会計令二九条等の諸規定に準拠してする公の手続であつて、明確な形式が定められており、この形式的正確性の故に一般私人のする形式上なんらの制限もない催告とは異なる時効中断の効力を与えているものであると考えられる。

従つてこの告知は、それが同じ形式、手続をふんでなされるものであるかぎり、その債権が公法上のものであると私法上のものであるとを問わず等しく時効中断の効力を有するものと解すべきであつて、このことは会計法三二条の文理上明らかである。このように解することは、国民の義務の加重の下に国の権利を特に保護する結果となる点も多少認められないでもない。しかしながら、結局は立法政策の問題であつて、右のように解したからといつて必ずしも正義に反するものとも認められない以上、被告の右主張は理由がない。

しかして、原告の前記納入の告知はいずれも会計法三二条により時効中断の効力を有するものであるから、本件損害賠償請求権についての消滅時効は前記各納入の告知書の日付から被告に対する到達に要する相当期間の経過した日をもつて中断されたものというべきである。

従つて、原告が右各時効中断の日よりいずれも三年以内に本訴を提起したことは記録上明らかであつて、本訴提起当時には三年の消滅時効期間は満了していなかつたものと認めるのが相当であるから、被告の時効消滅の抗弁は結局採用することができない。

六そうすると、被告は原告に対し前記合計金八八万〇、九七一円および別紙2の金額らん記載の各金額に対する同年月日らん記載の各支払日の翌日から各支払ずみまで、民法所定各年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものといわなければならない。よつて、原告の本訴請求は、右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(丸山武夫 川端浩 木下順太郎)

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