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名古屋地方裁判所 昭和44年(行ウ)32号 判決 1972年12月26日

原告 安井志郎

被告 愛知県知事

訴訟代理人 山田巌 ほか六名

主文

一、原告の訴を却下する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、本件事業決定について、昭和四三年一一月八日、原告主張のとおり告示(官報)がなされたことは当事者間に争いない。ところで本件事業決定が行政処分として抗告訴訟の対象とすることができるか否かは問題のあるところであるが、この点についての判断は暫らくおき、仮に抗告訴訟の対象たりうるとして、被告の出訴期間に関する主張について考えてみる。

二、行政事件訴訟法一四条一項にいう「処分……があつたことを知つた日」とは、抽象的な処分があつたことを知りうべかりし日ではなく、現実に知つた日であると解すべきであることは同条三項との対比からみて当然である。本件事業決定については、旧都市計画法三条二項により「都市計画・都市計画事業及毎年執行すべき都市計画事業について」告示すべきことのみが定められているにすぎない。而して、本件事業決定の如く、いわゆる一般的処分における告示が右処分を関係人その他国民に周知させるという趣旨を持つたものであることは明らかであるが、告示があつたことによつて関係人その他国民が右処分のあつたことを現実に知つたものとみるのは相当ではなく、ただ右処分の存在を一般国民が知りうべき状態におかれたにすぎないものと解すべきであるから、本件事業決定告示のときに原告が右決定を知つたものとして出訴期間を起算すべき旨の被告の主張は採用できない。

三、そこで判断するに、<証拠省略>を併せ考えると、訴外名古屋市長が本件事業決定告示前である昭和四三年七月六日付、同月一二日開催予定の本件事業説明会について「都計1・2・6号梅の木線街路改良事業の説明会開催について」と題する案通知書を、また右告示後である同年一二月一六日付、同月二〇日開催予定の説明会について右と同様の案内通知書をそれぞれ原告に対し、その肩書住所地にあてて郵送したことを認めることができる。ところで書面を郵送した場合、特段の事情のない限り、通常郵送に要する日時をおいて、右書面が相手方に到達しているものと推定すべきところ、右特段の事情について主張もなく、また右事情を認めさせるにたりる証拠のない本件においては前記各書面は原告に到達したものということができる。してみると、原告は前記昭和四三年一二月一六日ごろ、本件事業決定の告示のあつたことまたはその内容についてこれを知りうべき機会をもつに至つたというべきである。右認定に反する原告本人尋問の結果は措信できない。

四、而して、<証拠省略>を併せ考えると、次の各事実を認めることができる。すなわち前記日時に開催された各説明会に訴外小林章一はいずれも原告の代理人と称して出席し、さらに同人は昭和四三年一二月二四日および翌四四年一月一四日開催の前記市長との補償等交渉に関係者の代表の一人として参加し、土地補償額の引上げ等について発言していること、訴外小林は原告の旧制中学以来の友人であるところ、原告が名古屋市を離れ静岡県熱海市で産婦人科医院を開業しており、本件事業地内に原告の所有する賃貸家屋四戸を含め事業地外に所有する約五〇戸の同様家屋の毎月の家賃集金について、名古屋市内在住の原告の母が死亡してできなくなつたこともあつて、昭和三八年一月以来原告の信頼をえて右集金事務を委任されるとともに、右家賃集金に関連して賃貸家屋の管理上の問題について原告に連絡することも行なわれていたこと等の事実が認められる。従つて、原告主張の宅地二筆が本件事業地内に含まれることを十分承知していたというべき訴外小林が説明会等に出席したのは、前記郵送された案内通知書が原告に到達したことと無関係でなく、そうでないとしても訴外小林は同人と原告の従来の関係からして本件事業について原告に全く連絡しないということも考え難いことである。以上の事情の認められる本件においては、先に認定したとおり本件事業についての案内書が原告に到達した昭和四三年一二月一六日ごろには原告において本件事業決定の告示のあつたことまたはその内容、すなわち本件処分について、これを了知していたものと推定するのが相当である。<証拠省略>中右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定をくつがえすにたりる証拠はない。而して原告の本件訴の提起は昭和四四年八月七日なされたことは記録上明らかであるから、原告において本件処分を了知した後三ケ月を経て訴提起のなされたことも明らかである。

三、してみると、原告の本件訴は出訴期間を徒過した不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 下方元子 小林克巳)

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