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名古屋地方裁判所 昭和45年(む)20号 決定 1970年1月20日

被告人 新井功

決  定

(本籍・住所・氏名略)

右の者に対する爆発物取締罰則違反被告事件につき、名古屋地方裁判所裁判官が昭和四五年一月一〇日なした勾留の裁判のうち、勾留場所の指定に対し、弁護人佐藤典子から準抗告がなされたので、当裁判所は、検察官の意見を聴いたうえ、次のとおり決定する。

主文

原裁判中、勾留場所を愛知中村警察署と指定した部分を取り消す。

被告人に対する勾留場所を名古屋拘置所と指定する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨は、「原裁判中勾留場所を愛知中村警察署とした部分を取り消す。被告人に対する勾留場所を名古屋拘置所とする。」との裁判を求め、その理由は「準抗告申立書」記載のとおりであつて、要するに、被告人は昭和四五年一月一〇日頭書事件につき求令状付で名古屋地方裁判所に起訴され、同日同裁判所裁判官により勾留場所を愛知中村警察署として勾留されたものであるが、元来法は勾留場所を監獄とすることが建前であり、特段の事情の認められない本件においてこれを警察官署に附属する留置場(いわゆる代用監獄)に指定することは許されないというにあり、検察官の意見は「意見書」記載のとおりである。

二、よつて考えるに、本件被告事件記録、取寄及び取出(逮捕状、勾留状及び勾留に関する処分記録)記録によれば、被告人が昭和四五年一月一〇日爆発物取締罰則違反として求令状付で名古屋地方裁判所に起訴され、同日同裁判所裁判官により勾留場所を愛知中村警察署として勾留されたものであることが認められる。また右取寄記録によれば、一応公訴事実の存在並びに逃亡及び罪証隠滅の虞れのあることが認められる。

ところで、本来被告人の勾留は、逃亡または罪証隠滅防止の見地から身柄を拘束し、裁判所の審理に奉仕するものであり、又当事者一方の身柄を相手方の支配に委ねるのは、当事者主義を強調する刑事訴訟法の精神に反するから、その勾留場所として拘置監を原則とし、ただ特段の事情が認められる場合には、代用監獄を指定しうるものと解すべきところ、本件においては、公訴事実の存在のほかにこの種事犯に特有の背後関係、ことに被告人の地位、役割が重要な意義を有することは推認するに難くなく、被告人が本件につき全面的に黙否しているのであるから、被告人に弁解を求め、あるいは関係人の供述を得たうえでその供述に対応する被告人の供述を求めなければならないとか、関係人の面通しの必要等が予想され、そのために捜査官が拘置所に出向して被告人を取調べなければならないとか、右面通しにかえて写真を利用しなければならないとすれば、所轄拘置所である名古屋拘置所の取調室が三部屋しかなく、また取調べにつき時間的制約をともなう点で多少の不便は免れないが、既に公訴が提起された現段階においては被告人の当事者たる地位に鑑み、捜査官の取調べがやむを得ない最少限度に止められなければならないことも併せ考えると、未だ代用監獄を認めなければ捜査に多大の支障をきたすほど特段の事情があるとは認められない(なお、名古屋拘置所保安課長からの電話聴取書によると、現在名古屋拘置所の取調室の使用状況については捜査に支障を招来するような事情がないことが明らかである。)。

また、検察官の主張する余罪捜査の必要性については、さらに余罪そのものについて令状を得る場合は格別右の必要性から直ちに本件の勾留場所を代用監獄に指定するための特段の事情と認めることは困難といわなければならない。

従つて、本件について被告人の勾留場所を愛知中村警察署と指定した原裁判は、この点において違法と言うべきである。

三、よつて、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項を適用して主文のとおり決定する。

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