名古屋地方裁判所 昭和45年(レ)1号 判決 1970年3月07日
控訴人
近藤敏一
代理人
浅野隆一郎
被控訴人
竹内霍一
代理人
稲垣昇
主文
一、原判決中被控訴人に関する部分を取消す。
二、被控訴人は控訴人に対し、控訴人が別紙目銀記載の土地につき、名古屋法務局鳴海出張所昭和四三年八月三〇日受付第一三三八七号の所有権移転請求権保全の仮登記にもとづく本登記手続をなすにつき、承諾せよ。
三、訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
(控訴人)
主文同旨の判決。
(被控訴人)
一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は、控訴人の負担とする。
第二、当事者の主張、証拠の提出、書証の認否
当事者双方の主張、証拠の提出、書証に対する認否は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
一控訴人が、別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、名古屋法務局鳴海出張所昭和四三年八月三〇日受付第一三三八七号による所有権移転請求権保全の仮登記をなしていること、被控訴人が訴外寺島進(原審共同被告)に対する債権者として名古屋地方裁判所の仮差押決定にもとづき、本件土地に対し、名古屋法務局鳴海出張所昭和四四年二月一〇日受付第一九一三号による仮差押登記をなしていることは、当事者間に争いがなく、そして成立に争いのない甲第一、二号証ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人が右仮登記をなしたのは、同人が、昭和四三年八月二七日、訴外寺島進から同人所有にかかる本件土地を買受けたが、右土地が農地で、その売買について、愛知県知事から農地法第三条の許可を受けなければならないところ、右許可までの間、その所有権移転請求権を保全する必要があつたためであることが認められる。また、愛知県知事による右農地法第三条の許可は、昭和四四年二月二日控訴人あてなされたことは当事者間に争いがない。
二そこで、右認定事実を前提に判断するに、前示事実関係からすれば、本件土地の売主である訴外寺島進は前示売買契約が、愛知県知事の許可によりその効力を生じた日である昭和四四年二月二日、買主たる控訴人のため、前示仮登記にもとづき所有権移転の本登記手続をなすべき義務を負担するに至つたものということができる。
しかして、控訴人が、右仮登記を本登記に改める手続をなすについては、不動産登記法第一〇五条第一項(同項の準用する同法第一四六条第一項の規定参照。)の規定上、登記上その利害の関係を有する第三者である被控訴人の承諾を得る必要があり、また、一方被控訴人は、右仮登記が本登記に改められたうえは仮登記のいわゆる順位保全の効力に劣後する結果、その仮差押の効力を控訴人に対抗できず、これを公示する仮差押の登記もその効力を保持するによしなきに至ることからして、右仮登記を本登記に改めるにつき、控訴人から承諾を求められた際は、これに応ずべき義務を負担するものと解するのが相当である。
三被控訴人は、同人名義の仮差押登記は、保全訴訟の手続上なされたもので、右保全訴訟の手続によらず、別訴において、右仮差押の公示を覆滅せしめるが如き判決を求めることができないと主張する。
しかしながら、右仮差押の登記が所論のとおり仮差押手続によりなされたものであるとしても、不動産登記法が、現になされた登記の効力について、それが仮差押手続によつてなされたことの故をもつて、別異に取扱うべき旨の特段の規定を置いていないことは明らかであるし、およそ、登記の効力ないしその順位の優劣の如きは、実体法上、もつぱら、右登記によつて公示せられた物権変動の内容自体ないし右登記のなされた時期如何によつて判断するのが相当と解されるから、被控訴人の右主張は、根拠がなく、結局被控訴人は本件仮差押の登記が仮差押手続においてなされたことの一事をもつて、控訴人のなす本訴承諾請求を排斥する理由となし得ず、この点に関する被控訴人の主張は、それ自体失当で、当裁判所において、とうてい採用すべくもないところである。
四よつて、前説示したところにしたがい、これにそわない原判決は、失当として取消し、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条および同八九条を適用して、主文のとおり判決する。(山田正武 日高千之 鬼頭史郎)