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名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)679号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕喜宏の逸失利益

喜宏は、昭和一八年七月二九日生れで同三七年四月豊橋農林高校を卒業後直ちにトヨタ自動車工業株式会社に入社し、本件事故により死亡した当時は、元町組立部第一組立課所属従業員として勤務していた。

右会社では、社員就業規則、賃金規則、退職金規則等社員給与関係規則が極めて完備しており、さらに毎年定期的(四月一日)に昇給が行なわれている。

本件のごとく明確な給与関係規則ならびに昇給制度のある大企業(同社が大企業であることは公知の事実である。)であり、かつ後記認定の如く、喜宏が過去に昇給し、将来も昇給する可能性が高いと認められる場合には、後記の諸手当、賞与および退職金の算定の基礎である基本給のみの定期昇給の見込みを逸失利益の算定にあたり考慮することは、なお控えめな算定方法として許されるものと解する。

(一) 同社の賃金構成

社員の賃金構成は次のとおりである。

(1) 基本給

(2) 生産手当

(3) 役職手当(係長、工長三、五〇〇円、組長二、五〇〇円、班長一、五〇〇円、なお同四六年四月より係・工長五、〇〇〇円、組長三、五〇〇円、班長二、〇〇〇円)

(4) 一時手当

(5) 家族手当(扶養家族一人目七〇〇円、二人目、三人目一人につき四〇〇円、四人目以上一人につき三〇〇円)

(6) 特殊作業手当

(7) 超過勤務手当

(8) 深夜勤務手当

(9) 休暇手当

(10) 交替 勤務手当

(1)ないし(3)の合計を基準賃金という。

(二) 同社の退職金規則は次のとおりである。

退職金の計算は、退職時の基本給に支給係数を乗じて算出する。支給係数は、定年退職のときは、勤続年数三〇年以上の場合90.0であり、勤務年数が三七年以上三八年未満の場合、退職時の基本給に支給係数七を乗じたものが特別加算される。

(三) 同社の停年ならびに再雇用

社員の定年は満五五才とし、定年に達した日の属する日の末日まで在籍するが、昭和四五年一〇月より、定年後再雇用制度によりさらに五年間勤務でき、賃金は、定年時の賃金を一〇〇とすると、一年目九〇、二年目八〇、三年目以降七〇である。

(四) 喜宏の昇給状況

喜宏の給与所得ならびに昇給状況は次のとおりである。

なお、昇給額は、定期昇給分とべースアップを含み、同社の昇給制度は区分して扱つていないが、適宜そのときの状況をみて決定し、毎年発表している。

(五) 同社の最近賃上要求ならびに妥結状況

年度

組合要求額(円)

妥結額(円)

(要求実現%)

平均基準賃金(円)

定期昇給分

特別昇給分

是正分

合計

40

一、〇〇〇

三、三五〇

二五〇

四、六〇〇

三、四〇〇(73.9)

二万六、二〇〇

41

一、〇〇〇

二、九七〇

三〇〇

四、二七〇

三、五〇〇(82.0)

二万七、〇〇〇

42

一、二〇〇

四、一四〇

一九〇

五、五三〇

四、五〇〇(77.8)

二万八、九六〇

43

一、三〇〇

四、九五〇

二五〇

六、五〇〇

六、〇五〇(93.1)

三万二、九九〇

44

一、三五〇

六、〇〇〇

二〇〇

七、五五〇

七、二四〇(95.9)

五万七、六五〇

45

一、四〇〇

七、七〇〇

二五〇

九、五五〇

九、一八〇(98.2)

四万三、六〇〇

46

一、五五〇

九、二〇〇

年度

年間給与

所得額(円)

七月支払の

基準賃金(円)

昇給額(円)

38

二、二九〇

39

三六万五、六五七

三、〇一〇

40

四三万四、九五〇

一万七、八二〇

二、八五〇

41

五三万六、三五〇

二万二、四六〇

三、〇六〇

42

六五万七、九九四

二万六、三三〇

三、九一〇

43

八一万〇、九六〇

三万五、四七〇

六、一九〇

44

四万二、三四〇

六、一五〇

以上の事実によれば、同社における組合の賃上要求額に対する妥結額の割合が、昭和四三年以降同四五年の三年間は九三パーセント以上であり、組合要求額と妥結額とがほぼ一致しているということができ、従つて同社の定期昇給分は、ほぼ組合要求額の定期昇給分と同額に近いと推認でき、また組合要求定期昇給分は、同四一年以降同四六年の六年間毎年増加の傾向を示しており、特に同四六年は一、五五〇円と喜宏死亡時の一、四〇〇円を上まわつており、また組合が賃上要求の計算の基礎とした平均基準賃金よりも喜宏のそれが、同四三年以降同人死亡の同四四年の二年間は上まわつていた。

従つて、被告主張のように、同社の定期昇給分はベースアップと区別できないわけではなく、その面を控え目に算出し、少なくとも一、四〇〇円の限度に存在するものと推認するのが相当である。

(六) 喜宏の逸失利益

(1) 賃金

喜宏は、本件事故当時満二六才一一日であり、普通健康体の男子であつたから満五五才に至るまで同社に社員として在籍し、その後満六〇才に至るまで同社に再雇用され勤務し得たものと推認される。

そして、同人の死亡前の一年間の年収は金九一万五七〇円、同人の死亡時の基本給は金一万九、一四〇円(月額)であつたが、右給与は前示のとおり毎年一回昇給することが確実であり、その昇給額中ベースアップ分を差引いた残額の昇給額(定期昇給分)は前示のとおり毎年金一、四〇〇円を下まわらないものと推認できる。しかし、右定期昇給分は基本給にあてられる部分と生産手当にあてられる部分とを含み、その場合に、それぞれ前者につき四五パーセント、後者につき五五パーセントと認められる。ところで基本給は諸手当、賞与および退職金算定の基礎となるものであるから、右定期昇給分金一、四〇〇円のうち基本給にあてられる四五パーセントに相当する部分を同人の将来の昇給分とし、これにもとづいて逸失利益を算定することも、本件の如き給与関係規則の完備した大企業の社員であつた者については控えめな算定方法として許されるものといわなければならない。

そうすると、同人の基本給の定期昇給分は金六三〇円(1,400円×0.45=630円)となるのでこれを毎年加算すると、満五五才(定年制)に達した時の同人の基本給は別表(二)の(1)欄に示すとおり金三万六、七八〇円と推認できる。なお、右の計算方法によつた場合においても、喜宏と同学歴の満三五年勤続者の昭和四六年における基本給が金四万八、〇〇〇円(証人荒島保の証言により認める)であることに比し、なお控え目な算定ということができる。

次に、昭和四四年から四六年までの三年間の同社の賞与は毎年6.1ケ月で、四三年以前は六ケ月分であつたことが認められる。従つて、年間給与の上昇額を推認する場合に賞与を四ケ月分と控え目に見積ることも許されるべきである。

そうすると、喜宏の年間給与の上昇額は、右基本給の定期昇給分金六三〇円を一六倍(給与分一二ケ月、賞与分四ケ月、合計一六ケ月分)した金一万〇、〇八〇円を下まわらないものと推認できる。

さらに同社では、同人と同年入社の高校卒業者で一七〇名中七九名という約四六パーセントの者が八年目である昭和四五年七月一日付で班長になつており、若干年数はかかつてもほとんどの者が班長になるものであり、班長在籍約五年で組長に、組長在籍約五年で工長になることが認められ、また同人の勤務成績については、死亡前平均以上の考課がなされていたことが認められ、この成績がこのまま維持される場合には必らず課長まではなれるであろうことが認められる。従つて、控え目にみて、同人が少なくとも死亡の二年後には班長として役職手当月額一、五〇〇円(年額金一万八、〇〇〇円)の支給をうけたであろうことが推認できる。

しかし、家族手当については、確かに同人が近い将来結婚するであろうことは推認できるけれども、結婚により、あるいは子の出生も考えられ、そうすれば親の法定相続分は二分の一ないし零になるのであるから、本件のごときいわゆる逆相続の場合には、信義則上本件事故との相当因果関係の範囲外の損害といわなければならない。

そして同社の再雇用率は九〇ないし九五パーセントであることが認められるから、同人は同社を満五五才で定年退職後、なお五年間再雇用により在籍し、再雇用期間中の給与は前示のとおり、定年退職時の給与の一年目は九〇、二年目は八〇、三年目以降七〇パーセントは下らないものと推認できる。なお、再雇用期間中の昇給については、これを認めるに足りる証拠はない。

以上により第一年度は喜宏の死亡当時における年収をそのまま計上し、第二年度は定期昇給分金一万〇、〇八〇円と役職手当金一万八、〇〇〇円、合計金二万八、〇八〇円を加算し、第三年度以降はこれに右定期昇給分を毎年加算して同人の定年に達する迄の各年間収入を計算し、定年後の再雇用期間(昭三〇年度から三四年度迄)については、昭三〇年度は定年時の年間収入の九〇パーセント、第三一年度は八〇パーセント、それ以降は七〇パーセントの割合による年間収入を算定すると、別表(二)の(2)欄のとおりとなる。

しかして同人の生活費は、結婚前後を平均し、右期間中、月収の五〇パーセントを超えないものと推認されるので、各生活費を控除した純収益(別表(二)の(3)欄)を算出し、本件事故の時点において、同人の右時点以降三四年間の各年度毎の純収益を一時に支払を受けるものとし、複式ホフマン式計算法(毎年)によつて年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は別表(二)の(4)欄のとおり、合計金一、〇一二万一、四三八円となる。 (川端浩)

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